その日はポカポカ陽気が気持ちのいい日、温かふわふわな布団の魔力が最大限に発揮されます。
でも・・・そろそろ起きないといけません。
でもでも・・・後5分・・・後10分・・・。
うん、それぐらいしたら眼を覚まそう。
目覚ましはノーヴェを起こしに来た時に止めちゃったから、自分で数えないと。
1~2~ぐ~・・・。
「ん・・・?」
意識が落ちる寸前、直ぐ真横で寝ている赤髪の女の子がモゾモゾと動いた。
その子はあたしと同じ顔をしているんだけど、あたしと違って赤い髪で金の瞳をしています。
友達には2Pスバルって言われるけど、ちゃんとノーヴェって名前が有るんだからそう呼んでほしい。
ノーヴェ・ナカジマ、あたしの家族で姉妹です。
布団の温かさを良い具合に上げてくれていたノーヴェがムクリと上半身を起こす。
人間湯たんぽが居なくなり、寒さにうんうん唸っていると。
「スバル・・・こんな所で何してやがる・・・」
それ以上に冷たい声で呼びかけれた。
けど、
「にゅにゅにゅ、もう食べられない~」
今、あたしは肉まん200個早食いにチャレンジ中なのです。
今まさに50個目の肉まんを口に入れ・・・な!これは肉まんではなくピザまん!!。
審判さ~ん、これ肉まんじゃなくてピザまんですよ~・・・え?これは当たりで家族みなさまで行ける温泉旅行ゲット?。
「意味不明なこと言ってねぇで起きろ!!」
ノーヴェに肩を掴まれ頭をシェイク。
頭が自動的に上下運動、うぅ・・・脳が揺れる~。
「ノーヴェ駄目だよ、いくら予選であんまんが喉に詰まって失格になったからって横取りしたら」
「あたしは予選敗退かよ、じゃなくて起きろ!! って!なんでもうこんな時間!目覚ましかけたはずなのに!!」
ノーヴェがあたしを手放し、目覚まし時計を掴んで悲鳴に近い声を上げる。
「大丈夫だよ、あたしが目覚まし止めてからまだ5秒ぐらいしか経ってないから」
「もう30分近く経ってるよっ!つうか一発殴らせろおおおおおおおおおおお!!」
「わひゃーッ」
**********
「ったく!テメェのせいで遅刻寸前じゃねぇか!!」
「ふえぇ・・・ごめんなさーい」
パジャマから制服に着替え、ノーヴェの部屋を飛び出してリビングに向かう。
二人共仕事に遅刻しそうです。
なのでダッシュ!ダッシュ!!。
「つうかなんでアタシの部屋で寝てるんだよ!」
「昨日ノーヴェが寂しいって言うから・・・お姉ちゃんが添い寝してあげたの忘れたの?」
「森羅万象全てねじ曲げてんじゃねぇ!あたしは昨晩1人で寝たはずだ!!つうか添い寝されるならチンク姉が良い!!」
即答かつ本音を答えられた。
ノーヴェ、チンクのこと好きだからなぁ。
「あたしはギン姉が良いよ」
ギン姉暖かいし、大きいし、うん・・・最高。
「誰も聞いてねぇよ!つうかギンガの所に忍び込めよ!!」
「だって恥ずかしいもん」
「あたしのところに来るのは恥ずかしくないのか!?」
「というかノーヴェ、そんなに怒ってて疲れない?」
朝から叫びっぱなしだよ?。
あたしがそう言うと、ノーヴェの額にピクリと青筋が浮かんだ。
「全部お前のせいだ~!!」
「あいひゃひゃひゃひゃ!!」
階段を駆け下りながら頬の左右を掴まれて引っ張られる。
凄く痛いというか・・・こんな足場が不安定なところでそんなことされたら・・・あ、階段踏み外した。
「「わきゃああああああああッ!!」」
二人で階段の上をゴロゴロと転がりながら一階に到着、うぅ・・・無傷なのが奇跡的です。
さすがあたしの身体、頑丈だ。
「でも、ノーヴェ重いよ~」
「重いとか言うな!!」
腹ばいに転がるあたしの背中にノーヴェが乗っています。
うぅ、中身のあ・・・アンコが出ちゃう~。
「二人共、朝から元気だね」
上方からおっとりとした優しい声をかけられる。
顔を上げると栗毛でお下げな女の子、ディエチがあたし達を見下ろしていた。
ディエチ・ナカジマ、あたしのお姉ちゃんです。
「おはよう!ディエチ」
「うん、おはようスバル。ノーヴェ、立てる?」
