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No.22236の一覧
[0] 異聞・銀河英雄伝説 第一部・第二部完結、外伝更新[凡人001](2011/02/06 21:29)
[1] 第一部 第二話 策略[凡人001](2011/02/06 22:25)
[2] 第一部 第三話 アスターテ前編[凡人001](2011/02/07 08:04)
[3] 第一部 第四話 アスターテ後編 [凡人001](2011/02/07 20:49)
[4] 第一部 第五話 分岐点 [凡人001](2010/10/01 14:12)
[5] 第一部 第六話 出会いと決断 [凡人001](2010/10/01 14:14)
[6] 第一部 第七話 密約 [凡人001](2010/10/01 15:36)
[7] 第一部 第八話 昇進 [凡人001](2010/10/01 15:37)
[8] 第一部 第九話 愚行[凡人001](2010/10/22 10:58)
[9] 第一部 第十話 協定 [凡人001](2010/09/30 01:55)
[10] 第一部 第十一話 敗退への道 [凡人001](2010/09/29 14:55)
[11] 第一部 第十二話 大会戦前夜 [凡人001](2010/10/21 03:47)
[12] 第一部 第十三話 大会戦前編 [凡人001](2010/10/24 07:18)
[13] 第一部 第十四話 大会戦中編 [凡人001](2010/09/30 01:20)
[14] 第一部 第十五話 大会戦後編 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[15] 第一部 第十六話 英雄の決断 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[16] 第一部 最終話 ヤン大統領誕生[凡人001](2010/10/06 07:31)
[17] 第二部 第一話 野心[凡人001](2010/10/02 12:35)
[18] 第二部 第二話 軋み[凡人001](2010/10/02 13:56)
[19] 第二部 第三話 捕虜交換[凡人001](2010/10/01 20:03)
[20] 第二部 第四話 会談[凡人001](2010/10/02 12:34)
[21] 第二部 第五話 内乱勃発[凡人001](2010/10/03 17:02)
[22] 第二部 第六話 内乱前編[凡人001](2010/10/04 09:44)
[23] 第二部 第七話 内乱後編[凡人001](2010/10/08 17:29)
[24] 第二部 第八話 クーデター[凡人001](2010/10/05 13:09)
[25] 第二部 第九話 決戦前編[凡人001](2010/10/06 16:49)
[26] 第二部 第十話 決戦後編[凡人001](2010/10/06 16:45)
[27] 第二部 第十一話 生きる者と死ぬ者[凡人001](2010/10/07 19:16)
[28] 第二部 第十二話 決着[凡人001](2010/10/08 20:41)
[29] 第二部 最終話 新皇帝誕生[凡人001](2010/10/10 09:33)
[30] 外伝 バーラトの和約[凡人001](2010/10/22 11:02)
[31] 外伝 それぞれの日常[凡人001](2010/10/26 10:54)
[32] 外伝 アンネローゼの日記[凡人001](2010/10/23 19:12)
[33] 外伝 地球攻略作戦前夜[凡人001](2010/10/30 17:08)
[34] 外伝 ヤン大統領の現代戦争講義[凡人001](2011/02/03 12:56)
[35] 外伝 伝説から歴史へ[凡人001](2011/02/03 12:31)
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[22236] 第二部 第五話 内乱勃発
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/03 17:02
『 リップシュタット連合軍

リップシュタットの森にて盟約を結んだ貴族の連合体をさす。参加した貴族、4076名、中心人物はオットー・フォン・ブラウンシュバイクとウィルヘルム・フォン・リッテンハイム両公爵である。両者の目的は一致していた。君側の肝であるラインハルト・フォン・ローエングラム侯爵とクラウス・フォン・リヒテンラーデ公爵を打倒し、かつてのように皇帝フリードリヒ4世を傀儡とすることであった。だが、それだけでは大義名分に薄いと感じた両名は、皇太孫フリッツ・ヨーゼフ2世に目をつける。いわく、真の後継者は彼であり、国政を壟断し、秩序と誇りある伝統的な階級を無視し、私腹を肥やすローエングラム・リヒテンラーデ枢軸を打倒する、と。だが、彼らは重大なことを忘れていた。というより、後世の目から見ると忘れたように思える。それは現皇帝がフリードリヒ4世であり、彼が健在な以上彼に反旗を翻すということはそれ即ち逆賊の汚名をかぶることになると。事実、皇帝は勅令を発した。ガイエスブルグ要塞に立てこもった4076名の貴族全ての爵位と領土を召し上げ、本人たちは逆賊であり処断の対象であると。こうして貴族連合軍は大きな爆弾を抱えたまま戦闘を余儀なくされる。逆賊としての汚名、それは戦闘後半で大きな意味を持つことになる』



