『副帝制度
これはローエングラム王朝初代皇帝ラインハルト1世にのみ見られた独特の制度である。いわゆるご意見番としての制度であり、実権はなかった。事実、唯一の副帝ジークフリード・キルヒアイスが死去してからはこの制度は用いられていない。ただし、ジークフリード・キルヒアイスが妻アンネローゼ・キルヒアイスと共にもうけた3人の子供が皇帝家の傍流として、いわゆる御三家として皇帝本家の跡取りとして存続することになる。だが、副帝という名称はジークフリード・キルヒアイス以外には用いられていない』
新帝国暦172年 ある歴史学者の著書より抜粋。
『アンネローゼ様』
『ジーク?』
『はい、アンネローゼ様』
『迎えに来てくれたのですね?』
『ええ、あの時言えなかった答えを持って』
『あの時・・・・それで答えはどうでしたか?』
『答えは・・・・・・ヤーです、アンネローゼ様。私の・・・・私の妻になってください』
『ジーク!』
『アンネローゼ様!』
そういってキルヒアイスはアンネローゼを抱きしめた。
それを遠くから見守るラインハルト。
(キルヒアイスが義兄か・・・・悪くない、そうだろう、ヒルダ?)
二人は幼い頃の誓いを果たしたのだ。
姉を助ける、ただ単純で明快で、そしてもっとも難しい、そう言う誓いを。
最終話 新皇帝誕生
銀河帝国はローエングラム王朝は波乱の誕生を余儀無くされた。
それは皮肉にもゴールデンバウム王朝最後の皇帝を殺してしまったことにある。
禅譲するといった相手を一時の感情で殺してしまった以上、政治的正当性をどう主張するのかが鍵となった。
それはこれからの統治で正当性を主張していくしかない。
それがたとえ極めて困難なことであるにしても。
ゴールデンバウム王朝消滅と、ローエングラム王朝誕生を知った共和国では。
『基本的に帝政国家である事に変わりはないのさ、たとえローエングラム侯爵が、いやカイザーラインハルト1世がどれほど善政をしこうとね』
とは、時の銀河共和国大統領ヤン・ウェンリーが養子ユリアン・ミンツへと語った言葉である。
そして彼はこうも続けている。
『たしかに、この改革案を見れば彼は史上稀に見る名君だろう。帝国の国民は幸せといっても良い。
だが、彼の子孫は?彼の後継者は?絶対的権力者が内政の不備を理由に外征へと転じるのは容易な事だ。
それでは我が国の安全保障上危険極まりない・・・・・だから条約という足かせをつけるのさ。もっとも人のことは、言えないかもしれないがね』
兎にも角にもゴールデンバム王朝は崩壊した。
そして残った大貴族たちの令嬢夫人(彼女らはロイエンタールが幽閉していた。皇位継承権者のみが強姦殺人された理由は分かってない、一説には共和国の暗躍があったと言われているが、それも不明である)はいくばくかの財産だけを残し、全員をオーディンの専用高級ホテルならび、専用街にて幽閉する。
そして、
『ジーク・ライヒ!』
『ジーク・ノイエ・ライヒ!!』
『ジーク・カイザー!!』
『ジーク・カイザー・ラインハルト!!!』
人々は予想に反し熱狂的にラインハルトを迎えた。
それはゴールデンバウム王朝とは違う新たなる時代を肌身で感じているからなのかもしれない。
大貴族どもに搾取されることを怯える事無くすめる世界を望んでいるのかもしれない。
その過程が簒奪だろうと、禅譲だろうと構わない、そう言っているのかもしれない。
そうした外の喧騒無視してラインハルトは進む。
ラインハルトはノイエ・サンスーシの皇帝の間を歩む。
親友のジークフリード・キルヒアイスとアンネローゼ・キルヒアイスと共に。
玉座には王冠と皇帝杖が置いてあった。
そして副帝使用の特注の紅のマントをはためかせたキルヒアイスが左横に、右横にはアンネローゼが純白のドレスを着て立っていた。
それは彼が夢にまで見た光景。
赤毛の親友と、姉に祝福されて、そして至高の冠をいだく、その瞬間。
王冠をかぶり、白い彼の専用の、ゴールデンルーベの、黄金の獅子の刺繍の入った白いマントをはためかせる。
「余、ラインハルトは今ここに宣言する。」
「余の帝国では帝国騎士、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵、平民の垣根を取り除き、全て名誉職とし、貴族領土の治外法権を撤廃し、税制度、司法制度の不平等を無くし、全ての民が平等に、帝国の法律の名の下に公平に暮らせる社会を実現する」
「余、ラインハルト一世と余の帝国は先代のゴールデンバウム王朝とは違い、公平明大な世のための政治を行うために存在するものである」
「余はここにローエングラム王朝の開幕と、ゴールデンバウム王朝の終焉、そして銀河共和国との和平を結ぶことを宣言する」
『ジーク・ライヒ!』
『ジーク・ノイエ・ライヒ!!』
『ジーク・カイザー!!』
『ジーク・カイザー・ラインハルト!!!』
『おおおおおおおおおおお!!!!!!』
宇宙暦800年、新帝国暦元年、1月3日。
新帝国ローエングラム王朝は誕生した。その波乱の国生を送るのだが、それは現時点で誰にも分からない。
そして翌月2月3日、度重なる裏交渉の末、副帝ジークフリード・キルヒアイスが正式に銀河帝国の全権大使としてヤン・ウェンリー大統領の待つイゼルローン要塞へと赴き、和平交渉を開始する。
それから半年、長期にわたる交渉の末、惑星ハイネセンのあるバーラト恒星系で銀河帝国皇帝ラインハルト1世と銀河共和国大統領ヤン・ウェンリーの間で和平条約、いわゆる『バーラトの和約』が締結され、両者の戦争は公式にも終結した。
その後の銀河の歴史はまた後ほど語るとしよう。
銀河は、人々の営みなど無視するかのように悠久の歴史を歩んでいる。
銀河の歴史がまた1ページ。