第八話「使命」
オペレーションスピットブレイクから2週間後、オーブの造船ドッグ……そこにはアラスカ基地から舞い戻ったアークエンジェルが収容されており、先刻の戦いで負ったダメージの修復がオーブ軍の手によって行われていた。
その様子を、作業服姿のマリューと、相変わらず連合軍の軍服を着たままのムウが眺めながら、今現在変わって行く世界情勢について話し合っていた。
「パナマ基地……落とされたみたいだな」
「そうみたいですね」
数日前、ザフト軍はグングニールという新兵器を用いてパナマ基地を落としており、連合軍は宇宙へ上がる為のマスドライバーを失っていた。
非協力的になったユーラシアなどの事もあり、連合軍の弱体化は目に見えて明らかだった。
「アリューゼ少将は南アメリカやアジア諸国にも中立を促しているらしい、まったく……あの人の行動力は大したもんだよ」
「これで……この戦争は終わるんでしょうか?」
「さあ? 大西洋連邦とザフトは未だに戦い続けるみたいだがね、こっちに飛び火しなきゃいいんだがね……」
そう言って憂鬱そうに溜息をつくムウ、かつてはその戦いに自分も身を投じてはいたが、軍を抜けた今ではこれからどうするかという考えで彼の頭はいっぱいだった。
「少佐―!」
するとそこに、金髪の少しウェーブのかかった少女と、栗色のショートヘアーの少女、そしてピンクの縁のメガネを掛けた少女が駆け寄って来た。
「ん? モルゲンレーテの嬢ちゃん達……どうかしたのかい?」
「エリカ主任に修理したストライクとM1で模擬戦をしたいから呼んできてほしいって言われたんですけど……もしかして邪魔しちゃいました?」
「なっ……!? 邪魔ってなんですか!?」
マリューは三人にからかわれた事に気付き、顔を真っ赤にして怒った、しかし三人はそんな事気にも留めずにワイワイ盛り上がった。
「いいなー、私もあんな大人の恋してみたいー」
「だよね! 憧れるよね!」
「あーあ、ロウに彼女さえいなきゃ私だって……」
そんな彼女たちを見て、マリューは顔を赤く染めていた。
「も、もう……!」
「ははは、まあ悪い気はしないだろ?」
☆ ☆ ☆
その頃、オーブ中央にあるとある屋敷、その一室にヴィアの妹でキラの育ての母親であるカリダと、その夫であるハルマが、テーブルを挟んで座っている少し齢を重ねたオールバックに髭面の男とある話をしていた。
「ヴィア・ヒビキが生きていた……!? それは本当なんですか!?」
「はい、本人と直接会いました……キラも姉達が保護して今一緒にいるみたいです、まだ本当の親という事は明かしていないみたいですけど……」
「なんと……神はなんという運命を用意しておられるのだ……」
そう言って男は懐から一枚の写真を取り出す、そこには若い頃のヴィアがベッドの上で二人の赤ん坊を抱いている姿が映し出されていた。
「カガリさんには本当の事を言うのですか?」
「いずれは……と思っていたのですが、ヴィアさん本人に決めさせたほうがいいでしょう、彼女は今どこに?」
「ギガフロートというところで乗っていた艦を修理した後、ここに来るそうです、そこで一緒に保護したザフトの少年兵と共にキラを降ろしたいと……」
「そうですか……」
男はそのままソファーから立ち上がり、憂鬱な溜息をつきながら窓の外に広がるオーブの街並みを眺めた。
(……カガリには辛い思いをさせてしまうだろうな……)
オーブ連合首長国の代表首長ウズミ・ナラ・アスハは、これから自分の血の繋がらない娘に降りかかる苦悩を想い、父親として心を痛めていた……。
☆ ☆ ☆
同時刻、太平洋赤道近くの海域、そこには巨大な人工島……ギガフロートが浮かんでおり、その上にある造船ドッグでは作業員や作業用MSが忙しそうに働いていた。
「おら! その装甲板はあそこに貼るんだよ!」
「このチューブはもう使わないからどっか持って行け!」
