無限書庫・危険区域。ここに、複数の人影があった。
「ここが、か……」
「はい。正確にはこの先から、です。無重力区域でもなく、上空には強力なAMFが展開されています。飛行魔法でさえ碌に発動できません。注意してください」
「分かった」
いわずもなが、ヴォルケンリッターとユーノ、なのはである。
「それにしても、ここは雰囲気が全然違うわね……。今までは確かに凄い大きさだけど書庫だったのに」
シャマルがそう言う。
「ええ。元々はこの近くも書庫の様だったらしいですけど、危険区域なので移動できるものは移動させたそうです」
「へえ?そうなの?」
「はい」
そしてユーノが皆に確認。
「では改めて方針を確認します。先ずここはかなりの広さです。以前壊滅した部隊が持ち帰った情報によると、迷宮のようになっていたようです。
一日二日で攻略はできません。グレアムさんより貰ったこの特殊なアイテムを目印にすれば転移魔法も使えます。よってありがたいことに毎日家で休息がとれます」
「うむ。それは大変ありがたいことだ」
ザフィーラが頷く。自分たちが留守の間は高町家の人たちにお願いをしているが、やはり毎日主に出来ることならば会いたい。
「それでは気を付けていきましょう!」
「うん!」
「ああ!」
「おう!」
「うむ!」
「はい!」
そして、彼らはそこに足を踏み入れた―――。
八神家。本日の探索はここまでとして全員帰ってきた。
そしてその夕食時。(ちなみになのはとユーノは高町家に帰った。ユーノは高町家に寝泊まり。一悶着あったけど今回は客間)
「なあなあ、一体どんな感じだったん?」
はやてが興味津々に訊く。
「……」
「……」
「……」
「……」
全員やや渋い顔。
「あれ……。もしかして聞いたらまずいん?」
「そんなことはありません。しかし予想以上でして」
シグナムが苦笑いしながら答える。
「予想以上って……なんか凶暴なモンスターでもいたとか?」
はやてが疑問符を浮かべる。正確にはモンスターでなく、警備のロボットの様なものだが同じような物だろう。
「いえ……確かに強いモンスターもいたのですが、それよりも……」
「何なんだよ!あの罠の多さは!例の部隊が壊滅したのって、モンスターにやられたんじゃなくて罠にやられたに違いねーよ!」
「シーフというか、スカウトというか、エクスプローラーというか……。とにかく、そういった存在のありがたさがよく分かりました……」
順にシグナム、ヴィータ、シャマル。皆疲れたような顔をしている。
「だがなヴィータ。俺に漢探知だ、行け!などと言うのはどうかと思うぞ」
ちなみに漢探知というのは罠に関する専門職がいないとき、HPや防御力に優れる前衛が罠に引っかかるのを覚悟で突っ込んでいくことを言う。
「う、うるせーよ!…………ごめん」
小さく謝るヴィータ。それを聞きザフィーラは頷いている。
「はー。そんなだったんや……。で、どうしたん?まさか本当にザフィーラに漢探知させたわけじゃないやろ?」
はやてが疑問を投げかける。シグナムが答える。
「はい。ありがたいことにスクライアは元々遺跡発掘等を手掛けている人間らしく、罠の探知や必要ならば解除を引き受けてくれました。
しかし、我々は素人なので……。ちょっとした不注意で罠を発動させてしまったりがありまして」
「なるほどー」
頷くはやて。
「ですが、早急にそういった言い訳を無くします。並行してスクライアからその手の技術も学びます。魔法で探知しようにも中には魔力に反応するものもありまして……」
「あー、あれか……あれはな……」
ヴィータが再び渋い顔。はやては訊ねる。
「どんなんだったん?」
「長い通路でな、ユーノに頼ってばっかりじゃあれだからってシャマルが探知したんだよ。で、それに反応してデスローラーが起動した」
デスローラーとは……まあ狭い通路とかで前や後ろからでかいローラーが轢きに来る罠だと思ってくれれば結構。
「ふんふん」
「しかも連動して大量に魔導砲台が出現。一発一発の威力はなのはの誘導弾くらい。結構痛い」
「うわぁ……」
はやては微妙な顔。
「ぶっ壊そうにも大分固いし……。後ろに戻りながら攻撃してようやく壊せた頃にはかなり戻っちゃって。で、今日はそこで終了したんだ」
「あはは……」
はやては苦笑い。そして宣言する。
