第六話「運命の連鎖」
闇の欠片のシグナムを倒し、近くのベンチで一息入れていたスウェンは、リジェネから自分の事について聞いていた。
「それが……俺の正体だというのか?」
「ああ、信じるも信じないのも君の自由だ、でももし事を成したいと思ったのなら……“僕”の仲間にならないかい?」
「……? “僕達”のじゃないのか?」
「僕はただ自分自分の定められた運命ってのを変えたいだけさ、それに……支配者ぶっている誰かさんにほえ面書かせたくてね」
「はやて達は……管理局に言うのは?」
「やめておいたほうがいい、さっきも言った通り管理局の幹部クラスの中にブルーコスモスの息が掛かった者がいる、下手をしたら君の家族にも危険が及ぶよ」
「そうなのか……ノワールはどう思う?」
スウェンは自分の肩に乗るノワールに意見を求める。
「……アニキは今日初めて会った奴の言うことを信用するんスか?」
「もちろん今すぐに信じる事はできない、だから俺は自分で確かめてみる」
「ふふふ……いいよ、僕はいくらでも待ってあげる、次に物語が動き出すのは大分先だしね」
「……! アニキ!」
その時、ノワールはこちらに接近する魔力を探知して警戒を促してきた。
「今度は誰の偽物だ……? お前は安全な場所へ!」
「ああ」
リジェネを逃がしセットアップしたスウェン、そして彼の目の前に……黒いバリアジャケットに身を包んだショートヘアで青い瞳の少女が降り立った。
「欠片達が次々と消滅していると思えば……何者ですか貴方は? リンカーコアとは違う力を感じます」
「なの……は?」
スウェンは目の前にいる少女が何となくなのはに似ている事に驚く。
「持っているデバイスもなんとなくレイジングハートに似ているッス、でもこいつ……」
「私の名は星光の殲滅者、シュテル・ザ・デストラクター……我々の目的の障害になる貴方を排除しに参りました」
「こいつも偽物か、なのはは排除なんて言葉は使わない」
現れた少女……シュテルを敵と判断したスウェンはフラガラッハを手に持って身構える。
「この町を守るためだ、もう一度眠ってもらうぞ」
「闇の書完成の為……礎になりなさい」
そして両者は高く飛び上がり、互いの武器を火花を散らしてぶつけ合った。
一方シンとドモンは闇の欠片のフェイトとアルフ相手に苦戦していた。
「ちい! 猿みたいにすばしっこい奴だ!」
「これぐらいの攻撃、見切れなきゃやってられんからな! そっちはどうだシン!?」
地上ではドモンが闇の欠片のアルフの連撃を凌いでいる間、シンは空中で闇の欠片のフェイトの攻撃から逃げ回っていた。
「くそ! やめてくれフェイト! 俺は戦いたくないんだ!」
「私はそうはいかないのです……! ジュエルシードを渡してください!」
本物じゃないことが判っていても、シンはフェイトを攻撃することが出来ないでいた。
「どうするんだ!? こいつらを倒しちゃダメなのか!?」
「ど、どうする……! このままじゃ二人とも……!」
「何をゴチャゴチャと! そろそろ本気にさせてもらうよ!」
そう言って闇の欠片のアルフは人間形態からメキメキと狼形態に変身する。
「お、狼……! そう言えばお前もザフィーラと同じだったな……!」
「なんだい!? 私の姿を見てブルっちゃっているのかい!?」
「く、くっそ~!」
「大ピンチだなコレ……!」
そう言ってシンはドモンの様子に目配せしながらビルの影に隠れる。
「あの子、一体どこに……!?」
闇の欠片のフェイトはシンの姿を見失い、辺りをうろうろと飛びまわる。一方シンはビルの中から彼女の様子を窺っていた。
「あーもう! フェイトの姿をしているとやりにくいなー!!」
「大声出すと見つかりますよ、それにしても偽物と判っているのに攻撃しないなんて……主はフェミニストなんですね」
「そんな事言ったって……」
デスティニーに指摘されシンは不機嫌そうに頬を膨らませた。
一方ドモンは闇の欠片のアルフの爪や牙の攻撃を凌ぎながら、反撃の糸口を探していた。
(どうすればいい!? どうすればこのアルフに勝てる……!?)
「おらおら! このまま噛み砕いてやるよ!」
そう言ってアルフは牙をむき出しにしながらドモンに襲いかかる。
――びりっ!