そして遠く離れた位置では、ヴォルケンリッターらが作業員達の様子を眺めていた。
「すげーなおい、民間人がここまでの設備を所有しているなんて……管理局でもここまでの物はないぜ」
「作業ロボットもいっぱいあるです! あれもMSなんでしょうか?」
ツヴァイ(今は周りの人間を驚かせない為に人間サイズになっている)は機材を運んでいる作業用MSを指さして楽しそうにしている、その時……彼女たちの元にトランク状の物体を持ったロウとヘソだしルックの少女が近付いてきた。
「おーいお前ら―、こんな所にいたのかー」
「ロウ・ギュール……ん? 隣にいるのは?」
「山吹樹里です! 貴方達がオーブでロウを助けてくれたんですよね? ずっとお礼を言いたかったんです!」
そう言ってヘソだしルックの少女……樹里は握手を求めて来た。その差し出された手を……当事者であるアインスが代表して握った。
「助けたのはなのはとアリシアだがな……あとで二人にも礼を言うといい」
「うん! そうするね!」
そんな二人を尻目に、ロウはシグナムが腰かけていたレヴァンティンをまじまじと見つめていた。
「それにしてもあんたらのその……デバイスだっけ? 変わった技術を使っているんだなー、ジャンク屋として興味深いよ、カートリッジ入れるスロットがあるみたいだけど銃にもなるのか?」
「カートリッジシステムの事ですか? これは銃弾じゃなくて魔力を増幅するカートリッジを入れる為のスロットなんですよ」
「へー!? そんな仕組みでできているのか……面白い発想だな!? MSにも使えないかな……?」
シャマルの説明に興味津々で耳を傾けるロウ、その時……ツヴァイはロウが手に持っているトランクに興味をもった。
「? ロウさんこれはなんですか? 工具箱ですか?」
『誰が工具箱だ!』
「ひゃわ!?」
するとその工具箱は突然言葉を発し、ツヴァイは驚いてアインスの後ろに隠れてしまった。
「ああ、こいつは8(ハチ)、俺のレッドフレームのサポートOSだよ、口は悪いけど頼りになる相棒だぜ!」
「ふーん、アタシらんとこでいうユニゾンデバイスみたいなもんか」
『お前達の事は色々と調べさせてもらったぜ、興味深いテクノロジーを使っているんだな』
そう言って8は先日撮影したなのは達の戦闘の様子を自身の体に写して見せた。
「おおー、8さんは万能ですー!」
「しかしあまり我々のデータを残されるのは困るのだが……」
シグナムは自分の懸念を口にする、すると樹里が安心してと言わんばかりにふふっと笑いながら手を振った。
「ああ、その辺は大丈夫だよ! プロフェッサーに言われているからね、貴方達の事はあまり口外しちゃ駄目だって」
「……? どういうことだ?」
「さあ? 私達もたまにあの人が何を考えているか解らない事があるし……」
☆ ☆ ☆
その頃、ギガフロートの管制室……そこでクロノとエイミィはロウのボス的存在である女性……プロフェッサーに呼び出されていた。
「では……我々の事は口外しないと?」
「ええ、貴方達の事情をよーく知っている人物からのお願いでね……無償で援助してやれって言われているのよ、だから機密とかそういうのは気にしなくていいわよ」
黒いウェーブの掛かったロングヘアーにメガネのレンズに映る瞳と泣きぼくろ、そして赤いYシャツの上のボタンを外して胸の谷間がチラチラ見せて妖艶な雰囲気を醸し出すプロフェッサー、しかしクロノはそれに飲まれることなく話を続けた。
「僕達をよく知る人物……? まさか管理局の?」
「いいえ、私達の世界の人間よ、まあ詳しい事は私にもよくわからないわ、アレが何を考えているのかよくわからない……でも一つメッセージを預かっているわ、“今はその時ではないけれど、いつか我々の歩む道は一つになる、その時は良き友人として共に歩もう”とのことよ」
(我々の事を知っているコズミックイラの人間……? どういう事だ?)
