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No.2186の一覧
[0] Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)【完結】[寛喜堂 秀介](2021/08/11 20:34)
[1] Re[2]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:03)
[2] Re[3]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:05)
[3] Re[4]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2009/10/14 20:00)
[4] Re[5]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:08)
[5] Re[6]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:10)
[6] Re[7]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:28)
[7] Re[8]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:33)
[8] Re[9]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 00:23)
[9] Re[10]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 21:55)
[10] Re[11]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:29)
[11] Re[12]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:37)
[12] Re[13]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/07 08:08)
[13] Re[14]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 21:34)
[14] Re[15]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 20:32)
[15] Re[16]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/10 21:14)
[16] Re[17]:Greed Island Cross 外伝 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/16 00:34)
[17] Greed Island Cross 外伝2 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/01 18:50)
[18] Greed Island Cross 外伝3 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/17 22:31)
[19] Greed Island Cross 外伝4 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/20 20:54)
[20] Greed Island Cross-Another Word 01[寛喜堂 秀介](2008/03/24 23:03)
[21] Greed Island Cross-Another Word 02[寛喜堂 秀介](2008/03/27 00:11)
[22] Greed Island Cross-Another Word 03[寛喜堂 秀介](2008/03/30 20:44)
[23] Greed Island Cross-Another Word 04[寛喜堂 秀介](2008/04/02 19:06)
[24] Greed Island Cross-Another Word 05[寛喜堂 秀介](2008/04/11 22:26)
[25] Greed Island Cross-Another Word 06[寛喜堂 秀介](2008/04/18 01:47)
[26] Greed Island Cross-Another Word 07[寛喜堂 秀介](2008/04/19 22:17)
[27] Greed Island Cross-Another Word 08[寛喜堂 秀介](2008/04/23 21:35)
[28] Greed Island Cross-Another Word 09[寛喜堂 秀介](2008/04/26 23:46)
[29] Greed Island Cross-Another Word 10[寛喜堂 秀介](2008/04/29 20:47)
[30] Greed Island Cross-Another Word 11[寛喜堂 秀介](2008/05/19 01:11)
[31] Greed Island Cross-Another Word 12[寛喜堂 秀介](2008/05/29 17:37)
[32] Greed Island Cross-Another Word 13[寛喜堂 秀介](2008/06/01 22:07)
[33] Greed Island Cross-Another Word 14[寛喜堂 秀介](2008/06/05 01:35)
[34] Greed Island Cross-Another Word 15[寛喜堂 秀介](2008/06/08 22:46)
[35] Greed Island Cross-Another Word 16[寛喜堂 秀介](2008/06/16 01:12)
[36] Greed Island Cross-Another Word 17[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:13)
[37] Greed Island Cross-Another Word 18[寛喜堂 秀介](2008/07/26 23:45)
[38] Greed Island Cross-Another Word 19[寛喜堂 秀介](2008/07/27 23:41)
[39] Greed Island Cross-Another Word 20[寛喜堂 秀介](2008/07/29 22:13)
[40] Greed Island Cross-Another Word 21[寛喜堂 秀介](2008/07/31 23:43)
[41] Greed Island Cross-Another Word 22[寛喜堂 秀介](2008/08/02 21:26)
[42] Greed Island Cross-Another Word 23[寛喜堂 秀介](2008/08/04 23:09)
[43] Greed Island Cross-Another Word 24[寛喜堂 秀介](2008/08/07 00:02)
[44] Greed Island Cross-Another Word 25[寛喜堂 秀介](2008/08/10 00:28)
[45] Greed Island Cross-Another Word 26[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:15)
[46] Greed Island Cross-Another Word 27[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:57)
[47] Greed Island Cross-Another Word 28(完)[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:51)
[48] Greed Island Cross 外伝5[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:42)
[49] 登場人物(ネタバレあり)[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:55)
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[2186] Re[14]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)
Name: 寛喜堂 秀介◆4667f81e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/10/08 21:34







