あれから数ヶ月が経った。
夜天の書は無事に転生を果たし、八神はやてが再びマスターとなった。
管制人格・リインフォースは周りの司書に勧められ、無限書庫の司書となった。
八神はやての足は順調にリハビリを重ね、学校に行き始めた。無論、聖祥大付属小学校である。見事になのは達と同じクラスになった。
フェイト=テスタロッサ達の裁判も無事終わり、フェイトは無罪、プレシアは身体が回復した後、勤労奉仕となった。
そんなある日。地球では十二月二十四日。クリスマスイヴの話である。
八神家。本日行われるパーティーの準備をはやてとなのはが中心になって行っている。
「そっか……。やっぱり士郎さんと桃子さんはこれへんか……」
「今日もすごく忙しいし、明日の仕込みもあるからね……」
二人が会話をしている。そのことを聞いてはやては残念そう。
「でもユーノ君とフェイトちゃんは来れるんやな?」
「うん!後アルフさんとクロノ君も。楽しみだって言ってたよ」
「そっか……。でもなのはちゃんは明日のユーノ君とのデートが一番楽しみなんやろ?」
からかうように訊ねるはやて。
「えへへ。分かる?」
「……知り合いで分からん奴はいないと思う」
照れたように言うなのは。ぼやくはやて。
「だけどフェイトちゃんに実際に会うのは初めてやなー。今までリインに会いに何度か向こうに行ったけど会わなかったし」
「まあフェイトちゃんも色々大変だったからね……。私も会ってないなぁ。ユーノ君は裁判の関係で何回か会ったみたいだけど」
「ふーん。……フェイトちゃんがちょっと羨ましいんとちゃう?」
ここの所通信以外でユーノとは全く会っていない。そんな状態を知っているためはやてはなのはに尋ねる。
「まあ勿論羨ましいけど……。大丈夫だよ。嘱託になるし、そうしたらもう少し会いやすくなるからね」
次元を隔てた恋は難しいものである。
「んー。でも心配じゃないの?浮気とか」
からかうように言うはやて。なのはは苦笑して答える。
「大丈夫。絶対ユーノ君はそんなことしないよ」
「おおー。信じとるなぁ。……でもほら、相手が強引に迫ってきたりとか」
その言葉に、んー、と考えるなのは。
「そんなことになってもユーノ君なら大丈夫だと思うけど。まあそんなことになったら……」
「なったら?」
「どうなると思う?私はそれに関しては目には目を、歯には歯を何て温いことは言う気は無いからね」
そう言って笑うなのは。
ちなみに目には目を、歯には歯をとは本来報復のやり過ぎを戒める言葉である。
そういえば笑顔って元々相手を威嚇するための物なんだっけ。はやては微妙に背中が寒くなった。
「さ、続きやろう?あとそろそろ誰かにケーキ取りに行って貰わないと」
「……うん。ヴィータにでも頼もうか……」
割と恐怖を感じたはやてはそのまま流されるのであった。
それから準備は滞り無く進んでいった。
シャマルがダークマターを作り出そうとしたり、ヴィータがケーキを味見しようとして見つかってはやてに怒られたりしたが。
アリサとすずかも到着し、残りの人間を待つだけになった。そして彼らも到着する。
「お、チャイムや」
「着いたみたいね」
「私、迎えに行く!」
宣言するや否や矢の様に飛び出すなのは。
入口につき、扉を開ける。
「メリークリスマース」
「メリークリスマス、なのは」
「えっと、メリークリスマス」
ユーノとフェイト、その後ろにアルフとクロノがいる。
とりあえずなのははユーノに抱き着く。抱ずりする。
「えへ~。ユーノ君分補給~」
その様子にユーノとフェイトは苦笑している。
「あはは……」
「相変わらず仲がいいね……」
「寒いから上がらせてもらえると嬉しいんだが」
クロノも苦笑しながら言う。
