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No.22236の一覧
[0] 異聞・銀河英雄伝説 第一部・第二部完結、外伝更新[凡人001](2011/02/06 21:29)
[1] 第一部 第二話 策略[凡人001](2011/02/06 22:25)
[2] 第一部 第三話 アスターテ前編[凡人001](2011/02/07 08:04)
[3] 第一部 第四話 アスターテ後編 [凡人001](2011/02/07 20:49)
[4] 第一部 第五話 分岐点 [凡人001](2010/10/01 14:12)
[5] 第一部 第六話 出会いと決断 [凡人001](2010/10/01 14:14)
[6] 第一部 第七話 密約 [凡人001](2010/10/01 15:36)
[7] 第一部 第八話 昇進 [凡人001](2010/10/01 15:37)
[8] 第一部 第九話 愚行[凡人001](2010/10/22 10:58)
[9] 第一部 第十話 協定 [凡人001](2010/09/30 01:55)
[10] 第一部 第十一話 敗退への道 [凡人001](2010/09/29 14:55)
[11] 第一部 第十二話 大会戦前夜 [凡人001](2010/10/21 03:47)
[12] 第一部 第十三話 大会戦前編 [凡人001](2010/10/24 07:18)
[13] 第一部 第十四話 大会戦中編 [凡人001](2010/09/30 01:20)
[14] 第一部 第十五話 大会戦後編 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[15] 第一部 第十六話 英雄の決断 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[16] 第一部 最終話 ヤン大統領誕生[凡人001](2010/10/06 07:31)
[17] 第二部 第一話 野心[凡人001](2010/10/02 12:35)
[18] 第二部 第二話 軋み[凡人001](2010/10/02 13:56)
[19] 第二部 第三話 捕虜交換[凡人001](2010/10/01 20:03)
[20] 第二部 第四話 会談[凡人001](2010/10/02 12:34)
[21] 第二部 第五話 内乱勃発[凡人001](2010/10/03 17:02)
[22] 第二部 第六話 内乱前編[凡人001](2010/10/04 09:44)
[23] 第二部 第七話 内乱後編[凡人001](2010/10/08 17:29)
[24] 第二部 第八話 クーデター[凡人001](2010/10/05 13:09)
[25] 第二部 第九話 決戦前編[凡人001](2010/10/06 16:49)
[26] 第二部 第十話 決戦後編[凡人001](2010/10/06 16:45)
[27] 第二部 第十一話 生きる者と死ぬ者[凡人001](2010/10/07 19:16)
[28] 第二部 第十二話 決着[凡人001](2010/10/08 20:41)
[29] 第二部 最終話 新皇帝誕生[凡人001](2010/10/10 09:33)
[30] 外伝 バーラトの和約[凡人001](2010/10/22 11:02)
[31] 外伝 それぞれの日常[凡人001](2010/10/26 10:54)
[32] 外伝 アンネローゼの日記[凡人001](2010/10/23 19:12)
[33] 外伝 地球攻略作戦前夜[凡人001](2010/10/30 17:08)
[34] 外伝 ヤン大統領の現代戦争講義[凡人001](2011/02/03 12:56)
[35] 外伝 伝説から歴史へ[凡人001](2011/02/03 12:31)
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[22236] 第一部 第十六話 英雄の決断
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/29 14:56
第十六話 英雄の決断

『 セブンシスターズの変貌

セブンシスターズ、それは地球政権時代に金融系を中心とした巨大財閥のことをさす。だが、不滅の企業が存在せぬよう、セブンシスターズも不滅ではなかった。黒旗軍の攻撃で中心都市であるプリスベーンが陥落すると、その勢いを急速に失ってしまう。ただ、その莫大な富、主に貴金属類は黒旗軍が地球全土を制圧した時から見つかってはおらず、現在も行方不明のままとされている。一方で、金融を支配することで間接的に製造業を支配するという構図が崩れ去った時に勃興した新興企業が7社存在した。それに付随し、唯一黒旗軍の攻撃から逃れた、すなわち本社をJ-001恒星系に移転していた『ヒイラギ総合商社』を含めた8社が後のG8を形成することになる。ここから先は著者の思惑に過ぎないが、そのセブンシスターズの、いやヒイラギを除くのだからシックスシスターズか、その富の行方がどうも気になる。近年、といってももう半世紀近いが、フェザーンは地球出身の、準州としてしか認められていない、しかもシリウス暦時代の報復から一人しか選ばれることの無い代議員があれほど活躍した点が気になる。その資金源はどこからきたのか、それも不明のままだ。いち、ジャーナリストとしてはこの謎を解明したい、そいう欲求に駆られている』

