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No.22236の一覧
[0] 異聞・銀河英雄伝説 第一部・第二部完結、外伝更新[凡人001](2011/02/06 21:29)
[1] 第一部 第二話 策略[凡人001](2011/02/06 22:25)
[2] 第一部 第三話 アスターテ前編[凡人001](2011/02/07 08:04)
[3] 第一部 第四話 アスターテ後編 [凡人001](2011/02/07 20:49)
[4] 第一部 第五話 分岐点 [凡人001](2010/10/01 14:12)
[5] 第一部 第六話 出会いと決断 [凡人001](2010/10/01 14:14)
[6] 第一部 第七話 密約 [凡人001](2010/10/01 15:36)
[7] 第一部 第八話 昇進 [凡人001](2010/10/01 15:37)
[8] 第一部 第九話 愚行[凡人001](2010/10/22 10:58)
[9] 第一部 第十話 協定 [凡人001](2010/09/30 01:55)
[10] 第一部 第十一話 敗退への道 [凡人001](2010/09/29 14:55)
[11] 第一部 第十二話 大会戦前夜 [凡人001](2010/10/21 03:47)
[12] 第一部 第十三話 大会戦前編 [凡人001](2010/10/24 07:18)
[13] 第一部 第十四話 大会戦中編 [凡人001](2010/09/30 01:20)
[14] 第一部 第十五話 大会戦後編 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[15] 第一部 第十六話 英雄の決断 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[16] 第一部 最終話 ヤン大統領誕生[凡人001](2010/10/06 07:31)
[17] 第二部 第一話 野心[凡人001](2010/10/02 12:35)
[18] 第二部 第二話 軋み[凡人001](2010/10/02 13:56)
[19] 第二部 第三話 捕虜交換[凡人001](2010/10/01 20:03)
[20] 第二部 第四話 会談[凡人001](2010/10/02 12:34)
[21] 第二部 第五話 内乱勃発[凡人001](2010/10/03 17:02)
[22] 第二部 第六話 内乱前編[凡人001](2010/10/04 09:44)
[23] 第二部 第七話 内乱後編[凡人001](2010/10/08 17:29)
[24] 第二部 第八話 クーデター[凡人001](2010/10/05 13:09)
[25] 第二部 第九話 決戦前編[凡人001](2010/10/06 16:49)
[26] 第二部 第十話 決戦後編[凡人001](2010/10/06 16:45)
[27] 第二部 第十一話 生きる者と死ぬ者[凡人001](2010/10/07 19:16)
[28] 第二部 第十二話 決着[凡人001](2010/10/08 20:41)
[29] 第二部 最終話 新皇帝誕生[凡人001](2010/10/10 09:33)
[30] 外伝 バーラトの和約[凡人001](2010/10/22 11:02)
[31] 外伝 それぞれの日常[凡人001](2010/10/26 10:54)
[32] 外伝 アンネローゼの日記[凡人001](2010/10/23 19:12)
[33] 外伝 地球攻略作戦前夜[凡人001](2010/10/30 17:08)
[34] 外伝 ヤン大統領の現代戦争講義[凡人001](2011/02/03 12:56)
[35] 外伝 伝説から歴史へ[凡人001](2011/02/03 12:31)
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[22236] 第二部 第十二話 決着
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/08 20:41
『乱世の終わり、新たなる時代の到来