「あ、ごめんね」
素直に謝って家に上げるなのは。そして……
「じゃ、改めてユーノ君分補給~」
もう一度ユーノに抱き着く。抱ずりする。他の四人はやっぱり苦笑していた。
リビングに戻る。
「お帰りー。そしていらっしゃい。ちょっと遅かったけど何してたん?」
はやてが訊ねる。フェイトが答える。
「なのはがユーノ分を補給って言って抱き着いていたんだよ」
「あー……。相変わらずやなあ……」
はやても苦笑気味。
「んじゃ改めていらっしゃい。一応ビデオレターで顔は何度か会わせているけど、改めて自己紹介からといこか」
「そうね。そうしましょうか」
そして地球組とミッド組が互いに自己紹介をする。同時にパーティーが始まった。
「うーん!この鳥凄く美味いねえ……」
「ありがとな、アルフさん。なのはちゃんと二人、苦労した甲斐があったわ」
「あら……。このじゃがいもの団子?みたいなの美味しいわね」
「あ、アリサ。それね、母さんが持っていきなさいって持たせてくれたんだ」
「そうなんだ……。中に入っているのはプラムかな?シナモンシュガーが面白いね。デザートみたい」
「すずか、それね、バターソースとかでも美味しいんだって言ってたよ」
「そうなんだ」
「お!プレゼント交換でうさぎのぬいぐるみが当たったぜ!誰のかな?」
「ああ。僕だな」
「へ?クロノ?」
「ああ。エイミィに相談して一緒に探しに行ったら女性が多いからこれにしておけば、と言われてな。ついでにエイミィにも買わされた」
「あー……。そうなんだ……」
「はい、ユーノ君。ケーキだよ。あーん」
「うん。……美味しいね」
「うん!お母さんが来れないからケーキ位は、ってとても気合を入れていたやつだからね」
「そうなんだ。はい、なのはもあーん」
「えへ~」
「相変わらずだね、二人は」
「……フェイト、なんだか全然問題なさそうね……」
「へ?恋人ってあれが普通なんじゃないの?」
「「「無い無い」」」
「……そうなんだ」
そんな感じでパーティーは進んでいき、アリサとすずかが帰る時間となった。
「今日はありがとう。楽しかったわよ」
「ありがとう。楽しかったよ。フェイトちゃん達もまた会おうね」
「うん。アリサとすずかもまたね」
「またね、二人とも」
「またなー」
挨拶をして去っていく二人。リビングは一段落した雰囲気になった。
「でな、明日リインに持って行くケーキは私の手作りのケーキなんや」
「へえ。そうなんだ」
「うん。桃子さんからあまり難しくないやつのレシピを教えてもらったんよ」
「まあ難しいやつだと聞いたことが無い材料とか普通にあるからね……。桃子さん、プロだし」
そんな感じでまったり雑談している。
暫くそれは続いていたが、ふとなのはが訊いた。
「ねえ皆。これからどうするの?」
「これから……?私は今日ははやての家に泊まらせて貰うつもりだけど」
「あー。そうじゃなくって。こう、来年以降どうするつもりなのかなって……」
「あ、成程」
ちょっと上手く伝わらなかったが、もう少し聞いて納得しているフェイト。
「僕は特に変わらないな。来年も執務官業に忙しい」
と、クロノ。
「クロノ君はそうだよね。それで、エイミィさんとはどうなの?」
「エイミィさんって?」
なのはの言葉にはやてが訊く。
「クロノ君の恋人」
「ええーーー!!!クロノ君も恋人いたん!?」
「違う!彼女とはそういう関係じゃ無い!!!」
なのはの言葉にえらい勢いで食いつくはやて。それを否定するクロノ。
「クロノ。素直になったほうが良いよ」
「ユーノまで……。彼女とは本当にそういう関係では無い!」
「でもよ、クリスマスプレゼントの相談をしたら一緒に買いに行ったんだろ?ついでにプレゼントしたんだろ?デートじゃねえの、普通に」
