僕は部屋でため息をつく。
立派な父親になろうと頑張ってはいるが、僕の行動はどこか空回りしてると思っている。
なにより今日の失敗、まさかヴィヴィオが入ってたのに風呂場に入ってしまったって……
頭を抱える。少なくともヴィヴィオは気にした様子は見せなかったけど、あんな失敗、嫌われたっておかしくないと思う。
昔と違い起伏に富んだ体、濡れて体に張り付いていた長い髪。驚きと羞恥に紅くなった顔……
そこで僕は頭を机に叩きつける。
なにを思い出してる!
何度か頭を叩きつけて頭に張り付いたイメージを追い出す。
『マスター?!』
レイジングハートの声に頭を叩きつけるのを止めて額を机にこすりつける。
最悪だよ。よりにもよって娘の姿に……
自己嫌悪に僕は沈んでいった。
翌日、珍しく取れた休暇。うちに遊びにくる予定の二人をのんびり本を読みながら僕は待っていた。
昨日のことは一時的な気の迷いだ。大丈夫、僕は大丈夫。
そう言い聞かせながら本を読み、ヴィヴィオも隣で眼鏡をかけて本を読んでいる。
ヴィヴィオの眼鏡は完全な伊達眼鏡、なんか本を読む時に気分でかけたくなったらしい。部屋には時折ぴらっと本を捲る音だけがあった。
顔を上げて時計を見る。そろそろかな……
それと同時にインターホンが鳴る。僕らは玄関に向かう。
「やっほー、久しぶりに遊びにきたでー」
ドアを開ければ、古い付き合いの友達である八神……いや、はやて・ナカジマと、その娘はやなちゃんが待っていた。
僕ははやてと話し、ヴィヴィオははやなちゃんと遊ぶ。
「でなあ、この前もはやながな」
「うんうん」
現在のはやては娘のはやなの誕生を境に管理局を辞めて専業主婦になっている。
ナカジマ家の娘たちからも慕われてるみたいだけど、歳が近いからか母親ってより姉みたいな感じだ。
「はあ、ヴィヴィオもおっきくなったね。特に胸は私好みや」
くっくっくっ、と怪しい笑みを浮かべるはやて。
「はやて、人の娘見てなにを想像してんの?」
その、女の子の胸を揉んだりするのが趣味だって知ってるし、友達ではあるけどなんかいい気はしないなあ。
「なんやなんや、別にええやん。ユーノくんやてちょっと触りたいなあなんて思ったこと……」
「思ったことないよ!!」
思わず大声で怒鳴ってしまい、僕の声にはやてが目を丸くして、ヴィヴィオとはやなが驚いている。
しまった。あんな声出さなくても……
と反省していたらぽかっと弱い力で殴られる。
「ユーノおじさん、なにわたしの母さんをいじめてるんだ!」
見れば、眉を釣り上げてはやなちゃんが僕の脇あたりをポカポカ殴る。
「わっわっ! ごめん!」
「わたしじゃなくて母さんに謝れ!」
もっともです。
「はやて、ごめん」
すぐにはやてに向き直って謝る。この塵芥がと言ってはやてに怒られるはやなちゃんだった。
「ああ、ええよ気にしなくて。こっちも変なこと言ってごめんな」
ばつが悪そうに笑うはやて。
「まあ、話は変えるんやけど、ユーノくんもそろそろ身を固めたらどうや? いいもんやで家族がいるのは」
またその話かあ。
はやても僕のことを考えて言ってくれてるんだろうけど、僕なんかがなあ……
自分が結婚した姿を想像してみようとするけど、浮かんでこない。
「そういえばフェイトちゃんも相手いないし、いいんとちゃう?」
はやてって、いっつもフェイトの名前出すなあ。確かに彼女も相手いないけど……
「僕じゃあフェイトと釣り合わないよ」
自嘲気味に笑う。彼女は僕なんかより、もっと相応しい相手がいるだろう。
と、はやてが呆れたように僕を見る。
「それ、本気で言っとる?」
えっと、どういう意味かな?
はあ、とはやてはため息をつく。
「あんなあ、ユーノくんはもうちょっと女心っちゅうもんをやな」
「はやてさん!」
突然、ヴィヴィオの声が響く。ちょっと驚く僕とはやて。
「お茶のお代わりいる?」
「えっ? あ、うん……」
とヴィヴィオにお茶を注いでもらうはやて。
「えっと、それでなにかな?」
「ああ、別に気にせんでええよ」
そう答えてはやては苦笑いを浮かべながらお茶を飲んだ。
「じゃあねはやて、はやなちゃん」
「ばいばいはやなちゃん」
夕暮れ時になり二人を見送る。
「ああ、またなユーノおじさん、ヴィヴィオねえさん」
「またなユーノくん、ヴィヴィオ」
見送ってから家に戻ると、ヴィヴィオは晩御飯の用意を初めて、僕はそれを手伝う。
その時、ちょっと昨日話し忘れたことを思い出した。
「あ、そうだ。今度フェイトと会うんだけど」
ぴくっとヴィヴィオが反応する。
「フェイトさんが?」
「うん、一緒に出かけないかなって誘われてるんだけど、ヴィヴィオも一緒に」
「私はいいや、二人で楽しんできて」
すぱっとヴィヴィオが即答する。は、早い。
でも、うーん、フェイトはできたらヴィヴィオとも会いたいって言ってたのになあ……
「でも、ヴィヴィオも最近フェイトにあってないだろ? 久しぶりに顔を合わせるくらい」
「いいってば! 私はいいの!!」
さっきと同じくらい大きな声でヴィヴィオが怒鳴る。ど、どうしたんだ?
「まったく……はやてさんの言葉途中で切らせるべきじゃなかったかな?」
え、なんだって?
「はい、準備できたからご飯にしよ」
ヴィヴィオはそう言って笑うけど、どこか、その笑顔はいつもと違う感じがした。
年頃の女の子って本当に難しいなあ……
『そう、ヴィヴィオは来ないんだ……』
残念そうにフェイトが笑う。
「うん、まあ、ヴィヴィオも年頃だからね。いろいろあるんじゃないかな」
そうだねとフェイトは答える。
『じゃあ、またね』
「うん、また」
そして、フェイトとの通信が切れて僕は布団に寝っ転がる。
考えるのはヴィヴィオ。
成長して、もう僕ができることはあまりない。それに最近僕はヴィヴィオの考えてることがよくわからない。
「ねえ、なのは、僕はどうすればいいのかな?」
僕は彼女の残した髪留めにそっと呟いた。
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はやてとその娘参上。
イメージは普通に育ったらのヤミスベ。
ポータブル出た後って、はやての娘と言ったらみんなこういうイメージだよね?