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No.21189の一覧
[0] 風の聖痕――電子の従者(風の聖痕×戦闘城塞マスラヲ一部キャラのみ)[陰陽師](2014/06/19 22:46)
[1] 第一話[陰陽師](2010/08/18 23:02)
[2] 第二話[陰陽師](2010/08/25 22:26)
[3] 第三話[陰陽師](2010/09/16 00:02)
[4] 第四話[陰陽師](2010/09/26 12:08)
[5] 第五話[陰陽師](2010/09/29 17:20)
[6] 第六話[陰陽師](2010/10/08 00:13)
[7] 第七話[陰陽師](2010/10/10 15:35)
[8] 第八話[陰陽師](2010/10/15 20:49)
[9] 第九話[陰陽師](2010/10/17 17:27)
[10] 第十話(11/7一部修正)[陰陽師](2010/11/07 22:57)
[11] 第十一話[陰陽師](2010/10/26 22:57)
[12] 第十二話[陰陽師](2010/10/31 01:00)
[13] 第十三話[陰陽師](2010/11/03 13:13)
[14] 第十四話[陰陽師](2010/11/07 22:35)
[15] 第十五話[陰陽師](2010/11/14 16:00)
[16] 第十六話[陰陽師](2010/11/22 14:33)
[17] 第十七話[陰陽師](2010/11/28 22:30)
[18] 第十八話[陰陽師](2010/12/05 22:06)
[19] 第十九話[陰陽師](2010/12/08 22:29)
[20] 第二十話[陰陽師](2010/12/12 15:16)
[21] 第二十一話[陰陽師](2011/01/02 16:01)
[22] 第二十二話[陰陽師](2011/01/02 16:14)
[23] 第二十三話[陰陽師](2011/01/25 16:21)
[24] 第二十四話[陰陽師](2011/01/25 16:29)
[25] 第二十五話[陰陽師](2011/02/02 16:54)
[26] 第二十六話[陰陽師](2011/02/13 22:31)
[27] 第二十七話[陰陽師](2011/02/13 22:30)
[28] 第二十八話[陰陽師](2011/03/06 15:43)
[29] 第二十九話[陰陽師](2011/04/07 23:31)
[30] 第三十話[陰陽師](2011/04/07 23:30)
[31] 第三十一話[陰陽師](2011/06/22 14:56)
[32] 第三十二話[陰陽師](2011/06/29 23:00)
[33] 第三十三話[陰陽師](2011/07/03 23:51)
[34] 第三十四話[陰陽師](2011/07/10 14:19)
[35] 第三十五話[陰陽師](2011/10/09 23:53)
[36] 第三十六話[陰陽師](2011/12/22 21:15)
[37] 第三十七話[陰陽師](2011/12/22 22:27)
[38] 第三十八話[陰陽師](2012/03/01 20:06)
[39] 第三十九話[陰陽師](2013/12/17 22:27)
[40] 第四十話[陰陽師](2014/01/09 23:01)
[41] 第四十一話[陰陽師](2014/01/22 14:48)
[42] 第四十二話[陰陽師](2014/03/16 20:16)
[43] 第四十三話[陰陽師](2014/03/16 19:36)
[44] 第四十四話[陰陽師](2014/06/08 15:59)
[45] 第四十五話[陰陽師](2014/07/24 23:33)
[46] 第四十六話[陰陽師](2014/08/07 19:38)
[47] 第四十七話[陰陽師](2014/08/22 23:29)
[48] 第四十八話[陰陽師](2014/09/01 11:39)
[49] 第四十九話[陰陽師](2014/11/03 12:11)
[50] 第五十話(NEW)[陰陽師](2014/11/03 12:20)
[51] おまけ・小ネタ集(3/6日追加)[陰陽師](2011/03/16 15:27)
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[21189] 第四十七話
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:c50c1127 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/22 23:29
巨人に向けてのミサイル攻撃が終了した。ウィル子と和麻は送られてくるデータを解析しながら、敵の能力を解析していく。
和麻はパソコンで、ウィル子はそのデータを拾いながら。

