その日、久しぶりに夢を見た。 たぶん、この世界に来て初めての夢。 ぼやけた意識が次第に鮮明になっていき――はじめに目に映ったのは老人だった。“ユウ”を暗殺者として育て上げた老人は、アルフォジオファミリーが消滅してから明らかに健康を損なっていた。 よく肥えた福福しい老人だったのに、一月も経たぬうちに骸骨に皮がついているだけの、弱弱しい存在に成り果てた。「ユウ、お前を奉公に出す前に、わしの方でお迎えが来そうだな」 絞り出すような声は、あまりにもか細い。「もっとも、ファミリーはもう無い。奉公に出しようも無い、か」 おそらくそれは、ユウに向けての言葉ではない。ただの自虐。ユウは、そんな老人をじっと見る。「ユウ、最後の命令を出す。これができればお前は一人前だ。一人前で……そして自由だ」 自由と言う言葉は、ユウにはわからない。だが、それが命令であれば、ユウは応えるつもりだった。「わしらのファミリーを潰したクソ野郎を殺せ……殺してくれ、頼む」 老人の言葉は、次第に哀願する調子になっていった。 実際、老人にはもはやユウを縛りつける権力は無かった。ユウは、そのつもりならいつでも自由になれた。だから、その言葉が老人の最後の呪縛。「了解した」 ユウが答えた、ただの一言。 彼女は自分の言葉で自らを縛ったのだ。 そんな事は知っていた。俺の中には、ユウとしての記憶も経験も、ユウと呼ばれる彼女の思考形態さえある。 だけど、その呪縛が、俺さえも縛っているとは思わなかった。 夢に見たのはただのきっかけ。だが、思い出してしまった以上、ユウはここで安穏としてはいられない。「――と言うわけで、俺、ハンター試験を受けてくる」 目覚めて即、シュウの部屋に押しかけ、開口一番そう言った。 シュウは寝ぼけ眼でオニがどうとかつぶやきながら、しばらくぼうっとしていた。「やっぱりいろんな所旅すんのに毎回非合法手段なんかに頼ってられないし、ハンター専用の情報サイトなんかも活用したいしな。一年前(ことし) なら、ライバルとかも少なそうだし」 覚醒したのだろうか、シュウは怒ったり呆れたり青ざめたり、ひとしきり百面相してから、拗ねたように口を尖らせた。「いいよ。うかつちゃんなユウなんて一回痛い目見ればいいんだ」 シュウのそんな言葉を聞き流して、俺はハンター試験に受験申し込みした。 試験日当日。なんとか試験会場にたどり着いた俺は、シュウの言った言葉の意味を、痛いほど思い知った。 試験会場。超高層マンションの二階フロアを埋め尽くす人の群れ。 その中にヒソカの姿があった。 忘れてた。そういえば本編で前回の試験官とやりあってた気がする。 本気でありえない。何考えてんだ、俺。 しかも、ざっと見渡しただけで念能力者が10人ほどいる。 区別はつかないが、たぶん“同類”のヤツも混じってるんだろう。 ていうか、ブラボーがいる。 キャプテン・ブラボー。例の漫画のアレ。あれ絶対“同類”だろ。わかりやす過ぎて何かの罠かと思ってしまう。「よ」 そんな感じで辺りを見渡していたのが目立ったのだろうか。ふいに声をかけられた。「オレはトンパ、よろしく」 トンパかよ! お前もいるのかよ! リアル化するとわかりにくいよ!「俺はユウ。よろしく」 心の中で目いっぱい突っ込んでから、一応無難に答える。「新顔だろ? 君」「ああ。それがわかるトンパはベテランなんだな?」「おう、受験回数30回を超えるベテランだよ。わからないことがあったら、なんでも答えてやるよ」「じゃあ……」 と、念能力者達を指して何者なのか聞いてみる。「それがな、あいつらも新人らしいんだけどヤバ過ぎて近寄れなかったり、なんか知らんがいきなり喧嘩腰だったりでな、まともに話せたのはあんたくらいだな」 そのヤバイやつの中にブラボーも入っているに違いない。「おっとそうだ」 そう言ってトンパは懐からジュースを取り出す。下剤入りのアレか。「お近づきの印だ、飲みなよ」 言ってくるトンパの前に、すっと手をかざす。“ユウ”の体は、キルアみたいに毒に耐性があるわけじゃない。変に耐性ができると、いざという時に自殺が出来ないからだ。 だから、これを飲むわけにはいかない。「悪いけど、他人からもらったものは体が受け付けないんだ。