クロノは頭の中で色々と思案を巡らせたが、結局その時は結論を出すことは出来なかった。
☆ ☆ ☆
その頃、ギガフロートのとある場所……人気が無く使われていない機材が放置されているこの場所に、キラは一人で海を眺めていた。
「……」
「キラさん、こんな所に居たんですね」
するとそこに、Tシャツ姿のなのはとはやてが歩み寄って来た。
「二人共……どうしてここに?」
「アースラが直るまでの間、気晴らしに散歩でもしよかーって思ったんですけど……キラさんこそこんな所で何しとるんですか?」
「うん……初めて海に来たときの事を思い出していたんだ」
キラはそのまま隣に腰かけたなのはとはやてにその時の事を話し始めた。
「僕……ずっと宇宙で暮らしてきて海なんて見たことなくて、アークエンジェルで地球に降りた時に初めて見たんだ。でもその時は……ちょっと友達と色々喧嘩しちゃってて、景色どころじゃなかったなーって思って……」
「友達とですか……」
「うん、その……友達の恋人を奪っちゃったって言うか……」
「「うわあ」」
そのセリフを聞いて、思わずキラと距離を取ってしまうなのはとはやて。それを見てキラは思いっきり俯いて落ち込んでしまう。
「だ、だよね、ドン引きだよね……」
「す、すみません反射的に!」
「でも……私らもあまり責められんな、昔は私らもなのはちゃん達や沢山の人達に迷惑を掛けたからなあ」
「そうなの?」
キラの質問に、はやては昔を懐かしむように語り始めた。
「うん……ちょっと話すと長くなるから省略するけど、私昔は重い病気に掛かっていたんですよ、シグナム達はそんな私を助けるために沢山の人と戦ったんですよ」
「懐かしいなあ……私もいきなりヴィータちゃんにアイゼンで殴り飛ばされちゃったっけ」
「ず、随分と波乱万丈な経験をしているんだね……」
キラの言葉に、はやては笑みを浮かべながら答える。
「でもそんななのはちゃんが……それにフェイトちゃんとシン君が私の大切な子達を救ってくれたんです、何度も何度も語り掛けて、何度も何度も真正面からぶつかって……今私がこうやって生きて、愛しい子達と同じ時を歩んでいけるのもなのはちゃん達のおかげや」
「……すごいんだね、なのはちゃんは……」
「それしか方法が解らないから……でもキラさんにだってきっと出来ると思います、友達ともきっと仲直りできますよ」
「そうかな……」
なのは達の話を聞いて少しずつ表情を明るくしていくキラ、これからどうしていくべきか、その悩みが少しずつ晴れているようだ。その時……。
「あれー? なのはにはやて、それに……」
「あ……」
たまたま近くを通りかかったアリシアとニコルがやって来た、キラはニコルと目が合うと黙り込んでしまう。
するとそれを見たなのはがキラの肩に手をポンと置いた。
「折角ですし……彼と話をしてみたらどうですか?」
「え、いや……」
「話してみなきゃ何も解らない……コレ、ヴィータがなのはちゃんに言われた言葉ですよ」
そう言ってなのはとはやては立ち上がり、アリシアに耳打ちするとキラとニコルを残して離れていった。
「……」
「……」
取り残された二人の間に、しばらくの時間沈黙が流れる、そして……ニコルはなのはが座っていた位置に腰かけた。
「僕は……貴方にミゲルを始めとした多くの仲間を奪われました、その事は許さない」
「……」
「でも……僕達だって、戦争とは関係のないヘリオポリスを……貴方の故郷を滅茶苦茶にしたんですよね……」
再び二人の間に重苦しい沈黙が流れる。すると今度はキラの方が口を開いた。
「その……オーブを出てすぐの時の事……まだ謝っていなかったね……ごめん」
