尾行ごっこから数日が経ちました。
はあ、と私はため息をつく。
この前、パパとフェイトさんのお出かけ(本人たちは決してデートじゃないと言い張っている)を邪魔してからなんかパパが不機嫌な気がする。
いや、確かに悪いことしたけど……はあ。
でも、不機嫌ってことはパパも……いやいや、あのスーパーフェレット人がそんなこと期待して、いや、パパも一応男だから期待してたのかな?
申し訳ないけどなんか寂しいなあ……
「というわけでパパが、休みの日にフェイトさんと出かけたんだけど……」
学校でリオとコロナに先日のことを話します。
二人はうんうんと私の話に頷いてから、
『ヴィヴィオが悪いね』
はい。
でも同時に言わなくても……いや、別々に言われても多分ヘコむ。
「まったく、もしかしたらフェイトさんがヴィヴィオのママになったかも知れないのにねえ」
リオの言葉にため息をつく。それじゃあ、私がパパのお嫁さんになれないよ。
いや、別にパパが幸せになってくれるならそれも選択肢の一つだけどさ、うううう。
私は以前遊びに行った時に教わった、おばあちゃん直伝の煮物とご飯を一緒に食べる。
冷えた煮物とご飯を一緒に食べるのってなかなか乙な味わいなんだよね。そこ、貧乏くさいって言うな。
「あ、そういえばもうすぐだね」
あ、コロナちゃんと覚えてくれてたんだ。
「もうすぐって?」
コロナの言葉にリオが首を傾げる。
あれ、リオもしかして……
「ほら、ヴィヴィオの誕生日」
リオがそれでああ! と頷いた。
忘れてたんだ私の誕生日……少し寂しくなる。
「誕生日プレゼント考えておかなくちゃね」
「なら、アインハルトさんも呼ばないとね!」
コロナの言葉にリオは頷きました。
誕生日かあ、パパは忘れてないよね? リオのせいで不安になっちゃったよ……
家に帰った私は、なんとなくママの写真を見ていました。
人工的に産み出された私の誕生日は正確にはわかってない。スカリエッティなら知ってるかもしれないけど、あんな人に聞くのなんて御免だ。
だから、なのはさんが私のママになってくれた日が私の誕生日となっていた。
ねえ、ママ、もうすぐママが私のママになってくれて十年過ぎちゃうんだよ。
「ママ、なんで死んじゃったの?」
無性に悲しくて、無性に寂しくて、私はぎゅっと写真立てを抱き締めた。
それから私はできる限りいつも通りに過ごした。
いつも通り洗濯物を入れて、いつも通りご飯を用意して、いつも通りお風呂を準備して……
でも、感じる寂しさはなかなか消せなくて……早くパパ帰ってこないかな?
そこで電話がかかりました。億劫な気分で受話器を取る。
『ヴィヴィオ、僕だけど』
パパ! 途端に私の気分は軽くなった。
「なにパパ?」
電話ってどうしたんだろ? 早く帰ってきて欲しいのに。
『ごめん、急な仕事が入っちゃって……』
えっ?
『ちょっと遅くなるからご飯先に食べてて』
そんな……
一転して私の気分は重くなる。
「う、うん、パパも頑張ってね。無理はしないでね」
なんとかそれだけ言って、電話を切ってから、私はご飯を食べずにベッドに倒れる。
早く帰ってきて、そばにいてよパパ……
私はちょっとだけ涙で枕を濡らした。
いつの間にか寝ていた私は、物音に目を覚まします。
パパ帰ってきたのかな?
ベッドから起き上がって、リビングに向かうと予想通りパパがいました。
「あっ、ただいまヴィヴィオ」
「おかえりなさいパパ、ちょっと待ってね。ご飯用意するから」
私はすぐにキッチンに入って冷めてしまったシチューを暖め直します。
「あ、いいよ自分の分は自分で」
とパパが言いますが、私も自分の分を用意したいので。
「いいよ。私もご飯食べたいし」
「えっ? もう食べたんじゃないの?」
パパの言葉に首を振ります。
「ちょっと眠くて寝ちゃってたんだ。おかげでお腹が空いちゃってるよ」
ひとかきしたら、温まり始めたシチューの香りがふわっと広がる。
と、ぐーっとパパのお腹がなりました。
「パパお腹空いてるんだね」
私が笑って、
ぐー。
今度は私のお腹が鳴りました。
……うう。なんでこのタイミングで?
「……ぷっ」
パパが笑います。
そ、それで笑うのは女の子に失礼だよ!!
はあ、まあいっか。パパだもん。
私は温まったシチューをお皿につぎました。
パパと一緒にご飯を食べたからか、寂しさはあまり感じなくなりました。
でも、うん。
寂しくさせられた分、今日は少しだけ甘えさせてもらいます。
私はパパの部屋に向かいました。
「パパ、一緒に寝ていい?」
私はパパが断らないとわかっていながら、そうお願いしました。
草木も眠る丑三つ時。パパもしっかりと夢の世界に旅立ってると結論し、こっそり私は起きました。
真横にはパパの綺麗な顔。やっぱりドキドキする。
ぐいっと胸をパパの腕にくっつけながらそっと顔を近づけて、パパのほっぺに口をつけます。
寝ているパパにこんなことするのはいつ起きるかな? というスリルと、パパが私のものという背徳感混じりのドキドキがあります。でも、それだけじゃ物足りなくて、
「パパ、寝てるよね?」
うーんと唸るパパ。ゆ、夢見が悪いのかな? よ、よし!
そっとパパの顔をこっちに向けます。
そして、私は顔を近づけて、パパにキスをしました。
「パパ、好きだよ」
それから、そっとパパに囁きます。
こ、これでパパの夢がハッピーになれば嬉しいな! あと私が出ていたら!!
私はドキドキしながら目を瞑って眠りました。
僕の頭は混乱の極みに達していました。だ、だって、だって!
ヴィ、ヴィヴィオが僕にキスをしたから……
最初、僕は頬に感じた柔らかい感触に半分目が覚めました。
でも、特に気にせず再び眠りの世界で栗色の毛皮のフェレットと金色の毛皮の子フェレットと一緒に暮らす夢の続きを見ようと思って眠ろうとしていました。
腕に柔らかい感触があったけど、ヴィヴィオと一緒に寝ているうちに特に気にならなくなってきたし。
そ、そしたらいきなり頭の向きを変えられて、気づいたら唇に柔らかな感触。
そう、僕は、ヴィ、ヴィヴィオにキスされていた。
その時、起きることもできたんだけど、僕にはできなくて、眠ったふりを続けた。
だって、もしそんなことしたら、何かが壊れてしまう気がして……
「パパ、好きだよ」
そっとヴィヴィオが僕の頬を撫でる。
それからしばらくすると、再び規則正しい寝息とともにヴィヴィオは眠りについた。
「ヴィヴィオ?」
声をかけたけど、反応はなかった。
僕は黙って考えた。
ヴィヴィオが僕のことを好きなんて……こんなことを知った僕は、明日からどう接すればいいんだ?
僕は、どうすればいいんだ?
結局、僕は朝まで眠ることができなかった。
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ユーノくん、ヴィヴィオの気持ちを知ってしまったの会です。
あと、ユーノくんの夢はなのはさんとそういう関係になりたかったっていう願望によるものですきっと。