第二話「新たなる生活」
スウェンがノワールを使ってセットアップしたその数分前、シンとフェイトは二手に分かれて襲撃者の対処に当たっていた。
「ふっ……中々やるな」
「そっちも……!」
「おら! ぶっ飛びやがれ!」
「そうはいくかー!」
二人はヴィータとシグナムの攻撃を掻い潜りながら隙を見て近接攻撃を仕掛ける……が、ことごとく防がれてしまう。
(この人、強い……!)
「もらった!」
そして少し上の技量と経験の差により、フェイトはシグナムの一撃を受けビルまで吹き飛ばされてしまった。
「きゃああああ!!!」
「フェイト!!?」
「はん! 次はテメエだ!」
そう言ってヴィータは動揺するシンに向かってグラーフアイゼンを振り降ろす。
「こ……このやろおおおおお!!!!」
その時、フェイトを傷つけられた事により怒ったシンの中で種が弾けるイメージが発生する、そしてシンはそのままヴィータの一撃をかわし彼女の横に回りこむ。
「は、早い!?」
「くらええええ!!!!」
シンは勢いよく体を捻ってヴィータの顔目がけて回転蹴りを放つ。
「うわ!」
ヴィータはそれをアイゼンで防ぐが、シンの一撃は彼女の予想を遥かに上回っており、彼女はそのままビルの屋上の貯水タンクに激突した。そしてその拍子に彼女が被っていた赤くてウサギの人形が縫い付けられている帽子もどこかに飛んでいてしまった。
「うわあああ!!!?」
「ヴィータ!」
「次はお前だ!」
シンは間髪入れず次はシグナムに襲いかかる。
「ぬう!」
「でやあ!!」
アロンダイトとレヴァンティンがぶつかり合う金属音が辺りに鳴り響く。
(なんだこの少年は……!? 急に強くなった……!?)
「うりゃあああ!!!」
シンはそのまま背中の翼を大きく広げ、鍔競り合いをしている相手のシグナムを力ずくで押し出す。
「ぬうううう!!!」
「おおおおお!!!」
そしてシンはアロンダイトでレヴァンティンを弾くと、シグナムの腹部目がけてパルマフィオキーナを放つ。
「いっけえええええ!!!」
「なっ……!?」
シグナムはそのまま大爆発を起こし、ボロボロのまま地上に落下していった。
(馬鹿……な……! 私達がこうも簡単に……!)
「よし……デスティニーはフェイトを頼む、俺はアイツ等を捕まえに……。」
「……! 主!」
その時、デスティニーは何かの危機を察知しシンに声を掛ける、すると彼の足にワイヤーが絡みついた。
「うわ!? 何だコレ!?」
「この武装……まさか!?」
デスティニーはワイヤーが放たれた方角を見る、そこには先程ノワールとセットアップしたスウェンの姿があった。
「シャマル! お前は2人を連れて脱出しろ! 殿は俺が務める!」
「で、でも……」
「早く行け!」
「う、うん!」
シャマルはスウェンに言われた通りにシグナムとヴィータが倒れている場所に向かう。
「逃がすか!」
その後を追おうとするクロノ、しかしスウェンは空いている方の手からもワイヤーを射出しクロノの体に巻きつける。
「な……!?」
「フン!」
スウェンはそのままシンを縛っているワイヤーを引っ張り、彼をクロノ目がけて叩きつける。
「うぎゃ!」
「うわっ!」
そして続けざまに彼等に向かって二丁拳銃型のビームライフル、ショ―ティーのビーム弾を何十発も放つ。
「やったか……?」
「アニキそれフラグ!」
すると爆煙の中からシンが飛び出してくる、クロノが展開した魔力シールドで攻撃から逃れたのだ。
「やろおおおお!!!」
「ノワール! フラガラッハ!」
「あいよ!」
スウェンは背中に装備されている翼から二対の剣……フラガラッハを手に取り、シンのアロンダイトを受け止める。
「アンタ! 一体何なんだよ!? アイツ等の仲間か!?」
「いや……居候のようなものだ」
激しい鍔競り合いを繰り広げるシンとスウェン、そんな中デスティニーとノワールは皆に気付かれないよう念話で会話する。
(ノワール……何故アナタがそこに? それに彼はもしや……)
(久しぶりだなデスティニー、俺がここにいるのは偶然さ、7か月前の騒動でどういう訳かこの世界に辿り着いてな……しかもマイスターまでこの世界でめぐり会えちまった、いやあ……これも運命か何かだろうな)
(何故彼がこの世界に……)
(デスティニー、一応気を付けた方がいい……ちょっと調べてみたんだけどマイスターをこの世界に送り込んだ連中は……)
(ですね……しばらく演技していた方がいいでしょう。誰が敵なのか、誰が味方なのか解らないうちは……)
一方スウェンの近くに浮くノワールに気付いたシンは、戦いながらスウェンに問いかける。
「その妖精……それに魔力、アンタもジュエルシードを拾ったのか!?」
「ジュエルシード? 一体何の事だ? お前は俺の何を知っている?」
「しらばっくれるなあああああ!!!」
シンは右手をアロンダイトから離し、ビームライフルを手にとって銃口をスウェンに向ける。
「ぬお……!」
スウェンは銃口からビーム弾が放たれる瞬間、体を捻らせて攻撃を避ける。
「そ、そんな避け方ありかよ!?」
「……!」
スウェンはそのままシンとの距離をとり、地面に向かってショ―ティーのビーム弾を放ちコンクリートの破片を宙に舞いあがらせる。
「うわっ!」
「目くらまし!?」
そしてスウェンはシンとクロノが怯んだスキに空へ逃げ出した。
(シャマル姐さん! 他の皆は!?)
