第四話「雷雨の中で」
アークエンジェルがオーブから出向して数日後、艦は目的地のアラスカに向かって航行を続けていた。
そしてそのアークエンジェルの居住区……そこでキラは窓から見える暴風雨が降り注ぐ景色を眺めながら、これまでの事を思い返していた。
(ヘリオポリスでカガリと出会って、ストライクに乗り込んでから3か月近く経つんだ……)
三か月前、キラの暮らしていた中立のコロニー“ヘリオポリス”は、クルーゼ率いるザフト軍に襲撃された、ザフト軍の目的はヘリオポリス内で製造されていた地球軍の勢力の一つ、大西洋連邦が製造した4機の試作MSであり、キラは逃げる最中にそのうちの一機“ストライク”に乗り込み、ザフト軍を撃退した後に、友人たちと共にストライクの運用艦であるアークエンジェルに乗り込み、ザフト軍の攻撃で崩壊しようとしていたヘリオポリスから脱出した。
その後宇宙要塞アルテミスでユーラシア連邦に拿捕されそうになりつつも危機を脱し、地球に降下しようとした際にザフト軍の強襲を受け、地球連合軍第8艦隊の犠牲の末にアークエンジェルは降下目的地のアラスカから大きく離れた、ザフトの勢力下であるアフリカに降下してしまった。
アフリカでは砂漠の虎バルドフェルド隊の攻撃を受けつつも、現地のゲリラの援護を受けて撃退し、マラッカ海峡でも攻撃を受けるが凌ぎ、艦に乗艦していたカガリの手助けで中立国であるオーブに逃げ込んだ。
そして修理を終えたアークエンジェルは現在、アラスカの連合軍本部のあるJOSH-Aに向かって航行していた。
「色々なことがあった……本当に……」
そう言ってキラは自分の手を見つめる、キラはストライクに乗ってこれまで何度も生死を掛けた戦いを繰り広げてきた、奪ってしまった命の数も決して少なくない、守れなかった物もあった……その現実が彼の心を苦しめていた。
そしてキラ自身にはもう一つ、気がかりなことがあった。
(アスラン……君たちはまた僕らの前に立ち塞がるのか)
それはヘリオポリスのMS……イージスを奪ったザフト兵の中に、幼馴染のアスランがいた事であり、彼は幾度となく他のザフト兵と共にアークエンジェルの前に立ちはだかった。
戦場で再会した二人は幾度となく言葉を交わした、しかし互いの守りたい物の為に、現在は袂を別っていた。
(恐らくアラスカに着く前にもう一度襲撃してくるだろう、本当はオーブから出てすぐに攻撃してくると思ったけど……)
実はオーブに滞在していた際、キラはモルゲンレーテの作業員に変装して偵察に来ていたアスランと出会っていた、キラは出港してすぐにアスラン達が仕掛けてくると予想していたが、特に何もなくここまで来ていた。
「また僕達は戦わなきゃいけないのかな……」
[トリィ]
するとそこに彼のペットロボット……かつてアスランに作ってもらったトリィが現れた。
「そうだねトリィ、僕がこの艦を守らないと……」
[トリィ]
ふと、キラはオーブで出会ったサイドテールの少女の事を思い出す、彼女の花のように優しい笑顔が、何故かキラの脳裏から離れなかった。
[トリィ]
「そうだねトリィ、また高町さんに会えるといいね」
そう言ってキラはトリィを優しく撫でる。彼の表情は自然と微笑んでいた。
「お! キラじゃん!」
「こんな所で何しているの?」
するとそこに、キラの友達で現在は連合軍の軍人としてアークエンジェルに乗艦しているトールとミリアリアがやって来た。
「トール、ミリィ……ちょっと外の景色をね……」
「キラ、なんだか疲れた顔しているわよ、大丈夫?」
「うーん、スカイグラスパーが不調にならなきゃ、俺も援護してあげられるんだけどなあ」
そう言ってトールは残念そうな顔でうんうんと頷いた。
「どうして急に動かなくなっちゃったのかしらね……おかげで今はフラガ少佐の一号機しか使えないのよね」
「せっかくシュミレーターで何度も訓練したのに……! ごめんなキラ、お前ばかりに戦わせて……」
「いいんだよトール、気持ちだけでも嬉しい」
そう言ってキラは乾いた笑みを浮かべる、するとミリアリアはある事を思い出しキラに質問する。
