吉川きくは走った、とにかく走った。
ランスという異人に受けた屈辱を振り払わんが如く、ひたすら走った。
姫路の左端から始まり、"なにわ"と"大和"をあっと言う間に越え……
その結果、気付いた時には……彼女は尾張に到着していたのだが……
「う゛~っ……」
休憩がてらに入った茶店の席に腰掛けると、彼女は一人唸っていた。
眉間にシワを寄せながらであり、怖い顔が更に怖く見え、少し近寄り難い。
そんなきくが考えている事は、やはり異人の事について。
「(一体なんだってんだ、奴等の目的ってのは……)」
あの時は写真で脅され、勢いで命令を聞き入れてしまったが、
良~く考えてみれば、ランス達の存在は謎過ぎでワケが判らない。
ランスと言うスケベ野郎は元就の"呪い付き"を落として彼を殺すと言っていたが、
自分達・毛利家はJAPANの者達に恨みを買わせた覚えは多々あるのだが、
大陸の人間(異人)まで敵に回した覚えは今の所は無い筈だ。
奴は"きくちゃんの姉と妹にしか興味は無い"とも言っていたが、
そんなバカな理由で元就を殺そうとするワケが無い(実はそのバカな理由なのだが)。
それ以前に、奴は毛利元就を"殺す"と言った事が常識的に考えてありえない。
殺すっ? あの元就を? 呪い付き状態こそ殺すのは寿命にでもならない限り不可能。
いや……そもそも寿命では、"殺す"では無くて"死ぬ"だ。
それはさておき、呪い付きの前の状態であったとしても、
勝てる可能性がある者など、あの"上杉謙信"くらいしか居ないだろう。
「(畜生~、あの写真さえ無きゃあ、帰って新しいレシピでも考えんのになぁ。)」
まさか自分が、"魔人ザビエルを殺す旅の仲間"に加えられているなどと思っていないきくは、
ついさっき頼んだお茶と団子を待ちながら、腕を組んで考えている。
しかし考えが纏まる筈も無く、段々とイラつきが溜まってゆく中……
お茶と三本の串団子を乗せたお盆を持った少女が、おずおずと近付いてきた。
「あ、あの。 どうぞ、ご注文のお団子ですっ。」
≪……ことん≫
「んっ? あぁ……あんがと。」
「ごゆっくり、していってください。」
≪とたたたっ≫ ←小走りで店の奥へ消える。
「(……まぁ、悩んだって仕方無~し、団子でも食って気分転換するっきゃないか。
それにしても……茶店の運びにしちゃあ、随分と綺麗なカッコした娘だったな~。)」
ランスⅦ
~魔人の娘 黒姫 其の3~
――――伊賀家。
JAPANに多数存在している"忍者"や"くのいち"が、
武家から消耗品のように使われ続けていた事に不満を持ち、大和の地に作り上げた国。
そこの頭領である"犬飼"は、城の上座で静かに瞑想をしていた。
周りには数匹の"わんわん"もおり、犬飼を守るようにして丸くなっていたが――――
「イガイガとう!! したたんっ!」
≪したんっ≫ ←着地音。
「…………」
「伊賀家の忍者、犬飼 鈴女! 只今参上~ッ!」
≪ビシィッ≫ ←キメポーズの音。
「……鈴女……なんだ、それは?」
「これは徳川家に斥候に行った時、たぬきの忍者がやっていて、
あまりにも可愛かったので、今回鈴女も真似してみたのでござる。」
「……(そもそも、お前は"くのいち"だろう……)」
「ちなみに、その忍者には苗字があったのでござるが、
鈴女にはフルネームが無いので、犬飼様の名前を勝手に苗字にしたのでござる。」
「…………」
「にゃっ? どうしたでござる、犬飼様。」
「……もういい。 それより鈴女、戻って来たと言う事は……」
「うい。 言われた通り島津家の事を色々と調べて来たでござる。」
「やはりか。 相変わらず仕事が速いな。」
「うししし。 では報告でござるが、ど~やら島津が全国に宣戦布告したとゆ~のは、
間違い無いようでござる。 既に毛利領の"戦艦長門"が落とされたのを確認したでござるよ。」
「ふむ。 しかし何故、突然……」
