第五話「接触」
海鳴に異変が起こって数分後、シンとドモンもまた誰もいなくなった街の中を駆けまわっていた。
「どういうことだコレは……!? 人が消えたぞ!」
「この結界、去年ヴォルケンリッターの皆が使ったのと似てるけど……」
「念話とやらは繋がらないのか?」
「うん、妨害されている……一体だれが?」
その時、外に出ていたデスティニーが何かに気付いた。
「主、この先に魔力反応がします」
「反応……? フェイト達かな?」
「これを創り出したものかもしれないぞ、注意したほうがいい」
二人はデスティニーが示した方角に向かう、するとそこには……。
「ヴィータ?」
「シャマルか!?」
何故かバリアジャケットに身を包んだヴィータとシャマルがいた。
「お前らもこの結界に閉じ込められたのか? よかった、知り合いに会えて……」
「あん? なんだお前ら?」
「え?」
駆け寄ろうとするシンに対し、ヴィータは冷たい目で睨みつける。
「お、おい、こんな時に冗談言っている場合じゃ……」
「ヴィータちゃん、この子魔力反応があるわよ」
「魔導師か……ならちょうどいい!」
ヴィータはにやりと笑うと、グラーフアイゼンを構えてシン達にじりじりとにじり寄る。
「お、おい! どうしたんだよヴィータ!? 俺が判らないのか!?」
「主、この二人どうもおかしいです……とりあえずセットアップの許可を」
「ええいもう! どうなってんだ!?」
シンは今だ状況が掴めないままデスティニーとセットアップし、背中に赤い羽根を展開する。
「やる気になったか……シャマル! 私が囮になるからその隙にリンカーコアを奪え! その後でシグナム達を探すぞ!」
「解ったわ!……ん?」
するとシンの隣に、ドモンが身構えながらシャマルの前に立った。
「何が何だか分からないが、二対一は卑怯だぞ、俺も加勢しよう」
「ドモン! でも……!」
「よそ見すんな! うりゃああああ!!」
その時、ヴィータがシンとドモンに襲いかかり、彼らのいた場所にグラーフアイゼンをたたき込んだ。
――ドゴォォォン!
「うわ!」
「迷っている暇はありません主! とにかくあのヴィータさんを戦闘不能にしましょう!」
「くっ! 分かったよ」
そしてシンは再び襲いかかってきたヴィータが振り下ろしたアイゼンをアロンダイトで受け止めた。
「ちっ! さっさと倒れろ!」
「何なんだよもう! いい加減にしろ!」
シンはアイゼンを払って空に飛びあがった後、ヴィータに向かってビームライフルのビームを急所に当てないように発射する。
「うぉ! こんにゃろう!」
そしてヴィータも空へ飛びあがり、二人は激しい空中戦を繰り広げる。その一方でドモンはシャマルと対峙していた。
「今のうちにあの子のリンカーコアを……あれ? 何これ?」
「おい! 何をするつもりか判らんがやめろ!」
「ああんもう! 邪魔しないでください!」
そう言ってシャマルは向かってくるドモンに対して指輪型のデバイス、クラールヴィントをワイヤーに付けたまま飛ばした。
「うお!? 訳の分らん武器を!」
驚いたドモンは目の前で手を円に回してクラールヴィントを払った。
「えええ!? 何なのこの子!?」
「次はこちらの番だ!」
ドモンは助走をつけてシャマルに飛び蹴りを繰り出す、しかし彼女の目の前に現れた緑色の風の壁で弾かれてしまった。
「むう!? 中々やる!」
「もう! 邪魔しないでください!」
そのころ上空のシンは、建ち並ぶビルの合間をすいすい飛びながらヴィータの魔力弾……シュワルベフリーゲンを防いだり回避していた。
「くそっ! やめろヴィータ!」
「気安く呼ぶんじゃねえ! アタシはお前なんか知らねえぞ!」
(どうなってんだ……!? あいつは冗談であんな事する奴じゃないし……)
すると隣で並んで飛んでいたデスティニーが声を掛けてくる。
「……主、少し私に考えがあります、一度あの子を撃墜しましょう」
「で、でもヴィータを攻撃するなんて……!」
「私の考えが正しければ問題ない筈です」
