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No.2186の一覧
[0] Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)【完結】[寛喜堂 秀介](2021/08/11 20:34)
[1] Re[2]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:03)
[2] Re[3]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:05)
[3] Re[4]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2009/10/14 20:00)
[4] Re[5]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:08)
[5] Re[6]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:10)
[6] Re[7]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:28)
[7] Re[8]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:33)
[8] Re[9]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 00:23)
[9] Re[10]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 21:55)
[10] Re[11]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:29)
[11] Re[12]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:37)
[12] Re[13]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/07 08:08)
[13] Re[14]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 21:34)
[14] Re[15]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 20:32)
[15] Re[16]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/10 21:14)
[16] Re[17]:Greed Island Cross 外伝 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/16 00:34)
[17] Greed Island Cross 外伝2 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/01 18:50)
[18] Greed Island Cross 外伝3 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/17 22:31)
[19] Greed Island Cross 外伝4 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/20 20:54)
[20] Greed Island Cross-Another Word 01[寛喜堂 秀介](2008/03/24 23:03)
[21] Greed Island Cross-Another Word 02[寛喜堂 秀介](2008/03/27 00:11)
[22] Greed Island Cross-Another Word 03[寛喜堂 秀介](2008/03/30 20:44)
[23] Greed Island Cross-Another Word 04[寛喜堂 秀介](2008/04/02 19:06)
[24] Greed Island Cross-Another Word 05[寛喜堂 秀介](2008/04/11 22:26)
[25] Greed Island Cross-Another Word 06[寛喜堂 秀介](2008/04/18 01:47)
[26] Greed Island Cross-Another Word 07[寛喜堂 秀介](2008/04/19 22:17)
[27] Greed Island Cross-Another Word 08[寛喜堂 秀介](2008/04/23 21:35)
[28] Greed Island Cross-Another Word 09[寛喜堂 秀介](2008/04/26 23:46)
[29] Greed Island Cross-Another Word 10[寛喜堂 秀介](2008/04/29 20:47)
[30] Greed Island Cross-Another Word 11[寛喜堂 秀介](2008/05/19 01:11)
[31] Greed Island Cross-Another Word 12[寛喜堂 秀介](2008/05/29 17:37)
[32] Greed Island Cross-Another Word 13[寛喜堂 秀介](2008/06/01 22:07)
[33] Greed Island Cross-Another Word 14[寛喜堂 秀介](2008/06/05 01:35)
[34] Greed Island Cross-Another Word 15[寛喜堂 秀介](2008/06/08 22:46)
[35] Greed Island Cross-Another Word 16[寛喜堂 秀介](2008/06/16 01:12)
[36] Greed Island Cross-Another Word 17[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:13)
[37] Greed Island Cross-Another Word 18[寛喜堂 秀介](2008/07/26 23:45)
[38] Greed Island Cross-Another Word 19[寛喜堂 秀介](2008/07/27 23:41)
[39] Greed Island Cross-Another Word 20[寛喜堂 秀介](2008/07/29 22:13)
[40] Greed Island Cross-Another Word 21[寛喜堂 秀介](2008/07/31 23:43)
[41] Greed Island Cross-Another Word 22[寛喜堂 秀介](2008/08/02 21:26)
[42] Greed Island Cross-Another Word 23[寛喜堂 秀介](2008/08/04 23:09)
[43] Greed Island Cross-Another Word 24[寛喜堂 秀介](2008/08/07 00:02)
[44] Greed Island Cross-Another Word 25[寛喜堂 秀介](2008/08/10 00:28)
[45] Greed Island Cross-Another Word 26[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:15)
[46] Greed Island Cross-Another Word 27[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:57)
[47] Greed Island Cross-Another Word 28(完)[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:51)
[48] Greed Island Cross 外伝5[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:42)
[49] 登場人物(ネタバレあり)[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:55)
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[2186] Re[15]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)
Name: 寛喜堂 秀介◆c56f400a ID:4667f81e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/10/08 20:32