「何か島津の4兄弟は"黒姫"と言う客将にゾッコンらしいでござるが、
黒姫が偶然招いた"異人"に惚れて、一緒に駆け落ちしてしまったようなのでござる。」
「異人に……?」
「うい。 その異人は黒姫と東の方へ向かったようなのでござるが、
探そうにもその先は毛利領なので、思い切って宣戦布告したのでござろうかね~?」
「島津の4兄弟がその客将を慕っていると言うのは以前から聞いていたが……それ程とはな。
とは言え……それだけで宣戦布告をする程、島津の者達は迂闊では……しかし……」
「犬飼様、どうするでござる?」
「そうだな……いくら島津と言えど、最初に当たるのはあの毛利。
そう直ぐには勢力を拡大できまい。 ……暫くは様子を見る事としよう。」
「うい。」
「だが……"異人"の存在が気になるところだな。」
「そうでござるねぇ。 その"異人"についても調べてみないと、
島津家の宣戦布告の真意は分かりそうに無いでござる。」
「うむ。」
「それにしても……プレイボーイで有名な島津4兄弟が、
いくら口説いても靡かなかった"黒姫"のハートを、異人はゲットしてしまったのでござるねぇ。」
「お前はその4兄弟に、何か感じなかったのか?」
「にゃっ? 特になに~も感じなかったでござるよ。
鈴女は万人受けタイプよりも、マニア層受けタイプの方が良いでござる。」
「そこまでは聞いておらん。」
「うい。」
「では鈴女。 お前はこれから"異人"について調べろ。
それでまた目新しい情報が入ったのならば、報告に戻るのだ。」
「わかったでござる、にんにんっ!」
≪――――ッ≫ ←音も立てずに消える。
「ふっ。 島津も多少、忍(しのび)を放ってはいるだろうが……
流石に"鈴女よりも早く見つけ出す"事はできぬだろう。」
犬飼の元に現れた天才くのいち"鈴女"は、偵察の情報を元に彼と島津家の宣戦布告について話し合った。
結果、再び鈴女は偵察へと出発し、残された犬飼は、ひとまず島津についての思考を中断する。
他にも彼が考え・成すべき事は多々あり、"今の件"に関しては、
鈴女に任せておけば大丈夫であろうと言う考えが強かった。
何時もフザけているかような言動だが、彼女はJAPANで最も優れた"忍び"なのだ。
そんな間に……鈴女は早くも城の外に出ており、これから"異人"を探すべく街道を颯爽と走っていた。
その彼女が心の中で思っているのは、天才くのいちとしての生活の"不満"だった。
「(ふい~。 やれやれ……犬飼様も人使いが荒いでござる。
どこか鈴女がイーッってならない場所は無いでござるかねぇ……イーッって。)」
……
…………
「!? (なんだ、この団子……)」
≪ぱくっ、ぱくぱくっ≫
「(――――美味ぇ!!)」
有耶無耶な気持ちが少しでも紛れればと、団子を口にした吉川きく。
そんな彼女は料理にはかなり五月蝿く、団子とて例外では無い。
――――掃除の長女。
――――料理の次女。 ←きくのポジション。
――――作法の三女。
……のように、死んだ母に料理の云々(うんぬん)を叩き込まれていた。
そのきくの感想がいきなり"美味い"と言うのは、滅多に無い事だった。
故にか、三本の串団子を一瞬で食べてしまったきくは、
ポケットに手を突っ込むと、出て来た小銭を素早く数え始めた。
傍から見れば貧乏臭い仕草だが、今の彼女には非常に重要な事だ。
「ひ~ふ~み~……良し。 お~い! コレ同じの、もう三皿くれ~っ!」
「は~い!」
「ずず~っ……ふぅ。 (いや~、まさかこんなに美味ぇ団子が食えるとは思わなかったぜ。)」
持ち金ギリギリまで団子を頼んだきくは、お茶を啜る。
冷静に考えてみれば、団子だけでなくお茶もかなり美味しい。
どっちかと言えばJAPANのお茶は作法にあたるので、
茶道は姉や妹よりも得意では無いが、彼女達が入れたお茶の味にも匹敵する味わいがあり、
先日受けた辱めをも取り払ってくれるような癒しがそれにはあった。