「結果出ました。再生速度は毎秒破損部分の約3%。そこまで驚異的な回復速度でもありません。ほかにも強度もあまり上がっていませんね。適応進化能力はないようですね」
「地脈のエネルギーを取り込んでいる気配はあるけど、それでもそこまで大幅に九州はしていないわね」
「そうですね。あと解析した結果、一点だけ、ほかの部分に比べて熱反応が高い場所があります。左胸、人間で言う所の心臓の部分ですね」
「そこにあゆみちゃんが?」
「可能性は高いですね。しかもこの敵の場合、そこが核である可能性もありますね」

核。つまりは本体と言うことだ。
妖魔の中にはいくつもの妖魔が集まった、集合体と言う存在も稀に存在する。そう言った存在は他の妖魔を結合させ続ける核となる存在が必ずある。
また何らかの力の影響で妖魔化、悪霊化した存在にも当然原因となった物や本体がある。

富士の魔獣や龍はそれ自体が核であり、存在全てを消滅させない限りは倒せない存在だったが、この巨人の場合はそれとは異なる可能性がある。
そこさえ潰せば、倒せると言うことだ。

「マスターからの意見でも、魔獣が完全に消滅したのにもかかわらず、あのような存在が出現したからには、必ず何らかの核、あるいは本体があるとの考えです」
「なるほど。確かにそうね。あの魔術師が生きていれば、あいつを真っ先に疑ったのだけど」
「彼は煉が完全に滅ぼした。それは僕も確認しましたからね。となれば、あの魔術師が残した何かと言う可能性が高いね」

ウィル子と紅羽の言葉を引き継いだ朧が意見を述べる。

「ともあれ、何が原因でもやることは変わらない。でも少しは攻略法が見えてきたわね。
私が全力であいつの力を削ぐから、あなたは全力で心臓部分を燃やしなさい。今のあなたなら、あの子を燃やさずにあの巨人だけを燃やせるでしょ?」
「はい! 任せてください!」

紅羽の問いに力強く煉は答える。頼もしい限りだ。

「では綾乃は陽動ですかね。敵が適応進化する可能性はまだありますが、少々なら大丈夫でしょう」
「じゃあ僕も陽動に徹しよう」
「あとマスターから。『胸の辺りまでは風で送ってやる』だそうです」
「兄様……。ありがとうございます!」
「作戦は決まったわね。じゃあ行きましょうか」






巨人が無造作に動くだけで地響きがあたりに木霊し、大地が上下する。
この巨人に明確な意思はない。破壊衝動もあってないようなものだろう。
しかしこれだけの巨体が動き回れば、それだけで甚大な被害が発生する。

自衛隊を含めて、この巨人に対する全力攻撃は未だに命令されていない。和麻とウィル子が介入してストップさせているからだ。
しかしいつまでもこのままでは行かない。いつかは命令が下る。その前に決着をつける。

ゴオッと風が周囲に吹き荒れる。風がドーム状になり、周囲を包み込み外から一切見えないようになった。
また高速で回転する風に触れれば、並みの強度では即座に粉々に切り裂かれる。和麻が展開した結界である。半径一キロを包み込む巨大な結界だ。
自らは一切手を出さない代わりに、これくらいは肩代わりしてやろうと和麻らしくもない心意気だった。

「意外ね。あんたが結界を張るなんて。てっきり一切手伝わない物かと思ったけど」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ。煉とかお前の姿を見られたらまずいだろうが。一応親父達にも結界やら光学迷彩やらの防御はしてやってたぞ」

もちろん有料だけどもと心の中で付け加えるが。ついでに万が一を考えて、上空には黄金色の風を準備もしている。
流石に一撃では仕留められないかもしれないが、保険としては十分であろう。ついでにウィル子にはミサイルの一斉発射の準備も整えさせている。

