■ 第24回 リアル脳内会議『なぁ……ふと気がついたんだが』『なんだ、“仲の”』それはある日の事。本体が運び屋で精を出して働き始めたばかりの頃である。突然、“仲の”が意識体に声をかけたのだ。『俺達ってさ、ローテーションで本体の体を動かすときってタッチって言うじゃん?』『ああ、そうだね』『それがどうかしたか?』『いやさ、ほら、公孫瓚って真名が白蓮じゃん』『『『『『……』』』』』言われて気がついた。そうだ。自分達は“魏の”タッチ、とか“呉の”タッチとか言っていた。つまり、そう。『ようするに“白の”の『の』を意図的に無視するとさぁ』『おい、やめろこら』『パイ……タッチ……』『『『『パイ……タッチ……!?』』』』『中学生かお前ら!』『まぁ落ち着けよ、“白の”』『落ち着けるか“呉の”』『俺だって、のが抜けたら誤タッチだ』『『『『……』』』』『誤……タッチ……だと!?』『誤タッチ……一体何処を……』『じゃあ俺は偽タッチか……』『ぷっ、だせぇ』『おいぃ!?』『タッチ制廃止にする?』『『『『悩みどころだな……』』』』(阿呆か、俺は……阿呆なのか、俺は)脳内の会話を聞きながら仕事に従事していた本体が、何故か凹んでいたという。 ■ 第25回 リアル脳内会議それはある日のこと。少しずつとはいえ、一刀が運び屋の仕事に慣れた時であった。洛陽の道もだんだんと慣れてきて、この町に住み慣れた頃である。相変わらず、本体は日々の生活の為に仕事に汗水垂らして働いていた。『なぁ“肉の”』『なんだい?』『お前、どうやってイメージ映像送ってるの?』『え?』『そうだな、どうやるんだ?』『簡単だよ、念じればいいんだ、こんな風に―――』『おいやめろ! 暴発させんなっ!』『あ、ごめん、つい』『じゃあちょっとやってみようよ皆で』『そうだな』『そうだな』『そうだな』『ふぉぉぉぉ……桃香桃香桃香桃香桃香』『こぉぉぉ……月月月月月月』『はぁぁぁ……美以美以美以美以美以』『むぅぅぅ……翠翠翠翠翠』(やめろっ! なんだその呪詛は!)突然、人の真名らしき言葉を言い放ちまくる脳内。荷物を運ぶ為に力んでいた本体は、思わず手を滑らせて落としそうになる。「こらぁー! 一刀、客の荷物を落とすんじゃねーぞ!」「すみません! 店長!」大声をあげて謝る本体は、全力で脳内を無視する事に決めた。他人から見れば、気をそぞろにして仕事をミスする男に見えるだけである。これが肉体労働であまり頭を使わないで処理できる仕事なのが幸いであった。こんな声を聞きながら頭を使った仕事など集中できる筈が無い。『全然、出ない訳だが』『仕方ない、一度やってもらうのが理解への第一歩になる』『おい、“馬の”正気か!?』『俺は、たとえイメージの中だけでも翠に会いたいんだ!』『っ!』『……“馬の”お前は漢だぜ』『君の勇気に、僕は敬意を表する!』『さぁ来い! “肉の”! お前のイメージを送る様子を見せてくれ!』『『『覚悟は出来た! 俺達も受け手立つぞ!』『分かったよ皆! “馬の”! 行くぞ! むぉぉぉぉぉん!』『『『『グハッ!』』』』一秒たりとも耐え切れなかった“肉の”のイメージ映像に、一刀たちは1時間以上昏倒することになった。(阿呆か、俺は……阿呆なのか、俺は)脳内の会話を聞きながら仕事に従事していた本体が静かになって仕事に集中できるようになったのに、何故か凹んでいたという。 ■ 頭で撮る記念写真それはある日のこと。一刀は久しぶりに完全な休日を貰って洛陽の街を歩いていた。こうして骨を休めるのは何時以来だろうか。貴重な休日に、今日は何をしようかと考えていたところに音々音と会う。「ねね」「あ、一刀殿。 おはようなのです」「今から書生さん達の場所へ行くのか?」「はいなのです。 