(大丈夫! ザフィーラとも合流できたわ……悔しいけど撤退しましょう!)
そしてスウェンとヴォルケンリッターの面々はそのまま猛スピードでその場から逃げ出していった……。
「待て! 逃げるな!」
「主……もう無理です、これ以上の深追いは無意味です」
(ああ! にげちゃう……! ご、ごめんクロノ君、こっちでもロストしちゃった……)
「クソッ! あの魔導師が持っていた魔術書……!」
するとそこに、先程シグナムに吹き飛ばされて負傷したフェイトを抱えたアルフと、同じく負傷したなのはを抱えたユーノが飛んできた。
「シン!」
「ごめん……! あの野郎に逃げられちまったよ……」
「フェイト! なのは! 大丈夫なのか?」
「う、うん……皆、助けてくれてありがとう」
「お礼は後にしましょう、今はとにかく……アースラに戻ってお二人の傷を癒してあげましょう」
「うん……」
ふと、シンはスウェン達が飛び去って行った方角を見て、歯ぎしりをする。
(あいつら……一体何なんだよ……! ん?)
その時、シンはすぐ近くにヴィータが被っていた赤い帽子を発見する。
「これ……確かあのチビが被っていた……」
シンはその帽子を拾い上げ、そのままフェイト達と共にアースラに転移していった……。
その頃先程戦闘を行ったビル街から大分離れた場所にある公園、そこでシグナムとヴィータはシャマルの治療を受けていた。
「くっそー! あのガキ何者だよ! 私達の邪魔をして……!」
「暴れないでヴィータちゃん、治療できないわ」
「ついに我々も管理局に補足されたか……」
「ああ、これからは動きにくくなるな」
そう言ってシグナムは自分の腕に巻かれた包帯を見る。
「その傷……あの少女につけられたのか」
「ああ……中々の腕だった、一歩間違えればやられていたのは私の方だった」
ふと、治療を終えたヴィータは皆と少し離れた場所で腕組をして考え事をいているスウェンと、彼の肩の上にもたれかかっているノワールを見る。
「その……助かったよスウェン、ノワール……お前達にも魔法が使えたんだな」
「それが解ったのはついさっきだがな……ノワール、お前は一体何なんだ?」
「さー? オイラ生まれたばっかりだから解んないッス~……で、今度はこっちが質問していいッスか?」
その瞬間、シグナム達は一斉にスウェンとノワールから目線を逸らす。
「……言いたくないのなら言わなくていい、だが少し失望したぞ……お前達とその闇の書の役割は知っている、しかしそれは主であるはやてに咎められていた筈だぞ? それなのにお前達は……」
「ち、違うのよスウェン!」
スウェンの失意混じりの言葉をシャマルは必死に否定する、しかしスウェンはそれでも厳しい言葉を掛け続けた。
「何が違うって言うんだ? あの子達が何者かは知らないがあんな年端もいかない子達を襲うとは……」
「…………!」
すると耐えきれなくなったヴィータがドカドカとスウェンに近付き彼に掴みかかる。
「うるせえ! 何も知らないくせに……! 私達が……私達がああしなきゃ……! 手を汚さなきゃ……!」
「……」
スウェンはそのヴィータの鬼気迫る様子に何も言えずに圧されていた。
「私達が戦わなきゃ……はやてが死んじゃうんだよぉ!!」
数分後、スウェンとノワールはシグナムやシャマルから総ての事情を聞き出した。
「つまり……はやて姐さんはその闇の書の呪いで近い将来死んじまうってわけですかい」
「ああ、足が不自由なのも呪いの影響だ……それから逃れる為にはリンカーコアを集めて闇の書を完成させ、主を真の闇の書の王に覚醒させなくてはならないのだ」
「リンカーコア……お前達魔導師が持つ魔力の源か……」
一通り話を聞いたスウェンは、軽く放心状態に陥っていた。
(そんな……はやてが死んでしまうなんて……そう言えば最近、体の調子が悪そうだったな……)
「スウェン……この事ははやてちゃんに黙っていてくれない? あの子に余計な心配は掛けたくないの」
