空を仰ぐ。 高地ゆえか、色合いの淡い空に、それはひときわ存在感を主張していた。「真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)」 その名の通り、紅玉のごとき赤い瞳を持つ黒竜だ。 空を滑るように頭上を過ぎていった黒竜は、弧を描いて滑るように着地した。 あらためて見れば、黒竜の巣だったらしい。浅いすり鉢状の山頂には人骨まで転がっていた。 ――いや、ありえない。 あれは間違いなくあちら(・・・)のもの。 それもおそらく青眼の駆り手――海馬と同質の念能力だ。なら、それが野放しになっているなど、ありえない。 黒竜は、異様な存在感をもってこちらを凝視している。 俺にも見えるということは、実体に近いものなのだろう。 黒竜は低くうなり。「――ああ、おや、お客人ですか」 不意に、言葉を吐きだした。 やや高いハスキーボイス。男とも、女ともとれる。それは黒竜の口から――「よっこいしょ、と」 不意に、人骨が立ち上がった。 ツンデレの悲鳴が耳をつんざく。 そのコダマが収まらぬうち、人骨は体を払うしぐさをしてこちらに一礼してきた。「はじめまして。その制服を見るに、同胞の方ですね? わたし、鈴木っ!?」 なんだか巨大なドリルが骸骨をなぎ払っていった。 むろんそんなことが出来るのはひとりしかいない。「こ、この痴れ者がっ! 驚かすでないわっ!!」 ロリ姫だ。乗っ取られてやがる。 ということは、ツンデレは気絶したのか。 ゴーストハンターとして、やっぱり問題ある気がする。いや、俺も心臓飛び出るかと思ったけど。「ななな、何をなさるんですかっ!?」「黙れ! その様な格好で現われるでない! 妾の心臓を止めるつもりか!!」「いや、そんなこと言われましても」 呆然とする人骨。まあ、確かに言われても困るだろうな。ロリ姫、とっくに死んでるんだし。 それにしても、こんな外見モデルもあったのか。造るほうも選ぶほうも酔狂だ。 骸骨に決闘盤(デュエルディスク)ってまたやたらとシュールだし。 ロリ姫の一撃喰らって平気な顔してるってことは、相当な実力のはずだ。それでいて俺が平気でいられるってことは、敵意がないのだろう。「どうも、同胞――鈴木くんでいいか?」「はい。いや、よかった。あなたは話の通じる方のようですねハグッ!?」 言葉の途中でロリ姫のドリルが人骨を薙いでいった。「妾の頭越しに話をするでない!!」「ひいぃ、この人怖いですっ!」 ロリ姫、自重しろ。 鈴木くんが怯えているじゃないか。 しかし、なんというか、ロリ姫も鈴木くんに過剰反応しすぎだと思う。 ひょっとして、怖いんだろうか。「にゃにおっ!? こ、怖いわけにゃいでありょうが!!」 思わず口に出していたのはさておき。図星だったのだろう。ロリ姫は慌てたように手を振りまわしておもいきり自己主張する。 どうでもいいけど舌かみすぎだ。 まあ、ロリ姫はおいといて。「それにしても、何であんた、そんな悪趣味なモデル使ってるんだ。グリードアイランドで出合ったら、絶対モンスター扱いだぞ?」 その言葉に、人骨はもじもじと体をゆすらせる。不気味だ。「いやその、わたし……こっちで死んじゃったんですよ。いや、参りました。ははは」 カラカラと笑う鈴木くん。 いや、ひどい目にあってるはずなのに。なぜだろう。その様子がやたらと滑稽に見える。「それにしても、あなた」「アズマだ」「アズマさん、どうしてこんなところへ?」 ひとしきり笑って。鈴木くんはそんなことを聞いてきた。 まあ、言っても問題ないだろう。「念能力を失うはめになってな。この崖に生えてる草が必要なんだ」「あーあーあー」 人骨は拳で掌をたたく。乾いた音しかしなかったが。「これですね」 人骨は懐からなにやら草をとり出した。その色合い形状から、ハーブの言っていた仙草だとわかる。「って、いま、どこから出したんだ」 鈴木くんは完全無欠な人骨である。服すらない。身につけているものといえば決闘盤(デュエルディスク)だけだ。「はて……? ま、どうでもいいじゃありませんか」 まあ、いいけど。存在自体冗談みたいなヤツだし。「この草も、わたしにはもう必要ないものですんで、よかったら差し上げますよ」 そう言って、無遠慮に。