 俺も、シュウも、お互い満身創痍で、港への道のりはキツかったが、吸血鬼の群れを引き受けたみんなが心配で、体を引きずるように先を急いだ。

 港は、灰に覆い尽されていた。

 風もない夜が、こんなときには恨めしい。

 人が、死んだと言う事実が、こんなにもはっきりと残るのだから。

 辺りに、動くものはない。

 ただ、数人の人影が、闇の帳越しでもはっきりと見えた。



「カミト」



 声をかける。

 唯一、二本の足で立っていた鎖使いの同胞は、ゆっくりと、こちらを向いた。

 その足元には、ミコの姿。それに、疲れて大の字に寝転がっているレット氏とマッシュの姿があった。



「勝った」



 それだけ、言った。

 それ以上、言えなかった。



「そう」



 カミトが口に出した言葉も、それだけ。

 だが、カミトが手に持っている赤いリボン。ミオがつけていたそれが、カミトの手にあることで、ここで何があったか知れた。

 だから、何も聞かない。



「こっちも、勝ったわ」



「そうか」



 ただ、カミトの言葉に返事を返しただけだった。

 ブラボーのことも、本当のことが言えるはずがない。ただ一言のみ言った。

 ブラボーは死んだ、と。

 その言葉に、カミトの肩がピクリと震えた。

 俺は、カミトに何か声をかけようとして、息を飲んだ。

 カミトが一瞬浮かべた、どこか納得のいった表情。それが、全てを見透かされたように思えた。

 だが、それも一瞬、決意を秘めた瞳でカミトは顔を上げた。



「帰るわよ……それが、目的なんだから。そのために、皆死んだんだから」



 感情を押し殺すように、カミトはエースやヒョウの遺体を集めていく。



「カミト、何を?」



「連れて帰るのよ。せめて、死体ぐらい返してやらなきゃ……救われないじゃない」



 ミコをお願いね。カミトはそう言って、俺達に背を向ける。



「カミト、どこへ?」



「船を借りるのよ……帰るためにね」



 カミトが、歩いていく。ブラボーの事を聞こうともしないカミトは、ひょっとして気付いているのかも知れない。

 だから、話にも出さなかった。

 カミトはもっとも長くブラボーと行動を共にした人だ。彼の裏切りに、傷つかないはずがない。

 それでも、カミトは気丈に振舞う。それが、やるせなかった。

 待つこと小一時間。カミトが回してきたのは、大型のクルーザーだった。



「さ、行くわよ」



「……どこへだ?」



 シュウの質問に、カミトは力なく笑う。



「グリードアイランド島。その中で“離脱リープ ”を使うことが、考え得る、最も確率の高い現実への帰還方法だから」



 船に乗り込んだのはエース達の遺体とカミト、ミコ、レット氏、俺、シュウの5人。

 マッシュは残って見送る事になった。

 彼は、グリードアイランドに入りながら、定期的に天空闘技場で試合していたらしく、準備期間に余裕が無くなっていたのだ。

 カミトは、マッシュに簡単に挨拶して、操舵室へと向かって行った。ミコは、船室で寝かされている。



「ユウ、レット、シュウ……またな」



 そう言って笑ったマッシュは、俺達がもう帰ってこない事を知っていたのかもしれない。

 知っていて、平然と見送ってくれた。

 だから、俺達も笑って返した。

 マッシュはこちらの人間だけど、間違いなく俺達の仲間だった。



「またな、マッシュ! どうせなら、バトルオリンピア優勝を目指せよ!」



 ぐっ、と、シュウは拳を宙に突き出す。



「おう!」



 マッシュも、親指を立て、応えた。



「マッシュ、ありがと」



 何か言いたかったが、言葉に詰まって、口から出たのはそれだけだった。