そんな表情がすっかりと柔らかくなっていたきくの元に、
一皿の団子を持った可愛い少女と、二皿の団子を持った無精髭を生やした男が、
互いに団子を届けるべく、きくの元へ近付いて来た。
「お客さん、お待たせしました~。」
≪コトンッ≫
「お~ッ、サンキュ。」
「それだけ一人で頼んでくれたって事は……気に入ってくれた? ウチの団子。」
≪コトンッ≫×2
「あぁ。 自分で言うのもなんだけど、あたしは料理にゃあ五月蝿いんだ。
でも、こんな美味い団子はあたしにだって作れないよ。」
「そうなんですか。 良かったですね、兄上。」
「うん。 異人の人にそう言って貰えると、自信が出てくるね。」
「ん~っ? こんな格好してるけど、あたしゃこう見えても日本人だよ。
それより……あんたがこの団子、作ったのか?」
「そうそう。 俺、俺。」
「お茶は私が入れたんですよ~。」
「へーっ。 できれば、どうやって作ったのか教えて欲しいもんだ。」
「それは内緒。 可愛い妹以外には、教えてあげれないな。」
「そいつは肖(あやか)りたいもんだねぇ。」
「まぁ、いくら教えても何故か虹色になるから、あまり意味は無いんだけどね。」
「虹ぃッ?」
「う~っ。 それは言わないでください、兄上~!」
≪ぽかぽか≫
「はははは。 可愛いな~、香は。」
≪ぽんぽん なでなで≫
「うぅっ……」
「……(やばっ……なんか、和む……って、香?)」
和気藹々で、ふにゃふにゃとした雰囲気の兄妹。
二人でこの茶店を経営しているのだろうか。
そんな二人の会話の中で、"香"という名前が出てきた時、
きくはその名に聞き覚えがあったので妙に感じたが、とりあえずそれについては置いておき……
何となく話題を振ってみるつもりで、この兄妹に質問してみる事にした。
「なぁ……ところでさぁ。」
「はい?」
「なんだい?」
「"呪い付き"にさせた妖怪ってのが判る奴を探してんだけど、おたくら何か知らねえか?」
「妖怪……?」
「ん? あ~、それなら――――」
……きくが情報を入手できたのは、案外早かった。
……
…………
吉川きくが尾張に出発して数日後。
前話の通り、姫路の宿でのんびりとしていたランス達にも、
島津家が全国に宣戦布告し、戦艦長門を落としたと言う噂が耳に入った。
それにランスは"ふ~ん"としか思わなかったが、黒姫はかなり驚いてしまい、
慌てた様子でランスとシィルに今後の予定を仰いだ。
本来ならば、島津4兄弟達にはアフリカ大陸で大人しくしていて貰い、
ザビエルが復活したとしても、島津家には瓢箪が無いので、
危害が及ぶ事無く、これからも平和な生活をしていて欲しいと思っていた。
しかし……全国に宣戦布告してしまったとなれば、
ザビエルと何らかの関わりを持ってしまう確率は極めて高いと言えるのだ。
「ランスさん! これは大変ですっ!」
「なんでだ?」 ←寝っ転がりながら煎餅を齧っている。
「私達は今、魔人ザビエルを倒す為に島津を出て、旅をしているのですよね?」
「あぁ。 可愛い娘ちゃん達とセックスする旅でもあるけどな。」
「……それなのに……あの子達は、全国に宣戦布告してしまいました。」
「らしいな~。 大方、黒姫ちゃんを取り戻す為にでも起こしたんじゃねぇのか?」
「そうかもしれません……そんな事をしても、私の気持ちは変わらないのに……」
「そうだそうだ、黒姫ちゃんは俺様のものなのだッ。」
「う~ん、島津の人達が領土を広げれば、私達の旅にも支障が出てしまいそうですよね~。」
「それなのですっ。」
「それなの? 何がだ~?」
「島津家が領土を広げれば、私達の旅の範囲が狭くなってゆくだけではありません。
瓢箪を持つ国が制圧されてしまえば、島津領でザビエルが復活すると言う事もありえるのです。」
「それでも別に良いんじゃねぇのか? あいつら気に食わんし。」
「しかしそれではッ、天満橋がある国を確保される事にもなり、