物言う骸は仙草を差し出してきた。「いいのか?」「ええ。わたしには、ほら、もう必要ないものですし」 言って、体を示して見せる鈴木くん。 まあ、そうみたいだけど。軽いな。「その言い方だと、生前は必要だったのか?」「はい。わたしの念能力の誓約が、負けたらオーラを行使する力の喪失でしたので、万一のために、と。まあ、それで死んじゃったら元も子もないんですがね」 人骨は軽い調子でカラカラと笑う。「ま、そんなわけで、わたしには必要ないものなんですけど……かわりにすこし、働いていただけませんかね?」 鈴木くんはそんなことを言ってきた。「何をすればいいんだ?」 やや警戒して尋ねる。 たいていの要求は呑むつもりだが、それでも頷けないことは、ある。 だが、気組みを外すように。物言う骸は軽い調子で下顎を落とす。「いやなに、電脳ネットでも何でも、噂を広げていただければいいんですよ。この山に黒竜が出る、とね。わたし、自縛霊らしくてここから動けませんので」「竜が出る? それだけでいいのか?」 言葉をなぞって、頭に閃くものがあった。 竜が出る。その噂を追っていた人物がいた。この骸骨と、同じ能力の持ち主。「ええ。おそらく、それでわかるでしょう――いえ、けっこうです。まったくけっこうになりました」 意味がわからず、口を開きかけ――気づいた。見えないからこそ、くっきりと感じられる気配。 ふり返る。 はるか遠くに、青眼の姿が見えた。「変わり果てたな」 地面に降り立ち、開口一番。海馬瀬人はそう言った。 視線は俺を通り越し、骸と化した決闘者(デュエリスト)に向けられている。「ええ。少々どじってしまいまして。ですが、まあ、決着はつけられそうで、なによりです」 物言う骸も、それに応えるように視線を返す。 もはや、俺たちなど眼中にない。お互いの気が高ぶっているのが、はた目にもわかる。それに弾かれるように、身を引いた。 辛い。 自然に放射されるオーラが、“絶”状態のこの身には毒だ。 この場にいることさえ、できないのか。 と。目の前に、ロリ姫が割って入ってくる。 とたんに、楽になった。 まだ辛いが、居られないほどじゃない。「丈夫(おとこ)の勝負よ。止めるは無粋」 そう言って、ロリ姫はにやりと笑う。「それより、主にはやるべきことがあろう」 言われて、気づく。 そうだ。何のためにこんなところへ来たんだ。俺の手にあるものは、何だと言うんだ。 迷わず、口の中に放り込む。 煎じて呑めといわれていた気がしたが、構わない。砂ごと汁になるまで咀嚼し、嚥下した。 目立った変化はない。だが、すこし楽になった気がした。「……貴様がなぜ、その様な姿になったか。あえて問うまい」 海馬は、静かに口を開いた。 超然とした居住まいは以前のまま。だが、すこし威圧を増したように感じる。「総オーラ量8000。オレに等しい力を具えて、いま、この場にいる。それがすべてだ」 ゆっくりと、海馬は人骨に近づいていく。 応じるように、彼も近づく。両者の手にあるのは、カードの束。「――わかっているな。オレたちの念能力」 お互いデッキを交換しながら、海馬が口を開く。「ええ。決闘(デュエル)で戦闘(バトル)する能力。敗れれば、念能力はおろか念を行使する力すら喪失する」 カードをシャッフルしながら、物言う骸は答える。「すなわち、幽霊であるわたしは、消滅するというわけですな」 平然と、彼は言った。その言葉すら、道化じみて聞こえる。「これまた不利な条件ですな」 彼の言葉を、海馬は鼻で笑った。「あくまで、条件は五分だ。でなくば対等の勝負とは言えまい」 海馬は言う。「オレが敗北すれば、この命を差し出そう」 その覚悟に、彼は無言で応じた。言葉すら無粋とでも言うように。 お互いのカードを返して。二人は互いに背を向け、距離を取った。高地の静寂に、ただ二種の足音だけが逆らっていた。 対峙し、互いに無言。 痛いほどの沈黙を海馬の指が切り払った。「――よかろう。貴様に引導を渡してやろう!!」「そう簡単にやられはしませんがね」 芯まで響く強い声に、軽妙な軽口が返った。『決闘(デュエル)!!』 二人の声が重なった。 