最終話:帰還
「ふ~む……」
「どうなんだ?」
「……うむ! この"データ"なら文句は無いな。」
「おぉ! それ(ジル)なら戻れるって事なんだな!?」
『ふっ……当然だ。』
「これなら君の世界への転送が出来そうだよ。」
「万が一と言うも考えていましたが、安心しました。」
「しかし、良くこの短期間で"これ程"の仲魔を連れて来たものだ。
少なくとも一ヶ月以上は掛かると思ったが、驚かされたよ。」
「がはははは、何せ俺様は"あっち"じゃ世界の王様だからな!!」
「リアは王女様なんだよぉ~?」
「ほぉ、それは意外だな。」
「で……こいつが姫様で、このムチムチな背の高いのが女王様だったりする。」
『いえ、私は……』
『……勝手に決めるな。』
「何と……只者では無いと思っていたが、王家の方々だったとは。
それでは、ランス王・リア王女と呼ぶべきだったかな?」
「なに、今更変える必要なんか無ぇよ。」
「うわわっ……それにしても高い所ですよねぇ~、ちびってしまいそうです。」
「(冗談に聞えんからな、こいつの場合は……)
確か高ぇよなぁ、何でこんなトコで研究してんだ?」
「ははは、何とかと煙は高い所が好き……言うだろう?」
「スティーブさんが仰っても説得力が無いような気がしますが。」
「全くだな、おい。」
スティーブンのメッセージを受け、ターミナルへ向かったランスは、
彼の居る場所に出向くべく、送付されていたパスワードを元に転送する。
そして対面すると、直ぐ様アームターミナルを手渡し、
"魔王 ジル"のデータを解析してもらっていた。
その解析結果は"合格"だったようで、"あちら"に戻る条件が整ったのだ!
……そんなデータを見ていたスティーブンの居た場所と言うのは"東京タワー"であり、
東京が海に沈んでしまっていると言えど、まだ200メートル前後の高さがある。
天辺ではなく、東京タワーの中層あたりなのだが、それでも高い事には変わりない。
アニスは怖さを露にしているが、ランスも最初下を見下ろして唾を飲んだものだ。
「まぁ……簡単に言えば、此処が"研究"するのに適しているからね。」
「なんでだ?」
「以前、此処では"メシア教徒"が都市各地に放送を行っていてね。
その機材がそのまま残っているので、利用させてもらっているのだよ。」
「放送って何ぃ~?」
「良く判りませんが、"魔法ビジョン"のようなものかと思います。」
「あ~……なんかそんなのを銀座とかで見た気がするな。」
「前置きはこれくらいにして……それでは、始めるかね?」
「直ぐ出来るのか?」
「あぁ、必要なのは"彼女(魔王)"のデータだけだったからね。
だが……まず転送するのは一人ずつで頼むとしよう。
各々の戻るべき場所や"あちら"での状態と言うのも違うだろうしな。」
「そうか、それなら転送する訳だが~……
≪くるっ≫
……お前ら良いか? "こっち"の事は誰にも言わなくて良い。
俺達の秘密にしておくんだ。 説明するのは面倒臭ぇのもあるしな。」
「は~い、リア達だけの秘密にしようねっ!」
「信じて貰い難そうですし、その方が良さそうですね。」
「秘密ですねッ? けど、拷問されたら言っちゃうかもしれないです。」
『そ、その可能性は少なそうですけど……』
「じゃあ香ッ。 ……お前が一番最初に戻れ。」
『えっ? 宜しいのですか……?』
"こちら"での出来事を秘密にする事にしたランス達はさておき……
下準備を済ませていたのか、用意周到なスティーブンが車椅子を操作し、
転送を行うと思われるコンピュータに向き直り、キーボードに手を掛け、
首をランスに向けると、彼は最初の転送者に香姫を指名した。
すると遠慮深い故か、一番後方に居た彼女はおずおずと前に出て来た。
そのままランスの側までやってくると、ランスは香姫を見下ろして言う。
「誰でも良いんだがな、なんとなくだ。」
「わかった、まずは天魔の彼女か……ちょっと待っていてくれ。」
『あっ、はい。』
≪カタッ、カタカタカタッ……カタカタカタッ……≫
「(早ぇ手付きだな。)」
「……ふむ、彼女には"あちら"に体のデータがあるようだ。
"ペースト"して"上書き"するだけで良いので無難に転送が可能だろう。」
「(最後の方が良く判らんが……)香、次に目を覚ますときはリーザスみてぇだな。」
『そのようですが、ランス様は戦場ですから、どうかお気をつけて……』
「おうッ! ちゃっちゃと倒して帰るから、茶菓子でも用意しておけ。」
『はい……でも、できれば私も同じ……』
「あん?」
『!? あっ、いえ……何でもありませんッ。
(折角戻れるのに……"こういう時"くらい、仲魔らしい事を言わないと……)』
「こちらは準備OKだ、香姫殿とやら?」
「らしいぜ、行ってこい! だがその前にだなぁ――――」
