初めてこの作品を読む方へ。
この作品はエヴァとFateのクロスオーバー作品です。
Fateは凛グッドエンド後の話となっています。
エヴァはともかく、Fateキャラにはオリジナルキャラが多数登場しております。
オリキャラの存在が嫌だ、という方はお戻りください。
さらに、けっこうみなさん性格が違います。(特に主人公のS君)そういうのも嫌いな方はお戻りくださいね。
次に改訂する前から読まれている方へ。
タイトルには何の変化もありませんが、内容、設定は大きく変わっています。
変更点は多数有り、改訂後が正しいとしますので改訂前からとでの違いを指摘されないで下さい。
あと、Fate用語の補足も出来るだけ付けたつもりですが、不備があるかもしれません。その際はまたご指摘ください。
正義の味方の弟子
第1話
正義の味方の弟子
2000年。その出来事は起きた。
南極で発生したと言われる全くの謎の現象。
突如、南半球の沿岸地のあちこちで人や獣、鳥、魚そして植物、微生物までもが姿を消した事件。
大地そのものは残っているのに、そこに生きる命全てが消えた。
なにがあったのかなど、誰も分からない。誰も生きていないのだから。
その事件をめぐり、あらゆる憶測が飛び交った。
大国の新兵器の実験が行われた、新種の病原体だ、宇宙人の侵略だ、天の裁きだ、などという噂が当たり前のように流れていた。
しかし、騒ぎこそしても北半球の先進国国家の人々にとっては楽観していた。なぜなら、自分達には何の被害もなかったのだから。
だが、北半球の国家のいくつかにも被害はあった。
だれもいなくなるのだから、いなくなったことに気付く人もいなかっただけのことだった。
再び恐怖が世界を震撼させた。
被害があったのはいずれも低緯度の沿岸地からで、そこから波状に広がっていった。
誰もが北を目指し、都市を内陸へと移した。
一年もたったとき、被害はもう見当たらなくなった。
そして、今度は原因の解明、いや責任の押し付け合いということになった。
仲の悪い国同士が我々を殺すためにあの平気を作った、と証拠もないのに政治家が吼える。
それがそのまま戦争へと結びついた。
結局、事件の真相はかつて隕石によってもたらされた未知の元素の崩壊による強力なエネルギー放射が生物に被害を与えたとされた。それが南極にあると。現在はそれが収まっているが、何が原因で再び起こるかわからないと。
短い戦争は終わり、平和になった。
その元素の崩壊原因がわからないためだ。従来の物質どおりに崩壊するのか、それともしないのか分からないためだ。
そして、南極は近寄ることを禁じられ、禁域としてその名を残すことになった。
その事件は「セカンドインパクト」と名付けられた。
かつて地上の王者だった恐竜が滅んだことを「ファーストインパクト」、そして人類を滅ぼそうとした「セカンドインパクト」
一部の人間は予見し始めた。
次こそ完全に人類を滅ぼす「サードインパクト」が起きる。
泣いている小さな少年がいる。
親に捨てられ、置いていかれた場所でも虐められ居場所がない。すべてを諦めかけてしまいそうになっている。
そこに一人の青年が近づいてきた。
「何で泣いてるんだ? 俺が力になってやろうか」
赤い髪の青年に小さな少年はすべてを話した。
聞き終えた青年は激怒し、少年を預かっていた親戚の家に押しかけ、少年の扱いについて大声で抗議した。
青年は彼の行動にただ驚いてばかりいる少年にこう言った。
「俺と一緒に暮らさないか? 俺と遠坂って女の子とセイバーっていうのがいるんだ。君を絶対に不幸になんかしない」
少年は青年の言葉に頷いた。
青年は少しいたずらっぽい笑顔を浮かべ、
「そうそう、言い忘れてたけど、……俺は魔法使いなんだ」
「へー、お兄ちゃんってかっこいいんだね」
冗談のようなことを言う青年に、少年はそれだけを言った。
「ああ。俺は衛宮 士郎(えみや しろう)。正義の味方で魔術使いだ」
「僕は碇 シンジ」
少年は彼に引き取られ、ロンドンで暮らすことになる。
そして引き取られてからしばらくたち、士郎と彼の恋人の遠坂 凛(とおさか りん)、凛と契約したサーヴァントのセイバーの反対を押し切り、魔術を学んだ。
その身に宿るたった一つの神秘を磨き上げていき、そして彼が目指すものへと近づいていく。
そして、シンジが14歳になったとき、彼の父親が呼び出したことで物語の幕が開くことになる。
『本日12時30分、東海地方を中心とした、関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の方々は速やかに指定のシェルターに避難して下さい』