結界に関しては、石蕗の介入を抑えるためでもあった。
魔獣の復活は石蕗の失態である。それは彼らにとってみれば大きな失点。彼らを窮地に立たせるものである。
出来れば魔獣にしてもあの巨人にしても、もう少し暴れてもらい被害が出てくれれば、さらに石蕗叩きが楽しく行えるし、石蕗が右往左往し、巨人に叩き潰されれば、さらに言う事なし。

しかしあまり調子に乗って暴れられすぎると、経済に影響が出てしまう。
日本にもそれなりの資産を置いている和麻にしてみれば、それはそれで面白くないし、煉がやる気になっているのだ。邪魔をする気もない。
ゆえに片手間でできて危険の少ない範囲で協力する。

「ふーん。それであたしはどのタイミングで行けばいいの?」
「まあちょっと待ってろ。タイミングを見極めて俺が送ってやる。お前はちょっとでも集中して、精霊を集めとけ。ただし暴発だけはさせるなよ」
「わかってるわよ。そんなこと」

言われて渋々ながらに、集中を開始する。自分のやるべきことは決まっている。恐怖は無い。緊張もしていることはしているが、気負いするほどでもない。¥。

「おっ、始まったぞ」

和麻の言葉通り、巨人との戦闘が始まった。





巨大な敵を相手にちまちまとした攻撃は無意味である。ならば最初から全力で攻撃を与える。
煉は意識を集中し、炎の精霊を召喚する。目標は核と思われる左胸。そこから中心に燃やし尽くす。
ただ、未だに全力を持っての対象だけを燃やす浄化の炎は、流石の煉でも無理なので、多少は威力を抑える必要がある。

紅羽も紅羽で準備を行う。意識を集中し、宝貝を起動させる。光が宝貝から放たれ、大地へと力が流れる。地脈の流れが変化する。
一時的な地脈操作。宝貝を使ってさえなお、わずかな時間しか稼げないが、それでも十分だ。

(足りない分は、この命を賭けるだけ!)

ひざまずき、両手を組み祈りをささげるかのような体勢を取る。そう、これから祈りをささげるのだ。
石蕗紅羽と言う、すべてを賭けて。
彼女の体から膨大な力が放出される。大地の精霊が紅羽の願いに応える。

砂の一粒も操れず、大地の精霊の声を一切聞くことができなかった自分が、まさか石蕗の始祖の真似事をするとは、何とも皮肉だ。
しかし今だけはそんな感傷を忘れよう。あの自分を苦しめてきた怨敵たる富士の魔獣の残り香である巨人を倒すまでは。

(そう。魔獣はもういない。復讐はもうすでに終わった。何もしないままに終わった。私のこの空虚な気持ち。お前で晴らさせてもらう!)

八つ当たりにすぎないと理解しているが、それでも紅羽は己の全身全霊を賭ける。
大地に波紋が走り、それは巨人へと向かい収束していく。足元から巨人の全身に波紋が広がり、巨人の動きが止まる。

だが同時に紅羽にかかる負担は尋常ではなかった。理解はしていたし、覚悟はしていた。
それでも地術師として未熟な紅羽では、本来の魔獣よりもかなり劣る巨人を相手にもこの様だ。
それでも……。

「さあ! 行きなさい、神凪煉!」
「はい!」

右手に黄金の炎を集中させて、一気に魔獣へと向かい突進する。同時に風が彼の周囲に展開する。煉の体がふわりと浮きあがり、一気に巨人へと向かい突撃する。
それに気が付いたのか、巨人も右手を振りかざし迎撃しようとする。
しかしその右手は突如として破壊される。

「姉様!」
「行きなさい、煉!」

風を纏い、空に滞空する綾乃。破邪の剣を振りかざし、渾身の一撃を巨人の腕に叩き込んでいた。岩の腕は切り裂かれ、破片は燃えている。
和麻に言われたとおり、綾乃は煉をフォローするタイミングで来たのだ。
少女さえ助けられれば、あとは最大火力を叩き込めばいいだけ。魔獣ほどの再生能力も適応、進化能力もあまりない。

