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No.2186の一覧
[0] Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)【完結】[寛喜堂 秀介](2021/08/11 20:34)
[1] Re[2]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:03)
[2] Re[3]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:05)
[3] Re[4]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2009/10/14 20:00)
[4] Re[5]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:08)
[5] Re[6]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/09/30 13:10)
[6] Re[7]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:28)
[7] Re[8]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/01 19:33)
[8] Re[9]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 00:23)
[9] Re[10]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/03 21:55)
[10] Re[11]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:29)
[11] Re[12]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/05 19:37)
[12] Re[13]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/07 08:08)
[13] Re[14]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 21:34)
[14] Re[15]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/08 20:32)
[15] Re[16]:Greed Island Cross(現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/10 21:14)
[16] Re[17]:Greed Island Cross 外伝 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2007/10/16 00:34)
[17] Greed Island Cross 外伝2 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/01 18:50)
[18] Greed Island Cross 外伝3 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/17 22:31)
[19] Greed Island Cross 外伝4 (現実→HUNTER×HUNTER)[寛喜堂 秀介](2008/03/20 20:54)
[20] Greed Island Cross-Another Word 01[寛喜堂 秀介](2008/03/24 23:03)
[21] Greed Island Cross-Another Word 02[寛喜堂 秀介](2008/03/27 00:11)
[22] Greed Island Cross-Another Word 03[寛喜堂 秀介](2008/03/30 20:44)
[23] Greed Island Cross-Another Word 04[寛喜堂 秀介](2008/04/02 19:06)
[24] Greed Island Cross-Another Word 05[寛喜堂 秀介](2008/04/11 22:26)
[25] Greed Island Cross-Another Word 06[寛喜堂 秀介](2008/04/18 01:47)
[26] Greed Island Cross-Another Word 07[寛喜堂 秀介](2008/04/19 22:17)
[27] Greed Island Cross-Another Word 08[寛喜堂 秀介](2008/04/23 21:35)
[28] Greed Island Cross-Another Word 09[寛喜堂 秀介](2008/04/26 23:46)
[29] Greed Island Cross-Another Word 10[寛喜堂 秀介](2008/04/29 20:47)
[30] Greed Island Cross-Another Word 11[寛喜堂 秀介](2008/05/19 01:11)
[31] Greed Island Cross-Another Word 12[寛喜堂 秀介](2008/05/29 17:37)
[32] Greed Island Cross-Another Word 13[寛喜堂 秀介](2008/06/01 22:07)
[33] Greed Island Cross-Another Word 14[寛喜堂 秀介](2008/06/05 01:35)
[34] Greed Island Cross-Another Word 15[寛喜堂 秀介](2008/06/08 22:46)
[35] Greed Island Cross-Another Word 16[寛喜堂 秀介](2008/06/16 01:12)
[36] Greed Island Cross-Another Word 17[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:13)
[37] Greed Island Cross-Another Word 18[寛喜堂 秀介](2008/07/26 23:45)
[38] Greed Island Cross-Another Word 19[寛喜堂 秀介](2008/07/27 23:41)
[39] Greed Island Cross-Another Word 20[寛喜堂 秀介](2008/07/29 22:13)
[40] Greed Island Cross-Another Word 21[寛喜堂 秀介](2008/07/31 23:43)
[41] Greed Island Cross-Another Word 22[寛喜堂 秀介](2008/08/02 21:26)
[42] Greed Island Cross-Another Word 23[寛喜堂 秀介](2008/08/04 23:09)
[43] Greed Island Cross-Another Word 24[寛喜堂 秀介](2008/08/07 00:02)
[44] Greed Island Cross-Another Word 25[寛喜堂 秀介](2008/08/10 00:28)
[45] Greed Island Cross-Another Word 26[寛喜堂 秀介](2008/08/13 09:15)
[46] Greed Island Cross-Another Word 27[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:57)
[47] Greed Island Cross-Another Word 28(完)[寛喜堂 秀介](2008/08/19 23:51)
[48] Greed Island Cross 外伝5[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:42)
[49] 登場人物(ネタバレあり)[寛喜堂 秀介](2009/06/06 20:55)
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[2186] Greed Island Cross-Another Word 13
Name: 寛喜堂 秀介◆c56f400a ID:5bc0a776 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/06/01 22:07