『 銀河共和国軍内部における不穏分子にて報告

銀河共和国軍内部にクーデターの動きあり、注意されたし。目標は首都星全域の占拠。その為に辺境各地で反乱を起すものと思われる。
現在はRCIAが対応中であり、近日中には吉報を報告できましょう 報告者 ポール・サー・オーベルト中将』



『ある皇帝の独白

わしは孤独が嫌いじゃった。わしの若い頃は兄弟仲よく育った。あの頃は良かった。誰も簒奪だの暗殺だの考えもせななんだ。
だが、長兄が大逆の罪で誅殺されてから変わってしまった。宮廷内部に渦巻く陰謀に巻き込まれたと言って良かった。わしは酒に女、ギャンブルにのめりこむ事で全てを忘れようとした。弟が長兄を殺したなどという報告は、いや、噂か、聞きたくなかった。あんなに一緒だったのに。夕暮れは違う色とはよく言ったものよ。そして無能な振りをし続けた。そうすれば宮廷内部の貴族どものことだ、将来有望な弟を推すに決まっている。
そしてそれは上手くいった。そう、途中までは。まさか、弟までもが陰謀の犠牲になるとはなぁ。わしは一人になってしまった。そして共和国との戦争。絶え間ない戦い。わし一人の力では国是はもう変ええられない。何より、わしは一人だ。友の一人もおらぬ。それは皇族の宿命だったのか。
だからわしは待った、30年もの長きにわたって、いつの日にかこの腐った矛盾した国を変えるものが現れれると期待して。もっともその間の空白を埋めるため多くの女に手を出した。彼女らならばその無垢な心でわしの寂しさを紛らわせてくれると信じて。だが裏切られた。いや、この際、裏切ったのはわしの方か。誰も彼も皇帝たるわしの権力に媚を売る輩ばかり。わしにとって後宮は宮廷となんら変わらない舞台となってしまった。そんな中、シュザンナという一風変わった少女に出会った。その少女は純粋無垢の可憐な子であった。しかし、わしはおろかにもその子の純潔を奪い、その子の純粋さを失わせてしまった。
そんなおりじゃった、アンネローゼ・フォン・ミューゼルに、わしの孫娘に出会ったのは。』




第五話 内乱勃発




side ブラウンシュバイク




貴族連合は演習の名目でガイエスブルグ要塞に集結した。
その数、およそ13個艦隊。将兵3800万人。
そしてエルウィン・ヨーゼフ2世を擁立し、君側の肝を取り除くと称して銀河帝国中央政府に反旗を翻した。
盟主ブラウンシュバイク公爵、副盟主にリッテンハイム公爵をたてて、銀河帝国の正統政権に徹底抗戦の意思を示していた。

豪華な私室。高級家具が所狭しと並べられている。
恐らく庶民は一生かかっても買えることは無い家具類だ。
そこに三人の軍服を着た男がいた。

「賊軍だと!」

手に持っていたグラスを投げつける。

「あのリヒテンラーデめ、いや、金髪の小僧だな!!」

彼はいうまでも無く怒っていた。
といより激怒していた。

「アンスバッハ、すぐに兵を出せ!オーディンを攻めるぞ!!」

感情論だ。
一時の感情に流されてはいけない、そうアンスバッハは考え、諭す。
我々の財力は度重なる重税で大きく削がれており決して十分な量があるとは言えないのだから。

