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No.22236の一覧
[0] 異聞・銀河英雄伝説 第一部・第二部完結、外伝更新[凡人001](2011/02/06 21:29)
[1] 第一部 第二話 策略[凡人001](2011/02/06 22:25)
[2] 第一部 第三話 アスターテ前編[凡人001](2011/02/07 08:04)
[3] 第一部 第四話 アスターテ後編 [凡人001](2011/02/07 20:49)
[4] 第一部 第五話 分岐点 [凡人001](2010/10/01 14:12)
[5] 第一部 第六話 出会いと決断 [凡人001](2010/10/01 14:14)
[6] 第一部 第七話 密約 [凡人001](2010/10/01 15:36)
[7] 第一部 第八話 昇進 [凡人001](2010/10/01 15:37)
[8] 第一部 第九話 愚行[凡人001](2010/10/22 10:58)
[9] 第一部 第十話 協定 [凡人001](2010/09/30 01:55)
[10] 第一部 第十一話 敗退への道 [凡人001](2010/09/29 14:55)
[11] 第一部 第十二話 大会戦前夜 [凡人001](2010/10/21 03:47)
[12] 第一部 第十三話 大会戦前編 [凡人001](2010/10/24 07:18)
[13] 第一部 第十四話 大会戦中編 [凡人001](2010/09/30 01:20)
[14] 第一部 第十五話 大会戦後編 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[15] 第一部 第十六話 英雄の決断 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[16] 第一部 最終話 ヤン大統領誕生[凡人001](2010/10/06 07:31)
[17] 第二部 第一話 野心[凡人001](2010/10/02 12:35)
[18] 第二部 第二話 軋み[凡人001](2010/10/02 13:56)
[19] 第二部 第三話 捕虜交換[凡人001](2010/10/01 20:03)
[20] 第二部 第四話 会談[凡人001](2010/10/02 12:34)
[21] 第二部 第五話 内乱勃発[凡人001](2010/10/03 17:02)
[22] 第二部 第六話 内乱前編[凡人001](2010/10/04 09:44)
[23] 第二部 第七話 内乱後編[凡人001](2010/10/08 17:29)
[24] 第二部 第八話 クーデター[凡人001](2010/10/05 13:09)
[25] 第二部 第九話 決戦前編[凡人001](2010/10/06 16:49)
[26] 第二部 第十話 決戦後編[凡人001](2010/10/06 16:45)
[27] 第二部 第十一話 生きる者と死ぬ者[凡人001](2010/10/07 19:16)
[28] 第二部 第十二話 決着[凡人001](2010/10/08 20:41)
[29] 第二部 最終話 新皇帝誕生[凡人001](2010/10/10 09:33)
[30] 外伝 バーラトの和約[凡人001](2010/10/22 11:02)
[31] 外伝 それぞれの日常[凡人001](2010/10/26 10:54)
[32] 外伝 アンネローゼの日記[凡人001](2010/10/23 19:12)
[33] 外伝 地球攻略作戦前夜[凡人001](2010/10/30 17:08)
[34] 外伝 ヤン大統領の現代戦争講義[凡人001](2011/02/03 12:56)
[35] 外伝 伝説から歴史へ[凡人001](2011/02/03 12:31)
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[22236] 第二部 第二話 軋み
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/02 13:56
『銀河帝国ゴールデンバウム王朝の考察・2