「よし!みんなが私の為に頑張ってんのや!私はせめておいしいご飯を作るからな」
それにヴォルケンリッターは……
「いいえ。これは主、貴女の為だけではありません。我々が貴女を助けたいからやっているのです。それはそれとして、リクエストを受け付けてくれるのならば揚げ出し豆腐を」
「そーそー。あたしたちがやりたいからやっているんだよ。あたし花丸ハンバーグ」
「その通りです。主、貴女が気に病むことなど何一つありません。……鰹の叩きを」
「そうよ、はやてちゃん。はやてちゃんは待っていてくれればいいの。私は納豆ととろろとおくらとイカ刺しの爆弾が……」
全員、気にするなと答える。ついでにリクエストも出す。
「……ありがとう、みんな。……流石に一度に全部は無理やから順番にな」
はやては嬉しそうに笑い、皆に礼を言う。そのまま和やかに夕飯は進んでいった。
次の日。
「今日は昨日に比べて楽ね」
「そうですね。でも油断していると……」
「(ズボッ)」
丁度人一人分くらいの穴に腰まで嵌るシャマル。
「……お約束だな、シャマル」
「すいません、気が付きませんでした。シャマルさん、無事ですか」
「大丈夫。でもぴったり嵌っちゃって……」
「太ったんじゃねーのシャマル」
「そんな訳ありません!ちょっと手を貸してー」
「仕方無い、ほら」
「うう、ありがとうザフィーラ」
その間に罠の検分をするユーノ。
「……成程」
「どうしたの?」
「いや、どうもこの罠、嵌った人間に合わせて大きさを変えるみたい」
「……何でそんな罠?」
「……さあ?この後に何かあるかもしれないし……」
「いずれにしろ、気を付けて行くべきだということだな」
「そうですね」
そう言って進む一同。しかし、特に何もなかった。
「結局、あれは何だったのかしら」
「んー。連動する罠がすでに発動していたか壊れていたのかもしれませんね」
さらに次の日。
「えっと……この部屋、だよな」
「多分。さっきの扉に書いてあったことが確かならこの部屋のどこかに鍵があるはず」
そして罠に気を付けながら部屋に入る一同。
部屋の中には、頭がネコで、からだがニワトリの異様なけだものの彫像がある。
彫像はブロンズで、台座はオニキスでできている。飾り台の上には不自然な傷痕がある。
「キモっ!」
思わず呟くヴィータ。
「うわぁ……」
「これはちょっと……」
「……」
ちょっと引いている女性陣。気にせず調べるユーノ。
「あ。あった」
そして青銅製の鍵を手に入れて先に進む一行だった。
さらにさらに次の日。
「しかし……こう何度も回転すると方向感覚が狂うな」
「全くだ。しかも微妙な高さの落とし穴もたくさんあるし」
一面に回転床と落とし穴が敷き詰められた、中央でも反対側の壁が見えないほどの大部屋。さらにこの部屋では飛行魔法が使えない。その部屋に一同は苦戦していた。
「チクショウ、飛行魔法が使えりゃこんなの一発なのに……」
「……言うな」
結局一日だけではその部屋を攻略できず、次の日まで持ち越されるのだった。
もう少し後の日。
とある部屋。
「ウサギだ!」
「可愛い!」
兎の群れがいる。思わず近寄ろうとするヴィータとなのは。
しかし
「駄目!」
ユーノがバインドを使って無理矢理二人を止める。
「ユーノ!てめえ……!?」
文句を言おうとしたヴィータの目の前を極めて鋭い一撃が通り過ぎる。そのまま進んでいたら丁度首があったあたりだ。
「……」
「……」
「なのは!連中は耐久力はあまりないから一気に魔法で!」
「う、うん分かった!」
そして放たれた砲撃で壊滅する兎達。
「……世の中には恐ろしい兎がいるのね」
「全くだ」
思わず呟くシャマルとザフィーラだった。
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そんなこんなで攻略を進めた一行。苦節一月、遂にそこまで来た。
「これですね」
「漸く、見つかったか……」
感無量と言った感じの一同。
「でもなんていうか地味だな。もっと、こうダンジョンの最深部で宝箱に入っている!みたいなのを想像していたのに」
ヴィータがぼやく。事実、ここはただの部屋。あるのは本棚と椅子、机。例の物は本棚に入っていただけである。
「そんなもんだよ。クライマックスでみょうちくりんなボスが出てくるとかよりはいいでしょ」