「人殺しは絶対しないと誓う、はやての手は汚したくないから……」
シャマル達の懇願に対し、スウェンは特に断る理由もなかった。
「そういう事情なら仕方がないだろう……それではやてを救えるんだな?」
「ああ」
「……」
そんなスウェン達の様子を、ノワールはただただ考え事をしながら黙って見守っていた……。
その時、ザフィーラはヴィータの姿を見てある事に気付き彼女に声を掛ける。
「む? そう言えばヴィータ、帽子はどうしたのだ?」
「え?」
ヴィータはとっさに自分の頭を触り、いつも被っているゲボウサ付きの帽子が無い事に気付く。
「な、ない! 私の帽子が……無くしたあああああああ!!!?」
一方その頃次元の狭間にある時空管理局基地では、治療を受けたなのはが収容されている病室にシンとフェイトが見舞いに来ていた。
「なのは、もう大丈夫なの?」
「うん、お医者さんが君は若いから治りが早いって言ってた」
「ごめんな……俺たちがもっと早く駈けつけていれば怪我なんてさせなかったのに……」
「そんなことないよ、みんなが来てくれなかったら私……もっとひどい目にあっていたと思う、助けてくれてありがとう……それと……久しぶりだね」
なのはは改めて二人と再会できた喜びを伝える。
「うん、なのはも元気そうでよかった」
「久しぶりの再会がこんな形になっちゃったけど……でもまたみんな一緒だな」
「すまない、邪魔するよ」
するとそこにクロノがやってきた。
「なのは、もう大丈夫なのかい?」
「うん……クロノ君、あの人達が誰かわかった?」
「ヴィアさんの話ではなのはの世界を中心に魔導師を襲っている奴らがいるって聞いたけど……アイツ等なのか?」
「うん、同一犯なのは間違いない、そしてどうやら彼女達は『闇の書』の守護騎士のようなんだ」
「「「闇の書?」」」
数分に渡ってクロノから闇の書について説明を受ける三人。
「ふ~ん、じゃあその闇の書っていうのが完成したら世界が滅びるぐらい大変なことになるのは間違いないんだな?」
「事実十一年前にも闇の書による暴走事故が起きている、あれは非常に危険なロストロギアなんだ」
するとフェイトとシンはお互いの顔を見合わせ、こくりと頷く。
「なあクロノ、俺とフェイトも今回の事件を手伝わせてくれないか?」
クロノはシン達ならそう言うだろうと思っていたのか、驚きはしなかった。
「いいのか……? 君達は本来関係の無い立場なんだぞ?」
「私達ばっかり遊んでられないよ……アルフだって手伝ってくれる」
「それにお前らは大切な友達なんだ、あの事件でみんなに迷惑をかけた償いって意味も含めて協力したいんだよ」
「そうか……ありがとう」
「おにーちゃーん」
するとそこに、今度はマユが眠そうな目を擦りながらシン達の様子を見にやって来た。
「マユ? 駄目じゃないか……もう寝る時間だぞ」
「だって……おにいちゃんやフェイトおねーちゃんが心配だったんだもん……」
「シン君、もしかしてこの子……」
「ああ、そういえばなのはは初めてだったな、俺の妹のマユだ」
「おにーちゃん、この人は?」
「俺の友達のなのはだよ、挨拶しような」
「なのはさんはじめまして!」
そう言ってぺこりとお辞儀するマユを見て、なのはは自分の落ち込んでいる気持ちが少し晴れていくのを感じていた。
「ふふ……マユちゃんエライね、ちゃんと挨拶できるんだ」
「そーだろそーだろ!」
「なんで君が偉そうにするんだ?」
その時、マユはシンの手に赤い帽子が握られているのを見付ける。
「おにーちゃんそれなーに? 可愛いうさぎさんだね」
「ああこれ? あのチビが被っていた帽子……」
「ねー、それマユにちょーだい」
「えっ!?」
マユの予想外の要望に困惑するシン。
「だ、駄目だよマユ、コレは後でリンディさんに証拠の品として……。」
「えー! やだやだ欲しいー!」
そう言って地面に転がって駄々をこね始めるマユ。