≪ぐいっ……ぶちゅっ!≫
『ん、んん~っ!?』
「あぁ~ーッ、ずる~~ーーい!!」
「がはははは! 今までの褒美だ、有り難かったろ?」
『ふふっ……はい、ありがとうございました。』
「むッ? そ、そうか。」
『それでは、宜しくお願い致します。』
「わかった、始めよう。」
≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫
香姫の場合、肉体がリーザス城にあるのでたいして手間がかからなかったらしい。
よって早速"転送"するのだが、ランスと冒険をするのはコレで終わりなので、
彼女は何か気の利いた言葉を探すのだが、みつからない。
すると何やら察したランスは、皆の前で唇を強引に奪い、
リアの大声が響き渡るが、口付けを受けた香姫は、意外に落ち着いていた。
そんな中、スティーブンがスイッチを押して香姫が、
ターミナルでの転送のようにモニターの画面から発せられる光に包まれる。
その光に包まれながら香姫はニコリと微笑むと、消える前にランスに言う。
『ランス様。』
「あん?」
≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫
『不謹慎ですが……今迄、楽しかったです。』
≪――――バシュンッ!!≫
「(そうですか、やはり香姫殿も……)」
「……結構、あっさり行っちまったな~。」
「何処に飛ばそうと、ゲートを開いてしまえば送るだけだからね、
君も体験済みだろうが、距離は全く関係無いのだよ。」
「まぁ、送ってさえくれりゃあ良いけどな。」
「それでは、次に移るとしようか?」
「おう。 次はカミーラだ、行け。」
『…………』
≪ザッ……≫
「ふむ……先日の"龍神"だな、データの解析は既に済んでいるが……」
「どうかしたのか?」
「大した事ではないが、彼女の"戻るべき場所"は見つかったが、
少し"情報量"が他の肉体データよりも少ないようだね。
お嬢さん……些細であれ、何か心当たりはあるかね?」
『…………』(←全くの無反応だが考えているらしい)
「おっと失礼、龍神殿。」
『いや、多分……其処に私の"魔血魂"があるからだろう。』
「魔血魂?」
「詳しい説明は省きますが、カミーラさんの肉体は無く、
"あちら"にある魔血魂というものが、彼女の本体と言う事になります。」
「ふむ……それでは、その場所に上書きすれば良い……と。」
≪カタッ、カタカタッ≫
「カミーラ。」
『…………?』
「おいおい、やっと戻れるってぇのに"それ(無口)"かよ。
お前は"あっち"に行ったら生き返ったも同然なんだぞ?」
『そうだな……けど。』
「んんッ?」
『感謝を示すのは、まだ早いわ……』
元々"あちら"に体がある香姫と比べ、カミーラは魔血魂あれど死んだ身。
それなのに全く喜ぶような様子が無い彼女を、ランスは腕を組みながら指摘する。
しかし、"それ(無口)"がカミーラの性格なので、仕方ないといえば仕方無い。
一応嬉しさはあり、ランスと二人だけの時は一回限りとは言え礼を告げた事もあるが、
他のメンバーの目もある事から、あまり喋ろうとはしていなかった。
それに、カミーラが本当の自由を手に入れるのは、醜い魔人を倒してからなのだ。
彼女の"まだ早い"と言う言葉を聞いて、ランスは思い出したような素振りをしながら言う。
「そういや~そうだったな、まぁ楽勝だろ。」
「良し、こちらは何時でもいいぞ?」
『……頼む。』
「わかった。」
≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫
『……直ぐに合流する。(私の体は魔王城だからな)』
「おう、リスと鉢合わせしても妙な気は起こすなよ?」
≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫
『大丈夫だ。(この"感覚"も最後か……)』
「がははっ、礼は5発くらいで良いからなぁ~ッ?」
『阿呆。』
≪――――バシュンッ!!≫
「うぬぬ……あいつめ、アホときやがったか……」
「ランスさん、"死ね"とか"殺すぞ"とかの罵倒をされるよりはマシですよ!」
「お前(アニス)に言われたくないわッ!」
「(微笑ましいものだな)……さて、お次は何方かね?」
香姫と全く同じような現象で姿を消したカミーラ。
これから間も無くして、彼女は魔王城のどこかで復活を遂げるのだろう。
さておき、これで二体目の仲魔の転送が終了し、最後の仲魔は一体。
お気付き通りジルであり、彼女は自分からモニターの前に歩み出る。
回復道場を出たときのように、裸足でラフ(ヘソ出し)の私服姿をしている。
『私になるのか?』
「そうなるなぁ。」
「"魔王"殿だな?
