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No.22236の一覧
[0] 異聞・銀河英雄伝説 第一部・第二部完結、外伝更新[凡人001](2011/02/06 21:29)
[1] 第一部 第二話 策略[凡人001](2011/02/06 22:25)
[2] 第一部 第三話 アスターテ前編[凡人001](2011/02/07 08:04)
[3] 第一部 第四話 アスターテ後編 [凡人001](2011/02/07 20:49)
[4] 第一部 第五話 分岐点 [凡人001](2010/10/01 14:12)
[5] 第一部 第六話 出会いと決断 [凡人001](2010/10/01 14:14)
[6] 第一部 第七話 密約 [凡人001](2010/10/01 15:36)
[7] 第一部 第八話 昇進 [凡人001](2010/10/01 15:37)
[8] 第一部 第九話 愚行[凡人001](2010/10/22 10:58)
[9] 第一部 第十話 協定 [凡人001](2010/09/30 01:55)
[10] 第一部 第十一話 敗退への道 [凡人001](2010/09/29 14:55)
[11] 第一部 第十二話 大会戦前夜 [凡人001](2010/10/21 03:47)
[12] 第一部 第十三話 大会戦前編 [凡人001](2010/10/24 07:18)
[13] 第一部 第十四話 大会戦中編 [凡人001](2010/09/30 01:20)
[14] 第一部 第十五話 大会戦後編 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[15] 第一部 第十六話 英雄の決断 [凡人001](2010/09/29 14:56)
[16] 第一部 最終話 ヤン大統領誕生[凡人001](2010/10/06 07:31)
[17] 第二部 第一話 野心[凡人001](2010/10/02 12:35)
[18] 第二部 第二話 軋み[凡人001](2010/10/02 13:56)
[19] 第二部 第三話 捕虜交換[凡人001](2010/10/01 20:03)
[20] 第二部 第四話 会談[凡人001](2010/10/02 12:34)
[21] 第二部 第五話 内乱勃発[凡人001](2010/10/03 17:02)
[22] 第二部 第六話 内乱前編[凡人001](2010/10/04 09:44)
[23] 第二部 第七話 内乱後編[凡人001](2010/10/08 17:29)
[24] 第二部 第八話 クーデター[凡人001](2010/10/05 13:09)
[25] 第二部 第九話 決戦前編[凡人001](2010/10/06 16:49)
[26] 第二部 第十話 決戦後編[凡人001](2010/10/06 16:45)
[27] 第二部 第十一話 生きる者と死ぬ者[凡人001](2010/10/07 19:16)
[28] 第二部 第十二話 決着[凡人001](2010/10/08 20:41)
[29] 第二部 最終話 新皇帝誕生[凡人001](2010/10/10 09:33)
[30] 外伝 バーラトの和約[凡人001](2010/10/22 11:02)
[31] 外伝 それぞれの日常[凡人001](2010/10/26 10:54)
[32] 外伝 アンネローゼの日記[凡人001](2010/10/23 19:12)
[33] 外伝 地球攻略作戦前夜[凡人001](2010/10/30 17:08)
[34] 外伝 ヤン大統領の現代戦争講義[凡人001](2011/02/03 12:56)
[35] 外伝 伝説から歴史へ[凡人001](2011/02/03 12:31)
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[22236] 外伝 地球攻略作戦前夜
Name: 凡人001◆98d9dec4 ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/30 17:08
『ヤン大統領による国家戦略第18号 (軍上層部、イルミナーティ(財界)、司法界との秘密会合)

1 銀河帝国とは武力闘争を行わない。
2 イゼルローン、フェザーン両回廊に軍事要塞を設け、そこに二個艦隊をローテーションで配備する。
3 抑止力として20個艦隊と辺境地域(フォロンティア・サイド)には警備艦隊として3000隻を配備する
  また、その警備艦隊は4つを基本とした各方面軍を編成し、戦時の際には特別任務部隊として遊撃任務に当てる。
4 銀河帝国への市場進出を活発化させる。第一目標は金融機関。銀河帝国を経済面から支配する。
5 帝国辺境部分への分離主義をそれとなく煽る。ただし、内乱には発展させない。
6 フェザーン回廊にて発見された新規航路開拓を行う。ただし、優先順位は国内、帝国、新航路の順番である。
7 銀河帝国の内情について、ポール・サー・オーベルト中将より報告
・ 銀河帝国は度重なる出兵と、イゼルローン建設、我が軍の帝国領土侵攻に加え、内戦とそれに先立つ軍備拡張で財政破綻寸前である
・ 銀河帝国が我が軍と同等の戦力を保持するには、国庫の8割強を毎年投入しなければならない。
・ そこで、我が国が有償で主に民間を中心に支援する。特に民間企業は運営資金と信頼が第一なので、簡単に支配下に入るであろうと考える。

 以上から、我が国は銀河帝国ローエングラム王朝に対して全力を持って経済戦争を仕掛ける    』




side 某所 講和条約交渉開始から1日目



『このたびの講和条約、我らにとっては好都合だ』

『左様、イルミナーティの力を全力で活用すれば銀河帝国の未熟な地方金融機関など半年で乗っ取れるだろう』

『そして地方から中央へとじわじわと侵食していくのね?』

『オーベルト中将の詳細な情報もありますからね・・・・・存外、軍人というのは経済面に疎い』

『そして先日のヤン大統領の議案・・・・・まったく、彼が経済人でないのが惜しいですな』

『あそこまで帝国を辛辣に貶めるとは・・・・・やはり元軍人だからか?』

『とういうより、第二次銀河大戦を起こしたくない、そういうことでは?』

『なるほど、経済面で乗っ取ってしまえば彼らも迂闊には手を出せませんからな。
我々が資本を引き上げる、それだけで手を挙げるでしょう
馬鹿でない限り。まあ、馬鹿の対策としてイゼルローン要塞、フェザーン要塞の二つと20個艦隊の軍拡を許可したのですが』

