ここは学校からの帰り道。なのはが迎えに来たフェレットユーノを肩に乗せ、話しながら帰路についている。
あれから、数日が経った。
小学生の男の子がジュエルシードを持っているのを見つけてシュークリームと交換してもらったり、ユーノが覚えていなかった神社の物を回収したりして計4つ手に入れた。
「うーん……ごめんね、ユーノ君」
「そんなことは無いよ。順調だよ」
「でも、私がもっと探査系が上手かったら……」
しかしなのはは不満だった。二つは活性化していなかったので戦闘は無かったし、残り二つも自分手も出す前に父と兄が片づけた。
何だか、自分が役に立っていないような気がしたのだ。
「うう、何で私そういう類の魔法苦手なんだろう……。得意だったらもっと楽だったのに……」
なのはが得意なのは砲撃・誘導弾・防御・飛行・バインド。得手でも不得手でも無いのは結界や転移など。活性化していないジュエルシードの様な細かい探査や治癒などは苦手である。
「うーん。でも人には得意不得意があるのはしょうがないよ。僕だって攻撃魔法は苦手だし。それに、僕はそんなものとは関係無くなのはに感謝しているよ」
本音である。勿論、高町家の人たちには感謝している。
が、それ以上になのはと再会する前と再会した後では精神的なものが全然違う。
「うん、ありがとう、ユーノ君。でも、もっと頑張るよ」
ユーノの言葉を素直に受け取るが、やはりそれでも役に立ちたいというなのは。
「頑張るのはいいけど、あまり無茶したら駄目だよ。最悪、アースラが来ればなんとかなるし。戦力的にもクロノがいるから問題無いだろうし」
だが、あまり無茶をしない様にと釘を刺すユーノ。
「分かっているよ。ユーノ君に心配をかけたくないしね」
そう、笑って答えるなのは。ところで、と話題を変える。
「ところで、フェイトちゃんはどうしたんだろう。全然かち合わないけど」
「うーん。活性化していない奴は気が付いていない可能性が高いと思うけど、残り二つはあっという間に倒してあっという間に封印してあっという間にその場を離れたからね。間に合わなかっただけかも」
「そっか」
そんなことを話して歩いていら……
「あ」
「あ」
「あ」
少女に会った。
黒を基調とした服に金髪。そしてそれをツインテールにしている少女。
「えっと……」
「えと、その……」
向こうもこちらの事を覚えているのか、挙動不審である。
「フェ……そこの君!」
そして、フェイトになのはは話しかける。
「……たしか、この間の結界にいた子、だよね」
「高町なのはだよ。良かったら、少しお茶しない?」
まるでナンパか何かのようだ、とふと思ったが誘った。
「ええっ、と、その、私は……」
「ほらほら、行こう?」
迷っていたが、そう言ってなのはは強引に手を引っ張っていった。
翠屋。
「いらっしゃ……あら、なのは。お友達?」
「うん、フェ……そういえば、名前聞いていなかったよね。良かったら教えて!」
「フェ、フェイト=テスタロッサ」
こういったところに来ることが無いのか、あたりをきょろきょろするように見ていたが、突然問われてあっさり答えるフェイト。
「うん、フェイトちゃんだね。さっきも名乗ったけど私は高町なのはだよ」
「名前も知らなかったの……?まあいいわ。ユーノ君もいるから外ね。ちょっと待ってなさい。紅茶とシュークリームでいいわね」
「はーい」
そう言って出ていき、外のテーブルに座る。フェイトもまだ戸惑っていたがテーブルに座った。
「えっと、何で私をこんなところに連れてきたのかな?」
「うーん。……なんとなく?」
そういうと、やや呆れたようになるフェイト。しかし、そこでふとした疑問。
「そういえば……、魔法の事は知ったの?」
声を小さくし、確認。
「うん」
「……」
肯定するなのは。瞬間、フェイトは辺りの警戒をする。
「……?何を探しているの?」
「この間の魔導師を。……彼はどうしているの?」
(僕の事?)
念話でフェレットのユーノが答える。
(……?使い魔だったの?)
そう驚いたように念話で言うフェイト。しかし二人は反論する。
(違うよ!)
(違うよ!ユーノ君は人間だよ!私の一番大切な人!恋人!婚約者!この間の攻撃で回復しきれていないんだよ!)