≪カタカタカタッ、カタカタカタッ……カタッ、カタッ≫
……ふ~む……類似するデータが見当たらないな。」
「どう言う事なのですか?」
「今度は説明し易い、只単に彼女が入るべき肉体が無いだけだ。」
『むっ……』
「なら、どうなっちまうんだ?」
「心配する必要は無い、上書きせずに転送してしまえば良いだけだ。」
「なんだか判らんが、できるならやってくれ。」
「その前に……彼女を何処に転送させるか決める必要があるな。
生憎送る事ができるのは、"三箇所"しかない。」
「何で三箇所なのぉ~?」
「私は"君達の世界"の事については殆ど判らないからね。
下手に違う場所に転送しようとするよりは、
"あちら"での肉体がある者の近くに転送させるほうが安全なのだ。」
「う~む、確かにアニスみたいに地面や壁の中にめり込まされても困るからな。」
「そんな~ッ、ちょっと空中だったか、
ちょっと地面に張り付いたかダケじゃないですかー!」
「まぁ、そう言う訳だが……どうするかね?」
香姫ともカミーラとも違い、今ジルの姿は完全に"あちら"には無くなっている。
よって"悪魔のジル"の肉体をそのまま"あちら"に移動させる必要がある。
移動と言っても何処にでも転送可能なワケでは無く、
リーザス軍の駐屯地、カミーラの魔血魂がある魔王城の中……そして、
香姫が眠っているリーザス城の、三箇所に座標は限定される。
よって戻れない訳では無く、場所が限られているだけであり、
むしろ位置が固定されているランス達と違って、
場所を選べる事ができるので、考え直してみると条件が良いとも言える。
それらの事で少しジルは安心したような素振りを見せながら顎に手を当てた。
その時間は僅かであり、ジルはスティーブンに向い、後ろ親指でランスを指す。
『では、"こいつ"ではなく"カミーラの場所"で頼む。』
「こら! ご主人様に向かって"こいつ"とは何事だッ。」
『"これ"の方が良いのか?』
「変わって無ぇッ、むしろ悪くなってるだろうが!」
『くくくッ、だが……』
≪くいっ……≫
「むぉ……っ?」
ある意味カミーラ以上に愛想が無い、魔王ジル。
作られてたった一日しか経っていないのだが、
彼女のあんまりな扱いに、少々ピクっときたか声を荒げたランス。
対して、ジルは不適に微笑みながら、彼に瞬時に近寄る。
直後ランスの顎を右手の人差し指で押し上げ、そのままの表情で言う。
『本当に戻れたのなら……"私の体"で礼をしてやらん事もないが?』
「何ィ!? 本当だな~ッ?」
『以前の貴様との行為……悪くは無かったからな。』
「が、がははははは! それなら話は別だ、許してやるッ!」
「ダーリンそんな事で許しちゃわないでよぉ~!」
『ふんっ……(正直なところ、自慰(じい)行為は飽きたしな……)』
「やれやれ、では転送するぞ?」
≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫
『たった一戦限りか。 もう少し、"こっち"で楽しみたかったのだがな。』
「俺様はもう腹一杯だけどな。」
≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫
『ランス、先に行かせて貰おう。』
「おう、行ってこい……って今。」
『…………』
≪――――バシュンッ!!≫
「あ~~……行っちまいやがったか。」
「……これで"仲魔"は終了だな。」
「それじゃあ残ってるのは人間か。」
「そうなりますね。」
「良し、今度はアニスが行け。」
「あっ、はい! 順番ですね~!」
愛想が無くとも、ジルが感謝している事には変わりない。
ランス達と同じ場所(駐屯地)に転送されるのを選ばなかったのは、
決して嫌だったのではなく、何となく照れくさかったのかもしれない。
それを、彼女が消える瞬間に名を呼ばれ、微小だとはいえ察せたランスだが、
言葉を返そうとした時、ジルの姿は既に転送済みで影も形も無かった。
よってランスは気を取り直し、そわそわしているアニスを指名した。
彼女も何となく、次は自分が呼ばれるのだろうと待っていたのだろう。
「オイおっさん、アニスの体はどうなってる?」
「調べよう……
≪カタカタッ、カタタッ……≫
先程の"悪魔召喚プログラム"の、君達"ステータス"を参照して……
≪カタカタカタッ、カタッ……カタッ!≫
ふ~む……類似する肉体のデータは無いようだな。」
「死んじまって何ヶ月も経ちゃあ~、当たり前か。」
「あうあう、やっぱりそうですよね~……」
「それならまた"三箇所"から選ぶ事になるんだよな?