「そう言えばキラ……なんだかフレイと話していないみたいだけど、何かあったの?」
「……何もないよ」
キラの脳裏にヘリオポリスから一緒に逃げてきたフレイが浮かび上がる、キラは宇宙でのザフトとの戦いの際、フレイを迎えに来た彼女の父親の艦を落とされてしまい、“何故守ってくれなかったの!?”と激しい罵声を浴びせられていた。
しかしその後戦いを重ね心身を疲労させていくキラをフレイは“体”を使って慰め、二人は肉体的な関係を持っていた、フレイにはサイという婚約者がいるにも関わらず。
ちなみにサイはキラの友達でもあり、アークエンジェルに兵隊として乗り込んでいる彼はフレイをキラに奪われた事に激怒し、彼に殴りかかるが簡単に抑え込まれてしまい、現在は口も聞いていない状態だった。
「あのさ……なんて言ったらいいか解らないけど、愚痴や悩みなら聞くことぐらいはできるとおもうから、だから……あまり自分だけでしょい込むなよ」
トールは友人達がいざこざを起こしている事に、キラに任せきりで何も力になれなかった自分自身に責任を感じていた。
ストライクの支援機である戦闘機……スカイグラスパーに乗ろうとしたのも、もうこれ以上キラに重荷を背負わせたくないと思ったからなのかもしれない。
「うん……そうだね……ありがとう」
その時、アークエンジェル全体に敵襲を告げる警報が鳴り響く。
『総員第一戦闘配備! 総員第一戦闘配備!』
「警報!? ザフト軍がまた攻めてきたのか!」
「もうすぐアラスカなのに……!」
「二人はブリッジへ! 僕はストライクで出る!」
そう言ってキラは一目散に格納庫に駆けていく。
その道中で彼は同じくアークエンジェルに乗艦している金髪の連合軍軍人……ムウ・ラ・フラガ少佐と合流する。
「よう坊主! 今回もよろしく頼むぜ!」
「はい!」
二人はパイロットスーツに着替えそれぞれの機体……キラはストライク、ムウはスカイグラスパーに搭乗する。
「装備はランチャーストライカーで出ます! 換装を!」
キラの乗るGAT‐105……ストライクはストライカーパックと呼ばれる装備を換装することで様々な戦況に対応することができる。
先程キラが言っていたランチャーストライカーは砲撃による長距離戦闘を得意としており、多大な火力を保有している。
ちなみにストライカーパックは他に近接戦闘を得意とするソードストライカー、高機動戦闘を得意とするエールストライカーがある。
そしてキラの乗るストライクの目に前にあるハッチが開け放たれる、外には雷雨が降り注ぐ薄暗い空が広がっていた。
『ストライク発進どうぞ!』
「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」
オペレーターのミリアリアとシグナルの合図と共に、ストライクはすべるようにカタパルトを使って勢いよくアークエンジェルから出撃した。
『キラ君、敵影は4、恐らくクルーゼ隊に奪われたGよ……またよろしくね』
『もうすぐアラスカだ、我々はこんなところで落とされる訳にはいかないぞ』
「わかりました、マリューさん、ナタルさん」
キラは通信を送ってきた艦長のマリューと、副長のナタルのエールを受けながら戦場へ飛んでいく。
一方その頃アークエンジェル付近にある無人島……そこでは四機のMSが茂みに隠れながら戦闘態勢に入っていた。
『ストライク……今日こそ落としてやるぞ!』
『熱くなるなよイザーク、焦ってちゃ取り逃がすぜ』
『何としても足付きをアラスカに辿り着かせる前に落としませんとね』
(キラ……)
四機のMSのパイロット達はそれぞれの思惑を秘めながら、海を渡るアークエンジェルを待ち構えていた。
『よし……今なら背後から足つきを狙える! いくぞディアッカ!』
『おう! 俺もこんなジメジメしたところに座っているのはごめんだぜ!』
そして青と白のカラーリングを施した右肩に砲台を乗せているMS……デュエルと、緑と薄い黄色のカラーリングの砲撃機……バスターが、MS支援空中機動飛翔体「グゥル」に乗ってアークエンジェルに向かって行った。