「にゃはは……こういう所は子供っぽいんだね。」
「そ、そうだね……。」
「その帽子くれなきゃやーだ! おにいちゃんなんてきらいー!」
「えー!? じゃあハイ。」
嫌いと言われた途端、あっさり帽子を明け渡すシン。
「ちょ!? 何勝手な事しているんだ君は!? それ証拠の品!」
「いーじゃんいーじゃん、あれ別に特別なモンでもなさそうだし……マユが笑ってくれるならそれでいーじゃん。」
「そういう問題じゃなあああああああい!」
そしてぎゃいぎゃい言い争いを始めるクロノとシン。
「シン君……まさか……シスコン?」
「シスコン……シンがお兄ちゃんなら我儘いい放題……」
病室がちょっとした騒ぎになっていた頃、ブリッジではエイミィが先ほどの戦闘データを纏めている横でリンディ、ヴィア、そしてデスティニーとシンの父が今後のことについて話し合っていた。
「じゃああの銀髪の少年が使っていたデバイス……ヴィアさんが開発したデバイスだっていうのかい?」
「はい、直接戦闘したうえで確認しました、ノワールは私と同時期に開発された同型のデバイスです」
「まさかPT事件の後に海鳴に流れ着いていたなんて……それが闇の書の騎士に渡ってしまったわけね」
「いえ、ノワールを使用していた少年はどうも騎士達とは違うみたいなんです。これを見てもらえますか?」
そう言ってエイミぃは採集したスウェンのデータをリンディ達に見せる。
「この魔力値……やはりジュエルシードですか、彼もシン君のように疑似リンカーコアを体の中に保有しているんですね」
「大方ノワールとセットで拾ったか……とにかく彼のことも徹底的に調べる必要があるかもね、もしかしたら彼が主である可能性も……」
「……。」
デスティニーは大方の事情を知っているにも拘らず、リンディ達や創造主であるヴィアに話すことはなかった。
(今は知らないフリをしていたほうがいいですね……今は誰が味方で誰が敵なのかわからない状態ですからね……)
「ま、これ以上悩んでもしょうがないですね、こんな事件があった以上アースラはそのうち来る命令でこの世界に常駐しなくてはいけませんし……」
「早くアスカさん達の引っ越し作業も進めないといけませんね。」
「すみません、こんな忙しい時に我々のことまで……でもいいんですか? 敵がなのはちゃんをもう一度襲わないという保証はないんでしょう?」
そのシンの父のもっともな意見に対し、リンディの頭の中であるアイディアが閃く。
「そうだ、せっかくですし……あの作戦でいきましょうか」
「「あの作戦?」」
数日後、海鳴市のとあるマンションの一室。シン達アスカ一家は管理局員たちと共に引っ越しの作業を進めていた。
「へえ~、今日からここに住むのか~」
「ふわー! 高い高い~!」
アスカ兄妹はベランダに出て海鳴の景色を見て感嘆の声を上げる、すると中で作業をしていたクロノがシンに声を掛けてくる。
「シン、遊んでないで荷物を運ぶのを手伝ってくれ」
「あ、ごめんごめん。」
そう言って荷物をもって自分達が暮らす部屋に入るシン、そこに、
「あ!シン見て見て!」
動物モードになったユーノとアルフ、そしてそれを愛でるなのはとフェイトが出迎えた。
「ジャーン!こいぬフォーム~」
「うお!? アルフがちっちゃくなっている!?」
「わ~! かわいいな~!」
「ユーノ君も久々にフェレットモードだよ~」
「エヘヘ……どうも……」
「うわー何度見ても凄いなソレ、どうやんの? 俺にもできる?」
作業中ということも忘れて、シンはアルフ達を撫でる。
「まったく……」
クロノはその光景を見ながら荷物を置き、テーブルのイスに座る。
「お疲れ様クロノ君」
そう言ってエイミィはクロノにジュースを渡す。
「それにしてもみんなああやっていると歳相応の子供だよね」
「そうだな……」
するとそこに作業を一通り終えたシンの母親もやってくる。