『ふふ、どちらでも良いではないですか・・・・それより、フェザーン資本の乗っ取りも進めないといけませんよ?』

『いいや、まずは提携だ。独立商人たちを侮ってはいかんからな。彼らは勝手に動く』

『で、最終的にはオーディンを経済的に支配下に置く、それも向こう10年以内でよろしいですか?』

『いや、それは性急過ぎる。もっと時間を置いたほうが良いだろう』

『なーに、150年も戦争をしてきたのだ。そんな戦争馬鹿に我々が、8世紀以上に渡る経済戦争の当事者が、遅れを取るわけもあるまい』

『では、50年を目安に・・・・・それと軍部が帝国軍の情報を欲しがっています。
経済進出の最初の獲物は造船業界と金融業界を押さえることでよろしいですかな?』

『会長の言うとおりだな。金は銀行から流れる。その流れをあの金髪の若造は理解してない。理解できるはずが無い。
もしも理解しているならば軍事力の再編成など後回しにするはずじゃ』

『理解していれば、講和条約に対等な通商条約・相互利権保障を真っ先に叩いてくるはず。それをせずに軍事的な安全を最優先にする』

『まだまだ未熟ですな。カイザーなどといわれても我々の足元にも及ばない』

『あら、それならヤン大統領は? 彼も軍隊出身よ?』

『ヤン大統領は理解した、だから、我々に選挙協力を求めた。戦術は戦略に、戦略は政治に、政治は経済に従属するということを理解している。
ラザフォートやトリューニヒトよりもよほど政治家向きな人間よな。
逆にじゃ、カイザーの様に力ずくで政権を奪ったものは、カウンタークーデターの脅威に絶えずさらされる・・・・・火種もあるしのう』

『ふ、あの黒髪の若造さえよければ大統領退任後はイルミナーティ最高幹部会への出席を許可しても良いかも知れんな』

『お戯れを。あの方の性格からして駄目ですわ。下手をするとバラされます。
私たちがフェザーンを経由して帝国の資本家たちと面識があるということが』

『それもそうじゃな・・・・・あやつは戦争の終結という公約を果たした。史上もっとも偉大な大統領になるじゃろう』

『では、この議題は次回へ持ち越しということで・・・・・今回の決定は銀河帝国への経済進出、それを徹底的に行うことで宜しいですな?』

『『『『我らイルミナーティ一同、異議なし』』』』





外伝 地球攻略作戦前夜





side エル・ファシル



現在銀河共和国の辺境部各州は大規模な好景気に沸いていた。
それは大規模な艦隊演習『ヴィクトリー』に端を発する。
『ヴィクトリー』は各地の州、イゼルローン要塞を根拠地に、奇数番号(侵攻側)と偶数番号(防衛側)に分かれて行われた。
そしてその物資、特に民需製品は、各州が提供(無論、有償)しているので、近年まれに見る好景気が訪れいていた。
フェザーン要塞建設がひと段落した今、急激な不況に陥らないよう、軍需を使ったヤン大統領の景気刺激策、一種の公共事業である。

そんな中、イゼルローン回廊を航行してきた第13艦隊と銀河帝国軍特別連合艦隊。
それを迎えるは第18、第19、第20艦隊の6万隻。

「なんとも、凄まじい数の艦隊による歓迎だな」

ルッツが唸る。
共和国軍の圧倒的な物量。現在展開しているのは共和国宇宙軍の正規艦隊の五分の一。
それだけで、現有する帝国宇宙艦隊全軍を凌駕していた。

(こちらは艦隊の再編さえままならぬというのに・・・・・金持ちというのは素晴らしいものだな・・・・・いや、それを効率的に使うヤン・ウェンリーの存在か)

ルッツはワーレンと、ビッテンフェルト、そしてオブザーバーのシルバーベルヒと会談した。
場所は『王虎Ⅱ』。
かつて第二次ガイエスブルグ会戦で撃沈されたビッテンフェルトの新型戦艦である。
もっとも、トリグラフ級には遠く及ばないため、かなり見劣りしている。
それはビッテンフェルト本人が良く分かっていた。
『王虎Ⅱ』でシルバーベルヒらと今後の協議のために。
何の協議か? それは晩餐会への出席をどうするかであった。

(正直、いきなり砲艦外交を仕掛けている共和国軍部には会いたくないものだ)

ルッツの心情を見透かすかのように、シルバーベルヒが発言する。

「ですが、彼らからの夕食の誘いです。断るわけにもいきません、絶対に」

「シルバーベルヒ工務尚書?」

特別なオブザーバーとして同行を命じられたシルバーベルヒが発言する。
彼は共和国の民生技術を少しでも早く帝国資本へ移植するという、ある意味では戦争より遥かに難しい課題を与えられていた。
もっとも、技術支援に消極的な、そしてM&Aを利用した帝国資本乗っ取りに積極的な共和国資本家たちの妨害に合い難航している。
これは一種の統制型資本主義経済を強いてきた銀河帝国と完全なる資本主義経済を標榜した銀河共和国の経験の差だった。
それは5世紀を経て埋めがたい格差として存在している。

(特に経験の差が大きい。やつらが、銀河共和国が150年間、片手間で戦争をしていたというのは本当だった!)

