第三話「青き清浄なる世界」
なのは襲撃事件から数日後、八神家では夕飯の支度をするためはやてとシャマルが近くのスーパー「MIKUNIYA」に買い物に来ていた。
「今夜はみんなで鍋でもしようか、最近めっきり寒くなってきたなあ」
「ですねー、こういうときは温かいものが一番ですから」
そう言いながらシャマルははやての車いすを押しながら、鍋の材料その他諸々を買い物籠に入れていき、レジで会計を済ませてスーパーの出口にやってくる。
「はやてちゃん、ちょっと待っていてくださいね」
スーパーの外へと通じる扉は自動式ではなく手動式となっており、はやての車いすを押していたはやては一旦手を離し扉を開いたまま固定してからはやてを外に出そうとした、その時……。
「はい、どうぞ」
二人の様子を背後から見ていた買い物籠をもった主婦がシャマルの代わりに扉をあける。
「あ、すみませんありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
そう言って主婦ははやてとシャマルが外に出たのを確認すると、自分はさっさと我が家へと歩いて行った……。
「親切な人やったなあ」
「見かけない人でしたけど最近引っ越ししてきた人でしょうか?」
そして数分後、二人は皆が待つ我が家に帰宅する。すると玄関でシグナムと狼形態のザフィーラが出迎える。
「みんなただいまー」
「主はやて、おかえりなさいませ」
「お、みんなも帰ってきてたんか、今日は早いなあ」
「ええ……。」
するとそこに、自室から出てきたスウェンが二人に話しかけてくる。
「もうすぐ夕飯か……作るの手伝うぞ」
「おおきに、そういえばヴィータは?」
「ああ、二階でノワールとゲームしている」
「なはは、あの子も好きやねぇ」
その頃二階では、ヴィータとノワールがとある格闘ゲームで対戦していた。ちなみにノワールの体長は30センチほどしかないのでコントローラーは握れないのだが、その代りコントローラーに乗って足でキャラクターを動かしていた。
「隙有り! もらっとぅわー!」
「し、しま……!」
アボーン!
「あぁー! 私のT・○ークがあああ!!!」
「いえーい! オイラ十連勝ッス~! ブ○ンカ最高~!」
「ちくしょー……どうやったらそんな小さな体で複雑なコマンド入力できるんだよ……」
そう言ってヴィータはコントローラーをぽいっと放り出し、床にゴロンと寝転がった。
「ヴィータの姉貴、最近キレが悪いッスねえ……いつもなら『もう一戦だ!』って言って突っかかってくるのに……」
「んなことねーよ、ちくしょう……」
(やっぱ帽子無くしたのがショックだったんだなぁ……)
ヴィータはなのはを襲撃した際、シンの攻撃により自分のお気に入りのウサギのぬいぐるみを付けた帽子を紛失していた、後日何度か探しに行ってはいるのだが、結局見つけることができず今日までに至ったのだ。
「姉御、元気」だしてくだせえ、あの帽子はきっと見つかりますって」
「うん……」
するとそこに、はやての相棒である闇の書がふよふよと浮きながらヴィータ達のいる部屋に入って来た。
「お、闇の書じゃないッスか、どうやら夕飯の時間のようッスね」
「え? もうこんな時間か、行くぞノワール」
そしてヴィータはノワールと闇の書を伴って皆の待つ居間に向かうのだった。
その日の夕方、はやてが台所で夕飯の準備をしていた頃、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラはバリアジャケットを身にまとい、リンカーコア収集のため異世界に出撃しようとしていた。
「それではスウェン、主を頼んだぞ」
「ああ……」
そんな彼らを、スウェンとノワールは見送ろうとしていた。
「姐さん……ホントにオイラ達は手伝わなくていいんスか?」
「ああ、お前たちはもしもの時のために主を守ってくれ」
「わかった……」
「じゃあな、頼んだぞ。」
そしてシグナム達はそのまま星が輝き始めた夕方の空に飛び立って行った。そしてそれを見送ったスウェンは隣にいたノワールにある疑問を打ち明ける。
「……ノワール、シグナム達がやっている事は本当に正しいのか?」
「さあ? アニキはどうしてそう思うんスか?」
「いや……なんとなくだ。」
そう言ってスウェンは自分の胸辺りをギュッと握りしめる。
(シャマルは……リンカーコアという魔力の源をもつ人間じゃないと魔法は使えないと言っていた、じゃあ俺は何故あの時戦えたんだ? 何故みんな……本当のことを話してくれないんだ?)