「うお!?」
するとアルフの牙はドモンのわき腹辺りをかすめ、ジャケットの一部を噛みちぎってしまった。
「あ、危なっ……! 危うく腸を持っていかれる所だった……!」
回避が失敗した時のもしもを思い浮かべて、ドモンは汗をだらだらとかき始める。
「はっはっは! ビビってんのかい!? ガキは大人しく家でゲームでもしてな!」
「な、なにおう……! む?」
ふと、ドモンは先ほどからアルフから牙による攻撃しか受けていない事に気付いた。
(そうか、狼は武器を持つことが出来ない上に、足は飛びだす時に使うから牙でしか攻撃できないんだ……!)
そしてドモンは、過去に東方不敗から教わった事を思い出していた。
『よいかドモン、狼にとって牙は最大の武器にして最大の弱点でもあるのじゃ』
『最強の武器が弱点……!? 何故ですか師匠!?』
『狼にとって牙は唯一の攻撃手段……もしそれを失えば戦う術を失う、狼には武器を持つ手を持っていないのじゃからな』
『成程……! では牙による攻撃を無効化すれば!』
『後れを取ることは無い、ただしその方法を取るには十分な度胸と勇気が必要になるがのう』
『そ、その方法とは!?』
『それはな……“肉を切らせて骨を断つ”!』
「肉を切らせて骨を断つ……そうか!」
するとドモンは徐に破れた上着のジャケットを脱ぎ、自分の右腕に巻き付けた。
「何してんだい!? あきらめたってんならこっちから行くよおおおお!!」
闇の欠片のアルフは動きを止めたドモンに襲いかかる、するとドモンは上着を巻き付けた右腕をアルフに向かって突き出した。
――ガチィィィィ!!
「ふがっ!?」
アルフはそのまま右腕に噛みつくが、頑丈に巻きつけられて固くなっている上着に思ったように牙を差し込む事が出来ず、噛みついたまま動けなくなってしまった。
「肉を切らせてぇぇ……!!!」
ドモンはそのまま腰を落とし、空いていた左腕でアルフの顎を抱える。
「ふごごご!!?」
「骨をぉ……!」
そしてアルフの大きな体を、腕を噛ませたまま天高く持ち上げる……例えるならプロレス技のブレンバスターの態勢だった。
「たあああああつ!!!」
そしてドモンはそのまま背中から地面に倒れ込み、腕に噛みついたままのアルフを背中から地面にたたきつけた。
―――ドッゴォォォォ!!
「ぎゃいん!!?」
背中と、おまけに脳天に強い衝撃を受けてアルフは痛さのあまり地面に転げまわる。
「どうだ!? 流派東方不敗を舐めるな!!」
そう言ってドモンは一旦アルフと距離を取る。
「や、野郎……! あったまきた!!」
すると闇の欠片のアルフは人間形態に戻り、手をペキペキと鳴らしながらドモンに一歩一歩近づいていった。
「ん? もしかして怒らせた?」
「もうアンタは許さん! 全身の骨という骨を粉々にしてやるよ!」
そしてアルフは駆け出してドモンとの距離を一気に詰める。
「うお!?」
「くたばれええええ!!!」
アルフの怒りのこもった右ストレートがドモンの顔面目掛けて放たれる、対してドモンはとっさに右掌を出してストレートを受け止めた。
――バチィン!!
掌から乾いた音が鳴り響いた。ドモンはそのまま足を地面にしっかり引っ掛けて吹き飛ぶのを防いでいた。
「ん!? んぐうううううう!!!」
「な、なんだ!? 掌が光って……!?」
ふと、アルフは自分の拳を受け止めているドモンの掌が光っている事に気付いた。
――ドォン!!!
「う、うわあああああ!!?」
そして急に熱くなったかと思うと、アルフはそのまま遥か後方に吹き飛ばされ、近くのビルの壁に激突していた。
「が……はっ……!」
「な、なんだ今の技は……!」
ドモンは自分自身、先ほど自分が出した新たな技に驚いていた、そしてビルに激突したアルフの体は、そのままいくつもの本のページとなってバラバラと消滅していった。
「な、なんだコレ……うわああああ……!!!」
「む……偽物とはいえ少し複雑な気分だ……」
一方アルフの消滅を確認したフェイトは、何が起こったか解らずオロオロしていた。
「あ、アルフが消えた!? 一体何を!?」
「お、それはその……」
シンは闇の欠片のフェイトに対し真実を言うのを躊躇っていた。
(本物のフェイトはプレシアさんに出自を明かされ傷ついていた……俺に同じ事なんて出来ないよ……!)
