第二話「3人目の少年」
フェイトが行方不明になってから三日後、戦力を整えたアースラは僅かな手がかりを頼りに、本局から一路コズミックイラへ出発した。
アースラ艦内のブリーフィングルーム……そこで艦長であるクロノはなのはら主要メンバーを集めて今後の行動方針を説明した。
「皆知っての通り今現在コズミックイラは世界規模の戦争をしていて非常に危険な状態だ、しかし幸いにも僕たちがこれから向かう座標の近くには中立国であるオーブがある、僕達はその領域を拠点として行動することになる」
「オーブ……マユやシン達が前に住んでいた所だな、あんなひどい情勢で中立を保っているのか」
ヴィータは先日資料で見たコズミックイラの戦場の様子を思い出し、はやてと出会う前の自分たちヴォルケンリッターの暗い過去を思い出し俯いてしまう。
そんな彼女を尻目に、クロノは拠点となるオーブの説明を続ける。
「オーブはナチュラルとコーディネイターが共存している国だ、どちらかに付くことは出来ないのだろう、しかし……ナチュラル側の陣営である連合軍にMSの技術を提供していたという話もある、あの国にも色々と事情があるのかもしれないな」
「? クロノ艦長、そのナチュラルとコーディネイターってなんですか?」
リインツヴァイはあまり聞いたことがないその二つの単語に首を傾げる、それに対してはやてが代わりに答えた。
「ナチュラルは私やなのはちゃんのような普通の人間、コーディネイターはそんな普通の人の遺伝子を弄った人の事を言うんや」
「遺伝子をですか……? なんでそんなことを?」
「何でも環境の厳しい宇宙に適応する為だとか……普通の人より病気に強かったり運動神経がよかったりするんやて」
「へえ~」
そしてツヴァイとはやての会話に、アインが割って入ってきた。
「しかしナチュラルはそんなコーディネイターの能力をねたみ、これまでいくつもの問題が起こったそうだ、そして極めつけが……“血のバレンタイン事件”だ」
「確かナチュラルの人たちが宇宙船の事故で亡くなったお偉いさんの仇を討つとかで、核ミサイルでコーディネイターが沢山住むコロニーを爆破してしまったんよな」
そのテロ事件でどれだけの罪のない人が死んでいったのだろうと思い、はやては心を痛めつつもクロノの説明の続きに耳を傾けた。
「その後、コーディネイターは地球にニュートロンジャマー……原子力を使えなくする兵器を地球に打ち込んだ、その結果またも沢山の人が死んでしまい、両陣営はついに戦争を始めて一年後の今に至るというわけだ」
「恐ろしいことやね……」
「さて、だいぶ横道に逸れたが話はこれでおしまいだ、到着は明日になる……それまで各自自由行動とする、以上」
ブリーフィングが終わり、部屋にいた面々がバラバラと散っていく中、アリシアはすぐ傍にいたシグナムに話しかける。
「ねえねえシグナム! 久しぶりに模擬戦やらない!? どれだけ強くなったか見てほしいんだ!」
「お前とか……ふむ、たまにはいいな、東方先生にどれだけ鍛えてもらったのか見せてもらうぞ」
「よっしゃ! んじゃ30分後に模擬戦ルームでねー!」
そう言ってアリシアはシャドーボクシングをしながらブリーフィングルームから出て行った。
その後姿を見送ったシャマルは、少し乾いた笑いを浮かべながらシグナムに話しかける。
「アリシアちゃんってすごいわよね、魔法も何も無しにシグナムに張り合えるんだもの」
「ああ、テスタロッサとはまた別系統の強さを持っている、こちらも色々と勉強になる」
「この前みたいに暴れすぎちゃ駄目よ? 模擬戦ルームを破壊して莫大な修理費を請求されるのはもう御免だから」
