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No.22236の一覧
[0] 異聞・銀河英雄伝説 第一部・第二部完結、外伝更新[凡人001](2011/02/06 21:29)
[1] 第一部 第二話 策略[凡人001](2011/02/06 22:25)
[2] 第一部 第三話 アスターテ前編[凡人001](2011/02/07 08:04)
[3] 第一部 第四話 アスターテ後編 [凡人001](2011/02/07 20:49)
[4] 第一部 第五話 分岐点 [凡人001](2010/10/01 14:12)
[5] 第一部 第六話 出会いと決断 [凡人001](2010/10/01 14:14)
[6] 第一部 第七話 密約 [凡人001](2010/10/01 15:36)
[7] 第一部 第八話 昇進 [凡人001](2010/10/01 15:37)
[8] 第一部 第九話 愚行[凡人001](2010/10/22 10:58)
[9] 第一部 第十話 協定 [凡人001](2010/09/30 01:55)
[10] 第一部 第十一話 敗退への道 [凡人001](2010/09/29 14:55)
[11] 第一部 第十二話 大会戦前夜 [凡人001](2010/10/21 03:47)
[12] 第一部 第十三話 大会戦前編 [凡人001](2010/10/24 07:18)
[13] 第一部 第十四話 大会戦中編 [凡人001](2010/09/30 01:20)
[14] 第一部 第十五話 大会戦後編 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[15] 第一部 第十六話 英雄の決断 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[16] 第一部 最終話 ヤン大統領誕生[凡人001](2010/10/06 07:31)
[17] 第二部 第一話 野心[凡人001](2010/10/02 12:35)
[18] 第二部 第二話 軋み[凡人001](2010/10/02 13:56)
[19] 第二部 第三話 捕虜交換[凡人001](2010/10/01 20:03)
[20] 第二部 第四話 会談[凡人001](2010/10/02 12:34)
[21] 第二部 第五話 内乱勃発[凡人001](2010/10/03 17:02)
[22] 第二部 第六話 内乱前編[凡人001](2010/10/04 09:44)
[23] 第二部 第七話 内乱後編[凡人001](2010/10/08 17:29)
[24] 第二部 第八話 クーデター[凡人001](2010/10/05 13:09)
[25] 第二部 第九話 決戦前編[凡人001](2010/10/06 16:49)
[26] 第二部 第十話 決戦後編[凡人001](2010/10/06 16:45)
[27] 第二部 第十一話 生きる者と死ぬ者[凡人001](2010/10/07 19:16)
[28] 第二部 第十二話 決着[凡人001](2010/10/08 20:41)
[29] 第二部 最終話 新皇帝誕生[凡人001](2010/10/10 09:33)
[30] 外伝 バーラトの和約[凡人001](2010/10/22 11:02)
[31] 外伝 それぞれの日常[凡人001](2010/10/26 10:54)
[32] 外伝 アンネローゼの日記[凡人001](2010/10/23 19:12)
[33] 外伝 地球攻略作戦前夜[凡人001](2010/10/30 17:08)
[34] 外伝 ヤン大統領の現代戦争講義[凡人001](2011/02/03 12:56)
[35] 外伝 伝説から歴史へ[凡人001](2011/02/03 12:31)
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[22236] 第二部 第八話 クーデター
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/05 13:09
『ブラウンシュバイク公爵とリッテンハイム公爵の死

両名がリップシュッタト連合軍の最高指導者たちであったのは疑いようの無い真実だ。現に最終決戦に置いてリップシュタット連合軍を指揮したのはブラウンシュバイク公爵で、オスカー・フォン・ロイエンタール大将ではなかった。
だが、それこそ彼の真の目的、ラインハルト・フォン・ローエングラムに挑戦するという目的に合致した行動だった。
ラインハルトは卑怯な行為を嫌う。後年だが、皇妃ヒルダは何故かラインハルト1世はロイエンタールの行動を支持したと公表している。これは多くの歴史学を学ぶものに貴重な題材として多くの問いを投げかけている。
何故、あの潔癖症のカイザーラインハルトは裏切りを許したのか、何故、貴族どもへの虐殺を黙殺したのか、という点である。これは面白い点だ。本来であれば、カイザーラインハルトは怒りと共にロイエンタールを断罪する筈である、にもかかわらず、彼にはそう言った怒りの炎が見えなかった』