「でも驚いたわ、まさかあなた達も海鳴に……しかも私たちのお隣に引っ越してくるなんて、リンディさんも意外と大胆なことするわねー」
「ははは……うちの母は昔からそういう人ですから」
「ま、これも大事な任務のうちですし……ああやってフェイトちゃんもなのはちゃん達にいつでも会えるから一石二鳥なんですよ」
ピンポーン
「あれ? お客さんかな? ハイハーイ」
チャイム音がして、エイミィは玄関へ向かう。
「誰か来た?」
「あ!もしかして!」
「やっほー!遊びに来たよー」
「おじゃましますー」
「どうぞどうぞ~あがってー。」
エイミィが連れてきたのは金髪と紫髪の少女だった。
「あ!アリサちゃーん!すずかちゃーん!」
二人に駆け寄るなのは、そのあとをシン達も付いて行く。
「もしかしてこの子達がなのはの言っていた…?」
「はじめまして……て言うのも変かな?ビデオメールで何回も会っているし…。」
嬉しそうに金髪の少女アリサと紫髪のすずかはシンとフェイトにあいさつをする。
「うん、私も会えて嬉しいよアリサ、すずか」
「俺シン・アスカ、よろしくな。こっちは妹のマユ」
「こんにちは~」
シンとフェイトとマユも挨拶を返す。
「へえ、アンタがシン・アスカね。フェイトの友達で確かお父さんの仕事で越してきたのよね? 私と一緒だー」
(そういやこいつらの前ではそんな設定で通すんだったな。あながち間違ってないし)
「……おねーちゃんたちもなフェイトおねーちゃんとなのはおねーちゃんのおともだち?」
「そうだよー、かわいい妹さんだねー」
「あらあら、賑やかね」
そこに引っ越し作業を終えたリンディがやってくる。
「あれ?リンディさんどうかしたんですか?」
「私とアスカさんのところの引越しの作業も終わったし、そろそろなのはさんのおうちに挨拶をしに行こうと思っているのよ、みんな用意しておいてね」
「「「「「はーい。」」」」」
そしてリンディは台所に向かっていった。
「ねえねえ、今の人フェイトのお母さん? 綺麗な人だよねー」
「えっ!?」
アリサの質問にフェイトは驚き、
「今は……まだ違うよ」
顔を赤くして答えた。
(フェイト……)
シンはその光景をみて、先日アースラのエレベーターで会った時のリンディとの会話を思い出していた。
『フェイトを養子に?』
『ええ、アリシアさんも一緒にね、答えを出すのは裁判が終わってからでいいとは言ってはおいたんだけど……やっぱりまだ悩んでいるみたい』
『俺はいいと思うけどなー、リンディさんがフェイトのお母さんになるのは……』
『ありがとう、でねシン君……もしフェイトさんが悩んでいるようなら彼女の相談に乗ってあげてくれない?』
『いいですよ。プレシアさんのことは俺にも責任があるし……』
『シン君……』
「どうしたのシン君? 考え事?」
心配そうにすずかがシンの顔を覗き込んでくる。
「……いや、なんでもない。それよりも早く行こう、なのはの家ってたしかお菓子屋さんなんだよな」
「ちがうよ~喫茶店だよ~」
「わーい、おでかけだー」
そう言ってマユは段ボールの中から赤くてウサギのぬいぐるみが付けられた帽子……先日の戦闘でシンが回収したヴィータの帽子をとりだし、それを被った。
「おー、可愛い帽子だね? それどうしたの?」
「おにいちゃんがくれたのー」
「ま、早めのクリスマスプレゼントさ。」
マユはヴィータの帽子がすっかりお気に入りになってしまい、無理に奪おうとするとくずるのでクロノが結局折れて彼女の所有物になったのだ。
「クリスマス本番もプレゼントあげるからなー」
「わーい、おにいちゃんだいすきー」
「大好きだなんてそんなウへへへへ」
(((シスコンだ……)))
(いいなぁマユちゃん……)
そんな和やかな空気を醸し出すアスカ家とハラオウン家、するとハラオウン家の隣の部屋の住人がちょうど帰って来ていた。
(あれ……? 今日引っ越してきた人かな? 早速どこかに出かけるのかな?)
