「フェイト!逃げるよ!多分あの黒いの、管理局だ!」
「でも!ジュエルシードが!」
「いいから!捕まったら元も子もない!」
「……分かった」
「……どうしよう、ユーノ君」
「どうしようか……」
なのはとユーノは途方に暮れていた。戦闘に乱入してきた黒衣の少年。今は気絶している。間違いなくクロノである。
非殺傷設定だったし、ちゃんとフローターで受け止めることはできたしでそれ自体は別にいいのだが。
迷っていると、通信で話しかけてくる人物がいた。
『少々よろしいでしょうか?こちらは時空管理局本局所属アースラ艦長リンディ=ハラオウンです。こちらが身分証明になります』
「あ、高町なのはです」
「ユーノ=スクライアです。レイジングハート、僕の身分証明」
『はい』
二人とも名乗る。
『ん……?ユーノさんはジュエルシードの発掘責任者のユーノさんでよろしいでしょうか?』
「はい」
『と、なるとそちらのなのはさんは現地協力者の方ですか……。お話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?』
「はい」
『では、人を送りますので。その人間にそのクロノ―その少年―も預けてもらえますか?』
「はい」
それからほどなくして人が来る。その人間にクロノを預けると二人はアースラに転送されたのだった。
そのまま、アースラの中を艦長室まで案内される二人。
「おおー(久しぶりだけどやっぱり戦艦は凄いなあ。……ちょっとデザインが古臭いけど)」
「んー」
感嘆しているなのはと何やら考えているユーノ。
「ユーノ君、どうしたの?」
その様子に何かあったのかと聞くなのは。
「いや、困ったことではないけど……。うん、やっぱり戻ろう」
そう言って翠の光に包まれるユーノ。そして人の姿に戻った。
「ユーノ君?もう大丈夫なの?」
「大体ね」
「なら、いいんだけど」
そうこうしている内に艦長室の前までたどり着いたようだ。
連れてきた男が部屋をノックする。
「艦長、失礼します」
「ご苦労様。戻ってもいいわ」
「は!」
そのまま敬礼し、去っていく男。そして、なのはとユーノは艦長室に足を踏み入れた。
「ようこそ、アースラへ。改めて自己紹介します、私は艦長の時空管理局本局所属リンディ=ハラオウンです」
「はい。高町なのはです」
「ユーノ=スクライアです」
改めて互いに自己紹介をする。リンディはお茶を進めてきた。
「まあ、まずはお茶でも」
「は、はい。いただきます」
そしてリンディは自分の緑茶に大量のミルクと砂糖を投入している。
なのははそれを見て、うわー、相変わらずだなぁ……、などと思っていたが、ふとユーノを見ると渋い顔をしてそれを見ていた。
(どうしたの、ユーノ君?いつもの事じゃない)
それになのはは限定念話で話しかける。これならリンディにも聞こえない。
(うん。あれ、止めさせたいなと思って)
なのははそれにびっくりする。
(ええー!?無理だよ!)
(でもね、リンディさん早死にしたんだけど、あれも原因の一つだよ)
なのはは問いかける。
(……早死にしたの?)
(うん。一時はフェイトの方が年上に見られるんじゃないかって位若々しかったけど、50代半ばくらいで急激に老け込んでね、そのまま60手前で亡くなったよ)
(そうなんだ……ありそう。うん、私も協力するよ)
そんなユーノの言葉に自分も協力するというなのは。
「一息ついたかしら?」
「あ、はい」
「それではユーノさん、説明をお願いしてもよいかしら」
「はい」
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「成程、分かりました。これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」
そう宣言するリンディ。それを受けて返事をするなのはとユーノ。
「わかりました」
「わかりました」
「……」
リンディは少々黙る。それを不審に思ったのかユーノが訊ねる。
「あの……どうしましたか?」
「いえ……随分あっさり納得するなって……」
割と素直に答えるリンディ。それを受けてユーノも答える。
「勿論、僕も協力させてもらいますけど。最悪、全部持って行かれないように」
「……。それは、私たちが勝手に持っていくと?」
その言葉にリンディが反応する。
「まあ、貴女達がそれをしないと言っても、ロストロギアの保管やら売買やらをする部署は別ですし」
実際、前回はアースラが集めた分ははっきり言って買い叩かれた。それでも十分な値段ではあったけど。
「……。わかりました。信用してもらうためにも乗艦を許可します」
「ありがとうございます」
これで、ユーノの話はついた。
「私も協力します」
そうなのはが切り出した。が、リンディは取り合わない。
「いいえ。なのはさんも急に言われても気持ちの整理もつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて、それから改めてお話をしましょう」
しかし、なのはは反論する。
「でも、フェイトちゃんに対抗できる人がそちらにいますか?」
クロノがああなってしまった以上、リンディ位のものだろう。
「……。ですが!」
痛い所を突かれたのか、少々黙るリンディ。勿論先ほどの戦闘映像は見ており、なのはが十分戦力になることは理解している。
「……分かりました」
「分かっていただけましたか?それでは……」
「そちらの武装隊員を全員、呼んで下さい。私が纏めて相手にします」
どうやらなのはは戦力的に自分が疑問視されていると勘違いしているようだ。
「……いいえ、それは不要です。分かりました。高町なのはさん、貴女のアースラへの乗艦を許可します」
「ありがとうございます!」