人一人居ない駅のホームでは無機質な機械的なアナウンスが流れている。
澄み渡った青空の上に、銀色に輝く戦闘機が一筋の白線を描いていた。
「いきなり電車が止まるなんて、僕は電車に嫌われてるのか?」
駅には少年と少女がいた。
少年の肌と髪は透き通るくらいに白く、瞳は紅い。体の線は細いが筋肉質で洗いざらしのシャツとジーンズ、右腕には赤い布を巻きつけている。
はるばるロンドンからやってきたのに、手には中身が膨れた小さな麻袋しかなく、中に金属が入っているのかジャラジャラと音をたてている。
「はっ、まさか凛姉さんの『ここぞというときにドジをする症候群』が僕にも伝染しちゃったのか。これはまずいかも」
「リンに聞かれたら何をされるかわからないことを平気で言うんですね、シンジは。またガンドの嵐の中を走り抜ける気ですか? 私の直感では次は蜂の巣になると出ていますよ」
金髪の少女が手を腰に当てながら、呆れたように言う。
少女は少年と同じような年齢で、白い肌に聖緑の瞳で、服装は白いブラウスに青いスカートである。
この少女は少年の同伴でロンドンから来たというのに、手に何も持っていない。
ガンドとはシンジの姉である凛がよく使う魔術だ。
相手に呪いをかける魔術であり、西洋で相手を指差してはいけないのはガンドをかけるとされているからである。
本来は相手を病気で寝込ませる程度の魔術なのだが、凛の場合は「フィンの一撃」と呼ばれるほど強力なガンドとなる。
ガンドの弾丸はコンクリートの壁に穴を空けるほどの威力で、普通の人間がくらえば即お陀仏である。それがガトリングガンもかくやという数で撃ってくる。
「そのときはルヴィア姉さんに匿ってもらう。そして姉さんに思いっきり甘えてみる。ルヴィア姉さんにもガンドを撃たれなければいいけど」
シンジと呼ばれた少年、碇 シンジは身に降りかかるであろう危険に対して笑うだけだ。
今あげた名は凛のライバルである女性の名である。ちなみに、この女性もフィンの一撃を放つことができる人物だ。
「はぁ、シンジはいったい誰に似たんでしょうね?」
金髪の少女、セイバーはまた呆れるだけだった。
「魔法使いの誰かじゃない? もしくは藤ねえ」
ありえそうな事実ではあるが、彼らもここまでふざけた性格はしていない。藤ねえこと、藤村 大河(ふじむら たいが)は微妙だ。
「でも、僕の志は士郎兄さんにもらったよ。たった一つの理想のために全てを注ぐ。
ちょっと断絶しかけちゃったけどね」
シンジは自分の白磁の肌をした手を見つめた。
昔は正常だった身体は、彼の身に宿る神秘の代償として少しずつ色素が抜けていった。
ちょうど彼の師匠で、兄でもある衛宮 士郎が褐色の肌になっていったように。
人には神秘、奇跡はおこせない。
だが、稀にそれができる人がいる。それが魔術師。
なんらかの代償を支払う代わりに、世の理を越えたことを行う。
その代償はシンジの場合、その体であった。
「貴方の理想はわかりますが、あまりその魔術を使用しないように。
貴方は本当なら封印指定の魔術師として封印されているはずなのですよ」
セイバーは厳しい口調でシンジを叱責する。
それは責めるというより、シンジの身を案じての言葉だった。
封印指定とは魔術師にとって名誉のある称号であり、そして厄介な称号でもある。
何らかの魔術の才能に突出し、後にも先にもこれ以上の存在はあらわれないだろうとされる人物にだけ送られるものである。
だが厄介なのはその後の処遇だ。
封印の言葉が表すように、封印指定を受けた者は、魔術師の集まりで封印指定と認定する魔術協会によって封印される。
これ以上の存在が出てこないというのだから、死んでしまわれては困るのだ。
封印されれば、動くことなどできなくなる。それはもう魔術の研究ができなくなるということだ。
ゆえに、封印指定は厄介なのである。
シンジの魔術、それは確実に封印指定のものであり、シンジ自身こうして日本でのんびりしていい人物ではない。
兄であり、同じく封印指定級の士郎と組めば、魔力を十分に溜め込んでいるセイバーすらも圧倒する強さとなる。
師匠である士郎の、そのまた師匠である凛は初めてその魔術を目の当たりにしたとき、そのあまりの魔術の異常さに本気で殺気をむけたほどだ。
シンジが今こうして日本にこれるのは、士郎、シンジの魔術によって第2魔法を完成させ、魔法使いとなった凛が魔術協会の総本山『時計塔』の位を上り詰め、上から圧力をかけているからだ。
魔法使いとは魔術師にとって最高の名誉。
魔術は確かに神秘なのであるが、科学を別方面からあらわした物に過ぎない。
指先から火を出す魔術など、ライターの代わり程度でしかない。
だが、魔法は科学では到達できない事象、人の域を越えたものである。