「しかし閣下、それでは本来の持久策を捨て去ることになります」

持久策、それは作戦会議の場で満場一致で可決された事。
とくに、こと軍事に関してはマールバッハ伯爵に一任したではないか。
それに反発するブラウンシュバイク。
彼が欲しいのは「はい」の一声のみだ。

「賊軍といわれて黙っていろとは、ブラウンシュバイク公は中々立派な部下をお持ちのようだな」

そこで口を挟むものがいる。
皮肉めいた口調はわざとだろう。
両頭体制といえば聞こえがいいが、リップシュッタト連合軍は最初から二つの派閥が牽制しあっていた。
その片方の雄が彼である

「リッテンハイム公爵」

そう、近年、名実共にブラウンシュバイク公爵と並んだ男だ。
もっとも内実も似たようなものなので、下級兵士は鏡の中の自分と喧嘩していると揶揄していた。
このことから分かるとおり、開戦直後から貴族連合への忠誠心は遥かに低かった。

「どうだろう、ブラウンシュバイク公爵、当初の予定通り持久策を維持しては?」

それは単にブラウンシュバイクの言葉に反対したいだけで、大した戦略眼がある訳でもない。
単に感情的に反発しただけだ。

「ほう、それでは卿には貴族としての誇りはないと、仰せですかな?」

それに反発し、挑発するブラウンシュバイク。

「何だと?」

そこにおかっぱ頭の軍服を着たものが仲裁に入る。

「まあまあ、叔父上もリッテンハイム公爵も落ち着きなさってください」

ブラウンシュバイク公爵の甥、ラザード・フォン・フレーゲル男爵だ。

「ほう、フレーゲル男爵、何か良い方法でもおありですか?」

警戒するリッテンハイム。当然だろう。
潜在的な敵なのだから。

「ここは兵士を出して一戦し、敵を殲滅させ出鼻を挫くのが得策でしょう」

やはりブラウンシュバイクの策を推してきた。

「それはつまり、ブラウンシュバイク公爵の案に賛成ということですか?」

「というより、叔父上の案に更なる修正を加えたという点でしょうか」

ここでは形勢不利と見たリッテンハイムはカードを切る。
軍事司令官としてのマールバッハ伯爵というカードを。

「それでマールバッハ伯爵が納得するとは思えんが・・・・」

「そこはお二人の協力しだいです」

結果論だがマールバッハ伯爵は条件付で合意した。
一つは作戦に参加するのが自分が連れてきた艦隊ではないこと。
一つはシュツーカ・レーダー、ティーゲル・デーニッツ、カール・ティルピッツの歴戦貴族派の3個私兵艦隊を自分の指揮下に入れることである。
特に後者はこれからも自分の部隊として運用したいとしてブラウンシュバイクに這い蹲ってまで願い出た。
これに気を良くしたブラウンシュバイク、リッテンハイム両公爵はこれを承諾。ご丁寧に貴族連合全軍に通達した。
これでマールバッハ伯爵は貴族艦隊の中で正規軍に対抗できる唯一といっても良いほどの精兵を指揮下に収めることとなる。


そして貴族連合軍13個艦隊のうち、2個艦隊が帝都オーディンに向け出発した。

結果、この2個艦隊はアルタナ恒星系においてミュラー艦隊、ミッターマイヤー艦隊の挟撃を受け指揮官ヒルデスハイム伯爵とともに壊滅する。
貴族連合軍は宇宙暦799年、帝国暦490年5月11日の時点で早くも艦隊の六分の一を失った。





side ノイエ・サンスーシ 宇宙暦799年、帝国暦490年4月21日



宮廷には皇帝派の貴族が参内していた。
だが、それはわずか300人あまりと少ない。
特に伯爵家以上のものはリヒテンラーデ公爵、ローエングラム侯爵、マリーンドルフ伯爵、エーレンベルク伯爵、シュタインホフ伯爵の5名である。