『ゴールデンバウム王朝の滅亡

ゴールデンバウム王朝は一部の貴族が大部分の平民を支配するというある種の歪んだ政治制度をもって発展してきた国家である。それが500年にわたり銀河共和国と対等に渡り合えたのは一重に政治上の理由である。
初期は交易・貿易相手として、次は仮想敵国として、次は適度な緊張感を保つための道具としてである。言い過ぎかもしれないが、戦後半世紀を経って公開された公式文章の中、特に銀河共和国側の中にはそういった表現があいついで発見されている。これは片手間で戦争を継続できた銀河共和国の国力の恐ろしさをも同時に物語っている。
さて、話を銀河帝国ゴールデンバウム王朝滅亡に戻そう。ゴールデンバウム王朝は先述した通り、貴族が平民を支配する制度を採っている。
その大貴族たちが死に絶えればどうなるか?それは上からの革命である。ラインハルト・フォン・ローエングラム、いや、カイザーラインハルトはそれを達成した偉大なる英雄だった。リップシュタット連合軍を撃滅する傍らで、その間隙を突いてガイエスブルグを掌握したオスカー・フォン・ロイエンタール。
そこにおける容赦の無い苛烈な粛清劇は結果としてゴールデンバウム王朝の屋台骨を圧し折った。彼は最後まで認めなかっただろうし、今もう一度彼に会えたとしても認めないだろうが、ゴールデンバウム王朝打倒の立役者はラインハルト・フォン・ローエングラムとオスカー・フォン・ロイエンタールの両名である。』

ヤン・ラン 『銀河帝国ゴールデンバウム王朝の興亡』より抜粋





第八話 クーデター





宇宙暦799年、帝国暦490年4月22日



時は変わり、銀河共和国某所。
数人の佐官と将官が深刻そうな顔つきで話し合っている。
階級は大将が一名、中将が二名、少将が三名、大佐が八名だ。
全員が軍服を着ている。

「いよいよ決行の時だ、そうですなアル・サレム大将」

サングラスをかけたアル・サレム大将は否定も肯定もしない
その代わりにウィレム・ホーランド中将が同意する。

「ああ、これであの青二才もおしまいだ」

そこには憎悪の炎があった。
黒髪の青二才、若干30歳で元帥に、31歳でこの国のTOPにたったヤン・ウェンリーに。

「ホーランド中将、我々は国を思って立つのです、決して私利私欲のために立つのではないのですぞ」

苦言するクリスチアン大佐。
だが、彼もそう思うことがある。あんな10歳も年下の若者にこの国を任せて置けない、と。

「クリスチアン大佐の言う通りです」

ベイ大佐が補足する。
ベイ大佐には大佐なりの思惑がある。
それは保身だ、いざとなったらトリューニヒト議長に逃げ込めばよい、クーデターが成功すればそれはそれでよいと考えて。

「第8艦隊と第11艦隊はお二人が司令部に到着すればよい。それだけで首都在住戦力の半分を制圧できる」

エベンスが発言する。
艦隊司令官の命令さえあれば艦隊は掌握できる。
それは共和国軍軍法の規定どおりなので問題視していなかった。
問題は首都にいない第5、第2艦隊。まるで図ったかのように演習にでている。
これでは当初の計画、宇宙艦隊各司令官を人質にして艦隊を掌握するという手段が使えない。

「首都シリウスとヤン大統領暗殺に成功してしまえば何とでもなります」

そうだ、現在の共和国の繁栄はヤン・ウェンリー一人の力といってよい。
もしもそのTOPがいなくなれば?
大混乱が発生するだろう。
そこをついて、自分たち救国軍事会議が全権を握る。

「ですが、もはや後戻りはできません。あとは実行あるのみです」

アンドリュー・フォーク予備役大佐が発っした。
彼はアムリッツァの敗戦の責任を取らされ、当然といえば当然な結果として一階級降格の上、予備役へと強制編入されていた。
だから、彼にとっては死活問題なのだ。自分が英雄になるために。

そこでアル・サレムが発言する。

「だが、気をつけたまえ、エベンス大佐。ダブルスパイがいるとも限らんぞ」

その時だ。

爆炎が、否、何発もの閃光弾が投擲されたのは。

「うがあああああ」

目をやられるフォーク准将。
恐らく、いや確実にフォークは失明しただろう。
他のものは何とか目を瞑るのに間に合ったが、目が正常に働いてないのは同様だ。
軍用のサングラスをかけていた一人の例外を除いて。

