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No.21728の一覧
[0] 親友にだって言わない秘密[MOGER](2011/03/24 20:56)
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[21728] 親友にだって言わない秘密
Name: MOGER◆d9ed727c ID:374a425a
Date: 2011/03/24 20:56


【親友にだって言わない秘密】


「バレンタイン?」
 八神家のリビングで、それは何? という風に首を傾げたのは、フェイト・T・ハラオウンである。
 その言葉を受けて、意外そうな声を返したのは、家主でもある八神はやてだ。
「あれ、知らんの?」
 二月も半ばというこの時期だ。なんとなくつけていたテレビから流れてきたCMを見て、はやてとしては至極当然に「今年はちゃんとバレンタインの準備をせんとなあ」と呟いただけなのだが。
「あ、そっか。フェイトちゃん、2月にこっちにいるのは初めてだっけ。ミッドチルダにはないのかな、バレンタインデー」
 はやてとは違い、思い至らなかったという感じの反応を示したのは、高町なのはだ。ミッドチルダ、という単語で、はやてもようやく理解した。
「ああ、そうか。知らんわけやわ。バレンタインいうんは元々聖人の名前やし、チョコを贈るっちゅう習慣に至っては日本独自のもんやからな」
「そうだったんだ、知らなかった」
「チョコレート? 誰に贈るの?」
 バンアレン帯の誕生日やないで、などと嘯くはやてに、ほんの数ヶ月前にできた友人達は、それぞれ異なる反応を返してくる。
 本を読む時間だけは唸るほどあったので、はやては年齢の割に雑学に詳しい。残念なことにというか当たり前にというか、雑学の大部分は、実生活で全く役に立たないことばかりだが。
 さらに首を傾げていたフェイトに、なのはがフォローを入れる。
「2月14日にね、お世話になった男の人に、感謝の気持ちを込めてチョコレートを贈るの。私はユーノくんと、お父さんと、お兄ちゃんかな」
「へえ、そうなんだ」
 なのはの説明にうなずきを返したフェイトは、自分なら誰に贈れば良いのかなと考えた。お世話になった男性ということで真っ先に思い浮かぶのは、やはり義兄であるクロノ・ハラオウンだろう。
 今ではPT事件と呼ばれている、ロストロギア・ジュエルシードを巡る一連の騒動。その実行犯であったフェイトの減刑のために尽力してくれたことに加えて、魔導師ランク認定試験や、執務官補佐となるための試験勉強の教官役も買って出てくれている。そして、母を失ったフェイトの新しい家族となってくれた人。義母であるリンディともども、フェイトは世話になりっぱなしである。
「あー、こらこら、なのはちゃん。それは義理チョコの説明や。ちゃんと本命チョコの説明もせなあかんで」
「本命?」
 フェイトが聞き返すと、はやては重々しくうなずいた。
「そうや。お世話になった人だけやなくて、好きな男の人にも贈ることがあるんやで。ちゅうか、私らくらいの年やったらそっちが主目的やな。そう、例えば……なのはちゃんがユーノくんに贈るチョコとかな?」
 にいっ、と口の端を持ち上げて笑うはやてに向かって、なのはが手と首をぶんぶん振り回して否定する。
「そ、そんなんじゃないよっ。ユーノくんはお友達だもん!」
「お? そやったんか。ほんなら私、ザフィーラだけやなくてユーノくんにもチョコ贈ろうかな」
「駄目ー! それは駄目、なの!」
 語るに落ちる、と言えばいいのだろうか。はやてはいっそう笑みを深くして「ほほう、駄目なんか。義理のつもりやってんけど、んー、なんで駄目なんやろなー」などと言って、なのはをからかっている。
