序章2「再会する運命」
スウェンやヴォルケンリッターの面々がはやての家にやって来てから一か月以上経ったある日、スウェンはヴィータと狼形態のザフィーラと共に海鳴の街を散歩していた。
「いやー、最近暑くなってきたなー」
「そうだな、俺達がここに来た時より暑い」
スウェンはザフィーラを繋ぐ綱を握りしめながら汗で濡れる顔を腕で拭った。
「それで今日は何買えば良かったんだっけ?」
「確かカレーと言っていたな……」
「カレーかー!はやての作るカレーはギガうまだから楽しみだー!」
そう言ってヴィータは空の買い物かごをブンブン振って喜びを露わにする。それを見たスウェンはヴィータと初めて会った時の事を思い出していた。
(初めて出会った時は無愛想な奴だと思ったが……年相応の顔も出来るんだな)
そんな事を考えていると、そのスウェンの視線に気付いたヴィータが睨みつけて来た。
「なんだよ、私の顔に何か付いているか?」
「いや……可愛い奴だなと思って……」
「可愛い!?」
その瞬間ヴィータは顔を真っ赤に染め、スウェンに近付き膝の裏に向かってローキックを繰り出す。
「てめえ! そういう恥ずかしい事言うな!」
ヒョイ
「コラ避けるな! くっそー! すずしい顔しやがって!」
そしてヴィータはプンプン怒りながら再びスウェンの前を歩き始める。
「……? 何でヴィータは怒っているんだ?」
「アレは照れ隠しだろう、気にするな」
「そうか……」
ザフィーラに言われて納得したスウェンははやてから貰ったメモを取り出し、まずどこへ買い物に行くか確認し始めた……。
それから一時間後、買い物を終えた三人は公園へ行き一旦別行動をとる事にした。
「私らここでじいちゃん達とゲートボールして帰るから、先帰ってはやてに買った食材を渡しておいてくれ」
「わかった、夢中になりすぎて遅くなるなよ?」
そう言ってスウェンは公園にヴィータとザフィーラを置いて一足先に家路についた、この一カ月弱の間、ヴォルケンリッターの面々は近所の住人達とすっかり仲良くなっており、ヴィータは近所の老人たちとゲートボールに興じる程の仲になっていた。
そしてスウェンが一人で帰宅途中でのこと……。
「フー! シャー!!」
「うわ~! やめろッス~!」
「ん? なんだ今の声は……」
スウェンは誰かが叫び声をあげているのに気付き、気になって声がした路地裏を覗き込む、そこには……。
「にゃー! ふしゃー!」
「これはオイラのパンッス! 誰にもやらねえー!」
「……妖精?」
体長30センチほどの黒いボサボサの髪に褐色の肌、そして金色の瞳をした少年が数匹の猫とコッペパンの取り合いをしていた。
(どう見ても妖精……だよな? しゃべる犬もいるしこの世界では珍しくないのか?)
「にゃー!」
「お、お前ら! 大勢で寄ってたかって卑怯ッス! ああダメそこだけはー!」
「ペロペロぺロ」
「く、悔しい……! 猫なんかに! でも(ry」
「なんかよくわからんが助けるか……」
スウェンは近くに落ちていた空き缶を拾いあげ、妖精っぽい何かを襲っている猫達に軽く投げつけた。
「ふにゃーん!」
「その辺にしとけ、毛皮にするぞ」
すると猫達は蜘蛛の子を散らすように逃げていき、後には妖精っぽい何かがぐったりして倒れていた。
「おいお前、大丈夫か?」
「も、もうお婿に行けない……ガクッ」
「……なんか頭のほうが重症らしい、さてどうするか……このままにしておくのも寝ざめが悪いしな」
そう言うとスウェンは妖精っぽい何かをつまみあげた。
数十分後、スウェンは買い物袋を引っ提げて八神家に帰ってきた。
「おかえりースウェン」
「はやて……シグナムとシャマルは今どこに?」
「居間でテレビ見とるよー」
家の中の観葉植物の手入れをしているはやてに教わった通り、居間にいるシグナム達のもとに向かうスウェン。
「二人とも……実は相談があるのだが……」
「ん? どうした?」
「スウェンが頼みごとなんて珍しいわねー」
そう言ってシグナムは剣の形をしたデバイス……レヴァンティンの手入れをしながら、シャマルはそのレヴァンティン用の使い捨て強化パーツであるカートリッジを作成しながらスウェンのほうを見る。
「これ……なんだかわかるか?」
スウェンの差し出した手には先ほど確保した妖精っぽい何かが乗っていた。
「うーんむにゃむにゃ……もうスッカラカンだよう……」
「ぬわっ!? なんだこのナマモノは!?」
「人型のユニゾンデバイスかしら……? スウェン、これをどこで?」
「路地裏で猫の唾液まみれになっているところを……」
「何? 何の話―?」
