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No.22236の一覧
[0] 異聞・銀河英雄伝説 第一部・第二部完結、外伝更新[凡人001](2011/02/06 21:29)
[1] 第一部 第二話 策略[凡人001](2011/02/06 22:25)
[2] 第一部 第三話 アスターテ前編[凡人001](2011/02/07 08:04)
[3] 第一部 第四話 アスターテ後編 [凡人001](2011/02/07 20:49)
[4] 第一部 第五話 分岐点 [凡人001](2010/10/01 14:12)
[5] 第一部 第六話 出会いと決断 [凡人001](2010/10/01 14:14)
[6] 第一部 第七話 密約 [凡人001](2010/10/01 15:36)
[7] 第一部 第八話 昇進 [凡人001](2010/10/01 15:37)
[8] 第一部 第九話 愚行[凡人001](2010/10/22 10:58)
[9] 第一部 第十話 協定 [凡人001](2010/09/30 01:55)
[10] 第一部 第十一話 敗退への道 [凡人001](2010/09/29 14:55)
[11] 第一部 第十二話 大会戦前夜 [凡人001](2010/10/21 03:47)
[12] 第一部 第十三話 大会戦前編 [凡人001](2010/10/24 07:18)
[13] 第一部 第十四話 大会戦中編 [凡人001](2010/09/30 01:20)
[14] 第一部 第十五話 大会戦後編 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[15] 第一部 第十六話 英雄の決断 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[16] 第一部 最終話 ヤン大統領誕生[凡人001](2010/10/06 07:31)
[17] 第二部 第一話 野心[凡人001](2010/10/02 12:35)
[18] 第二部 第二話 軋み[凡人001](2010/10/02 13:56)
[19] 第二部 第三話 捕虜交換[凡人001](2010/10/01 20:03)
[20] 第二部 第四話 会談[凡人001](2010/10/02 12:34)
[21] 第二部 第五話 内乱勃発[凡人001](2010/10/03 17:02)
[22] 第二部 第六話 内乱前編[凡人001](2010/10/04 09:44)
[23] 第二部 第七話 内乱後編[凡人001](2010/10/08 17:29)
[24] 第二部 第八話 クーデター[凡人001](2010/10/05 13:09)
[25] 第二部 第九話 決戦前編[凡人001](2010/10/06 16:49)
[26] 第二部 第十話 決戦後編[凡人001](2010/10/06 16:45)
[27] 第二部 第十一話 生きる者と死ぬ者[凡人001](2010/10/07 19:16)
[28] 第二部 第十二話 決着[凡人001](2010/10/08 20:41)
[29] 第二部 最終話 新皇帝誕生[凡人001](2010/10/10 09:33)
[30] 外伝 バーラトの和約[凡人001](2010/10/22 11:02)
[31] 外伝 それぞれの日常[凡人001](2010/10/26 10:54)
[32] 外伝 アンネローゼの日記[凡人001](2010/10/23 19:12)
[33] 外伝 地球攻略作戦前夜[凡人001](2010/10/30 17:08)
[34] 外伝 ヤン大統領の現代戦争講義[凡人001](2011/02/03 12:56)
[35] 外伝 伝説から歴史へ[凡人001](2011/02/03 12:31)
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[22236] 外伝 アンネローゼの日記
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/23 19:12
新帝国暦2年 アンネローゼの日記が夫のジークフリード・キルヒアイスには公開された。
もちろん、それは夫婦の仲としての公開であり、カイザーラインハルトには公開されなかった。
これは150年戦争から戦後200年を経過した、新帝国暦212年、宇宙暦1012年、自由暦150年(自由暦とは自由惑星同盟が使っている暦である)に時のローエングラム王朝皇帝ジークフリード1世が公表した一部分である。