宇宙暦755年 ジョン・ビック 「セブンシスターズの変貌」より抜粋 なお本人はこの著書発行後に行方不明となる。


『臨時ニュースをお伝えします。帝国領土侵攻作戦「ストライク」は失敗に終わりました。総動員兵力数3600万人の内、帰還した者は1200万人、特に第4艦隊、第6艦隊、第7艦隊は帰還率0%となっております。この事態を受け、最高評議会議員は全員が辞職を、「ストライク」作戦擁護者であったロボス元帥は的中に囚われの身となったものと思われますが、元帥号の剥奪と軍法会議の開催が決定されました。また、中央議会において作戦継続審議に賛成票を投じた議員の中からも辞職が相次いでいます。一方で州民連合を中心とした反戦派グループは勢力を勃興させており、来月中旬に行われる選挙では全議員数の3分の2以上を獲得することが確実視されています。なお、軍部ではシドニー・シトレ元帥が辞表を大統領に提出しましたが、却下されたとのことです。国民世論が絶望的な状況下で説得を続けたシトレ元帥、ドワイト・グリーンヒル総参謀長の見識を高く評価する声があり、彼らの進退を注目するところであります』

宇宙暦797年 1月23日 シリウス放送の緊急放送より



『発・統合作戦本部本部長  宛・第5艦隊司令長官

貴官の勇戦に敬意を評する。
また、これまでの共和国への献身から貴官を特別に二階級特進として元帥の称号を与え、宇宙艦隊司令長官に任ずる

宇宙暦797年1月23日』





第十六話 英雄の決断



アムリッツァ会戦は終了した。
約二週間の道のりをかけて、敗残の共和国軍兵士を収容したヤン艦隊と第2艦隊、第5艦隊、第8艦隊、第11艦隊は首都シリウスへと帰還する。
それはまさしく、敗残の群れといってよかった。





side トリューニヒト 宇宙暦797年 1月31日



今だ信じられない。
この30になったばかりの男が次期大統領候補だということが。

「お久しぶりです、国防委員長閣下」

(閣下、ときたか)

「いや、こちらこそ久しぶりだね、魔術師こと、奇跡のヤン元帥」

トリューニヒトが世辞を言う。

「ありがとうございます、これも委員長が我が艦隊を増強してくださった結果です」

確か似そうだ。
前例なきアスターテでの2万隻、アムリッツァでの5万隻もの戦闘艦艇を個人に与えるのは国防委員会の採決がいる。
軍や政府からの申請を受理するかどうかを決めるのは国防委員会だ。
決済するのは軍部では無い。出なければクーデターの可能性があるからだ。

「それはそれは・・・・骨を折った甲斐があると言うものだよ」

ヤンの世辞にのる。

「ええ、それに」

それを遮るトリューニヒト。
何が言いたいのかは想像がつく。

「それに、このたびの大統領選への支援について、かね?」

ヤンがまた頭を下げた。

「ご明察恐れ入ります」

(これはどうやら本当らしいな)

トリューニヒトは巷で流れている噂を思い出す。

曰く、ヤン元帥が大統領になる、その為に犬猿の仲といわれたトリューニヒトに頭を下げる、と。

「頭を上げたまえ、ヤン元帥。私は私の職権で当然のことをしたまでだよ」

トリューニヒトは考える。
別の言葉を発しながら。

(この若者を支持するようイルミナーティから指令が届いたのは驚いた)

