「待ってくれ、春風! 俺も、俺も連れて行ってくれ。俺は、ベータ恐怖症があるんだろう? それに、春風ばっかりそんな危険な所に行くなんて……」
「武さん……わかりました。五感共有の魔法を掛けていきます」
「あたしも……お願い。春風だけに、怖い思いはさせないよ」
彩峰さん……。気がつくと、皆がいた。
「ありがとう、皆……私、頑張る……」
大丈夫なはずだよね? 私は魔法少女だもん!
私は元の大きさに戻り、風の神のお札を使った。私の背に翼が生えたので、それで飛んでいく。
燃料はさほど使っていないけど、食べてもいない。だから、自分の推進装置は使わなかった。
向かってくるレーザー。大丈夫。火の神のお札が守ってくれる。
私にはわかる。神様方が、進んで力を貸して下さっている。
ニーク様、守ってね。
船を次々と壊滅していくベータ。その姿を見て、皆が驚愕したのが分かった。私も驚愕した。
怖いよ。いや、負けちゃ駄目。こんな時こそ、魔法を使うんだ!
「ラブリープリティー超キューティー! ベータよ、お野菜になれ―!」
ベータの一群はお野菜にはならなかったが、ラブリーなお野菜柄にはなった。これで怖くないんだから!
それに私、体育の銃撃の成績、Aだったもん!
ペイント弾から実弾へと切り替える時、体が震えた。
御剣さんが、御剣さんを通して武神が、励ましてくれるのが分かった。
武神の札を使う。怖い気持ちが消えて、力がみなぎってくる。
「てぇぇぇぇぇい!」
私は撃って撃って撃ちまくった。接近されて、バックステップ。ラブリーモモから火の札を取り出して投げつける。爆音。
戦車級がはじけ飛ぶ。
怖い怖い怖い。
物理の実験道具を作るのに使っていた、「ぼくのかんがえたかっこいいぶきしりーず」のビームサーベルを必死で振り回す。
しかし、ベータは後から後から押し寄せてくる。なんで私がこんな事をしなくちゃいけないの!?
考えていたら突撃級に弾き飛ばされて、自分から飛んだのもあったけど、私の体は宙を飛んだ。もういや。もういや。私は地面に寝転がり、言った。
「働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! 絶っっっっっ対働きたくないでござるぅぅぅぅぅ!」
ベータが迫る。もう、どうにでもなっちゃえ……。
そんな時、私には幻が見えた。
可愛い女の子が、寝転がってバタバタと暴れる。ニーク様!
『働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! 絶っっっっっ対働きたくないでござるぅぅぅぅ』
私はそれに合わせて手足をじたばたさせる。
「働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! 絶っっっっっ対働きたくないでござるぅぅぅぅぅ! ……お家帰りたぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
ベータが私に噛みつく直前、カッと光が広がり、それは新潟を覆った。
ベータ達の大半は動きを停止し、その場に崩れ落ちた。
残りのベータは続々と、鈍い動きで「帰って」行く。
私はその場に寝転がったまま、泣きじゃくっていた。
そんな時だった。目の覚めるような赤色。スマートな体。端正な顔立ちの、とってもかっこいい人が私の前に降り立った。
一瞬女の人かと思ったけど、この顔立ちは男の人だ。
神様が作った理想の女性を男にした、そんな印象を受ける人だった。
私はその美形っぷりに目を見開き、ついでその人も裸だったので顔を赤らめた。
埃を叩き落とし、私は慌てて服を整えた。ぼろぼろで恥ずかしいよぅ。
この人は、この人は新人類なんだから、違うんだ。
そう思いつつ、私はちらちらとその人を盗み見た。
その人はベータを掃討しながら、私に聞いた。
「ベータが去り、部下達が急にやる気をなくした。武神の札が光ったのも見えた。これはそなたが?」
美しいテノール。ああ、これは惚れちゃうよ。
「は、はい。多分そうです……」
「どうすれば治る?」
「武神の札を使えば、治ると思います……あの。貴方様のお名前は……」
「帝国軍近衛隊の中川少佐だ。ほら、手を貸そう。立つが良い」
「中川様……」
私は出来るだけ女の子らしく立ち上がった。
「そなたの活躍は見ていた。まるで人間のような……いや、それ以上の躍動感だった」
「そ、そんな事……」
「面白い武器を使っていたな」
「あ、はい。「ぼくのかんがえたかっこいいぶきしりーず」ブランドのビームサーベルです」
「ぼくの……?」
「あ、あの、ドワーフが開発に関わっている会社です。ドワーフは鍛冶の神の加護を持ってる人達で……」
「……驚いたな。泣いておるのか」
「あ、これは……怖かった。私、とっても怖かったんです! 私が戦った事があるのって、新ロボット族の犯罪者やスパイだけで……」
「どおりで、初めて戦うにしては手慣れていると思った」
「う……うわああああああん」
私は中川様に抱きついて泣いた。
中川様はぎこちなく頭を撫でてくれる。
「それにしても素晴らしい手際だった。……そなたの、設計図が欲しい」
「えっ で、でも私って全然スマートじゃないし……見た目も、悪いし……」
唐突に私は裸の男の人に抱きついている事に気づき、頬を赤らめた。
「立派な機体だと思う。そなたのような機体が増えれば、助かる人間も増えよう」
「ええ!? あ、あの……」
私は突然のプロポーズに驚いた。こんな、かっこいい人が私との子供が欲しいって言うの!? この、女顔の超絶美形のこの人が!? 絶対男女逆だって思われちゃうよ……! でもでも、考えて直美! こんなチャンス、今までで一生に一度だよ! 今までなんて言われてきた? 男勝り、格好いい、女に見えない、挙句に女の子にラブレターまで貰う始末。相手は軍人さんだから、死んじゃうかもしれないのは怖いけど、少佐って事は偉い人だよね。養ってもらえるかもしれない。夕呼さんは石油をくれないし……。
「せ、責任とって、毎日石油と金属を補給してくれますか!?」
「ん? 謝礼は石油か。しばし待て。……構わないぞ」
「じゃ、じゃあ……設計図、交換します。私の設計図、貴方に初めてあげちゃいます」
「そうか! 今貰えるかな。帰ると魔女の妨害が入るかも知れぬからな」
「こ、ここで!? は、はい……」
なんでこんな事になっちゃってるんだろう。私、何しちゃってるんだろう。駄目よ、直美。ああ、でも……。
「では、設計図を送るから受け取るが良い」
にっける にっける
「凄いデータ量だったな。様子がおかしかったが大丈夫か?」
「ああ……中川様のデータ、すっごく原始的で野性的でした……v」
「はは。そう言われても仕方ないかもしれぬな。しかし、このデータでそれも変わる」
「じゃあ私、帝都についていきます」
「何?」
「え……? だ、だって石油を毎日くれるって……責任取るって言いましたよね?」
騙されちゃったのかな、私……。そんな……。
「いや、しかしついてきていいのか? 横浜基地所属では……」
「私は横浜基地所属じゃありません。もう、貴方の所属です」
「そ、そうか。歓迎する」
差し出された手を、私は握った。
五感を共有していた事に気づき、私がパニックに陥るのは帝都に行ってからの話である。