 街中を走っていると、突如、轟音が響き渡った。



「くっ! なんだ!?」



 あわてて足を止め、高所に登って轟音の発生源を探る。

 探すまでも無かった。見れば、河を挟んで向こう側にある工場地帯が燃えている。

 夜の闇を朱に染める炎は、天を焦がす。

 向こうに敵がいる。直感的に判断し、そちらに向かった。



「おおおおおっ!」



「くそったれええ!!」



 目の前に展開されている光景に、俺は固まった。

 工場地帯の片隅、開けた空間は、朱に染まっている。

 ブラボーと、炎を使う同胞狩り。二人はそこで、拳を合わせていた。

 殺したはずの男が生きていた事実より、その異常なる戦闘を目の当たりにして、俺の体は凍りついたように動かなくなった。



「燃え上がれ! “燃えさかる魂バーニングブラッド ”おおおぉっ!!」



 男の全身から、炎が放射される。その熱量が、離れていたところで見る俺の頬すら焼く。

 このような開けた場所でなければ延焼確実だろう。

 

「喰らいやがれええっ!!」



 男がパンチに乗せた炎は、長い尾を引き、ブラボーに襲いかかる。



「破ッ!!」



 その炎を、ブラボーは腕を突き出し、真っ向から受け止めた。



「ちいっ」



 男は舌打ちして、ポケットからカプセルのようなものをジャラリと取り出した。狙いを定めたとも思えない位無造作に、投げられた大量のカプセルは、あらゆる場所に着弾し、炎を撒き散らす。

 おそらく、男の血液で出来た爆弾だ。

 その物量に、2つ3つ、ブラボーにも当たったが、鉄壁の装甲を破るほどではなかった。



「――レイズ、諦めなさい」



 二人とは違う、第三者の声が聞こえた。



「あなたでは、彼には敵わないわ」



 その声に、聞き覚えはない。ただ、ブラボーの味方であろうと言うことは察することができた。



「――チイっくしょう!! くそくそクソクソクソ喰らいやがれええぇ!!」



 男――レイズの身体から炎が迸る。いや、すでに彼自身が炎と化したかのような、すさまじい炎。



「おおっ!!」



 ブラボーのパンチがレイズを襲う。拳はあっさりレイズの腹を貫いた。



 ――違う。貫いたのではない。通り抜けたのだ・・・・・・・



 レイズから炎が発せられているのではない、彼自身が、炎と化している。

 これが、あいつの本当の力。以前の戦いで頚動脈を切ったと思っていたが、体を炎と化して躱していたのか。

 と、我に返る。思わず見入ってしまったが、ブラボーに加勢しなくてはならない。

 とはいえ、炎と化したあれに有効な攻撃手段など、俺には無い。だいいち炎があちこちに飛び火していて、ろくに動き回れそうに無い。

 何処かに貯水槽でもないものか。周囲を見渡していると、思いつく。工場地帯なら、消火のための強力な道具でもあるかも知れない。

 そう考えて手近な施設の中をを探しまわり、粉末消化剤と書かれた巨大なボンベをみつけた。

 四苦八苦しながら、なんとか装置からボンベを取り外し、俺は再び戦場に駆けもどる。



「――はああああっ!!」



「――おおおおおっ!!」



 炎化による物理攻撃無効のレイズ、絶対的と言ってもいい防御力を持つブラボー、お互い有効打を与えることができない膠着状態。

 こいつで、それを打破する。

背後の悪魔ハイドインハイド ”でレイズの頭上に跳び、ボンベの栓を開ける。

 かなりの反動と共に、すさまじい勢いで消化剤がぶちまけられた。



「――くっそ、なんだこりゃあ!!」



 消化剤にまみれ、レイズの体から炎が消えた。消化剤の目隠しがあるうちに、すばやく離れた地点に跳び、空になったボンベを捨てる。



「くそっ! またてめぇか!」



「破ッ!!」



 レイズの目がこちらに向いた一瞬の隙、それを見逃さず、ブラボーの拳がレイズに直撃した。

 今度はまともに入った。レイズは人身事故のような勢いで吹っ飛んでいく。



「……ぐ、畜生」



 ふらふらと、レイズが立ち上がってくる。だが、消化剤にまみれた体では、炎が上手く出せないようだ。

 