そういえば一刀殿はどちらへ?」特に行くあてなど無かったので、素直にそう言った。すると、音々音は何かを考え込むように二、三ぶつぶつと呟くとポムと手を重ねて一刀を見た。何故か顔が赤くなっている。何度か口をぱくりぱくりと開けては閉じ、不審に思いつつも何かを言いたそうな音々音に一刀は黙って見守った。そして、音々音は言った。微妙に、一刀の顔から視線を逸らして。「で、では、今日はねねと一緒に行楽にでも出かけますか?」「ええ、でも書生さんと会うのはいいのかい?」「もちろんですぞ。 書生の皆さんには事情を説明して納得してもらうのです。 そうと決まれば、すぐに話をしてきますので暫しお待ちをっ!」ダダダダッと駆けて音々音は一刀の元から去っていく。「いいのかなぁ」『本体、来たぞ』「え?」『“蜀の”どうした』『今のが分からないのか? 俺でも気がついたぞ』『ああ、今のは……間違いなくOKサインだ』『OKサイン……!?』『知ってるのか北郷!』『OKサインは、古来より女性が男性に対して発信してきた、謎の電波。 察知することが出来れば、その者は天国の階段を上るという……』『おい、お前ら馬鹿やってんな、本体が呆れてるぞ』『……』(いや、うん……まぁ暇つぶしにはなるよ、こういう話)“白の”の突っ込みに全員が文字通り白けた様で、脳内は突然静寂に包まれた。あまりの静寂さに、本体は一応、フォローを入れておくことにしたのである。ほどなくして、音々音がパタパタと戻ってきたので一刀と音々音は二人で洛陽の街を出て広大な草原を二人で歩いていた。天気は快晴、風は穏やか、気温は体感でもポカポカとして気持ちがいい。空は抜けたような青い空。雲はぽつんぽつんと青いキャンパスに白地を生やしているだけだった。「気持ちいいなぁー」「ですなぁー」どちらともなしに、一刀と音々音は両手を広げて空を見上げた。矢のように過ぎ去っていく毎日の中、こうしたゆとりのある日は実に心を躍らせてくれる。深く吸い込む空気は、今までに経験したことも無いほどにおいしい。「これだけでも、来て良かったって思えるね!」「一刀殿ー! あちらは草が少なくて寝転ぶのに丁度良さそうなのですー!」「よし! 行こう!」思わず駆け足。先を行く音々音に追いつくと、テンションが高いまま彼女の腰に腕を回してそのまま抱き上げる。抱き上げられた音々音は、あまりに突然の行動に頬を染めて慌てていた。「んっ、か、一刀殿!」「うわっっと!」バランスを崩して、しかし音々音だけはしっかりと支えて二人は草原に転がった。そのまま立ち上がらずに、二人は透き通る青い空と天に輝く太陽を見て目を細めた。柔らかな風が吹く。ここが、1800年前の中国であることもまるで些細な事の様に感じられた。大の字に寝転ぶ一刀は、益体の無いことを考えながらふと、隣で同じように大の字に寝転ぶ音々音の方へと顔を向けた。体が逆側、そして寝転んでいるので、逆さまにしたような音々音の横顔しか見えない。太陽の日差しに目を細めているその横顔が、なんだか普段見ている音々音の顔とは別の顔に見えた。「……一刀殿」しばし眺めていた一刀であったが、もう一度自分も空へと視線を向けると音々音の声が聞こえてくる。「なに?」「……こういうのが、幸せというものなのかも知れないのです」「……そうかもね」同意を返して、そして思う。この先は戦乱が待ち構えている。それは、歴史が明確にその事実を突きつけていた。今、こうして洛陽の街で生活を営み、音々音と共に寝転んでいると信じ難いことなのだが。それでも、きっとこうして過ごせる日々は少ない。戦乱の世が訪れてしまえば、どうなってしまうのだろう。自分は、その中でどうしているんだろう。でも、そうだ。