キラはかつてニコルが乗っていたブリッツを撃墜した時の事を思い出し、彼に対し心からの謝罪の言葉を発した。
「僕だって……アスランを守る為とはいえ、貴方を殺そうとしました、おあいこですよ……」
「ははは……そっか」
キラは少し空気が柔らかくなったのを感じ、自然と笑みが浮かんでいた、そしてそれはニコルも同様だった。
そんな二人の様子を、なのはとはやて、そしてアリシアはじっと見守っていた。
「あの二人……分かり合えるとええなぁ」
「きっと出来るよ、だってあの二人はちゃんと言葉を交わしているから」
「なのはが言うと説得力あるよね」
三人は離れた位置にいる二人を、かつての重ね合わせながら温かい視線を送っていた……。
☆ ☆ ☆
その頃ギガフロート付近の上空……そこに青いオーラを纏った一筋の光が接近していた。
「キラ……ヤマト! 君は僕が殺す……!」
その一筋の光……青髪の少年は背中に対になった鉄の板でできている青い翼を羽ばたかせながら、目の前に上から2・1・2と言った並びで魔法陣を展開する、そしてそこから赤いエネルギー砲を何発も発射した。エネルギー砲はそのままギガフロートの至る所に直撃した。
☆ ☆ ☆
ギガフロートの至る所から轟く爆音、それに気付いたなのは達魔導師組は急いでクロノとの念話を繋いだ。
「クロノ君! 今の攻撃は!?」
『魔法による攻撃だ! 魔導師が上空にいる!』
「! あそこにいるのが……!」
その時、はやては上空からの弾道を辿って上空にいる青髪の少年を発見した。
そしてなのはもはやての視線を追い少年を発見し、彼が以前キラに襲い掛かった少年と同一人物だという事に気付く。
「あの人、キラ君を殺そうとした……!? 魔導師だったの!?」
その時、騒動に気が付いたキラとニコルがなのは達の元に駆け寄って来た。
「なのはちゃん! 一体何が!?」
「キラさん! ニコルさんと一緒に安全な場所へ……!」
その時、上空にいる少年はキラの存在に気付き、猛スピードで彼の元に接近してきた。
「! レイジングハート!」
[Set up]
なのはは咄嗟にレイジングハートを取り出すと、キラと青髪の少年の前に割って入った。
青髪の少年は止まることなくなのはに激突し、そのまま弾道を変えて海の方へ彼女ごと飛んで行った。
「なのはちゃん!」
『はやてちゃんとアリシアちゃんはキラ君を守って! この人の狙いは彼だから!』
援護に向かおうとするはやてをなのはは念話で制する。
「邪魔をするな!!!」
少年はそのままなのはを海へ突き飛ばす、しかしなのはは咄嗟に光を発して白いバリアジャケットを装備し、桜色の羽を散らしながら高度を上げて海への激突を避けた。
「いきなりこんな事をするなんて! 乱暴すぎるんじゃないの!!?」
「僕の邪魔をするから悪いんだ! 大人しくキラ・ヤマトを殺させろ!」
「そんな事……させる訳ないじゃない!」
なのははそのまま少年の元に飛び立ち、レイジングハートを棍棒のように振り下ろした。
対して少年は腰から白い筒状の棒を取出し、先端から赤いビームの刃を展開してレイジングハートを受け止めた。
「どうしてこんな事をするの!? 沢山の人に迷惑を掛けて!」
「炙りだすにはこうするしかなかった、君達はあの男がどれだけの人間を不幸にするか解っていない……!」
「くっ……!」
なのはは一旦距離を置くと、自分の十八番である遠距離戦闘に持ち込んだ。
「アクセルシュート!!」
なのはから発せられた複数の魔法弾はそのまま少年を取り囲むように制止し、そのままいっきに襲い掛かる。
「甘い!」
少年はそれを回避とサーベルによる切り払いで無傷で乗り切る。
(フェイトちゃん程じゃないけど早い……!)