『ニコル、君はミラージュコロイドで足付きに接近してくれ、俺は後ろからイザーク達を援護する』
『解りましたアスラン……ご武運を』
そう言って全身に黒いカラーリングを施したMS……ブリッツはふっと蜃気楼のようにその場から姿を消してしまった。
『キラ……! 俺はもう迷わない! 行くぞ!』
そして赤とピンクの中間ほどのカラーリングのMS……イージスもまた、他の三機と一拍遅れて行動を開始した。
~アークエンジェルブリッジ~
「後方レーダーに反応! 機種特定! デュエルとバスター! 距離96000、相対速度およそ270ノットで接近中!!」
「きたか!!」
「やはり来たわね、ザフト……!」
オペレーターからの報告を受け、マリューはどう立ち回るか思案を巡らせる。
「さらにレーダーに反応! デュエルの後方5000にイージス!」
「ブリッツは!?」
「反応なし!」
「全方位警戒! 音紋索敵怠るな!」
「デュエル・バスター設定ラインまで5百……三百……踏みます!」
レーダーにはデュエルとバスター、そしてイージスの物と思われる反応が三つ映っていた。
(キラ君……ムウ……頼むわよ)
~ザフト側~
『ヒュー! いいねえ! 今度来る時はぜひバカンスで来たいもんだなイザーク!』
『ふふん……今日足つきをやれば明日にでも実現するさ! もっとも俺はこんな所に興味はないがな!』
バスターのパイロット……ディアッカと、デュエルのパイロット……イザークは、眼下に広がる南国の島々を眺めながらアークエンジェルに接近する。
するとアークエンジェルは浮上して船頭を180度回転させる。
『何!? 足つきが反転!?』
『ふんっ! 観念して反撃に出ようってのか!? 望むところさ!』
そう言って二機は接近する速度を速める、その時……海中から二機の背中に目掛けて極太のビームが発射される。
『何いいいいい!!?』
『後ろだと!!?』
ビームはバスターの脚をグゥルごと破壊し、バスターは海へ墜落していく。
そしてビームが放たれた地点からランチャーストライクが浮上してきた。
『ディアッカ!! おのれえええええ!!』
仲間が撃墜され激昂するイザーク、しかし怒りのあまりランチャーストライクの主要武器……アグニの二射目に反応することができず、直撃を受けグゥルから無人島に墜落してしまった。
『ぐぉ……! ストライクめ……!』
『デュエルのパイロット! 聞こえているか! この戦いは君たちの負けだ! 今すぐ機体を捨てて退却するんだ!』
(ストライクのパイロット……!?)
デュエルのコックピットに、ストライクに乗るキラから降伏勧告が来る。
『僕は……!』
~ストライクのコックピット~
「君達を殺したくはないんだ!」
キラはなるべく誰も殺さないように、デュエルに降伏を促した。
『キサマ……! 俺を馬鹿にするのか!?』
『何をしている!! さっさと撃たないか!』
しかしデュエルはまだまだ戦う意思があるのかギギギと起き上がり、アークエンジェルのナタルからデュエルを攻撃するよう催促の指示が出る。
それでもキラは自分の意思を変えない。
『もう一度頼む! 退いてくれ!!』
するとデュエルは自身の装甲……アサルトシュラウドを脱ぎ捨てて身軽な状態になる。
『このままおめおめと生き恥をさらすぐらいなら……!! キサマと刺し違える!! ストライクうぅぅ!!』
そしてそのままビームサーベルを持ってストライクに急接近する。
「くっ……! ばかやろう!!!」
キラは叫びながら迎撃を試みる、しかし今度は別の方角からビームが飛来し、アグニを真っ二つに破壊する。
『キラああああああ!!』
「アスラン!?」
ビームが飛来した方角にはMA形態に変形したイージスがいた。
そうしてキラが怯んでいる間にデュエルが背後から斬りかかってくる。
『もらったぁ!!』
「……!」
しかしキラは冷静にストライクをしゃがませ、サーベルを降り下ろそうとしたデュエルの手を取った。
『!!???』
そしてそのまま一本背負いの如く、デュエルを地面に叩きつけた。
『ひ、ひいいい!!?』
そして腰に装備してあったナイフ型の武器……アーマーシュナイダーをデュエルのコックピット付近に突き刺した。
