この時代では当然、道がコンクリートで舗装されているなんて事はあり得ない。大きな石ころ等が平気で転がってもするし、穴が開いていたりする。雑草が伸び放題の所もあった。
何が言いたいかというと
「あ、足の中が乳酸でパンパンだぜ……ッ」
現代人の足腰には優しくないという事だ。例のバザーから歩いて丸一日、聞いた話では半日足らずと聞いていたのだが……どういう事なの。
まぁそのお蔭で何とか復興軍とやらが構えている本営に追いついたみたいだ。辺りは昨日の市とは比べものにもならないほどの人が存在している。その大多数は質素な服を着た農民らしき姿で、ちらほらと見える、何かの動物の毛皮を身に纏っている者は狩人だろうか。点々とした所には鎧だと思われる者を着込んだ兵士らしき姿もあった。恐らく復興軍の兵士だろう。
てんでバラバラな集団だが共通点はあった。その顔には生気がひしひしと感じられ、その集団の熱は最高潮にも達していた。ふむ。
「――うーん……」
だが俺はその勢いには乗らない。圧倒はされるが飲み込まれない。どうしてだろうと自問自答する余裕すらある。この時代の人間ではないからだろうか。そんな事をつらつらと考えていると
「耶麻台国万歳!神の遣い万歳!」
などとの声が大挙して聞こえてきた。神の遣い……なんだそれ?俺はふと気になったので熱狂の渦中に身をやった。うーん、人が邪魔でよく見えん。
ただ後姿のようなものが辛うじて見えたが、人にしか見えんな。俺は微妙な残念感を胸に人ごみに背を向けた。
「こら!押しかけるな!そして神の遣い様にモノをあげるな!」
「てめぇまた言いやがったな!!」
人ごみの中、懸命に護衛の責務を全うしようとする清瑞は、その護衛対象の非難の声を意図的に無視した。元々取り合うつもりはないが、それに構ってられない状態でもあったからだ。
(これだけの人だかりでは……――むっ!?)
気を張り、集中していたから感じられた視線。周りから向けられる熱意とは違った無機質な意思。ハッとそちらを向いた清瑞には一人の男の姿があった。乱波として一流の彼女は常人より遥かに優れた視力を持って、その姿を鮮明に捉える。
(捕らえるか……いや)
護衛対象から自分を引き離すための策かもしれない。それだけでは無い。ここには伊雅や火魅子候補といった復興軍にとっての重要人物が揃っているのだ。無暗に離れるわけにはいかない。
「――チッ」
その男は悠々と背を向けるとその場を去っていく。清瑞は間者かもしれないその男の姿を、脳裏に刻みつける事しか出来なかった。
人が集まる所には商売のチャンスがある。復興軍の兵士や集まった農民たちを相手に商売している商売人のバイタリティに俺は感心した。
「俺は火魅子様達の為に戦うぞ!」
「あぁ!狗根国の奴らからこの国を取り返すんだ!」
血気盛んな、俺と同年代くらいの奴らが気炎を上げながら復興軍の本営近くに設けられているテントに入っていった。どうも募兵はあそこで行われているらしい。俺はというと、その募兵されるテントの近くの露店で汁物を啜っていた。代金は(たぶん)食べられるキノコ。紅白の模様が輝いている。
「旦那は行かないんで?」
そのキノコをどう調理しようか。悩んでいるのかそのキノコをひっくり返したりしていた店の主人は俺に水を向けてきた。どうやら俺が汁一杯でずっと居座っているのが気に食わないのか。サーセン。
だが俺だって男の子。言われるままに引き下がらないぜ!