なのはの剣幕に、ちょっとたじろいだようだが、フェイトは安堵する。
「そっか……。まだ回復してないんだ」
「あ」
同時に気が付く。思わず与えないでもいい情報を与えてしまった。
「あう、その……」
「はーい、紅茶とシュークリームよ」
その時、桃子が紅茶とシュークリームを持ってやってきた。
「はい。なのはをよろしくね」
「あ……、えっと、別に私は……」
「それじゃあ私は戻るから。ごゆっくり」
フェイトは別に友達ではないと言おうとしたが、桃子はあっさりと帰って行った。
言いたいことはあったが、とりあえず目の前のシュークリームを食べてみる。
「……美味しい」
「そうでしょ、そうでしょ」
嬉しそうにそう言っているなのは。はい、ユーノ君、と少しフェレットのユーノに分けていたりもする。
そして、しばらくは(フェイトは)無言で食べていたのだが、食べ終わり、訊きたいことを訊くことにした。
「ねえ」
「何かな?」
「……聞かないの?」
てっきり、なぜジュエルシードを集めているのかを聞かれたり、持っているジュエルシードを渡したりするように言われるのだと思った。
「訊いたら答えてくれるの」
「そんなことは無い」
話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ変わらない、伝わらないこともある。だから答える気は無い。
「そうだよね。だから訊かない。今日は、本当にただフェイトちゃんとお茶がしたかっただけだよ」
そう言って笑うなのは。
「そうなんだ……」
そして、そのまましばらく二人は無言でいた。
「はい。これお母さんからお土産」
「……いいの?」
「別に気にしないでいいよ」
それから。紅茶を飲み終わったフェイトが帰ると言い、お開きとなった。
「うん、ありがとう」
フェイトが嬉しそうにお礼を言う。どうやら気に入ったようだ。
「それから……、もしジュエルシードがある所で会ったら手加減しないでね。私がユーノ君の代わりに戦うから」
そう宣言する。それにフェイトはびっくりしたように返す。
「本気?」
フェイトにとっては、なのはは魔法と出会ったばかりの初心者である。まさか、自分に戦いを挑んでくるとは思ってはいなかった。
「本気だよ」
「分かった。手加減はしない」
そう返すなのはにそう答える。あの魔導師が戦うのを許可したのだとしたら、油断できない相手である可能性は十分ある。
「それじゃあ」
「うん、またね!」
また、の部分にちょっと驚く。
「うん、また」
そう言って歩き出す。
うん、アルフにいいお土産ができた。フェイトはそう思いながら帰るのであった。
「お父さん達、お願いがあるの」
夕食後、ジュエルシードを探しの見回りの前になのはは切り出した。
「何だ?なのは」
「フェイトちゃん――お父さんは覚えていると思うけど、昼間に私と一緒にいた子の事ね――とは私に戦わせてほしいの」
それに三人は渋い顔になる。
「それはな……」
「なのは、それはひょっとしてユーノ君を傷つけた相手か?」
恭也が何かを言いかけたが、それを遮って士郎が問いかける。
「うん」
「……だからか?」
士郎が真剣に問いかける。
「……違うよ。あの子と、真剣にお話ししたいんだ。……一回勝たないとそういったことは聞かせてくれそうにないから」
なのはが答える。
「ならばいい。やってみなさい」
「「父さん!?」」
士郎の答えに、恭也と美由希が驚いたような声を上げる。
「何事も、経験だよ。……それに魔法には非殺傷というものがあって、ユーノ君に攻撃したのもそれだったのだろう?なら、大丈夫だ」
「それでも、今回そうだとは限らないし、非殺傷でも状況によっては駄目だって……」
「ユーノ君」
美由希がそう言って反論するが、士郎はそれを遮ってユーノを呼ぶ。
「はい」
「――なのはを頼む」
「はい!」
その答えに満足する。
「なのは」
そして娘も呼ぶ。
「何かな?」
「もしなのはに万一があったら、ユーノ君は無理を押してでもなのはを助けようとするだろう。そんなことが無いように、無茶だけはしないようにしなさい」
「――うん、分かった」
なのはも神妙な顔で頷く。
「それじゃあ、今夜も行くか」
「ああ」
「うん」
「うん!」
「はい」
そして、今夜も出ていく。さて、今夜の成果はどうだろうか?