『……!? な、何が起こっている!? 何故俺を殺さない!? 俺を殺せ……! ストライクうううううう!!!』
イザークはモニターが死んで真っ暗になったコックピットで叫び続けた。
『イザークが!? キラぁ!』
一方キラは肩に装備してあったバルカン砲で、飛来してくるイージスを迎撃する。しかしバルカン砲はすぐに弾切れを起こす。
「くっ……!」
『どうしたキラ!? 持ち駒はそれだけか!?』
アスランはイージスをMS形態に戻し、ビームライフルでストライクを攻撃する。
『キラ! 今日こそお前を……!!』
『させるかよ!!』
『!?』
しかしそこに、ムウの乗るスカイグラスパーが飛来し、スカイグラスパーが放ったビームがイージスのビームライフルを破壊した。
『ムウさん! ありがとうございます!』
『いいってことよ! ソードに換装しろ!』
ムウはそのままスカイグラスパーに搭載されていたソードストライカーを放出する、対してキラはストライクに装備していたランチャーの装備を外し、代わりに落ちてきたソードストライカーを装備した。
「アスラン!!」
『キラ!!』
ビームサーベルで斬りかかってきたイージスに対し、ストライクは大剣型武器……シュベルトゲベールで受け止める、そして両者はそのまま海上で何度も何度もぶつかり合った。
~アークエンジェルブリッジ~
「う、撃ち方やめ! ストライクに当たるわ!」
マリューはストライクを援護しようとする砲撃手を慌てて止め、現状を確認する。
「ストライクのエネルギー残量は!?」
「大丈夫! 一対一ならこちらが圧倒的に有利です!ストライクにはまだエールがありますがイージスには換装システムはありません!」
ナタルは勝ちを確信しながらマリューに報告する、そして他のブリッジクルーも次々と自分の責務を全うする。
「バスターの収容が了しました! パイロットも拘束しました!」
「フラガ機はストライクの傍に付き待機してください!」
『了解だ!』
「なあ、もしかして俺達勝てるぞ……」
「ああ、四機のG相手に……ん?」
その時一同は、相手がいつも四機で襲い掛かってくるのに今回はまだ三機しか出てきていないことに気付く。
その時、オペレーターの一人がアークエンジェルに接近する新たな機影に気付いた。
「左舷水切り音……!? これは……ブリッツ!!」
『これでおしまいにしましょう!』
突然現れたブリッツはアークエンジェルのブリッジに肉薄し、左腕に装備しているアンカー……グレイプニールを構える。
~ストライクのコックピット~
「! アークエンジェルが!」
アークエンジェルの窮地に気付くキラ、その瞬間彼の脳裏に種の弾けるイメージが浮かび上がり、頭の中がクリアになってくる。
『うわ!?』
そしてイージスを蹴り飛ばすとすぐにアークエンジェルに向かい、ブリッツの左腕を自身の右腕に装備していたロケットアンカー……パンツァーアイゼンを発射して掴み、自身に引き寄せる。
『くそっ!』
「……」
キラはそのままブリッツの右腕を切り落とす。
『う、うわあああ!!』
武器をすべて破壊され、ストライクに背を向けて逃げようとするブリッツ、しかしキラは容赦なくそのブリッツの機体を背後から真っ二つにしてしまった。
『あ……あ……! ニコル!!』
アスランはその様子を驚愕しながら見ているしかなかった……。
~ブリッツのコックピット~
(そ、そんな……母さん……! 父さん……!)
今にも爆発しそうなブリッツの中で、パイロットのニコルは故郷のプラントにいる両親の事を思い浮かべる、しかしその時……突然破壊されたはずの機器が再起動した。
「え?」
そして彼はそのまま、脱出装置により機体の外に放り出された。
~ストライクのコックピット~
ストライクに切り裂かれ、ブリッツは海面に落ちる数秒の内に爆散した。
『ニコルううううううううう!!!!』
「はっ! 僕は……!」
キラはアスランの叫びを聞き我に返る、そして爆散したブリッツを見て涙を流した。
(そうか……今のMSパイロットはアスランの……僕はもう……!)
