第七話「抱える想い」
オペレーションスピットブレイクから一週間後、アースラのキラがいる病室、そこでキラはアースラスタッフが持ってきたこの世界の新聞に目を通していた。
「まさか……地球軍が分裂するなんて……」
キラが目を通している新聞には、オペレーションスピットブレイクの後の世界情勢を伝える記事が載っていた、それによるとアラスカ基地での戦いの後、ユーラシア連邦はアリューゼを中心とした反大西洋連邦派やアラスカ基地で囮に使われた兵達による大規模な抗議運動が起き、ザフトとの戦いどころではない状況に陥っていた。
さらにアラスカ基地で大西洋連邦がユーラシア軍や自国の兵達を囮に、サイクロプスでザフト軍を焼き払おうとしたという情報が何者かによってマスコミにリークされ、世界中で大西洋連邦に対する批難が集中している等という記事が載っていた。
(ユーラシアって……あのガルシアって人達の事か……)
キラはヘリオポリスから脱出し、アルテミスに立ち寄った際ユーラシア軍によって一時拘束された時の事を思い出していた。
(トール達は……アークエンジェルは大丈夫なんだろうか……)
そしてキラはもう一つ気がかりなことがあった、それは自分がアスランに撃墜された後、離ればなれになってしまった仲間達の乗るアークエンジェルの事だった、もしアークエンジェルが予定通りの航海を続けていたら、彼らはアラスカ基地の激戦に巻き込まれた筈なのだ。しかし生憎、アークエンジェルの所在に関しては新聞に載ってはいなかった。
(なんにせよ早くこの艦から降りて皆を探さないと……)
そうキラが決心した時、彼のいる病室の自動扉が開かれ、そこからなのはが現れた。
「あ、あの……キラさん、体の具合はどうですか?」
「ええ、まあ……」
先日、無理やりこの艦から降りようとしたキラはなのはから脅迫染みたお叱りを受け、彼女に対して少しばかり苦手意識……というより恐怖に近い感情を抱いていた。
そしてそれをなのはも感じたのか、すごくばつが悪そうにキラに対して頭を下げた。
「ご、ごめんなさい……あの時の私、頭に血が上っていて……」
「僕も悪いとはいえ、まさかあそこまでされるとは思いませんでしたよ……」
キラはちょっと不機嫌そうな口調で返事し、なのははさらにしゅんと落ち込んでしまい、部屋に重~い空気が流れる。
「よう、入るぞー」
するとそれを断ち切るかのように、今度はヴィータが病室に入って来た。
「ヴィータちゃんもキラさんに用事?」
「おう、クロノが言うにはこいつと隣のあいつの怪我も大分良くなって、次にやることもないし、とりあえずオーブに戻る事にするってさ、お前達もそこで降ろす」
「ようやくですか……」
キラの不機嫌そうな返事に対し、ヴィータは眉をぴくっと吊り上げて反応する。
「んだよ、なのはがお前を止めた事、まだ怒ってんのか」
「別に……怒っていませんよ、ただ仲間達の事が心配で……」
「……」
するとヴィータは近くにあった椅子に腰かけて、呆れたような様子ではあっと大きく息を吐いた。
「お前さ……スーパーマンじゃねえんだから一人でなんでも出来ると思ってんじゃねえぞ」
「な……!? なんで君にそんな偉そうなこと言われなきゃいけないんだ!?」
自分より小さい子(に見える)であるヴィータに上から目線で指摘され、キラは思わず口調を荒げてしまう、しかしヴィータはそんな彼を無視して話を続けた。
「……なのはがお前を本気で止めたのは、お前が自分みたいになって欲しくないからなんだぞ?」
「……? それってどういう意味?」
「さあな、本人に聞けよ、この件に関しては本人の口から聞いた方がいい」
そう言ってヴィータはなのはに目配せする、対してなのはは少しの間思案しながら、ふっと顔を上げて語り始めた。
「その……私も昔、皆を守ろうとして無茶ばかりして、結果的に皆に迷惑を掛けちゃったことがあるんです……」
「迷惑……」
なのははぽつりぽつりと、三年前自分が犯してしまった過ちに付いて語り始めた……。
「私……この仕事を初めて五年になるんですけど、その切欠はユーノ君……私に魔法を教えてくれた人ととの出会いでした」