 空を仰ぐ。

 高地ゆえか、色合いの淡い空に、それはひときわ存在感を主張していた。



真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラックドラゴン



 その名の通り、紅玉のごとき赤い瞳を持つ黒竜だ。

 空を滑るように頭上を過ぎていった黒竜は、弧を描いて滑るように着地した。

 あらためて見れば、黒竜の巣だったらしい。浅いすり鉢状の山頂には人骨まで転がっていた。



 ――いや、ありえない。



 あれは間違いなくあちら・・・のもの。

 それもおそらく青眼の駆り手――海馬と同質の念能力だ。なら、それが野放しになっているなど、ありえない。

 黒竜は、異様な存在感をもってこちらを凝視している。

 俺にも見えるということは、実体に近いものなのだろう。

 黒竜は低くうなり。



「――ああ、おや、お客人ですか」



 不意に、言葉を吐きだした。

 やや高いハスキーボイス。男とも、女ともとれる。それは黒竜の口から――



「よっこいしょ、と」



 不意に、人骨が立ち上がった。

 ツンデレの悲鳴が耳をつんざく。

 そのコダマが収まらぬうち、人骨は体を払うしぐさをしてこちらに一礼してきた。



「はじめまして。その制服を見るに、同胞の方ですね? わたし、鈴木っ!?」



 なんだか巨大なドリルが骸骨をなぎ払っていった。

 むろんそんなことが出来るのはひとりしかいない。



「こ、この痴れ者がっ! 驚かすでないわっ!!」



 ロリ姫だ。乗っ取られてやがる。

 ということは、ツンデレは気絶したのか。

 ゴーストハンターとして、やっぱり問題ある気がする。いや、俺も心臓飛び出るかと思ったけど。



「ななな、何をなさるんですかっ!?」

「黙れ! その様な格好で現われるでない! 妾の心臓を止めるつもりか!!」

「いや、そんなこと言われましても」



 呆然とする人骨。まあ、確かに言われても困るだろうな。ロリ姫、とっくに死んでるんだし。

 それにしても、こんな外見モデルもあったのか。造るほうも選ぶほうも酔狂だ。

 骸骨に決闘盤デュエルディスクってまたやたらとシュールだし。

 ロリ姫の一撃喰らって平気な顔してるってことは、相当な実力のはずだ。それでいて俺が平気でいられるってことは、敵意がないのだろう。



「どうも、同胞――鈴木くんでいいか?」

「はい。いや、よかった。あなたは話の通じる方のようですねハグッ!?」



 言葉の途中でロリ姫のドリルが人骨を薙いでいった。



「妾の頭越しに話をするでない!!」

「ひいぃ、この人怖いですっ!」



 ロリ姫、自重しろ。

 鈴木くんが怯えているじゃないか。

 しかし、なんというか、ロリ姫も鈴木くんに過剰反応しすぎだと思う。

 ひょっとして、怖いんだろうか。



「にゃにおっ!? こ、怖いわけにゃいでありょうが!!」



 思わず口に出していたのはさておき。図星だったのだろう。ロリ姫は慌てたように手を振りまわしておもいきり自己主張する。

 どうでもいいけど舌かみすぎだ。

 まあ、ロリ姫はおいといて。



「それにしても、何であんた、そんな悪趣味なモデル使ってるんだ。グリードアイランドで出合ったら、絶対モンスター扱いだぞ?」



 その言葉に、人骨はもじもじと体をゆすらせる。不気味だ。



「いやその、わたし……こっちで死んじゃったんですよ。いや、参りました。ははは」



 カラカラと笑う鈴木くん。

 いや、ひどい目にあってるはずなのに。なぜだろう。その様子がやたらと滑稽に見える。



「それにしても、あなた」

「アズマだ」

「アズマさん、どうしてこんなところへ?」



 ひとしきり笑って。鈴木くんはそんなことを聞いてきた。

 まあ、言っても問題ないだろう。



「念能力を失うはめになってな。この崖に生えてる草が必要なんだ」

「あーあーあー」



 人骨は拳で掌をたたく。乾いた音しかしなかったが。



「これですね」



 人骨は懐からなにやら草をとり出した。その色合い形状から、ハーブの言っていた仙草だとわかる。