「残念ね、炎になれないのなら、こちらのもの」



悪夢の館スプラッターハウス



 声とともに、レイズは黒い何か・・ に飲み込まれた。

 後にはなにも残らない。

 思わず、それをやったであろう人物を見る。

 長い黒髪を腰まで垂らした、美しい女性だった。身に纏う衣装は、黒のゴシックロリータ。



「ユウ」



 ゆっくりと、ブラボーの目がこちらに向けられる。



「ユウちゃんって言うの?」



 と、女性の方に声をかけられた。



「アマネ」



 彼女を呼び止めるブラボーの声色は、何処か馴れた感じがあった。

 どうやらブラボーの知り合いらしい。



「ありがとうね」



 女性――アマネは握手を求めてくる。

 それに応えようとした、瞬間。



「――がっ!?」



 横合いから、何者かにタックルを受け、吹き飛ばされた。

 視界がズレ、受身を取る暇も無く、地面に押さえ込まれる。

 見れば、俺を横抱きに抱えているのは、シュウだった。何か文句を言う前に、俺の目の前を黒い何か・・かが横切った。

 先ほどレイズを飲み込んだものだと、やっと気付く。



「な、何を!?」



「あちゃー、失敗か」



 何事もなかったかのように、アマネは言った。

 その顔が、あまりにも平坦で、かえって恐ろしい。



「油断するな、ユウ。エースを殺したのはこいつだ」



 その言葉の意味を理解するより早く、アマネの背中で、白い何か・・がはためいた。

 ぼとり、と、その中から落ちてきたのは、寸刻みにされた肉片。

 エースと同じ殺されかた。その意味が、わからないはずがない。



「仕方ない。ブラボー、始末しちゃって・・・・・・・・



 その言葉を聞いて、それでも、反応が遅れた。

 躊躇も何も無い。気がついたときには眼前に拳が迫っていた。

 腕では間に合わない。とっさに肩にオーラを集め、受け止める。

 それでもなお、体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。



「ぐ」



 詰まる息を、無理やり吐き出し、呼吸を整える。今、戦闘体勢を崩せば、致命傷だと、経験が告げていた。



「よくもユウをっ!!」



 ブラボーと、シュウの拳が咬み合う。

 仲間だったはずなのに、お互いに躊躇も無い。



「“正義の拳ジャスティスフィスト ”おぉっ!!」



「流星! ブラボー脚!!」



 ブラボーのキックとシュウの必殺技が宙で衝突する。

 その光景に気を取られて。



「あなたは、わたしがお相手しましょう」



 気がつけば、黒い何か・・ に包まれていた。



 視界を覆っていたものが消えた時、目の前の光景は一変していた。

 古い洋館。そんな言葉がぴったりくる、石造りの建物。広間の中央に、俺は立っていた。

 カチ、カチと、やけにゆっくりとした振り子仕掛けの、大時計の音が、異様に耳に障る。



「ここは……」



「ようこそ。我が“悪夢の館スプラッターハウス ”へ」



 赤絨毯の引かれた階段。階下を見下ろすように、アマネは立っていた。



「お前は……なんで、こんなことするんだ! いったい何なんだ!」



 俺の叫びに、アマネは艶麗に口の端を綻ばせる。



「おお、かわいそう。何も知らないのね」



 言いながら、彼女は階段の手すりにしなだれかかる。



「せっかくだから教えてあげましょう――とでも言うと思ったかしら?」



 艶のある声は、この上も無く酷薄。



「わたしは優しいから、何も知らせないままに殺してあげるわ。あなたが知りたくも無い事実でしょうしね、彼が裏切っていただなんて……あら、結局教えちゃったかしら」



 ころころと、鈴を転がすように笑うアマネ。だが、彼女の言葉に、俺は衝撃を受けた。



「ブラボーが……裏切り者だって!?」



「そう。彼が、レイズ達にあなた達がクリアして出てくる港を教えたのよ」



 こちらをなぶる様に、アマネは粘質の笑みを浮かべる。



「嘘だな」



 だが、俺は信じない。あの男が、そんな事をするはずが無い。



「俺はブラボーと言う奴を知っている。あいつは、仲間を裏切ったりしない」



「その通ぉり。だ・か・ら、あなた達を裏切ったのよ彼は」



「……どういうことだ」



 暗い悦びの灯った瞳で、アマネはその言葉を口に出した。



