第五話「戦いの前夜」
アークエンジェルとザラ隊の死闘から数日後、カーペンタリア基地のとある一室……そこで一人戦場から帰還したイザークはクルーゼに報告をしていた。
「ディアッカとニコルはMIA、アスランは負傷してオーブ軍に保護され、バスターは敵に収容され、イージスとブリッツは大破……申し訳ございませんクルーゼ隊長……!」
イザークは悔しそうに歯をぎりぎりと噛みしめながら報告を終える。
対してクルーゼはイザークを励ますように声を掛けた。
「なあに、地球軍に渡る前にストライクを撃破できたのだ、それだけでも良しとしよう、君が生き延びたことだけでも儲けものだ」
「ありがとうございます隊長、ところで……」
イザークは話題を変えて、クルーゼの後ろに立っている二人の人物を指差した。
「この女共は一体何者です?」
「彼女はフェイト・T・ハラオウン君とアルフ君、君もインド洋の無人島の研究所の話は聞いている筈だ、彼女はその件に関して有益な情報を持っている、だから傍に置いているのだよ」
「有益な情報ぉ? この女が?」
イザークは半信半疑といった様子でフェイトとアルフを見る、対してフェイトはその視線が辛いのか顔を逸らした。
ちなみにフェイトとアルフは今、基地の中で行動しやすいようにクルーゼからザフト軍の緑服を渡され、それを着用していた。
(ううう……なんでこの人喧嘩腰なの……?)
(気に食わないねえ、こっちを見下すようなツラしちゃってさ)
「そう邪険にするな、現に彼女は我々にいくつもの有益な情報を提供してくれた、今後の捜査にも協力してくれる」
「はあ……隊長がそうおっしゃるのなら……」
イザークは不満そうにしながらも、クルーゼのいう事に従う。
「とにかく君はしばらく療養していたまえ、もうすぐ大規模な作戦が展開される予定だからな」
「はっ」
そう言ってイザークは敬礼の後、さっさと部屋を出て行った……。
「なんだいあいつ! いーっだ!」
「すまないね、彼は少し気難しい性格をしているものでね」
「気にしていませんよ、それにしても作戦って?」
フェイトは先程のクルーゼの話を思い出し、彼に質問する。
「これから我々は連合軍のパナマ基地に総攻撃を開始する、私とイザークも参加する」
「本部に総攻撃……戦争をするんですね」
これからの戦いで傷つく人達の事を思い、フェイトは悲しい顔をして俯いてしまう。
「君たちはこの基地で待っていてほしい、作戦が終わったら改めてあの研究所の事について一緒に調べよう」
「はい……」
「なあフェイト」
その時、アルフは何かを思い出したかのようにフェイトに話しかける。
「どうしたのアルフ?」
「あのさ……連合軍ってので思い出したんだけどさ、スウェンと初めて出会った時の事覚えているかい?」
「スウェン……?」
フェイトは今現在行方不明のスウェンの名前を聞き首を傾げる。
「なんかあいつ、初めて会った時シンに対してエライ殺意を持ってたじゃん、ブルーなんたらがどうとか連合がどうとか……」
「あ……」
フェイトの脳裏に闇の書事件の時の記憶が呼び起される、そしてスウェンがぽろっと漏らした言葉を思い出した。
「確かに事件が終わった後ぐらいに言ってたね、母さんやクロノも色々調べていたらしいし、確かブルー……ブルー……」
「ブルーコスモスかい?」
二人の会話を横から聞いていたクルーゼが、フェイトが思い出そうとしていた言葉を言い当てる。
「そうそうそれです! ……ってクルーゼさんよく知っていますね?」
「それはそうだ、ブルーコスモスは我々にとって最大の敵なのだからね」
「最大の敵……?」
クルーゼはフェイト達に、この世界にブルーコスモスという反コーディネイター組織があり、その組織に多くのコーディネイターが命を奪われた事を教えた、対してフェイトは五年前に出会ったスウェンについて自分の知る限りの情報をクルーゼに教えた。
「成程、そのスウェンという少年がシンというコーディネイターを殺そうとしたと……」
「おにい……兄の話では何らかの洗脳工作を受けたのではないのかという話です」
「それにしてもそのブルー何たらって奴らひどい奴らだねぇ、この戦争を起こした原因もあいつらがコロニーに核をぶち込んだからなんだよねえ」