「アルフを……返して!」
闇の欠片のフェイトは隠れていたシンを発見すると、鬼の形相で切りかかってきた。
「うわ!? や、やめてよフェイト!」
「主! 彼女は……!?」
その時、デスティニーはこちらに近づいてくる二つの反応を感じ取る。
「……! こちらに誰か近づいてきます! 警戒を!」
「だ、誰かって誰!?」
その時、シンと闇の欠片のフェイトの間に一筋の光線が割って入り、二人は互いに距離を取ることでその攻撃を回避した。
「っ……! 今のは!?」
「アレはスウェンさんと……なのはさん?」
スウェンはシュテルの攻撃から逃げ回っているうちに、シンと闇の欠片のフェイトが戦っている場面に遭遇する。
「シン!? 無事だったか!」
「スウェン! あのなのはは……!?」
「なのはの偽物だ、どうやらそっちも同じ状況らしいな」
「まあね……!」
そう言って合流したスウェンとシンは背中を合わせながら互いの敵に向かい合っていた。
「む? あれは……」
シュテルはスウェンとシン、そして闇の欠片のフェイトを見て自分のデバイス……ルシフェリオンの先端を彼らに向けた。
「ちょうどいい、一気に片付けてしまいましょう」
するとルシフェリオンの先端に膨大なエネルギーは収束されていく、それを見たシンは慌てて下にいるドモンに声を掛ける。
「まずい! ドモン逃げろ! スターライトブレイカーが来るぞ!!」
「ん? なんだそれは?」
「いいからはやく! そこにいると吹き飛ばされるぞ! そこのフェイトも!」
「え?」
闇の欠片のフェイトは自分まで逃げるよう指示されるとは思わず、間の抜けた声をだしていた。
「集え明星、すべてを焼き消す焔となれ!」
詠唱と共にシュテルの足元に巨大な魔法陣が展開されていく。
「ルシフェリオンブレイカー!!」
そしてルシフェリオンの先端から膨大なエネルギーがシン達に向かって放出された。
「うわ!!」
「くっ!」
「きゃ!!」
――ドォォォォン!!
ルシフェリオンブレイカーはそのままシン達をかすめて、すぐ後ろにあったビルを木端微塵に破壊してしまった。
「! 気を付けろ! 破片が降ってくるぞ!」
スウェンはとっさにシン達に注意を促す、するとシンは何を考えてか、突如闇の欠片のフェイトに飛び付いた。
「危ない!」
「え?」
すると二人の頭上に破壊されたビルの細かい破片が降り注ぎ、シンは身を呈してフェイトを守った。
「痛っ! くっ!」
シンは後頭部や額に破片をぶつけて頭から血を流しながらも、フェイトを傷つけさせまいと彼女を必死に庇い続けた。
「な、なんで……」
闇の欠片のフェイトはシンの行動が理解できなかった、そして二人はそのまま地面に着地する。
「仕留めそこないましたか、ではもう一発……」
シュテルはシン達が無事なのを確認すると、すぐさまルシフェリオンブレイカーの二射目の態勢に入った。
「シン! もう一発くるぞ!」
スウェンはすぐさま地面にいるシンに警告するが……。
「や、やばっ……頭がふらふらしてきた……」
闇の欠片のフェイトを庇った事により頭を負傷したシンは、スウェンの声が届いていなかった。
「ルシフェリオンブレイカー!!」
するとシンに向かって二発目のルシフェリオンブレイカーが発射される。すると……。
「! 危ない!」
闇の欠片のフェイトがシンの前に立ち、魔法障壁を展開して彼をルシフェリオンブレイカーから守ったのだ。
「フェイト!?」
「ううううう!!」
闇の欠片のフェイトは苦痛に顔を歪ませながらもルシフェリオンブレイカーを耐えきり、攻撃が終わると前のめりに倒れてしまった。
「フェイト!」
シンは必死に意識を覚まさせながら倒れたフェイトを抱き上げる、すると彼女の体は徐々に本のページとなって消えて行った。
「そっか……私は幻だったんだね……」
闇の欠片のフェイトは自分が何者なのかを悟り、自嘲気味に笑みを浮かべていた。
「ゴメン……本当の事を言ったら傷つくと思って……」
「優しいんだね、君は」
「そ、そんなことないよ……」
本物ではないとはいえフェイトに褒められ、シンは顔を赤くしていた。
「迷惑かけてごめんね、助けてくれてありがとう……本物の私によろしくね」
「あ……」
そう言い残して闇の欠片のフェイトは消滅し、シンはやりきれない気持ちに苛まれていた。
「また仕留めそこないましたか……」