「ブラボーは、最初から、レイズやアモンの仲間だったのよ。何しろ、Greed Island Online の製作者仲間なんだから」



 心が、奈落に叩き落とされた。

 元の世界に戻るため、皆を集め、協力し合い、皆のために労を惜しまなかったブラボー。あいつが、“同胞狩り”の仲間で、最後の最後に裏切ったとは。



「きゃはははは。いいわあ、その貌。信じていたものに裏切られた、絶望に満ちた貌ね」



「違う。それなら、何で味方同士で殺し合いをしてたんだ。嘘に決まっている!」



「……強情ねえ、でも、ホントは心のどこかで納得してるんでしょ? さっきの表情はホント、良かったもの」



 うそだ。絶対にそんなはずは無い。こいつは、俺を落としいれるためにこんな事を言っているんだ。



「ブラボーがレイズと殺し合ったのは、わたしのため。わたしのために仲間を裏切ってくれたのよ。あは、二重に裏切り者だなんて傑作ね」



「ブラボーが、お前のために?」



「そう。彼はわたしのために仲間を裏切って、仲間のためにあなた達を裏切った。誰が大事なのか、はっきりしていて気持ちいいわよねえ」



「な、ぜ」



 もはや、それだけしか言葉が出ない。



「わたしと彼が、恋人だからよ」



 そう言って、アマネは左手の薬指につけられた銀の指輪に口づけした。



「愛し合っているの」



「――なぜ、俺達を殺そうとする」



「……ホントはね、どうでもいいの。あなた達が帰ろうが、レイズ達が帰ろうが。でも、彼まで帰る気になられると困るのよ」



 その瞳に浮かぶのは、狂の色。



「わたしと彼は、こっちでずっと暮らすの。だから、“向こう”に対する未練は、わたしが残らず処分してあげるのよ……だから、死んじゃって」



 ――“悪夢の館スプラッターハウス ”。彼女は言った。

 その言葉に応えるように、館が蠢いた。



「!!」



 頭上の空気が揺れるのを察知し、跳び退る。

 轟音とともに、鼻先をかすめてシャンデリアが地面に落ち、四散した。



「さあて、あなたはどこで死んじゃうのかな?」



 そう言って、アマネは奥に退がっていく。

 それを追いかけようとして――悪寒。無理やり足を止める。地面から、無数の槍が飛び出してきた。



「まてっ!」



 とっさに“背後の悪魔ハイドインハイド ”でアマネの背後に跳んだ――刹那。俺とアマネの間を振り子仕掛けの刃が横切った。

 こちらを全く見ようともせず、アマネは奥に引いていく。



「心配しなくても、もう一人の男の子もこちらに送ってあげるわ。いっしょに死ねば、寂しくないでしょ?」



「ま、まて! シュウをどうする――」



 俺の鼻先で、扉が閉じられた。

 押しても引いても、扉は開かない。

 ふと、気付く。

 振り子時計が時を刻む音。それに混じって、何かが風を切る音が、後ろから聞こえてくる。

 振り返って見れば、機械仕掛けの人形が、刃を手に、回転しながら近づいて来ていた。

 ゆっくりと、ゆっくりと。だが、確実に迫ってくる。

 あの、異常に遅い振り子時計の音に合わせるように、ゆっくりと、道幅いっぱいに刃を振り回す人形。



 逃げ場は、無い。









 ――俺以外には。



背後の悪魔ハイドインハイド

 人形が後ろを向いている時を見計らい、無音のまま一気に階段の傍まで跳ぶ。そのまま階段を飛び降り、広間に戻った。

 玄関の扉は――開かない。どころか、上からギロチンの刃が落ちてきた。

 かろうじて躱し、広間から通じる扉を片端から開けていく。客間では、重厚な高級調度品が、群れをなしてこちらを挟み殺そうと迫ってきた。キッチンでは包丁の群れが、俺を食材にしようと容赦なく襲ってくる。

 この館の部屋一つ一つが死のトラップ。なんとか逃げおおせ、扉を閉じた俺は、やっとそれに気付いた。

 考えろ。アマネの入っていったあの部屋、あれが出入り口だろう。

 たぶん、あの扉を開くには、何か条件があるはずだ。

 死ぬまで出られない。そんな致命的な念能力の発動条件が、あの黒い物体に触れるだけ、なんて軽いものですむはずが無い。

 どうすればいい。ホラー物なんて読んだことも無い。こんな場合の定番ってなんだ。

 考えているうちにも、あの殺人人形が時を刻むように、じりじりと迫ってくる。



 ――あれか?