『帝国暦・・・・いいえ、私にはもう関係ない。
皇帝陛下に尽くすだけの存在。
それが騎士出身の小娘にできる唯一のことなのだから』

『初夜の時間がもうすぐ来る・・・・怖い・・・・誰か・・・・助けて・・・・
駄目よ、アンネローゼ。ここでしっかり立ち回らないとジーク、ラインハルトが・・・・』

『・・・・・来た』

『・・・・・陛下の様子が変だ。
私の顔を見るなり一言発して部屋を出ていってしまった。
なにか不敬罪に当たることをしたのだろうか』

『あれから3日が経過した。だけれども、何かおかしい』

『こう言ってはあれだが、帝国中から選抜された処女なのだから手をつけない方がおかしい気がする。
気のせいかしら?』

『自分も美しさには少し自信があるのだけれども。
・・・・やはりベーネミュンデ侯爵夫人のような方がお好きなのかしら?』

『あれから3ヶ月。
本当に何もない、数時間か数十分の間、喋って去る、本当にただそれだけ』

『私は女としての魅力に欠けるというのだろう。少しショックだ。
でも、それならば何故陛下はこうも頻繁に訪れるのだろうか』

『いつも陛下は優しかった、それが演技なのか本心なのか分からない』

『一度も夜伽の相手をご命令にならない・・・・何故?』

『怖い、ただそれだけ。この不気味な状況がいつまで続くのか』

『今日も今日とて陛下は私と会話して満足気に帰られた。
いったい何時、私は純潔を失う覚悟をすればよいのだろう』

『弟はどうしているのだろうか。
そしてジーク、あの赤毛の可愛らしい少年はどうしたのかしら? 
元気でやっていれば良いのだけれども』

『皇帝陛下が最初に言った言葉を思い出す、アン、ネ、ローゼ? と。
確かに疑問形の言葉だった』

『衝撃の事実を聞いた、アンネローゼ・フォン・リンテーゼ・・・・・祖母の名前だ。
何故こんな場所、ノイエ・サンスーシの後宮で聞くのだろうか?』

『確かに自分は祖母に似ているとは父が言っていたが・・・・・なにか関係があるのだろうか』

『この頃陛下は私と話をするのがお気に入りらしい。『そちはアンネローゼというのだな?・・・・良い名前だ』・・・・・
良い名前と言っても・・・・・私をあの方独自の色に染め上げたいのかしら?』

『侍従たちから聞いたが最近、ベーネミュンデ侯爵夫人が寵愛を失ったらしい。
原因は私でしょう・・・・そして陛下は気にするなと申された
気にしない方が無理です。
方や帝国騎士階級出身の小娘、方や子爵家のお嬢様。格が違い過ぎる』

『・・・・気まずい』

『ベーネミュンデ侯爵夫人とお会いした。殺気をこめて睨まれた。
・・・・私への殺意を抱いているのは確かだ。
せめて弟やジークにそれが向かわない事を祈るしかない』

『特になし』

『この文は不敬罪にあたるかもしれないが、書こう。
最近の陛下と私はまるで祖父と孫娘のような関係でいる。
それが陛下が私に求めた役割なら引き受けよう』

『ジークとラインハルトが軍に志願した!? 
なんて危険なことを・・・・陛下の温情すがれば・・・・いえ、だめよ。
陛下以外に後ろ盾がない今、陛下は最後の切り札、うかつには切れない』

『最前線!? そんな・・・・ジークも行くと聞く・・・・どうか無事で』

『無事に帰ってきた。戦果を挙げてなんてどうでも良いの。無事でさえいれば』

『決闘なんて馬鹿な真似はやめて。
せめて帝都オーディンにいる時くらい平穏な生活をして頂戴』

『 『陛下』

  『アンネローゼか?なんじゃ、最近特に憂鬱な表情を見せるがどうかしたのか?』

  『弟のことでございます』

  『うん?確か・・・・ラインハルト・フォン・ミューゼルと言ったな、どうかしたのか』

  そして私は語った。事の顛末を。

  『それはいかんな、すぐに近衛兵を派遣してリッテンハイムを抑えよう、それでよいな?』

  『ありがとうございます、おじい様!』

  『!!』

  (そこで気が付いた、神聖不可侵の皇帝に自分はなんと言う暴言を吐いたのだろうか!?)