リップシュタット連合軍を中から自壊させたオスカー・フォン・ロイエンタール。彼の死に様には彼独特の有終の美がついていた。とにかく、心情面では納得しがたいだろうが、オスカー・フォン・マールバッハ。いや、ロイエンタールの突如の裏切りは貴族連合にとって大打撃、文字通りの虐殺にあたる。それがローエングラム王朝成立への礎となるのだから世の中、不思議なものである。
それから約5日後、ローエングラム侯爵は高速艦隊を再編成し、オーディンへと向かう。中心となる旗艦ブリュンヒルト、その隣にはバルバロッサとベイオ・ウルフの姿が確認されていた。一方、帝国宮廷では思いもよらぬお事態が発生していた。国務尚書、いや、内乱によって正式に宰相へと就任したクラウス・フォン・リヒテンラーデは必死になって隠していた。それは皇帝倒れる、という事態であった』



side ガイエスブルグ要塞 

宇宙暦799年、帝国暦490年 10月9日 09時00分
そこにはルッツ、ワーレン、ファーレンハイト、シュタインメッツ、ミュラー、ビッテンフェルト、ケスラー、メックリンガーの8名の提督たちがいた。



「あれを見たか?」

「何をだ、ビッテンフェルト」

「ルッツ、あれだ、ミッターマイヤーの、疾風ウォルフの涙だ。俺は一生忘れないだろうよ」

「ビッテンフェルト」

「ワーレンか、不謹慎と言いたいのか?」

「そうだ」

「そうだな、俺も悪かったな。少し自重するとしよう」

「しかし、だ、問題はこれからのことだ」

「ファーレンハイト提督?」

「そうだろう、ケスラー提督」

「我ら全員滅びの歌を歌って銀河の深遠にピクニックする訳にはいかないのだから」

「ファーレンハイト」

「参謀長のシュタインメッツ中将には何か異論があるのか?」

「・・・・いや、ないな」

「参謀長まで・・・・ロイエンタール提督には悪いとお考えにならないのですか?」

「メックリンガー、それを言うならミッターマイヤー提督に、ではないのかな?」

「ビッテンフェルト中将」

「ミュラー中将、そういう目をしないでほしい。だがな所詮俺達の人生録は血文字で塗られているのさ」

「・・・・・・そうかもしれませんね」

「だが、二度とやりたくないものだ。戦友と殺しあうなんてな」

そこへ赤毛の提督が現れた。

「諸提督方、ローエングラム元帥と、ミッターマイヤー大将がお待ちです、要塞司令室までお越しください」



宇宙暦799年、帝国暦490年 10月9日 同時刻



「もう良いのか、ミッターマイヤー?」

「はい、お見苦しいところをお見せしました」

「そうは言うがな、もしも私がキルヒアイスを・・・・」

「閣下」

「・・・・・いや、そうだな、なんでもない」

「閣下にとってキルヒアイス提督が無二の親友であったように、私にとってもロイエンタールは無二の親友でした。
なればこそ、ここで立ち止まるわけにはいきません」

「・・・・・・・」

「閣下、私はあの時ほどゴールデンバウム王朝が憎いと感じた事はありませんでした、でしたが」

「が?」

「今はロイエンタールの遺言を果たし、そしてあいつが夢見た新秩序を確立する、それに全力を尽くしたい、いえ、尽くさせてください」

「そうか、卿は強いのだな」

「・・・・・そうですね、私にはまだ帰れるところが残っておりますから。死ぬ訳にも自棄になる訳にも行きません」

「ローエングラム閣下」

「キルヒアイスか?」

「はい、提督方をお連れしました」

「それと・・・・・・ミッターマイヤー提督・・・・・・この度は私の落ち度で・・・・・」

「キルヒアイス提督、そんな顔をしないでくれ、せっかくの決心が鈍ってしまう」

「・・・・・・・・」

「それにだ、キルヒアイス提督がロイエンタールを救おうとしたことには感謝しているし、ロイエンタール自身が反旗を翻したこと、そしてそれに気が付かなかったのは俺のミスだ」

