ゼロの最強の使い魔
この作品はアーチャー(英霊エミヤ)の異界召喚モノです。
他世界Inモノです。答えを得ている為性格をやや円くして有ります。
その類の作品を受け付けない方には、まったくお勧めできません。
劇物であり毒物の最低踏み台系でもあります。
要注意してお読みください。
TYPE-MOON作品、ゼロの使い魔の設定など尊重はしますが、遵守はしていません。
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放たれる英霊
また呼び出されるのか。
己のものとも定まらぬ朧な意識の中、エミヤシロウはそう思った。これが幾度目の召喚となるのだろうと。
答えは得た。あの時、自分のルーツと違う【衛宮士郎】との戦いは、自らの内に答えを再び与えてくれた。
それでも【守護者】となった自分には影響は無い。
解りきっていた事だった。彼自身、あれがただの八つ当たりでしかないことなど。
だが、それでも。
それでも磨耗した心は、あの遠き日の答えを。養父の笑顔を。
己が貫くと決めた【答え】を得た。
人を守る事。あの笑顔を守る事。
それだけは間違っていなかったのだから。
英霊の座から意識の一つが剥離する。それはいつもの事。
座にあるのは集合体。複製を創り、成すべき事のある世界にいくのだ。
聖杯戦争におけるサーヴァントの召喚もこれに似たようなものだ。
今回は何者かに引き寄せられるかのような魔力が感じられる。
おそらくはまた聖杯戦争に呼ばれるのだろう。
抑止が守護者として派遣するのでなければ、それ以外に英霊を呼び出す手段は無いとされている。
○●○●○
「…むっ…」
意識と身体が形作られる。現界が近いのだ。
だが突如として横からの凄まじい魔力が身体を、意識を引き寄せる。
何がおきようとしているのか理解が及ばない。この身でさえも始めて経験する現象だ。
「召喚事故っ!? これほど、強引な召喚は……凛かっ? いや、違う……これはっ!」
彼女の失敗癖には生前もこうなった身の上でも存分に味わった事がある。
だが、それとは違う。
この魔力流はそんな事では片付けられない。何かしらの干渉が起きたのは確実なのだ。
そうして、私はまったく見覚えの無い光景の中に降り立つ事になった。
「あんた、誰?」
抜けるような青空を背景にした少女がそう言い放つ。
いつかも聴いた事のある同じような言葉を。
目の前の少女は彼女ではなかった。見覚えない場所に見覚えの無い少女。
だが、この身は英霊。如何なる不測の事態にも応対できねばその身が泣こう。
だから落ち着きを持ってこう返す。いつかの日の出来事と同じように。
「開口一番にそれかね? これはまた随分な召喚者に引きあてられたものだ」
年の頃はおそらく十七歳ほどだろう。
黒の外套の下に白色のブラウス、灰色のプリーツスカートで身を装った少女は
その顔に困惑と疑惑を浮かべている。
顔立ちはおそらく美少女の部類になるだろう。桃色がかったブロンドのロングヘアー。
透き通るかの白い肌。その目の色は鳶色。
髪の色さえ違えば記憶の彼方にある白の少女を彷彿とさせる。そんな少女だ。
最も身長はこの少女のほうがあるだろう。
身体的なプロポーションは平均化。それより劣るかと言ったところだが。
「ルイズ。『サモン・サーヴァント』で人間を。しかも平民を召喚してどうするの?」
お互いを見合う少女と私に、周りにいた人間の誰かが声をかけた。
声を受けて周囲を見遣ってみれば、黒の外套を身につけた人間達が物珍しそうにこちらを見ている。
その背景は草原の緑と青空。いくばくかの中世欧州風の建物が見受けられた。
だが何よりも特殊なのはこのありえないほど空気に満ちた濃密なマナだろう。
目の前の少女、ルイズというらしいのだが。その少女の顔が見る見るうちに朱に染まる。
「なっ!ちょっと間違えただけよ!」
少女が鈴のような響きのある声で反論した。
「間違いって、ルイズのそれはいつもの事だしなぁ」
「さすがは『ゼロ』のルイズ。はずすべき所は抑えてるか」
そんな周囲の喧騒を他所に、私は現状の分析を開始する。
この状況。状態。ありとあらゆる事に疑問がある。
『守護者』としての降臨ではここまで確固たる自我意志を併せ持つことは稀だ。
そして、先の言葉に聴き慣れた文言があった。確かにサーヴァントと言った。
だが、聖杯からの情報が今現在でも引き落とすことが出来ない。