 だが、あれを倒すことぐらい、あの同胞狩りも考え付いたはずだ。あいつができなかったことが俺にできるものか……と、気付く。

 よく見れば、かすかにだが、館の壁や床に焦げ付いたような痕跡が残っている。

 レイズが足掻いた痕跡。

 その痕跡が、ひとつの扉に向かって続いていた。

 アマネが出ていったほうとは逆。階段を登った左に見える扉だ。

 あそこに向かっていたのか、逆にあそこから逃げてきたのか。どちらにせよ、他の扉を選ぶより、状況が打破できる可能性は高い。

 また追い詰められても厄介なので、人形をギリギリまで引きつけ、二階に駆け上がった。

 慎重にドアノブに手をかける。

 鍵はかかっていないようで、あっさりと扉が開いた。



 そこは寝室だった。天蓋つきの豪奢なベッドに、高価な調度品の数々。その中で目を引いたのは、テーブルの上に広げられた、豪華な装丁の本だった。

 何かヒントになればと、目を通してみる。どうやら日記のようで、悪趣味なことに、この屋敷が化け物屋敷へと変貌を遂げて行く過程と、屋敷の主人の苦悩が書き綴ってあった。

 読み進んでいくと、日記に一枚の紙片が挟んであった。



“この先を読むな! かぎとけいのなか――A”



 走り書きでそう書いてあった。

 罠、では無い。A……エース。彼が残したヒントだ。

 おそらく、この本を読み進めると、致命的な罠が発動する。そう言いたかったのだろう。

 エース。彼は、自分の死が間近に迫った絶望の中で、それでも仲間のために、このメモを残してくれたのか。



「エース……ありがとう」



 俺は紙片をポケットに入れ、部屋を出る。

 鍵は時計の中。

 この部屋にある時計では無いだろう。鍵を隠すには小さすぎる。たぶん、広間の大時計だ。

 部屋を出て、二階に上がったところだった殺人人形を“背後の悪魔ハイドインハイド ”で跳び越え、階段を下りて大時計にたどり着く。

 振り子仕掛けの大時計を開き、振り子を止める。

 その裏側に、金色の鍵が嵌っていた。

 それをもぎ取る。同時に、館全体が震えた気がした。

 カチ、カチと、大時計が正常に時を刻み始める。

 異様な気配にとともに、鈍い光が目に入った。見れば、あの殺人人形が、異常なオーラを帯びて、階段からこちらを睨んでいる。

 どうやら、鍵を取れば発動する何らかの仕掛けらしい。

 トン、と、階段から飛び下りて来る人形。その動きは、今までとは比べ物にならないほど速い。

 ここは、逃げの一手。人形の脇をすり抜け、階段に向かい、駆ける。人のように滑らかな動きで追ってくる人形を、階段を登ったところで蹴落とし、そのまま右手奥の部屋に鍵を差し込む。