「だ、だれだ!!」

「何者だ!」

全員が慌ててブラスターを片手に叫ぶ。

ガシャガシャガシャ。
何人もの、いや、数十名の装甲服を着た兵士たちが突入してきたのが音で確認できた。
そして目が慣れてくる。

「ふふ、あまり抵抗しないほうが身の為であると思いますがね」

不遜な声が部屋中に響き渡る。

「き、貴様らは!」

それは同盟の装甲歩兵部隊だった。
しかもその肩のマークが正しければ、ローゼンリッター連隊だ。

「おや、ベイ大佐、でしたかな?大統領警護隊副隊長がこんなところでクーデターの密会とは見苦しいものですな」

それは自分を閑職へと追放した男の声だった。
嘲る将官。
そしてホーランド提督に、このクーデターの最初の企画者にライフルの銃口を向ける。

「さて、第11艦隊司令官、ウィレム・ホーランド中将ですな?」

続けて不遜にも大胆に罵倒をする。

「聞きますが、アムリッツァで指揮下の兵士を見捨てて、それで昇進できなかったことを逆恨みしたクーデター計画の首謀者、間違いありませんかな?」

それを聞き青くなるホーランド。
その表情の変化は罵倒が真実であることを物語っていた。
同志であるはずのエベンスは忌々しげにホーランドを睨みだした。

(そういう理由だったのか!?)

(救国が目的の筈ではなかったのか!)

エベンスの目には侮蔑の色が浮かぶ。

「そ、そういう貴様は何者だ!」

ホーランドが取り繕うように叫んだ。
そこでやっとその将官、いや階級章から中将と分かった男が口を開いた。

「ワルター・フォン・シェーンコップ」

そして謳う。高らかに。

「第13代ローゼンリッター連隊連隊長と言う方が通りが良いですが、今は大統領警護隊隊長をさせてもらってます」

ブロンズ中将がどもりながら反論する。

「け、警護隊に司法権はないはずだ」

それを鼻で笑うシェーンコップ。

「ほう、これはけったいな話だ。司法権は確かにないが大統領護衛権はある、それを行使したまでのこと」

そう、この計画ではヤン大統領暗殺も計画に入っていた。
だから強弁することもできる。
なにより、これは軍諜報部からの正式な依頼。
法的根拠はこちらにある。

「それに、だ、司法権うんぬんをいうならば貴官らこそ問題なのでは?」

クーデターは言うまでも無く違法。それはルドルフ大帝時代に定められ、アーレ・ハイネセン時代に厳格化された法律の一つ。
だから古い言葉だが、『正義は我らローゼンリッターにあり』ということになる。
そしてゆっくりとアル・サレムは彼らの、ローゼンリッターの後背へと着く。
それを庇うローゼンリッターの面々。

「アル・サレム大将!」

驚いたのはクーデター派の人々だ。
ベイ大佐が代表して驚きを表明する。

「どういう事です、何故そいつらの後ろに!!」

そこでエベンス大佐が気が付いた。
あれほどのタイミングの良い突入と、密会施設の場所、時間を指名をしてきたのは誰かということを。

「まさか、ダブルスパイというのはあなたか!!」

クリスチアン大佐が驚き叫ぶ。そして視線が集まる。
アル・サレムはその驚きの視線を受け止めた。

「そうだ」

「何故!?」

それは当然の疑問だ。
彼が参入したからこそクーデター計画は現実味を帯び、かつ、彼自身積極的に議論に参加していたのだ。
その彼が裏切り者。いや、ダブルスパイ。
驚くなと言う方が無理だろう。

「それはこちらの台詞だエベンス大佐。貴官らこそ何故こんな暴挙に出た?」

逆に質問するアル・サレム大将。

「それは打倒帝国のために・・・・」

シェーンコップが遮る。

「ちがうな。ヤン大統領派が疎ましい、それが理由だろう?」

「ヤン大統領誕生以来、軍部は穏健派の牙城だ。さぞ、居心地が悪かったでしょうなぁ」

シェーンコップが皮肉を言い続ける。
それはある側面で真実を言い当てていた。
ヤン大統領、シトレ統合作戦本部長、ビュコック宇宙艦隊司令長官と軍事を掌るTOPレベルが全員穏健派。
付け加えるならば、前線の将官達も非戦派や良識派。
これでは帝国打倒など夢のまた夢だ。