銀河帝国は新興国であり、人口比で圧倒的に劣勢であった。600億対55億人ではランチェスターの法則を用いればそのさは1800億対150億と歴然としている。実際、無人工場地帯を多数保有する共和国側の国力比率は10対1と圧倒的に銀河帝国を上回っていた。ところで銀河帝国初期の人口は10億に満たないにもかかわらず、アーレ・ハイネセン時代には45億人まで拡大した理由は何であろうか?
それは主にドイツ系住民の憧れと不満があったものと思われる。当時のハイネセン、という名前からも推察されるように、銀河共和国はアングロ・サクソン系白人種、ラテン系白人種、黒人種、黄色人種が主導権を握っていた。それも数百年もの間。実際、G8やNEXT11にドイツ系企業は一社も無く、大統領の9割が非ゲルマン系民族出身者だった。そこへルドルフ・フォン・ゴールデンバウムというドイツ系移民が作り上げた帝国である。銀河帝国にあこがれるものは少なくなかった。また、それなりの資産家には爵位を与えるという政策もあいまって多くの資産と人間がルドルフの作り上げた銀河帝国へと移民した。そこで彼らは現実と理想の狭間に立たされるのだが、それはまたの機会に語るとしよう。
兎にも角にも、銀河帝国はおよそ30億の人口を手に入れた。その後の多産政策で人口を55億人まで増大させる。一方共和国は、少子高齢化による人口の自然減少で最盛期の五分の一まで人口が減った。もっとも、人口減少は正常な人口ピラミッドの再構築とつながり、やがては我が父ヤン・ウェンリーの政策と合間って第三の黄金期を迎えるのだから皮肉なものである。話がそれた、人口比の話であったな。当時も、現在のローエングラム王朝も、開拓中の新興国、自由惑星同盟も国力比、人口比率では我が国はかなわない。銀河共和国・銀河帝国ローエングラム王朝・自由惑星同盟=590・40・25であるからだ。ところで、何故銀河帝国でこれほどまでに人口が減少したのか、読者の諸君は不思議に思わないであろうか?それは我が父ヤン・ウェンリーも参加した史上最大の失敗の異名を持つアムリッツァ会戦に要因があるといわれている。・・・・・・・・・』


『通貨について

銀河帝国では帝国マルクが、共和国ではクレジットが使われている。代替交換比率は帝国マルク3対クレジット1である。これは銀河共和国のものを全て否定したルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの政策の結果である。特にゴールデンバウム王朝時代は帝国マルク6対クレジット1が基本だったのだから、ローエングラム王朝の成長ぶりと、共和国の企業家や投資家がどれだけ未開拓地域へと関心を高めているかの表れといえよう。
実際、銀河帝国と銀河共和国の講和が成立すると総合商社や貿易会社、開拓会社に運送会社の株は一気に値上げしている。なお、1クレジットは旧暦(西暦)の日本円に直すと1円にあたり、1、5、10、50、100、500クレジット硬貨と1000、2000、5000、1万クレジット札に分けられる。帝国マルクも同様に区分けするが、1帝国マルクは0.5円に相当する』

著者ヤン・ラン 銀河共和国シリウス大学歴史学部卒業論文、添削前より時の教授シャルロット・フィリス・キャゼルヌ氏が抜粋



『ラン、あまりお父さんを誉めるのは止めなさい。これは政治学の授業でもなければ士官学校のカリキュラムでもないのですからね。それにお父さんはあまり戦功を誇る人ではないでしょ?』byフレデリカ・G・ヤン





第二部 第二話 軋み





side ミッターマイヤー 宇宙暦798年、帝国暦488年10月10日



あれから約一年が過ぎ去った。

(エヴァはどうしているだろうか)

帰れない故郷に哀愁を漂わせる。

(そしてあの方とロイエンタール。二人は今何をしているのだろうか)

ミッターマイヤーはそう思いながらも疑念を感じずに入られなかった。
一週間前、将官専用の捕虜収容所から追出された時は銃殺刑かと思った。
それも当然だ、まるで最後の晩餐会のような豪勢なホテルの料亭で食事をさせられたのだから。
だが、一向に銃殺する気配は無い。

「これが捕虜への対応か?」

そして今もミッターマイヤーは銀河共和国第二首都星ハイネセンのニューハインセン・ホテルで食事をしていた。
それは地上30階建ての高級リゾートホテルであった。
ちなみに一般人のビジネスマンが泊まるならば月収の半分を覚悟しなければならないホテルである。

「やはり何かの罠か」

そう思うのも無理は無い。
普通ここまでの対応などしない。

(俺を懐柔するつもりだな?)

そうとしか考えられない。
そこへ二人の、恐らくラテン系の男と恐らくゲルマン系の男が入ってくる。
たしかあの階級将は少将と中将のはず。

(対立するゲルマン系で中将とは珍しいな)

「ウォルフガング・ミッターマイヤー中将ですね?」

確認の為の一言。

「そうだ」

ミッターマイヤーも返事をする。
どうせ向こうも分かっていてこちらを呼んだに違いない。

「小官はジャン・ロベール・ラップ少将。現在ヤン大統領の安全保障補佐官を担当しております」

(若い、俺と同い年くらいではないのか)