なのははユーノと魔法との出会い、フェイト達とのジュエルシードを巡る争い、そしてクロノやリンディら時空管理局との出会い、そして……フェイトの母親であるプレシアに付いて語り始めた。
「当時の私は失敗ばかりで、沢山の人に迷惑を掛けてばかりでした、おまけに……プレシアさんが居なくなった時、私は何も出来なかった……守ることができなかった……」
なのはは母親を目の前で失って悲しむフェイトの姿を思い出し、唇をぎゅっと噛んで悲しみを堪えていた。
「その後起こった闇の書事件……ここにいるヴィータちゃんやはやてちゃん達と出会う切欠になった事件でも、私はあまり力になれなかった……ヴィアさんやシン君、スウェンさん達が居なかったらきっと同じことを繰り返していたと思う……だから私はもっと皆を守れるだけ強くなりたいと思って、魔法の訓練を続けました、でも二年後のある日……」
それは三年前、なのはが十一歳の時に起こった事件だった。
「吹雪が降り注ぐ世界での任務の中で……私は事故に遭いました」
「ありゃ事故なんかじゃねえ、あんな命令を下したあの糞野郎のせいだろ」
なのはの説明に対して一言説明を付けたすヴィータ、その表情はどこか怒りを含んでいた。
「過酷な任務の中で……その……ちょっと大ポカをやらかしてしまいまして……お医者さんには過労だって言われたんですけど……ちょっとその時の怪我が……」
「下手したら魔法が使えないどころか、一生歩けなくなるかもしれなかったんだよな」
「えええ!!?」
ヴィータの説明を聞いて驚くキラ、今彼の目の前にいるなのははピンピンしているにも関わらず、過去にそんな重症を負ったとは到底思えなかったからだ。
「い、今はその、リハビリを頑張ったお陰で何ともないんですけど……その時に沢山の人に迷惑を掛けちゃって……特にシン君には……」
「シン?」
「アタシらの仲間さ、もっとも……ここ数年一度も連絡をとっていないんだけどさ……」
シンという名前を聞いた途端、なのはは酷く落ち込んだ様子で俯いてしまう、そしてそのまま彼の事に付いて語り始めた。
「シン君は私達の同僚だったんですけど、その……私が大怪我をした任務を指揮していた司令官さんに抗議したんですよ『アンタが無茶な指示をするからなのはが大怪我したんだ!』って……」
「馬鹿だぜアイツ……その司令官をぶん殴って管理局をクビになるなんて……まああいつが殴らなかったらアタシが殴っていたけど、それにその司令官……何年か後に自分のミスで死なせた自分の部下を無能呼ばわりして、局内や世間から大バッシングを受けて辞めて行ったけど」
そう言ってヴィータはざまあみろと言わんばかりに鼻ではっと笑った、そしてなのははさらに話を続けた。
「それでも……私が無茶な事をしなければ、シン君は辞めなくて済んだかもしれない、お陰で彼とは全然連絡が取れなくなっちゃうし、フェイトちゃんにはもっと辛い思いをさせちゃって……!」
なのはは今にも泣きそうな顔で、自分の制服のスカートをぎゅっと掴んだ、その様子をキラはただただ見ている事しかできなかった。
「解ったか? なのははな……お前に自分と同じ間違いをして欲しくなかったんだよ、なんでも自分でやろうとして、無茶ばかりして、結果的に守りたかった相手を苦しめたら意味ないだろ? お前がその怪我で助けに入ったって、お前の仲間達は悲しむだけなんじゃないのか?」
「あ……」
キラはなのはの思惑をようやく理解し、言葉を失って俯いてしまう。
ヴィータはそんなキラを見て大きく息を吐くと、そのまま立ち上がった。
「んじゃ、後は二人でご自由に……“お話”すればもっと理解できるだろ」
ヴィータはかつて自分自身がなのはに言われた言葉をそのまま言った本人に返し、そのまま病室を去って行った。
「……」
「……」
キラとなのはだけになった病室に沈黙が流れる。
「「あの……」」
そして第一声が重なってしまい、再び沈黙する。
「その……お先にどうぞ」
「え、えっと……じゃあ……」
なのはに促されるまま、キラは自分が言おうとした言葉を紡いだ。
「あの……よかったら君の子供の頃の話、もっと聞きたいかなって……オーブに帰るまでまだ時間があるし……」
「……いいですよ、その代り私もキラさんの子供の頃の話とか聞きたいな」
