「よう」 天空闘技場に着くと、その足でシュウの部屋に向かった。 半年近くも放置していたので、200階クラスからは登録抹消されているのだ。「ああ、ユウ、久しぶり」 久しぶりに見るシュウは、一回り大きくなったように見えた。「シュウ、背、伸びた?」「ん? ああ。まあ、成長期だから」 何処か自慢げに胸を張るシュウ。「ユウもちょっと感じ変わったよな。何か、女らしくなったというか……いや、自然体になったって感じか」 いや、そんなこといわれても、こっちはどう反応していいのかわからない。「ユウ、ブラボーから連絡。ブラボー達もグリードアイランドに入るってさ」「仲間が見つかったのか?」「大方、な。残りはグリードアイランドの中で見つけるつもりらしい」「よし、じゃあ……」「始めるか。グリードアイランド攻略」 互いにぐっと、握りこぶしを作る。 何でだろうな。こいつと居ると気が大きくなってくる。無条件に信頼できるやつがいる。ただそう思うだけで、力が湧いてくるのだ。 グリードアイランドに入ると、あらかじめ示し合わせていたのだろう、マサドラの宿のひとつで、レット氏達と落ち合った。「あ、ひさしぶりっス、ユウさん、と、シュウさん」 久しぶりに見るレット氏は、相変わらず三下オーラ全開だったが、身に纏うオーラが数段強くなっている。「ユウ。久しぶりだな」 顔を輝かせて、マッシュは抱擁のポーズ。やるわけないだろうが。 腹に突っ込みを入れてやる。「ぐ、ぐ、ぐ、久しぶりだというのにご挨拶な……」「え、突っ込み待ちじゃなかったのか」 前かがみになるマッシュ。でも、叩いた感触から、腹筋が数段発達しているのがわかった。「お前達も、相当鍛えたみたいだな」「ええ、シュウさんが直々に……」 言いかけて、レット氏の瞳から光が消える。「――ちょ、待ってくださいっス! それは拙いっス! シュウさん! お願いですからパピヨンの刑だけわぁーっ!!」 がたがた震えながら悲鳴を上げるレット氏。フラッシュバックって奴か。「巨乳は罪デス。貧乳バンザイ。妹サイキョー」 つられて、マッシュまで機械的な口調で妙な事を言い出す。「……シュウ、お前こいつらに何やったんだ」「修行してやっただけだよ。レットの場合、あまりにも度胸ないから度胸をつけてやっただけ」「……尋常じゃないトラウマになってるみたいだけど……で、マッシュの方はほんとに遊びだろ。何だよアレ」「じっ……啓蒙?」「洗脳だろう、どう見ても」 と言うか、何やってたんだこの数ヶ月。クソ、これで強くなってるんだから、余計に腹が立つ。 レット氏達と合流した後、かねてより打ち合わせていたとおり、マサドラから少しはなれた平原に向かった。 俺達が着くと、そこにはすでに、ブラボーを先頭に8人ほどが集まっていた。「紹介しよう、同士達だ!」 俺たちを迎えるように並び立つ仲間をブラボーは指差す。「エース。強力な念を込めた球を操る、操作系の能力者だ!」「よろしくな。ブラボーからあんた達の事は聞いてるぜ」 紹介された、野球帽を被った長身の男は、気さくに笑いかけてくる。「ダル。体をゴム状に変化させる特質系の念能力を持つ!」「つーか、あれなんだけどね、ゴムゴム」 言いながら手を、フニャンと撓らせるダル。……これは、かなりの生理的嫌悪感だ。 元ネタは好きだけど、生理的にこれは受け付けない。 軽く引いていると、ダルはにやりと笑い、手足をくねらせながら近づいてくる。「ほーら、ぐにゃぐにゃだよー」「ちょ、マジやめて――」「成層圏までぶっ飛べぇーっ!!」 俺の言葉が終わるより早く、シュウの“正義の拳(ジャスティスフィスト) ”が、ダルを上空へすっ飛ばした。 まあ、ゴムだし、大丈夫だろう。「……ミオ。筋力強化に特化した強化系の能力者だ!」「よろしくねー」 ブラボーもしばらく上空を眺めていたが、いつまで経っても落ちてこないので、気を取り直したように紹介を再開した。 紹介を受けた10過ぎの少女は、しまりのない顔で笑みをこぼす。「D(ディー)。オーラを“波紋”に変化させる能力者だ!」「よろしく」 と、奇妙なポーズを取るD。 というか、“ジョジョの奇妙な冒険”を知ってる事を前提に説明しないでほしい。 まあ、波紋といえば、相手を操ったり、物を手に吸いつけたり、水を固定したりと、いろいろ使い勝手のいい力だ。