端からどんどんとJAPANの領土が飲み込まれる事となってしまいます。
それに……島津の方達には代々お世話になりましたし……どうか……」
「まぁ……黒姫ちゃんが一番困るのは、後者なんだろうがな。」
「……っ……」
「ら、ランス様~、できれば黒姫さんのお願いを~……」
どんな場所でザビエルが復活しようと、ランス達は仲間を率いて魔人を倒さねばならない。
ランス達がしているのは、"その為"の旅なのだ。
しかし黒姫は……どうしても、島津家の者達を巻き込みたくは無かった。
確かに天満橋の制圧なども頂けないのだが、黒姫が気にするのは島津の安否だったのだ。
それにランスは気分を良くしなかったが、島津が領土を広げる事は、
比例して女性たちが彼らの手に掛かる可能性も出てくるので、できれば何とかしたい。
だが、ランス・シィル・黒姫(・きく)のたった4人だけで数万の進軍を止める事など無理なので、
とりあえず……今のランス達にできる事を考えなければならない。
「それなら、こうしよう。 その前に……シィル。」
「はい?」
「瓢箪がある国は、何処だ?」
「え~っと……織田・上杉・武田・毛利・北条・伊賀・明石・足利……だったと思います。」
「北東の事ァ良くわからんが、今のトコ一番近いのは、明石で……次が毛利になるか。」
「そうなりますね~。」
「黒姫ちゃん、要は島津でザビエルが復活しなきゃ良いんだろ?」
「は、はい。」
「だったら簡単だ。 島津が瓢箪がある国を滅ぼすよりも先に、
俺様がさっさと瓢箪を手に入れてしまえば良いのだ。
まぁ……島津が領土を広げられ無けりゃあ、それはそれで良いんだけどな。」
「!? で、ですがそれでは国を……」
「国ごと滅ぼすなんて、そんな面倒臭い事するかッ。
ど~にかして瓢箪だけ手に入れちまえば、その国には用無しだ。
可愛い娘だけ味見したら、とっとと違う国の瓢箪を手に入れに行けば良いのだ。
瓢箪の数が減った方が、ザビエルが復活する場所の特定もし易いだろうしな。」
「名案ですね、ランス様ッ!」
「そうですね、驚きました……ですが、その方法は……」
「そりゃ~これから考えてきゃ良いのだ。
とりあえず、きくちゃんが戻るのを待つ事にするぞ。」
「そうですね。 頑張りましょう、ランスさん……」
『う~ん、何か回りくどい。 さっさと魔人殺したい。』
「うるさい。」
まずは仲間を増やす事しか考えていなかったランスだったが、島津が動いた結果。
"島津よりも先に瓢箪を回収しつつ、仲間を集めてザビエルを殺す"
……と言う予定に変わり、島津の侵攻によっては急がなければならない旅となった。
島津の侵攻速度・ザビエルの復活の時期……それはどちらも判らないのだが、
瓢箪を少しでも回収できれば、それだけザビエルの復活場所の特定もし易くなる。
その大まかな手順を見い出したランスの存在は、
島津が動いた事で慌てる事しかできなかった黒姫にとって、とても頼もしく映った。
簡単な事では無く、詳しい方法もこれから考えるとの事なのだが、
ランスであれば"どうにかしてくれる"と言う、頼もしさが彼から感じられたのだ。
それは黒姫が代々島津家に仕えた中……一度も感じなかったモノであった。
≪ギシッ≫
「お~っす、戻ったぜ~。」
「!? おぉ、きくちゃん。」
「あれぇ? 出発されたのは2・3日前だった気が~。」
「お早いお帰りですね……」
「なんだ、もう"呪い付けた妖怪"ってのが判ったのかッ?」
「おう……その前に、ほらよ。」
≪ぽいっ≫ ←投げてよこされた物をランスがキャッチ。
「ん~っ? なんだ、この可愛い小袋は。」
「土産だよ。」
……
…………
「親父に呪いを掛けたのは、"黄泉平坂"にいる"だいだーら"って妖怪らしいぜ。」
「ほほぅ。」
「黄泉平坂、黄泉平坂は出雲の……ここですね、ランス様。」 ←地図の出雲を指差しながら。
