「死にました」
「……はぁ?」
「あなたは、死にました」
いや。別に誰が死んだのかを聞いたのではない。
何で起きたと思ったら死んでいたのか、このモヤに包まれた空間は何なのか、目の前のフードを被った美少女with大鎌は何者なのか。
そういった疑問を込めた「……はぁ?」だったのだが、どうやら伝わらなかったらしい。
「えっと……死因は?」
「……業務上過失致死デス」
マテ。
「業務上で、誤って、死なせた、と?」
「……」
おい。微妙に目線を逸らすな、体を小刻みに揺らすな、吹けてもいない口笛を吹くな!!
「えぇええええええええ!?」
「スイマセンスイマセンスイマセン!」
謝って済む問題なのか!?普通なら自分を殺しただろう相手に怒り狂ったりするだろうが、余りの展開にそんな普通の対応すら出来なかった。
「過失って何処をどうすれば俺が死ぬ展開になるんだ!?」
「お隣の方との死期を間違えてしまって……本当にすいません!」
お隣さんって、そういえば入退院を繰り返すおじいちゃんがいたような。しかし、それよりも死期がどうのこうの言ってるが、もしやこの目の前の少女ってもしかして……
「もしかして君って……死神とかそういうの?」
「は、はい!その通り死神デス!」
嫌すぎる死神だ。こんなうっかり死神だらけなら、あの世とやらも大変な事になってるに違いない。
「何か失礼な事考えてませんか?」
「別に、何もそんな事考えてませんようっかり死神さん」
「悪びれもせず考えてるー!?」
面白い。こんなテンプレートな対応しても全力で突っ込んできてくれるなんて。どうも自分はこの一生懸命な死神を許してしまっているらしい。人間こんな境地になれるものだな。
「で、俺は天国に行くの?それとも地獄?」
出来れば地獄は勘弁して欲しい所だ。出来ればこの死神のミスで俺の生前の悪行(ウソを付いたことや信号無視)などは帳消しにしてもらいたい所だが。俺がそんなこすっからい考えをしていた所
「いえ。あなたを冥界に連れて行くわけにはいかないのデス」
そんな事を言われてしまった。
「と、言うと」
「あなたの魂耐久年数はまだ余裕にあります。そんな魂を冥界に送って浄化しようとしても魂そのものの劣化を招きます」
「……つまり、電池を充電する前に放電してからするようなものか」
まさか永遠に彷徨い続けるがよい。といったホラー的な展開じゃなくて助かった。そう安心していたら目の前の死神は少し意外そうな顔をしていた。
「よく今の説明で理解できましたね。というより凄く冷静デスよね?本当に人間デスか?」
「失礼な」
ゲームではよくある展開だし。そして、冷静というより現実味がないせいで他人ごとになってるだけなんだが。
「という事であなたには余生を送ってもらいます」
「生き返られるのか!?」
もう諦めかけていただけに余生という言葉に強く反応してしまう。やはり心のどこかでは死後への恐れもあったのだろう。
「いえ。この世界はあなたの死を受け入れています。この状態で生き返る事は不可能に近いデス」
期待しただけにショックが大きい。そうか生き返られないのか……ん?
「この世界、って言ったな」
「鋭いデスねー、その通りデス」
ゲーム脳を舐めるな!となると次の展開も読めるぞ!
「つまり並行世界に跳ぶとかそんな感じで主人公をやれるんだな!」
「主人公かどうか分かりませんが、概ねそんな感じデス」
20年生きてきて、特にいい所もなかった人生に初の転機だ。まぁ人生終わってるんだが。
「希望の世界観はありますか?今回こちらの過失による失命なので、十分に配慮するようにとの上からのお達しもありますので」
「可愛い女の子が一杯の所で!」
……さ。死ぬか。人生の転機に浮かれたからといって、何女の子の目の前で叫んでるんだ。いや、仕方ないじゃないか。これまで生きてきてそういったイベントなんて一切無かったんだから。なんて自分で自分に言い訳をしているせいで気づかなかったが
「デスネットワークに接続。検索開始――該当アリ」
どこから出したのか死神は小さな電子辞書のようなものを操作していた。口ぶりからすると希望した世界はあるようだが
「では、その世界およびあなたに付随する技能について説明――したい所だったのですが時間デス」
「へ……う、うああああああああ!?」
死神が言葉を区切った途端、周りのモヤが遠くの光に向かって吸い込まれ始めた。そしてそれにつられる様に俺自身もその光に向かって飛ばされる。
「(時間配分を間違えましが)よい余生を!」
いつの間にか消えていた死神の声を聴いたのが最後に。俺の意識は薄れ消えた。
「ここは3世紀の九洲の山奥」
自分が置かれている現状について、自然と言葉に出た。どうもあの死神の置き土産みたいだ。というか、3世紀って……九州じゃなくて九洲だと?
一体どんな世界に跳ばされたというのだ……しかし
「俺には技能がある!そう、主人公のような!」
全く不安がなかった。そう、俺は呼吸をするのを意識しないで行えるように、自分の「技能」が確かに存在する事を魂で理解していた。恐らく可愛い女の子が一杯いるという世界観なんだ。恐らく主人公の持つ「ご都合主義」のような絶対的な力に違いない。
「来い!俺の能力―!」
俺はそれを確かめるために「メニュー画面」を開いた。
東城 浩一 : トウジョウコウイチ
部署 : 無職
階級 : 戦士
発言力 : 0
体力 : 50
気力 : 50
運動力 : 40
知力 : 40
魅力 : 20
士気 : 100
「……アルファシステムだとおおおおお!?」