シルバーベルヒは考える。

(共和国の本気、それを呼び起したのはアムリッツァの戦い。
逆説的ながら、あれに勝ったが故に、共和国軍が甚大な打撃を受けたが故に、彼らはここまで軍備を伸張したとも言える。
我々は共和国の危機感、国民感情という獣の尻尾を思いっきり踏みつけたのだ・・・・・結果論だが、そうだろう。
アムリッツァでは勝つべきではなかったのか・・・・いや、勝たなければ国が崩壊していた・・・・なんとも・・・・笑うしかないな)

シルバーベルヒは心の奥底で自国の現状を嘲笑しながら、ワーレンに話し続ける。

「ワーレン提督の不安はもっともです。この大艦隊とまったく乱れのない艦隊行動。そして各地で見られた警備艦隊。
さらに言うならば我が国が10年かけて建造したイゼルローン要塞を凌駕するフェザーン要塞を3年で完成させた民間技術力。
全ての面において、明らかに共和国は我が国を大きく凌駕しています」

シルバーベルヒは反語形で続けた。

「なればこそ、共和国に付け入る隙を与えてはなりません」

そこでビッテンフェルトがある意味当然の疑問を提出する。
それは軍部全体を代表していた。

「もしも、我が軍がこれと同等の戦力をそろえたらどうだ? それで軍事的な侵攻は防げるのではないか?」

ビッテンフェルトもフェザーン要塞完成の報告は聞いていた。
そしてフェザーン要塞はイゼルローン要塞の約2倍近い大きさと、主砲『ソーラ・レイ』と要塞自体にアルテミスの首飾り12機が展開している。
フェザーンの共和国出口と隣接する共和国領土最辺境のアマテラス恒星系を突破しない限り、フェザーンからの侵攻軍は補給線は絶えず脅かされるだろう。
しかも2個艦隊が駐留しているのである意味、イゼルローン要塞より厄介だ。
とどめに、イゼルローン回廊に設置されたアルテミスの首飾り。民間船団の航行に支障がないように設置されているが、これもイゼルローンを防御するように展開している。
もちろん帝国軍は知らないが、イゼルローン方面軍は第13艦隊に加えて第9艦隊が新たに配下に加わる予定である。

シルバーベルヒはそれを聞いて軍の高官たちにため息交じりで答えた。

「国が崩壊します。革命がおきますよ?」

「「「!」」」

ビッテンフェルトの幕僚たち、いや、軍部全員が驚く。

「現在の帝国の財政は火の車です。
リップシュタット戦役での無理な艦隊増強、共和国軍の通商破壊作戦と侵攻作戦、リップシュタット戦役による物流の一時的な途絶、その後の軍備再建の埋め合わせで最早、軍事費は国庫の5割に達しようとしています。これ以上の増税や軍拡は不可能です。
もしも、仮に帝国と共和国が再戦した場合、我々は確実に負けます。
経済・財政・軍事で圧倒する共和国は次こそ帝国を滅ぼすでしょう。
そして『分割し統治せよ』の原則の下、各地に属国を建設し、我々の分断を図ります。」

シルバーベルヒは絶望的な事実を告げていく。

「財政再建には軍縮しか手は残されていません。それも大胆な。しかし、それは国防上不可能。
ついでに言わせてもらいますが、ノイエ・ルーヴェを始めとする各種公共事業には共和国系列資本が投下されいています。
もしも下手にこれらを接取すれば我々は5倍の敵を相手に、それも質量ともに優れた敵を相手に戦い、そして殲滅されるでしょう」

そしてシルバーベルヒは認めたくない事実を苦渋の顔で公開した。

そこでワーレンが手を挙げる。

「5倍? 何故だ、現有戦力では再建しつつある艦隊の総計は128000隻。ならば三倍強のはずでは?」

「経済面での話です。ワーレン提督。
特にG8やNEXT11の経済進出が激しい。我が国最大の民間金融機関である帝国銀行が彼らの支配下に自ら入ったことは記憶にとどめて置いてください。
既に中小、地方の金融機関の大半は共和国の支配下にあります。その影響が製造業などに普及するのは時間の問題。
第一、艦隊の再建にどれだけの企業が関わっているか分かりますか?
およそ300社。その半分は安くて高品質ということで銀河共和国の会社なんです」

温厚なワーレンまでもが驚愕し、

「なんだと!?それでは共和国に我が軍の機密は駄々漏れではないか!?」

と、叫ぶ。

実際、その証拠にミュラー艦隊の旗艦『パーシヴァル』級戦艦は『帝国造船』を乗っ取り、ダミー会社としたダンの『同盟工廠』が事実上一から手がけている。
RCIAや軍諜報部、情報省は各地の民間企業からの説明だけで帝国の全容、全ての情報を握っているといっても良かった。
その規模も、性能も、技術も、付け加えるならば人材も。
例えば共和国には無かった技術である指向性ゼッフル粒子などは一番初めに接収されている。
また、シルバーベルヒ自身が引き抜きの対象にされていた。それも破格の条件で。G8であるホテル・モスクワの幹部として。

(これが国力比とでもいう奴か。厄介を通り越して脅威以外の何者でもないな)

ビッテンフェルトが苦虫を何十匹もかみ殺す。
だがシルバーベルヒの話はまだ終わってなかった。

「このまま進めば辺境部は向こう20年以内、中枢部も向こう50年以内に完全なる経済的な属国化の道を歩まざる得ません」

止めとも言うべき一撃をシルバーベルヒは刺す。

「これは共和国官僚、イワン・ベリヤ外交官から聞いた極秘の話ですが、実は共和国はまだまだ余裕があるそうです。
その証拠に、銀河共和国中央議会では、イゼルローン回廊出口のイザナミ恒星系に第二のイゼルローン要塞建設の案件が議題に上っています。ついでに宇宙艦隊を30個まで引き上げろと。
最悪なことにアムリッツァの勝利が、彼らから若くて有能な人材を多数輩出するという本末転倒な話になっています。
一例ですが、ヤマグチ・タモン、シャルル・ド・ゴール、ジョージ・パットン、ゲオルギー・ジューコフ、リュウ・ビ、ソウ・ソウなど今回の推薦から洩れた提督たちがいます。
彼らの大半は参謀長として勤務していますが、非常事態に、つまり戦時下になれば確実に艦隊司令官として昇進するでしょう。
そして今回の大演習では、新提督らはミッターマイヤー提督や、亡きロエインタール提督に匹敵する活躍をみせています。
それは誇張でもなんでもない事実です。つまり、銀河共和国はソフトの面でも我が軍を圧倒しており、いつでも帝国を滅ぼせるのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・皮肉なことに、それを防ぎととどめているのがカイザーの勝てなかったあのヤン・ウェンリーなのです。
彼は必要以上の軍備拡大を防ぎ、帝国との共存を目指す、我々の守護神なのですよ?」

