少女は夢を見ていました、とある少年の、歩むことになるかもしれない未来の話の夢です。
少年は幼い日に両親を亡くし、そのまま軍に引き取られ生粋の兵士として育てられました。
そして世界で戦争がおこり、成長した少年は黒いロボットに乗って人を殺し続けました、戦えるもの、戦えないもの、戦わないもの関係なく、無慈悲に、残酷に、無感情に……
少女はその姿を見て泣いていました、どうして大人達は……優しい彼にあんなひどいことをさせるんだろうと、戦争さえなければ、人間同士が争ったりしなければ、きっと彼は今頃大切な人達と幸せな日々を送れていただろうに、神様は彼になんて残酷な運命を課したのだろうと……
だから少女は神様にではなく……星に祈りました、せめて少年の未来が幸せいっぱいでありますようにと……
「はやて……目を覚ましたのか?」
「スウェン……?」
海上での決戦から数時間後、倒れたはやては眠ってしまい、管理局で治療を受けた後自分の家に戻ってきていた。
「はやて……泣いていたのか?」
「うん、ちょっと悲しい夢を見たんよ、男の子がな、軍人になって沢山の人の命を奪ってしまうねん、男の子……涙を流さないで泣いていてな……それがとっても悲しくて……」
スウェンは何も言わず、はやての頬を伝う涙を指でそっと拭いてあげた。
「優しいんだなはやては、知らない子の為に涙を流せるなんて……」
「違う……違うんよ、なんかその子な……いや、なんでもない……」
「そうか……」
しばらくの間、二人の間に沈黙が流れる。
「……そういえばみんなはどこ行ったん? なのはちゃん達にもお礼を言わな……」
「みんな用事があると言って出掛けたぞ」
「お! はやて姐さん起きたんスかー」
すると二人のいる部屋にノワールがやってきた。
「ノワール……今までどこへ?」
「ちぃーっと昔の知り合いに会いに! ところで……もしかして二人っきりだったのにお邪魔でしたッスか?」
そう言ってノワールはにやにやしながら二人を見た。
「のののノワール! からかったらアカン!」
「……? なんでそんなに顔を赤くしているんだ?」
はやては顔を真っ赤にして俯き、スウェンはそれを見て首を傾げた。
「それにしてもみんな遅いな……朝っぱらから一体どこに行っているんだ?」
スウェンはいまだ帰らないシグナム達の身を案じていた、すると……ノワールが真剣な面持ちで語りかけてきた。
「多分……公園のほうに行ってるッスよ、リインフォースの見送りに……」
「見送り……? どういうことだノワール」
「あー、やっぱりあいつらアニキ達にもしゃべっていなかったんスか、オイラも盗み聞きしたんすけどね、リインフォースは自ら消えることにしたそうッス」
「え……? 何? どういうことノワール?」
ノワールははやてが時空管理局に運び込まれた際、リインフォースがなのは達にしていた話の内容を語った、それによると融合騎であるリインフォースの破損は致命的な部分まで至っており、防御プログラムは停止したがゆがめられた基礎構造はそのままであった、その為遠からず新たな防御プログラムを生成し、また暴走を始めてしまうのだそうだ。
「もとに戻すことはできないのか?」
「管制プログラムであるリインフォースの中から本来の姿のデータが消えているそうッス、浸食は止まっているからはやて姐さんの足はそのうち動くようになるし、シグナム姐さん達も本体から解放されているらしいからそっちの方は心配ないそうッス、んで、今リインフォースは空に帰るからアニキと姐さんに内緒でみんなでお見送りに行っていますッス」
「おまえ! なんでそんな重要な事黙っていた!!?」
やけに落ち着いた様子のノワールにスウェンは激昂する。
「言ったでしょう? さっきまで知り合いに会いに行っていたって」
「は、早く止めな!」
そう言ってはやてはベッドから這いずり出ようとするが、そのまま床に転がってしまう。
「はやて! 無茶をするな!」
「でもでも! 早くしないとリインフォースが……」
「まーまー落ち着いてくださいはやて姐さん」
「お前はもうちょっと慌てろ! なんでそんな冷静なんだよ!」
「なんだなんだ? 何騒いでいるんだ?」
するとそこに、なぜかシンとデスティニーがやってきた。
「あれシン君!? なんでうちにいるん!?」
「ちょっと知り合いを連れに……」
「ノワール……またあなた、なにかやらかしましたね? いやいやまったく、うちの弟が皆さまにご迷惑を……」
「「弟!!!?」」
