今日は海鳴温泉に行く。その車中。
「うわぁ……」
「うわぁ……」
「まあ、普段もこんなもんやよ」
アリサとすずかは開いた口から砂糖が止まらなかった。
あれから、実に順調にジュエルシードも集まっていたある日の事である。
今日は海鳴温泉に行く。面子は高町家、月村家、ユーノ、アリサ、はやてである。
そこで行く前にユーノの事やら魔法の事やらの説明を受けた。
アリサなどは初めは胡散臭い目で見ていたが、フェレットが人に変わったり、親友が何も無しに宙に浮いているのを見て諦めたように納得したのだった。
その車中である。アリサとすずか、それにはやてはそれを見ていた。と、言うか見せつけられていた。
親友と、その婚約者(恋人どころか)のいちゃいちゃっぷりを。相手は基本フェレットなのに。
「それでねユーノ君。できれば一緒に温泉入りたいなーって」
「いいよ。確か、混浴は無かったけど、家族風呂とかいうのがあったよね。それに入ろうか?」
「うん♪ありがとうユーノ君」
「どういたしまして」
うわー、甘い甘い。なのに隣のはやてが苦笑いを浮かべている程度なのが気に入らない。
「ねえはやて……何であんたは平気なの?」
だが、それ以上に気になったのでそれを訊く。
「いや……だって、普段もあんなもんやし……。大体、士郎さんと桃子さんも五十歩百歩やし」
諦めたように答えるはやて。
「普段から、なんだ……。ちょっとうらやましかも」
「すずか!?」
うらやましがるすずか。びっくりしたように反応するアリサ。
「まあ、なんだかんだでなのはちゃん、幸せそうだし。私もあんな相手が欲しいな……」
「まあ、気持ちは分からないでもないけど……」
「正直、羨ましいけど、自分にはあそこまで素直に甘えるのは無理」
「まあ、アリサちゃんは素直じゃないというか、ツンデレやからな」
「はやて……なんで考えていることが分かるのよ?」
「いいや。最初から声に出てたで」
「え?」
赤くなるアリサ。どうやら動揺していたようだった。
「まあ、あれや。すずかちゃんもアリサちゃんも、恋に恋するお年頃というわけで」
そんなことを言う、はやて。
「……そういうはやてはどうなのよ?」
それに赤くなったまま問いかけるアリサ。
「うーん。将来的には欲しいけど。でも、まあ今はなあ……」
「今は?」
先を促すアリサ。それにはやてはバカップルの方を見て答える。
「今は、あれを見ているだけでお腹一杯や」
「確かに」
苦笑して答えるはやて。それに苦笑して同意するアリサ。
その視線の先ではバカップルがいちゃいちゃしていた。
「ユーノ君、それでね、それでね……」
「うん、うん」
温泉に到着した。荷物を置くのもそこそこに、温泉に向かう。
男湯。
「……いいですね……」
「……ああ、いいな……」
「……うん、いいね……」
男三人でのんびりとお湯に浸かっていた。ちなみにユーノは人型。
「うむ……。実にいい」
「全くだね。癒される」
「温泉は、いいものですね……」
そのまま男三人、しばらくのんびりとしていた。
一方女湯。
「止めないでアリサちゃん!私にはユーノ君(9歳)の裸体を覗く義務があるの!!!」
「無いわよそんなの!大体(9歳)って何よ、(9歳)って!」
なのはが男湯を覗こうとしてアリサに止められていた。
「すずか達も手伝って!なのはの暴走を私一人じゃ止めるの難しい!」
そう言って、親友やその姉、母たちに協力を要請する。
「うーん。別にいいんじゃない?」
「私はこんな脚やし」
「私はそのはやてちゃんと一緒だから」
「別に、なのはちゃんはまだ小学3年生だから洒落で済むし、いいんじゃない?」
「それよりなのは。なのはは体力があっても運動は苦手なのだから、そんな風に真正面から壁を登るので無く別の方法にしなさい」
順番にすずか、はやて、美由希、忍、桃子。いずれにしろ、アリサの味方はいない。
「うん、分かったよお母さん!それじゃあサーチャーを……」
「魔法まで使おうとすんな」
なにやら魔法を使おうとした親友を一発殴る。
「うう、痛いよアリサちゃん……」
「大体、あんた後でユーノと二人きりで入るんでしょう?その時に見ればいいじゃない」
その言葉にはっとしたようになるなのは。
「……もしかして、気が付いていなかった?」
「うん……」
その返事に、呆れたように溜息を吐くアリサだった。
再び男湯。
「あはは……」
「……」
「……」
流石にあれだけの大声で騒げばその声は聞こえる。
「えっと、その、二人で入るというのは……」
「――なあ、ユーノ君」
ユーノが言い訳をしようとしたが、それを士郎が遮る。
「はい」
「本当に、なのはを頼む。なのはは幼少時に俺が大怪我を負ったことで、碌に我儘も言わない、言えないような、年齢不相応な娘になってしまった。
だが、そのなのはが君の事に関してだけはああなる」
「……」
無言になるユーノ。
「……なのはと君が何かを隠しているということも知っている」
「……!」
真逆、こんなに早くばれるとは思わなかった。士郎は先を続ける。
「無理に聞こうとは思わない。何か、隠す理由があるのだろう?だがそれとは関係無く、ただなのはの父親として頼む。なのはを幸せにしてやってくれ」
「――はい!」
力強く頷くユーノ。士郎はそれに満足したようにしている。
「うんうん。ただ、本気で悲しませたら、多分斬りに行っちゃうと思うから覚悟しててね」
「あはは……。まあ、そんな事はありませんので関係ありませんけどね」