無理も無い。あの連中は自分からは決して動かない。
自分の存在に感づいた者に利権を与え、傀儡とする。

(だが、彼の、オーベルト准将の提示したレポートを見ればイルミナーティの反応も分からなくも無い)

それは市場の崩壊。企業家にとっての悪夢。

(そして、軍のみならず民衆にも熱い名声)

圧倒的な名声はそれだけで武器になる。
芸能界や政界で無名より悪名のほうが良いとされる由縁だ。

(あの名声を敵に回しても不利なだけだ)

(ましてイルミナーティを敵に回せば再選など絶望的になる)

そうだ、選挙資金の半分は彼らからの支援。
それを失うのは愚の骨頂。

(なに、大統領の任期は最長3期の15年まで)

(私もまだ40歳だ)

計算では50代で大統領になれる。
ヤン・ウェンリーほどではないが十分に若い大統領の誕生だ。

(それにこの男はあくまで戦争終結を目的にしていると聞く)

(ラザフォートの様に3期目を狙うことはあるまい)

(そしてこの男の片腕、オーベルト准将だったか、彼の提示した新要塞建設とその利権)

そう考えながらヤンと話す。
驚いたことにヤンは更に民需利権の増大を指摘した。

(悪くない取引だ)

トリューニヒトも決断した。
やるかやらないか、ならばやるしかない。そしてやるからには徹底的にやるべきなのだ。

(ならば、ここで『次』を狙うため恩を売っておいて損はあるまい)

何度かの応酬の末、ついにヤンは言質を勝ち取った。

「よかろう、ヤン元帥、君を支援しよう」

ヤンは無言で頭を下げた。その胸の中に渦巻く複雑な感情を抑えながら。

それから数10分後、ライトブラウンのスーツを脱ぎ寝巻き姿になったトリューニヒトは思う。
左手に極上のウィスキーを傾けながら。

(戦争を終わらせる、か)

(私も若い頃は、あの青春の日々はそう思っていた)

思い出すは大学時代のゼミ。
みなに笑われながらも言い切った色あせない思い出

(だが、政界に入って何もかもが変わってしまった)

自分の力だけではどうにもならない世界。
そして、金、という名前の魔物たち。いや、麻薬たち。

(ヤン元帥、君は色にたとえるなら白色だ)

そう。何色にも染まってない、無垢な存在。

(だがね、政界はそんな存在を許さぬ魑魅魍魎の世界だ)

それは自分の体験談からきた思い。

(そして世界は君が思うほど甘くは無い)

(君は知らぬが、地球教徒という存在もある)

地球教徒。地球教。
セブンシスターズ、いやヒイラギを抜けば、シックスシスターズを中心とした怨霊。
銀河共和国警察最大の敵。暗殺された大統領も幾人かいる。

(あの地球時代の亡霊だ)

(君が何色に染まるのか・・・・見せてもらうとしよう)

そして一口、ウィスキーを呷る。

(願わくば私のようにならないで欲しいものだ)




side ジェシカ、ヤン



(私は会いに行く)

(この国最高の英雄へ)

そこには冴えない男がいた。一方は白人の美人だ。
どう見ても釣り合いが取れているとは思えない。
だが、その冴えない男こそが、アムリッツァで敵の追撃という全軍崩壊を防ぎ、400万もの将兵を救った。
そして稼いだ貴重な時間を使って再度アムリッツァ近郊の帝国領土へと侵攻。
取り残されていた1200万人もの人命を救ったのだ。

(メディアにでて「ストライク」を批判したのはそういう事だったのね)

メディアは「ストライク」作戦失敗を早期から予言したとして、魔術師ヤンを更に褒め称えていた。

(あなたは変わったわ・・・・いえ、変わらずにはいられなかった、そうよね)

そうであって欲しい。
決して、権力欲に目覚めたからではないと信じて。

「お帰りなさい、ヤン」

白色のスーツで出迎えるジェシカ。
動きやすいようにスカートではなくズボンをはいていた。

「ただいま、ジェシカ」

一方、軍服姿のヤン。
二人は「三日月亭」という高級レストランで食事していた。
かつて、ヤンがホアン・ルイと面識をもつためセキュリティーが高いところを選んだように、今回もそういう場所を選んだことになる。

