ついに5つ目の技も習得した。
ナナが言うには、この前のフーケ討伐がいい実戦訓練になったとの事。
戦士<warrior>の決め技らしいから期待してたけど、これが全く当たらない。
必中の間合いで使っても、振り終わる頃には逃げられてしまうのだ。
落胆している私の前で、ナナが実際に技を使いながら教えてくれた。
常に力いっぱい振る<Heavy Smash>のではなく、基本は鋭く、無理なく振る<Smash>のがいいらしい。
じゃあいつ使ったらいいのと聞くと、確実に当たる時だけ使うのだと答えられた。
やっぱりナナはすごいと思う。
力の強さがとかではなく、戦い方に無駄がないのだ。
ナナ自身はなにも言わないけど、きっと名のある戦士だったのだろう。
まさか兵士全員がナナ並の知識を持っているなんて、そんな国あるはずないわよね。
今、ナナはタバサの部屋に遊びに行っている。
訓練でよく手合わせしているせいか、最近仲がいいみたい。
そういえば私、ナナの事ほとんど知らない。
あと、なんで最近キュルケが私の部屋で寝泊りしているのかも分からない。
※※※
使い魔の品評会が近いので、ナナと出し物について相談をした。
ぱっと浮かぶのはナナの技だけど、自分で言いながらピンとは来なかった。
ナナも、人を楽しませるような技は得意じゃないとの事。
私もそうだろうと思った。
ナナの技には、てんで色気がないのだ。
魅せるとか、余裕とかいう要素が全くない。
ただ最短距離で、武器を相手にめりこませる。そして一度殴った相手を、死ぬまで殴り続ける。
その為の工夫を、ひたすら積み上げたのがナナの戦い方だった。
一体、どんな戦いを潜り抜ければ、こんな戦士になるのだろうか。
そして私は、つい聞いてしまった。
ナナは戦争で、敵を倒したことあるの、と。
ナナはいつもと変わらない笑顔で、勿論あるよー、と答えた。
そこで止めればよかったのに、私はさらに続けてしまったのだ。質問を。
何人くらい、と。
今度はナナは笑顔じゃなかった。
困ったように眉を寄せて、しばらくして、分かんないと笑った。
先にした笑いとは違うように、私には見えた。
本当に私は馬鹿だったと思う。
戦争してたんだから、ナナが人を殺した事なんて、あって当然なのだ。
私が習っている剣の技だって、つまるところはその為のものなんだから。
だから私は、決心しようと思う。
実際に人に凶器を振り下ろす時には鈍ってしまうとしても、それでも今しないといけないと思うから。
ナナだけに手を汚させるような事はしないと。
ナナが敵に飛び込む時は、必ず私も続くのだと。
なんたって私は、ナナのご主人様なんだから。
※※※
アンリエッタ姫様からとんでもない大役を仰せつかった。
詳しく書き記す訳にはいかないけど、我が身に代えても果たさねばならない、大切な任務だ。
実行するのは私とナナ、そしてギーシュ。
ギーシュは普段はへらへらしてるけど、訓練中は別人のようにしたたかになる。
彼の操るゴーレムは、読めない動きで攻撃をかわし、しかも盾を持っていて異様にしぶといのだ。
それでいて無視すれば片手剣で暴れまわるので、厄介な事この上ない。
あんたと戦うとストレス溜まるわ、と零したら、そんなに褒められると照れるよと言い返された。
彼が同行者なら心強い。
帰り際の姫様に、しばらく見ないうちにルイズは変わりましたね、と言われた。
首を捻っていると、自分では分からないものさとギーシュが笑っていた。
そういえば、私がなぜか突然下級生の女の子からクッキーを贈られて、不思議に思っていた時も、