「・・・・・・」

ルッツが思わず目を瞑り、首を振る。

「そして、共和国は依然として未曾有の経済発展を遂げている。我が国の巨額な貿易赤字と引き換えに」

ビッテンフェルトが思わず叫んだ。

「共和主義者め!」

と。

それはワーレンやルッツも同じだった。
それを文官出身にして経済界の重鎮でもあるシルバーベルヒが窘める。

「ビッテンフェルト提督たちの意見も尤もです。
ですが、そう言う発言は我が軍内部でのみやってください。下手に共和国を刺激するとまずい。
何せこの艦隊の運用費すら一部は共和国が負担しています。そうして始めて行える遠征なのですから」

そういって、シルバーベルヒはそういって議論を打ち切った。
だが、それで止まるようならビッテンフェルトが影で猪武者などと呼ばれたりはしない。


そして、オダ・ノブナガ中将からのエル・ファシル迎賓館での歓迎式典への招待状が届いたのはそれからまもなくのことである。





side エル・ファシル迎賓館





実際に降りてみて、ビッテンフェルト、ワーレン、ルッツ、シルバーベルヒはエル・ファシルの発展度合いに驚いた。
それも当然かもしれない。
以前のエル・ファシルは、あのヤン大統領によるエル・ファシル脱出劇時には400万人しか住んでいなかった小さな州だ。
それが辺境恒星系開拓の影響で一気に3000万人まで人口が急増していた。
ヤン大統領の経済政策と人口爆発による一極集中回避政策の成果だが、州政府にとって見ればこれだけの人口爆発は想定外であり、嬉しい(悲しい?)悲鳴を上げていた。
主にエル・ファシル公務員たちが。ついでにエル・ファシルをはじめとする各地の国境周辺の警備艦隊は3000隻に増強されていた。
帝国が共和国への亡命者や後の自由惑星同盟への人材流失に悩んでいるのとは大違いだ。
しかも嫌がらせのように、共和国への亡命者を新興財閥COP10の10社が手厚く保護し、吸収している。
COP10は最近力をつけた準大手の企業で、帝国への取引で大きな利益を上げ、G8やNEXT11に追いつく気配を見せていた。



そして歓迎式典が始まる。

「レイモンド・スプールアンスの部下である参謀長のブル・ハルゼー少将だ」

「第13艦隊司令官にしてイゼルローン方面軍司令官のダスティー・アッテンボロー大将です、いやはや、こんな辺境惑星までようこそ」

明らかに非好意的であった。
まあ、両名ともがちがちのヤン・ウェンリー派であり、仕方ないのかもしれない。
とくにブル・ハルゼーは准将時代に第6艦隊分艦隊司令官として『ストライク』作戦に参加しており、そこで捕虜になった。

(俺はここで朽ち果てるのだろうか)

そう絶望していた時に、ヤンが彼を助けた。捕虜交換で。
これはオダ・ノブナガやハシバ・ヒデヨシ、ハンニバル・バルカ中将も同様であり、絶対の忠誠といっても良い信頼を彼、ヤン・ウェンリーに持っている。
そして心の奥底では銀河帝国が侵攻してくれないかと心待ちにしていた。復仇戦を挑むために。

そして宴会もたけなわな頃、各州独自の料理に舌を包む提督たちの中で、ある人物が暴発した。



「帝国軍は存外、戦力が少ないようですな、アッテンボロー提督」

それはブル・ハルゼーとアッテンボローの会話だった。

「まあ、仕方ないでしょう。我が軍にはヤン大統領がおられた。彼等にはだれもおられない、その差ですな」

「確かに。彼らには偉大な英雄などいませんからね」

「ハルゼー少将、やはりそういう事実は静かに言うべきではないですか? 本当のことなのだから」

(なんだと!)

ビッテンフェルトが思わず二人に近付く。

最悪なことにルッツ、ワーレン、シルバーベルヒ、オイゲンらは気が付いていない。

ナポレオーネ・ボナパルト(彼女はアムリッツァで第5艦隊分艦隊司令官を務めていた。ヤンにフレデリカがいるにもかかわらず、愛人で良いから一度抱かれたいと公言して憚らないヤン派の一人である)と、レイモンド・スプールアンス(彼は後方勤務としてイゼルローンに残っていた。その為、『ストライク』での実戦経験はないが、ヤンによるイゼルローン攻略作戦とアスターテ会戦に参加している。ちなみに彼はヤンよりの中立派で、中立派閥のTOPである)と話していた。

軍服であってもそのスレンダーの魅惑な肉体を見せるボナパルト提督と温和なスプールアンス提督、そして穏健派のアーレイ・バーク提督の三人と有意義な会話を彼らは楽しんでいた。

(バーク提督はアムリッツァ会戦後にヤン艦隊に救助された経験をもつ。もちろん、心情的には親ヤン・ウェンリーだ。
律儀な性格と戦局を戦略レベルで見渡せることから、将来はアッテンボロー提督の後を継ぎイゼルローン方面軍の担当になるのではないかと言われている)
以上のことから、蛇足ながらも、軍部主要メンバーは殆どがヤン・ファミリーの一員であった。