  『あ、そ、その、申し訳ありません!! 大変失礼しました。如何様な罰でもお受けしますのでどうか弟には寛大な処置を』

  『いや、気にするな。それよりもだ。アンネローゼ、これは命令なのだが、二人のとき、わしのことはおじい様と呼んでくれぬか』

  『? はい、分かりました』
                                                                            』

『あれから数年経過した。
ラインハルトは門閥貴族出身でないにもかかわらず19歳で少将に昇進した。
ジークも中佐まで昇進した』

『もう止めて欲しい。でも、私を助け出そうとしているのが良く分かる。
そして他の貴族の方々の視線も集まりつつある・・・・もう二人を止められない』

『・・・・・・やはり・・・・・・陛下が酔って私の部屋に来たときのことだ。
恐らく激務のせいで泥酔していたから覚えてないのだろうけど、祖母の話が出た。
祖母はノイエ・サンスーシで侍女を勤めて、私生児を身ごもって追放同然に去ったと聞く。
そして最初の夜のあの反応・・・・おそらく・・・・陛下は本当に私たちの祖父なのだろう』

『なにやら慌しい。理由はすぐに分かった。久しぶりの戦勝だそうだ。
第4次ティアマト会戦での勝利から約半年、ラインハルトがまた武勲を挙げて帰ってきた。
ラインハルトはそれが私を解放する道と信じているに違いない』

『ジークも中佐という階級に昇進したらしい。
久しぶりに会った二人は、特にジークは私の心を揺れ動かす。
・・・・・私はあの赤毛の小さな坊やに恋をしている』

『陛下は実の祖父、それを伝えるべきだろうか?
でも伝えたところで何になると言うの?』

『・・・・・・葛藤する日々
・・・・・・嘘か真かベーネミュンデ侯爵夫人が弟たちを暗殺するよう手配していると聞く。
ほかの大貴族も同様らしい』

『陛下は祖父に違いない。確証は無いけれど。
二人に言うべきか、言わざるべきか・・・・・やはり誤魔化すべきだろう。
それが一番のはずだわ』

『ラインハルトもジークにも余計なことは言わないほうが良い。
下手をしたら・・・・・それが原因で死んでしまうかもしれない』

『最近、特にお忙しいのか陛下の体調が優れている。
妙な表現かもしれないけど、以前にも増して精力的に動いている気がするわ』

『理由が分かった。イゼルローン要塞が陥落したらしい。
それも僅か半分の艦隊で。無血占領だとも聞く』

『思わず、陛下に言ってしまった。「お体をお休み下さい」と。
そしたら陛下は嬉しそうに「では今夜の夕食会はこの部屋で開くとしよう」と言って下さった』

『昨日は楽しかった。陛下も久しぶりに執務を忘れられた様であられた。』

『アスターテ会戦。勝つべき戦いで敗残の身に陥った二人。何も処罰がなければよいのだけれども・・・・』

『良かった、何も処罰は下されなかった』

『銀河帝国領土への艦隊の侵入が続いている。
そしてこれも宮中の噂だけど、ラインハルトが全軍の総指揮を取るらしい。
お願い、勝ってとは言いません。
ただ、ジークとラインハルトを無事に帰してください。』

『帝国軍は苦戦していると聞く。何でも辺境地帯全てを共和国に奪われたとか。
弟は責任を取らされないのだろうか』

『不安だわ。宮中にも不穏な空気が流れている』

『アムリッツァ会戦の結果が来た。
どうやら勝利したらしい。陛下も久方ぶりの笑顔を見せている。
それが何だか嬉しい』

『帝国中で大きな動乱の気配がある。特にブラウンシュバイク公爵、リッテンハイム公爵らがリップシュタットの森で何か密約を交わしたらしい
らしいというのは、私は所詮庶民上がりの寵愛を受ける女。グリューネワルト伯爵夫人といっても名ばかり。だから詳細は分からないの。
少しでもラインハルトやジークに伝えれれば良かったのだけど。』

『陛下が私に警護の兵を増やすようにご命令してくださった。それだけきな臭いという事かしら?』

『・・・・・内戦・・・・相手は帝国貴族のほぼ全て。
ラインハルトが迎撃の全権を委任されたらしいけど・・・・お願いです、神様。
あの二人を守ってください』

『そういえば、あのイゼルローン要塞を陥落させたヤン・ウェンリー氏が銀河共和国の大統領職についたらしい。
この前、リヒテンラーデ公爵が仰った。
なんでも、彼はかつてアスターテを初め各地で帝国軍を撃破していたとか・・・・それが動かないのが不気味らしい。
私事ながら、他人事のように思うと、今ならば帝国打倒の絶好の機会のはず、共和国軍動かないのは何故だろう?』