アルフはクルーゼから聞いたブルーコスモスの数々の非道を聞き、怒りを露わにする。
「ふむ、君たちの話は中々興味深い、そのスウェンという人物と話をしてみたいものだ」
「それは難しいと思います、彼とは数年前から音信不通ですから」
「あいつもそれ以上の事は話してくれなかったしね、なんかコソコソと調べ物していたみたいだし……」
「そうか、そう言う事なら仕方ないな、ふむ……」
クルーゼはフェイト達の話を聞いてしばらく考え事をした後、二人にある提案をする。
「二人とも……よければ私の任務に同行するかい?実は私は上の方から、総攻撃の際敵本部に潜入し情報を集めろという指示を受けている、もしかしたら君達にとって有益な情報が得られるかもしれない」
「クルーゼさんに……ですか?(クルーゼさん偉い筈なのにそんな危険な任務を?)」
フェイトはクルーゼの質問を疑問に思いながらも、悪くない提案かもと思い考え込む。
(五年前にスウェンが海鳴に来た理由や、私達の前から姿を消した理由……それが解るのかもしれない、そうすれば……)
フェイトの脳裏に、スウェンが居なくなってから元気のないはやての顔が浮かび上がる、彼女の心を救うためにも、少しでも彼の行方に関する手掛かりが欲しかった。
「……わかりました、潜入捜査なら私も役に立てると思います、同行させてください」
だからフェイトはクルーゼの提案を了承した。
「ありがとう、こちらでも君に危険が及ばないよう極力善処する、作戦開始までまだ日はあるから、それまで基地内で自由に過ごしているといい」
「わかりました」
それから数時間後、特にすることが見つからないフェイトとアルフは、フラフラと基地内を探索していた。
「なんだか基地の中がピリピリしているねえ」
「もうすぐ決戦だからね、私達がいたら邪魔になるかも……」
数日後に迫るパナマ基地攻略作戦を前に、ここにいるザフト兵達は様々な思惑を胸にその時を待っていた。フェイトはそんな彼らを見て、少し悲しい気持ちになっていた。
(みんな戦争をしに行くんだ……死んじゃうかもしれないのに)
この作戦で恐らく多くの命が失われるであろう、そうなれば残された者達の悲しみは計り知れない、かつて間近で同じような境遇に見舞われ、心を壊してしまった人物を知っているフェイトは、目の奥から込み上げてくる物をぎゅっと抑え込んだ。
「ん? ありゃあ……」
その時、アルフが前方にある人物を発見する、それは先程クルーゼに紹介してもらった彼の部下であるイザークだった。
「イザークさんだ……何しているんだろう?」
二人は何となく気になって彼の後を付いていく、そして……とある部屋にやって来た。
「イザークさん?」
「貴様らか……俺に何の用だ?」
話し掛けてきたフェイトに対し、イザークは半ば威嚇するような口調で返事をする。それを見たアルフはムッとして彼を睨みつけた。
「あ、あの……偶然ここを通りかかって……」
「ならいちいち話し掛けてくるな、俺は忙しいんだ」
イザークはそのままぷいっとフェイトに背を向けて、部屋の中にあった段ボールに衣服や写真立てなどを仕舞い込んでいった。
「あの……何を?」
「死んだ者達の遺品を片づけているんだ、本国の遺族に送らねばならないからな、本来なら別の奴がする作業なのだが、生憎そいつは入院中だ」
「「!!!」」
フェイトとアルフはその時ようやくイザークが今している事が何か気付き、強い衝撃を受ける。
(そっか、さっき行方不明になった人がいたって言っていたけど……)
恐らく戦死扱いになったのだろう、イザークはその者達の遺品を片付けていたのだ。
そして彼の作業の様子をフェイトとアルフはじっと見ていた。
「……手伝います」
しばらくして自分達も手伝うを提案する、対してイザークは黙々と作業を続けていた。
フェイトとアルフはそれを了承と受け取り、空の段ボールの中に、集められていた衣服や、私物であろう楽譜や音楽雑誌を綺麗に畳みながら入れていった。
数分後、衣類をしまい終えたフェイトは、部屋にあったベッドの脇に写真立てがあるのを発見する。