「……って言うか、地図にも載ってるくらいの場所なのに、何でそのままなんだ?」
「ウチの奴らは迷宮に潜るぐらいなら、喧嘩したり・酒飲んでる方が好きだからなぁ。」
「それにしても、きくちゃん。 随分と戻ってくるのが早かったな。」
「あぁ……一応、それなりに早く尾張には着いたんだけど、
まさか蜻蛉帰りできちまう事になるとは思って無かったよ。」
「何でだ? 宛なんて無かったんだろ?」
「そりゃそうだ。 だけど、偶然――――」
――――以下、回想シーン。
「それなら、ウチの3Gが知ってると思うよ。」
「さんじい?」
「織田家に代々仕えている妖怪だよ。 良くわからないけど、
"呪い付きにさせた妖怪"を探してるなら、3Gに聞けば判ると思うね。」
「織田家に仕えてる妖怪? ……って事は、もしかしてあんたら……」
「あれ、判っちゃったかい? 俺は織田信長。 そして、この娘が香姫なんだよ。」
「……やっぱりかよ……周りに幾つも忍んでる気配があったから、
もしやと思ったんだけど……まさか本物だとはねぇ~。」
「気付いてたのか。 狙いは何? 俺の命?」
「へっ、よしてくれよ。 こっちは長い距離走って疲れんだからさ。」
「はははは。 そいつは済まなかったね。」
「だったら"3G"ってのに会わせてくれよ、親父の"呪い付き"を落としたいんだ。」
「君のお父上の? ……それなら、紹介しないわけにはいかないね。」
「兄上っ、そう簡単に……」
「なになに、良いじゃないか。 それより香、俺の事は"あんちゃん"と――――」
「……(マジかよ、何あるかわかんねぇモンだなぁ~……)」
――――回想シーン終了。
「……ってワケで、その後城に招かれて、普通に聞きだせちまったよ。」
「奇特な国主だな……」
「織田信長の事は噂で聞いておりましたが……野心が皆無と言うのは本当のようですね。」
「それでも……"毛利家"は織田家と仲が良いワケでも無いんですよね?
織田家の家臣でもある妖怪が、良く教えてくれましたね~。」
「そりゃ親父の名前を出したら、周りの連中は驚いてたけどさ……
信長が"別に良いじゃん、減るもんでもないし"とか言って、あっさりと……」
「なんだそりゃ……」
「ともかく……命令には従ってやったんだ。
し、写真ってのをバラ撒いたりはすんじゃねーぞっ!?」
「良いだろう。 ちゃんと変わらず、個人で楽しむ範囲で留めといてやる。」
「ぐうっ……!」
「それじゃ~シィル、旅の準備だ。 "出雲"に行くぞ~。」
「はいッ。」
「毛利領ですから、注意しなければいけませんね。」
「そうだったな……きくちゃん。 出雲に入ったら、気配を消しながら付いて来るんだぞ?」
「わかったよ。 まぁ、あたしの気配が判る奴なんて、
毛利じゃたったの三人しか居ないから、安心しときな。」
「……ところで、話は変わるが。」
≪ずいっ≫ ←きくに顔を近付ける。
「なっ、なんだよ?」
「きくちゃん。 信長を見たって事は、JAPAN一美人の"香姫"も見たって事だよな?」
「それがど~したんだよ?」
「この小袋に顔が描いてあるが、噂通り可愛そうだなぁ~。」
「あぁ、確かに可愛くて良い娘だったぜ。」
「そうか~。 ぐふふふふふ……いずれはその"香姫"とセックスだ。 それが俺様の野望ッ!」
「はいはい、せ~ぜ~頑張んな。 でもロリコン趣味なら、あたしなんて用無しだろ?」
「はぁッ? 失礼な、俺様はロリコン趣味など無いぞっ。」
「けど香姫ってコ――――お子様だったぜ?」
……
…………
「とぉーーーーうっ!!」
≪ざしゅーーっ!!≫
「炎の矢ぁっ!!」
≪ずどおおぉぉんッ!!≫
……数日後。
目的地の出雲に辿り着いたランス達は、近場で宿を取りつつ。
"立ち入り禁止"の看板を無視して、黄泉平坂の迷宮に進入した。
旅の目標の筈の香姫が幼すぎると言う事に、少しヘコんでしまったランスだったが、