「それは向こうに言ってくれ……あの時のは私のせいじゃない……」
一方、はやては部屋から出ようとしたなのはを呼び止めた。
「なのはちゃん……少し時間ある?」
「うん? いいけど……どうかしたの?」
「ちょっとな……」
数分後、誰もいない廊下ではやてはなのはにある確認を行っていた。
「なのはちゃん大丈夫……? フェイトちゃんとアルフの事で自分を責めちゃあかんよ?」
「でも……私がもっとしっかりしていれば二人は……」
なのはは自分が一緒にいたのにフェイト達を救えなかったと思い、ここ数日思いつめた表情をしていた、それを見たはやては彼女をフォローしようとこうして二人で話す場を作ったのだ。
「あれは……現場の指揮官だった私にも責任がある、なのはちゃん一人の責任やあらへん」
はやてはなのはの沈んだ心を奮い立たせようと、懸命に励ましの言葉を贈る。
「大丈夫……フェイトちゃん達はきっと無事や、私らはそう信じるしかあらへん、だから私らは一秒でも早く見つけてあげよう?」
「うん……そうだね、そうだよね」
はやての言葉を受けて、なのはは気持ちが少し軽くなるのを感じた、それと同時に励ましてくれたはやてに感謝の念を抱いていた。
「ごめんねはやてちゃん……私また同じ間違いをするところだったよ」
「ええんよー、私はヴォルケンズの皆の事でなのはちゃんとフェイトちゃんに沢山助けてもらったからな……今度は私らが二人を助ける番や」
そう言ってはやてはなのはのおでこに自分のおでこをこつんとぶつけた。
「あら? 二人ともこんなところで何を……?」
するとそこに、沢山の資料を抱えたヴィアがやってきた。
「ああヴィアさん、少しなのはちゃんに元気を注入しとったんです」
「ヴィアさんこそどうしたんですか? そんなに沢山の資料を抱えて?」
「え? あ、うん、その……ちょっと調べたいことがあってね」
何故か歯切れの悪い返事を返すヴィア、その時……一枚の写真がヴィアの元からはらりと落ちた。
「これは……?」
なのはは写真を拾い上げる、その写真には今より若い姿をしたヴィアが、金髪と黒髪の赤ん坊を抱える姿が映し出されていた。
「あ、そ、その写真は!」
するとヴィアは血相を変えて持っていた資料を放り投げ、なのはが拾い上げた写真を奪い取った。
「ヴィ、ヴィアさん!?」
「どないしたんですか急に……!?」
ヴィアの突然の行動に驚くなのはとはやて、すると我に返ったヴィアは慌てて笑顔を作り自分の行動を誤魔化した。
「こ、この写真はその……なんでもないの!! それじゃあね!」
そしてそのまま床に落ちた資料を拾い上げ、そのまま走り去っていった……。
一方、呆気にとられて立ちすくむなのはとはやては、そのまま不思議そうに互いの顔を合わせた。
「どないしたんやろうなヴィアさん?」
「さっきの赤ん坊の写真、あれってもしかしてヴィアさんの子供……?」
次の日、アースラはコズミックイラに到着し、厳重に結界を張って衛星軌道上に停泊した。
「ふわー! ここがコズミックイラですかー!」
「なんかあたしらが過ごしていた地球とそっくりなんだなー」
窓の外に広がるコズミックイラの地球を見て、ツヴァイとヴィータは感慨深い声を上げる、しかしその後ろではシグナムとザフィーラが複雑そうな顔をしていた。
「似ているのは星だけのようだ」
「ああ……」
シグナム達の視線の先には、衛星軌道上を漂う戦艦や戦闘機、そして人型機動兵器……MSの残骸があった。
「これって……!」
「恐らくこの辺りで戦闘があったのだろう、よほど激しいものだったらしい」