互いに五枚のカードを引き抜くと、人骨の決闘盤(デュエルディスク)に赤い光がともった。「わたしのターン!」 肉のない乾いた指が、決闘盤(デュエルディスク)からカードを引き抜く。「マジックカード発動! 未来融合-フューチャー・フュージョン! 融合素材となるモンスターを墓地に送ることで、二ターン後に融合モンスターを特殊召喚します! 指定するのはF・G・D(ファイブゴッドドラゴン)! 五体のドラゴン族モンスターカードを墓地に送ります! さらに、手札よりデコイドラゴンを召喚! このモンスターを除外し、わたしはレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを召喚します!!」 骸骨の言葉とともに、黒い金属質の外皮を持つ、機械じみた翼竜が現われる。「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンの効果発動! 1ターンに1度だけ、自分のメインフェイズ時に手札または自分の墓地から同名カード以外のドラゴン族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる――出なさい真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)!」 応えるように。現われたのはさきほどの黒竜だ。「そしてマジックカード“黒炎弾”を発動します! 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)の元々の攻撃力分のダメージを相手ライフに与える!」 竜の顎が開かれた、と、見えたと同時。漆黒の火球が海馬を襲った。「ぐっ!」 なす術もなく、海馬は直撃を受ける。 ダメージは見られない。かわりに海馬から感じられる圧力が減った――いや。「オーラが、減じた?」 脇でロリ姫がつぶやく。 その通りだ。仙草が聞いてきたのか、おぼろげながら見える。 海馬のオーラが減っている。 おそらく、彼らがやっているのは、本当に決闘(デュエル)。オーラをライフポイントに見立て、ダメージのかわりにオーラを減らす。 そして、オーラをすべて失えば、オーラを使う術すら失うのだ。「ふん」 だが。そのような重圧など皆無だと言うように、海馬は鼻を鳴らす。「俺のターン! 手札よりマンジュ・ゴッドを召喚! このカードは自分のデッキから儀式モンスターカードまたは儀式魔法カード1枚を選択して手札に加える事ができる! 高等儀式術を手札に加え、カードを一枚セットしてターンエンドだ!」 海馬が召喚したのは、体中に手の張り付いた羅漢のようなモンスターだ。 鈴木が召喚した二体のモンスターより、明らかに見劣りする。「わたしのターン! 融合呪印生物-闇を召喚し、効果を発動! このカードと真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)を生贄に捧げ、出でませいブラックデーモンズドラゴン!!」 黒い塊と、真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)の像が歪み、凶悪なフォルムをもった竜とも悪魔ともつかないモンスターが出現した。「この二体で攻撃です!!」「――甘い! リバースカードオープン! 激流葬!!」 二体のモンスターがモンスターに襲いかかろうとした、刹那。海馬の伏せられていたカードが表を向く。 そこから噴き出してきた怒涛のような水は、モンスターたちをすべて洗い流していった。「くっ、さすがです。ではカードを一枚場に伏せてターンエンドです!」 人骨の前に伏せられたカードの像が浮かび上がる。「俺のターン! 手札より仮面竜(マスクド・ドラゴン)を召喚! 仮面竜(マスクド・ドラゴン)でダイレクトアタック!」 以前にも見た、赤と白、二色に彩られた竜が物言う骸に襲いかかる。 その鍵爪の先が触れる、直前。「――リバースカードオープン! 正当なる血統! 墓地より蘇りなさいレッドアイズ!」 現われた黒竜が、それを阻んだ。「ふん」 海馬は鼻を鳴らし、仮面竜(マスクド・ドラゴン)を退ける。