「それは光栄ですな」

嫌味。だが返答は予想だにしなかったものだ。

「小官個人としてはあまり光栄な職務とは思えませんがね」

それは政治に興味が無いと言っているのと同じこと。

「しかし、その若さであのヤン大統領の幕僚とは、うらやましい限りです」

ラップはその言葉を待っていたとばかりに繫げて来た。

「そのヤン大統領がお目にかかりたいと仰せです」

「!!!」

流石に驚いた。

「一介の捕虜である俺にか!?」

そうだ、一国の国家元首がただの捕虜に会うなど異例も異例だ。
それは向こうも感じているのだろう。
一瞬だが、口元がゆがむ。

「そうです」

肯定する目の前の男。

「内容は?」

そこまではラップも知らない。
知らない以上、こう答えるしかなかった。

「それは本人から直接お聞きになる方が宜しいかと思います」

逡巡の末、ミッターマイヤーはらしくなく迷い、決断した。
だが、まずは確認しなければならないことがある。

「部下たちの安全は保障されているのでしょうね?」

そこで例の官吏様な男が発言しだす。
正直言ってあまり関わりたくない部類の男だとミッターマイヤーは感じた。

「はい、閣下がYESと仰るならば」

「な!」

それは一種の恫喝。
ミッターマイヤーも強張る。

「小官の権限であなたとあなたの捕虜期間を延ばし更に抑留することも可能です」

しかし、その言葉は逆に捕虜交換が近付いているという意味でもある。
そして、このまるでドライアイスのようなこの男。

「失礼ながら、卿とは一度会っている気がするが、気のせいか?」

確認と同時に殺気を叩きつける。

「気のせい、でしょうな」

それを柳のように回避する男。
目が光った。
どうやら義眼らしい、それも帝国製の。
正直言って信用できない。だが、選択肢は無い。

「ならば卿の姓名を名乗って欲しいものだ」

「これは失礼しました、今年新たに発足した銀河共和国中央情報局、初代局長ポール・サー・オーベルト中将です。現在はその傍ら、ヤン大統領の情報補佐官を担当しております」

そして密約が交わされた。





side ノイエ・サンスーシ  帝国暦487年1月30日(約一年半前)



ノイエ・サンスーシでは2400万名もの捕虜を得て、敵艦隊を全て撃退したと言うことで久々の勝利にみな表情が明るかった。
もっとも実情を知ったエーレンベルク元帥やシュタインホフ元帥、リヒテンラーデ侯爵は顔が真っ青であったが。

「此度は勝ったか」

灰色の皇帝が余り感情を感じさせない声で言う。

「御意にございます」

確かに勝つには勝った。
もしも当初の予定通り、イゼルローン回廊付近で決戦を挑んだならばどんな犠牲がでたか、否、勝てたか分からない。

「国務尚書、これで異論はないな」

そうだ、異論などもう出せない。
何せあの金髪の小僧は勝ったのだから。
そして宇宙艦隊司令長官の交代も皇帝の意思。

「・・・・・・ハ」

「ではローエングラム伯を宇宙艦隊司令長官に任ずるとしよう」

そこでエーレンベルク元帥が動いた。

「陛下、恐れながら申し上げます」

「ん?」

「宮廷内での配慮を賜りたく存じ上げます」

フリードリヒ4世は心底不思議そうな顔で・・・・

「何故じゃ?」

と、尋ねた。
そこでリヒテンラーデが引き継ぐ。

「陛下の身の安全のためでございます」

「それはそれは・・・・フフフフフ」

含み笑いをもらす皇帝。

「笑い事ではありません。このたびの課税、必ずや災いを招きます」

それは宇宙艦隊再建計画を指していた。
本来であれば対象から外れるであろう大貴族を第一の対象にしたこのたびの臨時課税。
反発が無いはずが無い。ただでさえ、4個艦隊もの艦隊を無条件で提出されたのだ。

「それでリヒテンラーデ侯爵、卿はどうしたら良いと思うのじゃ?」

「ブラウンシュバイク公爵、リッテンハイム侯爵に格別のご配慮を願います」

ふと思い出したように戦況報告に来ていたエーレンベルク元帥を呼び出す。
リヒテンラーデは無視された格好になるが仕方が無い。
なにせ、相手は神聖不可侵の皇帝陛下だ。それに長い付き合いで慣れている。
・・・・・・・・・・遺憾ながらな

「ところで軍務尚書?」

「ハッ」

「先に軍費を提出したのはどちらじゃったかのう?わしはみての通り無能な老人に過ぎぬから物忘れが激しくてな」

エーレンベルク元帥は内心で、

(どこが無能ですか?)