アル・サレムが続ける。

「私は貴官らと違ってクーデターなどという法律を犯すつもりも無い!!!」

思わず、

「卑怯者」

と罵倒された。
罵倒を聞いてアル・サレムの表情が変わる。
罵倒したブロンズ情報部中将の声に咆哮にて答える。

「見くびるな、小童!!!」

一括。

「このアル・サレム、例えどれほどの目に遭おうともクーデターなどという野蛮な行為には断じて参加せぬ!!」

それはアムリッツァで死んだ僚友アップルトンの、ルフェーブルの言葉でもあった。
彼らがどう思うかは分からない。死者の気持ちなど誰にも分からないものだ。
だが、今の共和国を見てクーデターを起こそうなどとは思わないのは確かな筈、そうアル・サレムは信じていた。

「共和国の未来など小官にとってはどうでも良い事ですが、ヤン・ウェンリーに死なれてはこれからの歴史の展開が面白くないですからな」

大胆不敵とはまさにこの事だろう。

「さて、小官も時間が無いことですし、軍事法廷で裁判を受けてもらえますかな?」

そこで一条の閃光が放たれた。
エベンス大佐が自殺したのだ。
一方、狂乱に駆られたホーランド提督はブラスターを乱射する。
それをローゼンリッター連隊のミルズ大尉が正確な射撃でブラスターを撃ち抜き、続いて彼の額を撃ち抜いた。
倒れ付すホーランド。
ガタガタと震え神に祈りを捧げるブロンズにベイ。
逃走を図り取り押さえられるクリスチアン。
いや、彼は逃げられないと知ったとたん自殺したからある意味で逃走に成功した。
現実という名前の真実から。

「ふふふふふふ、はははあっはあはあははああははあは」

そこで部屋の片隅で狂乱した笑い声が聞こえる。
即座にクルーガー中尉を先頭に確保する。

「貴様の名前は!」

ブルームハルト少佐が詰問する。

「アーサー・リンチだ。小僧、聞いたことがあるだろう?あのエル・ファシルの悪役さ!」

エル・ファシル。それはヤン大統領の第一歩を示した土地。

「エル・ファシル・・・・・まさかリンチ少将か」

グリーンヒルが正規の憲兵を連れて入ってくる。
そして生き残りの人物を次々に拘束している。

「ほう、その声はグリーンヒル大将閣下、いや今は中将閣下か」

リンチのところまで来る。

「何故貴官等はこんなまねを」

それは疑問だった。
共和国は良い方向へと舵を切った。戦争から平和へ、退廃から繁栄へ。
リンチらの、いや、ホーランドらのクーデター計画はそれに逆行するものだ。
だからこそ、アル・サレム大将を送り込み、盗聴し、盗撮し、証拠固めに奔走したのだが。

「別に俺は誰でもよかった」

リンチは捨て鉢な気分で、いや、実際に捨て鉢な気分なんだろう。
そんな声色だ。みればブランデーのビンが半分は減っている。
彼一人で全部飲んでいるのだろうか。

「誰でもよかった?」

グリーンヒルはかつての後輩に問いただす。

「そうだ、俺は誰かに弁解のしようのない恥をかかせてやりたかったのさ。
どうだブロンズ。救国軍事会議などという妄想がもろくも崩れ去った気分は?」

ブロンズの顔は、いや、クーデター参加者の顔色は青い。

「誰にも弁解できない恥を書かされた気分は!」

リンチの、恐らくこの12年間溜めに溜まった気分を吐き出しているに違いない。

「ついでに言うとな、ブロンズ、救国軍事会議を考えたのは俺じゃない。
フェザーンの黒狐なんだよ!!どうだ、思い知ったか!?」

それは驚くべき情報。
クーデターを企画したのがフェザーンであるというのだ。

「あは、あは、あはははははははは」

連行されるリンチたち。そんな中、彼の嘲笑が響いた。





side ヤン  宇宙暦799年、帝国暦490年4月23日 19時45分




二人の女性と三人の男性が大統領専用ラウンジで話し合っていた。
食事はほとんど進んでない。
一人は国務補佐官ジェシカ・エドワーズ。ライトグレーのスーツにスカートで決めている。
一人は安全保障補佐官のジャン・ロベール・ラップ。こちらは軍服だ。
なお、二人は夫婦だが夫婦別姓を選択した。
この時代の共和国ではどのタイミングでも夫婦の姓を変更できるので結構気軽に別姓を選択する人物が多い。
もっともこの二人の場合は、ジェシカが政界にいるというのが最大の要因であったが。