会話に夢中になり、その為、ルッツ、ワーレン、シルバーベルヒはビッテンフェルトの不穏な動きに気が付くのが遅れた。

ビッテンフェルトが怒りの形相で近付いてくるのに、気が付いているのかいないのか、アッテンボローが話を、それも悪い方向に進める。

「くたばれ、カイザーラインハルト!!の号令かけられないのが残念だ。あ、ビバ・デモクラシー!!でも良いんですけどね」

「ははは、アッテンボロー提督の言うとおりだ」

そして。

「おい」

「ん?」

ビッテンフェルトがアッテンボローの前に来た。
最悪なことに両者ともに酒で酔っている。

流石に、ハルゼーはまずいなと思い、謝罪した。
彼らは国賓だ。自分のせいで開戦になったら目も当てられない。

(今のところは見逃してやるぞ、帝国人め。ヤン閣下に迷惑をかけるわけにはいかないからな)

と、ハルゼーは内心思った。

だが、伊達と酔狂で生きて、自称革命家のアッテンボローは自重しなかった。
それどころか、ふんと鼻で笑った。
ついにビッテンフェルトが怒りを抑えられなくなる。

「今の言葉を取り消せ」

「今の言葉? はて、何か言ったかな?」

アッテンボローが敢えてとぼける。
それは明らかに侮蔑の視線を含んでいた。

(自分だけならまだ許せる、だが、カイザーを貶めることは許さん!!)

「くたばれカイザーラインハルト、だ。取り消せ」

ビッテンフェルトも譲らない。
敬愛するカイザーを侮辱されたのだから。

「ほう、ここは自由の国ですから、小官は自由と権利に基づいて話をしていただけ。取り消す必要は認めませんね」

アッテンボローが反論する。
それも共和国にとっては正論で。

「何!? 不敬罪だぞ!」

「ふん、帝国ではそうかもしれないが、ここでは、くたばれカイザーラインハルト!』、とか言論の自由は常識なんですが、ね!」

そうだ、くたばれヤン・ウェンリー!でさえ許される国で、どうして旧敵国の元首を罵倒しては駄目なのか。
そう付け加えて。しかも『くたばれ、カイザーラインハルト』を徹底的に強調していた。

「貴様! アムリッツァで敗れたこの共和主義者の敗残兵風情が二度もカイザーの悪口を言うな! 今ここで土下座してカイザーに謝れ!!」

イラ。
そんな擬音語が聞こえた。
挑発に挑発で返すアッテンボロー。
流石は伊達と酔狂の自称革命家。やることが過激であり、言うことはもっと過激だった。

「これはこれは、確か・・・・そうだ、連年敗北続きにもかかわらず、何故か降格しない奇跡の人、ビッテンフェルト提督、でしたな?
それは小官に喧嘩を売っているのですかな?」

ボルテージが上がる。
自覚しているが、もう止まらない。

「だったらどうする!?」

「やれやれ黒い猪という噂は本当のようだ。人類の重要にして貴重な権利である言論の自由という意味を本当に知らないらしい」

肩を敢えて竦ませる。

「何を!」

そこでビッテンフェルトも堪忍袋の緒が切れた。
アッテンボローの胸倉を掴む。

「やる気か!」

ハルゼーが思わず叫んだ。
その声で、それに気が付くルッツとワーレン。

「やめろ!」

「ビッテンフェルト、待て!!」

だが遅い。

ビッテンフェルトの一撃がストレートにアッテンボローに決まった。
そこで踏ん張るアッテンボロー。

「やったな!」

「先に喧嘩を売ったのはそっちだろうが!!」

そういって殴り合いが始まる。

(・・・・・・最悪だ、陛下はなんていう人選をしたんだ!?)

比較的良識派のシルバーベルヒでさえも頭を抱え、皇帝の人選を罵る。

だが頭を抱えたところでビッテンフェルトが殴りかかったという事実は止められない。消せない。

(開戦だ・・・・・バーラトの和約の破棄と共和国軍40万の大艦隊による侵攻・・・・・・)

シルバーベルヒは冗談抜きにこのまま亡命してしまいたかった。
それに打算だが彼には才能がある。

(家族で亡命しよう、ああ、そうだ、ブラッケたちも誘うか。それが良いかもしれない)

それは共和国のG8であるホテル・モスクワからスカウトが来るほどの才能だった。

(あのミス・ソフィーの提案に乗るべきかもしれないな・・・・・こんな馬鹿げた理由で銀河帝国と一緒に心中するのはごめんだ)

一方、ルッツとワーレンが駆け足でビッテンフェルトに近付く。
バーク、スプールアンスも同様だ。
こんなくだらない理由で戦争再開など悪夢以外の何者でもない。

「くたばれカイザーラインハルト!」

「共和主義者風情が調子に乗るな!!」

「何が皇帝だ! アムリッツァでもアスターテでもヤン先輩に敗戦、敗北、連敗、惨敗したくせに」

「貴様!! 言わせておけば調子に乗りおって!!」

殴り合いをしている両者を止めようとした。
が、そこで、4人は考える。

「ルッツ提督」

「なんでしょうか、バーク提督」

バークが険しい顔でルッツとワーレンに話しかける。

「このまま続けさせましょう」

「何故です!?」

ルッツが叫ぶ

(まさか、この男、戦争再開を目論んでいるのではないだろうな!?)