と思いながらも質問に答えた。

「リッテンハイム侯爵であらせられます、付け加えるなら軍事費の総額もリッテンハイム侯が多く寄付されました」

そこで頬に手を当てて考えるフリードリヒ4世。
そして約3分の沈黙の後、発言した。

「では、リッテンハイムには公爵位を、ブラウンシュバイクには帝国直轄領土のひとつヴェスターラントをくれてやろう」

「・・・・・・・陛下」

リヒテンラーデは苦虫を何十匹もつぶした顔をする。
それを見て面白そうに笑う皇帝。

「ははは、まだあるのか?さしずめバランスが、と言いたいのであろう?」

それは核心を突いた言葉。
リヒテンラーデは我が意を得たとばかりに続ける。

「はい、リッテンハイム侯爵はそれで納得するかもしれませんが、ブラウンシュバイク公爵は納得するとは思えません」

またもや考えにふける皇帝フリードリヒ4世。

「ふーむ、ではエリザベートの誕生日会をこのノイエ・サンスーシで開くとしよう」

爆弾発言。

「それでは・・・・・エリザベート様を後継者に選ぶので?」

そうだ、いまや帝国の後継者はエリザベート、ザビーネ、ヨーゼフ2世の三人しかいない。
そのうちの一人を特別にノイエ・サンスーシで開くとなれば・・・・・・・

「いいや、その点は言明せん。ただ誕生日会を開くだけじゃ」

だがリヒテンラーデの想像は外れた。

「これでバランスは取れたであろう」

そしてリヒテンラーデは思う。

(たしかに、バランスは取れる。リッテンハイム侯爵は公爵へと階段を進めブラウンシュバイク公爵と名実ともに並ぶことになる)

(方や、ブラウンシュバイク公爵は自分の娘を皇位継承権争いから一歩リードしたことになる)

しかし彼はその危険性にたどり着いた。両雄並び立たず、という危険性。
しかもだ、自分たち宮廷貴族(閣僚)が今までの策を作り行ったと考えている。

(だが、危うい。これではわし等を君側の奸として帝国を二つに割る口実にもなるぞ)

そして固有の武力を持たないリヒテンラーデはすぐに失脚するだろう。
まあ、抵抗しなければ財産の半分の没収とリヒテンラーデ一族の社交界からの永久追放で済むであろうが。
問題は戦後。

(最悪なのはリッテンハイム・ブラウンシュバイク二党体制の確立)

(いや、それはありえん。どちらも同じ公爵で後継者問題が言明されていない以上、再び内乱になる)

最悪、二度にわたる内紛が起きる。
そうなれば圧倒的な国力を保有する共和国軍のことだ、今度こそ銀河帝国軍を叩き潰しに来るに違いない。

現にあれだけの損害を受け、こちらもあれだけの損害を出したのに奴らはまだ9個艦隊が健在で、しかも報告が正確なればレダ級、トリグラフ級という次世代戦闘艦に全て切り替えると聞く。
こちらは従来の旧式艦艇でしか再建ができないと言うのに、だ。

帝国領土への再度の侵攻。
内乱で疲弊した帝国軍を鎧袖一触する共和国軍。
オーディンに、ノイエ・サンスーシにはためく共和国の国旗。

(それを避けるには・・・・・あの金髪の小僧と手を組むしかない)

(彼奴の武力を持って両公爵を排除し、その後に奴を排除する。そしてヨーゼフ2世殿下を皇帝陛下へと奉り上げる)

(これしかない)

そうしてリヒテンラーデは決断した。

一方、健康の悪化を理由に宮廷への参入を拒否していたリッテンハイム侯爵が公爵位に叙せられると聞くと喜び勇み宮廷に登城。
これを聞いたブラウンシュバイク公爵は歯軋りするも、自分の娘の誕生日会がノイエ・サンスーシで開かれることに溜飲を下げることとなる。





side フェザーン 宇宙暦798年、帝国暦488年10月10日



ミッターマイヤーが密約に応じるよう仕向けられた頃、遠く離れたフェザーンでも共和国に対して謀略が展開されようとしていた。


「共和国の件はあれでよい」

ルビンスキーが頷く。
だが、ボルテックは浮かない顔だ。

「アーサー・リンチでしたか、先に帰国させてクーデターを起させる、本当によろしいのでしょうか?」

今まで忠実だった部下が始めて疑問を提示してきた。

(興味深いな)