「そうか、ローエングラム侯爵かと思っていたがフェザーンか」

男性陣の残り二人のうち、ヤン大統領が答える。
その姿はネイビーストライプのスーツに白いシャツ、赤いネクタイである。

「あなた、どうします?」

妻の、青いドレスを着たファーストレディのフレデリカ・G・ヤンが聞く。
それには答えずヤンはラップに話題を振った。

「安全保障補佐官としてはどう思う?」

彼はこわばった顔で言った。

「制裁の必要があるかと」

何に、とは言わない。
だが、軍人としてはそういうしかない。

「国務補佐官のエドワーズ女史はどう考える?」

今度はジェシカに振る。

「第一に国民には秘匿しておくべきですわ」

「理由は?」

ジェシカは反戦論者だ。
一応確認の意味で聞いてみた。

「フェザーンへの侵攻は帝国にいらぬ疑念を提示します」

そう、フェザーンへの武力侵攻や武力制裁は微妙なバランスの上に立っている三国のバランスを崩壊させかねない。
特に内戦中で過剰な反応が返ってくるのは明らかだ。
それは帝国全土への併呑へと繋がるかもしれない。それは避けるべきだ。

(あるいはそこまで見越して今回の謀略を展開したのか?)

「そうだな、今は秘匿しておこう。」

そこで最後の男、ラップとは違い黒のスーツに黒いネクタイを締めた男が発言してきた。

「お待ち下さい、ヤン閣下。ここは秘匿せずに公開するべきかと」

「何故だい、情報補佐官?」

それはオーベルト中将だった。

「秘匿してもあれだけの人数が聞いたのです、必ず秘密は洩れます」

そこでヤンはオーベルトが何を言いたいのか察した。

「洩れるなら、此方の操作がし易い様にするべき、と貴官はいいたいんだね」

一礼するオーベルト。

「ご明察の通りです」

「では、どうしろと?」

ラップが疑問を提示する。

「ラップ補佐官の疑問ももっともです。ですので裁判を公開し、リンチ少将を供述場に立たせます」

それは生贄の羊を用意するのと同じ意味だった。

「なるほどね、リンチ司令は重度のアルコール中毒症状、そして物的証拠は何も無い」

ヤンは乗り気ではなかった。だが、フレデリカの言葉と支えを思い出し、決断する。

「ヤン、あなたまさか?」

ジェシカが信じられないという顔で彼を見た。
普段は変わらない彼。でも、たまにだけど、ぜんぜん違う側面を見せるヤン。
どちらが本物のヤン・ウェンリーなのだろう?
それとも両方ともがヤン・ウェンリーなのだろうか?

「国務補佐官には悪いけど、この際だリンチ少将に証言してもらう」

「それでよろしいかと。世論はフェザーンの工作というより、単なるアルコール中毒者の妄想とお考えになるでしょう」

そうかもしれない。
だが、正論だが、あまり使いたくない方法だ。
誰か一人を犠牲に押し付けるなんて。

「・・・・・・」

「ジェシカ」

あまり納得できていないジェシカをサポートするラップ。

「分かってるわ、ラップ。私たちは茨の道を歩んでいるのだから仕方ないわ」

こうして裁判は翌日から公開しつつ始まり、ヤンとオーベルシュタインの目論見どおりフェザーンに疑念が行くことはなかった。
そして国民は味方の血を再び流すことなくクーデターを未然に阻止した大統領を支持した。
その支持率は異様で、戦争も無く、辺境恒星系の開拓とフェザーン要塞建設特需に沸く国民の8割がヤン大統領を支持していた。
そして後世の人々は一度たりとも支持率が過半数を割ること無かった歴史上稀有なヤン大統領をして『奇跡のヤン』『魔術師ヤン』と褒め称えている。




side オーベルシュタイン 宇宙暦799年、帝国暦490年9月30日



何度かの会議の後、救国軍事会議も過去のものとして忘れ去られようとしている頃。
帝国全土を二分する内戦の報告がヤンの手元に上がってきた。
それはRCIAに手柄を奪われている形になっている情報省と軍諜報局が独自に調べ上げたものである。