煉や綾乃で仕留められなくても、通常火力と黄金の風で確実に仕留められる。
魔獣を宗主と親父で仕留めていてくれてよかったと、和麻は内心で安堵していた。

「はぁぁぁぁ!!!」

煉は黄金の炎を心臓部分に叩き込む。全力ではないものの、神凪宗家の名に恥じぬ、強大な炎がすべてを消し飛ばし、浄化する……はずだった。

「!?」

炎がすべてを浄化しきれない。煉は目を見開く。異変に気が付く。巨人の体が崩壊していく。
手や足がボロボロと崩れていく。それは体や頭部も同様だった。
しかしそれらは煉の浄化の炎や、ましてや綾乃の炎、紅羽の力により崩壊したのではなかった。

(これは!?)

紅羽は異変に気が付く。自身の力が押し返されている。煉が攻撃を叩きつける直前から、急に大地の精霊が自分の制御を離れだしたのだ。

「くっ!」

思わず声を上げ、紅羽は精霊への祈りを一時中断する。はぁはぁと息を荒くしながら、状況を確認する。

(これは大地の精霊に干渉している? そんなバカな。魔獣ならばともかく、あれには大地の精霊をどうこうする能力は無いはず……まさか!?)

考え、そして思い至る。
ある。大地の精霊に干渉できるモノが、否、者が。

(まさかあの子の力? あの子がやっているの? それともあの子の力を利用してるの?)

どっちにしろあの巨人がやっていることには変わりない。
これでは大地の精霊の効力が半減する。つまりは耐性が付いたと言う事ではないか。しかもこちらへの干渉能力まで備えた。

(石蕗、いいえ、地術師には最悪の相手ね)

これでは力を半減させることは難しい。
それにしてもなぜ体が崩壊した? 綾乃の一撃が思った以上に効果があったのか?
違う。あれは力を収束させ、凝縮させているのだ。
巨体では力が分散してしまうがゆえに。敵である煉や綾乃に対抗するために、巨体であることを捨てようとしているのだ。

ここで和麻が黄金の風を叩き込めば、勝負はついたかもしれない。
だが和麻は手を出さないと煉に約束した。お前がやれと。紅羽も同じだ。意地でもあれを自分達で何とかする。

「ウィル子! 和麻に言っといて。手を出さないでちょうだいと!」

だからこそ、紅羽は近くにいたウィル子に宣言する。

「むむむ、ウィル子としては承諾しかねませんが、まあいいでしょう。ここは紅羽達の顔を立てるとしましょう。マスターも……OKだそうです」
「ありがとう」

敵は見る見るうちに縮んでいく。五十メートルもあった巨体が、今では見る影もない。
一方、攻撃を防がれた煉はもう一度攻撃するかどうかを決めかねていた。
先ほどの攻撃は全力ではなかったものの、制御できる限界まで力を込めた。

目の前で力を凝縮させている敵。すぐに攻撃を叩き込まなければ、さらに強固になるのは目に見えている。
しかし中途半端な攻撃は無意味。未だに経験が不足している煉が迷うのも当然の帰結であろう。
綾乃も綾乃で攻撃し、少しでも相手の力を削るべきかと思案していたが、和麻がそれを止めた。

「なんで止めるのよ!?」

和麻に渡されたインカムで会話をする綾乃。和麻は風を使う手間も惜しんだようだ。

『少し待て。紅羽の攻撃を押し返したんだ。今中途半端に攻撃しても逆効果だ。もうちょっと様子見ろ』
「でもそれだと相手が強くなるかもしれないじゃない」
『そりゃ正論だな。じゃあ娘ごと仕留めるか?』
「だ、ダメに決まってるでしょ!」

和麻の言葉に綾乃は怒りを露わにしながら反論する。この男が手伝ってくれれば、事態はすぐにでも解決するはずだ。
少女を傷つけずに、魔性だけを滅ぼす。京都で美琴を助けたのを見ているだけに、それはおそらく可能だろう。

だが綾乃はのど元に出かけた言葉を飲み込む。
この男に頼るのは簡単だ。助けてくれるかどうかは別問題だが、煉が頼めばおそらくは助けてくれる……ような気はする。
しかしそれではだめなのだ。煉は和麻に頼らず、自分の全力を出しきり、少女を救おうとしている。紅羽も己の矜持にかけて、あれを倒そうとしている。
ならば自分はどうだ? 先ほどの決意は何だったのだ。

(和麻に頼らなくても、あんな奴あたし達だけで倒す。その女の子も助けて見せるわよ!)