つまりはこの召喚には聖杯戦争の図式が関与していない事にもなる。
本来、守護者としてもサーヴァントとしても召喚されたのならば必要な知識と情報は世界なり聖杯なりから与えられるものだ。
それが出来ない。
そして、開口一番の彼女の言葉。
あの言葉は全く意図していなかった存在が召喚されたが故の言葉だろう。
意図して英霊を召喚するなど、余程の魔術儀式の後ろざさえが無い限り不可能。
そう。聖杯戦争のような魔術儀式が必要となる。
そもそも、私と彼女には、結ぶ縁すらない。
英霊を召喚するのならば、その英霊にちなんだ物品などによる物理的な縁や生い立ちや性質的な類似、英霊側に召喚者との縁ある物品。
そのような条件付けが無ければ、何が現れるかわかったものではないのだ。
つまりは察するにこの召喚は完全なイレギュラー。
双方どちらにとっても不測の事態なのだ。
そうなった場合、こちらに思い当たる節が一切無いのならば、召喚者を問い質してその真意を知る必要がある。
「ああ、取り込み中のところ、すまないのだが……」
私は目の前の少女に語りかける。声を発した事が契機となり再び場が沈黙する。
訊ねるべきは一つ。
「君が私の召喚者で間違いないのかね?」
少女は私に向き直る。
先ほどまでの舌戦でやや頬が紅潮してはいるが、それでもしっかりと私を見据えてその問いに応える。
「あんたを呼び出す【サモン・サーヴァント】を使ったメイジが誰かと聞くのなら私…ね」
強い少女だ。私をこれほどまっすぐに見返すその様はますます誰かを彷彿とさせる。
「想定外な召喚をされたものでね。私としても正直、状況が掴めないのだが」
「……こっちだって、アンタみたいな人間、引っ張ってくるなんて予想外よ!」
人間? どうやら彼女は本当にこの身を人間としか知覚出来ていないようだ。
この身は理想に挫けたりとか摩耗したりとか色々あったが。それでも神秘によってその身を成す英霊だ。
それを人間としてしか知覚できないらしい。最悪、英霊という存在ですら理解の範疇外かもしれない。
つまり、全くの異世界である可能性が色濃くなる。
魔術知識や神秘に対する造詣。それらの観念が異なる世界は異世界といって相違あるまい。
物理法則が同じであったとしてもだ。
だが召喚技法が確立されているのは事実のようだ。つまりそれだけの神秘が存在している。
「ふむ? では、君は召喚の意図も無く私を呼び寄せた事になるのか?」
「そうだって言ってるじゃない! 何度も組み直した【サモン・サーヴァント】の術式で出て来たのがアンタだって!」
何度か組み直した魔術形式。
恐らくはこれが鍵になったのだろう、蓄積する形となった魔力が本来の通り道に横穴を作り上げた。
推測できる原因としたらこれしかあるまい。
だが。完全なるイレギュラーによる召喚、そこに介在する理由など、この身に推測できるものですらないのかも知れん。
しかし、魔術概念が違うと思しき世界に異なる魔術法則の存在が召喚される。
並列平行世界の運用たる【第二魔法】に類するのではないだろうか?
あくまで推測でしかない。真実は別にある可能性も捨てきれない。
「ミスタ・コルベール!」
ルイズと呼ばれていた少女が私から視線をはずし怒鳴る。
その声に応えるかのように人垣が割れる。そしてその中から壮年の男性が現れる。
格好は大して若い者達と変わるまい。だが、立ち振る舞いとその身の放つ魔力は比べるべくも無い。
「ほぅ。察するに君の師匠(マスター)かね?」
(あんたは黙っていて。私、先生にお話があるんだから)
口にさえしていないがそんな意志の込められた視線で彼女は私を見遣った。いや、睨みつけたと言うべきか。
私は肩をやや竦ませる事でそれに応える。
「何だね? ミス・ヴァリエール」
「あの! もう一回召喚をさせてください!!」
むっ。それは少々聞き捨てならない発言だ。
つまりは私を召喚した事を失敗と判断している。
だが、ミスタ・コルベールと呼ばれた壮年の魔術師は、それに否と言って首を振る。
「それは不許可だ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!?」
「決まりだよ。君達は二年生に進級するにあたり、例外なく【使い魔】を召喚する。今、執り行われている魔術儀式がそれだ」
二年生に進級? つまりはこの儀式は学校のような組織が執り行っているのか?