「おいおい、礼を言うのはこっちだぞ? ユウのおかげで、俺はここまで強くなれたんだし、これからも強くなっていく。いくら感謝してもしたりないぐらいなんだ」



「マッシュ……」



「それにレットも、ライバルがいるってのは、思ったより張り合いがあって、楽しかったぜ」



「マッシュ……それは、こっちのセリフっスよ」



 船が、ゆっくりと動き出す。



「――ああ、ひとつ言い忘れてたことがあったな」



 ゆっくりと離れていくマッシュが、声を上げる。



「最初、お前に交際を申し込んだけどな、あれ、無かったことにしてくれ。お前ら、お似合いだぜ!」



 とびきりの笑顔で、そんな事を言ってきた。

 思わずつんのめりかける。

 勘違いもはなはだしい。だが、まあ、マッシュが勝手に自己完結してくれるなら、わざわざ訂正する必要は無いだろう。



「いやー、そうっスかねー」



『いや、おまえじゃないだろ』



 奇しくも、何故か勘違いしているレット氏へのツッコミが、重なった。

 それを見て、マッシュが爆笑する。



「またなーっ! みんなーっ!!」



 マッシュに応えるように、大きく、手を振る。船が動き出し、だけど、姿が見えなくなるまで、俺たちはマッシュに向かって手を振っていた。

 俺も、シュウも、かなり負傷が厳しかったので、比較的軽症だったレット氏を操舵の交代要員に任命し、その日は船室で泥のように眠った。









 次に目覚めたのは2日後だった。

 どうやら、予想より疲労が激しかったらしい。

 目を覚ますと、寝台で寝ているのはレット氏とカミトだけだった。

 重い頭を無理やり起こし、体調を確認する。

 体が重いのは、たぶんオーラを限界まで絞り尽したからだろう。腹や顔にある痣は、もう数日は確実に痛みが残る。完調ではないが、まあ、静養が必要なほどではない。

 船室を出、操舵室を見れば、シュウが船の運転を任されていた。



「よ」



「お、ユウ。もう起きられるのか?」



 それは、どう考えてもお前に言うべき台詞だと思うぞ、シュウ。

 肉体的なダメージに関しては、お前の方がよっぽどひどかったんだから。



「シュウのほうはどうなんだ? もう起きていいのか?」



「ん、完璧完調」



 人間ワザじゃないだろう、その回復力。



「ミコは?」



「甲板に出てる……やっぱり、ちょっとショックだったみたいでな。今はまだ、話かけない方がいいかもな」



「そうか……」



 妹が出来たみたいだって言ってた、ミコ。やっぱり、ショックなのだろう。

 俺は、甲板に出た。

 ミコは、波間をみつめるように、甲板の端に立っていた。

 俺は、黙ってミコの隣に立った。

 言葉も、何もない。

 ただ、一人にしておけなくて、そうした。



「――なんで」



 長い間、ずっと無言でいたミコだったが、ポツリ、ポツリと、話し始めた。



「何故、みんなが、死ななければならなかったのでしょう。みんな、みんな、いい人でしたのに」



 俺は、無言。その、原因となった者の名を、ミコに教えるわけにはいかなかった。

 誰かを憎めれば、楽だけど。

 きっと、それ以上にミコは傷つくことになる。



「ミオは、ミオはまだ10歳で、あんなに小さかったのに……」



 ミコの声は、震えていた。



「こんなに、小さくて、私に膝にのって……それが……う、うあああっ」



 ミコは、こらえ切れず、声をあげて泣き出した。

 俺は、黙って胸を貸した。

 こう言うとき、もうちょっと身長があればサマになるんだろうけど、ミコのほうが背が高いから、抱えあげられているような、つんのめった体勢になったけど、俺は黙ってミコの背を撫でてやった。