「ああいうサクラに釣られるほど、俺は安くはないからな」
決まった――。他人とは違う異端な俺カッコイイ。その証拠に店の主人を見よ。俺の気障な台詞に慄いて、俺の後ろに視線を……
そこまで考えた俺の頭に影が落ちていた。後ろをふっと振り返ってみる。
「……」
「oh」
そこには鬼がいた。正確に言えば鬼のような表情をした女がいた。身の丈は俺よりもあるか。鉄の鎧を身に纏い、大振りな槍を肩にかけたその姿は並みの兵士には及ばない迫力があった。
「貴様……耶麻台国復興軍が策を弄していると愚弄するかッ!」
「……」
どうも俺がサクラを用いていると言った事に怒っているようだ。怒っているというかもう憤怒といった様子で今にも掴み掛ってきそうだ。
「何とか言ったらどうなんだ!」
俺が黙っているのを馬鹿にされていると勘違いしているのか、さらに語気が荒くなってきた。すいません、びびっているだけです。ただ俺のそんな様子が余裕があるように見えるのか、更に顔を赤くしている。
こうなったらあれしかない。
「勘違いされては困る」
「なんだと――ッ」
「これまでの復興軍とは違うようだと評価しただけだ」
話術技能さんチィーっス。どうも最近気づいたのだがこの話術技能、俺の意思とは無関係に口を動かしている節がある。また口だけじゃない、身振り手振りだけでなく顔の表情から目線に至るまで計算されているみたいだった。話術技能さんパネェっス。
「そ、それは当然だろう。此度の耶麻台国復興軍には火魅子候補様だけでなく神の遣い様までおられるのだから……!」
「そんな事は関係ない。俺が言っているのは策を講じる事と、謀を弄ぶ事は別物だと言っているのだ。その上でこれまでの復興軍とは違い、策に通じる人材がいる事に感心しているだけだ」
「ぐ……そも復興軍が人を仕込んでいたという証拠でもあるのかっ」
「証拠なんて必要ない。ただこれから狗根国の正規兵が支配する街を攻めていかねばならない状況、一人でも多くの兵士を集めないといけない復興軍において、募兵の数を増やそうとする試みはして当然なのだから。いやむしろしない方が問題だ!」
「ッ!?」
暴論である。大体がサクラなんて口から出任せな、というか俺の妄想なのだから証拠なんてあるわけもない。よって勢いで問題のすり替えを行う。これは議論の場でも使える手なので皆さんには是非習得してもらいたい。
そして見よ。俺の勢いに呑まれ、目の前にワナワナと俯いた女を!
しゃ、勝った勝った。俺は空になったお椀を事の成り行きに茫然としていた店主に渡し、席を立った。周りには何事かと人だかりが出来ていたが関係ない。満足感を胸にその場を去ろうと
「――待て」
みしっ。俺は二十年生きてきて初めて、こんな骨が軋むような音を肩から聞いた。ていたたたたたたた!
「黙って聞いていれば調子のいい事をべらべらと……」
恐る恐る振り返ると、そこには先ほどの女が据わった眼をしてこちらを睨んでいた。ば、ばかな!貴様は倒したはず
「貴様のような軟弱なもの、徹底的にしごいて抗生させてやる!」
し、しまった!こいつ脳筋か!?俺の話術技能はある程度の理を持ってる奴には効果的だが、逆に脳みそが筋肉で出来てる奴には逆効が薄い。いや、むしろ逆効果。アイツらはある程度まで追いつめられると、考える事をシャットダウンして襲ってくるからな。
しかし、こうしてマジマジと真っ赤になった顔を見てみればなかなか美人って――
「お、おい!俺をどこへ連れて行く!?」
「煩い!黙っていろ!」
や、やめろおおおおお!?俺をそのテントへ連れて行くなー!
しかし、俺の願いもむなしく、引き摺られるかのようにテントの中へと連れ込まれてしまった。そう、復興軍が募兵している所へな!
東城 浩一 : トウジョウコウイチ
部署 : 無職
階級 : 戦士
発言力 : 0
体力 : 50/50
気力 : 50/50
運動力 : 43
知力 : 40
魅力 : 34
士気 : 50
技能 : 家事技能 話術技能 XXX
耶麻台国復興軍 ある幹部の会話
「と、いう次第です」
「ふむ、いやおまえの復興軍を思う気持ち、しかと受け止めた。今後はおまえの武、復興軍に尽くしてもらおう」
「はいっ」
「うむ。ん、亜衣どうした?」
「――いえ。特に何も」