「あのロボットさん、頭に大きな鶏冠が付いているです!」
ツヴァイは目の前を通り過ぎた灰色で一つ目のMSの残骸を指差す。
「あれはザフト軍の“ジン”という物らしい」
「ふむ、資料で見た我らの地球のティエレンやアンフやヘリオンとは全く違うものだな、戦闘力も侮れない……ザフト軍はあのMSで数で勝る地球軍と互角の戦いを繰り広げているらしいからな」
「あれには人が乗っているんですよね、中の人が無事だといいんですけど……」
数分後、クロノとユーノによってブリーフィングルームに集められたなのは達は、そこである報告を受けていた。
「皆集まってくれたな、実はこの世界に到着した時にある反応が見つかったんだ」
「ある反応?」
ユーノの説明になのは達は首を傾げる。対してユーノは訝しげな表情でモニターを操作する、モニターにはオーブ沿岸にある軍港の見取り図が表示されおり、その中心部に赤い光が点滅していた。
「実はこの施設の中に……僕らのよく知っているロストロギアの反応があったんだ」
「私たちの知っているロストロギア……?」
「ああ、5年前のあの日……僕となのは、そしてフェイトやクロノ達を引き寄せたアレだ」
その瞬間なのははハッとなって顔を上げる、後ろではヴィアも顔色を変えてユーノを見て口を開いた。
「ジュエルシード……ね」
「はい、5年前のPT事件の際に散らばり、所在はシンとスウェンの体の中にある二つしか確認できていない代物です……残り19個のうち一つがあそこにあるのです」
PT事件の当事者ではなく資料でしか詳細を把握していないはやてとヴォルケンリッターは、なのは達の真剣な表情を見て口出すことではないと思い口を紡ぐ。
そしてユーノの隣にいたクロノが沈黙を破った。
「フェイト達の所在と研究所の事もあるが……見つけてしまった以上放置する訳にもいかない、そこで僕たちはここを拠点として二手に分かれてジュエルシードと研究所の捜査を行おうと思う、研究所への調査にははやて達ヴォルケンリッターとアリシアに、なのはとユーノにはオーブに降りてもらいたい」
「二手っつても随分偏っているんだな、オーブには二人だけかよ」
ヴィータの質問に、クロノはため息交じりに答える。
「仕方ないだろう、ここでジュエルシードが見つかるなんて思いもよらなかったんだから……ここは当事者に任せた方がいいだろう、僕達もアースラでできる限りのバックアップをするから」
「まあしゃあねえよな……ユーノ、なのはの事ちゃんと見張ってろよ、そいつ復帰したての病み上がりなんだから」
「にゃはは……ヴィータちゃん厳しいなあ」
ヴィータの苦言になのはは思わず乾いた笑いを起こす。
それを見たヴィータらその場にいた者たちは不安そうになのはを見ていた……。
数時間後、オーブ領オノゴロ島オーブ軍港付近の街にある人気のないビルの屋上、そこになのはとユーノはアースラから転移魔法で降り立った。
ちなみになのはは街に溶け込んで怪しまれないようにするため、軍服っぽい教導隊の白い制服から、あらかじめ持ってきておいた海鳴中学校の茶色の制服に着替えていた。
一方のユーノは普段通りワイシャツに紺のネクタイという格好である。
「着いた……ここがオーブか」
「なんていうか、雰囲気が海鳴と似ているなー、海が近いからかな?」
なのはは自分が生まれ育った故郷と同じ雰囲気を持つオーブに親近感を抱いていた、すると彼らのすぐ後ろに……ヴィアがアースラから転移してきた。
「ヴィアさん? どうしたんですか?」
「う、うん……少し故郷の空気を吸いたいなーと思って……調べたいこともあるし」
(……?)