ボルテックは言いにくそうだ。
仕方ないので、発言を促す。

「というと?」

「まずクーデター自体が成功するか疑問です。ここ1年で共和国の情報網は飛躍的に強化されてきました」

中央警察、軍情報部、地方警察、各地の警備艦隊情報局、はては女性士官の給仕ネットワークや男性士官の居酒屋ネットワークをも統合した一大組織が誕生していた。
その名前を『銀河共和国中央情報局』、通称RCIA(リシア)である。

「ふむ」

ルビンスキーもRCIAの噂は聞いている、というより実地で知っている。
送り込んだスパイの大半が捕縛されるかダブルスパイとかしている。
厄介極まりない組織だ。それを作り上げたオーベルトとヤン。

(侮れん。今までの共和国には無いパターンの人物らだ)

「それにこれは噂なのですが、軍部内部にクーデターを起す輩が存在する、という噂が実しやかに流れております」

意外な顔をするルビンスキー。
それに驚くはボルテック。

「・・・・・それは初耳だ。ボルテック補佐官、それは誰から聞いたのかね?」

彼は言いにくそうに話す。
こういうときの彼の口調は裏づけの証拠が無いことを指している。

「また聞きですが、バグダッシュ大佐からヘンスロー高等弁務官へ報告があり、この間の立食パーティで聞きだしました」

「そうか、また、バグダッシュか」

何度か聞いた名前。
だが、彼は小物だろう。大物は別にいる。

「はい、ですが単なる大佐がそのような行為をするとは思えません。やはりこれは・・・・」

ボルテックも同意見だ。

「ヤン・ウェンリーの謀略だと言いたいのだな」

「ですぎた真似かも知れませんが。このたびの計画、延期なさっては?」

一瞬考え、否定する。

「・・・・・いや、それは出来ん。あのお方が共和国の弱体化を望んでいるのだ」

そう、地球教という秘密結社がそれを望んでいる。
それだけ共和国で追い詰められている証拠といえよう。
やはりシリウスの執念は強い。一度火がついたら枯れ木のように燃え出した。
もはやDNAレベルの拒絶反応だろう。

(そういえば、教会で信者がサイオキシン麻薬を吸っているところが見つかったというニュースをハイネセン報道から聞いたな)

事実、サイオキシン麻薬摘発を名目に、地球教徒の逮捕者が続出している。
その逮捕者の中には無理やり中毒患者にさせられた女子供も含まれており、ヤン大統領の怒りを買った。

『サイオキシン麻薬製造、販売者を即刻逮捕せよ。
これは大統領の直接命令である。軍も憲兵を動員し、中央警察、地方警察を支援せよ。
必要とあらば軍事介入も辞さない』

そうして地球教徒の大半はフェザーンを経由して帝国領土へと逃げ込んでいた。
シリウスの反地球感情とあいまって地球は中央政府直轄領土になり、準州の資格と代議員資格は剥奪された。
これに賛同して喜び勇み地球教を捕らえるのに尽力した民間団体が、かつてフェザーンが網と根をを張っていた憂国騎士団なのだから、もう目も当てられない状況だ。

(よくもまあ、粛清されずに俺は生きているものだ)

ルビンスキーは本気でそう思う。RCIA登場以降、こんな事は日常茶万事だ。

いわば、クーデター計画はその地球側の復讐戦にあたる。
だから本音を言えばルビンスキーは乗り気ではなかった。
そう視線でボルテックを諭す。

「ですが・・・・・いえ、失礼しました」

ボルテックもあの方々、地球教幹部の命令と知り引き下がる。

「ボルテック、君の懸念は十分分かった。分かった上で対策を立てる、それで良いかね?」

「はい、自治領主閣下」





side ロイエンタール



ワーレン艦隊、ケスラー艦隊、ルッツ艦隊、ミュラー艦隊の計4個艦隊の大規模演習の査察を終えたその帰路。
ロイエンタールは思った。

(このままあの方についていく、それは俺が本当に目指している道なのか)

アムリッツァ会戦の後に感じた疑問。

(本当に俺の喉の渇きは癒されるのか)

それは彼にとっては深刻な疑問だった。

(本当はあの方と戦い、戦って充足感を得ることこそ俺の望みなのではないか)

思い起こされるは父親の言葉。
死んだ母の姿。

『生まれてこなければ良かったのだ』

それは彼の、オスカー・フォン・ロイエンタールの心に深く刺さったトラウマ。

(もしも生まれたことに意義があるとしたならば)

ロイエンタールは思う。自分の存在意義を。

(俺はそう何かを得るために生まれてきたはずだ)

それは長らく自分の中に燻ぶっていた疑問。

(ならばなんだ。俺の意義、俺の生。俺にとって満たされないこの渇きは)

それは慟哭か?それとも愚痴か?