『ジークに告白した。
全てが終わったら私をもらってくれと。
それと・・・・・ラインハルト、もう少し場の空気を考えて欲しいわ』

『リッテンハイム公爵が戦死したらしい。追従する貴族数千名と共に・・・・お気の毒、とはいえないわね』

『陛下からの情報によるとガイエスブルグで決戦が行われたそうな。
それに勝利したのに二人はまだ帰ってこない』

『宮中が、とくにリヒテンラーデ公爵が慌しい。何があったのかしら?』

『陛下がお倒れになった・・・・・・・なんだろうこの空白感、虚無感はは・・・・・・・』

『陛下が久しぶりに来て、私の祖母の話を語った。そして言った、「すまなかった」と。私はようやく確信を持てた。
だけどこの事は最後まで、死ぬまで心の底に閉じ込めておこう。二人の邪魔はできない』

『陛下が逝かれた。その顔が満足気だったのが幸いだった。
そして私は泣いた。運命の非情さを呪った。』

『ジークから返事を聞いた。答えはヤー。私は想いを遂げられる』

『戴冠式。ラインハルトが、カイザーラインハルト1世として即位した。これでゴールデンバウムの鎖は完全にたち切れられた
私はようやく自由になれた。そして幸運なことに誰も失わずにすんだ・・・・・祖父を除いて』

『あれから半年あまり、ジークと私は未だ関係を持っていない。
まるで高校生の恋愛だとフロイライン・マリーンドルフに言われた・・・・ラインハルトといい関係だからと言って・・・・余計なお世話です!』

『ジークが驚いていた。私が乙女であることに。くす、人のことは言えないでしょ?』

『ジーク、いくらずっと思い描いたからと言って毎晩これは激しすぎるわ。腰が痛くて立てないじゃない』





外伝 アンネローゼの日記





side  オーディン



オーディンでは歓迎式典の真っ最中だった。
何の式典か?
財政難に、貴族と平民の格差に苦しむ中で強行しなければならなかった。
それは講和条約歓迎の式典であった。

「ジーク?」

アンネローゼは思う。

(私はここにいてよいのだろうか)

そう思っていた。

「アンネローゼ様、大公妃アンネローゼ様がいなければ華がないではないですか」

キルヒアイスが笑って返す。

二人は幸せそうだった。

ランドカーの目の前にいるラインハルトの生暖かい目を見ながら。

「キルヒアイス、姉上」

「ラインハルトさま?」

「なにかしら?」

ラインハルトは重いため息を付きながら言う。

「そういう事は、ノイエ・ルーヴェでやってください」

『ノイエ・ルーヴェ』

共和国のG8加盟企業、ネルガル重工と大家建設、ホテル・モスクワが技術の粋を凝らして完成させた新宮殿である。
その民生技術力は帝国の技術を大きく凌駕していた。
銀河帝国ならば1年半はかかると思われていた事業を10ヶ月で完成させた手腕は賞賛に値する。

「あら、ラインハルト、貴方がいつも私室でヒルダさんといちゃついているのは分かっているのよ?」

グサ

なんかそんな擬音語が聞こえた。
窓の外を見やる。
そこには幾人もの群集がいた。
それを抑える憲兵隊と帝国警察

後列を走るランドカーの中には共和国大統領の護衛(実態は有給気分でゴールデンバウム王朝の歴史に触れられると、公言しているヤン大統領にくっ付いて来た)のユリアン・ミンツやカーテローゼ・フォン・クロイツェルの姿もあった。
この他にも移動に使用した第13艦隊司令官ダスティー・アッテンボロー大将や何故か一緒にきたオリビエ・ポプラン中佐、イワン・コーネフ中佐の姿も後ろのランドカーにある。