なのはは昨日写真を見られた時と同じような反応を見せるヴィアに疑問の目を向ける、しかしユーノは気にすることなく、屋上から見える軍施設らしき場所を指差す。
「とりあえず反応があったあそこに向かおう、ヴィアさんはどうします?」
「ごめんなさい……その、ちょっと行きたいところがあるの、すぐに戻ってくるから」
「解りました、それじゃなのは……行こう」
「う、うん」
なのははヴィアの態度を不思議に思いつつも、ユーノと共に徒歩でオーブ軍施設に向かって行った……。
その頃アースラでは、ブリッジでモニタリングをしていたエイミィがクロノにある質問をしていた。
「ねえクロノ君、どうしてヴィアさんまでオーブに降ろしたの?」
「いや、出発する前に母さん……リンディ提督から言われていたんだ、もし彼女が何かしたいようだったらできる限り許可してくれって」
「提督が……?」
ヴィアとリンディ、ついでになのはの母桃子やシンの母親は齢が近くママ友のような関係を持っていた。
故にクロノは彼女達同士で自分達には話せないような話をしていたのかもと半ば納得していた。
(考えてみればあの人……謎が多い人だよな)
PT事件の時はプレシア・テスタロッサの協力し、FCの技術であるアルティメット細胞のデータを盗み出し独自に研究を重ねていたヴィア、その後彼女は管理局に保護観察兼専属の研究者となり、リバースという薬を作りリインフォースアインを消滅の運命から救った。
その後も彼女は管理局で数々の功績を上げ、何気に局内で確固たる地位を築いていた。
しかし彼女のそれ以前の経歴はCE出身だという事以外は解っておらず、何故リバースを作ったのかという詳細な行動目的も不明なままだった。
(……少し調べてみるか)
数十分後、なのは達はジュエルシードの反応があったオノゴロ島基地の入り口前にやってきた。
「この中だね、ジュエルシードの反応があったのは」
「よかった、まだ発動していないみたいだ、でもこのまま中に入ることは出来なさそうだね……」
「うーん、私たちを中に入れては……くれないよね、軍施設だし」
なのはとユーノはどうしたもんかとうーんと悩み始める、その時……なのはがある事を思いついた。
「そーだ! ユーノ君久しぶりにフェレットになってみれば!? そうすればこっそり中に入ることができるよ!」
「成程、じゃあ早速……」
そう言ってユーノは人目の付かない草場に移動し、約5年ぶりにフェレットに変身した。
(それじゃなのは、僕はこのまま中の様子を見てくるからここで待っていて)
(わかった)
ユーノはなのはと念話でコンタクトを取った後、基地の門の隙間から中に入って行った。
その様子を確認したなのはは、そのまま近くに立ててあったフェンスに凭れ掛かった。
「さーて、ユーノ君の連絡があるまで待ちますか……」
そう言ってなのはは日が沈みかけてオレンジ色に染まる空を見上げる。
[トリィ]
「ふえ?」
その時、どこからともなく緑色の羽をもった小鳥のような生き物が飛んできて、そのままちょこんとなのはの肩に泊まってしまった。
「あ、あの君……? どうしたのかな?」
[トリィ!]
「??? 変わった鳴き声をするんだね?」
なのはは訳が解らず頭を傾げる、その時……フェンスの向こうにある基地施設から、黄色の作業服を着た、茶が混じった黒髪に紫色の瞳をした16歳ぐらいの少年が駆け寄って来た。
「どこいったのトリィー? ……ってそんなところにいたんだ、あ……」
少年はなのはの姿を見て思わず立ち止まり、そのままぺこりと頭を下げた。
「す、すみません、それ僕のなんです、迷惑を掛けてしまって……」
「……? い、いえいいんですよ、可愛らしいペットですね」
なのはその少年の顔を見て一瞬口籠ってしまった、何故なら彼の顔が自分のよく知っている誰かと似ていると感じたからである。
(あれ? この人誰かに似ているような……ああそうだ! ヴィアさんに似ている!)