「う~ん……! ええいもう! やけくそだ!」
シンは散々悩んだ末にその場で急停止し、突っ込んでくるヴィータに対してビーム砲の銃口を向ける。
「うわ!? おまっ! 急に止まんな……!」
「ゴメンヴィータ!」
急停止したシンを見て慌てて止まるヴィータに対し、シンはビーム砲の引き金を引いて赤い光線を放つ、放たれた光線はそのままヴィータの腹部を貫いた。
「うわああああ!!」
「ヴィータ!」
シンはダメージを受けて墜落していくヴィータを追いかける。そしてようやく追いついた時、彼女の体は本のページとなってバラバラと崩れていった。
「う……あ……!? な、なんだよコレ……!? ああああ!!」
「な……!? ヴィータが消える……!?」
「やはり偽物でしたか」
「偽物? どういう事だよデスティニー?」
ヴィータが完全に消えたの確認してから、シンはデスティニーに話しかける。
「あのヴィータさんはおそらく去年戦った闇の書の闇の残滓が創り出した幻影でしょう」
「ええ!? だってコアはアースラのアルカンシェルで完全に破壊した筈だろ!?」
「うーん、コアは破壊出来てもその残りカスが意志を持ったとしか……ですが先程の攻撃ですぐに消えたということはあまり形を維持できないようですね」
「どうしてヴィータの姿を……?」
「恐らく闇の書に残っていた戦いの記憶を再現したのでしょう、あのヴィータさんが主の事を知らなかったのは闇の書がヴィータさんが主と仲直りしたことを知らなかったからでしょう、その時のヴィータさんしか再現出来なかったのです」
「成程じゃああのシャマルも……!」
シンはふと、先ほど出会ったフェイトそっくりの青髪の少女の事を思い出す。
(それじゃさっきの子も闇の書の? でもフェイトとは似ても似つかない性格だったぞ……)
「とにかくドモンさんの元に行きましょう、あのシャマルさんを止めるのです」
「う、うん……わかった」
数分後、ドモンはシャマルからの攻撃を軽快に回避しながら反撃の機会を窺っていた。
「な、何なのこの子!? 魔導師でもないのになんて人間離れした動きを……!」
「うおおおお!!」
ドモンはピョンピョンとバッタのように跳ねまわりながらクラールヴィントの攻撃を回避していく。
「もう! いい加減当たってよ!」
(ううう……! やはり女の人に拳を振るうのは……!)
その時、シャマルの背後から何者かがこっそりと近づいて来た。
「えい!」
――ポカッ!
「きゃん!?」
その人影……シンはアロンダイトの峰の部分をシャマルの後頭部にポカッと当てた。
「いった~! 背後から叩くなんてひっど~い!」
「ご、ごめん……」
するとシャマルの体は本のページとなって崩れていった。
「あ、あれ!? 私の体が!? なんで!?」
「この程度で消滅するとは……ある意味シャマルさんらしいですね」
「そんな~!」
そしてシャマルが完全に消滅した後、ドモンがシンの元に駆けつけてきた。
「おいシン!? シャマルさんが消えたぞ! というかヴィータはどうした!?」
「実はかくかくじかじか……」
「成程……つまりあの二人は偽物だったのか!」
「この結界も闇の書の闇によるもの……恐らく今のようなヴィータさん達のような偽物が他にもワンサカいるんでしょうね」
「他の皆は大丈夫かな……?」
その頃スウェンとノワールはリジェネと名乗る少年と共に轟音が聞こえたビル街にやって来ていた、そして彼らはそこである人物と出会う。
「シグナム……なのか?」
「……? 何者だ貴様? 何故私の名前を知っている?」
そこにはバリアジャケットに身を包んだシグナムがいた、ただし彼女はスウェンを見るや否やレヴァンティンを構えた。
「どうしたんだシグナム!? 俺が判らないのか?」
「待ってくださいアニキ、なんかこのシグ姐さん様子がおかしいッス」
「……よくわからないが我が主の為、貴様のリンカーコアを戴く!」
シグナムはそのままスウェンに向かい斬りかかってくる。
――ガキィンッ!!