シィルを苛めたり、黒姫にフェラチオまでをもさせる事により、気合は元通り。
さておき黄泉平坂の内部はそれなりの広さであったが、ゼスのダンジョンに比べれば規模は小さく、
凄腕の冒険者であるランスとシィルにとっては、特に難易度が高いと感じる迷宮では無かった。
階層(深さ)はそれなりのようなのだが、ランス達の目的は迷宮の"制覇"では無い。
「ふぅ~、おっ? 階段発見だ!」
「やれやれ、やっとこさ6階かよ。」
「黒姫さん、平気ですか?」
「はい、この程度で音をあげる訳には……」
「しっかしお前、モンスターとの戦いに、随分と慣れてるみて~じゃね~か。」
「がはははははッ、俺様が殺してきたモンスターは星の数程いるからな。
きくちゃん、そろそろ俺様に惚れただろう? 戻ったらセックスしよう。」
「しねーよ、ばか。 何度も言わせんな。」
「なにをう?」
「あたしゃ~脅されて、仕方なく付いて来てやってるだけだ。
どうしても抱きて~って言うんなら、親父を倒してからにでも言うこったな。」
「ほぉ~。 その言葉、忘れるなよ~?」
≪ニヤリ≫ ←顎に手を添えながら、
「へんっ、やれるもんならやってみろってんだッ!」
「(うぅ……きくさん、軽率です。 ランス様はきっと……)」
妖怪"たいだーら"を探し、黄泉平坂を探索する4人。
そんな中、迷宮探索に慣れていない黒姫ときくは、ランスとシィルの手際の良さに感心していた。
だが……きくにとっては感心すれど、まだ本当の目的を話して貰っていないので、
まだまだ謎の多い異人を、彼女は信用するつもりはなかった。
それにより、すっかり御馴染みになったランスとの会話で、
ついつい"自分の貞操を与える条件についての話"を流すようにしてしまうが、
そこでランスが"しめた!"と思った事に、きくは気付いていなかった。
きくの処女を頂くのなら、写真について脅せばできない事は無さそうだったが、
思い直してみれば仲間として迎える以上、ドタンバで裏切られても困るし、
最近は"和姦"のスタイルを築いてゆこうとしているランスは、無理にきくを抱く事はしなかった。
……
…………
――――二時間経過、地下6階。
「さ~て、今日はそろそろ戻るか。」
「もうか? あたしゃまだまだイケるぜ?」
「私も、この程度の疲労など……」
「それは俺様も同じだけどな、"たいだーら"がどれくらい強いかが判らん。
だから、疲労が溜まる前に引き返すのが基本なのだ。」
「そうですね。 目的が未知の力を持つ、特定のモンスター(妖怪)であれば、
常に万全な体で戦える状態を、維持していなくてはなりませんからッ。」
「なんだかなぁ~。」
「まぁ、ベテランの俺様の言う事だ、素直に聞いておけ。」
「わかりました……」
「シィル、帰り木を出せ。」
「はいっ。」
黄泉平坂の6階を攻略した時点で、ランスは本日の探索の切り上げを言い出した。
これで、この迷宮の探索を開始して二日が掛かる事になるのだが、
きくと黒姫は"まだ行ける"という気持ちが強かった。
特に黒姫は"急がなければならない"という気持ちを強く持っており、
既にそれなりに疲れているのだが、やせ我慢していると言っても良かった。
今の所黒姫はまだ、戦いに慣れようとしている段階なので、主力では無いが、
ランス達、"主力"の疲労が溜まってから帰ろうと思った時に"強敵"が出ては困るので、
早いうちに迷宮から脱出しようと、道具袋からシィルが"帰り木"を取り出した時だった!
≪オオオオォォォッ!!≫
「うぉっ!? なんだァこいつはッ!?」
「もしかして、コイツじゃね~のかッ?」
「"たいだーら"……」
「黒姫さん! 危ないっ!!」
≪――――ガつッ!≫
「きゃあッ!!」
「ッ……の野郎っ!!」
≪じゃらっ――――ガシュッ!!≫
「浅ぇぞ、離れろーー!!」
「ちぃっ!!」
≪ドゴオオォォン……ッ!!≫
何処からとも無く現れた"たいだーら"が、不意打ちを仕掛けてきた!