「・・・・・ミッターマイヤー」

「さて、卿らも揃ったことだし・・・・・では、作戦を説明する。ローエングラム侯、よろしくお願いします」

「分かった、ミッターマイヤー」





第十二話 決着





side ラインハルト

全ての将帥が集結した。
そこでミッターマイヤーに促されたラインハルトが発言する。

「作戦名は『ジーク』、勝利という意味だ」

ラインハルトが幾部か影の入った声で発音する。
やはりロイエンタールの件を引き摺っているのだろう。

「勝利? ですか?」

「そう、勝利だ、ルッツ」

ルッツのふとした言葉に返すラインハルト。

「しかし、そこまで露骨ですと感づかれませんか?」

メックリンガーが不安材料を口にした。

「それはない」

断言。

「?」

ビッテンフェルトが訳が分からないという感じの表情を見せる。

怪訝な表情でラインハルトの顔を見る提督たち。

「この「ジーク」作戦は高速部隊を編成し一気に帝都オーディンを占領する」

(いわゆる電撃戦という奴だな)

「つまりリヒテンラーデ公爵に反撃の機会を与えないという事です
また、既存の宇宙艦隊はメルカッツ上級大将指揮下の部隊を除いて全て我々が把握しております」

いつもどおり、キルヒアイスが説明不足を補足する。

「艦隊編成は既にキルヒアイスが済ませている、キルヒアイス」

「はい、ローエングラム侯。では、手元の資料をご覧下さい」

パネルを操作し各員のノート型PC上に編成表を映し出す。


ローエングラム本隊5500隻

キルヒアイス艦隊8500隻

ミッターマイヤー艦隊5500隻

ルッツ艦隊5500隻

ワーレン艦隊5500隻

ミュラー艦隊5000隻

ケスラー艦隊5000隻

メックリンガー艦隊8000隻

ビッテンフェルト艦隊6000隻

ファーレンハイト艦隊6000隻

残留艦隊シュタインメッツ艦隊12000隻

貴族連合から摂取した艦隊、被弾艦艇は全てシュタインメッツに預ける形となる。
そして念のために第二次ガイエスブルグ会戦で失われた艦艇以外の全軍で帝都を目指す。

それが今回の作戦に趣旨だった。

そこでミッターマイヤーが発言する。

「卿らに頼みたい。ロイエンタールは死んだ。死んでしまった。だが、あいつだって今のゴールデンバウム王朝の体制が良いとは一度も言わなかった」

ミッターマイヤーの独白のような懇願は続く。

「今一度言う、頼む、あいつの為にも力を貸してくれ」

そして頭を下げる。

「そうだ、ロイエンタールの弔い合戦だ!」

ビッテンフェルトが同期生らしく先陣を切って啖呵を叫ぶ。

「そうだ、そのとおりだ!」

ルッツが、

「うむ」

「もちろんですとも」

メックリンガーとシュタインメッツが頷き、

「ミッターマイヤー提督のおっしゃるとおりです」

ミュラーが同意し、

「行こう、帝都へ」

ケスラーが、

「ああ、ロイエンタールの仇を討つために」

ファーレンハイトが嗾けて、

「ありがとう、我ら全員の望む公平な新秩序を確立するために!」

ミッターマイヤーが締めくくった。

「では、明日1200時を持って全軍を出撃させる、良いな」

ラインハルトの号令が下された。





side メルカッツ 宇宙暦799年、帝国暦490年 10月19日 



帝都オーディン上空に展開するメルカッツ艦隊。
その司令部で。

「メルカッツ提督、やはりローエングラム侯爵が着ました」

「シュナイダー少佐、それは確かなのだな」

「はい」

敬愛する上官に付き従ってきたシュナイダーが答える。

「では出迎えの準備をするとしようか」

メルカッツはどこか達観した声で命令を下す。

「全艦所定の位置にて待機、別名あるまで発砲も前進も禁ずる。各艦は予定通り白旗を掲げつつ示威行動のみを取れ」

メルカッツがそんな妙な命令をするには理由がある。
意識を回復した皇帝フリードリヒ4世陛下から勅令を、生まれてはじめての勅令をもらったのだ。

『ローエングラム侯爵の道を遮ってはならぬ、せいぜい華麗に滅びるのだ。
だからメルカッツ、卿に命令する、艦隊を使い華麗に奴をここまで、ノイエ・サンスーシまで導け。
これは余が出す残り数少ない勅令である』