自分自身を奮起させる。パンと自分の頬を叩く。

「和麻! あたしを煉の所まで運んで! あいつ小さくなってるんだったら、次は下で戦うわ」
『おー、やる気だねー。煉もついでに下に降ろす。まああいつが小さくなりきるまで待ってろ。煉も紅羽も、このままじゃ終わらないだろうからな。協力すりゃ、あいつくらいは何とかなるだろ』
「何とかなるんじゃなくて、何とかするのよ、あたし達が!」
『頼もしい限りだな。じゃあしっかり働いてこい』
「言われなくてもそうするわよ」

和麻の風に送られながら、煉とともに地上に降下する綾乃。
そんな様子を風で確認しながら、和麻はさてどうしたものかと考える。

『マスター。よかったのですか、これで?』

ウィル子の声がパソコンから聞こえてくる。

「良いも悪いも、煉を含め何とかするって言ってるんだ。俺はそれを見てるだけだ。言っただろ、今回は何もしないって」

黄金色の風も用意しているが、使う必要がない限り使わない。

『また面倒事になるかもしれませんよ?』
「もう既になってるだろ。魔獣が消滅したのに、あんなのが出てきたんだ。これ以上悪くなるのは……その生贄の娘が死ぬくらいだろ」

非常に言い放つ和麻。和麻自身、詳しくその少女を見たわけではないが、長くは持たないと聞いたし、あの巨人に力を使われている可能性がある。
大出力の力の放出に、その少女の肉体が耐えられるとは思えない。

『……助け出した途端、死ぬかもしれないってことですか?』
「そうだな。煉には悪いが、その可能性が高いな」
『救われませんね』
「……そうだな。ただあいつを倒さなきゃどのみち変わらねえよ。生きるにしても、死ぬにしても。俺達は最後まで見届けてやるだけだ。結末がどうなろうがな」

和麻の言葉にウィル子は無言だった。対して和麻はどこか苦笑している。

「煉、頑張れよ。最後まできっちり見届けてやるから」

和麻の呟きが、静かに木霊した。





「煉、大丈夫?」
「はい、姉様は?」
「あたしは問題なし。それよりもあれ…」
「ええ」

地面に降り、合流した綾乃と煉の視線の先には先ほどまで五十メートルはあったはずの巨人の成れの果てがいた。
いや、成れの果てと言うような落ちぶれた姿ではない。サイズダウンしたが、逆にその力を増した岩人形(ロックゴーレム)が静かに佇んでいた。

大きさは三メートルほど。姿かたちは大きさ以外にさしたる変化はない。
だがサイズダウンしたことで、力を凝縮しその密度を大幅に上げたことで、強度もかなり上がったと見える。
おそらく先ほどのようなミサイルでは、傷一つつかないだろう。
煉や綾乃の炎でも一体どれだけのダメージを与えられるのだろうか。

「姉様、援護お願いします。僕が前に出ます」
「何バカなこと言ってんの。あたしが前に出るわよ。元々あたしは接近戦が得意でメインなんだから。煉はあの子を助けるために、浄化の炎の準備でもしてなさい」

煉が魔性だけを燃やせる高等技術を習得したと聞いた時、嫉妬の感情がわき出ないわけでもなかったが、煉もこの半年間努力してきたのは知っている。
母親の死を乗り越え、強くなることに自分以上に必死だったのだ。それを知っているだけに、嫉妬心よりもまた自分の努力不足を嘆いてしまった。

(少しは姉として良い所を見せないとね)