「苦しゅうない、面を上げよ」

皇帝が命令する

「「「「「ハハ」」」」」

皇帝が確認するかのように聞く。

「ついに動いたか?」

誰が、何が、とは聞かない。
それは貴族連合軍出撃の報告の確認だった。
その冷静さにシュタインホフ元帥が聞く。

「陛下はこの事態を予見しておいでですか?」

「シュタインホフ元帥。そうだといったらどうする?」

皇帝が試すような口調で、いや実際に試しているのだろう。
シュタインホフを問いただす。

「何故このような暴挙をお許しに、いや、そうなる前に手を打たなかったのです?」

それは疑問。
そして不敬罪に当たるかもしれない発言でもあった。

「そう慌てるな、シュタインホフ元帥、エーレンベルク元帥が顔を青くしているではないか」

少しからかうフリードリヒ4世。

「そうじゃな、理由はこの場の通りじゃ」

周りを見渡す。勅命により馳せ参じたものたちを。

「少し専横が過ぎた者どもを懲らしめるためよ」

それにリヒテンラーデが悲鳴のような声を上げる。
貴族の数=力と考えるリヒテンラーデにはこの事態は早すぎたし、味方する貴族の数が少なすぎた。

「陛下!」

「それにまだ負けると決まったわけではあるまい。確かにガイエスブルグを奪われたのは遺憾じゃ」

ここで皇帝は思いもかけぬ言葉を続けた。

「じゃが、それがどうしたというのだ?」

そして歌うように続ける。
ラインハルトはその歌を背筋が凍りつくような寒さで聞いていた。

「彼奴らには指揮系統の一本化など到底できまい」

「また忍耐力も無い」

「そして賊軍と呼ばれることの恐怖」

そう、下級兵士にとって怖いのは賊軍と言う名称。
いや、大貴族たちも心の奥底では怖がっているはずだ。
何故なら、賊軍=大逆罪=死刑しかない。
まさか、フリードリヒ4世がここまで強硬姿勢にでるなど思いもしなかっただろう。

「当然じゃな、玉璽も玉座も余が握っておるのだからな。離反が相次ごう」

いったん口を閉ざす皇帝。
そこでマリーンドルフが口を挟む。

「しかし、その離反も勝てばの話。もしも勝てぬときはどうするお積もりですか」

心底驚いたと言う感じで、

「ほう、マリーンドルフ伯爵が軍事に詳しいとは知らなんだな、これからは伯爵にも軍議に参加してもらうか?」

と、投げかけた。

「恐れ入ります、して、その場合はどうするつもりですか?」

だが、彼も役者だ。皇帝のボールを即座にキャッチし投げ返す。
誠実さだけがとりえだと言われてきたが、実際はそんなことは無い。
これでも彼も宮廷という毒蛇の中を歩んできた男。
政治的駆け引きは得意とするところだ。

「まあ、負ければ余の首一つで済ます。ここにおるもの一人たりとも犠牲にはせぬ」

「「「「陛下!」」」」

感涙か、安堵か、不安か。
エーレンベルク、シュタインホフ、リヒテンラーデ、マリーンドルフの声が一致した。
そこで何も言わず最前列にて跪く若い元帥を指差す。

「それに此度の戦、勝つであろう、なあローエングラム侯?」

ラインハルトは答えた。自信満々に。

「はっ、陛下の威光を必ずや賊軍に思い知らせて見せます」

そこで皇帝は思いもしないことを口にした。
それはラインハルトが今まさに口にしようとした構想であり、勝因の分析だった。

「うむ、敵軍は高級士官の士気こそ高いが、錬度が低い。それに下級兵士は命令に従っているに過ぎずその士気も低い」

「第二に侯爵の艦隊の結束力だ。これは貴族軍、いわば私兵集団にはない貴重な鉱脈といってよかろう」

「第三に余の勅令に反すると言う点で、ブラウンシュバイク、リッテンハイムには大義名分がない」

「第四に、第一と関連するが、下級兵士の反感。いつ暴発するか楽しみではないかな?」

「第五に資金面の不足。これは痛いであろうな。何せ自分たちの資金でローエングラム侯爵を支援したものじゃからな」

「第六に従来艦艇の没収。此度の戦に際して先年アムリッツァで失った精鋭たち。
その大半はローエングラム侯爵に吸収されるか共和国軍との戦闘で宇宙の塵に消えた。ふふふ、兵士には気の毒なことをしたな。
貴族連合13個艦隊と言っても内実は数だけそろえた寄せ集め。」