職業柄、そう出来ている」「職業?」 聞き返してくるトンパに、俺はとびきり剣呑な笑みを浮かべ、こう答えた。「暗殺者」『うおおおおおお!!』 一次試験開始の合図と共に、足音が轟音と化す。 一次試験の内容は、部屋中に放されたアシハヤネズミを生きたまま捕獲する事。 平均時速30キロオーバーで小回りもきくこいつを捕まえるには、反射神経だけでなく、ほんのわずかな仕草から癖を読み取る観察力も要求される。「っと!」 掴んだアシハヤネズミを取り逃がしかけ、両手でしっかり押さえなおす。 これで一応合格、だけど油断は出来ない。最後までこいつを確保して、初めて合格となるのだ。 真っ当に捕まえる以外にも、試験に合格する方法はいくつか考えられる。 それを、他の受験生が考え付かないわけがない。 と、背後に殺気。何かが振り下ろされる気配を感じ、身体半分横に移動して躱す。 そのまま攻撃してきた受験生のアゴを拳で打ち抜いた。 こうやって、捕まえたやつから奪い取るってのが、まあ手っ取り早い方法だろうか。 このネズミが捕まえられないような奴らに後れを取るつもりないけど。「ハヤテ! 行って!」 向こうでは念能力者とあたりをつけた、深窓の令嬢かと疑うような豪奢な身なりの女性が、念獣を操り、獲物を捕らえている。「いけっ!」 別の場所で、どこかで見た事のある鎖を駆使する、透明感のある中性的な少年。「ブラボー! おおブラボー!」 コイツに関しては、もはや何も言うまい。 そしてヒソカ。トランプを次々と投げ、アシハヤネズミを殺してまわっている。 試験の合格条件はアシハヤネズミを生け捕りにすること。 殺してしまえば、合格者は減る計算だ。 一応、考えつきはしたが、躊躇いもなく実行に移す辺り、さすがヒソカだ。「てめえ、何すん……ぎゃああああっ!」 一人の受験者が、ヒソカに喰ってかかって返り討ちに遭った。「こいつ!」「やっちまえ!」 血を見て激昂した受験者達が、ヒソカに襲いかかる。 だが、ヒソカは片手にアシハヤネズミを捕らえた状態のまま、もう片方の手に挟んだカード一枚で、一瞬にして全員の頚動脈を掻き切った。 寒気すらもよおす手練の業に、思わず身をこわばらせた刹那、影が疾った。 あの念獣を駆る女性だ。「なにをしますの!」 怒りもあらわに、念獣を走らせる女性。ヒソカはぞっとするほど凄絶な笑みを浮かべ――カードで念獣を切り裂いた。「くうっ!」 念獣が負った傷と、全く同じ傷を受ける女性。身を庇う彼女に、ヒソカが襲いかかる。 間に合わない! とっさに判断して、思わず体が動く。“甘い誘惑(スイートドロップ) ”を具現化して咥える。これで“背後の悪魔(ハイドインハイド) ”の、相手に視認されていれば能力が使えないという制約を無視する。 少女の死角、即ち背後に跳んで、続けざまにヒソカの後方に、距離を限界までとって瞬間移動。 他人を巻き込んで移動するには、俺のオーラが対象全体を包んでいなければならない。即ち“円”が必須。“円”の苦手な俺だが、それでもそんなものを展開していれば、相手に見つかるのは自明の理。 すぐさまこちらに向きなおるヒソカ。 目が合った。 瞬間、こいつの実力を思い知らされた。“ユウ”になって、天空闘技場で“ユウ”の技術を自分のものにして、強くなったつもりだった。 だが、そんなもの、こいつ相手には何の対策にもなりはしない。 かつてレイザーに感じたような、絶対的な捕食者に対する絶望感に苛まれる。 ヒソカは口の端を三日月のごとく吊り上げ。 「そこまでにしておきたまえ!」 追いかけて来るヒソカと俺達の間に、誰かが割って入った。 見れば、目の前に立つのは白の防護服に身を包んだ男。 ブラボーだ。 ブラボーの珍妙な格好に気勢をそがれたのか、それともその身を包むオーラの力強さにか、ヒソカの足が一瞬、止まる。 そこに、ようやく試験官が止めに入ってきた。 ああ、でも、俺は結果を知っている。 なぜなら駆けつけてきた試験官は、ヒソカと因縁のあった、あの試験官だったのだから。 案の定ヒソカは試験官に手を出し、失格。退場となった。 最後までこちらを見ていたのが無茶苦茶怖かった。 目をつけられてないと、いいんだけど。 念獣使いの彼女もやはり怪我がひどいらしく、急ぎ、担架で運ばれていった。 