だとすれば、かなりの大規模な組織だろう。
私の知る世界ではあり得ないこの濃密なマナを下支えとしての召喚儀式。
それを制御しうる魔術形態。ますます謎が増える。
下手に自我意識をもって現界するとこういった疑問が矢継ぎ早に浮かぶものなのだ。
「それにより現れた【使い魔】によって今後の属性を決定し、その専門課程へと進む。一度呼び出した【使い魔】の変更は認められん。なぜならば。この春の使い魔召喚の儀は神聖なるモノであるからだ。これに異を唱える事は許されない。好むと好まざるとこの儀式は完遂する必要があるのだよ」
「だ、だったら、なおの事です! 人間、それも見るからに【平民】な空気を醸し出した者を使い魔にしたら、私の進路となる属性が…っ」
それほどに不服なのだろうか? しつこく食い下がる姿に私は少々憤りを感じた。
この身を如何なる存在だと思っているのだろうか?
それでも、この身はセイバーを初めとする他の英霊たちに比べれば……平民だな。
うむ。平民に違いあるまい。
ふと、意識を思考ではなく、身体の方に振り向けてみる。
今回の身体を構成する因子に魂が馴染んできたらしい。
英霊と呼ばれる存在は、基本的に霊体である為に、肉を持たず魔力によってその身を形作る。
その仮初めの肉体をかたどる器に、改めて『己自身の魔力』を奔らせる。
本来ならば周囲に影響は出ないはずだった。
だが、それを行なった瞬間、今も脳裏に刻まれて消えぬ彼女の。【セイバー】の行なった魔力放出のように
私の身体から赤に色づいた魔力がジェット噴射のように吹き出た。
……なんでさ?
意図せずもかつての口癖が思考展開された。
「-----ッ!?」
コルベールがそれをどう感じ取ったのか。私を驚愕の目で見る。
いや、それどころか周囲の目は全て私に向けられている。私もこれほどの現象になるとは思わなかったのだが。
気を取り直そう。ここで自分がこの現象に取り乱しては何事も始まらない。
恐らくはこの世界の大気中に満ちる濃密なマナが関わっているのだろうが。
「さて?召喚者。つまり君は私が使い魔である事が不服だと。それは何よりだ。ならば早急に送還の儀式を執り行ってくれ。こちらは本来な召喚ですらない上に、正式な召喚術式に横槍をいれられて呼ばれた存在だ。ほぼ受肉した肉体を与えられた事は驚きではあるがな」
私は自分が不本意な召喚の上の存在である事を告げる。
そも、召喚する意図なく私を引きあてた事自体が驚愕であると言うのに
守護者たるこの身をただの人間扱いされるこの侮辱。
英霊と人間では圧倒的な存在の格の差があると言うのにだ。
「できない」
「何? …ちょ、もう一度、しっかりと言ってもらえないか? できるのなら、空耳であってほしい答えなのだが」
「できないって言ったの! 私、サモン・サーヴァントだってようやく成功したのにリターン・サモニングなんて上位術式使えないもん!!」
唖然。彼女はこの身を戻す術を使えないと言い切った
無論、私にその術があるはずも無い。
如何に英霊に成ったとはいえ私の使える魔術などは平行次元の移動など論外。
第二の領域など私には扱えよう筈が無いのだ。
その触媒たる宝石剣は投影できたとしても。
守護者としてならば掃除が終われば還れよう。聖杯戦争ならばマスター不在や敗北する事で座に戻されるのだが。
「ま、待て。戻す術式が使えないとはどう言う意味だ? 本来、如何なる召喚技法においても召喚者とそれに応じるものは契約が成らないのならば、元来よりの世界に戻るが当然だろう?」
私の疑問に少女では無くコルベールが応える。
「…いや、何と言うか、どう答えればいいのかわかりませんが、本来、この召喚で人間が召喚されるとは想定されていないのですよ。それも使い魔契約を結ぶ事を拒否出来る自我と高度の知能を併せ持った存在を、この初期の段階で召喚できるものがいるとは思わなかったもので……いや、居るには居るんですが…
まさか、彼女がそんな存在を召還を召喚できるなんて予測外も予測外だというのに」
「…先に事例が無いから対応手段が無い…と言う事か?」
「そう言う事になりますかな。 ついでに加えて言うと……召還、リターン・サモニングを行う条件付けも少々厳しいので、今のこの段階ではなんとも…」
私は正直、頭が痛くなってきた。
最悪、召喚者を殺せば恐らくはこの世界との繋がりは消えよう。
だが、彼女は災悪でもない。滅びでもないのだ。
一を切り捨て九を救う。だが、彼女を殺しても救われるものなどいない。
そも、この身を再び座に戻す為のみにそのような愚行をする訳にもいくまい。
「はぁ…仕方がない。正直なところ、不本意ではあるのだがね。召喚者?」
「な、何よ」
私は少女を改めて見据える。
やはり気丈だ。それでも私からは目を決して逸らしていない。
だからこそ、私は最も大事な最初の『言葉』を告げる。
「君の名を。あらゆる召喚において最も重要なことだ」
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後書き
加筆・改定を行いました。