 ヒョウの死も、ダルの死も、Dの死も、エースの死も、そしてミオの死も、決してなかったことにはできない。

 でも、みんな、ただ死んだわけではない。

 みんな、仲間のために、戦った。最後まで、俺達の戦いを助けてくれた。

 仲間の、帰還を願って、最後まであがいた。

 そのおかげで、今の俺達がある。

 だったら、その意思を、無にするわけにはいけない。

 元の世界に戻って、当たり前の生活を送って、当たり前に笑い、当たり前に騒ぐ。そんな当たり前の幸せを、あいつらは俺達に託すしかなかった。

 背負わされた命は、重いけど、その重みの分だけ、幸せにならなくちゃいけない。

 いつだって、あいつらに、胸を張っていられるように、前を向いて歩いて行こう。

 そう、心に誓いながら、不覚にも、熱いものがこみ上げてくるのを押さえ切れなかった。









 泣き疲れてそのまま眠ったミコを船室に運び込み、寝かしつけていると、奥の方からいい匂いが漂ってきた。

 みれば、簡易キッチンにカミトが立ち、腕を振るっていた。匂いからして、シチューを作っているらしい。

 くつくつと煮えるシチューがかき混ぜられるたび、食欲を誘う香りが漂ってくる。

 クウ、と腹の虫が鳴った。よく考えれば、丸二日、何も食べていないのだ。



「あら、ユウちゃん。ミコ、寝ちゃったのね」



 俺に気付いたカミトが、振り返って微笑みかけてくる。



「泣き疲れて、今寝たとこ」



 言いながら、俺は据え置きのテーブルについた。



「ごめんね、ユウ。面倒見させちゃって」



「当然だろ? ミコは大切な仲間だ」



「そうじゃなくて……ユウもキツイのに、任せちゃって」



 カミトは、視線を落とした。

 それを言うなら、カミトのほうがよっぽどキツイだろう。あの5人も、ブラボーも、カミトのほうが付き合いは長いのだ。



「……ま、それは置いといて、とりあえずご飯にしましょ。人間空腹じゃあ碌なこと考えないものだし。一人ならなおさら、ね」



 どうも、この人と話していると、見透かされている気がして落ち着かない。



「レットと、シュウも呼んできて頂戴。この辺りなら自動操縦に任せられるはずだから」



 眠りこけるレット氏をたたき起こし、操舵室のシュウを呼んでくると、匂いにつられてか、ミコも起きだして来た。

 5人で雑談しながら暖かい食事をしていると、不思議と重苦しかった心が楽になった。

 ほんとにカミトは、お見通しだなあ。



「――あ、そうだ。ここ、ラジオついてるんスよね。喫茶店でバイトしてた時、よく聞いてたんスよ」



 レット氏が、思いついたようにラジオを付けた。

 どこの電波を拾ったのか、スピーカーは軽快な音楽を吐き出しはじめる。

 聞き慣れない曲調だが、素直にいい曲だと思えた。



「やっぱ、こっちでも、音楽の良さは変わらないっスよね」



 音楽を楽しむように、目を細めるレット氏。なんだか意外な一面を見た思いだ。

 音楽を肴に、しばし談笑。



『え!?』



 いきなり聞こえてきた、耳慣れた歌に、みなが思わず声を上げた。

 ラジオから流れているのは、ボーカルが違い、微妙にアレンジされているものの、間違いなくもとの世界の歌だった。



「これって……あれ、だよね」



「間違いないっスよ」



「これはわたしも知ってるわ」



 おそらく、同胞が歌っているであろう、その曲に、皆、思わず顔を見合わせる。

 ややあって、カミトがくつくつと笑い出し、それがみなに広がった。



「……世界が違っても、音楽の良さは変わらない、か」



 ひとしきり笑ってから、カミトがつぶやいた。

 本当にその通りだと、そう思い、初めてこの世界が、こちらに優しく微笑みかけてきた気がした。



 その夜半過ぎ。

 なんとなく目がさえて、俺は甲板に上がった。



「よ」



 俺を待ち構えるように、シュウはそこにいた。



「シュウ、寝てないとだめだろ? 当番で疲れてるんだから」



 俺の言葉に、シュウは首を振った。