現在は、第1から第5までの5つの魔法と凛を含めた5人の魔法使いが存在する。
凛の大師父である人物もまた魔法使いであり、平行世界干渉を操る『万華鏡』などという二つ名をもった、知らぬものはいないというほどの存在である。
魔法使いは全ての魔術師の目標であり、その言葉はほとんど絶対に近い。
現在はシンジの存在は魔法使いの弟子であるとして、その存在を黙認されている。
そうでなければ、今頃は封印されるか、追っ手を差し向けられ逃亡を余儀なくされるか、のどちらかだろう。もしくは、派閥に組み込まれるか、洗脳され誰かの道具として使われるだけか。
シンジに同行したのは護衛であると同時に魔術を使用しないようにするためのお目付け役である。
「それはわかっているけど、僕は救いを求める人がいるのならいくらでもこの力を使う。それに僕は魔術師じゃなくて魔術使いだから、それ間違えないでよね」
魔術師は理由に関係なく、手を血で汚す。それは自分のために魔術を使うから。
魔術の研究のためには他人を犠牲にすることもあり、自分の魔術の隠匿のために誰かと敵対する。
しかし、魔術使いは他人のために魔術を使う。だから、手を血で汚さない。
ははっと笑いながら腰を下ろす。
セイバーははぁーっとため息をついた。シンジは士郎の影響でこういうことに関しては頑固であり、誰が何を言っても聞かない。
「いいでしょう。状況しだいでその魔術の使用を認めます。それよりも、なぜシンジの父親は今頃になってシンジを呼び出したのでしょうね。
なぜシンジの居場所がわかったのでしょう? まさかあの事件ででしょうか?」
「それは僕にもわからないけど、でももし、ふざけたことをいったら兄さんから借りたゲイボルグを容赦なく使わせてもらうよ。こう、うりゃっ、て感じに投げつけてやる。……えっ!?」
セイバーから視線をはずしたシンジが見たものは一人の女の子だった。
青い髪で学校の制服を着た少女。
その姿は陽炎のように揺らいでいて、幻想的である。
シンジは魔眼を持っていないため、幽霊や妖精の類は見れないはずで、だがそれなら、この妖精のような彼女は何だというのだろう。
永遠のようで一瞬でしかなかった時間は、突然響いた戦闘機の爆音によって終わってしまった。
驚いて目を閉じてしまったシンジが目を開くとそこには誰もいなかった。
シンジがセイバーに少女のことを伝えようとすると、どこかで膨大な魔力を感知した。
「っ、姉さん!!」
「わかっています。あの方角から来るようですね。この魔力は一体何者が放っているのでしょうか」
シンジは立ち上がり、麻袋から幾つか金属片を掴み取り、セイバーは自分の魔力で鎧を編み、身に纏っている。
彼女の右手には見ることはできないが、その『セイバー』のクラス(役割)の通りに、剣が握られている。
セイバーとは彼女の本名ではない。あくまで役割を示したものだ。
彼女の本当の名、真名は彼女の戦いが終わった今でも、軽々しく出すべきものではない。
真名を知られることは弱点を知られることを意味する。
セイバーが持っている武器の名は『風王結界』
風を刀身に纏わせることで周囲の光の屈折率を変え、見えなくする鞘である。
それと同時に圧縮させた暴風で、加護を受けていない武器や防具を一刀の元に破壊する。
『風王結界』は『宝具』と呼ばれる神秘の塊で、品によっては城一つを完全に破壊しきる威力を、また重傷をおった人間を癒す力をもつ。
『宝具』とは人々の願いが形をなしたものだ。
救いが欲しい、守って欲しい、強いものが欲しい、それらの思いが幻想として形を成す。
『宝具』は強いと信じられるものだ。だから、人に強いと思われるほどにその力は増す。
知名度が高ければ力は増し、逆に有名さゆえに見切られやすい。
だから名を隠すのだ。
セイバーはこれ以外にもあと2つの『宝具』を有している。
2人が構えていると、その巨人は現れた。
「で、でかい。あれって、姉さんが戦ったっていうバーサーカーってやつ?」
「バーサーカーでもあれほどの大きさではありません。あれは一体どんな幻想種だというのですか。いえ、それ以上になぜ私はあれほどの魔力に気づかなかったのですか」
シンジは幻想種、つまり竜やユニコーン、妖精などといった伝説や御伽噺にでてくる、この世界の生物の系統樹から外れた存在は見たことがない。
それらについては知識で知るだけで、『宝具』のように幻想で編まれた彼らは強く、永く生きた幻想種ほど強力な生物はいないという知識程度である。
ずしん、ずしんと大地を響かせながら歩く暗緑色の巨人。
それは周辺の高層ビルと同等以上の大きさがある。
(姉さんが気づかなかったのは、さっきの少女のせい?)