ふと、スウェンとノワールの体に12月の冷たい風が吹きつける。
「うわっさぶっ! アニキー、早く家に入りましょうや」
「ああ……」
一方出撃したシグナムとシャマルは飛行しながらスウェンのことについて話し合っていた。
「シャマル……あいつのリンカーコア……」
「ええ、ちょっと調べてみたんだけど、あの子の体の中にリンカーコアの代わりに魔石のようなものが存在していたわ、魔法が使えたのもおそらくそれの……」
「……しばらく様子を見たほうがいいかもしれんな、ノワールも……奴も何か隠している」
「家族を疑うような真似はしたくないけどね……」
さて、ここで時間をその日の朝に戻します。
ある日の朝、シンは自宅で朝食を済ませて聖祥小学校の制服に着替えていた、その隣ではシンの父が管理局から支給されたリンディやエイミィが着ている制服の男性バージョンの制服に着替えていた。
「どうだシン? 学校には慣れたか?」
「うん、みんな面白い子ばっかりで楽しいよ、そういう父さんはどうなの?」
「はっはっは、ちょっとまだ慣れないかな……私のような他所者が馴染むにはまだ少し時間がかかるみたいだ」
「そっか……がんばってね、リンディさんも相談に乗ってくれると思うし」
「そうだな、それじゃ行くとするか」
するとアスカ家のインターホンが鳴り響き、シンの元に彼の母親がやってくる。
「シンー、フェイトちゃんが来たわよー、早く準備しなさーい」
「あ、はーい」
「それじゃ私もリンディさんとアースラに行くからな」
「うん、気をつけてね、ヴィアさんにもよろしく」
そしてシンは玄関に向かおうとしたとき、ちょうど起きてきたばかりのマユとデスティニーと遭遇する。
「ふわ~……おにーちゃん、がっこーいくの?」
「うん、それじゃデスティニー、マユのことよろしくな」
「お任せください、主も事故にはお気をつけて……」
そしてシンは玄関から出て、同じく制服に着替えているフェイトと待ち合わせる。
「おはよーフェイト、いっつも迎えに来てくれて悪いな」
「いいんだよ別に、だってお隣さんだし……」
その時、アスカ家とハラオウン家の隣にある部屋の扉が急に開かれ、そこからブレザー姿の女子学生が飛び出してきた。ちなみに口には焼いてある食パンが咥えられているというお約束っぷりだ。
「大変! 遅刻する~!!!」
そして女学生はシン達に気付かず階段を猛スピードで駆け下りていった……。
「絹江さん、今日も寝坊したのかな?」
「よくあんなスピードで階段下りて転ばないよな……」
すると女学生……絹江が飛び出した部屋の中から、今度はシン達と同じ制服を身にまとった少年がため息交じりに出てくる。
「まったく……姉さんいい加減朝寝坊する癖を直してほしいよ……」
「あ、沙慈さんおはよーございます」
「おはようございます」
そして少年はシン達に挨拶されたことにより初めて彼らの存在に気付き赤面する。
「は、ははは……恥ずかしいところ見られちゃったね」
「元気なのはいいことだと思いますよー」
「あ、もうこんな時間、そろそろ送迎バスが来る時間だ、早く行きましょう」
それから数十分後、シン、フェイト、そして少年……沙慈は送迎バスを降りて海鳴聖祥学校に到着する。
「それじゃあね二人ともー」
「はーい、またあとでー」
下駄箱のある玄関で沙慈と別れるシン達、するとそこに同じく登校してきたなのは、アリサ、すずかがやってくる。
「やっほー、フェイトちゃん、シンくーん」
「あらあら、今日も二人仲良く登校ですか、うらやましですなー」
「いや、今日も沙慈さんと一緒だよ」
「沙慈さんって確かフェイトちゃんのおうちの隣に住んでいる四年生の男子だよね」
「うん、通り道が同じだから一緒に登校しているんだー」
そして5人はいつも通りの挨拶を交わし、そのまま自分達の教室に向かうのだった。
ホームルームが始まる直前、シンやフェイトは他のクラスメートからも挨拶をされていた。
「あ、フェイトちゃんおはよー、シン君もー」
「おはよー、学校には慣れたー?」
「解んないところあったら言ってねー」
「いやー、なのは達のクラスの子達っていい人ばっかりだなー」
「そうだね……」
「いやあ、あの子達は外国人の転校生が珍しいだけでしょ」
「確かフェイトちゃんはAEUのイタリアで……シン君は人革連のシンガポール出身だっけ?」
「そうだよ、お父さんが外国に行った時に知り合ったんだー」
アリサとすずかには管理局とこの世界の関係で秘密にしているので、シン達の出身地や知り合った経緯についてはいくらか誤魔化していた。
そしてホームルームが終わり社会科の授業が始まった頃、シン、なのは、フェイトは念話でこの世界について話していた。
(この世界って三つの国家群で形成されているんだっけ?)