なのはは少年の予想外の機動力に戸惑いながらも、バインドで拘束したり魔力弾の牽制を試みる、しかしそのすべては少年に当たる事はなかった。
「鬱陶しい!」
少年は腰から二対の魔法陣を出現させると、そこから同時に二発の魔力弾を同時に発射する。
「あぐ……!」
なのははそれを冷静にシールドで防御するが、威力が高く腕に痛みを感じ顔を顰めた。
「なのは! 大丈夫か!」
「援護しに来たぞ!」
その時、騒ぎを聞きつけたヴィータとシグナムがやってくる。 ちなみに他の面々はギガフロートの人々を守る為船上で待機している。
「ヴィータちゃん! シグナムさん! あの子意外と速いから気を付けて!」
「はん! あんなのどうってことねえ! 援護しろよ!」
「油断するなよ……まだ隠し玉を持っているかもしれん」
そう言ってヴィータはグラーフアイゼンから二発のカートリッジを射出し、そのままジェット噴射を起こして少年の元に突撃していく、そしてシグナムはレヴァンティンを連結刃形態にし、鞭のようにうねらせて少年に攻撃した。
「邪魔するなって……言っているだろ!!」
すると少年は怒気を含んだ表情で、襲い掛かって来たヴィータのグラーフアイゼンの先端、そしてレヴァンティンの連結刃を“素手”で掴み取った。
「な……!?」
「ば、バカかお前!? 無茶苦茶しやがる!」
危なすぎる防御法をとった少年にヴィータとシグナムは戦慄する、その時……彼女達三人の体に青いバインドが三重に掛けられた。
「しまっ……!?」
「う、動けねえ!?」
そして少年は一気に三人との距離を広げると、再び目の前に五つの魔法陣を展開した。
「命までは取らない、しばらくじっとしていろ!」
そして魔法陣から強大な魔力砲が放たれ、そのすべてがなのは達に襲い掛かる。
「くっ……!」
覚悟を決めて目をギュッと閉じるなのは、そしてそれと同時に辺りに轟音が鳴り響いた。
「……ん?」
しかし少年は違和感を感じていた、確かに自分は三人に向かって強大な魔力砲を放った、しかし直撃したのならあの爆煙から三つの人影が落下する筈……それは無いという事は彼女達はまだ撃墜されていないという事になる。
「……お前か……!」
少年はその理由をすぐに知ることになる、何故なら爆煙の中にもう一人おり、しかもそれが“自分のよく知る人物”だという事に気付いたからだ。
「久しぶりの再会なのに、随分と連れないセリフ……ッスねえ」
その人物……黒髪に褐色肌の少年は目の前に巨大な魔力シールドを展開してなのは達を守っていた。彼女達はそんな彼の姿を確認して驚愕する。
「ノワー……ル!?」
「お、お前!? どうしてここに!?」
かつてノワールの家族だったシグナムとヴィータは、ここ数年音信不通だったノワールがリインのように人間サイズになって現れた事に驚愕する、するとノワールはビームライフルショーティーの銃口をなのは達三人に向け、そのまま引き金を引いた。発射された銃弾はそのままなのは達を縛るバインドを破壊し、彼女達を拘束から解放した。
「スンマセン、まずはあのアホを止めてからでいいッスか? お三方はとりあえず取り囲むように奴を遠距離から攻撃してくださいッス」
「……わかった」
ノワールの指示に、シグナムはとりあえず従う事にし、なのはとヴィータも無言で頷いた。
そしてなのは、シグナム、ヴィータは散開し、ノワールは正面から青髪の少年に突っ込んでいった。そして空中で剣とフラガラッハによる激しい鍔競り合いを展開する。
「ノワール! なんで僕の邪魔をするんだ! 僕達の使命を忘れたのか!?」
「忘れちゃいねえ、だけどお前のやり方は極端すぎるんだよ!」
「もう時間が無いんだぞ! このままじゃまた同じことの繰り返しになる!」
ふと、少年は左右から寒気にも似た敵意を感じ、咄嗟にノワールから距離を取る、ヴィータが放った鉄球とシグナムのファルケンの矢が少年の居た場所を通過したのはその直後だった。
「隙ありぃ!!」
ノワールはそのまま両腕からアンカーランチャーを発射し、少年の両腕の動きを封じる。
「この……!」
少年はすぐさま腰に二つの魔法陣を展開し、そこから魔力砲弾を放つ。
「ふっとぉ!!」
しかしノワールはその不意打ちとも呼べる攻撃を、アンカーランチャーによる少年の拘束を解かないよう、体をうつ伏せに寝かせるようにして飛び上がって回避した。
「なっ……!?」
