眼下に広がるは、一面の、海。フェイト=テスタロッサはそれを見ていた。
あれから、ユーノとなのはがアースラに滞在するようになってから数日が経った。
その間、新たなジュエルシードは見つかっていない。……フェイトも、姿を見せていない。
「やはり……海中である可能性が高いか……」
まだ本調子ではないが、ある程度回復したクロノがそう言う。ちなみにクロノ、最初はなのはやユーノが協力するのに反対していた。
が、なのはとフェイトの戦闘時の映像や、ユーノとやった模擬戦、それにユーノの探査魔法の精度等を見て納得せざるを得なかった。
「そうだね。アースラの探査結果とか探査魔法とか、落下時のデータなんかを加味すると」
そう資料を見ていた女性、エイミィが答える。
「どうしましょうか?」
ユーノがここの最高責任者に問う。
「うーん……。海に潜って探すというのが一番安全なんだけど……。下手に魚とかに持っていかれたら探すのが困難になるわよね。
……強制発動させて封印しましょう。幸い、戦力は十分あるわ。クロノ、お願いね」
そう提案するリンディ。
「分かりました。それと、あのフェイトと言う魔導師の少女の事は?」
「あ、それね、ある程度は調査出来たよ」
そう言って、テスタロッサから割り出したプレシアの事を説明するエイミィ。
「……成程な」
「……」
「……」
頷いているクロノ。そして黙るなのはとユーノ。
二人には、プレシアの痛みがよく分かる。……こればかりは、経験してみないと分からないだろう。
だがそこに緊急連絡が入る。
『艦長!』
「どうしたの!?」
『はい!先ほど魔力反応がありまして、その地点を調査した結果、件の魔導師の少女とその使い魔らしき姿が!』
「分かりました!すぐにブリッジに向かいます!」
そうして5人は急いでブリッジに向かっていった。
それより少し前。海鳴海上。フェイトは使い魔と共にいた。
……わずか二個しかジュエルシードを持って帰れなくて、母をとても失望させてしまった。
恐らく、もう地上には無い。いくつか反応があったのは、現場に着いた頃には終わっていた。
ならばあとは海。いくつあるかはわからない。強制発動させて、封印をする。多ければ多いほど困難だ。だが多ければ多いほどいい。そして、それを母に持っていく。……今度こそ、母に喜んでもらう。
そして強制発動させる直前、自らの使い魔と会話していた。
「フェイト、別に無理しないでいいんだよ。なんならあいつから逃げてそのまま隠れても、時空管理局に行ってもいい。どうなってもあたしだけはフェイトの味方だから」
「うん、ありがとうアルフ。でも私は母さんの力になりたいんだ。……昔の、優しかった母さんに戻ってほしいんだ」
そう言うフェイト。アルフはその答えは分かり切っていたように溜息を吐く。
「まあ……フェイトがそう言うならいいけど。……ああ、強制発動はあたしがやるよ」
自分の主はあの忌々しい女の虐待で、本調子に遥かに遠い。ならば自分がやるべきだ。
そんなアルフの思いを汲み取ったのか、フェイトは素直に頷いた。
「……ありがとう」
「うん。……じゃあ始めるよ。用意はいいかい?」
「いいよ」
「よし!」
そして、アルフは魔力を放ち始めた……。
戦艦ア-スラ・ブリッジ。
そこに映っている映像には、強制発動させているジュエルシードを封印しようとしているフェイトがの姿があった。
「……このままなら、自滅するな」
クロノが呟く。そう、自滅する。それは誰の目に見ても明らかだった。
それを見ていたなのはとユーノ、二人が動く。
「……ユーノ君」
「うん、ここは任せて」
「ありがとう」
そして、転送陣に包まれるなのは。それを見て慌てる面々。
「何勝手な行動をしているんだ!?違反だぞ!?」
「このまま彼女を放っておいて自滅するのを待つんだろう?それは、僕となのはは許容できない。なのはを追いたければ、僕をを倒してからだよ」
そう言って、アームドデバイスを構えるユーノ。ちなみにユーノのアームドデバイスはショートソード型のものが二本。AIやカードリッジシステムは、無論無い。
「く……」
それにクロノが押し黙る。正直、本調子でもきつい相手。……それに本音では自分も自滅を待つなど気に食わないのだ。
「……いいでしょう」
「艦長!?」
リンディンの言葉に驚いたようになるクロノ。
「ただし、こちらからの援軍はありません。いいですね?」
「ありがとうございます!」
そうして転移するユーノ。クロノは、それを見送っていた。
「艦長、よろしかったのですか?」
「まあ……本音で言えば、反対よ。なのはさんの親御さんとの約束もあるしね。でも、二人の実力は思い知らされたでしょう?