ならアニスは香の場所に送ってやってくれ。」
「わかった、天魔殿の場所だな。」
「えぇ~!? わたしはランスさん達の場所の方が~。」
「マリスが"マカラカーン"を使えりゃ良いんだけどなぁ。
"あっち"じゃどうなるか判らんし、城で俺様を待ってろ。」
「で、ですけどぉ……私がいきなりお城になんか現れたら、
驚かれちゃいませんかぁ? 一回も入った事、無いですしー。」
「それは香に説明して貰え、あいつなら上手に"こっちの事"隠しながら言えるだろ。」
「ややッ? その手がありましたね、気付きませんでした!」
「誰でも気付くわッ。」
「とにかく、お前も晴れて生き返るんだ、嬉しいだろう?」
「はい、とっても嬉しいです!」
「俺様には感謝してるんだよな?」
「してます、してますっ。」
「だったら"あっち"に戻ったらやらせろよ?」
「はぁ、良いですけど~、何を"やる"んですか?」
「……(こいつに言っても無駄か……)おっさん、やってくれ。」
「うむ。」
"こちら"と"あちら"での相違点は、多々ある。
挙げればキリがないが、重要なのは"あっち"に戻ってからの、
スキル(特技と魔法)とレベルがどうなっているかと言う事だ。
魔法をそのまま引き継いであるのであればアニスはマリスの力で戦力になるが、
引き継いでいなければ味方を壊滅しかねない。
何もさせなければ問題ないかもだが、それはそれで色々と面倒そうなので、
ランスは香姫にアニスの事全般を任せる事にしてしまった。
"アニス巫女服で、どっちも和風っぽいし良いか"……と勝手な判断である。
さておきスティーブンは、ランスに言われて、
再び"やれやれ"といった表情をしながらも、ボタンに手を掛ける。
≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫
「ランスさん! お先に失礼しま~す。」
「おう、リーザスの城のナカじゃ香に任せて大人しくしてろよ?」
「はい! このアニス、頑張って"おとな~しく"しています!」
≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫
「……(何を頑張るんだかな。)」
「じゃあ……え、エッチの時は優しくしてくださいね~。」
≪――――バシュンッ!!≫
「ありゃ……判ってやがったのか。」
「むぅ~、わかんないままで良かったのに~。」
「何を"やる"のかとトボけていたのですね……私にでも判りませんでした。」
「どこまで本気で、どこまで冗談で出来てるンだか判んねぇ奴だぜ……」
転送が始まるというのに、三体の仲魔と違って動かずにはいられず、
アニスはランス達に手を振りながら転送されていった。
彼女は一度死んで、"こちら"でも廃人になり掛けたが、
何人もの助けにより、こうして生きて再び、自分の世界に戻る事ができたのである。
……思い返せば、転送直前に"あっち"に肉体が無かったのは、
アニスとジルだけだったが、ジルは"あっち"の亜空間に元々生命自体はあった。
しかし、アニスは完全に死んで魂だけになって彷徨っており、
それを偶然"ラファエル"に復活させてもらったのだから、
一度死んで陵辱もされたとは言え、運が良かったと断言できる。
「最後は、予想していた三方が残ったようだね。」
「見ての通りだぜ。」
「……では、"三人同時"に転送するとしようかな?」
「えぇっ?」
「何だ、一人ずつじゃなかったのか?」
「すまない。 言い忘れてしまったが……
"こっち"よりも"そちら"の時間の流れの方が遅いようとは言え、
私が持つ"常識"も、世界と世界との間の転送になると通用しないようだ……
よって、一人ひとり転送をするのであれば、数時間の誤差が現れてしまう。
つまり……"三人同時"の方が都合が良いと言う訳だ。」