「てめえの手口なんてお見通しだ! 知り合いになってどれだけの時間が経っていると思ってんだ!」
ノワールはそのまま両足の爪先からもアンカーランチャーを発射し、少年の両足を拘束する。
「なのは姐さん! 今だ!」
「!!」
その時、少年は背後から膨大な魔力量を感知して背筋を凍らせる、そして四肢を拘束されたまま後ろを振り向くと、そこには桜色の翼を展開したレイジングハートを構え、その先端をこちらに向けているたなのはがいた。
「何をしたいのかさっぱりだけど……何が何でもお話を聞かせてもらうよ!」
「よ、よせええええええ!!!」
「ハイペリオン……スマッシャー!!!!」
レイジングハートの先端から桜色の光線が高速で撃ち出され、それは少年の背中を貫通した。
「うわあああああ!!!」
少年はそのまま大爆発を起こす、それを確認したノワールは爆煙の下に移動する。
「ほいキャッチ」
そしてそこから落ちてきた何かを片手でキャッチした。
「「ノワール!!」」
戦闘が終わったと判断し、シグナムとヴィータ、そして一拍遅れてなのはがノワールの元に駆け寄って来た。
「お疲れっすお三方」
「おい、あのガキはどうなったんだ!?」
「あいつなら……ホレ」
そう言ってノワールは先程自分が拾った“ソレ”を三人に見せた。
「!!? こいつは……!?」
三人はノワールの手の中にある“ソレ”を見て驚愕する。
ノワールの手の中にあったもの……それは普段のツヴァイやノワールのように、三十センチほどの人形サイズに縮んだ青髪の少年だった。
「これは一体……どういう事なんだ!?」
「こいつはオイラやデスティニーと同じGデバイスって事ッスよ、ったく……姐さん達にまで迷惑かけるなんて……」
ノワールは溜息をつきながら、気絶して動かない青髪の少年をなのはに手渡した。
「え!? ちょ!?」
「そいつ……目を覚ましたらキラ・ヤマトに会わせてやってください、オイラこれから用事があるんで」
「お、おい待て!」
そのまま去ろうとしたノワールを、シグナムとヴィータは慌てて呼び止めた。
「お前今までどこほっつき歩いていたんだよ!? スウェンは……あいつは一緒じゃないのかよ!?」
「……スイマセン、今はまだ会う事は出来ないッス、でもオイラ達のやるべき事はもうすぐ終わるッス、だからもうちょっとだけ待っていて欲しいッス」
「なんだそれは!? ちゃんと説明しろ!」
シグナムはそう言ってノワールの腕を掴もうとするが、ノワールはそれをすり抜けるように振り払うと、足元に魔法陣を展開して何処かに転移していった。
「ノワール……!」
「……」
ようやく出会えたのに何も説明せずに去って行った家族に怒りを覚えるシグナムとヴィータ、一方なのはは手元にいる気絶したままの青髪の少年をじっと見つめていた。
「……貴方は……貴方達は一体何者なの……!?」
☆ ☆ ☆
その頃、ギガフロートの管制室では海上の戦闘が終わったのを確認してクロノ達が一息ついていた。
「どうやら終わったみたいね……」
「プロフェッサーさん、今のは……」
「大丈夫、皆にも口外しないよう伝えておくわ、それよりも破損した場所の修復を……」
その時、管制室にあった通信機が鳴り響き、プロフェッサーはすぐにそれを取った。
「こんな時に何? ……マルキオ神父が? わかった、受け入れ態勢を敷いておくわ」
プロフェッサーは通信を終えると、すぐ近くにあったコンピューターのキーボードを叩き始めた。
「どうかしたんですか?」
「いえね、急にお客さんが来ることになったのよ、しかも超有名人の……」
プロフェッサーは近くの複数のモニターにこの近辺の様子を映し出した。そしてモニターの一つに……ピンク色の戦艦が映し出されていた。
「この艦は……?」
「ザフトの新造艦“エターナル”、乗っているのはプラントの平和の歌姫……ラクス・クラインよ」
プラントの元議長であり穏健派であるシーゲル・クラインが、スパイ容疑により逮捕されたというニュースが世界中に流れたのは、その次の日の事だった……。
☆ ☆ ☆
同時刻、ザフト軍カーペンタリア基地のとある一室、そこでフェイトはスウェンから預かったデータの中身をパソコンで閲覧していた。
「これ……って……」
データの中身を見てフェイトは言葉を失う、その内容は彼女にとって信じがたい物ばかりだった。
「フェイト……大丈夫かい? 顔が青いよ」
その様子を見ていたアルフは、フェイトに気遣いの言葉を掛ける。