こうしてキラとなのはは長い時間をかけて言葉を交わした、互いの事を“理解”するために……。
☆ ☆ ☆
その頃、アラスカ基地の司令室……かつて大西洋連邦の司令部が使っていたその場所は現在アリューゼが使っており、そこにマリューとムウが呼び出されていた。
「私達をオーブへ……?」
「うむ、実は私はね……ユーラシア連邦をこの戦争から手を引かせたいと思っているんだ、ザフトに勝つために手段を選ばない大西洋連邦のやり方には付いていけない、このままだとユーラシアは奴等に食い尽くされてしまう、だがザフトに付くこともできない、彼等にはエイプリルフールクライシスで自国民を沢山死なせられた、その遺族達の感情も鑑みてオーブや賛同する他国と協力して中立を目指す事にしたんだ」
「んな事、向こうは承知しませんよ?」
かなり無茶なアリューゼの目標にツッコミを入れるムウ、しかしアリューゼは不敵な笑みを浮かべた。
「なあに、ユーラシアの上層部の中にはこの戦争が終わったら大西洋連邦と事を構えるつもりの者も居るんだ、その為に設立されたのが特務隊Xな訳だし……奴等の元から離れるのがちょっと早まっただけさ、戦力が減ればこの戦争だって早く終わる、これが我々の取れる最善の手段なのだよ」
「はあ……」
マリューはアリューゼの“最善”という言葉にどこか疑問を感じていた。
確かに大西洋連邦の次に強大な勢力であるユーラシアがこの戦争から手を引けば終戦に一気に近付くのかもしれない、しかしマリューはアリューゼが心の底に何かを抱えているような気がしてどこか釈然としない様子だった。
「君達は手酷く裏切られたクチだ、おまけにアークエンジェルにはオーブの人間が多くいると聞く、もう戦う気は起きないだろう? 元同僚と戦う事になるかもしれないし……一度オーブの人間を故郷に帰して今後どうするかゆっくりと考えるといい」
「……クルーと相談してみます」
話が終わり、部屋から出ようとするマリューとムウ、その時ムウは足を止めてアリューゼに一つ質問をした。
「ちょっとよろしいでしょうか? ザフト側の司令官……ラウ・ル・クルーゼは今どこに?」
「彼なら次の任務があると言って後任を置いてこの基地から去ったよ、恐らく次はパナマを攻めるつもりなんだろう、彼がどうかしたのかい?」
「いえ……ちょっと気になっただけです、それじゃ……」
ムウとマリューが去り、一人司令室に残ったアリューゼは不敵な笑みを浮かべた。
「そうそう、君達にはもっと生きてもらわなくてはならない、この世界の争いの火種を絶やさない為にもね……」
その時、彼の手元にあった通信機が鳴り、彼は受話器を手に取った。
「私だ……今は少将と呼べと言っただろう? ……ふむ、アースラを見つけたか、ならキラ・ヤマトとヴィア・ヒビキも居る筈だ、彼らはちゃんと保護するように」
受話器を置き、シートに凭れ掛かるアリューゼ、そして顔を天井に向けながらぽつりとつぶやいた。
「困るんだよなあ、今管理局に我々の正体を知られちゃあね……」
☆ ☆ ☆
数時間後、オーブに向かう太平洋上のアースラ……そのブリッジでクロノはキラに渡した新聞と同じものに目を通しながら、頬杖をついて思い悩んでいた。
「クロノ君、どうかしたの?」
するとそこに、緑茶を乗せたトレイを持ったエイミィがやって来た。
「いや、このアリューゼという男……どこかで見たことがあるんだよな……」
クロノは新聞に載せられているアリューゼの顔写真を見てデジャヴュを感じており、首を傾げていた。
「うーん……この世界の人間の事を知っているとは思えないし……誰かと勘違いしているんじゃない?」
「そうなのかな? うーん……」
クロノは悩みながらエイミィが持ってきた緑茶に手を伸ばす。
だがその時、ゴォォォンという轟音と共にアースラに強い揺れが起き、クロノは緑茶を取り損ねてアツアツのお茶を手に引っ掻けてしまった。
「うあっちい!!? なんだこの揺れは!?」
「これは……後方より砲撃!! MSによるものです! 機影は三つ!」
オペレーターの報告を受けて顔色を変えるクロノとエイミィ、すると先ほどの揺れを感じたなのはやはやて率いるヴォルケンリッター、アリシアにキラ、ニコル、ヴィアがブリッジにやって来た。