「それもそうだが……何で最初からそうしなかったんだッ?」
「繰り返すが、言い忘れてしまったのがあるだけでなく、、
君達三人は"あちら"に肉体があり、しかも揃って場所が同じなので確実性があるのだ。」
「成る程、納得です。」
「だったら三人で一緒に行かないっ? その方が安心できるし~。」
「オッサン二人っきりになるのも嫌だしなぁ、そうするか。」
「手痛いな、まぁいい……手配しよう。」
「あ~、その前になんだが。」
「ッ? どうしたのだね?」
「もう、俺様は"こっち"にゃ戻って来れねぇのか?」
「寂しくなってしまうが、そうなるだろうな……
"これ(転送装置)"と同じようなモノがあれば別だが、そうもいかないだろう。」
「そうかぁ~、とにかく……色々と世話になったな。」
「容易い事さ、私も"君達のデータ"で色々と楽しませてもらったよ。」
「へっ、ギブ・アンド・テイクって奴か。」
「ちなみに、仲魔含む"普段着以外の装備品や武器"は全てなくなってしまうが……
その"雷神剣"だけは"仲魔相応"のデータとしての記録してあるようだ。
"そちら"に持っていけるようにプログラミングしておいた。」
「お~! がははは、そりゃ良いぜッ。」
4名の転送が終了し、ランス・リア・マリスが残った。
"こちら"にやってきた初期メンバーであり、帰還の転送も三人同時。
他の4名は非常識に非常識が重なり、逆に帰還に時間差が出てしまうが、
香姫とアニスは良いとして、カミーラとジルが若干心配だが、
彼女達の事なので、なんとか上手くやってくれるだろう。
……とにかく、これで"最後の最後"になるので、スティーブンと言葉を交わすランス。
一方、溜息をつくリアなのだが、マリスが優しく声を掛けようとしていた。
「はぁぁぁ~~っ……」
「リア様、落ち込むのはまだ"早いかもしれません"よ?」
「えっ、どう言う事なのぉ?」
「全てが終れば……必ず話します、ですから気を落とさないでください。
そのような表情をされているリア様を見ると、私も悲しくなってしまいます。」
「マリス……うんっ! マリスに心配掛けたくないから、もう溜息吐かないよっ。」
「素晴らしいです、リア様。」
「準備完了だ……では、君たちの健闘を祈るよ。」
「おう! オッサンも悪魔に食われちまうなよ!?」
「ありがとうね、おじさんっ。」
「お世話になりました、本当に……」
「では。」
≪カチッ……ブイイイィィィンッ……≫
「おぉ、きたきたぁ~。」
「……(ダーリンともっと、一緒に冒険したかったなぁ~……)」
「……(どうか、リア様が"このまま"でありますように……)」
≪ブイッ、ブイィッ……ブイイイィィィンッ……≫
「さらばだ。」
「あばよーーッ!!」
≪――――バシュシュシュンッ!!≫
三人は淡い光に包まれると、モニターの中に吸い込まれる。
ランスは人差し指を立てて、リアは満面の笑みで、マリスは浅く礼をして。
今……こうしてランス達の、"東京での冒険"の終わりを遂げたのだ。
たった三週間と言う短い期間だったが、多くの出会いと別れが一行にはあった。
リアとマリスも、お互いの運命を大きく変えるきっかけになった冒険となった。
≪ギシッ……≫
「ふぅ~……いずれは、君たちの力を借りる時が来るかもしれんな。」
そして、東京タワーの研究室に残されたスティーブン。
彼は、同じくその場に残された、ランスに使う意思が無ければ動かない、
特別なタイプである"ハンドヘルドコンピュータ"を手に取ると、
車椅子に背を預けて溜息をつき、意味深な言葉を漏らした。
……彼の行うべき"重要な計画"は、まだ半分も終っていないのだ。
スティーブンは十数秒後……車椅子を動かし、
部屋の端の方まで行くと、海に沈んだ東京を見下ろしながら、再び漏らした。
「"東京ミレニアム"……か。」
=鬼畜召喚師ランス=
=第四部= =完=