「ありがと・・・」
ちょっと引っ込み思案な所が有るけど、とっても優しいお姉ちゃんです。
だから、私も助け起こしてほしいなぁ・・・。
「スバルも大丈夫?」
「うん、ありがと!」
ディエチの手を借りて起き上り、前を向けば先に起き上ったノーヴェが廊下を全力ダッシュしているのが見えた。
「ちょ!抜け駆けだよー!! また後でねディエチ、待ってよノーヴェ!」
「うるせぇ!こっちは急いでるんだ!!」
再び駆けだすあたし達にディエチが忠告。
「二人共、そんなに急ぐとまた転ぶよー」
「そんな子供みたいに何度も転ばな・・・わきゃああああああッ!」
「あはは、さっそくノーヴェ転んで・・・わきゃああああああッ!」
「ぐはっ!あたしの身体にダイブすんじゃねぇよ!!」
「大丈夫、あたしは痛くないよ」
ノーヴェの身体柔らかいからダメージ無し。
「もう一発殴らせろテメェ!!」
「わわわ!すぐ退くから!!」
「二人共、そんなに騒ぐとチンク姉かギンガに怒れるよ?」
「行くぞスバル、静かにな」
「そうだねノーヴェ、静かにね」
「・・・何だかんだ仲良いんだから・・・」
姉妹ですから、もちろんディエチも含めてね。
**********
リビングに入って直ぐに朝ごはんの良い匂いが鼻をくすぐり、お腹がくぅくぅ鳴きだします。
そして、眼の前のテーブルには新聞を広げながらコーヒーを飲む父さんが居る。
ゲンヤ・ナカジマ、白髪の短髪・・・ガタイのいい身体、あたし達の自慢のお父さん。
父さんはリビングに飛び込んできたあたし達に気付くと、新聞紙から視線をこちらに向けて。
「おはよう、スバル、ノーヴェ。朝から元気いっぱいだな」
「おはよう父さん。うん、元気いっぱいだよあたし達・・・ってノーヴェ?」
隣に居るはずのノーヴェが消えている・・・まさか、神隠し?。
なんてことは有るわけ無く、あたしの背中に身を縮めて隠れていたり。
あはは、ノーヴェは恥ずかしがり屋なんだから。
「ほらほら、ノーヴェもおはようって」
「やーめーろー」
背中に隠れるノーヴェを父さんの前に押し出す。
その顔は凄く真っ赤。
父さんにアイコンタクト、今時は絶対誰もしない親指を上げての返事が来ました。
「ノーヴェ、おはよう」
父さんがもう一度朝の挨拶。
「お・・・おはよう。と、ととと・・・」
ノーヴェが俯きつつ、ちゃんと挨拶を返して父さんのことを『父さん』と・・・。
「と、トマトジュースが飲みたい・・・」
「「・・・それは無い」」
「っ!!」
二人で突っ込むと、ノーヴェは顔を真っ赤にしてリビングを飛び出していく。
父さんと呼ぶまでの道のりは長くて険しいみたいです。
「はぁ・・・もしかして俺は嫌われてるのか?」
ノーヴェの後ろ姿を見送りつつ、頭を掻く父さん。
「そんなことは無いよ。きっと、どんな距離で付き合えば良いか悩んでるんだと思う」
ノーヴェは真面目だから、きっと難しく考え過ぎてるだけ。
もしくは純粋に恥ずかしいだけとか。
「姉のお前が言うんなら、そうなんだろうな」
「えへへ」
姉って言われるの、少しだけ照れくさい。
「ギンガに飯作っとくように言っておくから、お前は顔洗って来い。ノーヴェもな」
「っ・・・」
いつの間にか、リビングの入口からこちらを覗いているノーヴェに父さんはそう言った。
**********
「気になるんなら話しかければ良いのに」
「うるさい・・・」
ノーヴェと一緒に洗面所に行って顔を洗う。
うん、バッチリと眼が覚めた。
顔を赤くしながら膨れるノーヴェが可愛いので笑っていると。
「お二人さんおはようっス!今日は良い天気っスね」
洗面所の入り口が開いて、赤毛の髪を後ろでアップにした女の子が元気良く登場。
ウェンディ・ナカジマ、明るく元気な妹です。
「そうだね、つい二度寝とかしたくなっちゃうよ」
「実際に二度寝してただろう・・・」
「えへへ」
「笑ってすますな」
「おーおー、お二人は仲が良いっスね。妬けちゃうっスよ」
「そんなんじゃねぇ!」
「寂しいならお姉ちゃんの胸に飛び込んでおいでー」