「これは……」
その写真立てには、まだ自分と同い年ぐらいであろう少年と、その母親と父親らしき人物が写った写真が入れられていた。
「死んだニコルの両親だ、あのバカめ……俺達の中で一番若いくせに先に死にやがって……」
ぎりっと歯を噛み締めながら吐き捨てるように呟くイザーク、一方フェイトはその写真をじっと見つめていた。
(両親……)
自分と同い年ぐらいの子が戦争で命を落とした事も十分衝撃だが、フェイトはそれと同時に彼の両親の心情を思い、思わず堪えていた涙をポロポロと流し始めた。
「フェイト、大丈夫かい?」
「ご、ごめんアルフ、でもこの人達が母さんと同じ思いをしているのかと思うと……」
そう言ってごしごしと涙を拭くフェイト、それを見たイザークは皮肉を込めてふっと笑った。
「はんっ、会ったことも無い奴の為に涙を流せるとは……お前はとんだ甘ちゃんだな」
「お前……!」
イザークの馬鹿にしたような態度に、アルフは激昂して飛びかかろうとするが、フェイトの声がそれを遮った。
「流せますよ、大切な人がいなくなると残された人がどれだけ悲しいのか知っていますから……イザークさんだって悲しいでしょう?」
「まあな、だが俺に悲しんでいる暇はない、一日でも早くナチュラル共を滅ぼして、死んでいった仲間達を弔う事が俺のすべきことだ」
イザークは鬼気迫る決意を目の当たりにし、フェイトはさらに悲しい気持ちになっていた。
「そんな事していたらいつか死んじゃいますよ……イザークさんにだって大切な人がいるでしょう? その人を悲しませちゃ駄目です……」
「それでも……それでもやらなきゃ駄目なんだ!!」
イザークはそのまま部屋を出て行った、一方フェイトはアルフに宥められながら、彼の後ろ姿を悲しそうな顔で見送った……。
~同時刻 アースラブリッジ~
その日、クロノはモニターで医務室にいるシャマルから報告を受けていた。
「それじゃあニコル・アルマフィはもう大丈夫なんだな?」
『ええ、脱出装置が作動したお陰で軽い脳震盪と擦り傷で済んでいます、シン君もそうでしたけどコーディネイターって回復が早いんですね、数日経てば元の世界に返すことが出来ますよ』
数日前のキラ・ヤマト捜索の際、アースラは彼と同時に撃墜されたブリッツから脱出したニコルを救助していた、重症を負って意識不明だったキラとは違って、軽傷で済んでいたニコルは数日程このアースラで治療を受けていた。
『本人はザフトに戻りたいと言っていますし、早く降ろしてあげた方がいいと思いますけど……』
「一応我々はオーブに引き返すつもりだ、その時に降ろしてあげることができるだろう」
『それじゃそう伝えておきますね』
通信を終え、クロノはシートに凭れ掛かりふぅっと溜息をついた、ここ数日の行動で行方不明だったジュエルシードの一つを確保することに成功はしたが、本来の目的である謎の研究所の手掛かりやフェイトの行方がまったく掴めないでいた。
おまけにこの世界は大規模な戦争の真っ最中……あまり長居をすると自分達も巻き込まれかねない、そうなる前にこの件に早めにケリをつけたいとクロノは考えていた。
(だがどうする? 唯一の手がかりの研究所は爆破されてしまったし、これ以上どこを調べればいいんだ……せめてフェイトを見つけることが出来れば何か解るかもしれないのだけど……)
その頃医務室では、シャマルが治療を終えたベッドの上のニコルに対し、先程のクロノの指示を伝えていた。
「という訳で私達はオーブに向かいます、君はその時に降ろすけどいいですね?」
「は、はい……」
そう言ってニコルはオドオドした様子でシャマルの話を聞いていた、ちなみにアースラや魔導に関しての事は事前に説明してあるのだが、いまだに信じきれないのが彼の今の心情だ。
「その……助けてくれてありがとうございました、貴方達が来てくれなかったら僕どうなっていたか……」
「いいんですよ、私達は人助けが仕事ですし……ああでも、私達の事は軍の人達にはなるべく内緒にしておいてくださいね? じゃないと色々大変な事になっちゃいますから」
シャマルはまるで悪戯をした子供を優しくしかる親のようにニコルに言い聞かせた、それに対してニコルは、何やら神妙な面持ちで思案し始めた。