「まあまあ、お二人とも。悪いのは私なのですからここは穏便に」

キルヒアイスが仲介に入る。
というか、仲介に入れるものが物理的にも心理的にも他にいない。

ラインハルトの治世はキルヒアイスとヒルダの補佐があって初めて円滑に動いているのだ。

「なら・・・・・うん?」

とたんにラインハルトの表情が変化する。
それは実戦を経験した者にしか分からない変化だった。

「どうしたの?」

アンネローゼがつぶやいた瞬間、キルヒアイスはラインハルトとアンネローゼを押し倒した。

爆発。




side ユリアン



「カリン伏せて!!」

叫び声とカリンを庇うのはほぼ同時だった。
護衛の装甲車が突如爆破された。

そして群集がパニックを起こす。

『なんだ!?』

『キャーー』

『に、逃げろ!!』

『皇帝陛下をお守りしろ!!』

『最優先防衛目標を忘れるな!』

『テロだ!!!』

『何事だ!?』

『くそ、どこだ!』

叫ぶ憲兵隊そして親衛隊。

テロが第二派のロケット弾を撃ち込む。

『RPG!?』

それは共和国軍州軍が使うNEXT11の三合会という会社製品の無反動ミサイルだった。
安くて命中率が高く、単発だから軽いその上、二重の安全装置がかけられているので州軍、特に財政力の弱い州軍に人気商品だ。
それを担いでいるのは何と民衆。

パニックになって逃げ出す群衆の合間を縫って30名ほどの群集が襲撃をかける。

「カリンと提督たちはここにいてください!」

ユリアンは返事も聞かず飛び出した。




side アンネローゼ



流石に皇帝専用車両だけのことはある。度重なるレーザーの攻撃に耐えている。
だが時間の問題だ。
相手は30名とはいえ、奇襲効果と群集のパニックで親衛隊は分断されている。

それにキスリングは車外に飛び出したばかりで指揮系統など全く無い。
対して。
彼らは徹底した訓練を受けたのか、あるいは薬物でも使っているのか、全くよどみない攻撃を繰り返してきている。

「キルヒアイス、俺も戦う」

ラインハルトは我慢ならなかった。
自分が、いや、姉上まで危険にさらしている現状が許せなかった。

(見ているがいい、生き残ったら首謀者全員八つ裂きにしてやる!)

とラインハルトは思った。

幸い、ここにはブラスターもある。

「駄目です、絶対に駄目です!」

が、キルヒアイスは拒絶した。
今の状況で外にでればたちまち蜂の巣だろう。
キルヒアイスは冷静に、といっても、ラインハルトと比べてだが、状況を把握していた。

(ジークとラインハルトがこんな怖い目をするなんて)

場違いな感想を思うアンネローゼ。
当然だろう、いつも笑っていた二人が殺気だった目を向けているのだから。

とたんに前方車両がもう一台爆破された。

これで前には進めない。

「ラインハルト様、アンネローゼ様、あとしばらくの辛抱です。幸いこの車は共和国の新装甲を使っています。
そう簡単には破壊されません」

バッテリー車であり、誘爆の危険性も少ない。
窓もドアも対戦車ライフル防弾使用の防弾ガラスの強化装甲。
なにより、ノイエ・ルーヴェまでわずか500m。
すぐに援軍が来る。