こうして不安を抱え込んでいることもきっと遠い過去の話になる。その時、一緒に笑い合える人が居ればいい。それが音々音であれば、この日を振り返ることもあるのだろう。(写真が欲しいな……)暖かい日差しが差す中、一刀はそう思いながらもいつの間にか意識を落とした。柔らかな陽のぬくさに、睡魔に負けて瞳を閉じたのである。ふと気がつけば、目の前には少女の顔が。自分が眠っていたことに気がつくと共に、音々音の膝を枕にしていたことに気がついた。「ねね……ごめん、重かっただろ?」「別に全然平気なのです」くすりと微笑む音々音に、一刀は照れた。少女の膝を枕にしていたこともそうだが、音々音の笑顔がまぶしく映ったのだ。それを覆い隠すように一刀は立ち上がると、風を吹いて髪の毛を揺らす。少し風が出てきたようだ。眠っていたのは1時間か2時間か。太陽の位置はそれほど変わっていないので、あまり長時間寝ていたわけでも無さそうだ。やや早まった鼓動が落ち着くのを待って声をかけた。「そろそろ戻ろうか」こくりと頷いた音々音、それを見てふと気付く。脳内で唸る自分達に。(どうしたの?)『いや、とりあえずこれを感じてくれ』『いくよ?」(ええ?)本体は困惑した。先ほど、見たばかりの音々音の膝枕から見上げた画。そして、彼女の眩しいばかりの笑顔に顔を逸らした、その場面。草原を映す一刀の目の中、音々音の画が浮かび上がっている。あまりの違和感に、一刀は思わず瞳を閉じた。そして飛んでくる脳からの声。『どうだ、イメージ映像が見えたか?』(見えた……っていうか、なんだよこれ?)ようやく収まったはずの鼓動がぶり返して一人勝手に頬を染めつつ本体は尋ねた。『『『『『『俺達にも見えるんだ』』』』』』『ああ、つまり、本体の見た画を俺達はイメージ映像として共有、投影することができるってことだな』『……新発見だな』『ああ』『まぁ、また俺達に新たな謎が追加されたとも言えるが』(す、凄いなお前ら……)本体は純粋に驚いた。苔の一念とでも言うのだろうか。こんな事を実現させるなんて、なんという俺。この前まで阿呆だと思っていた自分が阿呆なのではないか。これはそう、なんというか瞬間記憶能力みたいな物ではないだろうか。後に検証の必要はあるが、これからの生活に大きな助けとなることもあるかもしれなかった。『『『良し、コツは掴めた!』』』『ああ、いこうぜ!』『『『『俺達の、俺達のためのイメージを!』』』』突然盛り上がった脳内に、本体は顔を顰める。そして始まったのだ。脳内大合唱が。『オォォォォ……華琳華琳華琳華琳華琳!』『ハァァァァ……雪蓮雪蓮雪蓮雪蓮雪蓮!』『ヌゥゥゥゥ……白蓮白蓮白蓮白蓮白蓮!』『見えろ見えろ見えろ、翠翠翠翠翠!』『麗羽ぁーーー! 俺だー! 馬鹿っぽいところを見せてくれー!』『くそっ、何故でない! 負けるな俺の意識!』(……)本体はとりあえず無視して、一向に立ち上がってこない音々音に視線を向けた。彼女は目の幅涙、ピクピクとその場を動こうとしてモジモジとしていた。「ねね、行こうよ」「うぅぅ……足が痺れて動けないのです、一刀殿~~」情けない声を上げて涙する音々音を見て、一刀は苦笑した。そして音々音の元に近づいて、スッと腰を下げて背中を向けたのである。「いこう」「うぅ、ゆっくりお願いするのです」「うん、なるべく振動は与えないからさ」一刀はねねをゆっくりおぶさると、洛陽への町へと足を向けた。脳内で気張る呪詛のような誰かの真名の連呼を聞き続けて。結局、彼らは自分達の持つイメージを具現化することには失敗したようである。後にこの瞬間記憶能力は、女性武将のみに効果を発揮することに脳内一刀達は気付いて絶望していた。てれてれてってってーかずと は ねねねのCG を てにいれた!