デスティニーのさらっと重大発言に度肝を抜かれるスウェンとはやて。
「俺のデスティニーとノワールはGデバイスっていう同系列機なんだよ」
「いやー、初めてアニキがセットアップした時に出会った時にこいつの顔見たときはびっくりしたッスよ~、こっちにも色々と事情があったんで今まで言い出せなかったんスけど~」
「おまえなあ……」
頭痛がするのを感じ、眉間を抑えるスウェン、するとそこに……今度は白衣の女性がはやて達の部屋に入ってきた。
「シン君、準備できたわよー」
「あ、ヴィアさん、それじゃ俺達も行こう」
そう言ってシンはスウェンに手を差し出した。
「行く……一体どこに?」
「決まっているだろう? リインフォースを迎えにさ」
海鳴にある桜台林道、そこでリインフォースは雪が降る海鳴の街を見つめていた。
そしてそこになのはとフェイトがやってくる。
「あぁ、来てくれたか」
「リインフォースさん……」
「そう呼んでくれるのだな」
「あなたを空に帰すの私たちでいいの?」
「お前たちだから頼みたい……お前たちのおかげで私は主はやての言葉を聞くことが出来た。主はやてを喰い殺さずにすみ、騎士たちも生かすことが出来た……感謝している、だから最後はお前たちに私を閉じて欲しい」
「はやてちゃんとお別れしなくていいんですか?」
「主はやてを悲しませたくないんだ」
「でもそんなの……なんだか悲しいよ」
「お前たちにもいずれ分かる。海より深く愛し、その幸福を守りたいと思える者と出会えればな」
そう言ってリインフォースは優しく笑う……フェイトはその顔を見てシンやリンディ達の顔が頭の中に浮かんでいた。
(そういえばシン……まだ来てないな、ヴィアさんに呼び出されたみたいだけど……)
そして、シグナムたちも到着する。
「そろそろ始めようか……夜天の魔導書の終焉だ」
そしてみんなに見守られる中、リインフォースは足元に展開された魔法陣から放たれる光を浴びていた。
[Ready to set.]
[Standby.]
レイジングハートとバルディッシュが準備完了を告げた。
「あぁ、短い間だったがお前たちにも世話になった」
[Don't worry.]
[Take a good journey.]
「あぁ」
そしてリインフォースは瞳を閉じ、満足そうな表情で天に……
「させるかああああああ!!!!!」
「二度目のどーん!!!」
「はうあ!!!?」
還るところをスウェンに投げられて飛んできたノワールを顔面に受けたことにより阻止された。
「ふおおおおお!!! 今度は前歯があああああ!!!」
「え!? ちょ!!? おま!!?」
「ノワール!!? スウェン!!? 貴様たちなぜここへ!!?」
突然の乱入者に慌てふためく一同、そしてスウェン達の背後から、シンに車いすを押されたはやてとヴィアもやってきた。
「リインフォース待って! お願いだから待って!」
はやては自分で車いすを漕ぎ、赤くなったおでこを涙目でさするリインフォースに近寄った。
「あ、主!?」
「なんで!? なんで私に黙ってこんなことを!!?」
「……私のこのプログラムの所為でまた主を危険にさらしてしまいます」
「あたしがちゃんと抑える! 大丈夫や! こんなんせんでえぇ!」
「主の危険を払い、主を守るのが魔導の器の務め……あなたを守るための最も優れたやり方を私に選ばせてください」
それでもはやては目に涙を溜めて首を横に振った。
「ずっと悲しい思いをしてきてやっと……やっと救われたんやないか!」
「私の意志はあなたの魔導と騎士たちの魂にあります……私は何時もあなたの傍にいます」
「はやての願いはお前を今以上に幸せにしてあげることなんだぞ? それなのに……」
引き留めようとするスウェンから視線をそらすリインフォース。
「ねえ……あなた、リインフォースさんといったかしら?」
その時、ヴィアが一歩前に出てリインフォースに話しかけてきた。
「貴女は……?」
「私の名前はヴィア・ヒビキ、管理局の研究員をやっているわ……リインフォースさん、私の話をちょっと聞いてくれるかしら?」
そう言ってヴィアは一枚のレポート用紙をはやてとリインフォースに見せる。
「なんですかコレ……? 薬の成分表?」
「『Rebirth』……これが一体なにか?」
リインフォースは訝しげな表情でヴィアに質問する。
「これはね……フューチャーセンチュリーってところで開発されたアルティメット細胞っていう細胞と魔導の力を用いたワクチンなの、今の今まで作っていたんだけど……ようやく完成の目処がたったの」