(そうだよ、私達の国はユニオンに属していて、他にはAEUに人類革新連盟っていうのがあるの、赤道には軌道エレベーターがあって誰でも簡単に宇宙にいけるんだから)
(すごいよなー、コロニーだけじゃなくそんなものもあるなんて……この世界も進んでいるんだな)
そしてシンは教科書に視線を向ける、そこにはこの世界の歴史について小学生にも解りやすいように簡略化して記されていた。
(この世界も色々あるんだなぁ……)
その日の昼休み、校舎の屋上でシン、なのは、フェイト、アリサ、すずかはお弁当を食べていた。
「でもすごいね~フェイトとシンの人気!二人とも運動神経抜群じゃない!」
皆の話題はここ数日の授業で活躍しているシンとフェイトの話になっていた。
「えへへ……そんなことないよ、この前のドッヂボールだってすずかに負けちゃったし……」
「そうだよなー、フェイトのあのボールを投げ返すんだからなー、ホントにナチュラ……なんでもない」
「……? アンタ今何か言いかけた?」
そんなこんなで話は弾んでいた。ふと、アリサは小声でなのはに話しかける。
(ねえねえなのは)
(なにー?)
(フェイトってシンのこと好きよね?)
(うん)
見るとシンがすずかと楽しそうにお喋りしていた。その後ろで、フェイトが嫉妬心から形成された禍々しいオーラを放って二人を見ていた。
「すごいよなーすずかって……どうした? なんか震えているぞ?」
「う、ううん、なんでも……ない」
ドドドドドドドドドドドド
(あれだけ殺気を放たれたらいたたまれないわね。心なしか近くの雀も危険を察知してどっかに飛んでいっちゃった)
(でもシン君は全然気付いてないね、鈍すぎだね)
「そういえばフェイト」
なにかを思い出したのか、シンはフェイトの方を向く。
「なあに? シン」
その瞬間、フェイトの後ろの背景がどす黒いオーラから咲き誇る花に変わっていた。
(ぬお!? 変わり身早っ!)
(重圧から開放されてすずかちゃん心底ホッとしているね)
「今日も俺、恭也さんの道場に寄ってから帰るから、母さんにそう伝えておいて。」
「そっか、今日お稽古の日だもんね、わかったよ。」
「恭也さん? なんでシン君が恭也さんと……?」
「実はねー、シン君お兄ちゃんとお姉ちゃんの道場で剣術習うんだってー」
「へー、それにしてもどうして? なんか理由があるの?」
「うん……ちょっと勝ちたい奴がいるんだ……」
「「……」」
その日の放課後、アリサとすずかと別れたシン達はバスの中で先日遭遇した闇の書の騎士達の戦いについて話し合っていた。
「そう言えば今日だっけ? 壊れたレイジングハートとバルディッシュが戻ってくるの?」
「うん、メンテナンススタッフのマリーさんって人が担当しているの」
「ヴィアさんも手伝っているんだって、早く会いたいな……だから今日はこれからアースラに行くんだよ」
「俺はこのまま恭也さんの所に行くからな、今度アイツ等が出てきても……絶対に負けない」
シンはあの時の戦いでスウェンにいいようにあしらわれてしまった事を悔しがっていた。
「俺がアイツを止めていれば、あのチビ達を早く捕まえられていたのに……!」
「シン、あんまり自分を責めちゃだめだよ」
「闇の書の騎士さん達って今もリンカーコアを狙って色んな世界に出現しているんだよね、近いうちにまたここに現われるかも……」
「だな、これ以上被害を増やさない為にも、あいつ等を止めないと」
そんな彼等の会話を、断片的に聞きとって首を傾げている人物がいた、シン達と帰り道が一緒で同じバスに乗り合わせている沙慈・クロスロードである。
(フェイトちゃん達……一体何の話をしているんだろう?)