「クロノ君! さっきの揺れはなんや!?」
「MSの攻撃を受けた! こっちに向かってきているらしい!」
「MS……!? ザフト!? それとも連合!?」
「まって! 今調べるから……嘘!? この機体は……!?」
迫りくる機体のデータを照会して驚愕するエイミィ。
「該当データ有り! VMS-15……リアルド! なのはちゃん達の世界のMSだよ!」
「えええ!? なんでそんなものがこの世界に!? というかどうしてアースラを攻撃しているんですか!?」
モニターにはグリーンのカラーリングが施された三機の巡航形態のリアルドが映し出されていた。
予想外の敵の襲来に困惑するなのは達魔導師組、一方キラとニコルは状況が飲み込めず首を傾げていた。
「あの……リアルドなんて機体聞いたことが無いんですけど……どこの所属なんですか?」
「後で説明してや……うわっ!」
ヴィータがニコルに返事をするよりも早く、アースラは突然現れたこの世界に存在しない筈のMSの攻撃で大きく揺らいだ。
「ディストーションフィールド展開! 破損個所もチェック! それとあのMSと通信を繋げ!」
「はい!」
クロノは素早くクルー達に指示を出す、するとなのは達が真剣な面持ちでクロノに話し掛ける。
「私が行って迎撃します! その隙にアースラは撤退を!」
「いくら君達でもMSを相手にするなんて無茶だ!」
「このままじゃ撃墜されちまうだろ!」
激しい言い合いをするクロノ達、その時クルーの一人が相手MSのメッセージを受信し、クロノに報告する。
「相手MSからの通信が来ました!『キラ・ヤマトとヴィア・ヒビキをこちらに引き渡せ、 さもなくば撃墜する』とのことです!」
「……!? 私とこの子を……!?」
何故自分とキラなのか、そもそもどうして自分達がアースラに居る事を知っているのか、ヴィアの脳内にそんな思考が巡る、するとアースラ全体にこれまで以上の強い衝撃が響き渡る。
「機関部に命中! これ以上攻撃されると墜落します!」
「なんだと……!?」
あまりの展開に困惑するクロノ達、そしてリアルドの一機がリニアライフルからトドメの一発を発射しようとした、次の瞬間……。
『ちょっと待ったー!!!』
突然リアルドの右方向から一発のビームが放たれ、リアルドのリニアライフルを破壊した。
「新たな機影確認! ガンダムタイプです!」
「今度はなんだ!?」
一同は一斉にモニターを見る、そこには赤い二本の角に日本刀のような剣を帯刀したMSが飛来してくる様子が映し出されていた。
「あれは……アストレイ? でもデザインは……」
キラはそのMSとよく似た機体をオーブで見たことがあった。オーブに滞在していた際、オーブの技術者に頼まれてその機体のサポートOSの制作に関わっていたのだ。
しかし今自分達を助けてくれたMSはそれとは少しデザインが違う……どこの所属かもわからないのだ。
「あの機体、オープンチャンネルで通信してきているようです!」
『こちらはジャンク屋連合のロウ・ギュール! この辺りでの戦闘行為は協定で禁止されているぞ!』
「……? あの声ってもしかして……」
助けに入った謎のMSから聞こえてくるパイロットの声に、なのはは聞き覚えがあった、だがそうこうしているうちにリアルドは乱入者を排除しようとターゲットを変更して襲い掛かった。
『やる気かよ……! なら膾切りにしてやる!』
そう言って謎のMSは白い刀身の剣を抜くと、襲い来るリアルドの小隊を次々と切り捨てていった。
「強い……!」
「ほう……あのMSの剣、中々の上物のようだ」
シグナムは謎のMSの数の差を物ともしない圧倒的な戦いぶりを見て、剣士としてそのMSが使っている剣の切れ味とその使い手のレベルの高さに感服していた。
「リアルド隊、撤退していきます!」
謎の機体から受けたダメージでこれ以上の戦闘は無理と判断したのか、リアルド隊はそのままどこかに飛び去って行った……。
『逃げたか……おいアンタら、大丈夫か?』
戦闘が終わり、謎の機体のパイロットは改めてアースラに通信を入れてくる、するとアースラのモニターにパイロットの顔が映し出され、なのははその顔を見て驚愕した。