「まあそうなんだけど……。こう、今までのイライラをぶつける相手がいないというかなんというか……」
そんなことを言っているヴィータ。ユーノは苦笑する。
「とにかく!主は助かるのだな」
「恐らくは。まず資料を検分しましょう」
「ん?持って帰ればよいではないか?」
シグナムの疑問にああ、とユーノは答える。
「そういえばその説明はしていませんでしたね。無限書庫にある本棚に一回収められたものは、それが書籍だろうがなんだろうが無限書庫の外には出すことができないんです。
そのようなこともあって、この世界自体がロストロギアなんじゃないかとも言われているのですけどね」
「ほう、そうなのか。……分かってはいたが、面倒な所だな」
「あはは……」
確かに面倒だ。おかげで前回もそのまま書籍で渡すのではなく、資料に纏め直さねばならないことが多々有った。
「とにかく検分しましょう」
「ああ。それじゃあシャマルにスクライア、頼む」
「はい」
「了解よ」
とりあえずこういうこと向きな二人が検分を始めるのであった。
暫く後。
「ふう……」
「ふう……」
二人の検分が終わったようだ。
「……どうだった?」
シグナムが代表して問いかける。
「ええ。多分、大丈夫。……忘れていたけれど最初の闇の書、いや夜天の書はこうだったのね……」
答えるシャマル。感慨深そうに呟く。
「そうか、大丈夫そうか……」
皆も安堵の域を吐く。
「それに興味深いことも書いてあったわよ。……私達のオリジナルの話とか」
「へぇ?……まあ興味があるけどそれよりもさっさと直そうぜ」
ヴィータが言う。
「じゃあ一回帰って書を持って来よう。……良いかな」
ユーノが言う。皆が頷く。そして転移魔法を起動させ、帰って行った。
更に暫く後。
「はー、こんな場所なんや……。なんて言うか、地味やな。ただの部屋や」
皆、先程の部屋に戻ってきた。書を持ったはやてもいる。
「ですが外は危険ですので……。まあ終わったら無限書庫の安全な区域でも見て帰りましょうか。驚かれますよ」
「ホンマ!?いやー、楽しみや。無重力って話やし」
シグナムの提案に同意するはやて。ユーノが話しかける。
「それじゃあはやて。始めてもいいかな?」
「あ、うん。お願いします」
そう言ってユーノに書を渡すはやて。ユーノはシャマルに話しかける。
「それでは始めます」
「……」
「……」
「……」
「……」
ヴォルケンリッター達は皆真剣な表情。それに気が付いたはやてが皆に聞く。
「どうしたん?皆」
「いえ、ただ一旦我々は消えますので……」
「は?何で?」
はやては驚いたような声。
「この作業の最初は一回書の機能を全て停止させることです。その全ての中には我々も含まれておりますので……」
シグナムがやや申し訳なさそうに言う。
「……大丈夫なんやな?」
「はい。終わればそのままの我々が戻りますので」
安心させるように笑いながらシグナムは言う。その表情を見てはやても納得したようだ。
「ユーノ君……改めてお願いな」
「うん。任せて。……では、始めます!」
ユーノが宣言する。皆が頷く。それを確認するとユーノは作業を始める。同時にヴォルケンリッターが消え、はやての足に感覚が戻る。
作業が始まったのであった。
あれからかなりの時間が経った。
「……」
「……」
最初の方ははやてはなのはと話していたのだが、今は無言。
「……」
「……」
本当はユーノに今はどうなっているのか、順調か、あとどのくらいか訊きたいが邪魔をするわけにはいかないと黙っている。(ちなみになのははその横で夏休みの宿題をやっている)
「……ふう」
「ユーノ君?」
ユーノが息をつく。はやてが訊ねる。
「うん、出来た。じゃあ、再起動するね」
そう言って再起動させるユーノ。
そして周囲に光とともに再び現れる人影。
「みんな……」
「只今戻りました、主」
ヴォルケンリッターを代表してシグナムが答える。
「調子はどうですか?」
ユーノが訊ねる。
「ええ。能力的には変わったところは無いけれど……なんだか頭の中がすっきりしたような感じね」
「だな」
「うむ」
シャマルが答え、ヴィータとザフィーラが短く肯定する。
それを聞いて頷くユーノ。そしてはやてに話しかける。
「それじゃ、はやて。最後にやって欲しいことがあるんだけど……」