同じようにギーシュは笑っていた気がする。
※※※
旅立って一日目、今これを書いているのは、
港町ラ・ロシェールの<女神の杵>亭だ。
ついに今日私は、人を斬った。
ラ・ロシェール近くの渓谷で、山賊の奇襲を受けたのだ。
人の身体が、あんなに軽い力で切れるものだとは思わなかった。
同時に、ナナから学んだ戦術が、多人数戦に極めて有効だと実感した。
ギーシュのゴーレムが、山賊の注目と矢を引き付け、私とナナが死角から奇襲する。
渾身の力でデルフリンガーを振り抜くと<Exten Blade>、真空の刃が冗談のように山賊達をなぎ倒した。
最終的には、乱入したキュルケとタバサが魔法で追い散らして、戦いは終わった。
こうして、当初のメンバーにキュルケとタバサ、そしてワルド様を加えた六人で宿を取っている。
そういえばワルド様は、私の技を見てひどく驚いていた。
風魔法の一種ですと教えて差し上げると、息が苦しいんじゃないかと思うくらい長い間ぽかんと口を開けた後で、
私が魔法を使えるようになったことを祝福して下さった。
肩を落として重い足取りで部屋に向われたけど、
あんなに疲れていても私を思いやって下さるなんて。
ワルド様が婚約者で本当によかった。
※※※
アルビオンへの船は明日の朝まで出ないそうなので、今日は丸一日空いていた。
何をしようかと思っていたら、キュルケとワルド様が模擬戦を始めた。
ワルド様は戸惑ってらしたけど、キュルケは妙に乗り気のようだった。
そういえば彼女は、ワルド様を婚約者だと紹介してから、異様に目つきが悪い。
ツェルプストーの悪い癖が出たのでなければいいのだけど。
結果はワルド様の勝利だった。
キュルケの戦術は悪くなかったけど、技の一つ一つの洗練さで、ワルド様は別格だった。
距離をとらず果敢に前に出ようとするキュルケの動きを、ワルド様が褒めていた。
懐かしい。あれは私が風魔法を習得した時だったろうか、ナナに注意されたのだ。
射程の長い技は、遠くから攻撃するためのものじゃない。目の前から逃げようとする敵に、追い討ちやトドメをさすためのものだ、と。
同じ一撃でも、遠くにいる元気な敵に当てるのと、下がるほどの傷を負った敵に当てるのでは大違いだと。
言われて私達は納得したものだ。
その為には、メイジであろうと敵前に出る必要がある。
遠距離魔法が主体のキュルケやタバサも、それからは接近戦で攻撃をかわす訓練を積んでいた。
夜、ナナがワルド様と話していたので尋ねてみると、左手のルーンを見せて欲しいと言われたとの事。
ワルド様は何度も頷きながら、すばらしい使い魔だ、君が居てくれてよかった、とナナを褒めて下さった。
私も全く同じ気持ちだったから、婚約者と心が通じ合って嬉しかった。
ワルド様は、そうさ間違ってない、僕は間違ってなんかないんだ、と呟きながら、部屋に消えた。
何か悩んでらっしゃるのかしら。
こういう時こそ、私が支えて差し上げないと。
※※※
同じ日に、もう一度日記を書くハメになるとは思わなかった。
あの後、宿が襲われたのだ。
撃退はしたけど、念のために宿を移して、新しい部屋でこれを書いている。
着替えようとしていた所を、フーケのゴーレムに襲われた。
慌てて一階に降りると、蹴倒したテーブルを挟んで、皆が傭兵達と交戦している所だった。
ワルド様は二手に別れようと提案されたけど、私は首を横に振った。
きっとワルド様はお一人でここに残って、私達を逃がすつもりだったのだ。そんな事を言わせはしないわ!