と言う感情があったのは言うまでもない。

「盛り上がってるわね」
「紅羽さん!」

紅羽も二人に合流するため近づいてきた。ちなみにその後ろには朧とウィル子もいる。

「ずいぶん小さくなったわね」
「でも力は増してるわ。増していると言うか凝縮されたからなのか、力が強くなったように感じるだけかしら?」

紅羽の感想に綾乃が答える。言われなくてもそんなことは分かっている。

「厄介ね。正直、全員でかかっても確実に勝てるとは言い切れないわ」

魔獣の力を有していた時の紅羽であっても、十中八九勝てないだろう。綾乃や煉を加えても同じ。なおかつ今回はあゆみの救出も含まれているのだから。

「さっきの相手の力を抑え込むのって、もう無理そうなの?」
「できなくはないだろうけど、あの子の力を使われたんじゃ半減してしまうでしょう。宝貝を使って、氣を取り込めないようにはするわ」

できる事からしていく。勝機を見出すために。紅羽は考える。手持ちのカードだけでどうやって勝つかを。
ジョーカーは存在する。和麻と朧。老師より聞いた朧の実力ならば、この状況でも何とかなるだろう。
しかし和麻と同じで、必要以上の事をしないだろう。それは態度を見てもわかる。
和麻は先ほどこちらから拒絶したので論外。
ならば……。

(もう一度大地の精霊の力を借りる。根競べ、と行きましょうか)

と、各々がもう一度覚悟を決めていると、先に岩人形が動いた。両手を前に突出し、煉や紅羽、綾乃に狙いをつける。
岩が音を立てて変化していく。それはまるで蛇のように。腕から無数の蛇が生える。

「来るわよ!」

直後、蛇が蠢いた。ギュンと岩とは思えない速さで伸びて朧やウィル子を含めた五人を強襲した。

「はぁぁっ!」

炎を使い、蛇を焼き尽くそうとする煉と、迫りくるすべてを破邪の剣で切り裂く綾乃。
紅羽達は追撃手段がないので、回避に専念する。
流石に力を凝縮したからか、先ほどより簡単にはいかないが、それでも二人は全力の神凪の浄化の炎で十分に蛇を無力化することができた。

「前に出るから、援護して!」

綾乃は手近な蛇をすべて切り裂き、燃やすと即座に岩人形へと肉薄する。同時に煉も同じように反対側から接近する。
岩人形は両サイドからくる二人に向かい、それぞれの手から再び岩の蛇を伸ばしていく。
先ほどと変わらぬ行動。このまま肉薄できる。煉と綾乃がそう考えていた。
しかしそれは叶わない。
地面が微かに揺れる。それを感知したのは紅羽だった。

「下からくるわよ!」
「「!!??」」

直後、地面から同じような岩の蛇が出現した。とっさに二人は炎でそれらを焼き尽くそうとする。

「危ない!」

意識が下に向いた瞬間、いきなり岩人形が動き出した。鈍重な見かけとは裏腹に軽快な動きを見せた。その剛腕が煉に向かい振り下ろされる。

「煉!」

とっさに炎の結界を前面に展開する。しかし岩人形の腕はそれさえも突破した。

「っく!」

後ろに跳び、両手を前にだし、炎を収束させて受け止めようとする。若干の威力は落とすことができたが、煉はそのまま後方へと吹き飛ばされる。

「がっ!」

飛ばされた先で、木に激しく打ち付けられる。

「煉!」

綾乃の叫びが耳に届く。もし和麻がこの場にいれば、煉がダメージを負う前に岩人形の腕を風で両断していただろう。ほかにもさまざまなフォローをしていただろうが、流石に彼らのいる位置が離れすぎていた。
さらに今回は手を出さないと約束していた為、よほどのことがない限り手を出さないでいるつもりだった。そのため、煉は攻撃を受けることになった。

オォォォォォォォッッッッ!