「?これで終わりやないの?」
はやてが訊き返す。
「うん。はやての権限を使って管制人格にアクセスしてほしい」
「管制人格?」
はやては疑問符を浮かべている。それにシグナムが思い出したことを答える。
「夜天の書の……ある意味その物の人格の様なものです。闇の書だった時とは違って主ならアクセスが可能なはずですね」
「へー。そんなのもおったんや。……私らの最後の家族やな」
「そうだな!」
「……」
はやては嬉しそう。ヴィータも嬉しそうに肯定する。ただユーノはやや渋い顔。周りがはやてに注意して気が付いて居なかったが、なのはは気が付いた。
「ユーノ君?」
「……なんでもない。はやて、方法は分かる?」
「うーん。流石にちょっとわからんなぁ」
大丈夫だと言ってはやてに先を促す。
「ん。じゃあここに書いてある方法を言うから。ゆっくりとでいいから。分からないことがあったら遠慮なく言ってね」
「分かった」
そしてそのままゆっくりと作業を進める。
そして―――――。
『主よりのアクセスを確認。管制人格、現出します』
そのような声が夜天の書より響く。同時に光が集まり、銀髪の女性が現れた。
「主、お初にお目にかかります。私が夜天の書の管制人格です」
そう言って女性は頭を下げる。
「うん。初めまして、や。私の名前は八神はやて。良かったら名前を聞かせてや」
「はい。……名前、ですか。申し訳ありませんが私に名はありません」
「そうなん?」
驚くはやて。思わずヴォルケンリッター達の方を向く。ヴォルケンリッターは肯定するように頷いた。
「はい。確かに管制人格に名前はありません。……主、良かったら名をやってくれませんか」
シグナムが提案する。
「せやな。ええかな?」
「はい。頂けるのならば喜んで」
はやての言葉に穏やかな顔で答える管制人格。
「うーん……。なら……。……リインフォース。夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。
強く支える者、幸運の追い風、祝福のエール――――――――――――『リインフォース』」
その名を送る。
「…………はい。私などには勿体ない、美しい名前です。その名と主に恥じぬ様、お仕えいたします」
そして、リインフォースは嬉しそうに微笑み、その名を受け取った。
リインフォースはヴォルケンリッター達の方を向く。
「お前たちもすまなかった。今まであんな状態になっていたのに、私にはどうすることもできなかった」
謝罪と共に頭を下げる。
「気にするな。私達も気が付いていなかったのだから」
「その通りよ」
「ああ。お前が気に病むことは無い」
「っていうか、お前は気が付いていたのか……」
「……ああ」
ヴィータの言葉に暗い顔で頷く。
「そっか……。お前は、今まで一人で……。ごめんな」
その言葉に少し驚いたようになる。
「ああ。だが、今回でそれも終わりだ」
そしてユーノとなのはの方を向く。
「ありがとう。お前たちも、本当に感謝してもしきれない」
「そんなことは無いですよ」
「…………」
照れたように答えるなのは。だがユーノは相も変わらず渋い顔。不審に思ったはやてが訊ねる。
「ユーノ君?」
「……はやて。僕が呼んだのはね、はやてに彼女を会わせるだけではないんだ。……リインフォースさん」
「……何だ?」
そのままリインフォースに尋ねるユーノ。彼女は厳しい顔で答える。
「……正直に答えてください。後、どのくらい持ちそうなんですか?」
「…………」
リインフォースは無言。はやては焦ったように問う。
「何や!?どういう意味や!?」
「……。例のプログラムが劣化していたのか、それとも予想以上の改造だったのかは分からない。
取り除ける範囲は取り除けたが、バグは完全に取り除けなかった。その部分は管制人格と密接に関わっていた。――そう、彼女が消えれば問題ないくらいね」
ユーノとリインフォース以外は皆息を飲む。
「無論、それを取り除かなければ再び主を巻き込んで暴走する。大分治っているから主以外の被害は出さないだろうけれど。
……リインフォースさん、もう一度訊きます。後、どれくらい持ちそうなんですか?」
「……保って二月」
その言葉に愕然とする皆。特にはやては慌てている。
「何でや!?何でなんや!?これから家族になろうって時に、何で!何で!?