その巨人に向かって戦闘機、戦闘ヘリから発射されたミサイルが低空を這い、向かっていく。
ミサイルはその巨人にぶつかり爆発するも、巨人はのけぞりもしない。
そして、巨人はその右手を一機の戦闘ヘリに向け、光の杭を打ち込む。
串刺しになったヘリは爆発し、落下する。中に乗っていた人は助からないだろう。
それを見たシンジは正体不明の巨人に怒りを覚えた。
「ぐっ!!」
「っ、シンジ、魔術を使用してはいけません。あれは私が相手します」
魔術を使うために必要な魔術回路を起動させようとしたシンジに忠告する。
セイバーは魔力をブーストに使い、飛ぶように走り抜ける。
セイバー。礼節を弁え、主の意思を代行する騎士の中の騎士。
現代とは違う、魔術が当然のようにあった時代で、生き残り勝ち続けた騎士は、正体不明の巨人に対してもまったく怯むことなく、立ち向かっていった。
一瞬で巨人の足元にまで肉薄し、人間で言うアキレス腱の部分にその見えない剣を横なぎに叩きつけた。
その一撃は、肉を削り、体液を飛び散らせながらも食い込んでいく。
しかし、削れた肉が再生を始め、剣を肉の壁に挟みこもうとする。
「ちっ!!」
セイバーは急いで剣を足から抜き、もう一度、剣を叩き込もうとするが、今度は足に食い込む直前で止まった。
剣の前に見えない壁があるかのようだ。
「なにっ!! これは『神性』による守りか!?」
セイバーはかつて戦った相手の能力と似ていることから、その防御能力に当たりをつける。
「っ!!」
セイバーがその場を飛び退くと、上から巨人のもう片方の足が落ちてきた。
どうやら、先ほどの攻撃によって敵と認定されたようだ。
巨人が歩いただけで、道路が陥没した。これを食らえば、守りの高いセイバーでさえ、耐え切れないだろう。
そこにシンジがやってくる。
「姉さん、魔術を使うよ」
「いけません。あの魔術はシンジには負荷が大きすぎます」
「でも、姉さんじゃあんなデカブツ相手じゃ、鞘から抜くしかないだろ。そうすれば、すぐに魔力が切れて倒れちゃうって」
シンジは正論を言い、セイバーを言い負かす。
セイバーはこの世の存在ではない。
かつてイングランドにいたとされる王、アーサー王その人である。
シンジが士郎に会うよりも前にあった戦いで、士郎に召還され、主は変わったが今も現代で生き続けている。
その体は魔力でできており、力を使い続ければ、いずれは消える。
魔術師は自己の体の中から生成される魔力(オド)と空気中から取り込む魔力(マナ)の二つで魔力を蓄える。
だが、セイバーにはそれができない。
ロンドンにいる凛から魔力を供給されているのだが、供給を上回る速度で魔力を使い続ければ消えるしかない。
そして、彼女の聖剣は上回る速度で魔力を使うことになる。
セイバーが口ごもった隙に、一気に全身の魔術回路を開放する。
この際、魔術師は死のイメージを頭に浮かべる。
頭に浮かぶのは喉元に、二股の槍に突きつけられるイメージ。
「――投影、開始(トレース・オン)」
金属片に魔力をこめていく。
シンジの頭の中に金属片から読み取った設計図が浮かぶ。
それは一本の赤い槍の設計図。
影の国からルーンを持ち帰りし、義に厚き英雄。その男が使った呪いの槍。
その設計図に沿って、魔力を注ぎ込んでいく。
金属片を握ったシンジの右手は白く発光している。
魔力が形を成していく。
「――投影、終了(トレース・オフ)」
その呪文とともに金属片が一本の槍へと変わる。
複雑な模様(ルーン)が彫りこまれた赤い槍。長さは2メートル近くあり、小柄なシンジが扱えるようなものには見えない。
シンジの魔術は、「欠けたものを元の形に戻す」ことである。
シンジはたったの一欠けらさえあれば、そこから元の形を割り出し、再現することができるのだ。
この魔術を持っていることから、シンジの協会での役割は古代、神代の遺産の復元を行うことである。