岩人形の咆哮。煉を倒した気でいるのだろうか。
だが煉の耳にはあまりそれは届かないでいた。
逆にドクン、ドクンと煉は自らの心臓の音がやけにはっきりと聞こえた。背中を激しく襲う痛みもあまり感じない。
意識を手放しそうになっているからだろうか。
とても静かだった。目も霞み、腕と足に力が入らない。
だが不意に、彼の耳に声が聞こえた。


―――――れ、ん――――


(っ! あゆみ、ちゃん…!)

今、はっきりと聞こえた。幻聴かと思った。だが煉にはそれが幻聴に思えなかった。
呼んでる。彼女が、あゆみちゃんが!

意識が急速に覚醒する。視界がクリアになる。
目の前には岩人形とそれと戦う綾乃の姿。彼女はたった一人で、岩人形を抑え込んでいる。
行かなくちゃ。
煉は痛みを無視し、立ち上がる。
行かなくちゃいけない。
もう一度、拳に力を込める。己を奮い立たせうるために。
想いを口にする。それを実現させるために。

「……あゆみちゃんを……返せっ!」





煉から放たれる強大な炎の精霊の気配。綾乃ですら、息をのむほどの数だ。
重悟や厳馬にはまだ遠く及ばないだろうが、綾乃を凌駕する数の精霊を召喚し、従え、制御している。

ゴォッ!

炎がまるで質量を持ったかのように錯覚させられるほどの密度。黄金の炎が周囲を照らしだす。
弱い魔性の存在など、その光に照らされただけで消滅してしまうだろう。

炎を従え。煉は一気に駆けた。目標は岩人形の体。右手に炎を収束する。岩人形も追撃のために。
岩人形は全力を右手に込める。自らの力を。それは大地の精霊の力さえ借りていた。取り込んだあゆみを利用していたのだ。
地脈操作をしていても、大地と接している限り地の精霊の力を行使することができる。
だが……。

「!?」

個我や自我を持たない岩人形がまるで困惑しているかのようだった。それもそのはず。大地の精霊が岩人形の制御から離れている。
さらに光の波紋が地面から伝わり、その身を拘束している。

「この私を、石蕗紅羽を、舐めるなぁっ!」

見れば大地に膝を付き、祈りをささげる紅羽の姿。だがその頬はコケて、黒髪が白く変色していく。
己のすべてを賭け、命さえも燃やし、岩人形の力を削げ落としていたのだ。
あゆみの持つ力も、すべてを犠牲にしてでもと言う強き意思には敵わなかった。
それは紅羽のもう一つの意地でもあった。

彼女は妹である真由美のクローン。その力は妹と同じか、調整されているのであればそれ以上かもしれない。
ただ妹に負けたくない。本当なら自分の方が、地術師としても上と言う事を証明したいがための自己満足だったのかもしれない。
その意地が、そして意思が、この岩人形の力を削いでいた。
煉は岩人形との距離をさらに縮める。それでも何とか煉を迎撃しようと右手を振り上げる。

「させるかぁっ!」

綾乃の一撃が再びその右腕を切り裂き、焼き尽くす。破邪の剣に宿る炎がほんの少しだけ紅に染まっていたに気が付いたのは、ウィル子と朧、そして遠く離れた場所からこの光景を見ていた和麻だけだった。

「行きなさい!」
「行け、煉!」
「頑張れ、煉」
「行くのですよ、煉!」

四人の声援を受け、岩人形との距離をゼロにした煉がその右手を岩人形の体に突きつける。
黄金の炎が岩人形を包み込んだ。





闇の中。囚われのあゆみは何もできずにいた。否、なにかをする気もなかった。
ただ朽ち果てるまでこの空間で膝を抱えるだけ……。そう思っていた。
なのに…。

―――……ん―――――

音が響く。耳に届く音。それが声だと気付くのには、もう少し時間がかかった。

―――……ちゃん――――

声がどんどん大きくなる。どこかで聞いたことがあるような気がする。でももうどうでもいい。

―――みちゃん――――

誰? あなたは誰?