「って、いま、どこから出したんだ」



 鈴木くんは完全無欠な人骨である。服すらない。身につけているものといえば決闘盤デュエルディスクだけだ。



「はて……? ま、どうでもいいじゃありませんか」



 まあ、いいけど。存在自体冗談みたいなヤツだし。



「この草も、わたしにはもう必要ないものですんで、よかったら差し上げますよ」



 そう言って、無遠慮に。物言う骸は仙草を差し出してきた。



「いいのか?」

「ええ。わたしには、ほら、もう必要ないものですし」



 言って、体を示して見せる鈴木くん。

 まあ、そうみたいだけど。軽いな。



「その言い方だと、生前は必要だったのか?」

「はい。わたしの念能力の誓約が、負けたらオーラを行使する力の喪失でしたので、万一のために、と。まあ、それで死んじゃったら元も子もないんですがね」



 人骨は軽い調子でカラカラと笑う。



「ま、そんなわけで、わたしには必要ないものなんですけど……かわりにすこし、働いていただけませんかね?」



 鈴木くんはそんなことを言ってきた。



「何をすればいいんだ?」



 やや警戒して尋ねる。

 たいていの要求は呑むつもりだが、それでも頷けないことは、ある。

 だが、気組みを外すように。物言う骸は軽い調子で下顎を落とす。



「いやなに、電脳ネットでも何でも、噂を広げていただければいいんですよ。この山に黒竜が出る、とね。わたし、自縛霊らしくてここから動けませんので」

「竜が出る? それだけでいいのか?」



 言葉をなぞって、頭に閃くものがあった。

 竜が出る。その噂を追っていた人物がいた。この骸骨と、同じ能力の持ち主。



「ええ。おそらく、それでわかるでしょう――いえ、けっこうです。まったくけっこうになりました」



 意味がわからず、口を開きかけ――気づいた。見えないからこそ、くっきりと感じられる気配。

 ふり返る。

 はるか遠くに、青眼の姿が見えた。









「変わり果てたな」



 地面に降り立ち、開口一番。海馬瀬人はそう言った。

 視線は俺を通り越し、骸と化した決闘者デュエリストに向けられている。



「ええ。少々どじってしまいまして。ですが、まあ、決着はつけられそうで、なによりです」



 物言う骸も、それに応えるように視線を返す。

 もはや、俺たちなど眼中にない。お互いの気が高ぶっているのが、はた目にもわかる。それに弾かれるように、身を引いた。

 辛い。

 自然に放射されるオーラが、“絶”状態のこの身には毒だ。

 この場にいることさえ、できないのか。

 と。目の前に、ロリ姫が割って入ってくる。

 とたんに、楽になった。

 まだ辛いが、居られないほどじゃない。



丈夫おとこの勝負よ。止めるは無粋」



 そう言って、ロリ姫はにやりと笑う。



「それより、主にはやるべきことがあろう」



 言われて、気づく。

 そうだ。何のためにこんなところへ来たんだ。俺の手にあるものは、何だと言うんだ。

 迷わず、口の中に放り込む。

 煎じて呑めといわれていた気がしたが、構わない。砂ごと汁になるまで咀嚼し、嚥下した。

 目立った変化はない。だが、すこし楽になった気がした。



「……貴様がなぜ、その様な姿になったか。あえて問うまい」



 海馬は、静かに口を開いた。

 超然とした居住まいは以前のまま。だが、すこし威圧を増したように感じる。



「総オーラ量8000。オレに等しい力を具えて、いま、この場にいる。それがすべてだ」



 ゆっくりと、海馬は人骨に近づいていく。

 応じるように、彼も近づく。両者の手にあるのは、カードの束。



「――わかっているな。オレたちの念能力」



 お互いデッキを交換しながら、海馬が口を開く。



「ええ。決闘デュエル戦闘バトルする能力。敗れれば、念能力はおろか念を行使する力すら喪失する」



 カードをシャッフルしながら、物言う骸は答える。



「すなわち、幽霊であるわたしは、消滅するというわけですな」



 平然と、彼は言った。その言葉すら、道化じみて聞こえる。