でもって。「ブラボーなガッツだ、少女よ。君のおかげで同士の命が救われた!」 俺はブラボーに絡まれる羽目になった。「わたしの名はブラボー。キャプテン・ブラボーと呼んでくれたマッ!」 え、まで言えず、ブラボーはつんのめった。 どうやら真後ろにいた、例の鎖使いの少年に後頭部を蹴られたらしい。「何をする同士・カミト!」「何をするじゃないでしょう!? あんな危ないヤツと関わんなって言ったでしょうが!」 なんと、少年――カミトは女口調で話し始めた。 俺、ドン引き。 なまじ美形なだけに、恐ろしく気色悪い。たぶん、俺も人のこと言えないんだろうけど。「だが、ミコが襲われていては……」「だからわたしが試験官呼んで来たんでしょうが! 考え無しに前に出んなっての!」 ひとしきりブラボーに怒りをぶつけると、カミトは今度はこっちに向きなおった。「有難う。あなたも、もしかして“そう”なの?」 カミトが言外に含ませた意味は、同じ境遇ならよくわかる。と言うか、ブラボーの連れってだけで丸わかりだ。「たぶんそう」「うわ、やっぱそうなんだ。ブラ馬鹿とミコ以外で始めて見たわ」 ミコ、と言うのは、たぶんさっきの彼女の事なのだろう。カミトは感心すると、珍しそうにこちらを見てくる。「あなた達はなぜハンター試験に?」 俺の問いに、カミトはああ、とため息をつく。「設定の時にそのほうが自然かなって。まあものすごく後悔したけど」「わたしもだ。本当なら二つ星ハンターに設定したかったのだがな。それが無理だったので、いっそ無い方がブラボーだ、と」 こころなしかブラボーの声にも力が無い。「俺もそんな感じ、で、やっぱりいろいろ動くのに、俺の場合戸籍すら無いから不便なんだ」 ああ、と納得する二人。「流星街か」「苦労したんだね」 わかりすぎだろう。「わたし達はちょうど近郊の大都市でコイツ発見して集まったの」 やっぱりそうか。俺もこれはいい目印過ぎると思っていた。「わたしはカミト。よろしくね」「ユウ。よろしく」 こうして、俺はこのものすごく濃い二人組と出会った。ほかの念能力者達はこちらに関わってこない。と言うか露骨に目を背けてる。気持ちはわかる。俺もできればお近づきになりたくなかった。 ちなみに、一次試験の合格者は58人。念能力者たちは、ヒソカとミコをのぞいて全員合格していた。「ただ今より、二次試験の内容を発表する!」 試験官が病院送りになったからだろう、その放送が流れたのは小一時間ほど待たされた後だった。「15分以内に、このビルの屋上までたどり着くこと。手段は不問とする」「――手段は不問、ね」 放送を聞いて階段やエレベーターに詰め寄る受験者達を尻目に、カミトは不敵に笑う。「エレベーターは止められてるみたいだね。地上120階の屋上に行くのに、階段では間に合うかどうか微妙」「――なら、こうするまでだ」 ブラボーは、そう言うと、深く屈伸した。 何をする気なのか、ながめていると、ブラボーは猛烈な勢いで飛び上がった。「昇撃! ブラボーキック!!」 天井をぶち抜いて、ものすごい勢いで登、いや、昇っていくブラボー。「ユウちゃん、お先!」 カミトも、天井に空いた穴を飛び抜け、登って行った。「ま、そういうのが一番早いか」 俺もその有効性は認めるが、どうも暴れ解きくさい。 階段ルートで行くと、7、8秒で一階を登っていかなくてはいけない計算。 何もなければ不可能な数字ではないが、さて、求められているのは単純な体力なのか。 何か、機転を求められている気がする。 と、ひらめく。 エレベーターは、止められているだけなのだ。 皆が階段を駆け上る中、下へ。同じ考えに至ったのだろう、5、6人ほどが同じ方について来る。 目指すはエレベーター等の電気設備を制御する制御室だ。 そこでエレベーターに電気を通し、稼動させる。 残ったのが俺を合わせて7人では、定員オーバーになり様がない。 展望直通の高速エレベーターは、わずか3分で屋上階に俺達を運んだ。 2次試験の合格者は20名。内訳は、エレベーター組7人、階段組10人、ブラボールート3人だった。 階段に向かった人数がほぼ五分の1になっている事を考えれば、やっぱり階段には何か仕掛けがあったらしい。 ちなみに念能力者も一人消えていた。