まずは、最も近くに居た黒姫が弾き飛ばされ、尻餅を付き脇差が転がる。
それに追い討ちを仕掛けようとした"たいだーら"だが、
中距離からきくが鎖鎌を命中させる事により、相手の注意を自分に向けた。
……だが、大して効いていないようであり、
きくが後ろに飛んだと同時に、彼女が居た地面を粉砕させた"たいだーら"。
それにより、ランスが構えて前に飛び出し、シィルが遅れて詠唱に入り、
カオスと魔法による一撃を繰り出そうとした時――――
≪ひゅひゅひゅんっ!≫
「んんっ?」
≪――――どかかかかっ!!≫
「なんだッ?」
≪オオオオォォォォ~~ッ!!≫ ←断末魔。
「ら……ランスさんッ、それよりも!」
「むっ、そうだったな。」
「えいっ! 火爆破!!」
≪どごおおぉぉん……っ!!≫
「必殺ッ! ランスあたーーっく!!」
≪――――ゴブシュゥッ!!≫
突然遠距離から、手裏剣やらクナイやらが飛んできて、"たいだーら"に全て命中した。
その軌道を妖怪の近くに居たランスときくが追おうとしたが、
立ち上がった黒姫に声を掛けられ、武器を構え直した。
一方……その硬直を狙い、シィルが魔法(火爆破)を対象に打ち込み、
ランスが必殺技を命中させる事によって、"たいだーら"はどうと倒れた。
それにより"毛利元就"の呪いが落ちた事になったのだが……
まずランス達が気にしたのは"その事"では無く、"援護をした者"が誰かと言う事。
よって4人が視線を向けた先には……岩陰から体半分を出している"くのいち"の姿。
彼女は無意識のうちに今の行動に出てしまったようで、
引っ込みがつかなくなり、どうして良いか分からず、しばしその場で固まっていた。
「(はっ……しまったでござる! つい楽しそうだったから、
手が勝手に動いて、いらぬ援護をしてしまったでござる~!)」
その"援護をした者"とは、伊賀の"くのいち"の、鈴女であった。
大和を出て早々とランス達を発見した鈴女は、此処までずっと4人を尾行していたのだが……
(鈴女が一行を発見したタイミングは、明石領を出て出雲に入った辺り)
彼らの旅の一部始終を見ているうちに、何だか体が疼いて来てしまい、
ついさっき、"たいだーら"に武器を投げてランス達の援護をしてしまったのである。
本当ならば、ランスが魔人についての話題を再び話すまでは、
何も手を出さずに尾行を続けていたのだろうが、ランスと言う"異人"の言動全てが、
くのいちでの生活を余儀無くされている鈴女にとって、斬新に映っていたのだ。
「おぉっ、なかなか良い女だな~。」
「誰なんでしょうか~?」
「マジっ? 尾行されてたのかよ、全然気付かなかったぜ……」
「島津の くのいち では、無いと思いますが……」
≪じ~っ……≫×4
「(えぇい! もう、こうなったら仕方無いでござるっ!)」
≪ばっ! ――――スタッ!!≫ ←跳躍&着地音。
4人の"視線を受ける中、鈴女は考えた末……自分の正体を明かす事に決めた。
何も根拠は無いのだが……そうする事によって、楽しい"これから"があるような気がしたからだ。
鈴女は高い跳躍でランス達の前に着地すると、くのいち らしからぬ、笑顔とポーズでこう言った。
「伊賀家 くのいち、鈴女! 只今参上でござる~っ!」
≪ビシィ……ッ!!≫
――――この直後、鈴女の髪を一陣の風が、虚しく揺らした。
――――続く――――
ランスLv44/無限 シィルLv34/80 黒姫Lv30/99
吉川きくLv33/42 鈴女Lv39/49
●あとがき●
少々スランプ気味なので、楽しめない内容だったかもしれません。
さて、島津の動きをいち早く察するのはやはり伊賀だと思い考えていたのですが、
その結果鈴女が二人目の仲間になる事となってしまいました。
それでもアップする予定は無かったのですが、メモしてゆく中で何故か……
掴みにくいキャラなので書くのが難しそうですが、役に立って貰う事にします。
ちなみに、流石にランス達が手に入れた瓢箪が割れたりはしないのでご安心を。