と。

だからメルカッツは待った。
あいつらの、デーニッツ、ティルピッツ、レーダーの遺言を思い出しながら。

『ははは、メルカッツ、どうせ面白みのない顔でこちらを見ているのだろう?もう40年、いや幼年学校以前を入れたら50年以上の付き合いだからな。
それくらいは分かるさ。で、どうだった?俺の最期は?精々楽しんで滅びただろう?』

『ティルピッツの戯言はいつものことだ、気にするな。
俺たちは滅び行く王朝に準じる。幸いというべきか不幸というべきか家族がいない分気が楽だ』

『レーダーの言は尤もだ。だがな、メルカッツ、お前は違う。しっかりと家族を守ってやれ。そして勝手な言い草だが新世代を頼むぞ。
どうもあいつらは待つということを知らない。それでは駄目だと言う事を年長者たるお前が教えれる限り教えてやれ』

『そうだぞ、デーニッツの言うとおりだ。死出のダンスを踊る権限はお前にはないんだからな。虐めて悪かった、反省している。』

『今更50年前のことを言うかな?まあ、よい、後の世代を導くのは辛いだろうが・・・・・頼んだぞ』

『ふふふ、さらばだな、友よ。いずれヴァルハラにて会おう』

(そう言われては自決もできん。全く、最期の最期にまで虐めてくれるな、みんな)

シュナイダーは気が付いた。
だが気が付かない振りをした。
敬愛する上官の頬を涙が流れたことを。

それはゴールデンバウム王朝に殉じる事のできなかった、そして新体制に殉じる男の悲しみと不安の涙だったのかもしれない。




side ラインハルト



帝都オーディン上空に観艦式もかくやと思わせるほど整然とした艦隊が展開している。
それはメルカッツ艦隊だと通信で分かった。
そしてどの艦隊も砲口を自分達とは正反対の方向に向け、整列している。

「メルカッツ艦隊3000隻、交戦の意思表示をしておりません」

ヒルダが報告する。

「メックリンガー艦隊、ミュラー艦隊を衛星軌道上に待機させろ。指揮系統はメックリンガーに一任する」

ラインハルトは一応、数の多いメックリンガー、第二次ガイエスブルグ要塞前半で鉄壁の異名を奉られたミュラーを殿に残す。

「はい、ローエングラム侯」

ヒルダが返事をする。

「ところでだ、ガイエスブルグからは未だ連絡がないが、ヒルダは三人の元皇位継承権者がどうなっているか知っているか?」

「はい、存じております。その報告のために参った所存です」

ヒルダは言いたくなかったが正直に言おうと決心した。

「何故、報告が遅れた?」

それはもっともな疑問。

「まず二人、エリザーベト・フォン・ブラウンシュバイクとザビーネ・フォン・リッテンハイムの行方はすぐに掴めました。」

そこでヒルダは躊躇い、露骨な嫌悪感を示して続けた。

「二人は何人、いえ、何十人にも強姦され殺されていました。死体は・・・遺体は・・・・ガイエスブルグにて安置してあります」

同じ女として許せない、そうヒルダの目が語っていた。

「そ、そうか」

ラインハルトはショックを隠せなかった。14歳と15歳の娘。
それが強姦されて殺された。しかも間接的に自分のせいで。
あまりといえばあまり、歴史の必然といえば必然。

「その二人は丁重に弔う事としよう、それで、もう一人は?」

ヒルダが答える。

「行方不明です、閣下」

「行方不明だと?」

「最後の目撃証言では、戦艦ヴィルヘルミナにランズベルク伯に連れられて乗り込む姿が確認されています」

「付け加えるなら、そのヴィルヘルミナは脱出し、我が軍の索敵網から逃れました」

ヒルダの報告を聞き、ラインハルトは思った。

(一隻の戦艦で何ができるか、それにヨーゼフは7歳と聞く。俺が幼年学校に入ったのは10歳の頃)