そしてシンが翠屋の近くで降り、沙慈は思い切ってバスに残っていたなのはとフェイトに先程の会話について質問してみる。
「フェイトちゃん、さっきシン君達と何を話していたの?」
「へ!? あ、いやその……」
「こ、今度放送するアニメの事ですよー」
「アニメ……? ふーん……」
なのはの咄嗟の答えにいまいち釈然としない沙慈であったが、これ以上聞いても何も答えてくれないだろうと思いそれ以上聞かなかった。
(ふう……危なかった)
(今度からはアリサ達がいなくても念話を使ったほうがよさそうだね……)
それから一時間後、高町家の裏にある剣道場……そこでシンはTシャツ姿に竹刀を持ってなのはの兄恭也と姉の美由希にあいさつをしていた。
「今日からこの道場でお世話になるシン・アスカです! よろしくお願いします!」
「うん、事情はなのはから聞いているよ、よろしくね。」
「しっかしなのはも隅に置けないねー、まさかこんなかわいい男の子と仲良くなっていたなんてさー」
そう言って美由希は正座して恭也と対峙するシンを見てウンウンと頷いていた。
「俺もお二人のことはなのはから聞いています! すっごい強い剣士なんですよね! 俺も二人のように強くなりたいんです!」
「そうか……俺たちの指導は厳しいけどついてこれるかい?」
「もちろん!」
恭也の問いに、シンは自信満々で返事をした。
「元気があってよろしい! それじゃ明日から私と恭ちゃんがみっちりしごいてあげるからね!」
「自主練習もしっかりとこなすように、基礎体力をつけることは大切だからな。」
「はい!」
それから数時間後、辺りもすっかり暗くなった頃にシンは一人自宅に向かって夜道を歩いていた。
「いって~! 手がマメだらけだ……」
シンは竹刀を振り回して絆創膏だらけになった自分の手を見つめながら空を見上げる。
「今日からずっと剣術の稽古か……俺、もっと強くなれるかな……?」
ふと、シンは7か月前のPT事件のことを思い出す、フェイトとアルフと共に戦ったこと、暴走したアリシアと戦ったこと、そして……自分たちを守ろうとしてその身を犠牲にしたプレシアとその時のフェイトの泣いている姿を……。
(俺が……俺がもっと強かったらプレシアさんが死ぬことも、フェイトに悲しい思いなんてさせなかったのに、強くならなきゃ……それなら思いつくことならなんでもやってやる!)
心に改めて決意を宿らせるシン、するとそこに……。
「あらシン、道場の稽古の帰り?」
買い物袋を持ったシンの母親と出くわした。
「あ、母さん、買い物の帰り?」
「ええ、今日は肉じゃがよ~」
「おお! やったー!」
そしてシンは母親と並んで夜道を歩き始めた。
「そう言えばさっきスーパーでシンぐらいの女の子を見かけたわ、フェイトちゃんみたいな金髪のお姉さんと一緒だったわね」
「ふーん、この町ってホント外国人が多いよねー」
「何か女の子は車いすに乗っていたわ、事故にでもあったのかしら……シンも外出するときは交通事故には気をつけなさいよ、それとこの前みたく戦う時も……」
「うん、母さんもね」
同時刻、場所は戻って八神家、スウェンははやてと共に夕飯の準備を済ませシグナム達が帰ってくるのを今か今かと待っていた。
「腹減ったッス~」
「遅いなあ皆……いつもならこの時間に帰ってくる筈なのに……」
(何かトラブルにでも巻き込まれたのか?)