スウェンはそれを反射的にフラガラッハで受け止めた。
「問答無用か」
「こーなったらちょっと縄で縛って動けなくしてムフフな事をするしかないッス!」
「はあああ!!」
シグナムはそのままスウェンの腹部にミドルキックを繰り出し彼を突き放す。
「ぐ……? 何かいつものシグナムのリアクションが違うな」
「いつもならオイラの方が縛りつけられて蚊取線香の上に吊るされている筈なのに……は!? まさかこのシグ姐さん偽物!?」
「それで判断するのもどうかと……」
「勝負の最中に何をゴチャゴチャと! 飛竜一閃!」
シグナムはそう言って空へ飛びあがりレヴァンティンからスウェンに向かって衝撃波を放つ。
「く……仕方ない、少し手荒にいくか」
スウェンは背中のレールガンでその衝撃波を相殺する。
「まだまだ!」
シグナムは臆すことなく次々と衝撃波を放つ、対してスウェンもレールガンで相殺していった。
「我が剣撃について来られるとは……!」
「この距離なら俺にも分がある」
「ショーティー召喚ッス!」
スウェンはレールガンを発射し続けたまま両手にそれぞれビームライフルショーティーを召喚して、ビーム弾をシグナムに向かって放つ。
「うおおおお!?」
シグナムはレールガンとショーティーの容赦の無い銃撃にさらされダメージを蓄積させていく。
「最後はこれだ」
スウェンは右手のショーティーをしまい、代わりに大きめで下にグレネードランチャーが付いているビームライフルを召喚して、グレネードランチャーの弾をシグナムに向けて発射する。
――ドォォォン!
「うわああああ!!!?」
シグナムはグレネードランチャーの弾の直撃を受けてそのまま地面に落下していく。
「シグナム!」
スウェンは慌ててシグナムを助けに行こうとする……その時、彼女の体は本のページとなって崩壊していった。
「こ、これは……ああああああ!!!」
「アレは!?」
「おおう……どうやらあのシグ姐さん、本当に偽物だったんスね」
そしてシグナムだった本のページの一枚一枚が地上に舞い落ちる、そのうちの一枚をすぐ近くで戦いを観戦していたリジェネが拾い上げる。
「へえ、あの剣士は本で出来ていたのか……魔導とは面白いね」
「お前……まだ避難していなかったのか、ここは危ないぞ」
「まあそう目くじら立てなくてもいいじゃないか、僕は君と話がしたいんだから」
そう言ってリジェネは消えて行くページの一枚から手を離して、降りてくるスウェンに歩み寄る。
「話か……まずは俺に質問させてくれ、イノベイドとはなんだ? お前は俺の事を知っているのか?」
「それじゃ散歩でもしながら話そうか」
そしてスウェンはリジェネと一緒に誰もいない街中を歩きながら、彼からの話を聞いていた。
「僕達イノベイドはこの世界の人類を正しく導く為にイオリア・シュヘンベルグに生み出された人間……君の故郷の世界で言うコーディネイターに近い存在かな? 出来る事は僕達の方が圧倒的に多いけどね」
「イオリア……太陽光発電の基礎理論を提唱したこの世界の歴史上の人物と同じ名前だな」
「それは彼の表向きの顔だよ、今はある場所でコールドスリープで眠っている、彼は戦いを繰り返す人類を変革するためある組織を作り行動を起こそうとしているんだけど……ここ最近少し厄介な問題に直面してね」
「厄介な問題?」
「ああ、CEの……ブルーコスモスって組織だっけ? 彼らが時空転移の技術を得てこの世界に調査隊を派遣してきたのさ」
「……!? CEが時空転移を? どうしてまた?」