 真っ暗な部屋の中に、白い物体がういている。あの黒い物体と対になるそれは、間違いなく出口。

 後ろから、あの人形がすさまじい勢いで迫って来る。

 俺は覚悟を決め、思いきって白いそれに身を投げた。









 ――戻ってきた瞬間、頭に衝撃を受け、吹っ飛ばされた。



「あら残念、戻ってこれたのね」



 アマネの声が、聞こえてくる。

 俺に攻撃したのはアマネだろう。不覚だ。無事に出てこれた時、それがわかるような条件をつけておくのは、当然の備えだ。

 それを予想していなかったのは、俺の完全な落ち度。



「ユウ!」



 脳が揺らされてふらつきながらも、その声を聞き分ける。

 シュウは、どうやらまだ無事らしい。

 とはいえ、見ればシュウは体に無数の傷を負っている。

 ブラボーの方も、無傷ではなく、数箇所ほど防護服が破られていた。



「俺は……無事だ」



 何とか、立ち上がる。膝が笑っているが、どうにかバランスは取れた。



「残念ね、変に戻ってこなかったりしたら、いっしょに死ねたのに。一度館から生還したら、もうどうやっても入れないのよ?」



 嘲弄するようなアマネの言葉は、無視。シュウに言葉を向ける。



「シュウ、いつも通り役割分担だ。ブラボーは任せる。こっちは、任せろ」



「ああ……任せた」



 互いに背を向け、相手に向かう。泣きたいような、こんな状況でも、顔が自然と綻ぶ。



甘い誘惑スイートドロップ



背後の悪魔ハイドインハイド



 もはや身の一部になったような二つの能力を併せて、使う。

 グリードアイランドからこちら、ほとんど休み無しの連戦で消耗し過ぎた。まともに一戦、戦いきるオーラなど残っていない。

 短期決戦で決着をつけるしかないのだ。

 アマネの頭上に跳ぶ。アマネが背後を振り返るが、そこには誰もいない。

 その背後に、俺は跳んだ。

 相手は無警戒。その隙を縫って、ナイフで心の臓を狙う。

 

 ―― った。そう思った瞬間。パン、と。乾いた音が聞こえた。

 鈍い痛みとともに、ナイフが弾き飛ばされている事に気付く。

 やったのは……ブラボー。シュウの拳を体に受けながら、こちらに銃口を向けていた。

 ありえない。“周”でオーラを纏わせた俺のナイフが、ただの拳銃に弾かれるなんて。



「がわいげの無い娘ね!」



「――ぐっ」



 アマネの蹴りを腹に受け、俺はまた吹っ飛ばされる。飴玉が、空中で唾液の尾を引いて落ちていく。



「――そうか、防護服が再生されないから、どうもおかしいと思っていたけど……それがあんたの本当の念能力か」



「……“最大強化パワーブースター ”。“性能”を強化する念能力」



 手にした銃を捨てながら、ブラボーは応えた。

 その声に、わずかな苦痛の色が混じっている。



「なるほど、あの異常な防御は、防護服の性能を極限まで高めていたからか」



 二人は互いに構えた。先の一撃は、ブラボーに多大なダメージを与えている。お互い、これを最後と見定めたのだろう。

 なら、こちらも最後だ。

“絶”状態からは回復したものの、すでに、“背後の悪魔ハイドインハイド ”を使うオーラも残っていない。

 だが、あちらも“悪魔の館スプラッターハウス ”が使えない以上、条件は同じだ。

 全力で、駆ける。

 迎え撃つアマネ。

 正面からの攻撃に、カウンターを被せられた。

 鈍い衝撃とともに、意識が遠のく。



 届かないのか。俺は、こいつに届かないのか。仲間を殺したこいつに、一矢も報いることはできないのか。

 このまま、何も出来ず、俺は死ぬのか。



 ――負けないで!



 不意に、誰かの声が聞こえた気がした。

 それが、かろうじて意識をつなぎ止める。



 そうだ。死の激痛を維持してまで、俺達に忠告をくれたヒョウ。自分であることを望み、自分のまま死んで行くことを選んだD。死の恐怖と戦いながら、後に続くものを助けようとしたエース。

 あいつらのためにも、俺は最後まであがくのをやめたりしない!



 不思議と、力がわいてきた。スズメの涙ほどの、それでも、一撃を放つには充分な力。

 体が、何かに突き動かされるように動く。

 勝利を確信した表情のアマネは、その貌のまま俺の手刀で腹をぶち抜かれた。



「か、は」



 もう、身を支える気力も無い。

 だが、この手がアマネの命に届いたことだけは、確信出来た。



「さんきゅ……“ユウ”」



 最後まで、俺の意識をつなぎとめてくれた意識もの につぶやくように言って、そのまま地に膝をついた。



「そ、ん、な……」



 アマネは、ゆっくりとくずおれる。



「いやだ、死にたくない。せっかく、いっしょに、なれるのに……いやだ。いやだよう」



 血反吐を吐きながら、涙を流すアマネ。



「兄さま、お声を聞かせて。兄さま、こちらを向いてください。兄さま、どうか、わたしを、わたしだけを見ていてください。兄さま、兄さま、兄さま、兄さま、兄さま兄さま兄さまにいさまにいさまにいさまにいさまにいさま……」