「ですから、私を盾にしてください」

そして二人を強引に車内の床に伏せさせる。

「ジーク!?」

「キルヒアイス!?」

数名のテロリストが車に取り付いたのは。

「不味い!」

キルヒアイスが叫ぶ。
テロリストは懐から時限式のプラスチック爆弾を取り出していた。

「ラインハルト様、アンネローゼ様を頼みます」

キルヒアイスは覚悟した。
ここが死に場所だと。

それを悟った二人が止めようと声を荒げる。

「ジーク!」

「キルヒアイス!」

帰ってきたのはいつもの笑顔。
そしてドアを開けようとした。

その瞬間だった閃光が走ったのは。





side ノイエ・ルーヴェ



「どうしたんだ! これは一体!!」

珍しくヤンが声を荒げる。
怒っているのか困惑しているのか分からないが、目の前の爆発はノイエ・ルーヴェの貴賓室から見えた。
その直後だ。

「ヤン閣下、ご無事ですか!?」

シェーンコップがヤンの姿を確認する。

「ああ、無事だ。それよりなにがおきている」

そこへウルリッヒ・ケスラー中将が顔を真っ青にして入ってきた。
よほど急いできたのだろう。
さして広くないこの屋敷で顔を上気させている。

「テロ行為です」

「テロ!? それじゃあ地球教徒かい?」

「わかりません。ですがその可能性が高いかと」

ケスラーは答えながらもカーテンを閉めるよう部下に命じた。

「ヤン閣下はご覧通り、首から下は要らない人間だ。まして白兵戦なんて夢のまた夢」

事実だけに言い返せない。
シェーンコップは続けた。

「という訳で、ヤン閣下にはシェルターに移ってもらいましょう」

「まて、ユリアンとアッテンボロー、ポプラン中佐とコーネフ中佐が・・・・それにカイザーたちがまだ・・・・」

ヤンの抗議を無視してブルームハルトとマシュンゴが彼を拘束した

「人は運命には逆らえませんから」

「なんだそれは!?」

思わずヤンが聞き返す。
それを無視してシェーンコップは命令した。

「連れて行け! 警護隊の名誉にかけて傷一つ負わせるな!!」





side ユリアン



自分はオーディンで何をしているのだろうか?

そんな疑問を感じながら三台前を走っていた皇帝専用車両にブラスター片手に近付く。
そしてみた。
一人が懐から時限式の爆弾を持ち上げたのを。

「く!」

とっさにその男の額を打ち抜く。
保護者にして義父ヤン・ウェンリーと違って、ワルター・フォン・シェーンコップに手ほどきをうけ、及第点に達したユリアンの射撃は正確にテロリストの頭を貫いた。
爆弾はテロリスト達ごと粉砕してしまう。

ブシュ。

いやな音がした。
見れば左肩をレーザーが貫通していた。
それは残ったテロリストの最後のあがきか。

だがユリアンの傷は浅かった。

4人のテロリストを完全に駆逐する。

そして。

「カイザーラインハルト陛下ですね?」

車内で蹲っている3人の人物。
二人は金髪、もう一人は赤毛だった。

「ええ、そうです、君は?」

赤毛の青年が聞き返す。

「ユリアン・ミンツです、ヤン提督の」

最後まで言えなかった。
それはキルヒアイスが咄嗟に怒鳴ったからだ

「後ろだ!!伏せなさい!!」

そしてユリアンは見た。
私服姿の一人が自分にブラスターを向ける姿を。

(間に合わない!)

(駄目だ、遅い!)

そして閃光がその女を貫いたのを。

「ユリアン!」

「カリン!?」

「あんた大馬鹿者よ! 少しは残された者のことを考えなさい」

そういって彼を伏せさせる。
そして銃撃戦が再び始まった。

だが、こんどは結果は逆だった。

ノイエ・ルーヴェからケスラー中将指揮下の憲兵隊1000名が投入され、人の壁を作り出した。
またポプラン、アッテンボロー、コーネフも防衛線に加わり、テロリスト集団は破滅へと追いやられる。

そして。

「狙撃手だ!」

二階建ての家屋から一人の女が銃を持ち出して狙撃する。
倒れ付す憲兵の一人。

アッテンボローがライフルをひったくる。

「まかせろ!」

構え、狙い、撃つ

「ビューティフル」

思わずコーネフが賞賛する。

それが最後の一人だった。

数名のテロリストを昏睡に突き落とした憲兵隊と親衛隊は鬼の形相で彼らを連れ去った。



side ノイエ・ルーヴェ 事件から10日後



共和国の重鎮たちは衛星軌道上で待機している。
地上と違い、2万隻の艦隊に護衛されているならばテロの可能性は低い。
というか、無いだろう。
共和国ではサイオキシン麻薬の製造は死刑を適用している。そして軍内部もグリーンヒル査閲本部長なる者によって徹底的に粛清されたと聞く。
それに襲撃犯は帝国臣民だった。共和国の謀略の線が消えたわけではないが、それでも、いや確実にありえないだろう。
今、共和国がここを襲っても意味が無い。第一、彼らの英雄ヤン・ウェンリーの息子でさえ死にかけたではないか。