「おお、言うじゃないか。まあそれくらいの気概を見せてくれないと“義息子”とは呼べないけどね」
「なら、これで呼ばせてもらいますね、“お義父さん”」
そう言って、二人で笑いあうのだった。
その後、二人で辺りを散策したり、宴会であーんをしたりを始めとしたいちゃいちゃを存分に見せつけて親友たちに砂糖を吐かせた後。
なのはとユーノは二人きりで温泉に入っていた。
「うわー!見て見てユーノ君!星が凄いよ!」
「本当だね」
真夜中。家族風呂。二人で温泉に浸かる。
「ねえ、ユーノ君?胡坐をかいてくれない?」
「?いいけど」
そう言って胡坐をかくユーノ。そのユーノの前になのははもたれかかった。
「よいしょ、と。えへへ。ユーノ君」
「なのは?」
少し驚くユーノ。
「駄目?」
「そんなことは無いよ。……うん、なのはがとても感じられるよ」
嬉しそうにそれに答えるなのは。
「うん、私もユーノ君が強く感じられるよ。ねえユーノ君……」
「何かな?」
ユーノに話しかけるなのは。促すユーノ。
「私ね、ユーノ君と再会してからあの夢を見なくなったよ」
「あの夢?」
ユーノは問いかける。
「うん。ユーノ君が殺された、あの時の夢。……今まで、週に一回か二回は見ていたんだけどね」
「…………」
ユーノは黙る。
「ユーノ君、ありがとう。ユーノ君のおかげだね」
「……なのは」
礼を言うなのはにユーノは話す。
「ユーノ君?」
「士郎さんにね、なのはを頼む、幸せにしてやってくれと言われたよ」
なのはは少し驚いたように問い直す。
「お父さんに?」
「うん」
そっか、お父さんが……と、言っていたなのはだったが、そのうち静かになる。
その心地の良い沈黙の中、二人は互いだけを感じていた。
そうしてそのまま、二人はのんびり温泉に浸かっているのであった。
翌日。帰りの車中。
「えへへ、楽しかったねユーノ君」
「うん。そうだね、なのは」
なのはとフェレットになったユーノがいちゃついていた。
それを行きと同様に見ている三人。
そして切れるアリサ。
「うがー!うがー!!うがー!!!ええい、このバカップルめが!槍じゃ、槍を持てえい!」
「お、落ち着いてアリサちゃん。どうどう!」
「殿中や!殿中や!」
……訂正。混乱しているアリサとやや混乱しているすずかとはやて。
だがバカップルは気にしない。
「ね、ユーノ君!いつか二人っきりで来ようね!」
「そうだね、いつか二人きりで来よう」
「うがーーーーー!!!」
まあ、一応平和な光景である。あるったらある。
ほぼ同時刻。????。
「艦長。明日中には第97管理外世界に到着することができそうです」
「そう。ご苦労様」
とある部屋の中。艦長と呼ばれた女性と少年が会話していた。
「しかし……何故急に急いで向かうことになったのでしょうか?」
「本局から連絡が来たのよ。なんでも輸送艦の事故によりロストロギアがばら撒かれたらしいわ」
「ロストロギアが?」
緊張したように少年は問い直す。
「ええ。本来なら、封印魔法が施されているらしいけど、事故の規模によっては解けている可能性が高いと発掘責任者から連絡があったらしいわ。
その情報が入ったので本局が調査した結果、人為的な事故の可能性が高いと判断したの。そして、人為的な事故ならば次元犯罪者がかかわっている可能性が高いから」
「成程……。把握しました」
納得して少年は頷く。
「それから、その発掘責任者だけれども、先に現地入りして集めているらしいわ」
「は?それは人間は正気ですか?輸送艦の事故で、別に責任は無いでしょうに。……そういえば、何故人為的な事故だと分かったのですか?」
急いで回収せねばならないほどのロストロギアを個人で集めるなど、かなり危険な事である。馬鹿か、よほどの自信家か、間違った方向の責任感がある人物か、或いはその複数か。
だが、少年はそれには軽く触れるだけで他の疑問を口にした。
「それはね……都合がよすぎるのよ。簡単に言うと数が多いロストロギアなのに、同じ世界の極めて狭い地域にばら撒かれたからね」
「ふむ。……ん?それは何故分かったのですか?」
「輸送艦の乗組員は、たまたま付近を通りがかった他の船に助けられたらしいわね。その時にログを持ち出していて、その中に貨物の落下データがあったらしいわ。勿論、通報を受けた時点で管理局に譲渡されたわよ」
「成程……。詳しい資料はこれでよろしいですか?」
大体を把握したので、さらに詳しい情報を得るため資料らしきものを手に取る許可を貰う。
「ええ。もし次元犯罪者がかかわっているとしたら、戦闘になる可能性は十分あるわ。期待しているわよ、クロノ=ハラオウン執務官」
「了解しました。リンディ=ハラオウン艦長」
そう言って敬礼をし、少年は部屋から出て行った。
ほぼ同時刻。????。
そこにはある女性がいた。女性の前には少女が入っているガラス管らしきもの。
「もう少し……。もう少しよ……」
女性は嗤う。
「あはははは、あは、あははははははは!!!待っていてね、アリシア!!!あは、あははははははは、嗚呼、アリシア!アリシア!!!」
目の前の少女が入っているガラス管。それと、周りの機器から漏れ出した光の中。
「嗚呼!嗚呼!!嗚呼!!!アリシア!アリシア!!アリシア!!!アリシア!!!!アリシア!!!!!あはははははははははは!!!!!」
女性は、ただひたすらに嗤い、名前を呼んでいた。