ルッツの考えを他所にバークは続けた。

「下手にしこりを残されても困ります、そうでしょう、ワーレン提督?」

スプールアンスも続けた。

「幸い一対一ですからな」

二人の意見を察知する。

「・・・・なるほど、あくまで私闘にしてしまうわけですね? 公的な紛争ではない、一部の馬鹿の独断と偏見と暴走だと」

「ええ、ワーレン提督の言うとおりです。私としても戦争は避けたい」

その一部の馬鹿が、双方とも、出席者の中でも上から数えたほうが早いというのが救い難いのだが。
そして今にも参加しそうな同期のハルゼーをスプールアンスが止めに入る。

「参謀長、絶対に参加しようと思うなよ?」

「ち、レイか、わかった、わかりましたよ・・・・・せっかく共和主義の意地を見せれるチャンスだったのに・・・・・」

そういってハルゼーは仲の良い同じ猛将ハンニバル中将の下へと歩いていく。
満杯のビールジョッキを片手に。
それをみて思わずため息をつくスプールアンス。
ハルゼーも艦隊司令官の選抜者の一人だった。
だが、あの性格が祟って候補からはずされた。もっとも、次期艦隊司令官であるのは違いないのだが。

「あれさえなければ、ブルもなぁ」

『猪突猛進こそ我らが信念』

誰かさんとよく似た性格を持ち、突撃と近接戦闘で無類の力強さを発揮する。
この点はナポレオーネ・ボナパルト中将やアーレイ・バーク中将に、現在第一任務部隊(首都周辺の警備艦隊を統合した部隊、数3万隻)の司令官であるグエン・バン・ヒュー大将に近い。もっとも二人はより柔軟な戦闘行動が可能であるが。

実際このたびの演習『ヴィクトリー』でも彼が臨時で指揮したときの攻撃力は、防戦に定評のあるパエッタ大将を突破しかけた。
だが、流石は次期宇宙艦隊司令長官にして防衛戦闘の第一人者。パエッタも巧みに艦隊を動かし逆包囲網を形成した。

「ハルゼー先輩ですか?まあ、あの性格ではそれもそうですね」

「バーク、結構君も遠慮というものを知らないな」

あんなに素直だったバーク。
それがイゼルローン要塞勤務ですっかり変わってしまった。
ヤン・ファミリーの毒牙にかかったらしい。

(・・・・・人のことは言えない、か)

「はは、スプールアンス先輩、誰かさんの受け売りですよ。伊達と酔狂で戦争、というか、殴りあいやってる人よりはましでしょう?」

「それはそうだが・・・・・ここには帝国軍の将官らもいる。あまり大きな声で戦争などと言うな」

見れば文官のシルバーベルヒ氏が真っ青になっている。
そこまで酷くないが、表情にこそださないもののワーレンもルッツも内心穏やかではない。
そこへ騒ぎを聞きつけたのか、というか、会場の半分近い人間が円を書いて見学している。
そこには金髪の美女、女ラインハルトの異名をとるナポレオーネ・ボナパルトもいた。

さらりと、とんでもない爆弾発言を投げ込む。

「あらあら・・・・それよりみなさん、どっちが勝つか賭けませんか?」

「おい!ボナパルト中将!!」

(こいつは俺の言っている意味が分かってないのか!?)

スプールアンスは思わず眩暈がした。
きっと、昔からこうなのだろう、というか、以前バークが襲われて喰われたので知っている。
自由すぎるのだ。彼女は。

そんなスプールアンスをお構いなしに、スレンダーで魅力的な金髪の女性艦隊司令官は挑発するように話し続ける。

「ここで全員が共犯者になれば、精々叱責程度で済みます」

(確かにそうだが・・・・・この女は苦手だ。まだ29歳で中将閣下。あのアッテンボローが27歳だからな)

どうでも良いことだが、実はナポレオーネ・ボナパルト中将はフレデリカ・G・ヤンの幼馴染であった。

そしてイゼルローン攻略、アスターテ会戦、帝国領土侵攻作戦、アムリッツァ会戦と一気に武勲を重ね、中佐から少将に昇進。
クーデター騒ぎとサイオキシン麻薬摘発の功労者の一人としてジョアン・レベロの推薦で中将になった。
この昇進の速さで、共和国内部で女ラインハルトと呼ばれている。

そんな中、頭を抱えるルッツとワーレンにさらに厄介ごとを持ちかける人物がいた。

「ならば是非もなし、わしはアッテンボローに5万クレジット賭ける」

異常に威厳のある声がホール全体に響き渡る。
オダ・ノブナガ中将だ。伊達に地球時代から続く数十世紀の伝統ある家系の血を受け継いでいない。
威厳だけで言えば、あのルドルフ大帝に匹敵すると皮肉られている。
また、苛烈な反帝国主義者で、情報部時代に帝国人のスパイを自身の手で射殺した経歴を持つ。

(そういえば、彼の先祖も同じ名前だったらしいな・・・・なんの因果やら)

現実逃避をしだすスプールアンス。
エドウィン・フィッシャーに匹敵する艦隊運用とアッテンボロー並みの攻撃力とヤン並みの冷静さを兼ね揃えた名将も打つ手が無かった。
そして、それが合図だった。

「おお、ノブナガ先輩が五万なら某も3万、同じくアッテンボロー提督に賭ける」

ハシバ中将が悪乗りする。

(・・・・・・もう、勝手にしてくれ)

沈着冷静の良識派スプールアンスをして、その声は彼を完全に諦めさせた。

「ハシバ提督、ならば私、ユリウス・カエサルは3万をビッテンフェルト提督に賭ける」

ユリウス・カエサル中将。防御指揮と攻撃指揮の双方にバランスの取れた人物で、ビュコック宇宙艦隊司令長官の一番弟子と言われている。
そして禿の女たらしとも。ベッドの中の撃墜王や第13代バラの騎士連隊連隊長とタメをはれる女性履歴を持つ。

「何? ローマ州の連中に遅れを取るわけいかんな。このハンニバル、ビッテンフェルトに10万だ!」

ハンニバル・バルカ。包囲戦闘のスペシャリストで実は一番年長者。
パエッタ提督の一期下で、帝国軍と戦うこと数十回、そのほとんどを包囲殲滅した猛者である。
ただ、私生活ではよき夫、よき父なのだが、ローマ州に対してなぜか並々ならぬ対抗心を持ち、偶に暴走する。
故に、正規艦隊を任されることは無かったのだが、アムリッツァの大敗で将官を多数失うことで昇進した。