その場にいた一同は興味深そうにヴィアの話を聞いていた。
「この試薬は異常をきたした体内の細胞の動きを正常化させるだけでなく、魔力による何らかの異常も治療できるのよ、つまり……自己再生を促進、自然治癒の力を一時的に高めるための薬ね」
「自己再生の促進……?」
「そう、例えば……あなたのその改変による破損も、これを接種することにより治る……かもしれないわ」
「リインフォースが助かるんですか!!?」
はやては藁にもすがるような思いでヴィアに話しかけた。
「100%とは言い切れないわ、なにせ臨床実験がまだなの、私は検体になってくれる人を探しているのよ」
そしてヴィアはリインフォースの手をぎゅっと握った。
「リインフォースさん……お願い、このワクチンの検体になってほしいの、このワクチンが完成すれば悪意によって心身を歪められた人たちを助けることができる、もちろん貴女の未来も守る事ができるわ」
リインフォースはヴィアの申し出に対して……首を横に振った。
「ダメです……私にも防衛プログラムがいつ暴走するかわからないんです、貴女の提案はリスクが高すぎる……」
「大丈夫、そうならない為にはやてちゃんがいて、そうなったときの為にシン君たちがいるのよ」
「でも……それでも……」
「逃げるな!!!」
「!!!?」
愚図るリインフォースをヴィアは一喝した。温厚そうな彼女の意外な行動になのは達は目を見開いて驚く。
(な、なのは……今……)
(うん、ヴィアさんの後ろにメスのライオンさんが見えたよね……)
「貴女は生きなきゃダメ、つらい運命からようやく抜け出せたのに、消えてしまうなんてダメ! 生きるほうが……戦いよ!」
「生きるほうが……戦い……」
そのヴィアの言葉に心打たれたリインフォースは、目から大量の涙を流した。
「私は……生きてもいいんですか? 主達と一緒に……」
するとはやてが、シグナムが、ヴィータが、ザフィーラが、スウェンが、リインフォースのもとに集まった。
「生きていいに……決まっているやろ!」
「そうだ、今から、そしてこれから……私たちで主を守っていこう」
「一人だけ天に還るなんて……そんなの寂し過ぎるだろ!」
「私たちは貴女を歓迎するわ!」
「来い、リインフォース」
「もう俺は……家族が目の前で居なくなるのは見たくないんだ」
「うぅ……うううあぁ……あああああ!!!」
運命が自分が生きていくことを受け入れてくれたのを感じたリインフォースは、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらはやてに抱きついた。
その様子をノワールは一歩離れた場所で見守っていた。
「よかったな、リインフォース……」
「ハッピーエンドじゃないですか、よかったよかった」
ノワールのそばにデスティニーが近寄り、彼に称賛の言葉を送った。
「うんうん、陳腐と言われようが、ありきたりと言われようが、やっぱり物語の締めはだれも死なないハッピーエンドが一番だ」
「締めじゃないでしょう? 貴方の、私たちの物語はこれから始まるんです」
「ははは、その通りだ」
12月25日、海鳴は空から降る雪で真白に染まっていた……。
エピローグ「大人になっても忘れない」
バニングス邸、そこでアリサ、すずか、ルイス、留美、紅龍はクリスマスパーティーの準備をしながらなのは達のことについて話していた。
「ねえアリサちゃん、なのはちゃん達もうすぐ来るかな?」
「そうね、昨日のことも聞きたいし……やっぱり半年前のあれも管理局ってところが関わっていたんでしょうね」
「いいなー魔法少女! 空をビュンビュン飛んで……私も飛んでみたいなー!」
「ルイスさん、はしゃいでないでツリーの飾り付けを手伝ってください、まったくもう……」
(留美……あんな楽しそうな顔、久しぶりに見るな……)
その後なのは達は友人と家族に魔法や管理局、そしてPT事件や今回の闇の書事件についてすべて話し、彼らから理解を得て今後も管理局で働くことを許された。
八神家には一応しばらくの間保護観察が付き、彼女達はそれが終われば管理局に入って罪滅ぼしをしたいという意向を固めていた。
なおリインフォースは接種することを受け入れたRebirthの成果もあってか、防衛プログラムが暴走することは二度となく、今も家族と幸せに暮らしている。