「第七に反逆した貴族どもはまともな軍事教練を受けてない」

「そうであろう、ローエングラム侯爵」

ラインハルトは得体の知れない恐怖を始めて皇帝から感じていた。
その構想は彼の構想そのままであった。

「はっ、陛下の御意のままにございます」

そこでエーレンベルク、シュタインホフ両元帥の顔を見やる。

「ん?不満そうじゃな、両元帥。死ぬのが怖いか?」

それは図星だった。

「い、いえ。滅相もありません」

「は、陛下の為にこの身を捧げる所存です」

必死に取り繕う二人。

「その言葉にうそ偽りはないか?」

「「ございません」」

二人の声合致したの見計らい、フリードリヒ4世は新たな命令を下した。

「ならばローエングラム侯爵を支援したまえ。勅命、と言うことにしようか。なによりも卿らの命のためにな」

そしてリヒテンラーデを残し下がらせる。
不本意だが仕方ない。死んでは意味が無い、だから積極的に協力する。
いや勅命を受けたうえは、下手なことをすれば自分が死ぬ、そう感じてエーレンベルク、シュタインホフ両元帥は動く。
この場にいないかつての僚友、ミュッケンベルガーをほんの少しだけうらやましく思いながら。

「「は」」

下がったあと、リヒテンラーデは聞いた。
皇帝が笑っている。
まるで、図工の工作が完成した小学生のように心底楽しそうに。

「ふふふ」

「陛下?」

「はははははははははははは」




side  オーベルシュタイン


RCIAの局長室でオーベルシュタインは報告を受けた。
それは貴族連合内部に潜入させたコウプトマン少佐からの正確な報告であり、ゴールデンバウム王朝崩壊の序曲でも合った。

「そうか、ついに始まったか」

無機質な義眼の声とは違い、どこか嬉しそうな声のオーベルシュタイン。
そこにアラームがなる。

「バグダッシュ大佐です、入室を許可願いたい」

「入れ」

許可するオーベルシュタイン。いや、オーベルト中将。

「ご要望の通り、マールバッハ伯爵に接触、彼は貴族連合へと走りました」

そう、あの男は自尊心と共に咽喉の渇きとも言うべき感情を覚えていた。
それは不幸なことか、戦場でしか癒されるものの無いものだった。

「結構だ」

だからとびっきりの獲物を、極上の部類に入る獲物をくれてやった。
ラインハルト・フォン・ローエングラムという稀代の用兵家という極上の獲物を。

「しかし、宜しかったのですか?」

バグダッシュが疑念を提示する。
帝国時代と異なり、誰かとコミュニケーションをとるのも悪くない、そう感じながら続ける。

「うん?」

バグダッシュの懸念はもっともな事だった。

「そうなると貴族連合が勝利する可能性もあります、そうなればせっかくのスパイ網が水の泡に・・・・」

「それはない」

断言するオーベルト中将。

「え?」

思わず聞き返す。

「貴官には伝えておくが、彼の人となりからしてブラウンシュバイク公爵、リッテンハイム公爵は憎悪の対象だ」

「それを無視してまで貴族連合に加入したのは恐らく・・・・」

「恐らく?」

だが、そこから先は聞けなかった。
いつも通りの宿題という奴だ、そうバグダッシュは己を納得させる。

「いや、これは憶測に過ぎぬ。それより例の件、整っていような?」

例の件。カウンタークデーター作戦。
一歩間違えれば得れば自分たちが失脚する、危険な綱渡り。
だが、不思議なことにバグダッシュは高揚感を覚えていた。

「はい、あの部隊を召集すると言う大統領命令を発令していただきました。
そして潜入させたあの方からの報告によるとどうやら来月中旬をめどに行う予定です。」

事情を聞いたヤン大統領は即決した。
彼もまた良識派出身の軍人。
文民統制が原則の自由の国銀河共和国でクーデターなど許せなかったのだろう。
もっともその後のわだかまりを捨てられないのがヤンらしいと言えばらしいが。

