第三話「原罪の創造主」
ザフト軍ジブラルタル基地にある医務室のベッド……そこでフェイトは目を覚ました。
「あ、あれ? 私一体……」
「フェイト!? 起きたんだね!」
すると病室の扉が開け放たれ、そこからおとなフォームのアルフが入ってきた。
「アルフ? 私一体……」
「フェイト、あのクルーゼって男が見せた資料を見て倒れたんだよ、無理もないさ……小さい頃のトラウマが掘り起こされたんだから」
「あ……」
フェイトは自分が気を失う直前の出来事を思い出す、クルーゼが持ってきた資料に自分の出生に関わるプロジェクトに一端が乗っており、母に虐げられた過去がフラッシュバックしてしまったのだ。
「ごめん、迷惑掛けて……母さんのことは吹っ切ったつもりだったんだけど……」
「しょうがないよ、私だってあの女のしたことは今でも許せていないんだから」
「うん……あれ?」
その時フェイトはふと、アルフが犬耳を生やした人間の姿になっていることに気がつく。
「アルフ、どうしてここで人型に? 誰かに見られたら……」
「あ、あのぉ、それがね……」
対してアルフはなにやらバツが悪そうに、フェイトの機嫌を伺うかのようにチラチラと彼女の顔を見る。
「おや、どうやら目が覚めたみたいだね」
するとそこに、クルーゼが病室に入ってくる、するとフェイトはすぐにアルフに小声で話しかけた。
(アルフ! 早く耳隠して!)
「そ、それがねえ……」
「もう隠す必要はない、君が倒れた時に彼女が子犬から人間の姿に変わったのを目撃したからね」
「えっ」
クルーゼの言葉を聞いてフェイトはアルフのほうを向く、対してアルフはとても気まずそうにフェイトから目を逸らした。
「大変だったよ、君に駆け寄ったと思ったら、今度はこちらに襲い掛かってきてねぇ……まあすぐに大人しくなってくれたが」
「す、すみません」
フェイトは主人の責任と言わんばかりにクルーゼに頭を下げる、対してクルーゼはフッと笑い近くに置いてあった椅子に腰掛けた。
「そんなことはどうでもいい、それよりもその少女……いや、君たちは何者なのだ? 子犬が人間に変わるなんて技術、聞いたことが無い」
「「……」」
クルーゼの質問に、フェイトとアルフは身構えながら何も答えない。
「……君たちの正体は口外しないことを約束しよう、幸い彼女が変化した姿は私しか見ていないからね、ただし黙秘を貫くようならこちらも手段を選ぶことはできない」
「……わかりました」
クルーゼの要求に、コクリと頷いて了承の意思を示すフェイト。
「フェイト!?」
「言うとおりにするしかないよ、信じてもらえるかどうか微妙だけど……」
フェイトはクルーゼに自分たちの正体を明かした、時空管理局の存在、自分たちが事故でこの世界に来たこと、自分たちが知っている限りのあの研究所の事などを……。
「…………異世界、そして魔導……にわかには信じがたいが、そこのアルフ君の事もある……頭から否定することはできないな」
「は、はあ……」
クルーゼはフェイトの話を半分ほどしか信じていなかった。そしてこれからどうしようかと考えているフェイトに話しかける。
「それに……先ほどの君のリアクションを見る限り、今回の件に深く関わっているのは間違いないだろう、そこでだ……君達、私に協力する気はないかね?」
「「え?」」
クルーゼの提案に、フェイトとアルフは互いに顔を見合わせ、そのまま同時にクルーゼの方を見る。
「君たちはあの研究所の真実を知りたいのだろう? つまり我々の目的は同じという訳だ……君達が私に協力してくれるのなら、私達が集めた情報を君に提供しよう、そして……」
「私たちが集めた情報をそちらに提供しろと……」
「そういうことだ、どうだね?」
フェイトはクルーゼの提案に対し、しばらく自分だけで思案する……そして結論を出した。
「解りました、あなたに協力します」
「フェイト!?」
「仕方ないよ、私達には今なのは達の元に戻る手段が無いんだし、今やれることはやっておこうと思う、それに……」
フェイトは一度クルーゼの方をチラッと見て、ふふっと微笑んだ。
「クルーゼさんは……悪い人じゃないと思う」
「あの仮面男がぁ? うーん……フェイトがそう言うなら従うけど……」
フェイトは何故かクルーゼに対し親近感のようなものを抱いていた、対してアルフは無理やり自分を納得させた。
「話は纏まったかね? ではこれからよろしく頼むよ、フェイト君だったかな?」