―――あゆみちゃん!――――

不意に見上げる。頭上にはどこまでも続く深い闇があるはずだった。

「光……?」

見上げた先にあったのは闇ではない。黄金色に輝く光。その中に人影が浮かぶ。

―――あゆみちゃん!!―――

「…れ、ん?」

人影はどんどん大きくなる。人影の正体が神凪煉だと気が付く。
しかし彼の発する言葉の意味が理解できなかった。
あゆみとは誰なのか。どういう意味なのか。

「あゆみって……」

――――君の事だよ。君の名前。あゆみ。それが君の名前。君だけの名前だよ――――

煉が言う。
名前、私の、名前……。
でも私には何もない。過去も、未来も。すべて作り物。死ぬためだけに生み出された誰かの代わり……。

―――違う! 君は君だ! 少なくても僕にとって君は誰かの代わりなんかじゃない―――

叫びながら、彼は右手を伸ばす。

―――行こう! 君はここにいちゃだめだ!―――

ここから出ても行くところなんてない。違う。死ぬだけ。生贄になって……。

―――もう死ぬ必要なんかないんだ! 魔獣はもういない! 君が、あゆみちゃんが死ぬ必要なんて、どこにもないんだ!―――

えっ? と少女、あゆみは疑問詞を浮かべた。

―――僕の父様たちが魔獣を倒したんだ。もうこれから誰も生贄になる必要なんてないんだ。だから僕と生きよう!――――

それでも私はあとひと月も生きられない。そんな私が……。

―――たとえひと月でも、僕は君に生きていて欲しい。たとえそれが僕の我儘でも―――

涙が流れた。煉があゆみに手を近づける。

―――行こう、あゆみちゃん!――――

うん、うん! あゆみは煉の手を取る。

―――ようやく言えた。君の名前。君が無事でよかった―――

ありがとう、煉。私もうれしい。あと少しでも、私は煉と一緒に生きる。
黄金の光が二人を包み込んだ。





「あゆみちゃん!」

炎により燃やし尽くされる岩人形の中から、煉はあゆみを引きずり出す。

「煉!」

彼の言葉に応えるように、彼女も名前を呼ぶ。あまりの勢いに、思わず岩人形の上から落ちそうになる。
しかしそこは和麻の風がしっかりとフォローした。彼ら二人を優しく受け止め、岩人形からそれなりに離れた距離へと移動させた。

「煉、煉……」

煉の胸の中で泣きじゃくるあゆみを煉はそっと抱きしめる。

「よかった。本当に君が無事でよかった」

緊張の糸が途切れたのか、先ほどまでの張りつめた空気はなくなっている。付け加えると、今の煉はその力のほとんどを使い果たし、もう余力など一切ない状態でもあった。
ふと黄金の炎に包まれる岩人形を見る。まだ燃え尽きていない。あれだけのエネルギーを受けてなお、原型がとどまっているのは大したものだ。煉が未熟なのではない。敵が強いのだ。
しかしそれに決着をつけようとする人間がいた。

「最後くらいは、私の手で決着をつけさせてもらうわよ」

髪の毛の色素をほとんど失い、体の生気を喪失しながらも、気力で動く紅羽。その手には綾乃から借りたのか、破邪の剣が握られている。

「これで…終わりよ!」

最後の力を振り絞り、破邪の剣を岩人形に突き立てる。剣より放たれる氣が最後まで残っていた岩人形の核であるラーンの心臓を破壊させる。
ボロボロと崩れていく岩人形。黄金の炎に包まれながら、最後を迎える。

ここに戦いは終わった。
様々な思惑が絡まった富士の魔獣との戦いの終焉。
しかしまだ終わりではなかった。

何故なら……。

「あゆみちゃん? あゆみちゃん!?」

煉の悲痛な叫びが木霊する。全員が見れば、あゆみの体が、その末端からまるで砂のように、塵のように崩れ始めていた。
このペースなら、あと数分の命だろう。
それが意味することは、あゆみの死。消滅。
非情な現実が煉に襲い掛かった……。


あとがき
あと一話か二話で第三巻を終了させようと思います。
次は短編か第四巻の内容か。
どちらにしようか悩んでいます。どうしましょうかね



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