ヤンは普段とは違うライトブラウンのコットン製品のスーツを着こなしながら退出していくオーベルトを呼び止めた。
他のものは退出し、大統領執務室には彼とオーベルト中将の二人だけが残っていた。

「ああ、オーベルト中将は残ってくれ」

呼び止めるヤン。

「何でしょうか、閣下?」

無機質な返事にもなれた。

「何、君が構築したスパイ網についてそろそろ報告があっても良いじゃないかと思ってね」

そこでヤンはオーベルト中将のスパイ網に言及してきた。
さすがに驚くオーベルト。

「! ご存知でしたか」

「大統領は無能者では務まらない、これはアーレ・ハイネセンの、いや、建国の国父カール・パルムグレンの言葉だ」

そうだ、国のTOPが無能など害悪と悪夢極まりない。
その点ではヤン大統領は十分及第点に達している。

「わかりました、一度RCIAに戻り詳細なデータを」

そう考え、いったん退室しようとするオーベルト、だがヤンは引き止めた。

「それは貴官に任せるよ。今現在の大まかな状況を知りたいんだ。」

ヤン大統領の特色として、各地の補佐官、評議会議員に任せられることは全て任す、ただし、責任をつけて。というスタンスがある。
特にアムリッツァ敗戦後に評議会議長に当選したヨブ・トリューニヒトは人が変わったかのように精力的に国力増強へと舵を切った。
ホアン・ルイをして、『ヤン提督の毒牙はあのトリューニヒトにもかかったか』と言わしめたほどである。

「御意、そこまでご存知でしたら報告します」

オーベルトが説明を開始する。

「ああ、頼む」

航路図をだす。それはフェザーンの独立商人たちからRCIAが非合法に手に入れた航路図だった。

「ガイエスブルグ要塞に立てこもった貴族連合軍、通称リップシュタット連合軍は6月に副盟主リッテンハイムをレンテンベルク要塞で、8月上旬に盟主のブラウンシュバイクを失いました」

ガイエスブルグの存在は軍諜報部から聞いている。
なんでも、イゼルローン要塞のプロトタイプとか。

「それじゃあ、内乱はクーデターに変貌したわけかい?」

そうだろう、内乱終結後にあの金髪の若者、ラインハルト・フォン・ローエングラムが黙っているとは思えない。
恐らく、いや必ず、簒奪を企む筈だ。

「いいえ、依然ガイエスブルグは健在です」

それはヤンにとっても予想外の発言。

「何故?」

「オスカー・フォン・ロイエンタールが指揮を取っているからです」

納得した。
確かに、彼と面識がある訳ではないが、彼は名将だと聞く。
要塞を維持することは訳なかったのだろう。
あるいは、他の理由があるのかもしれない。
最初からローエングラム侯と結託しており、この対立自体が帝都オーディンへの擬態なのかもしれない。

「それで他には?」

「ヴェスターラントという惑星上に核攻撃がありました。6月3日のことです。もっともこれは私にとっても予想外でしたが」

淡々と述べるオーベルト中将。
驚いたのはヤンだ。

「何だって!?」

核兵器を惑星上で使ったのか、貴族連合軍は!
そこまで腐った連中だとは思いもしなかった!!
ヤンに怒りが宿る。

「閣下には関係の無いことと考え報告しませんでした」

オーベルトの言は正しい。
介入が不可能である以上、それは正しい。
知ったところでどうしようもなかっただろう。時間も、距離も、外交も。

「それを公表しない理由は?」

ローエングラム侯爵やキルヒアイス提督の人となりからして公表できないのはわかる。
だが、共和国国内でも情報管制を強いた理由がわからない。
そして共和国で公表すればフェザーン経由で帝国全土にも広まり、戦乱の早期終結へと向かうはず。

「帝国軍にはもう少し力を削いでもらいたいからです」

それは表気向きの理由だろう。
ゴールデンバウム王朝打倒を第一の目的に掲げるオーベルシュタインがそんな手の込んだ事をする筈が無い。
むしろ、積極的に貴族連合の瓦解とローエングラム侯爵への支援を行うだろう。
ヤンはそう考えた。そしてヤンはある重大な事実に気が付いた。

(・・・・・そういうことか)

共和国軍が義侠心に駆られ帝国領土へと侵攻する可能性。
それを防ぐヤン大統領。
だが軍部が穏健派主流といえども世論には勝てない。

(つまり、私を守ってくれた訳か)