「用件は分かってるの、だから手短に話して頂戴」

ジェシカが切り出す。

「・・・・・・」

ヤンは少し迷っているのか中々答えない。

「ヤン」

ヤンを煽るジェシカ。
そしてヤンが動いた。

「大統領選挙に出る。力を貸してくれ」

ヤンははっきり言った。

「そういうと思ったわ」

だがジェシカの反応はこの前とは違っていた。
今回も引っ叩かれるのを覚悟していたヤンにとっては拍子抜けする展開だった。

「ジェシカ?」

そんなヤンの疑問に答えるかのように続けるジェシカ。

「私たち州民連合は、各地であなたを支援する。それは党首のソーンダイク氏や副党首のジョアン・レベロ先生も了承したわ」

「すまない」

「あやまらないで。それでね、ヤン、お願いがあるの」

ジェシカからのお願い。
できれば、受けてやりたいものだが。

「なんだい?」

「捕虜になった人々、戦死した人々のリストを一般に公開して欲しいの」

確かに共和国にも戦死者通達システムがある。
だがそれは親族と婚約者以上の関係者にしか通達されないシステムだった。
ヤンは逡巡する。

「それは軍機に・・・・」

だがジェシカの視線がヤンの言葉を制する。

(それは知っているわ)

「だから、あなたにお願いするの。今もっとも軍に影響力のあるのはヤン、あなたなの。あなたにしか出来ないことなの」

腕を組み目を瞑るヤン。
そして。

「ひとつ聞いていいかい?」

「ええ」

「何故急にそんなことを?」

そう、ジェシカはそういう無茶を言う人間ではなかった筈だ。
それが何故?

「私の友達でその彼氏が軍の、第4艦隊にいたの」

(よりによって第4艦隊か)