 こういった他愛のないやり取りは、この数ヶ月ですっかりおなじみの光景となっていた。日によっては、ここにアリサ・バニングスや月村すずかが加わることもあったし、今日は本局へと出向いているヴォルケンリッターの面々が加わることもある。
 特にすずかやアリサが参加する場合、ここ最近でようやく自覚というものが出てきたらしいなのはの恋愛話は、話題に上がることが多い。
 たいていの場合は、今のようにはやてにからかわれるか、アリサあたりがとっとと連れて来てその男の顔を拝ませなさいと命じるか、というワンパターンだ。なのはもいい加減に懲りればいいものだが、すずかに「最近ユーノさんとはどうなの?」なんて聞かれると笑顔で話し出す(というか、のろけだす)ものだから、話題には事欠かない。明確にお付き合いしているというわけでもないのに、おあつい話である。
 好きな人、か。
 フェイトは心の中でひとりごちる。
 迂闊にも、世話になっている男の人として義兄の姿を思い浮かべている時にそんなことを考えてしまったせいで、頭の中のクロノの映像は据え置きのまま、その隣に好きな人、という言葉が踊る。
「……っ!」
 慌てて、フェイトは首を振った。
「あれ、フェイトちゃんどうしたの?」
 じゃれ合っていた二人が、フェイトの様子に不思議そうな表情をする。
「顔、赤いで。暖房の温度、少し下げようか?」
「ううん、なんでもない」
 フェイトはこっそりと呼吸を落ち着けて、笑顔を作った。
「暖房は丁度いいんだけど、なのはの話を聞いてたら、少し暑くなっちゃっただけだよ」
「フェイトちゃんっ?」
 裏切られた、とでも言うように、なのはが驚いた表情をする。それを見たはやてが声を上げて笑い出した。
「あははははは、思わぬ伏兵がおったなあ」
 ひとしきり笑いあった後、ふと時計を見ると、六時を少し回ったところだった。
 PT事件や闇の書事件のときには、夜中まで飛びまわっていたフェイトとなのはである。そこまで遅い時間、というわけではないが、冬場であるため外はすでに真っ暗だ。
「……遅いね」
 なのはがぽつりと呟く。
「まあ、今日は遅なると思うから夕飯は待ってなくてええ、てシグナムも言うとったしなあ。先に寝とれとは言わんかったから、あと3、4時間もしたら帰ってくるやろ」
 彼らの帰りを三人の中で最も待ちわびているだろうはやてが、苦笑気味に言う。
 確かに、そのとおりだった。元々、シグナム達から「留守の間、主を頼む」と言われていたから、なのは自身、両親には友達の家で夕飯を食べてから帰る、と伝えてある。もちろん、独りでいることに対する忌避感が人一倍強いなのはのことだ、頼まれなくても勝手に押しかけたに違いなかったが。
「よっ」
 掛け声とともに、はやてが松葉杖を使って器用に立ち上がった。そのままキッチン横の入り口に止めてあった車椅子に腰をおろす。
 闇の書事件以後、下半身の麻痺の原因が取り除かれたため、リハビリは順調に進んでいる。今では、松葉杖を使って歩くこともできるようになった。けれど、流石に松葉杖をつきながら料理はできないので、このときばかりは長年の相棒であった車椅子の出番となる。
 順調に行けばあと半年ほどで、日常生活に支障なく歩けるようになるらしい。足が治りさえすれば、はやても本格的にシグナム達と管理局で働く予定である。魔導師としての登録はすでに済ませたものの、今はまだ実働部隊として呼び出されることはない。
 石田先生の話では、これは驚異的な速さの回復なのだそうだ。シャマルのフィジカルヒールで魔法的にもサポートしてもらっていることは、秘密だ。
「はやて、手伝おうか?」
 フェイトがソファから腰を浮かせながら言う。
「ええよ、ええよ。座ってて。今日は腕をふるいたい気分やから」
「ん、分かった」
 答え、ぽすりとソファーに座りなおす。フェイトの隣でも、同じ気配。どうやら、なのはも手伝おうと立ち上がりかけていたらしい。顔を見合わせて、笑う。
「断られちゃったね」
「そうだね、なのは」