何があったのやら。 次の3次試験会場に向かうため、屋上ヘリポートから出発したヘリは、約3時間かけて洋上の豪華客船に着陸した。「みなさんご苦労。俺は三次試験の試験官、ギルだ」 迎えに出てきた男が名乗った。 白の背広にちょび髭、ポマードで髪を後ろに撫でつけた、胡散臭い雰囲気の男だ。 だが、身に纏うオーラに、独特の雰囲気がある。何らかの達人なのは間違いない。「ここは俺の主催する海上カジノだ。素人もいればプロも混じっている。今から君達に元手として10万ジェニーを渡す。方法は問わない。これをどうにかして3倍に増やすこと、それが合格条件だ」 ギルはそう言って指を鳴らす。 奥からきわどい格好をしたバニーガールが現れ、受験者の手元に、次々と現金が配られていく。 俺は、その格好に驚くより、何も感じない俺自身に驚愕した。 結構ナイスバディなのに。モロ好みなのに。性欲は頭じゃなく身体だと言うのだろうか。「―――ただし、盗みは無しだ。ここでのルールを守った上で、金を増やして来い。以上だ」 ギルの言葉に、受験者達が三々五々散ってゆく。 俺はショックでしばらく呆けていたようで、それをぼうっと見ていた。 今はそんなこと考えてる場合じゃない。気を取り直し、とりあえずカジノの中に入って様子を伺う。 カジノなんて、俺も“ユウ”も行ったことないが、なんとなくルールが分かるゲームもある。 トランプを使ったゲームや、スロットや、ルーレット。この辺りは、たぶん分かる。分かっても勝つ自信はさっぱりないが。 ざっと見てみると、目の配り方や物腰が只者でないやつが混じっている。たぶんギルの言っていたプロのギャンブラーだろう。 受験生達は、まだ大半が様子見。数人だけがすでにゲームを始めている。「心眼! ブラボーアイ!」 うち一人がブラボーであることは言うまでもない。 強運と眼力で、瞬く間にスロットの下にドル箱が積み上げられていく。それに乗せられたのか、様子見していた数人もゲームを始めた。 だが、よく考えたほうがいい。ギャンブルの勝率なんて、いいとこ五割だ。運の要素が強くて、どうやったって勝率10割にはならない。 そんな試験を、試験官が考えるはずがない。 絶対、いく通りかの抜け穴があるはずだ。 確実に勝つ方法。イカサマができればそれも可能かもしれないが、俺にそんな技術はない。 何か参考にならないかと、素人がプロのギャンブラーにカモられている様子を見てみる。 急所で上手くすり替えなどをやりながら、相手を熱くさせて身ぐるみを剥ぐ。イカサマはしても、やり過ぎはしない。絶妙な業だ。「嬢ちゃん、面白そうに見てるけど、どうだい? ちょっとやってみないか?」 じっと観ていたのが興味深そうに見えたのだろうか。プロの方が話しかけて来る。 今度はこちらをカモるつもりか。冗談じゃない。 言いさして、ふと妙案が思いつく。確実に勝つ方法。試してみるのもいいかもしれない。「――いいけど、一応カードは替えてね」 指先の手練は目を見張るものがあるが、彼は念能力者ではない。普通のギャンブラーだ。 そして職業は違うが、こちらも相手の虚を突く術は心得ている。逆に言えば、どんなときにイカサマするかもわかると言うことだ。見破れないということはないだろう。「お、嬢ちゃん、判ってるな。人の触ったカードはカットしろ、封の空いたカードで勝負はするな、ってね」 調子のいい事を言いながら、男はディーラーから封のついたカードをもらってくる。 封自体は純正のちゃんとしたもので、カード自体に仕掛けは無いと見た。「さっきのヤツと同じ、ポーカーでいいかい?」「うん。でもひとつ、いいかな」「何だい?」「わたし、こういうとこ始めてなんだけど、家では結構カードをやるんだ。そのルールでやっていい?」「どんなルールだい?」 男の顔が、一瞬、鋭くなった。やはり、ギャンブルに関しての嗅覚は鋭い。「ワンチェンジでドロップ無し。3戦やって勝ち越したほうが、あらかじめ賭けた全額がもらえるってルール」「……へえ、面白そうだ」 男は、一瞬でルールを反芻し、特に問題ないと考えたのだろう、にやりと笑った。「あと、重要なんだけど、イカサマの類は一切厳禁。イカサマが判ったら反則負けで掛け金を倍づけにして相手に払う。いい?」 