すると騒ぎを聞きつけたはやてがスウェン達の話に入ってくる、そして彼女の視界に妖精っぽいなにかが入ってきた。
「何コレフィギュア? スウェンにそんな趣味が……。」
「いや、一応生物だぞコレ」
そういうとスウェンは妖精っぽい何かの頬を指でツンツンつつく、すると妖精っぽい何かは目を覚ました。
「ううん……? ここはどこ? オイラは佐○健?」
「何言ってんのこの子?」
「うわー! ホンマもんの妖精や!」
はやてはまるで子犬を見るような眼で妖精っぽい何かの頭を撫でる。
「……? あんた等誰?」
「お前の命の恩人と……まあ同居人だ」
「んー?」
妖精っぽい何かは頭を傾げるとスウェンのほうを向く、そして……目を見開いて驚いていた。
「……………………マジかよ」
「何がマジなんだ?」
「あ、いや……なんでもないッス~」
「お前はいったい何者だ? 見たところデバイスのようだが……」
「デバイスってアレかいな? シグナムが持っているソレ?」
はやての疑問にシャマルが代わりに答える。
「はやてちゃん、デバイスって言っても色々あるのよ、この子はそうね……ユニゾンデバイス……かな?」
「我々もあまり見たことがないタイプですね……」
「うーん……オイラもそこんところはわからないッス、生まれたばっかりなんで……」
「「「「?」」」」
その妖精っぽい何かの言葉に、スウェン達は頭に?マークを浮かべる。
「オイラ生まれてからずっと眠っていたんス、それで最近目が覚めて、気付いたらこの町にいて、とりあえず生きるために今日までがむしゃらに生きてきたッス……だから自分のことはさっぱりわからないッス、“ノワール”っていう名前以外は……」
「ノワール……」
「うーん、それやと自分の家もわからんのか?」
「へい……」
そう言ってスウェンの手の上でシュンとするノワールを見て、はやてはある決意を固める。
「しゃあない、ノワールがスウェンに助けられたのも何かの縁や、帰る家が見つかるまで私らがノワールの面倒を見たる」
「主!?」
「はやてちゃん!?」
はやての発言に驚くシグナムとシャマル、対してはやては改めてノワールの頭をなでた。
「生まれてすぐに一人ぼっちなんて寂しすぎるやろ? 遠慮せんでええよ」
「……いいんスか?」
「はやてならそう言うと思った……少なくとも俺に反対する理由はない」
スウェンの言葉に、シグナムとシャマルもうなずく、するとノワールはふわりと飛び上がると、はやて達にぺこりと頭を下げた。
「それじゃ……しばらく厄介になるッス! スウェンのアニキ! はやて姐さん!」
「姐さんて……」
「変わった奴だな、お前は……」
こうして八神家にまた新たな家族が加わった、ちなみにザフィーラと共に後から帰宅してきたヴィータはノワールを見て「何だコイツ? ポケットモンキーか何かか?」なんて感想をもらしたそうな……。
おまけ
ある日、はやてはテーブルの上で今月分の家計簿をつけていた。
「うーん、急に家族が増えたから出費が増えたなぁ、でもこれ以上グレアムさんに援助増やしてもらう訳にもいかんし……」
するとそこにコーヒーの入ったマグカップを二つ持ったスウェンがやってくる。
「はやて、コーヒー持ってきたぞ」
「うん、ありがとうなスウェン」
「ところで……さっきのグレアムとは何者だ?」
スウェンは先ほどはやてが口にした人物のことが気になり彼女に質問する。
「うん、私の死んだ両親の友達でな……毎月私の生活費を送ってくれる人なんよ」
「資金援助を……なるほど、どおりではやて一人で暮らしていけたわけだ、それにしても……」
スウェンはふと、そのグレアムという人物に対し疑問を感じていた。
(そこまでするのならなぜはやてを引き取らないのだ? そうすればいくらか安上がりだし、はやてが寂しい思いをせずに済んだのに……何か家庭的な事情でもあるのだろうか?)
その時、はやてはあることを思い出しスウェンに質問する。
「そうや、もうすぐグレアムさんの支援が届くころなんやけど……スウェンは何か欲しい物あるん? ひとつだけなら買ってもええで」
「おれか? そうだな……」
スウェンはしばらく考え込んだ後、自分が欲しいある物が頭に浮かんだ。
「……星座の本を頼めるか?」
「星座? ええけど……図書館でも借りられへん?」
「この前本屋で新しいのが出ていたんだ……2千円ぐらいの」
「星が好きなんやなスウェンは、ええで」
快く承諾してもらい、スウェンの表情はどこか嬉しそうだった。
今日はここまで、これで八神家全員集合ですね。なんでノワールがここにいるかは後々明かしていきます。あとグレアム達も原作とは違う運命を辿らせる予定です。
次回はAs第一話の前日談を投稿します、それでは。