リインは今まで頑張ってきたんやろ!?何でこんなことにならあかんのや!!!」
その叫びに周りは悲痛な顔。
「主、心配しないでください。例え私は消えても「まあ一応なんとかする手段はあるんだけど」」
リインフォースの声をユーノが遮る。
「へ?」
思わず問い返すはやて。周りも呆然とした顔。そのままユーノは続ける。
「じゃなければこんな中途半端な状態で終わりにしないよ。……一応、どれくらい保つか分からなかったから多少は賭けだったんだけど。もし後数時間ですとかだったら無理だった」
そう言って笑うユーノ。呆然としたまま問いかけるリインフォース。
「手段が、あるのか……?」
「うん。一応ね。……ただ、はやて達と共に家で暮らすということはできそうにないけど」
「何でもええ!離れたって生きていれば会える!教えてやユーノ君!」
はやてがそう言う。ユーノが答える。
「うん。その為にははやての協力が必要不可欠だ。主権限が必要なところが多々あるから」
「分かった!」
勢いよく返事をするはやて。
「うん。やることだけを説明をしておくね。
1・守護騎士プログラムを夜天の書より引き離す
2・転生プログラムに手を加える
3・そしてはやてから引き離し、夜天の書を転生させる 簡単に言うとこんな感じ」
しかし周りはいまいち分かっていない様子。
「まあ詳しく説明すると……。そのバグはね、一回転生させれば何とかなるんだよ。……リインフォースさんも気が付いているんでしょう?」
「……ああ。だが主から家族を奪うわけにはいけない」
「……ありがとうリインフォース。でもリインフォースも家族やからな」
ありがとうございます、と答えているリインフォースを見ながらユーノは続ける。
「だから転生させる。守護騎士プログラムを引き離す方法は……その時に説明する。
そして夜天の書の転生プログラムに手を加える。具体的には、主を決めてから転生するのではなく転生してから主を決めるように。
それともう一つ。何処に転生するか」
「……そこまで決められるようになるのか……」
驚いたように言うリィンフォース。
「ええ。ただし、そこ以外は無理だけど」
「何処や?」
「此処。無限書庫」
一同は無言。
「無限書庫を利用する。ここではやてから引き離せば、書庫が書を無理やり引き寄せてここに転生するから」
「……凄ぇな、無限書庫」
ヴィータが呟く。
「ただ、その関係ではやてと再契約しても書庫に収まった本だから外に出ることができない。つまり、リインさんは書庫から出ることができない」
「「「「「「……」」」」」」
皆、無言。だがはやてが口を開く
「……リイン」
「……はい」
「……私は、それでもリインに生きていて欲しい。生きてさえいれば、会える。私の我儘かもしれないけれど、もう、家族を失いたくないんや」
「はい!」
リインフォースは力強く頷く。そしてユーノの方を向く。
「ユーノ=スクライア」
「はい」
頭を下げる。
「本当に、ありがとう。私はお前に感謝してもしきれない」
「感謝は全て終わった後で」
本気で感謝されている。ユーノは少し罪悪感があった。
確かに分かっている限りこれしか方法は無い。しかし、一方でとある打算があってそれ以外の方法を捜すことを提案しなかった。
……彼女に無限書庫の開拓を手伝ってもらう。あわよくば、無限書庫を任せる。
そのような考えが。勿論、今回は彼女を救いたいという思いも大きいが。
「それでも、だ。私は――私達はお前達のおかげで救われた、救われる。だから、だ」
そう言って俯くリインフォース。彼女の顔から水滴が零れ落ちた。
はやてが手を伸ばし、その顔を拭う。その様子を周囲は見守るのだった。