 すでに瞳はなにも映していない。

 振り絞るような声が次第に弱くなっていき、ついには途切れた。

 と、その時、アマネの指についていた指輪が、消える。あれも、何かの念能力だったのだろうか。

 と、その時、激しいぶつかり合いの音が聞こえた。

 見れば、シュウとブラボー双方の拳が、お互いの体にめり込んでいた。

 シュウの拳はブラボーの胸に、ブラボーの拳はシュウの腹に、突き刺さった格好のまま、お互い凍りついたように動かない。

 数瞬の硬直の後、シュウの体が揺らぎ、そのまま地面に崩れ落ちる。

 ブラボーは、拳を放った体勢のまま、持ちこたえていた。



「――」



 無言で、ブラボーがこちらに近づいて来る。

 俺に応戦する力は残されていなかった。

 オーラは枯れ果て、体も言う事を聞かない。だがそれでも、意思だけは折らず、ブラボーを見据え続ける。

 だが、ブラボーは何を思ったのか、自分の指輪を外し、こちらに向けて放ってきた。



「何のつもりだ」



「……すまない」



 ブラボーは、それだけ言った。その言葉が、俺の怒りを煽った。



「裏切り者」



 一言、言うたびに、俺の心の方が傷つけられる。



「恥じて死ね」



 言って、力を振り絞り、指輪を投げ返す。こいつの施しなど、死んでも受けるものか。

 目から、熱いものが込みあげてくる。

 ブラボーは、指輪を手に持ったまま、動かない。



「……オレが、もらっておく」



 意外な方向から、声が聞こえた。あまりにも聞きなれた声の主は、見るまでも無い。



「シュウ!」



 倒れたままの姿だったが、シュウの目が、確かに開かれていた。



「カミト達のために、もらっておく。ただし、一枚でいい。それで、充分だ」



 シュウの言葉に、血の気が引いた。

 俺は馬鹿だ。一時の感情のために、俺は皆が命を賭して手に入れたものをドブに捨てるところだった。

 何があっても、あれだけは受け取らなければならなかったのだ。

 それを……俺は馬鹿だ。

 ブラボーは無言で指輪を指にはめた。よく見れば、彼の指には、もうひとつ、指輪がはめられている。アマネが身につけていたものと同じ指輪だった。

 ブラボーは挫折の弓を実体化し、シュウのそばに置くと、アマネの遺骸を抱えて俺達に背を向けた。

 その背に、シュウが声をかける。



「何故、最後に手を抜いたんだ?」



 ブラボーは、語らない。ただ、背を向けたまま、上を向く。



「それに、銃でユウ自身を狙う事も出来たはずだ」



 ブラボーは、そのまま微動だにしない。



「その指輪。その女の念能力なんだろ? お前、あいつに操られてたんじゃ――」



「――全て」



 シュウの言葉を遮るように、ブラボーは口を開いた。



「全て、わたしの招いたことだ」



 それだけ言って。

 それ以上言葉など発せず、ブラボーは闇の中に消えていった。



「――なあ、ユウ」



 そのまましばらく、地に伏したままでいると、ふいにシュウが話しかけてきた。



「なんだ」



「あいつら、兄妹だったんだな」



「知るか」



 俺は、会話を打ち切った。どんな理由があろうと、ブラボーが裏切ったのは事実で、あいつのせいで何人もの仲間が死んだことにはかわりが無い。

 ブラボーを許すつもりは無いし、あいつに同情の余地など欠片も認めたくない。



「……オレ、あの女の気持ち、ちょっとわかるかな」



「シュウ」



 かまわず、口を開くシュウを止めようとして、あきらめる。

 俺だけでなく、シュウも、きっと傷ついている。思いを吐き出すことで楽になるのなら、それを、手伝ってやってもいい。



「兄妹で愛し合うなんて許されない……でも、こんなことが起こって、不意に、それが許される状況になったら、何に換えても手放したくない。そう思っちゃっても、仕方ないんじゃないかな」



「――思うだけならな。実際やったらただの犯罪者だ」



 俺は、吐き捨てるように言った。

 ブラボー以上に、あの女に同情の余地など無い。

 シュウは、倒れたまま空を仰ぐ。暗い闇に何を見ているのか、俺にはわからない。



「……そうだね」



 その言葉からも、感情は読み取れなかった。



 シュウと共に空を見上げて、ふと思った。

 この空に、後どれほどの同胞が生き残っているのだろうか。

 こんな不毛な喰い合いをして、皆この異邦の地でのたれ死ぬ運命なのだろうか。



 帰りたいな。



 あらためて、そう思った。











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