「眠れないんだよ。いよいよ明日にはグリードアイランドに着く。それで帰れると思うと、な」



 そう言って、シュウは夜空を眺めた。



「わあ」



 つられて見上げた空に、思わず歓声がもれる。

 人の明かりのない夜空に描かれた、光のイルミネーション。漆黒の闇の中、見たことないくらいの量の星が、散りばめられていた。



「こっちで最後の夜空かと思うと、余計きれいに見えるな」



「いや、それ抜きにきれいな星空だよ」



 星空が、本当にきれいで、思わず見とれてしまう。



「――ユウ」



「何だよ、あらたまって」



 声をかけてきたシュウ。その真剣な表情に、思わず息を呑んだ。



「オレさ、やっちゃなんねーことやりかけた」



 その言葉に何か返しかけて、言葉に詰まった。

 シュウの纏う雰囲気が、言葉を拒絶していた。



「たぶん、お前や、カミト達に顔向けできねーくらい自分勝手なわがままで、取り返しのつかないことをやりかけたんだ」



 シュウは、そこで息を継ぐ。

 鬼気さえ感じるシュウの独白に、俺はなにも返せない。



「ユウ、俺を殴ってくれ」



「何だよ、いきなり」



 シュウの言葉に、困惑する。



「そうじゃないと、オレの気がすまないんだよ」



「わけがわからない」



 俺は拒否しようとして、シュウの貌に、息を呑んだ。

 後悔の念に押しつぶされそうな、シュウ。彼の顔が、苦痛に歪んでいる。



「頼む、ユウ」



 その一言で、覚悟を決めた。

 それでシュウが楽になるなら、いくらでも殴ってやろう。

 無言で、手加減なく、シュウの頬を殴った。

 にぶい音と共に、シュウは甲板の端まで吹っ飛んでいった。



「おーい、シュウ、大丈夫か?」



 傍まで歩いて行き、甲板に大の字になったシュウを見下ろす。

 シュウは、何処かすっきりしたような顔で、やおら笑い出した。



「手加減無しかよ……ユウ、やっぱお前大好きだわ」



 言いながら、笑うシュウ。

 俺は呆れて、船室に足を向ける。



「そのまま寝ないようにな」



「だったらちょっとは加減しろ!」



 シュウは、なおも笑いながら応えてくる。

 そのまま船室に向かおうとすると、物陰に隠れるように、カミト、レット氏、ミコが並んでいた。



「お前ら、何やってんだ」



「いや、まー、その……」



 カミトが、何処か言葉を探すような仕草。



「端的にきくけど、シュウ、ひょっとしてとんでもなく下品なお願いでもして来たの?」



 その言葉に、初めてカミトの頭に拳骨を落とした。









 よく朝未明、クルーザーは大きな島にぶつかった。グリードアイランド。地図には存在しない、幻の島。

 海岸近くまで船を寄せ、ボートで海岸に向かう。

 海岸に一人の男が待ち構えていた。

 レイザー。不法侵入してきた俺達を、排除するもの。

 俺達は広がるように展開し、身構える。が、カミトは、ためらいなくレイザーに相対した。



「レイザー、わたし達は“異邦人”よ」



「……そうか。ドゥーンから話は聞いている」



 何故か友好的な様子のレイザーに、構えていたこっちが戸惑ってしまう。



「どうした?」



 その様子を不思議に思ったのか、レイザーが尋ねてきた。



「いや、何でそんなに物分りがいいのかと」



「別に。俺だって事情を聞けば協力したくもなるさ。ゲーム運営の支障にならない限りはな」



 レイザーの表情は、笑い顔のまま変わらない。

 そうか。てっきりレイザーは敵だと思っていたけど、ちゃんと事情を話すという方法もあったんだな。



「ブラボーが、城で話してたんだな」



「ええ、わたしは、その話を聞いていたから」



 シュウとカミトの会話は、意識的に聞かなかったことにする。

 冷静にあいつのことを振り返るには、まだ時間が足りない。

 レイザーの許可の元、俺達はボートから岸に降り立つ。

 同時に、抱えていた死体袋が、オーラに包まれ、中身を失った。