いい念能力なのかも知れないけど。「ヒョウ。“変化しない”という変化系の能力の持ち主だ!」「わかりにくいよな……ま、こう言うこと」 ヒョウは、一団を離れるように歩いて行き、空を見上げる。 ちょうどそこに、ダルが落ちてきた。 どこまで上がっていたのかしらないが、たとえゴムと言えど、その直撃を受けて無事ですむはずがない。ものすごい衝突音と共に、双方あらぬ方へ吹き飛んだ。 「……と、まあ、こんな感じ」 何事もなかったように立ち上がるヒョウ。“堅”すらしていなかったはずだが、全くダメージは無いようだ。「“我は変わらず在り(イモータルハート) ”。対象の状態をそのまま保持する念能力だ」 これは……かなりすごい能力なんじゃないだろうか。「彼らが、新たに仲間になった5人だ!」 ブラボーがびしっとポーズを決める。 それに対し、こちらからはシュウが一歩前にでた。「じゃあこちらも紹介させてもらおう。レット。この場では使えないが、各能力を大幅に底上げする念能力を持っている、強化系の念能力者」「どうも、レットっス。よろしくお願いしまス」 シュウの紹介に、レット氏はぺこりと礼をする。 何か、一瞬で、こいつの立ち位置が決まった気がする。 うん、これだけ人数増えても、こいつが一番下ってことは変わらなそうだ。動物の優位性的に。「同郷ではないが、協力者でマッシュ。強化系で、“何もない所を蹴る”能力を持つ念能力者だ」「マッシュだ、よろしくな」 なるほど。マッシュの念能力、ボクサーの彼にとっては最適の能力かもしれない。 何せ、ボクサーゆえの攻撃的死角が、この能力で消せるのだから。「ユウ。相手の死角から死角へ瞬間移動する特質系の念能力者。あと念能力の制約を一時的に外せる飴玉を作れる」「よろしく」 ぺこりと、礼をする。「そして、オレはシュウ。強化系で、パンチ力を増幅する念を持ってる」 簡単に説明するシュウ。「うむ、それに私とカミト、ミコの12人で、とりあえず作戦を行う事にする」「作戦?」「2人でチームを組み、攻略地域を担当する。各地の指定カードを、それぞれコンプリートし、しかる後“一坪の海岸線”に挑戦する。これによってコンプリートまでの妨害を最小限に押さえる」 なるほど、1チームあたりおおよそ25個ずつじゃあ、この“チーム”に気付かない限り、警戒はされにくい。 加えて短期間での収集が可能になるから、対策を打たれにくいのが利点だろう。「グリードアイランドを4分割し、それぞれ担当する。ほかに、入手難度SSのカードを専門に追うチームが2つ。即ち、6チームに分かれる。一応適正をみてチーム分けを考えてみた。異論があれば言ってくれ」 そういってブラボーはチームを発表する。 北東地方チーム レット、マッシュ組 北西地方チーム ブラボー、D組 南東地方チーム ミオ、ダル組 南西地方チーム カミト、エース組“大天使の息吹”チーム ユウ、ミコ組“ブループラネット”“一坪の密林”チーム シュウ、ヒョウ組「―――といったところだが、誰か意見があるかね」「……聞きたいんだけど」 何か、感情を押し殺すように、シュウ。「なんでオレとユウが別れてんの?」 ……押し殺せてない。むっちゃ怒ってる。 たかが班分け位で怒りすぎだろう。「“大天使の息吹”を手に入れるには、マサドラで呪文(スペル) カードを集めてもらわなくてなならない。他のプレイヤーと出会う危険が大きいからな。探査系のミコと、呪文(スペル) カード有効圏内からすぐに逃げられるユウに組んでもらうのがベストと考えたのだが」「いいじゃないか、シュウ。適正を見てのことだし」「……ユウがそういうなら、いい」 ふてくされ、拗ねきったように口を尖らすシュウ。 確かに、オレもシュウと組んだ方が安心できるが、仕方ない。「よ、よろしくお願いしますわ! ユウさん」「あ、ああ、よろしく」 ミコさん、意気込んで挨拶してくれるのは嬉しいけど、タイミングを考えてほしかった。シュウの眼がすげー怖いから。「先にグリードアイランドに入っていたシュウ達が、おおよそのカードの入手法を把握している。それから、彼らの集めた呪文(スペル) カードは“大天使の息吹”担当のユウ、ミコに渡す」「とりあえず“堅牢(プリズン) ”“聖水(ホーリーウォーター) ”以外は揃えた。