そういってあろう事か新たに正規艦隊司令官となった者たち全員が賭け事に入ってきた。
こうなってはルッツとワーレンも入らざる終えない。
寧ろ、黙ってみていると何故止めなかったのか、何故入らなかったのかと咎められそうだ。
まあ、二人には二人なりの思惑がある。

(ただの馬鹿騒ぎにして外交問題に成長する前に有耶無耶にしてしまおう)

ルッツはそう、判断した。

ワーレンも、

(ビッテンフェルトの猪め・・・・国を滅ぼす気か!? 仕方ない、背に腹は代えられない)

シルバーベルヒも銀河共和国公認の乱闘に政治的価値を見出した。

(こちらから手を出したという事実はもう覆せない。ならば共和国側が用意した逃げ道にのるか。徹底的にな)

その頃、当事者たちは。

「い、意外にやるじゃないか・・・・この黒猪」

「き、貴様こそ軟弱な共和主義者にしては・・・・・しぶとい・・・・はぁはぁ」

そろそろか。

後ろではお祭り大好きのハシバ中将が煽りに煽りまくっており(この点で妙にアッテンボローと馬が合う)、上官が賭け事に自らのめり込むもんだからもう佐官以下はやりたい放題、言いたい放題。
そこまで調子に乗れない帝国軍のオイゲン准将やクナップシュタイン少将などはもう頭が痛くて仕方なかった。
国力差で圧倒しているから楽観できる共和国軍軍人たちと違い、現実をシルバーベルヒから聞かされた銀河帝国軍軍人は気が気でしょうがない。

これが第二次150年戦争の引き金になるのではないかと。
いや、今開戦すれば恐らく3年以内には、帝国は帝都オーディンを確実に失うであろう。
そんな未来図が簡単に思い描かれる。
何せ相手はあの魔術師ヤンと3倍強の精鋭部隊だ。アムリッツァの戦訓もある。勝てないだろう。

もちろん、外野、特に共和国側はそんなことはお構いなしに煽りに煽る。

「やれやれ!」

「アッテンボロー提督、負けるなー、そんな男ぶっとばせー!」

「そこだ、いけ!」

「おお、ビッテンフェルト提督の一撃が入ったぞ!!」

「俺の掛け金が!?」

「どうした、勝負はまだまだこれからだ!」

「やっちまえ!」

「勝利の栄光を君に!」

もうどうにもならない。

(これは・・・・・俺のせいじゃないよな?)

スプールアンスは遠い目をした。

そのとき、ようやく本命が、ヤン大統領が、共和国の文官たち、官僚たちを連れて到着した。
そして一言聞こえた。

心底あきれ返った声で、一言。

「・・・・・・・・なんだこれは」

そして見やる。
騒動の中心を。
そこにはそばかすの自分の良く知る後輩提督と、オレンジ色の髪をした帝国軍の将官の殴りあう光景が目に入った。

近付くヤン。

「ねぇ、バーク、私、飽きてきちゃった」

ボナパルトはカルタゴ州産の葉巻をくわえて火をつける。

「どの口でほざきますか、ボナパルト提督?」

流石のバークも以前の元彼女(?)には迂闊に答えない
というか、口答えするとどうなるか分かったものではない。

(あの時はほとんど拉致とレイプそのものだった・・・・それで付き合っているって・・・・・・何か違うだろう・・・・・)

思い出すのは士官学校校門前に止まっていた一台のスポーツカー。
そしてナポレオーネ・ボナパルト中尉。

『アーレイ・バーク准尉ね?』

『そうですが、なんでしょうか中尉?』

『乗りなさい』

『は?』

『つべこべ言うな、乗れ!』

『お、おわぁあぁ』

そして無理やり車に乗せられ、ホテルに直行し、そのまま・・・・・
そんな若かりし頃の思い出を思っていると。

「だってもうかれ頃、20分は膠着状態よ・・・・なんとか」

そこで言葉を区切る。
怪訝な表情をするバーク。
そして視線を移す。

「ん?」

「あ、ヤン大統領!」

思わず敬礼する。しかし、ボナパルトは嬉しそうだ。
軍隊時代の癖か答礼してしまうヤン。
その後ろには鬼のような形相でボナパルト提督を見つめるファーストレディのフレデリカ・G・ヤンの姿があった。

(ナポレオーネ、この女は幼いときから油断なら無い。ウェンリーを連れ込んでレイプくらい平気でするわ!)

(ち、また貴方なの、フレデリカ? ヤン大統領から離れなさいよ!! どうせ毎晩してるんでしょ?
一度だけで良いんだから大目に見なさいよフレデリカ!)

なぜかヤンを挟んで火花を散らす二人。
おろおろするバーク中将、もうなれたのか、ため息しか出ないヤン大統領。
そこに歓声とも落胆ともつかない声がフロアーに届いた。

「いい加減に・・・・倒れろ」

「・・・・・これで・・・・・止めだ」

ガツン。
二人が同時に床に叩きつけられた。

「ふん、引き分けか・・・・・是非もないな」

オダ中将の声が聞こえる。

見れば二人の将官がそれぞれ仰向けに倒れている。
しかもいつの間にかハシバ中将が10カウントを数えている。
だが、ついにどちらも立つことは無かった。

こうして賭け事はドローで終わった。
ちなみに一番得をしたのが引き分けに10万を賭けたスプールアンスであったのはあまり知られていない。



「で、何が原因なんです?」

ヤンがアッテンボローとビッテンフェルトに尋ねる。
双方気まずい顔をするので仕方なく、シルバーベルヒに話題を振る。

「実は・・・・・・」

事の顛末を聞き、大げさにため息をつく。もっとも半分は演技だ。

「では、どこかで落とし前をつけなければなりませんね」

その言葉に会場は大きく二つの顔に分かれた。
優越感と敗北感である。
もちろん前者は共和国軍軍部であり、後者は帝国軍軍部であった。

「落とし前、ですか?」

シルバーベルヒは必死に事態を打開しようとした。

(こんな馬鹿げた理由でまた足枷を科せられるのは不味い!)