イージスから放たれる怒りに、キラはもうアスランとは昔の様な親友の関係に戻れないという事を感じ取った。
「キラあああああ!! 俺はお前をおおおおお!!!」
「アスラン……! うわっ!!」
そしてMA形態に変形したイージスは、そのままストライクに組み付き、アークエンジェルから離れて近くの無人島に激突する。
そして次の瞬間、ストライクとイージスのいる無人島から、天を引き裂くような大爆発が起こった。
イージスがストライクを道連れに自爆したのだ。
~アークエンジェルブリッジ~
「キ……ラ……?」
ブリッジクルーたちはその光景を見て呆然としていた、そしてレーダーに新たな敵影が映し出される。
「ザフトの援軍……!? 艦長! このままここに留まっていては危険です!」
「ですがキラ君が……!」
「このままここで全員に死ねと命令するおつもりですか!!?」
ナタルの進言を受け、ナタルは歯噛みしながらも支持を出した。
「くっ……我々は撤退します、捜索はオーブに任せましょう……」
アークエンジェルはそのまま、ストライクらの残骸が残る戦場から撤退していった。……。
~十数分前、アースラの食堂~
「はあ……」
アースラの食堂、そこでヴィアはテーブルに座りながら深いため息をついていた。
そしてその様子を、なのはとヴィータは少し離れた位置から眺めていた。
「ヴィアさん元気ねーな」
「うーん、仕方ないんじゃない? 自分の子供が軍に入って戦争しているなんて聞かされて、私だったら色々考えちゃうよ……」
アースラは現在、ヤマト夫妻をいったんオーブに置いて行き、彼らが提供したジュエルシードが取りついているキラがアークエンジェルに乗っているという情報を元に、アークエンジェルの後を見つからないように追跡していた。
「しかしあのヤマト夫婦もよくわからねえなあ、預けられた双子の片割れ……カガリだっけ? オーブのお偉いさんに預けるなんて……」
「何か深い事情があったのかもね、でも辛いよね……互いに兄弟がいるってことを知らないらしいし」
ヤマト夫妻の話によれば、ヴィアの子供であるキラはヤマト夫妻が育て、もう一人の子供であるカガリは、現在オーブを束ねているウズミ・ユラ・アスハの後継ぎとして育てられているらしい。そしてキラには兄弟の存在は話していないそうだ。
「ヴィアさんどうするんだろう……子供には会わないのかな?」
「これから任務でそのキラって奴に会うかもしれないのになあ……まあこればっかりは本人の意思次第だしな、あたしらが強制できることじゃねえよ」
「うん……」
そう言って話をしているなのはとヴィータの元に、エイミィからの通信が入ってきた。
『二人共そこにいる!?』
「あん? どうしたエイミィ? そんなに慌てて……」
『緊急事態なの! すぐにブリーフィングルームに集まって!』
数分後、ブリーフィングルームに集められたなのは達は、神妙な顔つきのクロノからある説明を受けていた。
「キラ・ヤマトのMSが撃墜された……!?」
「先程アークエンジェルがザフト軍に襲撃され、ストライクが敵機の自爆に巻き込まれているのをモニタリングしたんだ、アークエンジェルはザフト援軍の追撃を逃れるためにアラスカに向かった」
「つまりキラ・ヤマトは置いてきぼりを喰らったと……?」
「……」
クロノとシグナムのやり取りを聞きながら、ヴィアは真っ青な顔で俯いていた。
「ヴィアさん大丈夫ですか? 医務室で休みます?」
「だ、大丈夫よシャマルさん……」
シャマルの気遣いに対し、ヴィアは無理やり作った笑顔で答える。
一方クロノはモニターを使って説明を続けた。
「アークエンジェルはオーブに行方不明者の捜索を任せたらしい、しかしキラ・ヤマトにはジュエルシードが憑依している、もし何かのきっかけで暴走でもしたら……」
「成程、キラ・ヤマト君だけでなく救援に来たオーブ軍の皆さんも危ないっちゅうわけやな、じゃあ私らのやることは……」
「ああ、僕達はオーブ軍より先にキラ・ヤマトを保護する、メンバーは……なのはとシャマル、それと念のためもう一人行ってほしいのだが……」