「はい、フェイト・T・ハラオウン、こっちはアルフです。よろしくお願いしますクルーゼさん」
こうしてフェイト達は管理局への連絡方法が見つかるまでの間、クルーゼに協力することにした……。
その頃、オーブ国内にある街中の図書館……そこでヴィアはここ数年間CEで起こった出来事を手当たり次第に調べていた。
「ナチュラルとコーディネイターの戦争……しかもこの世界でもMSが開発されていたなんて……」
ヴィアはぶつぶつと呟きながら、本棚から手当たり次第持ち出したスクラップ記事を読み漁る、すると……ある出来事を記した記事が目に留まった。
「これは……! メンデルの……!」
それは約16年前に起こったとあるコロニー事故の記事だった、その記事は新聞の片隅に小さく載っているだけで、行方不明者が数名出ていることしか記されていなかった。
(やっぱりそう記されているだけよね、生存者の事も書いていない……)
ヴィアは少し落胆した様子でそのスクラップ記事を閉じ、集めた本を片付け始めた……。
そして数分後、ヴィアは深くため息をつきながら図書館を出た。
(できればあの子達がどうなったか知りたかったけど、仕方ないわね……)
ヴィアはそのまま通信機を取り、アースラから迎えを呼ぼうとした、その時……。
「……姉さん?」
「え?」
突然、近くを歩いていた中年夫婦がヴィアに話しかけてきた。
「あ、あなたは……!」
ヴィアはその中年夫婦を見て、まるで金縛りにあったかのように動けなくなっていた、そして夫婦の片割れ……紺色の髪をウェーブ気味に伸ばしている女性が、ヴィアに歩み寄って肩を掴んできた。
「姉さん! ヴィア姉さんなんでしょ!! 私よ! カリダよ!」
「か、カリダ……それにハルマさんまで……」
「なぜあなたがここに!? 生きていたんですか!?」
夫の方……ハルマも、ヴィアの姿を見て駆け寄ってくる、対してヴィアは戸惑うばかりで何をすればいいのか解らないでいた。
「生きていたのならどうして連絡をくれなかったの!? 私たちがどれだけ心配したと……!」
「あのっ、それは……」
「ヴィアさん……お取込み中でしたか?」
するとそこに、どういう訳かクロノがヴィア達の前に現れた。
「クロノ君!? なんでここに!?」
「失礼ですが、あなたを監視させてもらいました、僕自身のちょっとした疑問を晴らす為に……そちらの方達は?」
「なんですか貴方!? 姉とどういった関係なんですか!?」
突然現れたクロノに対し、カリダは取り乱した様子で喚き散らした。そんな彼女をクロノは軽く受け流し、そのままヴィアの方を向く。
「成程、妹さんでしたか、そう言えばどことなく似ているような……」
「……そんな話をする為に迎えに来たんじゃないんでしょう?」
「はい、少し聞きたいことがあるんです、取りあえずアースラに帰りましょう、なのは達も任務を終えたようですしね」
それから数分後、ヴィアと共にアースラに戻ってきたクロノは、調査を終えて戻ってきたなのはやはやて、ヴォルケンリッターの面々とユーノ、そしてアリシアをブリーフィングルームに集めた。
「二人とも報告書は読んだよ、まさか施設が爆破されるとはね……」
「研究所の持ち主はもっと早く爆破するつもりやったらしいけどな、リインフォース達が会った男の子が爆破装置を解除したらしいんや」
「誰なんだろうねその子、その子の正体も調べる必要があるね」
「ああそうだな、それともう一つ君たちに聞いてほしい事があるんだ、ヴィアさんの事でね……」
そう言ってクロノは座ったまま俯いているヴィアの前に、ある生物学雑誌を置いた。
「この世界の事を調べているうちにあなたの名前を見つけました、ヴィアさん……あなたはミッドチルダに来る前、彼と一緒に働いていたんですね」
その雑誌の表紙にはある男性研究員の写真が大きく載っており、見出しには“コーディネイター研究の第一人者、ユーレン・ヒビキ博士のインタビュー”という文字が書かれていた。
「ヒビキって……ヴィアさんと同じ名字じゃん」
「司令、この男がどうしたのですか?」
ヴィータとシグナムの質問に、クロノは雑誌を手に取ってぱらぱらとめくりながら答える。
「ユーレン・ヒビキ博士……コーディネイター研究の第一人者であるが、16年前にコロニーの事故で妻と二人の子供と共に行方不明になってしまった……ユーレンの妻であり、同僚でもあるその女性の名前はヴィア・ヒビキ、あなたの事ですよね?」
クロノはとある女性の写真が載っているページをヴィアに見せる、写真の女性は……16年前の若き日のヴィアだった。
