そうして、彼女は目を覚ました。
(あれ……?)
同時にひどい違和感を感じる。身体が妙に軽い。リンカーコアを中心とした鈍痛も無い。
部屋を見渡す。自分の部屋では無い?……いや、見覚えはあるここは……
(実家の、私の部屋……?)
そうだった。でも、と思い
(なんだか、全体的に古いというか、昔っぽいというか……)
そう感じる。そして気が付く。
(私、縮んでいる……!?)
思考に浸ってられたのはそこまでだった。
「なのは、朝よ。起きている?」
母である、桃子が来たからだ。
「お母さん……?」
「あら、起きてたの?感心感心。今日から小学生だものね」
「へ?」
思考が止まる。桃子は気にせずに続ける。
「へ、って……もしかして寝ぼけている?ご飯はできているから顔を洗ってきなさいね」
そして桃子は去って行った。しかしなのははいまだ混乱中。
(え?え?今日から小学生?どういうこと?)
しかし、とりあえず……
(顔を洗ってご飯を食べよう……)
そう結論を出すのであった。
そしてリビングに降りる。
「来たわね。改めておはようなのは」
「う、うん。おはようお母さん」
うわ-、お母さん全く外見変わってないよ……、などと思いながら食卓に着く。すでに自分以外はそろっていた。
「おはようなのは……どうしたんだ?なんだか調子が悪そうだが」
「おはよう、なのは。……まあ今日から小学生だし、緊張でもしているんだろう」
「おはよう、お父さん、お兄ちゃん。そ、そうなんだ緊張しちゃって」
とりあえず適当な理由があったからそれで誤魔化しておく。そして
「おはようなのは。あれ?なのは、それ、何?」
「おはようお姉ちゃん。それって?」
姉が何かを聞いてくる。
「ほら、その左手の。……指輪?」
そう、左手の薬指にはユーノとの結婚指輪が付いていた。
「え……?」
それに気が付いたとたん
「ちょ!?何でなのは泣いているの!?」
涙が溢れて、止まらなくなった。
それからしばらくして、なのはは泣き止んだ。
「にゃはは……。ごめんなさい」
謝っておく。うがーうがー何処の馬の骨だー、あなた落ち着きなさい、と夫婦が何か言っている。
「まあ、別にいいが。……しかしそれを付けて学校に行くのか?」
「うん!もちろんだよ!」
「没収されるかもしれないぞ?」
「ええ!?どうして!?」
「いや、そういった華美な物は身に着けて行っては駄目だと場合によっては校則で決まっているんだ」
「大丈夫だよ、多分」
レイジングハートも没収されなかったし、と思いながら答える。
「ならいいが。だが注意されたらちゃんと外すんだぞ」
「うん、分かった」
外さないけど。そうなったらどうやって誤魔化そう、と思うなのはだった。
「だけどなのは。よくさっき恭ちゃんが言ってたこと分かったね」
「?何のこと?」
「いや、だから華美だとか校則だとか」
「い、いや何となく、かな?」
ふーんと言っている美由希。
「あ、ヤバ。もう行かないと!」
「やれやれ、じゃあさっさと用意しろ美由希」
「はーい。それじゃあなのは、また後でねー」
そして出て行った。
小学校の制服に着替える。これを着るのもずいぶん久しぶりだ。そして、バスに乗って学校、そのまま入学式。アリサとすずかを見かけた。なんだかとても懐かしかった。
その後は特にすることも無く、両親と帰宅。夕飯を食べ、風呂に入り、自室に入る。ようやくなんだか実感が湧いてきた。
――そう、自分は戻ったのだと。
おもむろに結界を張る。
「あは、あはは、あはははは、あははははははははは!!!」
笑う。
「ユーノ君!ユーノ君!ユーノ君!ユーノ君!ユーノ君!」
そう、つまり彼と再び会えるのだ。やり直せるのだ!
「あはははは!ユーノ君!あははははははは!」
笑い、ひたすら彼の名を呼ぶ。しばらくの間、それは続いた。
(とりあえず、これからどうするか、だよね)
落ち着いた後、結界を解除して考え始める。
(ユーノ君とは……うん、会えるだけなら何もしなくてもいい、はず)
彼とは必ず会える。指輪を撫でているとそう確信できた。でも、とも考える。
(それだけじゃ駄目だ。今度は何があっても護り抜ける力が必要だ)
あの時、自分にもっと力があって、あの場で反応することができたら彼は死なずに済んだかもしれない。
(その為には……魔法の特訓、あと体力を付けないと。お父さんたちに剣を習うのは……却下。器用貧乏になるし、私、反射神経はともかく、運動神経は絶望的だし)
魔力で強化すれば別だが、そうでないと自転車にすら乗れなかった。そんなことを思い出す。
(……うん、自転車くらいは乗れるようになろう)
そんな決意もする。
(とりあえずお父さんたちに頼んで体力が付くような特訓メニューを相談しよう)
それ以外の事も考える。
(フェイトちゃんは今の時点ではどうしようもないけど、はやてちゃん、独りなんだよね……)
どうしよう、と考えているとふと思い出す。
(そういえば、リーゼさん達ってはやてちゃんの家を監視しているんだっけ。……う。魔法の特訓をしていたら気が付かれるかなあ?)
そこであれ?と思う。
(そういえば……魔法を隠す前提で考えているけど、別にばらしちゃってもいいんじゃないかな?)
そんな考えも浮かんだが、却下する。
(駄目だ。もしそんなことをやってリーゼさん達にばれるとする。すると管理局に知られるかもしれない。
そこからプレシアさんがここにAAA~Sランク程度の魔導師がいると知るかもしれない。そうしたら警戒してジュエルシードは別の世界に落とすかも)
かもしれない、ばかりだがなるべく不確定要素は排除しておきたい。
(と、なると……むしろはやてちゃんと接触しておいたほうがリーゼさん達の動きを把握しやすいか……)
うん、そういったことを抜きにしても友達になっておきたいし。彼女には迷惑をとてもかけた。償う相手が違うかもしれないが、せめて独りの期間を減らそう、そう考える。
(それから……お母さんに料理も教えてもらおう。胃袋からユーノ君をキャッチだよ)
未来でも料理はそれなりにできた。できたが流石に母桃子には適わなかった。特にプロであるお菓子関係は圧倒的である。当然だが。
(ユーノ君も当然、出来ると出来ないでは出来る女の子のほうがいいよね)
えへへ、としばし妄想に浸る。
(あとは……万一、ジュエルシードが落ちてこなかった場合)
その場合、次元世界に行って彼を絶対に捜す。だけど問題は
(転送ポートがないと、ミッドまで正確に行けない……)
そんな問題だった。自分は転送魔法は得意でも不得意でもない。得意だったのはヴォルケンリッターの面々だった。
(はやてちゃんに頼み込めば送ってもらえるかなあ?)
危険だから無理かな?そこまで考えがまとまったところで、なんだか眠くなってきた。
(あー、身体は子供だもんね……。当然か)
まあいいや、明日以降に考えよう。とりあえず体力付けるメニューは相談しよう。
(おやすみなさい……ユーノ君)
指輪を見つめながら、そう思う。なんだか今日は久しぶりにいい夢が見れそうだ。