「俺は何者なんだ?」

彼の独白は誰にも聞かれること無く空中に消えた。





side ヒルダ



「今日も元帥府への出向か、正直疲れるわね」

ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフはさすがに辟易していた。

「でもここで負けてはだめよ、ヒルダ」

自分に活を入れるヒルダ。
分かっているのだ、皇帝・リヒテンラーデ派と目されるマリーンドルフ伯爵家の危うさは。

「ここで負けたら全てが無駄になってしまう」

あの金髪の若者に全てを賭けた。マリーンドルフ伯爵家の未来も、そして自分自身の未来も。

「ブラウンシュバイク、リッテンハイム両公爵が良からぬ行動にでたと聞くし」

ブラウンシュバイク公爵の私邸、リップシュッタトの森である密約が交わされたことは貴族階級の常識だ。
それは反皇帝同盟とでも言うべきものであった。
帝国は、共和国ほどではないが、先年生じた帝国領土侵攻作戦の損害からある程度回復しており貴族領土に11個艦隊、帝国宇宙軍正規艦隊に10個艦隊が並ぶ。

ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥指揮下の下

ラインハルト・フォン・ローエングラム直卒のローエングラム艦隊

オスカー・フォン・ロイエンタール大将のロイエンタール艦隊

ウォルフガング・ミッターマイヤー中将のミッターマイヤー艦隊(バイエルライン少将が代理として運用)

コルネリアス・ルッツ中将のルッツ艦隊

アウグスト・ザムエル・ワーレン中将のワーレン艦隊

ウルリッヒ・ケスラー中将のケスラー艦隊

エルネスト・メックリンガー中将のメックリンガー艦隊

フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト中将のビッテンフェルト艦隊

ナイトハルト・ミュラー中将のミュラー艦隊

そしてジークフリード・キルヒアイス上級大将のキルヒアイス艦隊

の合計10個艦隊が再建された。
貴族たちの資産を大幅に削りだして。たとえば親皇帝派のマリーンドルフ伯爵家でさえ資産の四分の一を提供させられた。
伯爵以上は国家緊急の時を名目に、半分近い財産を没収されたと聞く。
これで怒らないほうがどうかしている。

「かたや共和国軍も戦力の再編成を完了させたらしいし」

それは事実だった。もっとも大部分の貴族たちはそれを共和国側の偽電と信じ込んでいた。
いや、信じたがっていたが。

「共和国側では私たちとは異なり、艦隊は第2、第5、第8、第10、第12、第13、第14、第15、第16、第17艦隊がそれぞれ2万隻、それも従来艦を凌駕するレダ級巡洋艦、トリグラフ級艦隊旗艦、更にはかつての艦隊旗艦アキレウス級を増産して全ての分艦隊旗艦にしたと聞く。そしてフェザーン方面の要塞建設。」

それはヤン・ウェンリーの公約だった。
そしてそれを一年でやり遂げた共和国の圧倒的なまでの生産力。
もっとも、ハードの面にソフトの面がついていっていないのが現状で、彼個人の思惑もあって再度の侵攻をするつもりは無かったのだが。
イルミナーティとの約束を守る形になった。

そうも言ってられないのが帝国側の事情。
帝国は一年かけて、貴族の私軍・正規軍をかけて従来の1万2千隻を1万隻にすることでなんとか乗り切った。

「うらやましい限りの物量だわ。こちらは従来の艦艇で戦闘力が劣り、いくつかの例外を除けば、編成も一個艦隊は1万隻丁度。もしも再度の侵攻があったら・・・・・とめられない」

「それにそれだけの軍備増強を行いながらも国庫にはそれほど負担になっていない。こちらが国庫の割合に占める軍事費が半分に達しようかというのに」

ヒルダの苦悩は続く。




そして捕虜交換式を迎える。


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