 なのはもフェイトも、料理ができないというわけではない。フェイトはリニスとの訓練中、ひととおりの手ほどきを受けている。なのはに至っては、喫茶店である実家の手伝いをする身だ。
 それでも、料理の腕でははやてにかなわない。一体どんな料理が出てくるものか、今から楽しみな二人であった。

「ただいま」
 フェイトがマンションに帰って来たのは、九時少し過ぎ、と言ったところだ。小学生が夜道を歩くには少々遅い時間と言える。
「おかえりー、フェイトちゃん」
「エイミィさん」
 リビングで出迎えてくれたのは、義兄でも義母でもなく、しかしフェイトにっとては義姉ともいえる女性だった。
「駄目だよー、女の子がこんな時間まで一人で出歩いてちゃー」
 エイミィとて、フェイトがそこらの暴漢に襲われたところで返り討ちに出来るということは分かっているだろう。徒手空拳で魔法なし、という制限をかけたとしても、戦闘力だけで見るならば、エイミィの方がフェイトよりもよほどか弱いのだ。
 それでもこうして注意してくるのは、フェイトのことを管理局の嘱託魔導師ではなく、一人の女の子として見てくれているからだろう。そういう扱いが、フェイトにはどこかくすぐったく、温かい。
「あ、はい。はやてちゃんのお家に行っていたんですけど、帰りは恭也さんが送ってくれました」
 だからフェイトも、普通の小学生らしい答えを返す。
「恭也さん、って言うと、なのはちゃんのお兄さんか。あの顔でその気配りの細やかさ、相当もてる人と見た」
 腕を組んで、うんうんとエイミィはうなずいた。
「うちのクロノくんとは大違いだねえ」
 けらけらと笑うエイミィに、フェイトは複雑な笑みを返した。「うちの」と言ったのは、同じ次元航行艦に勤務しているから、というだけでもないだろう。もう一つ、笑みが複雑になった理由は、エイミィの後ろから歩いてくるクロノの姿に気づいたからだ。
「こら、誰と大違いだって?」
 背後から忍び寄っていたクロノは、ぽふん、とエイミィの頭に手をのせた。うひゃあ、とエイミィが変な声を上げる。
 クロノは身長が高くないことを気にしているのか、エイミィが椅子に座っていると、今のように頭を構いたがる。
 エイミィとクロノ、クロノとフェイトでは、エイミィとクロノの方が年が近い。けれど、三人で並んで立ってみれば十人中十人が、クロノとフェイトの方が年が近いと勘違いするだろう。
 エイミィもまたクロノの頭を構いたがるが、こちらはコンプレックスではなく単純に趣味と言える。フェイトはいつだったか、エイミィが世間話をしながらクロノの寝癖を直して上げているのを見たことがある。
 クロノはエイミィの頭をわしゃわしゃとかき回しながら、フェイトに視線を向けた。
「おかえり、フェイト」
「ただいま、クロノ」
 にこりと微笑み合う義兄妹の視線の下で、エイミィだけが「やめてー、セットが崩れちゃうー」と不幸そうな声を上げていた。
 思う存分エイミィの頭をいじって満足したのか、クロノはソファを回り込んで、エイミィの隣に座った。フェイトもクロノの正面のソファに腰を下ろす。
 そこで始めて気づいたが、クロノの髪は少し濡れていて、肩にはタオルがかかっていた。どうやらお風呂上りのようである。
 この一事を見ても、ハラオウン家においてエイミィが完全に身内として扱われているのがわかる。普通、お客さんをリビングに放置してお風呂に入ったりはしない。
 おそらく、勤務を終えた二人はそのままこのマンションに戻ってきて、汗をかいていたクロノが「気持ち悪いからシャワーをあびてくる」などと言い、エイミィは自然体で「はいはい、いってらっしゃーい。あ、お茶請け勝手に漁るねー」なんて返していたのだろう。
その光景は、あえて想像するまでもなく、ごく普通にフェイトの頭に浮かんだ。
「そういえば、アルフはどうしたんだ? 家にいないみたいだけど」
 思い出した、という風にクロノが聞いてくる。