流石に、武装隊員を減らすのは得策ではないと判断したのか、許可を出すリンディ。実際戦力としては願ったり叶ったりなのだ。
そしてそれを受けて礼を言うなのは。
「それでは先ず家族に説明をしたいので、明日からでよろしいですか?」
「はい。……ああ、私も御家族へ説明に伺いましょう」
「ありがとうございます」
そうしてなのはとユーノのアースラへの乗艦は許可された。
二人は説明のため、リンディとともに高町家に向かうのであった。
高町家。大分、時間も遅くなっている。
「えっと、ただいま」
「ただいま帰りました」
それに反応する面々。
「二人とも!遅いぞ!心配したんだからな、今何時だと思って……!?」
そこでもう一人、女性がいることに気が付く。
「お邪魔させていただきます」
「はい。……貴女が今回の件に?」
「はい。それも含めて説明させていただきます」
「分かりました。こちらです」
リビングに通す士郎。それについていく面々。
リビング。まず、互いに自己紹介。
その後、緑茶を出されたリンディが砂糖とミルクは何処かと聞いて、ひたすら笑顔で見つめてくる桃子に何も言えなくなってそのまま飲み始める、という一幕があったが一息ついた。
「では、説明を始めます」
「お願いします。」
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「以上です。何か質問は?」
「成程。大体理解しました」
魔法等の事は既に説明済みだったため、比較的簡単に説明は終わった。
「それじゃあまず一つ目。俺達は駄目なのですか?」
恭也が質問する。
「ええ。戦力的には十分なるとの話は聞いておりますが、申し訳ありませんが非魔導師は少々法に触れまして……」
納得する恭也。そこに美由希が質問する。
「法って、ユーノの時も疑問に思ったのですけれども、そちらの世界はなのはでも大丈夫なくらい就業年齢が低いのですか?」
「はい。こういった仕事には就業年齢がありません」
うわー、流石異世界、と言っている美由希。最後に桃子が訊いた。
「それで、なのは、それにユーノ君の安全に関してですけれども……」
それにリンディは頷いて答える。
「はい。民間協力者という扱いですので、基本的に無茶はさせません。勿論、全てが全てとは言いません。今回、あの黒い少女との戦闘を見越してなのはさんは協力を申し出ました。
ですので、あの少女との戦闘になる可能性があるのは否定しません。無論怪我などを負ったら直ぐにサポートさせていただきます」
「……怪我ではすまない可能性は?」
一番、訊きたかったことを訊く。
「……無論、その可能性はゼロではありません」
「「「「…………」」」」
その言葉を受けて押し黙る高町家の面々。
それを破ったのは、なのはの言葉だった。
「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
その言葉に反応してなのはの方を向く。
「……やらせて、欲しいんだ」
その言葉に反応したのは、両親だった。
「……ふう、仕方が無い、か」
「……そうね」
「父さん!?母さん!?」
「二人とも!なのははまだ子供だよ!」
だが士郎は言う。
「恭也、美由希。なのはの目を見ろ」
その言葉を受けてなのはを見る二人。
「……そうなった人間を説得するのは、ほぼ、無理だ。なら俺たちにできることは信じてやることだけ。
……リンディさん」
リンディに呼びかける。
「はい」
「なのはを、よろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げる。
「――はい。承りました」
そう返答するリンディ。さらに士郎は続ける。
「――ユーノ君」
「はい」
「回復、したのかね?」
「はい」
その返答を聞いて士郎はユーノに言う。
「道場まで来なさい。お話をしよう」
「……分かりました」
そして、二人は道場まで移動するのであった。
道場。なんだかんだで皆ついてきた。
「何で皆居るんだ?」
「気になって……」
「まあ、そういうことだ」
「にゃはは……」
「まあ、いい。ユーノ君、ここにあるものの内、好きなものを使いなさい」
そう言って木刀の束を指さす。
「はい」
その返事を聞き、自分も準備をする。
「良し。そちらも準備はできたかい?」
「はい」
準備が完了して、振り向く。そしてユーノを見て絶句する。
「……ユーノ君、それは……いや、いい。後で聞こう」
ユーノも準備はできていた。しかもその構えは――自分たちと同じ、御神流。
見れば恭也と美由希も自分同様絶句している。あの慣れた感じは一朝一夕では無いだろう。こちらに来てから自分たちを見て模倣したわけでは無い。
訊きたいことができたが、その問題は後回しだ。
「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術 高町士郎」
「……ユーノ=スクライア」
一瞬の間。
そして……
「「参る!」」
二人は、激突した。
(……強いな)
剣を交えて暫く経つが、士郎はそう思った。ただ同時に違和感も感じる。
(まるで、何かを確かめながら剣を振っているようだ)
そう思う。ただ、一つ分かる事はあった。
(これならば、本当になのはの事を――)
互いの剣が交錯する。そして、二人は距離を取った。
「……驚いたな。本当に御神流だ」
「……そうだね。もしかしたら技術は私よりも上?」
恭也と美由希がそんなことを言っている。
だが、二人の耳にそれは入っていない。
「さて、ユーノ君」
「はい」
士郎はユーノに話しかける。
「ここからが、本番だ」
そう言って神速を起動。常人では、御神に勝てないという理由、それが歩式奥義・神速。
そしてその領域で動くこと。それが完成された御神の剣士である。
(神速まで使うか!)