「貴方は……あの時の!?」
『おろ? もしかしてその声……あの時の変な嬢ちゃん達か!?』
その男は以前、なのは達がキラを探している際に出会った逆立った箒頭に青いバンダナを巻いた青年だった。
「はい! 助けてくれてありがとうございます!」
『いやー、まさかこんな所でまた会えるなんてなー、それにしても変わった艦に乗ってんだな』
「そ、それはちょっと説明し辛いんですけど……」
その時、アースラが突然ガクンと傾いた、恐らく度重なる攻撃で限界が来たのだろう。
「き、機関部の出力、どんどん下がっています!」
『おい大丈夫か? 何なら俺に付いて来るか? 修理できるところを知っているぜ』
「どうするクロノ君?」
エイミィの質問に、クロノはやれやれと溜息をつきながら答えた。
「このままじゃアースラは墜落だ、ならお言葉に甘えるしかない……はあ、これは始末書じゃ済まないだろうな……」
管理外世界でここまで自分達管理局の事が明るみになる事は、司令官である自分ひとりの首ではどうすることもできない事態であり、クロノは今後の事を考えて憂鬱な気分になっていた。
そんな彼の気持ちなど露知らず、バンダナの青年は呑気な声でアースラの前に機体を移動させて誘導を始めた。
『安心しろ! ジャンク屋組合のロウ・ギュール……責任を持ってお前達の艦を直してやるよ! じゃあギガフロートに案内するぜ!』
☆ ☆ ☆
北アメリカの大西洋連邦首都、ワシントン……その中にあるホテルの一室で、金髪に高級そうな水色のスーツを来た男が、パソコンのモニターの前で頭を抱えていた。
「ユーラシア連邦の奴等め……まさかこタイミングで裏切るなんて、おまけに南アメリカの奴等まで同調し始めるし、しかもあんなものまで作っていたなんて」
モニターにはアリューゼが作った量産型ハイペリオンのデータが記載されていた、そしてその隣にはストライクに似たMSのデータが映し出されていた。
「折角ダガーの量産にも目途が付いてきたというのに、うまくいかないもんですねえ」
男は自分が若干不利な状況に立たされているにも関わらず、余裕といった様子でコーヒーを啜った。。
「まあこっちにはまだパナマがある、もしそれが落とされてもビクトリアを奪回すれば済むし、オーブを従わせれば……まだボク達には勝てる要素が残されている」
数分後、男はある部屋にやってくる、そこにはヘッドホンを付けて音楽を聴いている緑の髪の少年、ジュブナイル小説を読んでいる明るい黄緑の髪をした少年、携帯ゲームで遊んでいる朱色の髪の少年がいた。
「君達……そろそろ出番ですからね、準備しておいてください」
「お、ようやく暴れられるのか!」
「じっとしているのも飽きちゃった所なんだよねー!」
「ウザい……」
その時、男達のいる部屋に一人の研究員風の男が現れた。
「アズラエル様……例の融合騎の調整、終了いたしました」
「ほう? 彼女が使えるようになるんですか……」
数分後、アズラエルと呼ばれた男は白衣の男にある場所に連れてこられた。
その場所は一面が真っ白であり、中心には大掛かりな装置の真ん中に30センチ程の赤い髪の毛の小さな人形のようなものが両腕を拘束されて括りつけられていた。
「彼女……本当に使えるんでしょうねえ?」
「それはもちろん、何せ彼女はベルカの融合騎……実力の程は保障しますよ」
「頼みますよ、高い金を払って貴方達に研究の場を与えたんだ……ボクの命を守るぐらいの事はしてもらいませんとねえ」
アズラエルはそのまま人差し指でその融合騎の顎を持ち上げ、虚ろな目をしている彼女の顔を見た。
「これからもよろしく頼みますよ……“アギト”」
今回はここまで、もうすぐ劇場版第二作が公開という事で書き上げました。
SEED編にシンがいないのはなのはの大怪我事件が切欠で、それ以来管理局の仕事で忙しいフェイト達と謙遜になってしまうというのが真相でした、ちなみに現在シンとその家族はまだ海鳴で暮らしているので、原作のような悲劇は起こさない予定です。
次回はギガフロートでの大きな動きを描こうと思います、アストレイキャラも多めに出演、青髪の彼も久々に登場しますのでお楽しみに。