ちなみにユリアンとカリンは帝国黄金獅子十字勲章が授与された。

「誰が真犯人だ!?」

ラインハルトの怒声が提督と閣僚たちに響く。
そこにオブザーバーのオーベルト中将の姿もあった。

「犯人は分かっております、地球教徒です」

ミッターマイヤー統帥本部総長がケスラーに代わって代弁する。
この場にケスラーはいない。
彼はジークフリード・キルヒアイスの命令を受けていた

『ケスラー中将』

『は』

『必ず、真犯人を捕らえてください、これは命令です』

それはキルヒアイスらしくない怒りの篭もった命令だった。
思わず冷や汗がでる。

『了解しました、早速調査に、いえ、撃滅にとりかかります』

そして。

「犯人の主犯格は地球教徒総大主教ルエー・ド・フーラ、そしてド・ヴィリエ大主教です」

ミッターマイヤーの説明が一段楽したところでオブザーバーの義眼の男が発言を求めた。

「よろしいですか?」

「オーベルト・・・・ああ、あのRCIA長官か? で、なんだ、まだあるのか?」

ビッテンフェルトが聞く。
彼はこの男の正体が何となくであるが気が付いていた。
それはここにいる全員がそうである。
少なくともここまで帝政ラテン語を流暢に話せる以上、元帝国軍人であるのは間違いない。

「はい、調査の結果、此度の武器購入、ならびに潜伏先の手配した実行犯の真犯人も分かりました」

それは帝国より共和国の情報網が優れているという証でもあった。
思わずマリーンドルフ伯やリヒターら閣僚はため息をつく

「なんだと!」

だが、ラインハルトはお構いなしに先をすすめるように言った

「答えはシュザンナ・フォン・ベーネミュンデ。動機は死んだ皇帝フリードリヒ4世の復讐」

義眼の男は冷酷に断罪を下す。

「カイザーラインハルト、貴方の哲学には反するでしょうが、第二、第三の支援者を出さぬためにもベーネミュンデは殺すべきでしょう」

「付け加えるならば、懐妊中の大公妃の子供とアレク皇太子、ヒルダ皇妃も標的でした。もっとも、それは計画段階で終わったようでしたが。」

そしてこの日のラインハルトは二重の意味で怒っていた。
一つは姉上を狙ったこと。姉上が妊娠していることを知った上で
そして。

(俺の半身や姉上だけで飽きたらず、俺の子供やヒルダまで殺そうとしたのか!?)

「カイザーラインハルト、貴方はこの国を安定化させる義務がおありのはずだ。それは奇麗事では済まされない」

「ここは膿をすべて取り除くべきでしょうな」

義眼が光る。
それはまるで悪魔の視線だった。

「・・・・・・・・・分かった。所詮は血塗られた道。俺は何百万人と殺してきた。それにベーネミュンデや地球教徒の血が数滴加算されようと如何ほどのものか」

オーベルトはその答えに満足した。

「結構です。これで後10年は安泰でしょう。貴方が共和国侵攻などという失政を犯さぬ限り」

そういって彼は退室した。

多くの悪意や嫌悪をその背中に受け止めらながら。



それから2日後、ベーネミュンデ侯爵夫人は皇帝に対する大逆罪の罪で死を承った。
また、ヤン・ウェンリーはオーベルトと共に帰国の途に着く。
そこにはヤン大統領の特例で地球攻撃を許可された、ビッテンフェルト艦隊2000隻、ワーレン艦隊1000隻、ルッツ艦隊1000隻の合計4000隻が供として付いていった。


それから3週間後、オーベルト中将の総指揮の下で、地球攻略作戦『クライシス』が発令された。
世論には勝てない、そういったのは誰だったか? とにかくこの作戦は特別な意義を持って実行される。
専制国家の皇帝の苛烈なる怒りと、民主国家の激怒し沸騰した世論は、銀河帝国軍、銀河共和国軍、史上初の共同作業として、テロリスト集団の巣窟に対しての無差別攻撃を決定した。
銀河共和国軍第2艦隊ロード・パエッタ大将と銀河帝国特別連合艦隊による地球全域への集中爆撃。
さらには特殊な、強引に意識のみを奪う化学兵器をも使った陸上戦の末、地球教本部は殲滅された。
そして協定により、捕虜は麻薬中毒患者の被害者以外は全員が帝国へと引渡しされ、カイザーラインハルトの命令によりド・ヴィリエ大主教を初めとした重要幹部全員が射殺された。
他はどうなったのかは、帝国憲兵総監のケスラーなどごく一部しか知らない。

一方、銀河帝国と銀河共和国、フェザーンの三国の本国全域では全警察力と憲兵隊、軍特殊部隊などの総力を挙げた地球教支部壊滅作戦『アサルト』が決行された。
その結果、人類は本来の意味で地球からの呪縛、重力に魂を縛られること無く、新たなる時代、第三の黄金期を迎える。


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