そして思う。

(実力の伴わぬ覇者が倒されるのは当然のこと。しばらくは放置してもよいか)

ヒルダもラインハルトの心情を察したのだろう、無言で頷く。

「よし、メルカッツも抑えたことだし、このままオーディンを武力制圧せよ」


そうしてオーディン各地は武力制圧されていった。



軍務省ではエーレンベルク元帥がブラスターやライフルで武装した兵士たちに向かって

「無礼な! 何を求めてのことかは知らぬが、なりあがりの青二才は礼儀も心得ぬのか!!」

叫ぶ。

それを聞いたビッテンフェルトはわざとらしくブラスターをしまいこう語った。

「失礼しました、元帥閣下。小官がお求め頂くものは時代の流れとその変化という奴です」

肩を落とすエーレンベルク。
彼にも分かっていたのだ、この時点で、帝国軍実働部隊の全権がローエングラム侯爵に渡る事がどういう事態を招くかを。



統帥本部ではシュタインホフがワーレンに投降した。

「ワーレン提督だったな、わしはともかく、家族の身の安全は保障してもらうぞ?」

彼も武人としての名誉を知っていた、潔く投降する。

「了解しました、元帥閣下。もとよりキルヒアイス上級大将閣下よりの命令で抵抗しない者には寛大な処置をとのご命令です」



ルッツはラインハルトの姉、アンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人を保護した。

「コルネリアス・ルッツ中将であります、ローエングラム閣下の姉君ですな?」

「そうですが、弟に何か?」

ルッツはこの事態にも動じないアンネローゼの姿を見て、流石はローエングラム侯爵の姉君だと場違いな感想を持った。
だが任務は果たさなくてはならない。
その為にローエングラム侯は自分に3個連隊もの将兵をお貸しくださったのだから。

「いえ、違います。閣下から保護せよとの命令を受けております。」

「コルネリアス・ルッツ中将でしたね、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」



行政府・玉璽保管室に突入したミッターマイヤーはそこで驚くべき光景にであう。

「玉璽がないだと!?」

ミッターマイヤーの驚きに、バイエルラインが答える。

「はい、保管責任者の言うことのよりますと、玉璽は先ほどのノイエ・サンスーシに持ち運ばれたとの事です」

思わず舌打ちする。

「ちっ、だがまあ良い。それでリヒテンラーデ公爵の居所は?」

「同じくノイエ・サンスーシかと」

ノイエ・サンスーシには一個師団を率いたローエングラム侯とキルヒアイス提督が向かっている。



帝都オーディン宇宙港では

「警告する、ハッチを開き我がファーレンハイト艦隊の入港を許可し、指揮下に入れ。さもなくばハッチ共々破壊する」

そこで最高責任者らしい貴族が返事をする。

「ここは帝都上空です、帝国の、皇帝陛下の権威を如何にお考えですか!?」

ファーレンハイトは皮肉げに答えた。

「権威か? 権威とは実力あってのもの、実力なき権威などもはや権威とは言わん。それはこの現状を見れば明らかであろう!」

その言葉に彼は、否、宇宙港防衛隊は屈した。



近衛兵駐屯所

「無駄な抵抗は止めろ、ゴールデンバウム王朝は終わりだ!」

唯一の抵抗らしい抵抗、といっても一個中隊が宿舎に立て篭もっただけであったが。
それを粉砕し、残りの部隊にも投降を呼びかけるケスラー。
もともと近衛兵はお飾りとしての側面が強く、戦慣れしたケスラー指揮下の陸戦隊に一気に制圧されてしまう。



そしてラインハルトとキルヒアイスはノイエ・サンスーシに到着した。
その広大な敷地を持つノイエ・サンスーシであるが奇妙なことに武装した兵士が独りもいない。
不思議に思いつつも足を進める二人。