その様子を見ていたシュテルは、自分の中いある魔力残量に歯噛みしながら、近づいてくるスウェンを見て身構える。
「これ以上罪を重ねるのはやめろ」
「罪……ですか、生き延びたいと思うのは罪ですか?」
「何?」
シュテルは向かってくるスウェンに対してルシフェリオンを振り下ろす、対してスウェンはフラガラッハで受け止めた。
「生き延びる……? どういうことだ?」
「貴方はただ大人しく魔力を提供してくれればいいのです、何も知る必要はないのです」
そしてスウェンとシュテルは激しいつば競り合いを展開する。
「武器のリーチはこちらの方が上です」
「成程……接近戦もこなすか、なのはも鍛えればこれぐらいいけるか?」
スウェンはシュテルの戦力を冷静に分析しながら状況を打開する為の作戦を考えていた。
「なら……これだ」
そしてスウェンはシュテルから三メートルほど距離を離し、腕からアンカーランチャーを発射した。
「……!!」
発射されたアンカーランチャーはシュテルの持つルシフェリオンに巻き付いた。
「油断しました……まさかそんな武装まであるとは」
「すまないがそのデバイスは破壊させてもらう」
スウェンは空いている方の手でビームライフルを持つ。
――バキンッ!
そして銃口からビームを放ってルシフェリオンを破壊した。
「……私の負けです」
「あっさりと認めるんだな」
「ルシフェリオンが壊された以上、私に戦う術はありません」
「そうか……」
そう言ってスウェンはアンカーランチャーでシュテルの両手を背中で縛り、そのままシンとドモンの元に降り立った。
「おお! 生け捕りにしたのか! やるなスウェン!」
「まあな……大丈夫かシン?」
スウェンは闇の欠片のフェイトが消えた事にショックを受けている様子のシンを気遣う。
「……俺は大丈夫だよ、それにしても助かったよスウェン」
「いや……俺の戦闘に巻き込んですまなかった、お前達もなのは達の偽物と戦っていたのか?」
「ああ、ヴィータとシャマルとフェイトとアルフが現れた、まあ全部倒したがな」
「そっちも大変だったみたいだな」
「こっちではシグナムの偽物が……そう言えば一般人を保護したんだ、今連れてくる」
スウェンはリジェネの事を思いだし、安全な所に避難しているであろうリ彼を探しに行こうとした。
「スウェン! シン! ドモン!」
その時、彼らの元にアースラに残っていた筈のリインフォースとクロノがやってきた。
「あ! リインフォース! それにクロノも!」
「あいつが来たということは……」
するとシンとスウェンの元にアースラにいるエイミィから念話が入ってくる。
『やっと繋がった~! 三人とも無事!?』
「エイミィ!」
「どうやらこいつを無力化したお陰で結界が弱まったみたいだな……」
「……」
そう言ってスウェンは自分が捉えているシュテルの顔を見る、彼女は騒ぎもせずただただじっと眼を瞑っていた……。
その頃、スウェン達から大分離れた場所に移動していたリジェネは、ある人物が迎えに来るのを待っていた。
「……来たか、0ガンダム」
すると彼の目の前に、背中から光の粒子を撒き散らしている白いMSが降りてきた。
『迎えに来たよリジェネ、観光はどうだったい?』
「楽しかったよリボンズ……よい友達も出来た」
『そうか、それはよかった……それじゃ管理局に補足される前に戻ろう、GN粒子の事を勘づかれたら厄介だからね』
「ああ」
そしてリジェネはスウェンがいる方向を一瞥した後、白いMS……0ガンダムに向かって歩いていった。
(待っているよスウェン・カル・バヤン……君が僕の同志になってくれるのを……)
本日はここまで、これにてリジェネの出番は一旦終わりです、しかし彼は後に色んな意味でこのSSの重要なキーマンとなっていきます。今後の動向にも注目です。
ちなみにドモンが途中でアルフを倒す際に使った技はシャイニングフィンガー(未完成)です、握りつぶすタイプというより石破天驚ゴッドフィンガーに近いタイプですね。
超級編もエピローグ含めると残り3話、なるべく今月中に終わらせられるよう頑張ります。
それとその他板の方にガンダムWとそらのおとしもののクロス小説を投稿させていただき、先日完結しました。
このSSと話が繋がっていますのでそちらの方も見ていただけると嬉しいです。