「私が今日は遅くなる、って伝えたら、アリサの家に遊びに行くって言ってた」
 アルフはPT事件で怪我をした折、一時的にバニングス邸の世話になっていたらしく、今でも暇を見つけては大犬モードで遊びに行く。アリサはアルフがフェイトの使い魔であることを知っているので、野良だと間違われてしまう心配もない。
 客観的に見ればよその飼い犬の癖にエサをたかりに来るふてぶてしい犬ということになるだろうが、バニングス邸の執事やメイドには、恩義を解する犬だとして、なかなかかわいがられているらしい。そこら辺、お金持ちの家の感覚はどこかずれている。
「リンディ義母さんは、今日も残業?」
 まだ帰ってきていない、もう一人の家族について、フェイトはたずねる。
「ああ、出来るだけ早く内勤に移りたいからって、残務処理や引継ぎを急いでるらしい」
「リンディ提督の書類処理速度はすごいよー。たぶんあれだね、糖分に秘密があるんだよ。脳を働かせるにはやっぱりブドウ糖がさー」
「ほう、つまりアースラで母さんに次ぐ書類処理速度を誇るエイミィが間食するのも仕方ない、ということか」
 言いながら、クロノはぺしりとエイミィの手をはたく。ぽとりと、バームクーヘンが小皿の上に落ちた。
「食べすぎだ。さっき艦内食堂で夕飯を食べたばかりだろう」
「うう、クロノくんの意地悪。もう一個、もう一個だけ、ね?」
 うるうると目に涙をためて、エイミィは上目遣いでクロノを見る。大抵の男性なら思わずうなずいてしまいそうなその攻撃に、クロノは冷ややかな視線を返す。
「ダイエットするんじゃなかったのか?」
 そんな二人のやり取りに、フェイトはくすくすと笑ってしまう。
「ほらー、クロノお兄ちゃん笑われてるよ?」
「笑われてるのはエイミィだ」
 クロノは憮然とした表情をして座りなおす。その隙をついて、エイミィはぱっとバームクーヘンを取り、一口で頬張ってしまった。
「もごごもご」
「隙あり、って言われてもな。後悔するのはエイミィだぞ?」
「クロノ、よく何て言ったかわかるね」
「まあ付き合い長いからな」
 その半ば諦めた、という感じのクロノの物言いに、フェイトは苦笑を浮かべる。
「まったく、母さんも何をしているんだか。フェイトと一緒にいる時間を増やしたいから内勤に移る、とか言っておいて、それで残業しているんじゃあ本末転倒だろうに」
「あはは、確かにね。今日だって私が来てなかったら、野獣なクロノくんとフェイトちゃんの二人っきりにしちゃうところだったし」
「ばっ、何を言ってる!」
 エイミィの不穏な発言に、クロノは焦ったように声を荒げる。
「おー? そんな反応しちゃうと余計あやしいぞー?」
 にんまりとした笑みを作るエイミィ。ぐうっ、と言葉に詰まるクロノ。
「フェイトはまだ初等教育課程だぞ。冗談にしても性質が悪い」
「またそんな迂闊な発言してー。あと5年も経ってみなさい。道行く人がみーんな振り返る美人さんになるから。今だって、同級生の視線を釘付けに……はしてないか」
 フェイトちゃんの周りレベル高いから、視線も五等分だろうしね、とエイミィは笑う。
  ああ言えばこう言う、と今にも歯軋りをしそうなクロノに、フェイトは助け舟を出すことにした。
「エイミィさん。クロノはそんなことしないですよ」
 からかいすぎです、という言葉をフェイトは視線に込める。
 エイミィは聡い人だ。言外にしたものまで汲み取って、笑う。
「フェイトちゃん、信頼してるんだなあ。クロノくん、責任重大よ」
 もちろん、汲み取った上で尚、こういう事を言うのが、エイミィという人だった。
 もう少し積極的に話を逸らさなければいけないらしいと、フェイトは話題を探す。
「そういえば、はやての家で聞いてきたんですけど、エイミィさんはバレンタインデーって知ってますか?」
「バレンタイン?」
「知らないな」
 二人とも食いついた。フェイトは笑みを深くする。