すると真っ先にアリシアとアインが手を上げた。
「はいはいはいはい!!! 私が行く!」
「ヴィアさんには色々と世話になった……その恩を今返したい」
「一人と言ったろうが……」
積極的な二人にクロノは思わず苦笑いし、その二人の気持ちを汲んだ。
「じゃあこの四人で行ってもらおう、僕たちは緊急事態に備えてアースラで待機だ」
クロノの指示に、その場にいた一同は一斉に頷いた。
そしてなのは俯いているヴィアを一瞥する
(ヴィアさん……キラ君は必ず見つけ出します、だから待っていてください……)
十数分後、なのはとシャマルとアリシアとアインは激しい雨が降りしきる中、ストライクが墜落した無人島に飛んでやって来た。
ちなみにアリシアは魔法が使えず自力では飛べないので、アインに抱えてもらっている。
「ひどい雨ね……風も出てきた」
「早い所終わらせよう、このままではキラ・ヤマトの命が危ない」
「そうだね……ん?」
その時、アリシアは海辺に誰かが打ち上げられている事に気付く。
「ねえねえ! 誰かあそこで倒れているよ!」
「ほんとだ! もしかしてキラ・ヤマト……!?」
四人は慌ててその人物の元に駆け寄る、そして……顔を覗き込んで確認した。
「うーん……この人は違うみたいね、キラ君は栗色の髪だけどこの子は黄緑色」
「一緒に撃墜されたのかな? ひどい怪我……」
「ううう……」
その時、倒れていた黄緑色の髪の少年はうめき声を上げる。
「どうやら生きているみたいだな、だがすぐに応急手当をしないと危険な状態だ」
「任せて、クラールヴィント」
シャマルは魔法を使って少年の傷を癒す、しかし少年の意識はいまだに戻らなかった。
「もっとちゃんとしたところで治療しないと……」
「どうします? オーブ軍の人たちがこの人を見つけてくれるかどうかわからないし……」
「少し待て、クロノ指令官に確認する」
そう言ってアインは念話でクロノに確認を取る。
「司令官から許可が出た、クルーが後でこの少年を回収するそうだ」
「それじゃ私たちはキラ君の捜索を続けよっか!」
なのは達は少年の保護をアースラに任せ、自分たちはストライクが墜落した現場に向かった……。
数分後、なのは達は薬品が燃えたような不快な異臭が漂うストライクの墜落現場に到着した。
「うわー、こりゃひどいね……」
「これではキラ・ヤマトも……」
なのは達は全壊のストライクを見てキラの生存を絶望視する、しかしその時……アリシアがあるものを発見する。
「お? 足跡発見!」
「足跡……?」
アリシアの指差す先には、天から降る雨がポタポタと落ちる地面しかなく、なのは達は首を傾げる。
「師匠達と修業してた時に、獲物を捕まえる為の足跡の見分け方を教わったんだ! どうやら男の人の物だよ!」
「流石アリシアちゃん……! 師匠さんもすごいね……!」
なのははアリシアと彼女の師匠のサバイバルスキルを目の当たりにして乾いた笑いが浮かぶ。
「それじゃ私とアインはもうちょっとここを調べてみるわ、なのはちゃんとアリシアちゃんはその足跡を追ってちょうだい」
「わかった!!」
なのは達は二手に分かれてキラの捜索を開始した……。
その頃、なのは達から大分離れた森の中……そこで一人の逆立った箒頭に青いバンダナを巻いた男が、パイロットスーツ姿の少年……キラの肩を持って歩いていた。
(まったく、偶然通りかかった所にMSの戦闘に出くわすなんてよ……とりあえずこいつを病院に連れていかないと……)
男は降りしきる雨に体力を奪われながらも、キラを助けるため必死に歩いていた。
「ん? あれは……?」
「……」
その時、男は前方から青い髪の少年が歩いて来ている事に気付いた。
「ちょうどよかった! あんた手を貸してくれないか! こいつ怪我をしていて……!?」
男は歩いてきた少年に助けを求めようとする……が、その少年がこちらに拳銃の銃口をむけている事に気付いた。
次の瞬間、辺りに火薬の破裂音が鳴り響き、男の横に銃弾が通り過ぎて行った。
「お、おい! なんだよあんたいきなり!? ザフト軍か!?」
「ごめんね、僕はどうしてもそこの彼を殺さないといけない……」