「……隣の病室にはストライクのパイロットがいるんですよね?」
「え?」
突然の質問に動揺するシャマル。ニコルの表情は真剣だった。
「僕はストライクに落とされました、でもそんな事はどうでもいいんです……彼のせいで僕達は多くの仲間を失いました、ミゲルだってあの人に……」
「……」
シャマルはニコルが何が言いたいのか悟り、彼の手を握って落ち着かせた。
「ごめんね、私が命を救う職務に付いている以上、貴方が考えている事を実行させる訳にはいかないの、なんとしてでも止めるわ」
「……わかりました」
ニコルはあっさりと引き下がり、そのままベッドに横になった。
数分後、シャマルが医務室から出ると、入口のすぐ傍にシグナムが立っている事に気付き話し掛ける。
「シグナム、さっきの彼の話……」
「ああ、聞いていた……やりきれんな、戦争というものは」
「でもニコル君の気持ちも少し解るわ、私だって皆に何かあったら……そう思うと強く言えないわ、それに……」
自嘲気味に笑うシャマル、彼女の脳裏にはまだはやてが主になる前、様々な主の元で戦いばかりを繰り返してきた自分達の姿が浮かび上がっていた。
(ニコル君のような子は今まで沢山見てきた、世界や時代が変わっても……人間って同じことを繰り返してしまうものなのかしら……)
何だか居た堪れない気持ちになるシャマル、その様子に気付いたシグナムもまた、憂鬱そうに溜息をついた。
「……とにかく考えるのはよそう、我々はこれ以上この世界に関わることは出来ないんだ、どうこう言っても変わる物はない」
「……そうね」
その頃、隣の部屋では……意識を取り戻さずベッドに寝かされているキラと、その彼に四六時中付き添っているヴィアがいた。
「あの……失礼します」
するとその部屋に、スープやパンなどの食事が乗ったトレイを持ったなのはが入って来た。
「あ、なのはちゃん……お食事持ってきてくれたの? ありがとう」
「ヴィアさん、少し休んだらどうです? ここ数日ずっと眠っていないんじゃ……」
キラがアースラに収容されてからの数日間、ヴィアは寝る間も惜しんで彼の看病を続けていた。なのははそんな彼女を心配して、時折こうやって病室に足を運んでいた。
「私は平気、ここ最近は調べるものが無くて暇だし……それに……」
そう言ってヴィアは眠り続けるキラを見つめる、子を心配しない親はいない……彼女の横顔がそう語っていた。
(16年ぶりの再会だもんね……なるべく一緒に居たいんだろうな)
親子水入らずの所を邪魔してはいけないと思い、なのはは食事を置いてそのまま部屋を出ようとした。
「う、うう……?」
その時、突然キラが目を覚ました。
「……!? 起きた!?」
「ああ! まだ無理に起き上がっちゃ駄目よ! 貴方は重症なんだから!」
無理に体を起こそうとするキラを、ヴィアは慌てて手で制する。
「あ、あの……貴方は一体……? お医者さんですか?」
「え、ええ、そんな所……」
キラにとってヴィアは初対面(正確には生まれたばかりの頃に出会っているのだが)であり、彼女は咄嗟に自分の正体を誤魔化してしまう、そしてキラは彼女の後ろにいたなのはに気が付いた。
「あ、君は確かオーブで会った……なのはさん?」
「覚えていてくれたんですね、キラさん」
「彼女が貴方を救ってくれたのよ、彼女が居なかったらどうなっていたか……」
「ここは一体……見た所アークエンジェルじゃないみたいですけど……」
キラの質問に、なのはとヴィアはどう説明したらいいか解らず口籠ってしまう、その時……キラはある事を思い出して突然飛び起きた。
「そうだ! アークエンジェルは……皆はどうなったんですか!?」
「ええっと、エイミィさんの話じゃアラスカに向かったそうです」
「こ、ここで寝ている場合じゃない……!」
そう言ってキラはベッドから降りて立ち上がろうとする、ヴィアはそれを見て慌てて制止しようとした。
「ね、寝てなきゃ駄目って言ったでしょう!? 貴方本当なら死んでもおかしくない怪我だったのに!」
「そんな事言っている場合じゃないんです! 早く戻らないと……あの艦は僕が守らないと……!」