それにヴェスターラントは3ヶ月近くも前のことだ。
もう公表しても大部分の国民は、それはそれはお気の毒に、で、済ませるに違いない。
所詮は外国のことだ。今は未曾有の経済発展と始まりつつある人口爆発に対応するのが先決だ。
もっとも、国内政策(国外)ではヤンは致命的な失敗をだしてない。人口爆発に対応する術もある。

「あまり遣り過ぎるとクーデターに支障をきたすのではないかい」

ヤンの疑問はもっともだ。
だからオーベルトも即答した。

「その点はぬかりありません。宮廷内部にもスパイがいます」

(自爆専用の特別スパイがな)

内心の本音を押し殺し、オーベルトは続けた。

「恐らくそろそろでしょう。というのも理由があります。
ガイエスブルグに潜入させたものの報告によりますとロイエンタールは35歳未満の将兵を下艦させており、決戦を挑むつもりのようです。」

「将官のほうは?」

ヤンは気になる点を聞いてきた。

「その点につきましてはまだ調査中ですが、かなりの数が残っているとか」

オーベルトらしくないあやふやな報告。

「わかった、それで進めてくれ。あと共和国内部への発表はどうする?」

ヤンは最後に聞いた、この危険な劇薬に。

「明日にでも発表すればよろしいかと。口実は帝国の内乱の詳細な報告を受けたという点で結構かと」

「そうヤン閣下もお考えでしょう?」

オーベルトの言に無言で頷くヤン。
そして定例の記者会見で銀河帝国の内戦の情報を発表したが、記者たちの反応は当初の予想通り薄く、人々の関心は一週間もすれば他へと移っていった。

次に日の明け方、フレデリカとヤンは妙に疲れた顔をして大統領執務室に登場した。





side アル・サレム 国立戦没者慰霊墓地 宇宙暦799年、帝国暦490年9月31日



「あやつらに許しを請うとは思わぬ」

アル・サレムがアップルトン提督、ルフェーブル提督の墓地の前で独語する。

「だが、軍内部の腐敗の芽は誰かが正す必要があった」

雨が滴る。

「そういう意味で俺は間違ったことはしてない。何よりも国民を守る、それをみなで誓ったな」

傘をうつ雨。
周囲の視界も悪い。

「お前たちなら分かってくれよう」

そして黙祷する。
クーデター派に加担したブロンズ中将をはじめとした首謀者の面々は軍事法廷において銃殺刑が言い渡された。
それの執行は、国内世論を反映してか異例の速さで執行された。

「あやつらには地獄で詫びるとしよう」

再度、黙祷し、アムリッツァ会戦で散った僚友たちを思う。
だから気が付かなかった。
一人の喪服の女が近付いてきたのを。

「夫の仇!!!」

「閣下!!!」

衛兵が叫ぶのと、その婦人が自分に果物用ナイフを突き立てたのは同時だった。
それは致命傷の一撃だった。

「軍医を、医者を早く!!」

「ハッ」

一人の衛兵が走り去る。
もう一人が必死で止血し、3人が婦人を抑えかかる。
その女性には見覚えがあった。

「エベンス婦人、か」

「人殺し!!」

婦人は猛烈な殺意で自分を見た。

「黙れ!」

鳩尾に一人が鉄拳を食らわせ黙らせる。
心配そうに見守るアムリッツァからの、いや、それ以前から自分を守ってくれた衛兵たち。
そんな彼らには不安と後悔の念が浮かんでいた。

「そう、嫌な顔をするな、楽に死ねないではないか」

「閣下!?」

「ずっと後悔していた・・・・アムリッツァの、帝国領土侵攻作戦「ストライク」を阻止できなかったことを」

それは遺言。

「これで・・・・あやつらに詫びれるな」

そうしてアル・サレム大将は目を閉じた。

(アップルトン、ルフェーブル、俺は正しかったよな?)

そう最後に思いながら、彼の意識は途絶えた。



宇宙暦799年、帝国暦490年10月2日

アル・サレム大将は元帥への昇進と、クーデターを未然に防いだ功績を持って国葬に処されることとなる。



一方帝国では、あの乱世の英雄がついに兵を動かした。
長い対陣で疲れたラインハルト軍へと、敢えて残った精鋭部隊5個艦隊をもってロイエンタールは決戦へと望む。
それは5世紀にわたる銀河帝国ゴールデンバウム王朝宇宙軍最後の宇宙艦隊の出撃でもあった。


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