“擬態(トランスフォーム) ”“複製(クローン) ”は枚数に余裕があるから“神眼(ゴッドアイ) ”は各チームに一人、回せると思う」 ブラボーの言葉に、シュウは本を開き、カードをこちらに差し出してくる。「最後に、ひとつ。ミコとユウ以外は、なるべくマサドラに近づかないように。あそこは全てのプレイヤーが集まる場所だ。後の混乱を避けるため、なるべく他のプレイヤーとの接触は避けてほしい。呪文(スペル) カードが必要になれば、二人に調達してもらってくれ。それではみんな、頼んだぞ!」 ブラボーの言葉を合図に、皆それぞれの担当する方角に散っていった。「ミコ、まずはどうする?」 マサドラに向かいながら、ミコと方針を考える。「えっ――と、まず、上手いこと呪文(スペル) カードショップが見張れるところが陣地に欲しいですわね。それからお金を貯めて、プレイヤーがいない隙にカードを買って行けばよろしいかと」「なるほど」 おおむね、俺が考えていたプランに等しい。 ただ、シュウ達が半年がかりでコンプリートできなかったことからも、“大天使の息吹”の入手が難しいのがわかる。たぶん、“ハメ組”の呪文(スペル) カード独占のせいだろう。 時期的に考えれば、まだまだ煮つまってはいないだろうが、あと2枚を手に入れるには、かなりの長期戦を覚悟しなければいけない。「とりあえず、拠点だな」「ええ」 オレとミコは肯きあって、マサドラへの歩みを速めた。 マサドラでの呪文(スペル) カード入手は、予想通り困難を極めた。“ハメ組”のせいでカード化限度枚数が極端に減ったレアカードは、容易に入手できない。「いっそ“宝籤(ロトリー) ”で出ないものかしら」 一月ほどもマサドラに張りついて呪文(スペル) カード集めをすれば、さすがにいやになるのだろう。 しかも俺達は連絡の拠点になって、たまに呪文(スペル) カードを渡しにいくだけで、ちっとも攻略している実感がない。 ミコがうんざりした様子でぼやくのも、仕方ない。 一緒に行動していて気付いたけど、ミコって思ったより子供っぽいし。 ミコの言うように“宝籤(ロトリー) ”で出てくればいいんだけど、残念ながら、“宝籤(ロトリー) ”から出て来るカードはアイテムカードだけなのだ。「でも、カードも貯まってきたしな。使っておいていいカードはどんどん使わないと」 カード化限度枚数の多い下級カードのダブりがひどい。移動系カードはミコに預かってもらっているが、それも溢れ気味。攻撃系の呪文(スペル) カードなんかは、仲間も必要としないし、俺達も使わないので出る端から破棄していっている。“宝籤(ロトリー) ”も出るたびに使って、おかげで指定ポケットのカードも10種近く入手してしまった。「お? おおおおおっ!?」 カードを購入し、また“宝籤(ロトリー) ”を3枚ほど入手してしまって、作業的に使った瞬間、俺は思わず叫んでいた。 あらわれたのは指定ナンバー001“一坪の密林”。入手難度SSのレアカードだった。「ゆゆゆゆ、ユウさん」「ああああ、やった、やったぞ」 ウソのような幸運に、二人とも声を震わせている。「と、とりあえずシュウ達に連絡しよう」「え、ええ“交信(コンタクト)” 使用(オン) 、シュウ」 とりあえずシュウに連絡をつけ、“一坪の密林”を手に入れた旨を伝えた。『ユウ達はまだ呪文(スペル) カードコンプしてないのか?』「ええ、未だに2枚とも出ていない状態ですわ」『……なら、考えがある。“一坪の密林”と“複製(クローン) ”、あと探知系の呪文(スペル)カードを持ってきてくれ』 シュウの言葉通り、アイテムを渡した数日後。シュウは“堅牢(プリズン) ”“聖水(ホーリーウォーター) ”を持って現れた。「どうやって手に入れたんだ?」「交換だよ。“一坪の密林”の“複製(クローン) ”と交換したんだ……ツェズゲラとだけど」 そういえば……ツェズゲラが入手した“一坪の密林”は、誰かが“宝籤(ロトリー) ”で当てたやつだとか言っていた気がする。 このことだったのか。 とにかくこれで、俺達は“大天使の息吹”を手に入れた。 探知されると怖いので、すぐさま“擬態(トランスフォーム) ”で別のカードに変えたけど。