だが、ヤンの言葉には反論できる余地は少なかった。

「そうですね・・・・・とりあえず、今回賭け事に参加した共和国の将官、佐官は全員今月分の給料から1割の減給処分を、帝国軍は地球攻略作戦への先陣を切ってもらいます」

一瞬後悔の念が正規艦隊司令官たち全員に走る。
一方耳を疑ったのはワーレンやルッツだ。

「それは・・・・本当にそれだけで良いのですか?」

ワーレンが確認する。

「ええ、あまり貴国を追い詰めたくないですし・・・・我々にも非がありますから」

ヤンの言葉に救われたのはルッツとワーレン、そしてビッテンフェルト。
元々勅命で動いているのである。
ここで下手に地球攻略から外されたら大逆罪の可能性がでてくる。
それを救ってくれるのだ、感謝しなければ。

だがシルバーベルヒは見抜いた。
ヤンが善意でそんな提案をしたのではないということを。

「それでは犠牲者は帝国軍に偏ります。なにか保障をしてほしものですな」

ヤンも頷く。

「・・・・・そうですね、ですから我が軍が開発した化学兵器C-11をお貸しします。
思う存分に地球教徒の本山のヒマラヤ山脈に撃ち込んでください」

「!」

シルバーベルヒはここで敗北を悟った。
化学兵器使用を拒否すれば、それ以上の譲歩は無いだろう。
だが、使用すれば、惑星上で無差別に化学兵器を使用するという悪名は帝国軍が背負う。
あのヴェスターラントへの核攻撃ほどではないが、帝国軍に拭い去れない汚点を残すのは確実だ。
そしてRCIAはこぞって宣伝するだろう。
ただ単に事実だけを宣伝するだけで共和国と帝国内部に、帝国宇宙艦隊への不信感を植え付けられる。

しかし、先陣を切る以上、化学兵器使用は将兵を生き残らせるには有効な手段であった。

(これが銀河共和国の大英雄、ヤン・ウェンリーか・・・・なんという謀将だ。この小さな騒動を逆手にとってくるとは)

何せこれはあくまで非公式の会談であり、記録に残らない。
だが、噂として流すことは可能だ。
そして銀河共和国の資本がいっせいに引き上げられればもう帝国軍は宇宙艦隊の維持さえ不可能になるだろう。
下手をすると内乱だ。ちょっと共和国が煽れば簡単にそうなりかねない。
ただでさえ、アムリッツァ前哨戦で制圧された辺境部では焦土作戦の影響で軍部・政府への不信感が元に、分離主義が蔓延しているのだ。
それを抑えているのが帝国に投入されている莫大な共和国資本であり、帝国軍。それを止められたら。

(もしや・・・・それを見越しているのか・・・・いや、もしやではなく、確信しているに違いない・・・・・なんという恐るべき男だ)

止めにここは共和国領土。
言論の自由を保障された国で、言論の自由を理由に殴りかかった事実は消せない。

「どうですか? それで手打ちといきませんか?」

シルバーベルヒには、否、帝国軍には『YES』と言うしか道は残ってなかった。





こうして帝国軍特別連合艦隊は共和国領土のランテマリオ宇宙港でC-11を200発ずつ受領して進軍開始する。
その後方には第2艦隊の姿があった。








































艦隊が地球へ向け進発した頃。
その夜である。
アッテンボローはヤンの私室を訪れた。

そして彼は、ヤン・ウェンリーは、フレデリカもオーベルトもいない部屋でアッテンボローと対面していた。
顔面にはいくつものシップが張られている。

「ヤン先輩、上手くいきましたね」

「ああ、すまなかったね、損な役回りを頼んで」

「いえ、何気に楽しかったですし気にしないで下さい。
あの有害図書愛好家時代や乱闘騒ぎでドーソンのジャガイモ野郎に叱られたこと、戦争時代に比べればたかが打撲です」

「はは、いいストレス発散になった、そうなのかい?」

「ええ」

「しかし、まさかビッテンフェルト提督と殴りあいになんてなるとは思わなかった・・・・アッテンボロー、一体全体何をしでかしたんだい?」

「まあ、自由と権利をちょっと過激に行使しただけですよ。ところでヤン先輩、今回の挑発はやはり・・・・あれですか?」

「うん、化学兵器使用はやはり危険だ。特に政治面で。だから帝国軍に押し付ける。
しかし、まさかこうも簡単に挑発に乗ってくれるとは・・・・・我ながらびっくりしたよ」

「オーベルト中将の発案ですね?」

「まあ、そう、だね」

「それにしても、経済界の連中は、進出が素早い。もしかして戦争時代から裏で帝国経済界と結託していた、なんてことは無いんですか?」

「さあ? ありそうでなさそうだね。帝国資本を奪い取っているのは事実だし、そのスピードも速い。
状況証拠は揃っている。しかし、状況証拠だけでは有罪にはならない・・・・・なによりもう罰する必要性が無い」

「・・・・・先輩」

「あ、いや。辛気臭い話をしてしまった・・・・悪かったね」

「こちらこそすいません。言い難い事を聞いて。それで、ヤン先輩。いつ話していいですか、この武勇伝?」

「・・・・・武勇伝・・・・・まあとりあえず、G8とNEXT11の帝国に対する金融支配が終わってからだから・・・・・あと2年後くらいかな?」

「了解しました」

「それよりどうだい、アッテンボロー。帝国の420年ものの赤ワインが3種類あるんだが・・・・成功祝いに久々に二人だけで乾杯しないか?」

「いいですね! そうしましょう。ヤン婦人と中年親父とラップ先輩に、ユリアンには悪いですが、まあ、これも当事者の特権ということで・・・・・」

やがて夜が更けるまで彼らは語り合った。
それは平和な共和国の一日でもある。


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