「これまた不利な条件ですな」



 彼の言葉を、海馬は鼻で笑った。



「あくまで、条件は五分だ。でなくば対等の勝負とは言えまい」



 海馬は言う。



「オレが敗北すれば、この命を差し出そう」



 その覚悟に、彼は無言で応じた。言葉すら無粋とでも言うように。

 お互いのカードを返して。二人は互いに背を向け、距離を取った。高地の静寂に、ただ二種の足音だけが逆らっていた。

 対峙し、互いに無言。

 痛いほどの沈黙を海馬の指が切り払った。



「――よかろう。貴様に引導を渡してやろう!!」

「そう簡単にやられはしませんがね」



 芯まで響く強い声に、軽妙な軽口が返った。



決闘デュエル!!』



 二人の声が重なった。

 互いに五枚のカードを引き抜くと、人骨の決闘盤デュエルディスクに赤い光がともった。



「わたしのターン!」



 肉のない乾いた指が、決闘盤デュエルディスクからカードを引き抜く。



「マジックカード発動! 未来融合-フューチャー・フュージョン! 融合素材となるモンスターを墓地に送ることで、二ターン後に融合モンスターを特殊召喚します! 指定するのはF・G・Dファイブゴッドドラゴン! 五体のドラゴン族モンスターカードを墓地に送ります! さらに、手札よりデコイドラゴンを召喚! このモンスターを除外し、わたしはレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを召喚します!!」



 骸骨の言葉とともに、黒い金属質の外皮を持つ、機械じみた翼竜が現われる。



「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果発動! 1ターンに1度だけ、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から同名カード以外のドラゴン族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる――出なさい真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラックドラゴン!」



 応えるように。現われたのはさきほどの黒竜だ。



「そしてマジックカード“黒炎弾”を発動します! 真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラックドラゴンの元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える!」



 竜の顎が開かれた、と、見えたと同時。漆黒の火球が海馬を襲った。



「ぐっ!」



 なす術もなく、海馬は直撃を受ける。

 ダメージは見られない。かわりに海馬から感じられる圧力が減った――いや。



「オーラが、減じた?」



 脇でロリ姫がつぶやく。

 その通りだ。仙草が聞いてきたのか、おぼろげながら見える。

 海馬のオーラが減っている。

 おそらく、彼らがやっているのは、本当に決闘デュエル。オーラをライフポイントに見立て、ダメージのかわりにオーラを減らす。

 そして、オーラをすべて失えば、オーラを使う術すら失うのだ。



「ふん」



 だが。そのような重圧など皆無だと言うように、海馬は鼻を鳴らす。



「俺のターン! 手札よりマンジュ・ゴッドを召喚! このカードは自分のデッキから儀式モンスターカードまたは儀式魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる! 高等儀式術を手札に加え、カードを一枚セットしてターンエンドだ!」



 海馬が召喚したのは、体中に手の張り付いた羅漢のようなモンスターだ。

 鈴木が召喚した二体のモンスターより、明らかに見劣りする。



「わたしのターン! 融合呪印生物-闇を召喚し、効果を発動! このカードと真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラックドラゴンを生贄に捧げ、出でませいブラックデーモンズドラゴン!!」