「私は……平気だよアルフ」
「全然大丈夫そうに見えないよ、一体これには何が書いてあるんだい?」
「……」
フェイトは唇をぎゅっと噛み締めながら、自分が今知った“真相”をアルフに説明した。
「管理局……といってもごく一部がこの世界の組織……ブルーコスモスと十数年前から裏で繋がっていたんだ、それに母さんが昔作っていた魔力動力炉の改良型が今、ブルーコスモスが所有する時空転移装置に使われている」
「え!? え!? この世界の人間が!? そんな馬鹿な事が……!?」
「しかもブルーコスモスの転移技術はすでに高水準の位置にまで達しているみたい、これがその証拠……」
フェイトはパソコンを操作し、5年前にブルーコスモスが行ったある“自分達と同等、もしくはそれ以上の軍事力を所有する管理外世界への調査隊派遣”に関するデータを閲覧する、その中には作戦に参加した少年兵らの顔写真付きのデータが記載されており、その中に……当時のスウェンのデータも記載されていた。
「スウェンがこいつらの一味だったって言うのかい?」
「本人は記憶喪失とかで覚えていないみたいだったけど、コーディネイターだったシンに時折攻撃的になっていたのもこれで納得できる、他のデータを見る限りブルーコスモスは洗脳や人体改造で優秀な兵士を作っていたみたい、スウェンさんもその一人だったんだね……」
フェイトはそのまま頭の中で今後起こるであろう最悪のシナリオを思い描いた。
(軍需で稼いだお金で管理局から転移技術を買い取って、コーディネイターとの戦争を有利に進めようと……? もしかしたら他の世界も視野に入れているのかもしれない、スウェンさんはそれを止める為に……? 私は一体どうしたら……)
その時、フェイト達のいる部屋にコンコンとノック音が響き渡る。
『入っていいかね?』
「クルーゼさん……どうぞ」
フェイトはやって来たクルーゼを部屋に招き入れた。
「……その様子だと、その中には君にとってとても有意義な情報が入っていたようだね」
「は、はい……」
フェイトは一瞬、この中のデータをクルーゼにも見せようかと考えた、しかし彼はこの世界の人間……こちら側の事情は詳しくないだろうし、かえって戦火を大きくする原因になるかもしれないと思い、口を噤んだ。
「アンタ、アタシらに用があるんじゃないのかい?」
「うむ、実はね……偵察に出ていた部下からの報告で、オーブ近海に巨大なマスドライバーがある人工浮遊物が発見されたのだ、恐らくジャンク屋組合の物だろう、そこで小規模な戦闘が行われたらしいが……その部下の話では、人間が単体で空を飛びながら、杖のような物からビームを出していたらしい」
「……!」
クルーゼの話を聞き、フェイトはすぐにそれが魔導師だという事に気が付いた。
(まさかなのは達が私達を探しに……? どうしてそんな所で?)
「フェイト! 言ってみよう! もしかしたらアースラの皆かも!」
ようやく仲間達と再会できる……そう思ったアルフは尻尾をフリフリと振りながらフェイトに提案する。
それを見ていたクルーゼはふふっと笑みを浮かべながらある提案をしてきた。
「ちょうどいい、我々は別件でユーラシア軍と共にオーブに向かう事になっている、大西洋連邦がオーブに対して不穏な動きをしているという情報を掴んだのだ」
「また戦争になるかもしれないんですね……」
「そうだ」
また戦場に行かなければいけない、でも仲間達と再会できるチャンスはこれで最後かもしれない……そう思案を巡らせたフェイトは、すぐに結論を出した。
「私達も付いていきます、連れて行ってください!」
「いいだろう、出発は明日になるから準備しておきたまえ」
☆ ☆ ☆
同時刻、オーストラリアのとある都市の片隅にあるビル、その中でスウェンは留美からある情報を聞いていた。
「ブルーコスモスの盟主……ムルタ・アズラエルがオーブに向かっている?」
「ええ、あそこにあるマスドライバーが目当てなのでしょう、どうしますか?」
「……決まっている」
スウェンはベッドからすくっと立ち上がると、手元にあった拳銃に銃弾を込めた。
「ノワールが帰ってきたらすぐに出発する、俺の過去の因縁を断ち切る為に、そして……仲間達を助けるために」
運命が交錯する日は、近い
本日はここまで、次回からは色んな事を詰め込んだオーブ戦をやろうと思います。2,3回かに分けるかも。