両手を広げて受け入れ態勢完了。
「スバルお姉ちゃーん!」
ウェンディが周囲に花畑風景を描きながらあたしの胸に飛び込む。
「「ひし(っス)!!」」
「アホらし・・・」
「ノーヴェもやる?」
「絶対にやらねぇ!」
抱き合うあたし達を尻目にノーヴェは洗面所から出ていく。
つれないな~。
とりあえず抱き合いを解除。
「ノーヴェは恥ずかしがり屋っスから」
「わかってるわかってる。けど、もう少し素直になってほしいとか思ったり」
「けど、そこが可愛いところっスよ?」
「それもそうだね」
ウェンディと二人、クスクスと笑い合うのでした。
**********
リビングに戻るとテーブルには父さんの他に先に戻ったノーヴェ、それとチンクが座っていた。
チンク・ナカジマはあたしより小さいけどお姉さんです、それも大人なお姉さん。
普段は右眼に眼帯をしてるけど、今はご飯中なので外してます。
「ノーヴェ、父上に挨拶はちゃんとできたか?」
「チンク姉、おはよう」
父さんの間にチンク姉の挟んで座り、その小さな背に隠れるようにしながらノーヴェが挨拶。
そんなに恥ずかしいなら父さんから離れた席に座れば良いのに、近い席に座るのは・・・ある意味ノーヴェらしいです。
「いや、姉にではなく。・・・父上、すまないな」
「いやいや、俺は気にしちゃいねぇよ」
チンクがちょっとすまなさそうな顔をするのに、父さんは快活に笑って返す。
そこにあたしも突撃―。
「チンクおはよー」
「ああ、おはようスバル。そうだ、ギンガが呼んでいたぞ」
「うん、わかった。ありがとねー」
そういうわけでキッチンに突撃ー。
**********
キッチンには朝ごはんの良い香りが充満していて、空腹のあたしに深刻なダメージを与えます。
というわけでついつい近くに有るお皿からおかずを一個、
「こら」
「あいた!」
もらおうとして、その手を軽く叩かれた。
手を叩いたのは、青髪ロングヘアーで綺麗なお姉さん。
ギン姉ことギンガ・ナカジマ、あたしがもう少し大人になったような雰囲気で・・・綺麗で強くて優しい自慢のお姉ちゃんです。
エプロン姿のギン姉は、腰に手を当てながら困ったような笑顔を浮かべる
「スバル、つまみ食いは駄目よ」
「は~い。ギン姉、おはよう」
「おはよう、スバル。料理運ぶの手伝ってくれる?」
「うん」
ごはんだごはん~♪。
**********
リビングへ料理を運ぶ間に、家族のみんながテーブルに集合。
『いただきます』
全員が揃ったところで、合掌していただきます。
あたしを含めた6姉妹+父さん、計7人がナカジマ家です。
姉妹はギン姉を長女に、チンク、ディエチ、あたし、ノーヴェ、ウェンディ。
みんな健康で凄く元気。
だからご飯もよく進みます。
というか遅刻しそうなので早食い、行儀が悪いけど・・・いつもの三倍スピードで早食い!!。
「スバル!それあたしの肉団子だぞっ!!」
「早い者勝ち~バクバクバクバク!!」
「っー!テメェの寄越せ!!バクバクバク」
「あー!あたしのたまご焼きー!!」
ご飯(特盛り)片手にノーヴェとおかず争奪戦を展開。
被害甚大、至急たまご焼きを口の中に収容。
「いや~この二人見てると飽きないっスね。食欲も湧かないぐらいに」
「ウェンディ、ちゃんと食べないと姉のように大きくなれないぞ」
「・・・」
「すまん、私の失言だったから無言で姉を見下ろすのは止めてくれ」
「二人共前衛組だから、カロリー消費が激しいんだよきっと」
「ディエチの言う通りだろうな、その点私は身体も小さいからカロリー消費も最小限に・・・・・・」
あ・・・チンクが自滅してテーブルに突っ伏した。
「もう・・・みんなご飯の時は静かにしないと駄目よ」
「良いじゃねぇかよギンガ、暗いよりはマシだろ」
「父さんは新聞読みながらご飯を食べるの止めてください」
「へいへい」
父さんがギン姉のジト目を受け、新聞紙を畳む。
そんな感じの朝食風景、毎日楽しいです。
さて、ご飯もいっぱい食べたし・・・今日もお仕事お仕事~。