テーブルを囲みながらはやて達は帰りの遅いシグナム達の身を案じていた。
「うーん……ちょっと不安になるなあ、携帯にも返事がこおへんし……スウェン、ちょっと皆を探しに行ってみよか」
「いや、行くなら俺達だけで行く、はやては家で待っていてくれ」
「で、でも……」
ふと、スウェンははやてが普段しないような不安そうな顔をしている事に気付く。
「どうした? お前らしくもない……」
「うん……なんか時々不安になるんよ、いつか近いうちに皆が急に居なくなる気がして……」
「…………」
スウェンはそのはやての言葉にどこか引っ掛かるものを感じていた。
「大丈夫だ……アイツ等を信じろ、アイツ等は黙ってはやての前からいなくなったりしない、無論……俺もだ」
「スウェン……」
プルルルル、プルルルル
するとそこに、はやての携帯電話が鳴り響き、彼女はすぐさまそれをとった。
「はいもしもし……ああすずかちゃん? どないしたん? ええ? ウチの本がすずかちゃんの家に? この前遊びに行ったときに忘れたんやな……」
どうやら相手はすずかのようだ、それに気付いたスウェンはある事を思い付き、はやてに話しかける。
「ちょうどいい……はやて、しばらくすずかの家に行っているといい、俺達はシグナム達を探しに行く」
「え? でも……」
「ちょっと携帯を貸してくれ」
そう言ってスウェンははやてから携帯を受け取り、電話の先のすずかに事情を説明する。
『そういう事情ならいいですよ、迎えを出してしばらく私の家に預かっておきますね』
「本当にすまない……この埋め合わせは必ずする」
『そんなあ、困った時はお互い様ですよ』
そしてスウェンははやてに携帯を返すと、ノワールと共に出発する準備をする。
「それじゃはやて、行ってくる、数分後にはすずかが来る筈だ」
「もう、強引やなあ……しゃあない、皆を見付けて早く帰ってくるんやで」
「ああ、行くぞノワール」
「へえええ……せめて一口……」
「……早くしろ」
そしてスウェンは家から出てシグナム達を探しに街へと繰り出すのだった……。
一方母と共に帰宅したシンは慌てた様子のエイミィとデスティニーから驚くべき報告を受ける。
「闇の書の騎士達が現われた!?」
「うん! 今武装局員達が包囲しててなのはちゃんとフェイトちゃん達が一足先に向かってる!」
「主、私達はどうするのです?」
デスティニーの問いに対し、シンは一瞬隣にいた母のほうを向く。
「はあ、しょうがないわね……ちゃんとフェイトちゃん達を守るのよ、アナタも怪我せずにちゃんと帰ってきなさい、肉じゃが作って待っているからね」
「ありがとう母さん! デスティニー! エイミィさん!」
「こっちはいつでも準備OK!」
「行きましょう主」
そしてシンはセットアップし転移装置を使ってフェイト達のいる夜のビル街に向かった……。
シンが現場に到着すると、すでになのは、フェイト、アルフはそれぞれヴィータ、シグナム、ザフィーラと一戦を交えていた。
「レイジングハート! ロードカートリッジ!」
[はい]
その瞬間、レイジングハートから薬莢のようなものが射出され、なのははそのままヴィータに向かって魔力砲を発射していた。
そしてそれを見ていたシンは、今まで見たことがないレイジングハートの新機能に驚いていた。
「なんだアレ!? 威力が跳ね上がったぞ!」
「あれはベルカ式のカートリッジシステム……あの子達、どうやら前回敗れたのが相当悔しかったのでしょう。バルディッシュと一緒に自分から改造してもらうようマリーさんに頼んだそうです」
「そうなのか……よし! 俺も戦うぞ!」
そう言って援護に向かおうとしたとき、なのはとフェイトとアルフの念話がシンの行動を遮った。
(シン君は手を出さないで! 私……この子とお話したいの!)
(私も……シグナムと戦いたい、シンはそこで待ってて!)
(私もあのヤローをぶっ飛ばしたいんだ! 手を出したら容赦しないよ!)
(みんな……)
すると今度は別の場所で索敵をしていたユーノとクロノから念話が入る。
(シン、僕たちは今闇の書を所有しているもう一人の騎士の居場所を探している。)
(君はなのは達のフォローを頼む)
「え? フォローっつったって……手を出すなって言われているんですけど……」
「いえ、主のお相手は……もうすぐ来ます」
一方なのは達と戦っているシグナム達は、彼女たちを相手にしながら念話で情報を交換しあっていた。
(くっ……まさか管理局に待ち伏せされていたとは……)
(しかもあいつらデバイスをベルカ式にパワーアップさせてやがる! しかもあのガキまで来やがった!)