 黒い塊と、真紅眼の黒竜レッドアイズ・ブラックドラゴンの像が歪み、凶悪なフォルムをもった竜とも悪魔ともつかないモンスターが出現した。



「この二体で攻撃です!!」

「――甘い! リバースカードオープン! 激流葬!!」



 二体のモンスターがモンスターに襲いかかろうとした、刹那。海馬の伏せられていたカードが表を向く。

 そこから噴き出してきた怒涛のような水は、モンスターたちをすべて洗い流していった。



「くっ、さすがです。ではカードを一枚場に伏せてターンエンドです!」



 人骨の前に伏せられたカードの像が浮かび上がる。



「俺のターン! 手札より仮面竜マスクド・ドラゴンを召喚! 仮面竜マスクド・ドラゴンでダイレクトアタック!」



 以前にも見た、赤と白、二色に彩られた竜が物言う骸に襲いかかる。

 その鍵爪の先が触れる、直前。



「――リバースカードオープン! 正当なる血統! 墓地より蘇りなさいレッドアイズ!」



 現われた黒竜が、それを阻んだ。



「ふん」



 海馬は鼻を鳴らし、仮面竜マスクド・ドラゴンを退ける。



「カードを二枚セットしてターンエンドだ」



 海馬の前に、二枚の伏せカードが現われた。

 攻防は、互角。いや、鈴木のほうがやや優勢にもみえる。なら、最初に大ダメージを喰らっている海馬のほうが、不利か。



「わたしのターン! 未来融合-フューチャー・フュージョンの効果で、現れなさいF・G・Dファイブゴッドドラゴン!!」



 その予感を助長するように、鈴木の前に巨大な五つ首竜が現われた。サイズ、威圧ともに、あの究極龍をしのいでいる。



「さらに竜の鏡ドラゴンズ・ミラー! 自分フィールド上または墓地から、五体のドラゴン族モンスターを除外しF・G・Dファイブゴッドドラゴンを召喚です!!」



「リバースカードオープン! 神の宣告! ライフポイントの半分を代償に、二体目のF・G・Dファイブゴッドドラゴンの召喚は阻止させてもらう!」



 海馬の言葉とともに、現れかけた二体目の五つ首竜は虚空で破壊された。

 だが、代償は大きい。ライフポイントの半分、ということは、オーラを半ば、削られたに等しい。

 そして。



「いまの神の宣告であなたのライフはのこり2800、ですか。仮面竜マスクド・ドラゴンの攻撃力は1400。対してF・G・Dファイブゴッドドラゴンの攻撃力は5000。攻撃が通れば、あなたの負けです」

「ふん」



 物言う骸の宣言に、海馬は鼻を鳴らす。



「遠慮は無用だ。その一撃で俺を殺せると思うのなら、やってみるがいい」



 絶対の窮地に、海馬の目は死んでいない。それが伏せられたカードによるものか、それともただの強がりか。まったく読めない。



「ならば行きなさい、F・G・Dファイブゴッドドラゴン!!」 



 五つ首竜が、仮面竜マスクド・ドラゴンに襲いかかる――刹那。



「速攻魔法発動! 収縮!」



 海馬のカードによるものだろう。F・G・Dファイブゴッドドラゴンのサイズが半分になる。

 それでも、五つ首竜の額は仮面竜マスクド・ドラゴンをとらえ、その余波が海馬に襲いかかる。



「くっ! 仮面竜マスクド・ドラゴンの効果で仮面竜マスクド・ドラゴンを守備表示で特殊召喚!」



 破壊されたモンスターにかわり、あらたな仮面竜マスクド・ドラゴンが召喚された。

 と、海馬が揺れた。



「――ふん」



 何とか体勢を立て直す海馬だが、あきらかに精彩を欠いている。

 それも当然か。F・G・Dファイブゴッドドラゴンの攻撃力が半分の2500だったとしても、いまの攻防で残りライフは2000を割っている計算だ。

 目に見えるオーラも、明らかに減じている。



「何とか生きながらえているようですね!」



 物言う骸の揶揄にも応えない。

 だが。海馬の目は、いまだ死んでいない。



「オレのターン、ドロー!」



 そのカードを引いて、海馬の口が不敵に歪んだ。



「手札よりマジックカード大嵐を発動!」

「なんですって!?」



 海馬の手より、風が巻き起こった。荒れ狂う風はまさに大嵐。それが鈴木の前に浮かんだ二枚のカード、正当なる血統と未来融合-フューチャー・フュージョンを破壊した。

 同時に、F・G・Dファイブゴッドドラゴンとレッドアイズが破壊される。



「そして手札より高等儀式術を発動! デッキより青眼を墓地に送り、儀式モンスターカオスソルジャーを召喚!!」



 現われたのは、鋭角的な鎧を着込んだ戦士だ。手に持つ剣に、まがまがしいものを感じる。



「征けっ! 仮面竜マスクド・ドラゴン! カオスソルジャー!!」



 二体のモンスターが鈴木に襲いかかる。



「ぎゃああああっ!!」



 魂消る悲鳴があがった。その痛みは、俺にはわからない。だが、その様子すら滑稽に見える。



「くっ。わたしのターン、ドロー!」



 人骨が、笑った。肉のない、空ろな口蓋が、確かに笑みをかたどった。



「こちらも引きましたよ。黒竜の雛を召喚! そしてそれを除外し、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを召喚します!! その効果でふたたび出なさいレッドアイズ!」



 ふたたび。二匹の黒竜が現われる。



「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンで仮面竜マスクド・ドラゴンに攻撃です! ダークネス・メタル・フレア!!」