あれほどの実力があるのならば、無理矢理止めるのは難しい。なら、ユーノ君も送り込んだ方が安全よ」
そう言ってモニターを見る。そこには、ジュエルシードを封印している四人の姿があった。
「フェイトちゃん!」
「……なのは!?」
海上での封印中、このままでは拙いと感じ始めたころ、あの白い魔導師が来た。
「何しに来たの!?」
思わず、怒鳴る。貴女達さえいなければ……そんな気持ちもどこかにあったのかもしれない。
「手伝いに、だよ」
彼女は自分にその暴風の如き魔力から身を護るシールドを張りながらそう言った。
「何で!?」
分からない。彼女とはジュエルシードを巡って争う敵同士である。このまま自分が自滅するまで放っておいた方がいいに決まっている。
「……友達だから」
彼女は言う。
「ともだち?」
思わずおうむ返しに聞き返すフェイト。
「うん!そうだよ!」
「……」
そういうものらしい。だが、よく分からなかった。
「なのは!」
そこに、もう一人来る。あの魔導師の少年。
「ユーノ君!どうして!?」
「うん!許可を貰った!その代わり、援軍は無いけど」
そう答える少年。
「分かった!フェイトちゃん!」
突然呼びかけられてびっくりするフェイト。
「な、何?」
「封印するよ!」
その言葉に
「――うん!」
フェイトは頷いた。
そうして封印が完了した。その場には、六個のジュエルシード。
「……」
「……」
「……」
「……」
皆、安堵したように無言。
「……どうするの?」
フェイトが問いかける。一個でも多く持ち帰なければならない。しかしなのはとユーノは無言。
(……?)
まるで、何かを警戒しているようだ。
そこに……
「……!来た!」
ユーノが叫ぶ。同時にユーノとなのはが防御魔法を使う。
何事かとフェイトが思う前に魔法が降ってきた。自分を、狙って。
同時に六個全てのジュエルシードが姿を消す。
そして、その魔法の主は――
「母さん?」
その魔力を間違えるはずがない。母であるプレシアだ。
さらに、辺りに念話が響き渡る。
『あははははは!それじゃあ、ジュエルシードは貰っていくわ!!!』
かあさん?どうして?いまのはじぶんをねらったの?
『これで八個!たった八個では辿りつけるか分からない!けれども私は絶対に辿りついて見せる!アルハザードに!!!』
なにをいっているのかあさん?
『嗚呼アリシア、アリシア!アリシア!これで偽物なんかじゃなくあなたに会えるわ!!!』
だれ?だれ?ありしあってだれ?わたしそんなひとしらない
『聞いていて!?フェイト!貴女は人形、アリシアの偽物!アリシアとして作ったのに全然違かった!』
なに、なに、なに?なにを――
『フェイト、私はね貴女の事が――大嫌いだったのよ!!!』
え――――
崩れ落ちるフェイト。慌てて支えるアルフとなのは。声はそれきりだった。
そこに通信が入る。
『二人共!戻ってきてくれ!長々と念話してくれたおかげで敵の本拠地の大まかな位置が特定できた!』
「フェイトちゃんは!?」
流石にフェイトを放っておくわけにはいかない。クロノはそれに答える。
『連れてきてくれ。そこの使い魔!』
アルフにも話しかける。連れて行かれると聞いて警戒していたアルフが反応する。
「何だい!?」
『君も来てくれ。素直に来て、証言をしてくれれば君の主人の罪は軽減される可能性が高い。……そうでなくとも、君の主人を休ませる場所が必要だろう?』
一瞬、躊躇するがその言葉を信じようと決意する。
「……本当だね?」
『ああ』
「じゃあ、行くよ。フェイトを頼む」
『了解した』
そうして四人はアースラに転移する。
後には、荒れた海だけが残った。