(シャマル! この結界内から脱出できないのか!?)
(や、やろうとしているんだけど、魔力が足りなくて……)
シグナム達は管理局が展開した結界の中に閉じ込められており、脱出ができない状態だった。その時……。
(!? 結界の中にまた誰か入ってくるわ!)
(なんだと!? また援軍か!?)
(いや、この魔力は……!)
その時、シンの目の前に鉄の翼をまとった少年……スウェンが現れた。
「現れたな銀髪野郎!」
(スウェン! なぜ来たのだ!? 主はどうした!?)
(ザフィーラのアニキ、今はやて姐さんはすずかさんに預かってもらっているッス。)
(お前らこそ今まで何をしていた? はやてが心配していたぞ。)
(ぐっ、そ、それは……)
(まあ……理由は理解できたがな)
そう言ってスウェンは翼から二対のビームブレイドを手に持って構える。
「やる気か……!」
対してシンも二本のフラッシュエッジをビームサーベルモードにして構える。
「あんたが奴らに協力するってんなら容赦しない! もうだれも……傷つけさせやしない!」
「すまないが俺達は止まれない、許してくれなんて言う権利がないのもわかっている」
刹那、二人の内にある魔力が背中の翼から溢れだし、二人のもつ剣のビームで出来た刃が強く光りだした。
「あんたは俺が止めるんだ! 今日! ここで!」
「なら……推し通る!」
そして二人は高く跳びだし、空中で互いの剣をぶつけ合った。
皆が激しい戦いを繰り広げている中、シャマルとザフィーラは状況を確認しあっていた。
(シグナムのファルケンか、ヴィータのギガント級の魔力を出せなきゃここから出られないわ。)
(二人とも手が離せん、やむをえんがアレを使うしかないな)
(分かっているけど、でも……)
その瞬間、シャマルの後ろで何かが構えられる音がした。
(あっ!?)
その後ろでは外を探索していたクロノがS2Uを構えていたのだ。
(シャマル? どうしたシャマル!?)
「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いであなたを逮捕します抵抗しなければあなたには弁護の機会がある。同意するなら武装の解除を……」
クロノはこれで確実にシャマルを確保できたと思っていた、しかしその瞬間、誰かがクロノたちの間に飛び込んできた。
「せいっ!」
「うっ!?」
クロノはそれが予想外だったのか、その人物に蹴りをまともに喰らい反対側のビルに吹き飛ばされてしまう。
そこには仮面をつけた男が蹴りを放った態勢のまま立っていた。
「仲間か!?」
「あ……あなたは?」
「使え」
仮面の男はシャマルの質問に答えず闇の書を見て言った。
「え?」
「闇の書の力を使って結界を破壊しろ」
「でも、あれは!」
その言葉にシャマルが反論する。
「使用して減ったページはまた増やせばいい。仲間がやられてからでは遅かろう」
その言葉にシャマルは闇の書を見つめ、決意する。
彼女は仲間を救う道を選んだ。
(皆、これから結界破壊の砲撃を撃つわ、うまくかわして撤退を!)
「「「応!!」」」
シャマルは砲撃の用意を始める。
大きな魔方陣がシャマルを中心に展開する。
「闇の書よ、守護者シャマルが命じます。眼下の敵を打ち砕く力を、今ここに!」
その瞬間闇の書から膨大な魔力が溢れ出し、暗雲が集まり結界上空に膨大な魔力の雷が集まっていく。
「!?」
それに気を取られたクロノはまた仮面の男の蹴りを受けてしまう。
地面に叩きつけられる前に態勢をどうにか立て直すと仮面の男が喋る。
「今は動くな。時を待て、それが正しいとすぐに分かる。」
「なにっ!?」
膨大な魔力が一つの塊となる。
「撃って、破壊の雷!」
[Beschriebene]
その瞬間、巨大な魔力の雷が結界に落ち、結界が崩れ始めた。
「な、なんだいコレは……!?」
一方ザフィーラと戦っていたアルフも周辺の異変に気付き始めた、するとザフィーラは戦闘を放棄しどこかに飛び立とうとしていた。
「まて! 逃げるのか!?」
「仲間を守ってやれ、直撃を受けると危険だ」
「え?」
その数分前のこと、シンはスウェンと闘いながらフェイトと状況を確認し合っていた。
(クロノがこいつらの仲間を見つけたらしい! もうちょっとで勝てるぞ!)