「カードを二枚セットしてターンエンドだ」 海馬の前に、二枚の伏せカードが現われた。 攻防は、互角。いや、鈴木のほうがやや優勢にもみえる。なら、最初に大ダメージを喰らっている海馬のほうが、不利か。「わたしのターン! 未来融合-フューチャー・フュージョンの効果で、現れなさいF・G・D(ファイブゴッドドラゴン)!!」 その予感を助長するように、鈴木の前に巨大な五つ首竜が現われた。サイズ、威圧ともに、あの究極龍をしのいでいる。「さらに竜の鏡(ドラゴンズ・ミラー)! 自分フィールド上または墓地から、五体のドラゴン族モンスターを除外しF・G・D(ファイブゴッドドラゴン)を召喚です!!」「リバースカードオープン! 神の宣告! ライフポイントの半分を代償に、二体目のF・G・D(ファイブゴッドドラゴン)の召喚は阻止させてもらう!」 海馬の言葉とともに、現れかけた二体目の五つ首竜は虚空で破壊された。 だが、代償は大きい。ライフポイントの半分、ということは、オーラを半ば、削られたに等しい。 そして。「いまの神の宣告であなたのライフはのこり2800、ですか。仮面竜(マスクド・ドラゴン)の攻撃力は1400。対してF・G・D(ファイブゴッドドラゴン)の攻撃力は5000。攻撃が通れば、あなたの負けです」「ふん」 物言う骸の宣言に、海馬は鼻を鳴らす。「遠慮は無用だ。その一撃で俺を殺せると思うのなら、やってみるがいい」 絶対の窮地に、海馬の目は死んでいない。それが伏せられたカードによるものか、それともただの強がりか。まったく読めない。「ならば行きなさい、F・G・D(ファイブゴッドドラゴン)!!」 五つ首竜が、仮面竜(マスクド・ドラゴン)に襲いかかる――刹那。「速攻魔法発動! 収縮!」 海馬のカードによるものだろう。F・G・D(ファイブゴッドドラゴン)のサイズが半分になる。 それでも、五つ首竜の額は仮面竜(マスクド・ドラゴン)をとらえ、その余波が海馬に襲いかかる。「くっ! 仮面竜(マスクド・ドラゴン)の効果で仮面竜(マスクド・ドラゴン)を守備表示で特殊召喚!」 破壊されたモンスターにかわり、あらたな仮面竜(マスクド・ドラゴン)が召喚された。 と、海馬が揺れた。「――ふん」 何とか体勢を立て直す海馬だが、あきらかに精彩を欠いている。 それも当然か。F・G・D(ファイブゴッドドラゴン)の攻撃力が半分の2500だったとしても、いまの攻防で残りライフは2000を割っている計算だ。 目に見えるオーラも、明らかに減じている。「何とか生きながらえているようですね!」 物言う骸の揶揄にも応えない。 だが。海馬の目は、いまだ死んでいない。「オレのターン、ドロー!」 そのカードを引いて、海馬の口が不敵に歪んだ。「手札よりマジックカード大嵐を発動!」「なんですって!?」 海馬の手より、風が巻き起こった。荒れ狂う風はまさに大嵐。それが鈴木の前に浮かんだ二枚のカード、正当なる血統と未来融合-フューチャー・フュージョンを破壊した。 同時に、F・G・D(ファイブゴッドドラゴン)とレッドアイズが破壊される。「そして手札より高等儀式術を発動! デッキより青眼を墓地に送り、儀式モンスターカオスソルジャーを召喚!!」 現われたのは、鋭角的な鎧を着込んだ戦士だ。手に持つ剣に、まがまがしいものを感じる。「征けっ! 仮面竜(マスクド・ドラゴン)! カオスソルジャー!!」 二体のモンスターが鈴木に襲いかかる。「ぎゃああああっ!!」 魂消る悲鳴があがった。その痛みは、俺にはわからない。だが、その様子すら滑稽に見える。「くっ。わたしのターン、ドロー!」 人骨が、笑った。肉のない、空ろな口蓋が、確かに笑みをかたどった。「こちらも引きましたよ。黒竜の雛を召喚! そしてそれを除外し、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを召喚します!! その効果でふたたび出なさいレッドアイズ!」 ふたたび。二匹の黒竜が現われる。「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンで仮面竜(マスクド・ドラゴン)に攻撃です! ダークネス・メタル・フレア!!」 