ユーノも起動。同じ領域で動く。
(……久しぶりだな、この感覚は)
思わず、目的を忘れてしまいそうだ。
(さあ、戦るか!)
そして……!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ユーノが、息を切らして倒れている。
「ふう……」
一方、士郎は息はかなり乱れていたが、しっかりと立っている。
「俺の勝ちだね」
「はい、ありがとうございました!」
結果はその通りだった。
さもあらん。体格・体力は士郎が勝っている。武器は同等。さらに、ユーノは動きがまだ体に馴染んでいない。そもそも体が未熟なので神速は長時間使えない。
結果は火を見るより明らかだった。
「それじゃあユーノ君」
「はい」
ユーノは姿勢を正して聞く。
「これで三度目だね。なのはを、頼む」
「はい!」
認められたようだ。
士郎は、ユーノ君、凄かったよー、などと言って末娘がユーノに抱き着いているのを見ながら問いかける。
「……それで、その剣術は誰から習ったんだい?」
「フワ、という人からです。次元漂流者―どこかの次元からやってきて帰れなくなった人―でした。本来なら、一族以外には教えないが、もう戻れないだろうし、お前一人にならと」
顔には出さず、嘘を言う。長く執務官だったので、さすがにこれくらいはできる。……実際、教わった人達の旧姓は不破だし。
「そうか。……その人は?」
「亡くなりました」
「そうか……」
残念そうな士郎。ユーノはそれを見て少し胸が痛んだ。それを誤魔化すように言う。
「皆さんの動きを見て驚きましたよ」
「そうだろうね、こっちも驚いたよ。……気が付いているだろうけれど、その剣術は俺達の物と一緒だ。正式名称は“永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術”と言う。
フワ、とその人が名乗ったのならば、それは分派の不破だろう。俺の旧姓も不破だ」
そう言っていったん切る。
「それで、どこまで知っているんだい?」
「理屈は、歩式は神速三段がけまで。それ以外の奥義は、奥義之六・薙旋まで。名前は『閃』も知っているのですが」
「そうか……分かった」
大体理解する。
「まあ、いずれにしろまだまだ修行中の身です」
「それは俺も一緒さ」
そう言って笑う。
「良かったらこれからもちょくちょく戦ろう。相手がいたほうが良いだろう?恭也や美由希にもいい刺激になるし」
「はい、お願いします!」
ユーノのその返事に満足したようにうなずいている士郎。
「リンディさん」
「……何かしら」
呆けていたリンディに話しかけるユーノ。
「アームドデバイス、あります?小太刀は難しいだろうけどショートソード型のものを二本」
「うーん……どうかしら。悪いけど分からないわね」
「そうですか……」
「まあ帰ったら確認しておくわ。それでは皆さん、失礼します」
そう言って帰るリンディ。
「はい。……なのはの事を、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる士郎と桃子。
「はい。必ず、還らせます」
そう言って、頭を下げ返すリンディ。
そしてリンディは帰って行った。
「さて……それじゃあ夜ご飯でも食べるか」
「士郎さん、タフですね。僕はあまり入りそうにありませんよ」
「何、入るのだから君だって大概さ」
和やかにそう言いあう士郎とユーノ。だがなのはの一言で一変した。
「じゃあユーノ君!今日も一緒に寝ようね!」
空気が凍る。そう、今のユーノはフェレットではない。
「な、なのは?回復したからユーノ君は今日から客間だよ?」
「えー。でももう遅いし、明日からはアースラだし、非効率的だよ」
「し、しかしだなあ……」
そう言って周りを見渡す士郎。
桃子・にこにこしているだけ。恭也・諦めたような溜息。美由希・桃子と同じくにこにこしているだけ。最後にユーノに目が行った。
「……ユーノ君」
「な、何でしょうか?」
思わず背筋が伸びるユーノ。
「さあ、続きと行こうか」
「え?」
固まる。だがなのはが反応する。
「何で?お父さん!ユーノ君に当たっちゃ駄目!」
「な、なのは……。いや、確かに、でも、しかしだな……」
そのまま、口喧嘩と言うには一方的なものが続いていく。
色々あったが、本日の高町家も平和だった。