「だ、駄目ですって!」
怪我を押して無理やり部屋から出ようとするキラを、なのはとヴィアが二人掛かりで止めようとする。
「邪魔をしないでくれ! 僕が行かないと……僕が守らないと!」
「お願い……! 大人しくして……!」
まるで懇願するように言い聞かせようとするヴィア。
「邪魔を……するなぁ!」
「きゃ!」
「!!」
するとキラは自分の手を掴むヴィアを半ば乱暴にふり払い、突き飛ばしてしまう。
その光景を見たなのはの目の色が変わった。
「いい加減にしなさい……!」
なのはは怒気を含んだ声色で人差し指に光を収束させる。すると突然キラの体にバインドが掛かり、手足を封じられた彼は前のめりに倒れてしまった。
「!? これは!?」
自分の身に起きた未知の現象に戸惑うキラ、そんな姿の彼を、なのははまるで死んだ魚のような目をしながら見下していた。
「ちょっと……頭冷やそうか」
「ひっ!?」
「な、なのはちゃん!?」
そのあまりの威圧感に、キラとその場に居合わせたヴィアは猛獣に睨まれた小動物にように縮み上がってしまう。
「何だ!? 何の騒ぎだ!?」
その時、廊下で騒ぎを聞きつけたシグナムとシャマルがなのは達のいる部屋に入ってくる、そしてバインドを掛けられたキラの姿を見て口をあんぐりと開けた。
「え? 何これ? どういう状況?」
「何かあったのか?」
その後、少しやりすぎたなのはがクロノからお叱りを受けたのは言うまでもない……。
数日後、プラントのとある建物の中にある執務室……照明が落とされ薄暗くなっているこの部屋で、一人の男がモニターを使いある人物と通信を行っていた。
『スピットブレイク、全軍配置完了しました』
通信相手はラウル・クルーゼ、彼の部下のうちの一人である。
この同時刻、地球の衛星軌道上には多くのザフト軍の輸送艦が、MSを収容したカプセルを降下ポイントへ輸送していた、一方地球上でも各ザフト軍基地から輸送機が離陸を始め、先行していた潜水艇も予定ポイントに集結し、待機している。
目的はただ一つ……地球軍の本拠地へ総攻撃を行うためだ。今モニターでラウと話している男……パトリック・ザラが一言発すれば集結している軍団はすべて動き出す。
『後はご命令を待つのみです』
同時刻、アラスカ基地付近にある無人島、その海岸沿いで双眼鏡で基地の様子を眺めている一人の少年の姿があった。
黒いコートにサングラスといった格好は、存分に彼の特徴的な銀髪を際立たせている。
そんな彼の元に、長い髪をツインテールにまとめた15,6歳ぐらいの少女と、少し背の高い鋭い眼光を持つ18歳ぐらいの少年が歩み寄ってきた。
「もうすぐ始まりますのね、ザフトと連合軍との戦いが……」
「ああ、だが本当にここが線上になるのか? 俺の予想だとマスドライバーのあるパナマが戦場になると思うのだが……」
「私達の戦術予報士は優秀ですわ、加えて私達が収集した情報と照らし合わせれば、ザフトがここを狙う事も、連合があえてそうさせる事を見抜くなど簡単な事ですわ」
戦術予報士……聞いたことない職業だが、古くからの友人である彼女がそういうのなら信じていいのだろう、そう思った少年は森の方へ歩いて行った。
「作戦時間まで俺はMSで待機している、お前達も退避していた方がいいぞ」
「お気遣いありがとうございます、では……」
そう言って少女は眼光の鋭い少年と共に去ろうとした……が、途中で振り向いて銀髪の少年に話し掛けた。
「お気をつけて、スウェンさん」
「ああ」
二人と別れた後、銀髪の少年……スウェンは森の奥に入って行く、そして葉で覆ってカモフラージュしているオレンジと白のカラーリングを施しているMSの前に立った。
「もうすぐだ……もうすぐ真実に辿り着ける、待っていてくれ……」
スウェンは自分が置いてきた大切な人達に向けた、謝罪にも似た言葉を呟いた……。
短いですけど本日はここまで、次回はアラスカ基地攻略戦の話をやります、原作とは大幅に物語の展開を変える予定です、物語の都合上オリジナルキャラや00からの新キャラを出す予定なので、その辺を留意して読んでいただければ幸いです。