ヤンは思う。一隻も帰還しなかった第4艦隊の惨状を。
正直生きているとは思えなかった。

「その人物の安否を確かめたい、そう言ってきたの」

「そして、そう感じる人は一人や二人ではないわ」

ジェシカの言うことは2400万人の家族、恋人、友人、知人、全てに当てはまる。
ヤンの頭が回転する。

「その男の名前は分かるのかい?」

「あなたも知っている人よ」

「私が?」

それは意外な返答だった。
そしてそれは確かに知っている名前だった。

「ワイドボーン、覚えは無い?」

「・・・・ある、同期生だ」

ジェシカが畳み掛ける。

「彼よ」

「・・・・・・・・・」

そして政治家としてのジェシカ・エドワーズ代議員が発言した。

「ヤン、それにこれはあなたにとって悪いことではないわ。軍部の秘密主義を剥ぎ取るリベラル派という側面をアピールできる」

それはヤンが望み、ヤンが聞きたくなかった言葉。

「ジェシカ」

「だから、お願い。不安にあおいでる人のためにも」

「・・・・・分かった」

ヤンは承諾した。




side ユリアン



「提督が大統領に!?」

ユリアンは思わず叫んだ。
そこはシルバービレッジと呼ばれる官舎街。
その一角で。

「ええ」

ヘイゼルの瞳を持つ、左手の薬指に指輪をした女性が答える。

「ちょっと、ちょっと待ってください少佐。急に何でですか?」

ユリアンの疑問はもっともだ。
敬愛する義理の父が、あれほど嫌がっていた政治の世界に自ら飛び込むのだから。

「それは・・・・・」

そしてフレデリカは語った。
彼との馴れ初め、否、切欠と、その後の共和国の辿るであろう道しるべを。

「そんな事って・・・・」

ユリアンは呆然としていた。
それは信じたくない事実。
だけれども、目の前の人物が語る以上、真実なのだろう。

「じゃあ、僕を守るためにヤン提督は自分の嫌いな政治家の道を志したようなものじゃないですか!!」

「そんなのおかしいですよ! フレデリカさん!!」

耐えられない。
ヤン提督は自分を犠牲にして、自分の道を変えたなんて。そんなこと。

「ユリアン・・・・辛いのは分かる。私だってあの人に政治の世界が向いているとは思えない」

それでもフレデリカ・グリーンヒルは続けた。
その手が震えていることにユリアンは気が付いていない。

「でもね、ユリアン。あの人はあの人なりに考えた結果なの。ならば家族である私たちが受け止めて上げなくてどうするの?」

家族。
それは重い言葉だ。

しばしの沈黙。

「少佐は、いえ、フレデリカさんはお強いんですね」

そこで耐えていたものが切れた。
フレデリカが取り乱す。

「いいえ! 私は決して強くなんて無い!!」

「今だって止めたいの!!もうやめましょう、楽になりましょう、そう言いたいの!!」

ユリアンは驚いた。てっきり納得しているものと思っていたからだ。
それがこんなに取り乱すなんて。

「フレデリカさん」

ユリアンはなんと声をかけてよいか分からない。

「でもね、ユリアン、私にはあの人が選んだときの気持ちが痛いほど分かるの。だからね言えないわ」

それはフレデリカの決意。
そしてユリアンにとっても選択を迫らせる言葉。

「どうしてですか?」

「決まってるわ。あの人を愛しているのだもの。全身全霊をもって。この身を捧げたくらい愛しているのだから」

この日、ヤンの家族は心を一つにした。




side 統合作戦本部本部長室 宇宙暦797年5月7日



そこにはヤン元帥の姿があった。

「辞表、やはり辞めるのかね」

「はい、本部長」

そこにいるのはシドニー・シトレ元帥。
本来ならば引責辞任として引退しているはずの人物である。
実際はそうなるはずであった。

そう、ヤン・ウェンリーと彼の命令を受けたオーベルシュタインが蠢動し、マス・メディアに「ストライク」作戦の議事録を公開するまでは。
そして世論は動いた。まるで謀ったかのように。
全ての責任はラザール・ロボス元帥とその一派にこそあり、他の人物は全て被害者であると。

オーベルト准将の世論操作で世論はシトレ擁護に傾いた。
この点はわずか半年で銀河共和国国内の主要メディア、主要人物を抑えたオーベルシュタインの力量の恐ろしさといえる。

もっとも、流石に誰も処罰しないというわけには行かず、本人の強い意向もあってドワイト・グリーンヒル総参謀長が一階級降格の上、査閲本部長へと左遷された。
なお、空いた宇宙艦隊司令長官には最後まで戦場にとどまったと言うこと、前任者が元帥であったという慣例上、特別に二階級特進したアレクサンドル・ビュコック元帥が内定している。
ちなみに予断だがアムリッツァ生存者、いや、「ストライク」作戦参加者は全員が一階級特別昇進しており、軍事費を圧迫していた。

それを聞いたヤンは立った一言漏らしたという。

「私もずいぶん阿漕な人間になったな」

そして宇宙艦隊司令長官の辞令を受けたビュコックは、こうチェン参謀長と会話したとファイフェル中佐は伝えている

『これはやはりあれかな、戦死による二階級昇進の間違いで、生きて帰ってくるな。ということかな?』

『いやぁ、単なる自棄でしょ。アムリッツァで敗れた中で英雄が欲しいんじゃないですか?』

と。

そして現在、シドニー・シトレはヤン・ウェンリーをデスク越しに見上げた。
この30歳の若い元帥閣下を、そして誕生するであろう31歳の大統領閣下を。

「前にも言ったが、我が軍は君の用兵家としての才能に期待している、それではだめかね?」

「はい、駄目です」

即答だった。
理由を問うシトレ。

「理由を聞いても良いかな」

「今回の「ストライク」作戦が理由です。軍人では戦争を止められません。自然休戦状態に持っていくのでさえ難しいでしょう」

確かに、あの作戦は矛盾と穴だらけの作戦であった。にも拘わらず、軍人たちは一度発動された作戦を誰もとめることはできなかった。
そして政治家たちはとめる権限と時間があったにも拘らず止めなかった。
それが、この大敗北へと繋がった。