わざとイカサマ警戒を強調し、さらに甘めの罰則を申し出る。この甘すぎる罰則で、男はわたしを完全に舐めたらしい。たぶん半端にギャンブルをかじってる素人、くらいに思ったんじゃないだろうか。甘い顔を作って諒解してきた。 結果は言うまでもない。 男のイカサマを見抜き、俺は見事チップを3倍に増やした。 この試験は皆かなり苦戦したらしく、合格者はたったの10名だった。 ブラボーの勢いに乗せられ、まともにギャンブルした奴らの大半が不合格だったのは言うまでもない。 洋上で一泊した受験生達は次の日の朝、停泊した島で降ろされた。 停泊所こそあるものの、どうやら無人島らしい。そのまま海岸まで連れていかれた俺たちを待っていたのは、巨大なアヒルだった。 正確にはアヒル型の足漕ぎボート。それが人数分きちんと用意されている。 この時点でイヤな予感はしていた。「四次試験の内容は、このボートで島を一周すること。無事戻ってくれば、合格だ」 試験官の言葉で、不吉な予感は倍増した。 ――もちろんその予感は正しかった。 潮流の関係上、人を襲うサメが生息していたり、渦潮地帯があったり、潮の目を読まなければ即座礁の暗礁地帯があったり、何故か10年に一度の台風が襲ってきたりで、ゴールしたときには3人ほどが行方不明になっていた。 一昼夜にわたる旅の末、無事ゴールしたあと、二本の足で立てたのはブラボーだけだったことからも、どれだけ厳しい試験だったか知れよう。 というか、ブラボー。突撃バカっぽいくせに万能超人だなんて、すげえ理不尽だ。「よし、次は俺が乗るボートについて来い」 試験が終わってほっとしたところへ、四次試験の試験官がモーターボートで沖に走り出した。 すぐについて行けたのはブラボーだけ。あとはカミトですらよろよろと力なくポートに向かった。 俺も例外ではなく、ただ気力を振り絞ってボートをこぎ出した。一人は、ついに動かなかった。 2、3キロも進んだころだろう。 スワンの向かう先に、試験官のモーターボートが停泊していた。 その向こうには、大型のクルーザー。その甲板に、試験官達が並んでいるのが見えた。「おめでとう、諸君。最終試験、合格だ」 そう言われたとき、言葉の内容が理解できなかった。「肉体を極限まで酷使した四次試験直後、不意に襲った想定外の試練。それに立ち向かうブラボーなガッツこそが、ハンターに必要な資質なのだ!」 他の受験者達も、似たような様子だったのだろう。先に到着していたブラボーが試験官に代わって皆に説明した。 彼の言葉に、皆思わずスワンに突っ伏した。気力も消耗し尽したのだろう。 とにかく、これで無事、試験に合格したのだ。俺はひそかに、小さくガッツポーズをした。 クルーザーの中で一泊し、港からほど近い事務所でライセンスをもらったあと、俺とブラボー、カミトは喫茶店でこれからの事を話しあっていた。「ユウは、これからどうするの?」「俺は、天空闘技場に連れが居るからな。取り合えずそいつの所に戻るつもり」「へえ。どんなやつなの?」「性格と能力を一言で言えば……計算高いゴン?」「うわ、マジ? ちょっと会ってみたいけど……わたし達、ミコが治るまで動けないから」 そういえば、忘れていたが、二人にはもうひとり連れがいたのだ。 その後が一気呵成過ぎてすっかり忘れていたが……いやなこと思い出した。 そう言えばヒソカも時々天空闘技場に出没するんだよな。 絶対出会わないように気をつけないと。「ああ。こっちもいろいろ動かなきゃいけないからな。一応、俺の携帯番号とホームコード渡しておくよ」「うむ。こちらも何かあれば連絡させてもらう。離れていても我々は同士だ。同士・ユウよ」 いきなり同士にされた! いや、いっしょに試験受けるうちになんだか奇妙な連帯感が生まれたのは確かだけど。 何か、そのうち“ブラボーとユカイな仲間達”に組み込まれそうですげえイヤだ。 人格的にじゃなくて、ヴィジュアル的な問題なんだけど。 まあその後、二人と何でも無い雑談をして、喫茶店を出た。 正直別れは苦手だけど、またすぐに会えると確信できるから、さっぱりと分かれられた。 違う道を行っても、目的地が同じなら、きっと道はまた交錯する。 それを楽しみに、二人に向かって手を振り上げた。