「え……!?」
「ど、どういうこと……!?」
自分たちの知らないヴィアの過去を目の当たりにし、なのは達の間に動揺が走る。するとヴィアは顔をふっと上げて、少し自嘲めいた笑みを浮かべて語り始めた。
「その通りよクロノ君、そこに映っているのは私……夫のユーレンと共にコーディネイターの研究を……いえ、もっとひどい事をしてきたわ」
「ひどい事って……?」
「ええそう、自らの欲望の為に、我が子すら実験台にした悪魔の所業よ」
ヴィアは遠い目をしながら、自分と夫が犯した罪をポツリポツリと語り始めた。
「あのね皆、コーディネイターって言ってもシン君は幸運なパターンなの、遺伝子をいじくった胎児を育てる母体っていうのはものすごく不安定なものでね、親の希望通りに生まれてくる子は100%じゃない……瞳の色が希望と違うというだけで捨てられる子もいたわ」
「…………」
ヴィアの話に真剣に耳を傾けるなのは達。
「だから私たちは……夫は、そんな不幸な子が生まれないように、人類のさらなる発展の為に研究を重ねたわ、でも夫はそのうち暴走し始めたの、中々成果を見せない研究に道を見出す為に、人体実験や禁止されているクローニング技術にも研究資金目的で手に染めたわ」
(クローンって……)
ヴィアの瞳には次第に涙が溢れていた、それでも彼女は声を振り絞って話を続けた。
「そして……そして数多の子の犠牲の末、あの人は私のお腹の中にいた子を実験台にしたの、人類の夢……スーパーコーディネイターを生み出す為に、実験は成功……あの人はついに自分の野望を果たしたのよ、でもその後にあの事件が起こった」
「……16年前のコロニーメンデルの事故ですね」
クロノの質問に、ヴィアは首を横に振った。
「あれは事故じゃない……テロだったの、恐らくブルーコスモスがスーパーコーディネイターと、それを生み出した私たちの事を脅威に思ったのでしょうね、死んでいくコロニーの中で私はまだ赤ん坊だった子供たちを妹に託して死ぬつもりだった、でも……」
ヴィアは涙をぬぐい、話を昔の友人の思い出話に切り替える。
気が付いたら私はミッドチルダの山奥にいた、どうして自分が生きているのか、そこがどこなのか解らなかった私は、数日ほど当てもなく森の中を彷徨ったわ。
そして衰弱して行き倒れていた私は、いつの間にか誰かに助けられて山の中の小屋のベッドの中で眠っていた。傍には……カプセルの中で眠っているデスティニーとノワールがいたわ。
自分が助けられた理由もわからず、私は小屋に置かれていたミッドの本を読みながら死人のようにその小屋で暮らしたわ、そして十数年後……私はプレシアに出会った。
あの頃のプレシアはまだ心に余裕があったし、私も久しぶりに人と話せるのがうれしくて、すぐに友達になって、プレシア達の屋敷に招かれたわ。
ある日私はプレシアがプロジェクトF……クローンを使ってアリシアちゃんを生き返らせようとしている事を知った、私の夫と同じような過ちを彼女に犯してほしくなくて必死に止めたわ、でも彼女は聞く耳を持たず、やがてフェイトちゃんが生まれた……。
案の定、プレシアの望むような結果は得られなかった、だってそうでしょう……? クローンとはいえ、フェイトはフェイトちゃんという一つの命なのだから、アリシアちゃんになれないのは当然だわ。
でもそれが解らないほどプレシアの心は壊れ始めていた。彼女は次にアルハザードの地でアリシアちゃんを生き返らせようとして、無理な魔導実験を繰り返して死の病に侵されてしまった。私は……そうなっていく彼女を止めることができなかった。
「あとはみんなの知っての通り、プレシアは標的をジュエルシードに変えてアルハザードにあると言われている蘇生の秘術を使ってアリシアを甦らせようとした、そうして起こったのがPT事件よ」
ヴィアの話が一区切りし、ブリーフィングルームを沈黙が包む。
「……この十六年の間に、そんなことがあったのね」
するとブリーフィングルームに、何故かカリダ、ハルマ夫妻が入ってきた。
「え? あの、どちら様……」
「この方達はヴィアさんの妹さんと、その旦那さんだそうだ」
「ええ!? ご家族の方ですか!」
クロノの説明を受けて驚愕するツヴァイ、その他のメンバーも似たような反応だった。
そしてカリダは瞳に涙を溜めて、項垂れているヴィアにすり寄った。
「姉さん……! どうしてもっと早く帰ってきてくれなかったの!? 私達がどれだけ心配したと思っているの!?」