「な、何を言って……!」
男が抗議しようとする間もなく、今度は三発の破裂音が鳴り響き、男は慌ててキラを抱えたまま木陰に隠れた。
「馬鹿野郎! そんなものこっちに向けるな!」
「邪魔をしないでくれ……この世界で余計な殺生はできないんだ」
「な、何を訳の分からないことを……うわ!」
少年は容赦なく男とキラが隠れている木に銃弾を撃ち込んでいく。
「仕方ない、これはあまり使いたくなかったんだけど……」
「待って!」
その時少年の背後から、銃弾の音を聞いて駆けつけて来たなのはが、レイジングハートを構えて現れた。
「君は……管理局の……」
「動かないでください、動くと……吹き飛ばしますよ」
なのははキラを守るため、少年の背中にレイジングハートの先端を突き付けて脅す。
しかし少年はハッとなのはを馬鹿にするように鼻で笑った。
「君には撃てないさ、優しいからね」
「え?」
少年の言葉に戸惑うなのは、その隙に少年は拳銃の引き金を引いた。
「あ!」
銃弾は男とキラのいる方向に飛んでいく。このままでは命中するであろうコースに。
しかし銃弾は、横から現れたアリシアによって空中で“掴まれて”しまった。
「!」
「おお! ナイスアリシアちゃん!」
「流派東方不敗に鉛玉は通用しない……って! あなたは!?」
アリシアは銃弾を放った少年を見て目を見開く。
「君は……無人島の時の!? 何でこんな事を!?」
「アリシア・テスタロッサか……やれやれなんてことだ」
アリシアはその少年が、数日前無人島で警告してくれた少年と同一人物だという事に気付き驚愕する。
その時、上空から複数のヘリの音が聞こえてきた。
「……あーあ、時間切れか、こんな事なら先にアスラン・ザラを仕留めるべきだったよ」
「何を……!?」
その時、少年は懐から野球ボール大の物体を取出し、ピンらしきものを引っこ抜いた。
次の瞬間、辺りは強い光に包まれた。
「うわっ!!?」
「発光弾!?」
突然の事に目を覆うなのはとアリシア、そして数十秒後に目を開くと、そこに少年の姿は無かった。
「一体どこに……!?」
「なのは! それよりもキラ君だよ!」
「あ、うん!」
なのははすぐさま男とキラの元に駆け寄り、安否を確認する。
「大丈夫ですか? 怪我の方は……」
「俺は大丈夫だ、それよりもこいつが……」
「彼は私達が責任を持って助けます、彼を私達に預けてくれませんか?」
「ああ、あんた達は助けてくれたしな」
男はなのは達が信頼に足る人物と判断し、意識のないキラをなのはとアリシアに預けた。
「ありがとうございます、ここで待っていればオーブの人たちが救助してくれると思いますので……」
「いや大丈夫だ、俺は相棒でオーブに帰るからさ、それにしてもあんたらすごいな、一体どこの軍の人間だ?」
「ごめんね、それはちょっと言えないんだ」
「ふーん……まあいいさ、そいつの事絶対助けてくれよ、そいつの相棒が体を張って助けたんだからな」
そう言って男は親指をグッと立てながら、なのは達の元を去って行った……。
「これにて任務完了……早くシャマルさん達と合流しよう」
(あの人……なんでキラ君を殺そうと……)
そしてなのはとアリシアもキラを抱えたままその場を去って行った……。
数分後、しばらく歩いた男は白と赤のカラーリングのMSの前に辿り着いた。
「ロウ~! ようやく見つけた~!」
するとそこに……ボサボサ髪にヘソだしルックの少女が半泣きで駆け寄って来た。
「樹里……お前どうしてここに……?」
「胸騒ぎがして輸送機で飛んできたのよ! もうボロボロじゃない!」
「ああ……早く帰って飯にしたいぜ……」
ロウと呼ばれた男は、半泣きの少女……樹里を諫めながらMSコックピットに向かっていった……。
(あいつら、変わった奴らだったな……なんかまた会えそうな気がするぜ)
やがて雨が止み、雲の隙間からは日の光が漏れていた……。
本日はここまで、今回のMS戦は高山先生の漫画版を参考にしました。
次回はアラスカ戦直前までの話をやろうと思います。ロウ達は後半の方にも出番がある予定です。