そして皇帝の間まできた。

「ハンドランチャー隊、構え」

キルヒアイスが命令をし、12名の兵士が一斉に構える。

「撃て!」

命令と共に吹き飛ばされる。爆炎の中突入する兵士たち。

「全兵発砲待て」

ラインハルトが命令する。

そこには、玉座にはずっと憎んでいた皇帝が不気味な笑みをたたえながら座っていた。

「久しいな、ローエングラム侯爵、いや、ラインハルト・フォン・ミューゼル」

皇帝は淡々と言った。

「お久しぶりです、皇帝陛下。そして帝国宰相リヒテンラーデ公爵」

それに反比例するが如く、憎悪を募らせ反発するラインハルト。
だが皇帝はそんな事などお構いなしに話を続ける。

「うむ、ようやく時が来たな。よくぞ余の前に来た。待ちわびたぞ?」

それは本心から。



1週間前。

皇帝倒れるの重病からもう一週間が経つ。
それでもリヒテンラーデは一抹の希望をかけて侍医に尋ねる。

『陛下のご容態は!?』

だが回答は彼の想像通りであり、もっとも聞きたくない言葉だった。

『もう手遅れかと・・・・・』

思わず白衣を鷲摑みにするリヒテンラーデ。

『貴様。それでも医者か!』

『それにローエングラム侯爵が着ます。避難すべきです』

その時だ、意識不明だった皇帝の目が開いた。

『陛下!』

驚くリヒテンラーデ。
彼も半分は諦めていたのだ。

『ラインハルト、フォン、ローエングラム』

起き上がる皇帝。心臓麻痺で倒れたとは思えない強さで彼は起き上がった。

『ローエングラム侯爵をノイエ・サンスーシに通せ、決して抵抗してはならぬ』



そして時は現在に戻る。

「ほう、そちは上級大将になったのか、ジークフリード・キルヒアイスよ」

「アンネローゼ様の仇として仇を討たせてもらいます」

「うむ、アンネローゼの想い人たるそちにはその権利があるな」

「何を余迷いごとを!!」

ラインハルトがブラスターを構えようとしたその瞬間。

「待て!」

皇帝が叫んだ。
それもまるで開祖ルドルフ大帝の様に。
思わず引き金を引くのを引き止めるラインハルトとキルヒアイス。

「その前に済ませることがある。リヒテンラーデ公爵」

見ればいくつかの書類が机の上に並べられていた。
だが、リヒテンラーデは動かない、いや手の震えが止まらない。

「陛下、お考え直し下さい。まだ・・・・」

「公爵とて分かっていよう? もうゴールデンバウム王朝は終わりなのだと」

衝撃を受けるラインハルトとキルヒアイス。
それも当然か。
憎むべき敵、アンネローゼを二人から奪った存在が自らの王朝の最期を認めたのだから。

「リヒテンラーデ公爵?」

だがリヒテンラーデは奏上を持ったまま動かない、いや正式には動けない。

「クラウス・フォン・リヒテンラーデ!!」

それは初めて聞く皇帝の怒声だった。

「は」

そして読み始める。信じたくないという感じでどもりながら。

「余、よ、余、余フリードリヒ4世は、此度の内戦の勝利とそなたラインハルト・フォン・ミューゼルとジークフリード・キルヒアイスの野心の高さを持って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・余は第38代銀河帝国皇帝として、ラインハルト・フォン・ローエングラムに、に、ちょ、勅令として、玉座と玉璽を渡し、ぜ、禅譲することを確約する」