「……私がこの世界でしたことは許されることじゃないわ、あなた達にも多大な迷惑を掛けてしまったし……ここに戻るには私の手は血で汚れすぎている……」
そう言ってヴィアは自分の震える両手を見つめる。するとその震える手を、ずっと黙って話を聞いていたアリシアがそっと握った。
「……ヴィアさんの手は汚れてなんかいません」
「アリシアちゃん……」
「確かに……確かにヴィアさんは昔、沢山悪い事をしたかもしれません……でも私が今こうしてこの場に居られるのはヴィアさんが母さんを支えてくれたから……だから汚れてなんかいません……!」
アリシアは震える声で自分の心の内をさらけ出す、すると後ろからアインが彼女の肩をポンと叩いた。
「……私が天に帰ろうとした時、あなたが私に送ってくれた言葉は今でも忘れません……あの言葉があったから、私は今も主と騎士達と一緒にいることができるのです、だから私はあなたの力になりたい、あなたの背負っている物を少しでも軽くしてあげたいのです、だから……自分だけで苦しまないでください」
そして最後に、クロノが優しい口調で語りかけてきた。
「あなたは今回の件……参加しなくてもいいはずだった、でもあなたは逃げずにこの世界に戻ってきた、自分の罪に向き合おうとしている者を責める者はここにはいません」
「みんな……」
ヴィアはブリーフィングルームにいるなのは達が、自分に対し暖かい視線を送っている事に気付く。クロノの言うとおり、ヴィアの過去を聞いて彼女を軽蔑したりする者は一人もいなかった。
「みんな……ありがとう……」
ヴィアはこんな自分がいつの間にか沢山の子達に慕われている事を知り、言いようのない嬉しさを感じていた。すると……それまで話を聞いていたカリダも優しい口調で語りかけてきた。
「姉さん……私達と離れ離れの間も色々なことがあったのね、でも元気そうで安心したわ」
「ええ……私は幸せ者よ……」
そしてカリダは何かを思い出したのか、急にヴィアの前に立っって彼女の肩を掴んだ。
「そうだ……! 今ならまだ間に合う! 姉さん、今すぐオーブに戻って!」
「ど、どうしたの急に? 私の都合でアースラをここに留まらせるわけには……」
「姉さんの子供……まだ生きてるの! キラもカガリもこのオーブにいるのよ!」
「「えっ!!?」」
ヴィアと、“キラ”という名前を耳にしたなのはは思わず驚愕の声を上げた……。
数日後、オーブのモルゲンレーテ港……そこから一隻の白い戦艦……アークエンジェルが、いくつものオーブ軍の軍艦に護衛されながら出港していた。
そしてその様子を、オーブ領海の外から監視している一隻の潜水艦……ザフト軍のクストーがあった。
その艦の発令所に、ザフト軍服の上着を着込んで駆け込んでくる一人の若者がいた。
「演習ですか?」
若者が尋ねると、艦長らしき男がデータパネルに顎をしゃくってみせる。
「スケジュールにはないがな、北東へ向かっている……艦の特定はまだか?」
艦長らしき男はオペレーターに反応の特定を急かす。そして……そのまま深くため息をついた。
「しかし……我々も運がない、この反応があの足つきだったとしても、四機のGが動かないのではどうしようもないな」
「原因究明は進んでいるのですか?」
「技術班の話ではあと半日は掛かるらしい、まったく……この肝心な時に、地球軍の兵器だからか?」
「何にせよ次の機会を伺うしかないでしょう……」
そう言って若者は憂鬱そうな顔で物思いにふけっていた……。
オーブ沿岸にある人気のない崖の上……そこに以前無人島でアインとアリシアと出会った青髪の少年が座ったまま海を眺めていた。その膝の上には……ノートパソコンが置いてあった。
「さて……お膳立ては整ったね、それでは動くとしますか……」
少年はノートパソコンを畳むと、すくっと立ち上がる。
そして……背中に生えた青い翼をバサッと広げた。
「君達には死んでもらうよ、キラ・ヤマト、アスラン・ザラ……この世界が生きるために」
本日はここまで、この時点で色々と原作と変わっていきます。ある人も死なずに済みましたね。やったね○○○! もう死亡シーンを使い回されずに済むよ!
今は説明不足な点が多いですが、これからちょっとずつ明かしていくつもりです。
次回はストライクとイージスが死闘を繰り広げたあの回をやります、なのは達を関わらせるなど原作と展開を大幅に変えてあるのでお楽しみに。ジャンク屋の彼も出すかも?