「グリードアイランドが、みんなの死を認識したんでしょう。変則だけど、これで帰れることが証明されたわね」



 必要なのは、ゲームを使わずにここに来ること。

 この世界と、あちらの世界の、唯一の交錯点であるここで、正規手段に寄らず入島し、“離脱リープ ”を使うこと。

 それが元の世界に帰れる、唯一であろう手段。



「……やるわよ」



 言って、カミトは“挫折の弓”を手に持ち、レットに向かう。

 これが別れになることは、わかっていた。

 だが、話したいことは、全て船の中で話してしまって、何も出てこない。



「“離脱リープ使用オン ・レット」



「みなさん、さよならっス」



 敬礼と共に、レット氏は消える。

 なんだか、レット氏らしい、別れ方だった。



「“離脱リープ使用オン ・ミコ」



「あのっ! あっちにかえっても――」



 思いついたように何か言いかけて、ミコが消えた。

 そのあわて振りに、思わず苦笑してしまう。



「ユウ、シュウ……ありがとうね」



 カミトは、絞り出すような笑顔で一言、そう言って。



「カミト」



 シュウの言葉で、呪文が中断される。

 シュウは、手荷物を丸ごとカミトに放り投げた。



俺にはもう必要ないから・・・・・・・・・・・カミトが預かっていてくれ・・・・・・・・・・・・



 シュウの言葉に、カミトは一瞬ぽかんと口を開け――苦笑を浮かべた。



「“離脱リープ使用オン ・ユウ、シュウ……ありがとね、二人とも」



 その言葉が、この世で聞いた最後の言葉だった。

 こっちこそ、本当のことをいえなくてごめん。そう言いたかった。だが、それを言い出せないまま、俺達は眩い光に包まれていった。









 ――そう言えば、“ユウ”に何か言うの、忘れてたな。唐突に浮かんだ考えに、何かが否定の意思を送ってきた気がした。









 OTHER'S SIDE サイド・ブラボー







「グリードアイランド、実際に作ってみないか?」



 最初は、ただの冗談みたいな一言だった。

 それが、いろんな協力者が現れ、私自身関わっていくうち、どんどん具体的な物になり、出来上がったゲームは、人に見せて恥ずかしくないものになった。

 密かに、名作になると自負してもいた。

 作品への愛と、確かな技術があれば、当然とも言えた。

 それが、何故こんなことになったのか。

 β版のテストプレイヤーを選出し、我々開発者の内数人も、それに参加した。

 そして、気が付けばあの草原に立っていた。

 同じくこちらに来たはずの仲間を探すうち、旅の道連れができ、ハンター試験を受け、ゲームを探す間にも、仲間は増えていった。

 彼らとなら、きっと元の世界に戻れると確信できた。

 ようやく待望の開発者仲間を見つけたとき、私の心は闇の淵に叩き込まれた。

 彼らは、“同胞狩り”になっていた。



「確実に帰るために必要だと思ったんだよ。あんたがそう言うなら、やめとくって」



 そう言って調子よく謝るあいつらを、何故信用してしまったんだろうか。

 お互い、顔も合わせた事もないが、同じ物が好きで、同じ作品に取り組んだあいつらを、俺は、紛れもない盟友だと思っていた。

 だから、グリードアイランドをクリアしたら一緒に帰ろうと、連絡をつけておいたのだ。

 だが、あいつらは、自分の楽しみのためだけに、仲間を殺した。

 さらにアマネの暴挙が止めを刺した。

 こちらに来て、初めてアマネに会ったのは、開発者仲間に会った時。アマネは、同胞狩りと行動を共にしていた。

 私を見つけるために、彼らと同行していたらしい。

 協力して、一緒に帰ろう。そういった私に、アマネは逆に、ここにずっと住もうと言って来た。

 その時初めて、あいつの心を知った。だが、私にどうしろというのか。相手は、実の妹なのだ。

 それだけは、できない話だった。

 再びアマネに会った時、すでにあいつは鬼と化していた。

 いきなりの不意打ちでヒョウを殺し、私とエースはアマネの念能力で閉じ込められた。