(わかった! でも油断は禁物だよ!)
そしてシンはフラッシュエッジをブーメランのようにスウェンに投げつけるが、簡単に避けられてしまう。
「どこを狙っている!」
「バーカ! 狙い通りだ!」
「アニキ後ろ!」
その時、スウェンは背後からシンの投げたフラッシュエッジが戻ってくるのを感じ取り、身をかがめてそれを避ける。
「くっ……!」
「隙ありだあああああ!!!!」
スウェンがバランスを崩したのを見逃さなかったシンはそのまま彼に向って突進し、顔面に向かって思いっきりとび蹴りを喰らわせる。
「ぐぉ……!」
そのまま後方に思い切り吹き飛ばされるスウェン、そして彼はとっさに腕からアンカーを出して街頭に巻きつかせ、ビルに激突するのを回避する。
「へへん! まずはこの前のお返しだ!」
「くっ……本当に子供か? 小さな体からあんな力が出せるなんてまるで……」
まるで? 俺はいったい何を言おうとしたんだ?
「へへへっ! ぼーっとぶら下がっているんじゃねえ!」
そう言ってシンは腰にビーム砲を召喚し、スウェンに向かって引き金を引く、対してスウェンは空いているほうの手からもアンカーを射出して隣のビルに移動して避けた。
「あ! ずりい!」
「戦いにずるいも何もあるか……!」
「主、ならばアンカーを突き刺している建物に攻撃を……」
「そっか! よーっし!」
デスティニーのアドバイスで今度はスウェンのいるビルにビームを薙ぎ払うように放つシン。
「うぉっ!? っと……!?」
足場を破壊されたスウェンは再びバランスを崩す。
「今度こそ……終わりだあああああ!!!」
そしてそうしているうちに再びシンの接近を許してしまい、そのまま腹部にパルマフィオキーナを受けてしまう。
「吹き飛べえええ!!!!」
「……!!!?」
スウェンは先ほどよりもすさまじい威力で、ビルの屋上に設置されていた貯水タンクに激突する。
「わああああ!? アニキ~!?」
「主、やりすぎなのでは……」
「うぇ!? そ、そうかな……」
その頃貯水タンクの水でビチャビチャになったスウェンは、薄れゆく意識の中で必死に立ち上がろうとしていた。
(お、俺は……このまま負けるのか? すまないみんな……役に立てなかった……)
その時、スウェンの内なる魔力が紫色の光を放ち、彼の頭の中に幻聴を響かせた。
このまま俺が負けたらどうなる? みんな管理局につかまり、はやては死ぬんだぞ?
(な、なんだこの声は……いったい誰だ!?)
いいのかこのままで? このままだとまた俺は“家族”を失うんだぞ、悪しき存在によって……。
(悪しき……存在……!? あの少年のことか……!?)
ああそうだ、忘れたのか? 俺達から家族を奪った……あの忌まわしい記憶を!
(な、なんだ……いったい何の……!?)
次の瞬間、スウェンはなぜか炎がくすぶる破壊されたパーティー会場にいた。足元には……爆風により見るも無残な姿になっている死体が転がっていた。
(なんだこれは……!?)
人、物関係なく燃える嗅いだこともないような悪臭に顔をしかめながらスウェンはあたりを見回す。
「ママ……?」
ふと、スウェンはどこからか子供の声が聞こえてくるのに気付き、声がした方角へ歩きだす。
そしてそこで彼は……母親らしき女性“だったもの”に抱かれたまま、何が起こったかわからずあたりをキョロキョロ見回している……幼き日の自分を発見した。
あ……あああ……!
「ねえママ……パパが倒れて……ねえママ……ママ……!」
う……うわあああああああ!!!!