『わかった、バグダッシュ大佐。対応は貴官らに一任する。ただし、首謀者は可能な限り生かしておくこと』

『彼らにはしっかりとした法律の裁きを受けさせる』

と。

「ならば、十分に時間はあるな」

バグダッシュの報告で頷くオーベルト中将。

「はっ」

そうして退出しようとするバグダッシュは意外な言葉を聴く。
それは幻聴かと思うほど意外な言葉だった。

「バグダッシュ大佐、退室する前に一つだけ教えておこう、私の行動原理だ」

「はぁ」

それしか言えない。
何を言おうとしているのだ、この義眼の上官は。

「私はゴールデンバウム王朝の打倒とヤン閣下の覇業の成就、それ以外のことに興味はない」

「・・・・・・」

「無論、これは機密事項だ。あまり言いふらす物ではないからな」

それは勝手に言いふらせば容赦なく粛清すると言う一種の契約。
だが、言いふらさなければ准将の階級も夢ではない。

「下がってよい」

「ハッ」

退出するバグダッシュを見ながらオーべルト中将は遠く反対側の銀河系に思いを寄せた。

「ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム」

「これであなたの作った帝国は終わりだ」

「支柱になる大貴族、そして三人の皇太孫への逆賊の汚名」

「最早後継者はいない」

「そしてあの金髪の覇者、ラインハルト・フォン・ローエングラム」

「受けるが良い、500年にわたる、いらぬ存在として除去されて来た者の怨念を」

オーベルシュタインの呪詛は誰にも聞かれること無く虚空に消え去った。





side ヤン



大統領執務室でラップからの報告を聞くヤン大統領。
そこには三人しかおらず、口調も砕けたものになっていた。
バグダッシュの、いや、オーベルト中将からの報告を聞いたヤンは自分が何か別のものに染まっていく気がして怖かった。
だから、今のヤンは弱気だった。

「ラップ、私は卑怯者かな?」

「さあな。でもヤン、お前さんのおかげで軍内部のこの1年間での戦死者数は0人だ。誇って良い事だとおもうぞ?」

それは事実。帝国軍の侵攻が無い以上イゼルローン要塞は戦場にはなってない。
そしてアッテンボロー大将指揮下の下、ウランフ、ボロディンの艦隊も訓練による死者すら出してない。
それは他の艦隊でも、否、軍全体でも同様だ。珍しい、いや奇跡に近い時代といってよい。