 輝く火球が仮面竜マスクド・ドラゴンを貫く。



「ぐっ!!」



 海馬は、口をゆがめる。



仮面竜マスクド・ドラゴンの効果発動! 仮面竜マスクド・ドラゴンを守備表示で特殊召喚する!」



 だが、間髪入れず。



「レッドアイズで仮面竜マスクド・ドラゴンに攻撃です!」



 レッドアイズの攻撃が、仮面竜マスクド・ドラゴンを蹴散らした。



「……仮面竜マスクド・ドラゴンの効果でミストドラゴンを守備表示で特殊召喚する」

「いまの攻撃で、あなたの残りライフは300ですか」



 物言う骸が、がらんどうの口を開く。



「おまけに手札は一枚っきり。いよいよもって進退極まりましたね」

「ふん。笑止」



 海馬は、その言葉を鼻で笑う。



「その様な台詞は、オレのライフポイントをゼロにしてから言え! オレのターン、ドロー! カオスソルジャーでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンに攻撃!」



 海馬の命のもと、カオスソルジャーがレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを斬り伏せる。



「わたしのターン、ドロー! 手札よりキラートマトを召喚します!」



 言葉とともに、凶悪な面相をしたトマトが召喚される。



「キラートマトで、カオスソルジャーに攻撃!」



 馬鹿な。

 カオスソルジャーとあのトマトでは、明らかに前者のほうが攻撃力は上。みすみすライフを減らすようなものだ。

 案の定、キラートマトはカオスソルジャーに斬り伏せられる。

 かわりに現われたのは、闇色の塊。



「キラートマトの効果により、デッキから融合呪印生物-闇を攻撃表示で特殊召喚します! そして効果発動!! レッドアイズと融合呪印生物-闇を生贄にふたたび出でませブラックデーモンズドラゴン!」



 巻きなおしのように、ふたたび現われる、竜とも悪魔ともつかぬまがまがしい融合体。

 それに対するはカオスソルジャー。混沌の戦士。だが、わずかに及ばない。



「このターンに決めてしまわないと、わたしの勝ちが決まってしまいますよ」



 おどけたように、物言う骸は下あごを落とす。

 その仕草は、道化じみていながら、どこか物悲しく見えた。



「――オレのターン!」



 海馬が、カードを引き抜く。

 このターン、有効なカードを引かなければ、海馬が負ける。

 それは、念能力の喪失。そして己の死を意味する。

 だが。

 ちらとカードに目を流し、海馬は不敵に笑った。



「ふっ。手札よりマジックカード融合を発動! 手札の融合代用モンスター、沼地の魔神王と場のカオスソルジャーを融合し――出でよ! 究極竜騎士マスターオブドラゴンナイト!!」



 カオスソルジャーの像が歪む。現われたのは、青眼の三つ首竜。いや、それを駆る戦士か。



「なんとまあ」



 物言う骸は、苦笑した。



「鬼のような引き、さすがです。まさかこの状況で究極竜騎士マスターオブドラゴンナイトを召喚するとは」



 対峙する二匹の竜。だが、明らかに海馬の切り札のほうが、強い。



「あなたの勝ちです」



 その言葉に重なるように。



「ギャラクシー・クラッシャー!!」



 究極竜騎士マスターオブドラゴンナイトの攻撃が、ブラックデーモンズドラゴンを粉砕した。

 衝撃が、一面を薙いだ。

 見ているこちらにまで、それは牙を向く。激しい圧力にさらされて、応えるように体からオーラが噴き出して来た。

 瞬間、見えた。

 吹き飛ばされる人骨に重なった彼の本当の姿を。そしてその満足げな表情を。

 急速に、骸骨がばらばらに崩れ落ちていく。

 念を失った以上、もはや彼は存在できない。物言わぬ骸が、地に散らばった。

 主を失った決闘盤デュエルディスクが、主の敗北を主張している。

 それを超然と見下ろし。海馬は、決闘盤デュエルディスクを拾い上げた。

 彼に対し、海馬は何を思うのか、わからない。

 ただ、海馬は彼の形見デッキを抜き取り、そして空になった決闘盤デュエルディスクを投げた。

 硬い地面に、なぜか決闘盤デュエルディスクはつきささる。

 なぜか、それが墓標のように見えた。



「仲間、だったのか?」



 背を向け、去っていく海馬に、尋ねた。どうしようもなくそれが気になった。

 海馬が背中越しに寄越した答えを、俺は忘れることはないだろう。



「ただの、“同胞”だ」



 海馬は、そう言った。





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