すると次の瞬間、場面はどこかの病院らしき場所に移る。
そして少年時代のスウェンは、そこでスーツ姿の男からあることを告げられる。
「テロ……」
「ああ、君のご両親は“コーディネイター”共の手によって殺されたんだ、だが安心しなさい……君の身柄は我々連合軍が預かる、君に……ご両親の仇を討たせてあげよう」
「かた……き……」
「ああ、君は軍人になるんだ
コーディネイターを皆殺しにするためにね」
あいつは……コーディネイターだ、悪しき存在! この世界に居てはならない者! そして……俺の両親の命を無慈悲に奪った悪魔!
(そしてまた俺から家族を奪おうとしている! 許せない! 絶対に許さない! お前らは俺が皆殺しにする!)
この世界が青く清浄であるために!
「消えろ……! コーディネイターあああああああああ!!!!!!!!!」
その瞬間、破壊された貯水タンクからスウェンは飛び出し、シンに飛びかかる。
「うわっ!!?」
「主!?」
「アニキ!?」
「消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろおおおおおお!!!!」
スウェンはシンの上に馬乗りで跨り、そのまま彼の顔に、肩に、胸に、腕に、ショーティーのビーム弾をゼロ距離で打ち込んでいく。
「ぐああああああ!!!」
「主!?」
「アニキ! それ以上やったら!」
次の瞬間、床がスウェンの攻撃に耐えきれなくなり崩れ始め、シンとスウェンは下の階に落下する。
「く、くそ……!」
「がああああ!!!!」
シンは攻撃から逃げようとするが、スウェンの間髪いれないひざ蹴りを受けて吹き飛ばされてしまう。
「がはっ!!」
「終わりだ……!」
床にのたうちまわるシンに対し、スウェンはビームブレイドを振り上げる、彼の首を刎ねるために。
(し……死ぬの……俺……!?)
「うおおおおお!!!」
だがシンの首が刎ねられることはなかった。
「やめろっ!!!!」
「がっ!?」
突如結界が破壊されるのでスウェンを守りにきたザフィーラが、彼の殺意に気付き殴り飛ばしたのだ。
「シン!」
「ひ、ひどい怪我……あなたがやったの!?」
そして今度はフェイトとアルフも現れ、ボロボロのシンを抱き上げる。
「二人とも……なんでここに……」
「説明している暇はないよ! 早く私の後ろに!」
アルフはすぐさま防御結界を展開し、フェイトはシンを抱えながら彼女の後ろに回り込む。
すると次の瞬間、彼女たちの頭上から闇の書から放たれた膨大な魔力の雷が襲いかかってきた。
「ぐううう……!」
「アルフ!」
顔をしかめながらも二人を守るアルフ。
「ははは……耐えきってやったよ、そうだ! あいつらは!?」
その場にはもうザフィーラ達の姿はなかった。
「今のドサクサに逃げられたみたいだね……」
「あん畜生共め! シンになんてひどいことを……!」
「お、俺は平気だよ……」
そう言ってシンは重傷そうな見た目とは裏腹になんと自力で立ち上がったのだ。
「ほ、本当に大丈夫なのシン!?」
「うん、攻撃された瞬間攻撃の威力が弱まって……」
デスティニーはそれを聞いて
(なるほど、あの子が出力を制御したのですね)
「とにかく一回家に戻ろう、エイミィ達もあいつらの補足に失敗したみたいだ」
「だね、帰ろうシン」
そう言ってフェイトはシンの肩を取りアルフと共に家に向かって飛び立った。
そんな中、シンは先ほどのスウェンの顔を思い出す。
(あいつの顔……すごく怖かった……でも……)
シンの心には“恐ろしい”とはまた別の感情が芽生えていた。
(あの顔……まるであの時のプレシアさんみたいだった……)
一方デスティニーは後ろから付いて行きながら、スウェンのあの覚醒について考察していた。
(あの爆発的な感情の変化……おそらく何かが起爆剤になってジュエルシードに作用したのですね、まったく……この世界でも奴らの愚かさは変わらないようですね)
「青き清浄なる世界の為に……バカバカしい」
本日はここまで、以前の作品でははしょった管理局VSヴォルケンリッターの第二戦をお送りいたしました、といってもなのは組の戦いはかなりはしょっていますがね……。
次回は原作6話あたりの話になります、火曜に投稿しますのでよろしくお願いします。