本来、魔力によって壊れた物は直せないといってもいいのだが、シンジはそれを可能にしている。
そうして作られたものは元の品と寸分たがわぬ能力を持つ事となる。
これが、封印指定の理由だ。
シンジは今は「何かが欠けた」術式であっても、一度起動したことがあるのなら完璧な形で復元できる。
たとえ神代の魔術であっても、その欠片を手に入れることができれば、シンジは発動させることができるの
である。
シンジが持っている袋には士郎が魔術で作った武器や『宝具』を砕き、欠片にしたものが詰まっている。
そうして、戦闘時には元の形に戻し、利用するのだ。
「本当は最後の工程を行いたいけど、これ以上は姉さんに怒られるからな。これでやめておくよ」
そういって、後方へと瞬時に下がり、巨人から大きく離れると腰を低く落とし、槍を構える。
「受けるか、わが必殺の一撃を」
そして、冷気が槍からあふれ出した。
先ほどまでの熱気とはまったく違う、身を切り裂くような寒さが訪れる。
それによって、この槍の不吉さに気づいたのか、巨人の顔と思わしき仮面はシンジを見つめる。
周りを飛び交う戦闘機の群れを無視して、来るであろう敵の一撃に備える。
ゲ イ
「突き穿つ、」
飛び上がる。その高さは20メートル近くで、決して人に飛べる高さではない。
空中で身をよじり、槍を投擲する体勢に移る。
伝説では、30の穂先を飛ばし、その悉くが敵の心臓を貫いたという魔槍。
それを今ここに再現する。
『宝具』開放のために、『宝具』の名を唱える。
ボ ル グ
「死翔の槍」
『宝具』の真名を唱えての一投は正しく、赤き稲妻である。
『必ず心臓を貫く』という呪いを持ち、何度かわされようともそのたびに敵を追い、必ず心臓を穿つ。
槍は直死の威力を持って、巨人へと飛んでいく。
槍は見えない壁によって阻まれながらも尚、敵の心臓を射抜こうと前進する。
飛び散る魔力が目に映る。赤い槍と赤い壁。その光景は現実から離れたものだ。
パキンッ。
そんな軽やかな音をたてて、壁は破られた。
槍は勢いを失うことなく、体表にあった赤い玉へと刺さる。玉はひび割れ、だが巨人は苦しみながらも倒れない。
「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」
すでに地面に降りたシンジが呟き、刺さった槍が爆発した。
シンジの魔力で編まれた槍である以上、シンジの思い通りに欠片に戻すことも、暴発させて爆発させることもできる。
ズガァァッァアアアアアアアアアン!!!!!
赤い玉はその衝撃で砕け、巨人は背中から倒れ、地響きと轟音をたてた。
それは完全に死骸であり、魔力は感じられない。
「ぷはーっ!! もう限界! 一歩も動けないや」
戦闘が終わったと知ると、緊張を解き、道路に腰を下ろして座り込んだ。
「シンジ。助勢は感謝します。ですが、魔術を使ったことはシロウとリンに報告させてもらいます」
「ねえさーん。いきなり説教はやめてよー」
近づいてきたセイバーは褒めているのか、怒っているのかわからないことを言う。
「いいえやめません。シンジは向こう見ずな所が多すぎます」
「それは姉さんも同じでしょ。あんな大きい相手にいきなり向かっていくんだもん」
「私は今はシンジの護衛です。その私がシンジの敵に対し、攻撃するのは当然のことです」
「でも負けたね?」
「ま、負けてなんかいません。シンジが止めなければ私の剣があんなもの真っ二つにしていました」
「そして、魔力切れで倒れてダブルノックアウト?」
「私を侮辱する気ですかーー!!」
飄々としたシンジと怒り狂うセイバー。案外、いいコンビなのかもしれない。
「と、ともかく魔術の使用は厳禁です。そもそも魔術は隠匿されなければいけないものです。みだりに使用してはいけません」
「うんうん、よくわかった。魔術は使わない。というわけで、武装化で飛び散った服は姉さんが自分で縫い合わせてね?