なのははヴィアも彼と同じ茶色の髪に紫色の瞳だった事を思い出し、納得してうんうんと頷いた。
すると少年はにこやかな笑顔でなのはと肩に乗る小鳥に話しかける。
「でもトリィが人に懐くなんて珍しいなあ」
「と、トリィってこの子の名前ですか? 可愛らしいですね……」
「ははは、やっぱり安直ですかね……でも友達からもらった大切な物なんですよ」
するとなのはは5年前のPT事件の後、フェイトと再会を約束してリボン交換をした事を思い出し、目を細めて微笑みながら小鳥……トリィを優しく撫でた。
「私にもありますよ、友達にもらった大切な物……今は離れ離れになっちゃいましたけど」
「……離れ離れですか」
「はい、今その子を探しているんです」
すると少年は深刻そうな顔をして俯いた後、再び顔を上げてなのはを見る。
「僕も……仲良しだった友達と離れ離れになっちゃったんです、トリィも……彼が作ってくれた物で……」
「“作った”? え? この子作り物だったんですか!?」
なのはは本物と見間違えるほどのトリィの精巧な出来に驚く。
(魔法は無い世界だけど、やっぱり私の世界のように科学技術が進んでいる世界なんだね……)
[トリィ!]
するとトリィは何かを見つけたかのようになのはの肩から飛び立ち、そのままどこかに行ってしまった。
「あ! トリィ!」
少年はすぐさまトリィの後を追おうとする……が、途中で足を止めてなのはの方を向いた。
「僕はキラ・ヤマト! 君は!?」
「私……私は高町なのはです!」
「高町さん! トリィを見てくれてありがとう! それじゃ!」
そう言って軽く自己紹介をした後、キラと名乗った少年はそのまま走り去って行った。
「キラ・ヤマト……か」
[マスター、少しよろしいでしょうか]
不意に待機状態のレイジングハートがなのはに話しかけてくる。
(? どうしたのレイジングハート?)
なのはは念話でレイジングハートの問いに答えた、するとレイジングハートは……驚くべき事実をなのはに伝えた。
(先ほどの少年……キラ・ヤマトから微弱ながらジュエルシードの反応がしました、恐らくシン・アスカと同じように、体内にリンカーコアとして取り込んでいる模様です)
「え!!?」
なのははすぐにキラが先ほどまでいた方角を見る、そこにはもう誰もいなかった……。
一方その頃、インド洋に浮かぶ無人島……地図にも載っていないこの半径1キロメートルほどの大きさの島の中心には、白いコンクリートでできた建物がある。
数日前、たまたま近くを通ったザフト軍所属の潜水艦ボズゴロフがこの建物を発見し、中を調査した結果、何者かが建物の中で何かの人体実験や、見たことのない技術を使ったエネルギー実験が行われた形跡が残っていた。
現在はボズゴロフが基地から大半の証拠物件を持ち出し、ジブラルタル基地に帰還後は基地の兵達が入れ替わりに捜査を付続けていた。
そして現在、島の周辺には調査にやって来た数隻のザフト軍所属の戦艦が巡回しており、何やら物々しい雰囲気を醸し出していた。
「うーん……中には入れそうにないなあ」
研究所から数百メートル離れた丘の上、そこではやては研究所周辺を巡回するザフト兵達を遠目で眺めながら、はあっとため息をついた。
その後ろでは、シャマルがクラールヴィントを使った探索魔法でフェイトとアルフの反応を探していたが、良い結果は得られなかったようだ。
「はやてちゃん……あそこにはフェイトちゃんとアルフちゃんはいないみたいです」
「そうか、まさかあの人たちに連れ去られちゃったんかなあ……」
はやては考え付く歓迎しがたい展開に眉を曲げる、するとそこに……偵察に出ていたヴィータとザフィーラ、シグナムとリインツヴァイが戻ってきた。
「はやてー! 今戻ったー!」
「はやてちゃーん!」
「皆おかえりー、どうだった?」
はやては皆の報告を聞くが、その中身は。
「すみません、あの研究所以外に怪しい物は発見できませんでした」