「ヤンらしくないわね、いえ、らしいというべきかしら?」

そこに国内担当補佐官に大抜擢されたジェシカ・エドワーズが口を挟む。

「ジェシカ・・・・・」

「悩んでいる暇は無くてよ、ヤン」

ジェシカが断言する。
悩む時間はないと。

「あなたにはクーデターを止める義務がある、そうでしょう?」

「もしもクーデターが成功すれば何千万と言う人々が不幸になる、ちがう?」

それはヤンも考えていたこと。だが、その手段が騙まし討ちの様で嫌だった。
だが理性の部分はそれが正しいと訴えてきていた。

「違わない」

そうだ、クーデターを成功させるわけには行かない。

「だったらもっと自信を持ちなさい。それができないのならば、いる資格のないこの場所から出ておいきなさい」

それは今のヤンにとって辛らつな、それでいてなぜか暖かい言葉だった。

「いいすぎではないか、ジェシカ?」

ラップがそれとなく窘めると、意外な笑みが帰ってきた。

「これくらい言わないと、この優柔不断の士官候補生は決断しないもの」

ジェシカは笑って答えた。もしもクーデターが発生したならばわが身を犠牲にする覚悟の笑み。
それにつられてヤンもラップもひときしり笑う。

宇宙暦799年、帝国暦490年4月17日。
共和国は今だ平穏の中にいた。人々はこの平穏な時代を心から噛み締め、奇跡のヤンとヤン大統領を称えている。





side ローエングラム元帥府 宇宙暦799年、帝国暦490年4月22日



ラインハルトは10個艦隊の指揮権を持つ宇宙艦隊司令長官である。
その内容は以下の通りだ。

ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥指揮下の下、

ラインハルト・フォン・ローエングラム直卒のローエングラム艦隊

オスカー・フォン・ロイエンタール大将のロイエンタール艦隊

ウォルフガング・ミッターマイヤー大将のミッターマイヤー艦隊

コルネリアス・ルッツ中将のルッツ艦隊

アウグスト・ザムエル・ワーレン中将のワーレン艦隊

ウルリッヒ・ケスラー中将のケスラー艦隊

エルネスト・メックリンガー中将のメックリンガー艦隊

フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト中将のビッテンフェルト艦隊

ナイトハルト・ミュラー中将のミュラー艦隊

アーダベルト・フォン・ファーレハイト中将のファーレンハイト艦隊

そしてジークフリード・キルヒアイス上級大将のキルヒアイス艦隊

例外として中立派を貫いた(この点は出自不明の憲兵隊によってメルカッツ家が全員がガルミッシュ要塞に護送されてきた点が大きい)ガルミッシュ要塞方面軍のウィルバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将。
そして反皇帝、というより反ラインハルト派のレンテンベルク要塞司令官のクリーク・オフレッサーの二名である。

それ故に、11名の提督があつまる、筈であった。
だが、一人足りない。

(おそい、こういう軍議に遅れてくるやつではなかったはずだが)

ミッターマイヤーをして、そう思わせるほど件の大将閣下は遅かった。
カール・ロベルト・シュタインメッツ参謀長と、一年半前自ら編成し私兵集団とした艦隊を持参してきたアーダベルト・フォン・ファーレンハイト中将は出席しているといのに。
そして代わりに入室してきたフロイライン・マリーンドルフが幾部か緊張の面持ちで主君に伝える。

そしてみた。
一瞬だが、主君の顔が紅潮し怒りに駆られたのを。
そしてキルヒアイスの目線で怒りを静めたことを。
フロイライン・マリーンドルフが説明を開始する。

「参加した男爵以上の爵位を持つ貴族4076名、参加兵力13個艦隊、参加将兵3800万名」

どよめきが走る。
こちらは10個艦隊、それも貴族の資金を搾り取り完成させた。
それが今になって13個艦隊もの大軍を編成するなど、貴族領土ではいったいどれほどの搾取を行ったのか。

「そして・・・・・そして。」

フロイライン・マリーンドルフの手が震えている。
そういえば、オスカー・フォン・ロイエンタールも来てない。

「まさかロイエンタール提督に何あったのですか?」

ミュラーが疑問を生じる。
それに肯定するマリーンドルフ伯爵令嬢。

「まさか暗殺か!?」

ビッテンフェルトが叫ぶ。

「ビッテンフェルト提督、めったなことを言うべきものではない」

ワーレンが窘める。
だが、ミッターマイヤーはそれ以上に嫌な予感がしてならなった。
フロイライン・マリーンドルフは覚悟を決めて話を続ける。

「敵軍の、リップシュッタト連合軍の司令官はマールバッハ伯爵」

「マールバッハ?」

ケスラーが疑問を提示する。
憲兵時代に宮廷世界といささか縁のあったケスラーであるが、それを思い出せない。

「マールバッハは母方の姓です、ケスラー中将」

「!!!」

その言葉に勘の良い全員が反応する。

「それは、つまり」

メックリンガーがまだ信じられないといった雰囲気で、いや、誤報であると信じたいという雰囲気で続ける。
だが、報告の結果は、最悪の結果だった。

「はい、旧姓はロイエンタール。オスカー・フォン・ロイエンタール大将。彼が貴族連合軍の最高司令官です」

「ばかな!!!」

その頃、ロイエンタールは指揮下の艦艇1万5千隻と共にガイエスブルグ要塞へと到着した。
ミッターマイヤーの叫びとは裏腹に。



宇宙暦799年、帝国暦490年4月23日 18時45分

こうして後にリップシュッタト戦役と呼ばれる内乱が勃発する。
それは銀河帝国ゴールデンバウム王朝の存亡をかけた戦いの始まりであり、ラインハルト・フォン・ローエングラムの覇者への道筋のけじめでもあった。


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