「どうやら時空管理局の誰かが、ブルーコスモスと接触して彼らに技術を提供したらしい……ギブアンドテイクとして代わりにブルーコスモスが持つ技術を欲しがってね」
「そんな事をした奴がいたのか……時空管理局が得たCEの技術とはなんだ?」
「それはこっちでも調査中さ、そして時空転移の技術を得たCEは次にこの第97管理外世界に標的を定めた、僕達イノベイドを捕獲するためにね」
「お前達を? どうして?」
「君達の世界ではブルーコスモスを組織するナチュラルとコーディネイターが争っているんだろう? だからブルーコスモスはコーディネイターに対抗できる戦士がほしいのさ」
「それが……お前達イノベイドだと?」
「その通り、そして彼らは去年の五月、この世界に調査隊を派遣した……戦闘力に特化したファントムペインという特殊部隊で組織された……ね」
「ファントム……ペイン……」
スウェンは何となくそのファントムペインという組織に聞き覚えがあった。そしてそれを察知したリジェネはにこにこ笑いながら彼にある事実を伝える。
「君がその部隊の事を知っているのは当然さ、何せ君はその組織に所属していたのだから」
「…………なんだと?」
一方その頃、シンとドモンは仲間達と合流するため結界の中の街中を歩き回っていた。
「シン、まだ念話とやらは使えないのか?」
「うん、アースラとも他の皆とも繋がらない……早くこの状況をなんとかしないと」
「皆さんご無事だといいんですけど……ん?」
その時、デスティニーはこちらに近づいてくる魔力を感じて動きを止める。
「お二人とも、ここに接近する魔力が二つあります、これは……!」
「どうしたんだデスティニー……あれ?」
そしてシンとドモンはその魔力の発生源である人物を視認する。
「おい、あの二人はまさか……」
そしてその二人の人物はシンの目の前に降り立つ。
「あれ? ジュエルシードの反応がしたと思ったのに……」
「まさか、この子がジュエルシードを持っているの?」
「フェイト!? アルフ!?」
その人物はバリアジャケットに身を包んだフェイトとアルフだった。
「おいフェイト、お前達も結界の中に閉じ込められたのか?」
試しにドモンが彼女達に質問してみる、すると……。
「はあ!? なんでアンタフェイトの名前知ってんだい?」
「私、貴方達の事なんか知りません……それよりもジュエルシードを渡してください」
案の定、シンとドモンの事は知らない素振りを見せていた。
(どうやらこいつらも偽物みたいだな)
(うん、しかも記憶はPT事件の時のままだ)
「渡さないというのなら……バルディッシュ」
[Get set]
フェイトはそのままバルディッシュを構えて戦闘態勢をとる。
「や、やめろフェイト! 俺はフェイトと戦いたくなんか……!」
「私は貴方なんか知りません、邪魔しないで……!」
「よっしゃ! それじゃアタシはこのハチマキの小僧を相手にする! フェイトはそいつからジュエルシードを!」
「またこうなるのか……しょうがない、相手になってやる!」
ドモンは突然繰り出されたアルフの飛び蹴りを腕で防御し、シンはフェイトのバルディッシュの奇襲にシールドで対処した。
「くそ……! 偽物とはいえフェイトと戦うなんて……!」
シンは心苦しい思いをしながら、襲いかかるフェイトと刃を交えた……。
今回はここまで、こっちの更新がおろそかになってしまってすみません……。
次回は闇の欠片フェイトとアルフのダッグ戦と、スウェンとあるキャラとの戦いを描く予定なのでお楽しみに。