皆と作戦を交わして、私とナナは二階に駆け上がった。
ゴーレムが壊した壁から、傭兵達が見下ろせる。
ナナが、降下するよ! と飛び降りた。私も間髪入れず二階の床を蹴る。
いつかのナナの言葉が蘇る。
一人で敵に突っ込めばただのエサ。けれどもう一人が続けば立派な戦術になる。
傭兵達の只中に降り立つ。手はず通りギーシュのゴーレムが、傭兵達の目を奪っている。
私は腰に力を入れ、渾身の力でデルフリンガーを振り回した。
山賊達に使った技よりも、さらに広く、大きく、<Sword Rampage>限界まで振りぬく。
デルフリンガーと真空の刃が半球状に空気を切り取り、その内部の傭兵達をことごとく切り裂いた。
同時にナナが高く跳躍し、地面に叩きつけた斧の衝撃波が、私を狙う傭兵達を何度も打ち据える。
そしてキュルケとタバサの魔法が、駄目押しと襲い掛かり戦闘は終了した。
ちなみにフーケはいつの間にか居なくなっていた。
それにしても、フーケにまで襲われるなんて、一体何が起こっているのだろう。
こういう時、ワルド様が居て下さって、本当によかったと思う。
ややこしい部分は任せて、戦いの事だけ考えていられるから。
夫婦の共同作業というやつかしら。ちょっと気が早いけど、とてもいい響きだわ。
そのワルド様に、重要な話があるから、二人部屋にしようと誘われた。
心の楽団がファンファーレを奏でたけど、キュルケと一緒に寝る約束をしてたから、泣く泣く断った。
キュルケは戦闘の後、自分が燃やした死体達を前にして、うずくまったまま動かなかったのだ。
私が抱きしめると必死ですがり付いてきた。あのこわばった顔を思うと、一人で眠れないのも仕方がないと思う。
日記を書いている間も、背中にべったりと張り付いているのも、仕方がないと思う。
※※※
今朝ラ・ロシェールで船に乗った私は、深夜の今、ニューカッスル城の客間でこれを書いている。
とんでもない強行軍の一日だったと思う。
夕暮れのアルビオンに着いた私達は、夜闇に乗じて、反乱軍の包囲を突破したのだ。
アンリエッタ姫様の任務も果たしたし、逃げ道も城の秘密港を使わせて貰う事になっている。
これでやっと肩の荷が下りた、と思ったら、
なんとワルド様からプロポーズされてしまったの!
親の決めた形式だけの婚約ではなく、自分の意思で、私を伴侶にしたいのだと仰って下さった。
無論私はお受けしたわ。
ああ、あの一見クールで情熱的な瞳。今でも忘れられないわ。
ナナにも報告しようと思ったのだけど、まだ部屋に戻っていない。
晩餐の後、崩れてて登れそうな場所が多いから、ちょっと登ってくる、と言ったきり姿を見ていない。
城の人がびっくりするような場所に登ってなければいいのだけど。
そういえば晩餐で不思議な話を聞いたんだっけ。
なんでも戦争中に死んで、気が付くと無傷で城にいるのだとか。
そんな妄想に取り付かれるなんて、やっぱり戦場は地獄なのね。
※※※
城の皆が騒ぐ声が、この客間にまで聞こえてくる。
昨日は最後の晩餐、そして今日のは、戦勝パーティ。
ジェームズ一世陛下が率いる王統派は、レコン・キスタに勝利したのだ。
今朝起きて、訳の分からない内に、城内の教会に連れて行かれた時には、本当にびっくりした。
プロポーズした翌朝に式をぶつけてくるなんて、情熱的すぎてぐらりときたわ。
でもさすがに、これを受けることは出来なかった。
だってお父様とお母様に知られたら、ワルド様の命が危うくなってしまうもの。
結婚しちゃいました、てへ。で許してくれるとはとても思えない。
誓いの言葉を私が断ると、ワルド様は騒ぎ出して、止めようとしたウェールズ王太子殿下に襲い掛かった。
今は理由もきちんと分かってるけど、あの時は、そんなに私と結婚したいのかと感動したものだ。
私はワルド様の手首を掴んで止めた。
ワルド様も心の葛藤があったんだと思う。だって、振り払おうとした手には全然力が入ってなかったんだもの。
じゃないと私が掴んだくらいで、微動だにできない筈がないから。
そしてワルド様は、自分がレコン・キスタの一員だと暴露した。
愛の言葉が偽りだと言われて、確かに私はショックを受けた。それでもワルド様を憎めなかったのは、何故だろう。
望みの為に全てを投げ出したと告白するワルド様が、ものすごく心細げに見えたからだろうか。
まるでクッキーを差し出してきた時の学院の後輩のように。
だからあんな言葉を告げてしまったのかもしれない。