その時、ハラオウン家の方からクロノとエイミィが出て来て、隣の住人と目が合う。
「あ、お隣さんですか、私達今日隣に引っ越してきたハラオウンです。」
「ど、どうも……外国の方ですか?」
「まあそんな所です、今後ともよろしく……」
ふと、クロノは挨拶しようとして相手の名前が解らない事に気付く。
「あ、すみません……自己紹介がまだでしたね、僕は沙慈・クロスロード、聖祥大付属小学校の四年生です」
数時間後、引越しの挨拶のため皆はなのはの実家である喫茶店翠屋にやってきた。
「ふーん、ここがなのはの実家か、確か剣道場もやっているんだっけ? 俺も習ってみるかな?」
「いいよ、私がお兄ちゃんに話しておいてあげる」
そしてシンたちはオープンテラスでテーブルを囲んで談話していた。
「わ~ユーノ君久しぶり~」
「キュキュ」
「あんたってどこかで見たことあるのよね……」
「クゥ~ン(汗)」
(……? なんでアリサがアルフのこと知っているんだ?)
不思議に思ったシンは念話でなのはに質問する。
(アルフさんがプレシアさんにやられてケガしてるところをアリサちゃんが助けたんだよ、ヴィアさんも一緒にね、私もビックリしちゃった)
(へえ……見た目凶暴そうだけどいいヤツなんだな~)
(見た目じゃなくてアリサちゃんは本当に凶暴だよ)
その時アリサの額に閃光(ニュータ○プのアレ)が走った。
「なんだろう……今すごく失礼な事言われたような気がする」
「いい!?」
「きっ……気のせいなんじゃないかなー?」
「そう……? あやしい……」
その時、シンは隣にいたマユの口元に彼女が食べていたショートケーキのクリームが付いているのを発見する。
「ほらマユ、お口にクリーム付いているぞ」
そう言ってシンはそのクリームを指で取り、そのままその指を舐めた。
(……シン、私のも取ってくれるかなぁ)ぺたぺた
(フェイトちゃん……私のは取ってくれるかな?)ぬりぬり
(なによ兄妹でいちゃいちゃして! でも……なのはなら取ってくれるかな?)ちょんちょん
「??? なんでフェイトおねーちゃんとなのはおねーちゃんとアリサおねーちゃん、じぶんでじぶんのおかおにクリームぬってるの?」
「マユちゃ~ん? アナタは真似しなくていいからね~?」
するとそこに、突然見知らぬ青年がシン達に声を掛けてきた。
「あっ、君がフェイトちゃんにシン君、ここにいたんだね。」
「え? はいそうですけど……あれアレックスさん? どうしたんですか?」
「リンディ提督に頼まれていた品、持ってきたよ」
一方リンディ達やシンの両親はなのはの両親に挨拶をしていた。なのはの両親、士郎と桃子はここで子供達と共に喫茶店を経営しているのだ。
「そういう訳でこれからしばらくご近所になりますのでよろしくお願いします」
「ウチの子供達共々お世話になります」
ペコリと頭を下げるリンディ達。
「いえいえそんな」
「こちらこそウチの娘がお世話になって……ところでフェイトちゃんとシン君三年生ですよね、学校はどちらに?」
「それはですね……」
そこに大きめの箱を二つ持ったフェイト達が店の中に入ってくる。
「あのリンディていと、リンディさん、これ……」
「はい、なんでしょう?」
フェイトは先程の青年から貰った箱を開けてみせる。その中にはとある小学校の制服が入っていた。
「転校手続きは取ってあるから今月から二人ともなのはさんの学校に通ってもらう事になります」
「二人って……俺も!?」
自分も一緒だということを想定しておらず驚くシンに、両親はすぐさま事情を説明する。
「はは、こんな事もあろうかとリンディさんに同じ学校に入れるよう手配してもらったんだよ」
「顔見知りの子と一緒の方が学校生活に馴染みやすいでしょ?」
「ほう聖祥小学校ですか~あそこはいい学校ですよ、なあなのは?」
「うんうん!」
なのははフェイト達が自分と同じ学校に通うと知って、とても嬉しそうに頷く。
「へえ~、よろしくねフェイト、シン」
「学校でも一緒なんだね~嬉しいな~」
「ありがとう! 父さん! 母さん!」
様々な反応をみせる子供達、そしてフェイトは、
「あの……その……ありがとうございます……」
制服が入っている箱を抱きしめながら、頬を赤く染めてリンディにお礼を言った。
今日はここまで、沙慈はまだ東京に引っ越す前、両親はもう亡くなっているという設定です。絹江さんも近いうちに出す予定なのでお楽しみに。
次回の投下は土曜日になります。