それは想像を超えた言葉。
よくみれば、玉璽が机の上においてある。

「「!!!」」

二人が驚く。
そんな二人を見ながら彼の、皇帝の独白は続いた。

「わしはほとほと嫌気がさした、この矛盾に満ちて、嫉妬と欲にまみれたこの国を。だがわしはそれを変える気概も勇気もなかった」

皇帝の言葉を聞くリヒテンラーデ、そしてキルヒアイスとラインハルト。

「そこへ一人の希望が現れた。わしが欲しくて欲しくて堪らなかったもの、覇気という気概を持った、このゴールデンバウム王朝を崩すという気概」

それは二人の野心をはじめから、あるいは途中から見抜いていた事を意味する。

「ようやく、夢がかなった。どうしようもないこの国で、どうしようもなく生きてきたわしの最後の夢、ゴールデンバウム王朝の崩壊」

そういって傍らのワインを飲み干す。

「陛下、それには毒が!」

リヒテンラーデは、このゴールデンバウム王朝最後の忠臣は最後まで忠臣らしく進言した。

「さてな、やはり極上の酒でも10分もすれば死ぬ毒薬入りでは美味くはないな」

そうして皇帝が立ち上がった。

玉座をおり、衛兵たちが思わず下がる。
いや、あとずさってしまったのはキルヒアイスもラインハルトも同様だった。

「さあ、最後の仕上げだ。撃て、ラインハルト」

引き金が引けない。
まるでルドルフ大帝のような、ラインハルトのような覇気を見せ付ける皇帝に飲み込まれた。

「何をしておるのだ! 撃て!! 撃ってこの国を! ゴールデンバウム王朝を終わらせるのだ!!」

引き金を、引けない。

「撃て! アンネローゼの仇であろう!!!!!」

その言葉にようやく二人は構えた。

そして。

閃光が。

二条の閃光が。

フリードリヒ4世を貫いた。

だが、彼は倒れなかった。
かつてガイエスブルグでゴールデンバウムの意地を、誇りを見せた三人の提督たちのように。

「まだだ・・・・・まだ・・・・・わしは・・・・・・死んではおらぬ」

歩みを止めない皇帝。血が道を作る。

「どうした、若者よ? わしはまだ死んではおらぬぞ!」

そしてラインハルトの視線がフリードリヒ4世の視線とぶつかったとき。

ラインハルトは不思議な感覚にとらわれていた。

まるで、祖父に会った、そんな感じに。

そして現実に戻したのはキルヒアイスのブラスターの銃声だった。

「ジークフリード・キルヒアイスか・・・・・」

「アンネローゼ様の仇!」

老人が笑うように、いや、老いた皇帝は笑いながら言った。

「わしが言うのも変じゃが・・・・・アンネローゼを頼むぞ、アンネローゼの想い人よ」

再び閃光。

「ふ、次はラインハルトか・・・・・・・あとを・・・・・・・銀河帝国55億の民を頼む」

そして、

希望に生まれ、

絶望に沈み、

再び希望を見つけた皇帝は、

ついに斃れ、

その生涯を終えた。

・・・・・・・笑顔を浮かべながら。


「・・・・・・陛下」

リヒテンラーデが放心した状態でブラスターを出す。

慌ててラインハルトを庇うキルヒアイス。

だが違った。

「ローエングラム侯爵、リヒテンラーデ一族の責任は全てこのクラウス・フォン・リヒテンラーデが背負う」

続けた。

「じゃから、生き残った一族には寛大な処置を頼む」

そうして皇帝の傍らにまで歩を進める。

「皇帝陛下、今から臣がお供します」

ブラスターを喉に押し付けた。
そして。

「帝国万歳!」

一条の閃光と血しぶきが散る。

リヒテンラーデは死んだ。

皇帝も死んだ。

生き残ったのはラインハルト・フォン・ローエングラムとジークフリード・キルヒアイス。



そして彼の、フリードリヒ4世の残した遺言は突入してきた全ての将兵、いや、オーディン全土に報道された。



宇宙暦799年、帝国暦490年 10月20日未明、こうしてゴールデンバウム王朝は5世紀に渡るとする歴史に終止符を終えた。


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