 クロノもエイミィも、基本的に航行艦での勤務のため、フェイト以上に日本の世事に疎い。だから、きっと二人とも知らないだろうと踏んだのである。
「第97管理外世界の年中行事で、2月14日にチョコレートを贈るんだそうですよ」
「チョコ、か」
 チョコと聞いて、クロノが顔をしかめる。リンディが超のつく甘党だからか、クロノは甘味をあまり得意としていない。食べられないことはないそうだが、リンディの食べっぷりや飲みっぷりが思い出されて、食べる前から胸やけがするらしい。
「誰に贈るの? クリスマスは、サンタクロースが子供にプレゼントするんだったよね。また子供向け?」
「女の人から男の人に贈るんだそうです。お世話になりました、って気持ちを込めて。義理チョコって言うらしいですよ。私も、クロノに上げるね。……あまり甘くないのを選ぶから」
 フェイトがそう言うと、クロノは素直に笑った。
「ああ、ありがとう。嬉しいよ」
「へえ、お義理であげるチョコか。私だったらそうだなあ、やっぱり職場の人かな。ロッサくんと、アランくんと……」
 指を折って名前を挙げ始めるエイミィ。
 何人かフェイトも聞いたことのある名前が出てきたので、これはおそらくアースラの搭乗員だろう。仕官学校時代の友人なんかも入っているかもしれない。
 さっきはフェイトに笑いかけたクロノだが、今は腕を組んで仏頂面のままソファに座っている。
 エイミィが一人名前を挙げるたび、クロノの不機嫌度まで上がっていくようだった。ついには貧乏ゆすりまで始めた管理局の若きエースは、不意に立ち上がると「寝る」と言い捨てて、自室の方へと歩いていった。
 いくら激務に身を置いている執務官とは言え、まだ眠るには早すぎる時間だ。
「あーあ、怒っちゃった」
 その背中を見送って、エイミィはさほど残念でも無さそうに笑う。その笑みで、フェイトは気づいた。
「エイミィさん、バレンタインのこと、知っていましたね」
「ありゃ、ばれた」
 ぺろりと舌を出すエイミィ。
「私がクロノくんに渡すなら、お義理じゃなくて本命チョコに決まってるじゃないねえ」
 ふふふ、と楽しそうに笑うその表情は、先ほどまでクロノをからかっていたときに浮かべていた笑みとは種類が違う。
 クロノもエイミィも、本当に分かりやすい人たちだ、とフェイトは思う。だから、フェイトくらいは少しばかり複雑でも許されるだろう、とも。
「だってさ、本命だったらお礼は三倍返しがルールらしいじゃない。三倍だよ、三倍。そんなおいしい話、このエイミィさんが見逃すはず、ないでしょ?」
 確かに、夕飯を食べているとき、はやてもそのようなことを言ってはいた。それにしてもだ……。
 目を丸くしてエイミィを見つめると、先ほどまでクロノをからかっていた時と同じ種類の笑いが、フェイトを見返してきた。
 どきりと心臓が跳ねる。焦ると余計に怪しいという、エイミィの言葉がよみがえった。
 焦ってはだめだ、笑え。
 フェイトは自分にそう言い聞かせ、口角を上げて笑みを作る。
 自分自身でも目を逸らし続けているその気持ちを表に出すつもりなど、フェイトにはこれっぽっちも無かった。
「そうなんですか? それじゃあ、私も本命っていうことにしようかな」
「おおー、言うねえ。よーし、それじゃあ私とフェイトちゃんで、クロノのお財布に大打撃を与えちゃおっか」
 ゆっくりと首を振って、フェイトは言葉を続ける。
「冗談ですよ。そっちはエイミィさんにおまかせします。私は……なのは達に友チョコを上げる、予定ですから」
 そこまでお財布に余裕はありません、とフェイトはもう一度意識して笑った。
 エイミィが本当の義姉になる日が、一日でも早く来てくれればいいのにと、笑いながら思った。

   <了>




※某スレにて批評依頼中。


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