今思い出すと恥ずかしい。あの場所にはアルビオンの貴族が集まっていたというのに。
ともあれワルド様は、私の説得でレコン・キスタを抜けてくれた。
説得の途中で、なし崩し的に、私から誓いの口付けをしてしまったけど、
ああ始祖ブリミルよ、お父様とお母様から、どうかワルド様をお守りください。
私達を祝福して下さった後、ウェールズ殿下は、数百対数万という絶望的な戦いに赴こうとされた。
そこにナナが一言声をかけた。
援軍要請しないの? と。
ウェールズ殿下はナナとしばらく話した後、父王のジェームス一世陛下の元に向われたらしい。
私はナナに連れられて、城の中庭へと行った。
中庭には人だかりが出来ていた。何事かと見てみると、皆ばらばらの変わった服や鎧を着ている。
そしてさらに増えている。なんと何もない場所に、突然現れ続けているのだ。
デルフリンガーを持ってきてくれたキュルケによると、城の様々なところに同じように人が出現しているのだと言う。
やがてレコン・キスタの砲撃が開始され、戦争が始まると、謎の援軍達は一斉に戦場に飛び出していった。
誰の指示もないのに迷い無く、まるで一人一人が為すべき事を知っているかのように。
呆然としている私に、ナナが少し先で振り返って、手を差し出した。
いこう、と。
そして私は、一生忘れることの出来ない体験をする。
レコン・キスタの空中戦艦に砲撃する、巨人を見た。
謎の塔が地面を割ってそそり立ち、敵兵に向って矢を放つのを見た。
皆とはぐれて敵兵に追われていた時、盾と片手剣で身を固めた人に助けてもらった。
見知らぬ人達と共に、敵兵のいる崖下へと一斉に飛び降りた。
ウェディングドレスを翻しながら、デルフリンガーを振り回した今日を、私はずっと憶えているだろう。
※※※
※※※
僕の名前はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
こんな書き出しでいいのだろうか。
日記などここ数年書いたことが無いが、せっかく婚約者が差し入れてくれたのだ、書かない訳にはいくまい。
いや、婚約者ではないな、彼女はもう僕の妻なのだから。
僕は今、魔法衛士隊の宿舎でこれを書いている。
牢への収監ではなく自室の軟禁で済んでいるのは、彼女があの時の約束を守ってくれたからだろう。
あの時。レコン・キスタの一員だと暴露した僕に、彼女が告げた言葉を思い出すと、
恥ずかしさとは別に、胸が熱くなるのを感じる。
僕の腕を力強く掴んで、彼女は言ったのだ。
あなたについて行く事はできないわ、と。
「だから、私について来て、ワルド様」
あなたの望むものは全部、私が手に入れてあげる。
あなたの犯した罪も、私の全てをかけて軽くさせるから。
僕はそんなことは不可能だと答えた。
彼女が望んだとしても、彼女以外の全員が許さない、と。
なんだそんな事と、彼女は僕の首に腕を絡めて、口付けをした。
そして、あなたとの結婚を誓うわ、と言ったのだ。
これであなたの罪は私の罪、誰にも文句は言わせないわ、ジャン。と。
そして笑った笑顔は、たとえようも無く美しかった。
※※※
※※※
アルビオンから学院に戻って、もう半月になるだろうか。
なんとかジャンの助命は叶いそうだと、お父様が手紙で教えてくれた。
最初は烈火の如くお怒りになっていたけど、何度か<話し合って>和解されたらしい。
結婚も認めてくださった。
メイドにミズ・ワルドと呼ばれるのにも慣れて、もう呼ばれるたびに金貨のチップを渡したりはしない。
今日も授業の後、皆とメルファリアへ援軍参加した。
セルベーン高地は苦手だったけど、最終的には外周で押して勝利を掴んだ。
パーティというのを組んでいれば、ナナの国の戦争に参加できる。
それを知ったときは、本当に心が躍った。
アルビオンでの戦いの昂揚が、ずっと忘れられなかったのだ。
そのアルビオンでも、王統派と貴族派との戦争がまだ続いている。
クリスタルの使い方や、オベリスクの建て方について、教えを請う使者がアルビオンから来るらしい。
アンリエッタ姫様からも要請が来ているので、ナナを筆頭に私達はこれから忙しくなるだろう。
今見てみたら、これがこの日記の最後のページになるらしい。
明日にでも、新しい日記を買ってこなければ。
最初のページには、ナナの事を書こうと思う。
私の人生を大きく変えてくれた、両手斧を担いだ使い魔の事を。