それは、星の海を掛ける“白い悪魔”と呼ばれる機械人形が、世界を平和へ導く英雄として君臨するいくつもの物語と、数多なる世界を駆け秩序を管理する魔導師達の世界が、一つの物語として融合していく物語。
それは……重き罪の十字架から解放された少年が、新たにできた家族から祝福の風を受け、夢見た星の世界へと旅立つ物語。
やがて少年は少女に守りたいものを守る銀色の矢を貰い、数多の世界を守る“ストライカー”へと成長していく……。
数ヵ月後、管理局本部……そこで局員達は怒号を響かせながら自分達に迫ってくるある人物に杖を向けていた。
「医務室の患者が起きたぞ! 取り押さえろ!」
「信じられない……壁を突き破ったのか!!?」
「武装局員を招集しろ! あいつ転移装置に向かっている!」
局員達はその人物を足止めしようと魔力弾で牽制するが……
「す、素手で払っただと!」
「だ、ダメだ突破される! うわあああああああ!!!!」
その人物は……自分が丸裸であることを気にもせず、立ちふさがる者をすべて退け転移装置の前に立った。
「お母さん……どこ? どこにいったの? 私を一人にしないで……」
同時刻、海鳴にあるビルの屋上、そこで三人の少女が真下の街の光景を眺めながらあることについて話し合っていた。
「ねえねえロード、僕達これからどうするのー?」
「闇の書の闇の再生を果たすには、まず大きな魔力が必要に……」
「ククク……そう慌てるな、まだまだ時間はある、まずは……」
第98管理外世界「フューチャーセンチュリー」、その世界にあるギアナ高地というジャングルに武闘家とその弟子が激しいって言葉じゃ表現できないほどの修行に励んでいた。
「そらそらそらそらぁー!!! どうしたドモンよ! その程度でへこたれるとはなっちゃいない! なっちゃいないぞおおおおおおお!!!!」
「うおおおおお!!! まだまだぁー!」
そう言って「足をものすごく速く動かして湖を走り抜ける」という修行に励む赤い鉢巻を付けた弟子。
「ふむふむ、大分距離が延びてきたのう……ん?」
その時、武闘家は何かの気配を感じて空を見上げた。
「!!!? 如何いたしましたししょ……ぬおわああああああ!!!!」
武闘家の様子に気を取られて湖に沈んでいく弟子。
「この馬鹿弟子がああああ!!! 修行中によそ見するとは何事ぞおおおおお!!!?」
「すみまごぼごぼごぼ!!!!」
(ぬう、嵐が来る……!!)
武闘家……東方不敗マスターアジアは、もうすぐ自分の前に強敵が現れるのを感じ、不敵な笑みを浮かべていた……
Next Stage “超級! 魔法武闘伝!”
はい、というわけでAs編はこれにて完結です。
では今回も一区切りついたことですし、今回はスウェンについて語ります。
ではまず、なんでAs編の主人公をスウェンにしたのかというと、前に自分が投稿していたサイトにはシン、キラ、アスラン、時々アストレイキャラが主人公をいている作品が多くてスウェンが主人公である作品は全くなかったんですよね、それでもしスウェンを使えば自分の書いた作品が目立てるんじゃないか? と思って採用したという経緯がありました。
初めはスウェンとくっつけるのはリインフォースの予定でした、銀髪つながりだしクールだし共通点が多くてお似合いかなーって……でも彼に無いものを補う人と考えるとやっぱりはやてかなーと思い現在の組み合わせになりました。
個人的な見解ですが、スウェンはなんていうか部下とか自分を慕うものにはすごく優しそうですよね、一見冷血に見えるけど、本当は熱い男なんだなとDVDと漫画見て感じました、きっとシンみたいな年下の部下がいればいい兄貴分になると思うんですよ。ガンダムで例えるならクワトロ大尉やニールのような感じですかねー。
五年も前になりますか、あるアニメ雑誌でスタゲ制作発表の記事を見てワクワクしたのは……あの頃はまだリリカルなのはにハマる前だったなあ……ガンプラのストライクノワールも発売日当日に買ったっけ。時が経つの速いよなあ……そう言った意味でもスタゲは思い出深い作品です。
これからスウェンにはシンの兄貴分として活躍してもらいます、もちろん彼に関する複線もまだまだ沢山残しているのでこれからちゃんと消化しなきゃですね。
もっともっと沢山彼を活躍させて、モニターの前にいる皆さんがスターゲイザーに興味を持ってくれると嬉しいです。
次のシリーズは外伝的な話、ハラオウン一家とマテリアル三人娘、そして目を覚ましたあの子にスポットを当てていこうと思っています。
あの二人も大暴s……大活躍させるつもりなのでお楽しみに。