「周りも厳重に警備されています、強行突破できなくもないですがこの世界の人間に魔法攻撃を行うのは……」
「うーん、今のところ私らは入り込めへんなあ、フェイトちゃんがどこに行ったのかだけでもわかればええんやけど」
「とりあえず今はアインとアリシアちゃんが戻るのを待ちましょう」
その頃、偵察に出ていたアイン・アリシア組は、沿岸を歩いて捜索中だった。
「フェイトー! アルフー! どこいったのー!!?」
「おい、大声で叫ぶな……ザフト軍に見つかったらどうする?」
「? 私はこれでいつも紅龍やドモンを見つけるけど?」
「……」
アインは心の中で自分とアリシアの考え方の違いに頭を抱えていた。
アリシアはヴィータよりも冷静さが足りず、猪突猛進で戦術を考えずに本能で突き進むタイプであり、何か起こるか解らない戦場では真っ先に命を落とすタイプであるとアインは分析していた。
(私が何とかしなくては……)
アインが心の中で決意する一方、アリシアはどんどん先に歩いて行きフェイト達の名前を大声で叫ぶ。
「フェイトー! アルフー! どこいったのー!? お姉ちゃんが迎えに来たよー!」
「だから……お前はさっき言ったことを聞いていなかったのか? ……ん?」
その時アインは、砂浜で釣りをしている水色の天然パーマの青年を発見する。
すると釣りをしていた青年はアインとアリシアに気付き、ぽやーとマイナスイオンのようなものをまき散らしながらにこやかな笑顔で挨拶をしてきた。
「おや? こんにちは……観光ですか?」
「こんにちわー!!! 釣れますか―!?」
「お、おい……!」
対してアリシアは何も考えなしに青年に大声で挨拶し、アインの制止も聞かずそのままトコトコと彼に近寄っていった。
「ちょっと聞きたいんですけど、この辺に私そっくりの子とオレンジ色の子犬、もしくはオレンジ色の髪をした女の人を見かけませんでした?」
「あなたそっくりの人? ふむ……」
青年はアリシアの顔を見てしばらく考え込み、そしてにっこりと笑って口を開いた。
「そう言えば数日前……君そっくりの子がザフト軍の船に乗せられているのを見ました、きっとジブラルタル基地に向かったと思いますよ」
「おおお!? そりゃ本当に!?」
「ジブラルタル基地……ザフトの本拠地か、まずい事になったな……」
そう言ってアインは頬杖をついて今後どうしていくべきかを思案する、一方青年は急に釣り道具を片付け始めた。
「あれ? もう釣りはやめるの?」
「ええ、もうすぐここも爆破されてしまいますから」
「何?」
その時、基地周辺に異常事態を告げるサイレンが鳴り響き、周辺にいたザフト兵達が慌てて戦艦に乗り込み始めた。
「……! 何かあったみたいだね!」
「どうやら爆破装置を解除したことがバレたみたいですね、改めて証拠隠滅するようです」
「何……!?」
アインは何かを知っている風の青年を引き留めようとするが、青年は足早にその場を立ち去ろうとしていた。
「あなた達も早く逃げた方がいい、世界が混ざり合ったことで助かることができた命なのだから」
「貴様!? 何を知って……!?」
すると青年の足元に魔法陣が出現し、彼はそのまま光と共に何処かに去って行った……。
「行っちゃった!? 魔法!?」
「なんだったんだ奴は……!?」
その時、アインの脳内にシャマルからの念話が届く。
(アイン聞こえる!? 基地からものすごいエネルギーが膨れ上がっているのが感知されたの! 急いでここから離脱するわよ!)
「なんだと!? くっ……アリシア、ここから逃げるぞ!」
「へ!? はわわわわ!!」
アインは飛ぶことができないアリシアを抱えて飛び立ち、その場から大きく離れる。
その数分後に研究所は突如大爆発を起こし、無人島の中心に巨大なクレーターを作って跡形もなく吹き飛んでしまった……。
今日はここまでにします、補足を加えるとキラはなのはと出会った後、原作通り潜入捜査に来ていたアスランたちと出会います。
次回はフェイトやザフト側の話をメインに進めていこうと思います。