 エースの命が惜しければ。そう言ってアマネが渡してきた指輪を指にはめて、おれは、皆を裏切ってしまった。

 指輪に心を操られ、アマネのことしか考えられない人間になった。

 結局、散々毒を撒き散らし、アマネは死んだ。私には、それを止めることもできなかった。

 いっそ、何もかも忘れてしまっていれば良かった。だが、残酷にも、記憶は私の物として克明に記録されていた。



「恥じて死ね」



 そういったユウの言葉よりも、私の裏切りに、ユウが深く傷ついたことが、痛いほどわかって、それが、私を打ちのめした。

 私のやったことは、取り返しのつかない事で、最も重い罪であると、思い知らされた。

 償いようがない。

 贖いようがない。

 そんな罪を犯して、それでも、手の中に残ったものがある。

 二枚の“挫折の弓”。

 これを残してくれたシュウの意図は、痛いほどわかる。これでやることなど決まりきっていた。

 救おう。この世界に取り残された同胞を。

 この身を、それだけに使い潰そう。

 償いではない。それがただの代償行為だとしても、この身がすでに罪にまみれていたとしても。

 今度は決して、私がブラボーである事を裏切らない。

 そう誓って、立ち上がった。

 この身は、人を救うために。ただそれだけの道具であればいい。

 そう自分に言い聞かせ、決して歩を緩めず、歩いていく。

“俺”はブラボー。キャプテン・ブラボーだ。









「――う」



 眼も眩むような光に、眼が開けない。

 いつの間にか机に突っ伏していたようで、顔に冷えたものが当たっている感触。

 目を開くと、そこに広がっていたのは懐かしい我が部屋のものだった。



「おニイ」



 しばらくボーっとしていると、いきなり扉が開いて、妹が顔を出してきた。

 あまりにも懐かしい顔に、一瞬見とれてしまった。



「おう、友、久しぶり」



 俺の言葉に、友は怪訝な顔を見せた。



「何寝ぼけてるの―――あ、また一晩中ゲームしてたんでしょ」



 なんと言うか、普通過ぎる反応に、戸惑う。

 俺、一年以上いなくなってたはずなのに。



「あ、あ、あー。今、何月何日」



「おニイ、呆けるのも大概にしてよね。11月18日に決まってるでしょ」



 なんと、俺が体感した一年が、こちらでは一晩のことだったらしい。



「朝ごはん、早く食べてよね。休みだからってゆっくりしてられたら、片付かないんだから」



 呆れたような友の髪を、くしゃりと撫でてやる。



「な、あ……おニイ! 子供扱いしないでよ!」



 顔を真っ赤にして怒り出す友。

 朝飯を食べたら、すぐにネットに繋げよう。

 それで、シュウの無事を確認して……また、ゲームをやってみるのもいいかもしれない。今度は普通に、当たり前のゲームを。

 ふと、ためしに“練”をやってみる。

“練”はおろか、オーラが見えることもない。



「うん、これが普通なんだよな」



 何もできなくなっているのに、やけに楽しくなる。



「おニイ、奇行に走らないでよ」



 呆れた眼でこちらを見る妹に、適当に誤魔化し、部屋を出る。

 途中、つけっぱなしのディスプレイをちら、と見て、俺は階段を駆け下りた。



「友、飯だメシ!」



「階段走らないでよ、危ないでしょ!」



 注意されながらも、浮き立った心は収まらない。









 一夜の夢のように消えた一年を越える時間。

 その中で、多くのものを得て。多くのものを失った。

 だけど、変わらないものがあって、大切なものがひとつ、出来た。

 とりあえず、飯を食ったら、シュウと話そう。

 二人で無事を喜びあって、それから、話したいことはいくらでもある。

 でも、まずは、一人の少女の話をしよう。

 俺の心に仮住まいしている、一人の少女の話を。









 画面にはひとつのメッセージが流れていた。



“わたしはあなたと共に”











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