輝く火球が仮面竜(マスクド・ドラゴン)を貫く。「ぐっ!!」 海馬は、口をゆがめる。「仮面竜(マスクド・ドラゴン)の効果発動! 仮面竜(マスクド・ドラゴン)を守備表示で特殊召喚する!」 だが、間髪入れず。「レッドアイズで仮面竜(マスクド・ドラゴン)に攻撃です!」 レッドアイズの攻撃が、仮面竜(マスクド・ドラゴン)を蹴散らした。「……仮面竜(マスクド・ドラゴン)の効果でミストドラゴンを守備表示で特殊召喚する」「いまの攻撃で、あなたの残りライフは300ですか」 物言う骸が、がらんどうの口を開く。「おまけに手札は一枚っきり。いよいよもって進退極まりましたね」「ふん。笑止」 海馬は、その言葉を鼻で笑う。「その様な台詞は、オレのライフポイントをゼロにしてから言え! オレのターン、ドロー! カオスソルジャーでレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンに攻撃!」 海馬の命のもと、カオスソルジャーがレッドアイズ・ダークネスメタルドラゴンを斬り伏せる。「わたしのターン、ドロー! 手札よりキラートマトを召喚します!」 言葉とともに、凶悪な面相をしたトマトが召喚される。「キラートマトで、カオスソルジャーに攻撃!」 馬鹿な。 カオスソルジャーとあのトマトでは、明らかに前者のほうが攻撃力は上。みすみすライフを減らすようなものだ。 案の定、キラートマトはカオスソルジャーに斬り伏せられる。 かわりに現われたのは、闇色の塊。「キラートマトの効果により、デッキから融合呪印生物-闇を攻撃表示で特殊召喚します! そして効果発動!! レッドアイズと融合呪印生物-闇を生贄にふたたび出でませブラックデーモンズドラゴン!」 巻きなおしのように、ふたたび現われる、竜とも悪魔ともつかぬまがまがしい融合体。 それに対するはカオスソルジャー。混沌の戦士。だが、わずかに及ばない。「このターンに決めてしまわないと、わたしの勝ちが決まってしまいますよ」 おどけたように、物言う骸は下あごを落とす。 その仕草は、道化じみていながら、どこか物悲しく見えた。「――オレのターン!」 海馬が、カードを引き抜く。 このターン、有効なカードを引かなければ、海馬が負ける。 それは、念能力の喪失。そして己の死を意味する。 だが。 ちらとカードに目を流し、海馬は不敵に笑った。「ふっ。手札よりマジックカード融合を発動! 手札の融合代用モンスター、沼地の魔神王と場のカオスソルジャーを融合し――出でよ! 究極竜騎士(マスターオブドラゴンナイト)!!」 カオスソルジャーの像が歪む。現われたのは、青眼の三つ首竜。いや、それを駆る戦士か。「なんとまあ」 物言う骸は、苦笑した。「鬼のような引き、さすがです。まさかこの状況で究極竜騎士(マスターオブドラゴンナイト)を召喚するとは」 対峙する二匹の竜。だが、明らかに海馬の切り札のほうが、強い。「あなたの勝ちです」 その言葉に重なるように。「ギャラクシー・クラッシャー!!」 究極竜騎士(マスターオブドラゴンナイト)の攻撃が、ブラックデーモンズドラゴンを粉砕した。 衝撃が、一面を薙いだ。 見ているこちらにまで、それは牙を向く。激しい圧力にさらされて、応えるように体からオーラが噴き出して来た。 瞬間、見えた。 吹き飛ばされる人骨に重なった彼の本当の姿を。そしてその満足げな表情を。 急速に、骸骨がばらばらに崩れ落ちていく。 念を失った以上、もはや彼は存在できない。物言わぬ骸が、地に散らばった。 主を失った決闘盤(デュエルディスク)が、主の敗北を主張している。 それを超然と見下ろし。海馬は、決闘盤(デュエルディスク)を拾い上げた。 彼に対し、海馬は何を思うのか、わからない。 ただ、海馬は彼の形見(デッキ)を抜き取り、そして空になった決闘盤(デュエルディスク)を投げた。 硬い地面に、なぜか決闘盤(デュエルディスク)はつきささる。 なぜか、それが墓標のように見えた。「仲間、だったのか?」 背を向け、去っていく海馬に、尋ねた。どうしようもなくそれが気になった。 海馬が背中越しに寄越した答えを、俺は忘れることはないだろう。「ただの、“同胞”だ」 海馬は、そう言った。