「だから、今度の大統領選挙に立候補すると?」

「はい」

シトレとしてはヤンを失うのは痛い。
それが保身に近いことは分かっていた。
だが、それでも止めたかった。
そして最後の切り札を切る。

「では君の第13艦隊はどうするのかね?不敗艦隊だ、無敵艦隊だの散々に持ち上げられた第13艦隊だ。君がいなくなったらどうする?」

その問いは以前にもあった。
そしてあの時は答えられなかったが、今は答えられる。
そう、あの仲間なら。

「ダスティ・アッテンボロー大将に任せたいと思います」

そこでシトレは諦めた。ここまで決めたのなら仕方ない。
そう感じたのだ。

そこでシトレがにやりと笑う。

「ではヤン元帥、私が味方だと言うことを証明しよう。入りたまえ」

「「「「失礼します」」」」

そこにはアレクサンドル・ビュコック元帥が、ロード・パエッタ大将が、ドワイト・グリーンヒル中将、アッレクス・キャゼルヌ中将、チュン・ウー・チェン総参謀長がいた。

「ヤン元帥」

「パエッタ提督!?」

「大統領選挙にでるそうだな」

「は、はぁ。そのつもりですが」

「ならば軍部のことは私たちに任せたまえ。安心してこの国を変えてくれ」

パエッタが両手でヤンの右手を力いっぱい握る。
思わず顔をしかめるヤン。

「ヤン」

「ビュコック元帥」

「後のことはわしに任せろ。決して、あのような無謀な出兵はさせん。じゃからな、ヤン。体に気をつけてな」

敬礼するビュコック。
それにヤンも全身全霊をもって敬礼した。

「ヤン提督」

「グリーンヒル閣下」

「このたびは迷惑をかけてすまなかった」

「迷惑だなんてそんな。」

「幸い、私は国内を統括する部門の長だ。なにかあれば言ってくれ」

ヤンが何かを言う前に、キャゼルヌ中将が口を開いた。

「まるで、軍閥政治の一歩手前ですね」

「キャゼルヌ先輩」

「ですがヤン元帥、ここにいる者全てが戦争終結に向けて尽力する覚悟です」

思わず涙が出そうになる。

「だからな、ヤン候補生、精一杯やってこい」

シトレが、

「なーに、後のことは年寄りに任せておけ。年の功というやつをみせてやる」

ビュコックが、

「ヤン元帥、すまないが、この国の未来をよろしく頼む」

パエッタが、

「そいうことだ、お前さんは怠け癖があるからな、大統領くらいの激務と掛け合わせるのが丁度良いのさ」

キャゼルヌが、

「まあ、そういう事です。軍部の責任は我々が取りますから、しっかりと国の舵取りをお願いします」

チェンが、

それぞれ思い思いに激励の言葉をかける。





side シェーンコップ



彼も首都に来ていて。名目は退役願いを出すための有休。

「どうでした、シトレ元帥の反応は?」

「その言葉はイゼルローン奪取時にも聴いたね、少将」

「ふ、あの時はだめでしたが・・・・今度はどうでしたかな?」

ヤンは無言で首を縦に振る。

「実はですね、私も退役しようと思います」

「へえ、そいつは一体何故なんだい?」

「決まっています、あなたを見届けるためです」

ヤンが怪訝そうな、そしてすぐに納得した顔で頷く。

「見届けるね、監視するの間違いじゃないのかな。私がルドルフにならないように」

ヤンは言葉をつむぐ。

「じゃあ、貴官らローゼンリッター連隊は大統領権限で特命を出し、私のSPにする、で良いんだね?」

亡命貴族出身の男はにやりと笑った。

「そうですな、そうでなくては私の人生が面白くない」

そして彼は敬礼し、去っていった。

去り際にこう言い残して。

「あなたがアーレ・ハイネセンの王道の道をたどるのか、それともルドルフ大帝の覇道を突き進むのか楽しみにみさせてもらいます」



宇宙暦797年 5月7日、こうしてヤン・ウェンリーは退役し予備役となった。
翌日、宇宙暦797年5月8日、ヤンは正式に大統領選への出馬を決意し、実行した。

それは、第三の国父の誕生でもあった。


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