人のいない今はいいけど、その格好で街中を歩くのはすごく恥ずかしいし目立つと思うよ?」
そういわれて、ハッとするセイバー。
今の彼女の服装は甲冑に身を包んだ装束であり、替えの衣服はない。
シンジの魔術なら簡単に元に戻せるが、使うなと言ったばかり。
「ぐぅっ、し、シンジ」
「なぁに? 姉さん」
「魔術の使用を一回だけ認めます。それで私の服を直してください」
「一回だけ?」
「そうです。一回だけです」
「じゃあ、ブラウスかスカートのどちらかは直らないね。どっち直す?」
「……二回だけです」
「りょうかーい。あっ、そうそう、魔術を使ったことは内緒にしてね」
「わ、わかりました」
にこやかなシンジに、苦渋の選択をしたセイバー。
主の意思の代行する騎士の中の騎士、には到底みえない。
誇り高き王もこういった罠に弱いのかもしれない。
物陰で着替えたセイバーが戻ってきたのは戦闘終了から5分後。
このときには、シンジは青色の髪の少女のことを完全に忘れていた。
また、とある秘密組織では決戦兵器の投入前に、前座の戦略自衛隊(以下、戦自)との交戦中に使徒が倒れたことでパニックになっていた。
戦自の高官たちはなぜ勝てたのかよく分からないが、とにかく勝てたことに喜び、今まで威張ってきた秘密組織職員に嫌味を連呼し、ここの髭司令もいつもの口癖を言うことはできなかったという。
「くるはずの迎えはまだでしょうか?」
「そういえばまだ来ないね。もう歩いていこうか?」
「そうしましょう。いつまでもここで待っていても仕方がありません。行動に移しましょう」
「……」
「どうしましたか、シンジ?」
「どうしてお腹が空いたから早くご飯が食べに行きたい、って素直に言えないの?」
セイバーが食事の時間を何よりも大事にし、また量、質にもこだわる自称美食家(シンジに言わせればただの大食らい)なのである。
だが、いくら彼女でも戦闘直後にいきなり食事を欲したりはしない。
「うがぁぁぁー!!!」
「吠えるほどお腹が空いてるなんて。でも、避難勧告のせいでお店はどこも閉まってるよ。だから、ご飯はまだだよ」
「そのネタをいつまでも引っ張るのはやめなさい!!」
全速力で逃げるシンジとそれを追うセイバー。
彼らは誰もいない街を駆け抜け、その鬼ごっこは結局セイバーが空腹で動けなくなるまで続いた。
その日の夜はその街で一宿することになった。そこで、二人はやっと気づいた。
シンジの左手の甲にミミズ腫れが浮かんでいることを。
それは、新たなる聖杯戦争の始まりを意味した。
追加武器
突き穿つ死翔の槍(ゲイボルグ):ランクB+(Aが最高、Eが最低。EXは規格外。+がつくものは瞬間的に本来の威力×(+の数+1)となる
ケルト神話の中のアルスター神話群に登場する英雄、クー・フーリンの持つ槍である。『心臓を貫く』という呪いを最大限に発揮することで幾たびかわされようとも必ず心臓を穿つ。
また、この槍の別の使い方として、『刺し穿つ死棘の槍』がある。これは、因果の逆転を行うことで回避も防御も不可能な一撃を放つことにある。
あとがき
改訂しました。
よくよく見直すと、シンジの腕を覆う布が途中から左手から右手に変わっていったので、最初から右手にしました。
士郎が最初、魔法使いだと名乗ったのはシンジに理解しやすいようにいったのであり、士郎は魔法使いではありません。
地軸の歪みが起きなかったのは、『ガイア』の抑止が働いたためです。
もう出てくることはないと思うので、ここで『ガイア』の説明。
『ガイア』は地球を守ろうとする力で、地球を守るためなら人間の滅亡すら辞さない力です。
問題があるのなら、ご指摘ください。直します。
誤字訂正しました。あと、武器説明をつけました。
追伸 士郎未成年者略取疑惑に関しましては、頭が回らず(こんな奴に考えられるのなら、法の抜け道などいくらでもある)そのままになりました。きっと彼なら、この不名誉でもめげないと思います。