「ほほう」
ヴィータの言葉にはやての目が光った……気がした。
「まあ詳しい話を聞かせてもらおか」
「だからそういう関係ではない!ええい!この話は終わりだ終わり!」
「ええーーー!ええやんええやん!横暴だー」
ぶーぶーと口を尖らせているはやて。なのはが助け舟を出した。
「まあまあはやてちゃん」
「なんや?」
「後何年かしたら結婚すると思うから、その時にこの時の話を出して思い切りからかってやればいいと思うよ」
いい笑顔でそんな事を提案するなのは。
「ほほう……。それ位の仲か。つまりクロノ君はツンデレなんやな。分かっとったけど」
同じくいい笑顔で納得するはやて。クロノは頭痛を抑える様な仕草をしていた。
「あはは……。なんだかクロノは大変そうだし、次は私が話をするね」
「どうぞ」
フェイトがそう提案する。はやてが促す。ついでにクロノは助かった、というような顔。
「私はね、管理局に入るつもり」
「へえ……そうなんだ。何処に入るつもり?フェイトちゃんくらいの実力だったらかなり自由に選べるでしょ?」
フェイトは管理局に入るつもりらしい。何処に入るのかを訊く。
「うん。地上にするよ。母さんがクラナガンの病院に入院しているから、地上だったら割と定期的に休みがとれるらしいし、会いに行き易いし。
だから勤務地はクラナガンの何処かが良いかなって思う。クロノ達からはアースラに来ないかって誘われたんだけど」
フェイトは少し申し訳なさそうな顔。クロノは気にするなと言う。
「うん。ありがとう。でもその前に陸士学校に通うんだ。確かに実力的には問題無いかもしれないけど、それ以外の部分で学ぶことが結構あるだろうってユーノとクロノが勧めてくれたから。
魔導師ランクのおかげで入学金から授業費からタダになったし、戦闘関連のカリキュラムがかなり免除されるから一年位で卒業できるみたいだしね」
フェイトはそう決めたらしい。なのははふんふんと頷いている。
「じゃ、次は僕かな」
続いてユーノが話し始める。
「まず、もう暫く無限書庫の司書をするつもり」
「ああ。お前とリインフォースは凄いらしいな。このままならば無限書庫が利用できる状態まで持って行けるかもしれないと噂されているぞ」
クロノがそう言う。ユーノはリインフォースと共に無限書庫を活用できる状態に持って行くべく奮戦している。
リインフォースは予想通り、予想以上に優秀だった。元々夜天の書という、蒐集した膨大な数の魔法のデータベースともいえる書。その管制人格だった彼女だ。
特に検索は非常に得意だった。だからユーノはあることができる。
フェイトが地上に行くからそこを埋める、等という単純なことではないが、執務官ならば色々と動きやすいだろう。
もう少し色々と出来る様になればこんな単純な方法を取らずとも何とかなるかもしれないが、あいにくまだ全然足りない。
「うん。だけどね、目途が立ったら僕は別の事をやりやいんだ」
「ほう?お前の天職だと思ったんだが。まあ他にやりたいことがあるのなら、そっちのほうが良いかもな。……で何をやりたいんだ?」
クロノが訊いてくる。
「うん。執務官」
「……執務官?」
クロノがおうむ返しに聞き返す。
「うん。……変かな?」
「ふむ……。いや、優秀な執務官が増えるのは喜ばしいことだ。お前なら実力的にも問題無いし、筆記や素行も多分大丈夫だろう。……もしかしたら一発で合格できるかもな」
クロノは納得する。
「じゃ、次は私やな。と、言ってもただ学校に行くでー、ってそれだけなんやけど」
はやてが話し始める。
「はやてちゃんはそうだよね。管理局はどうするの」
なのはが訊ねる。
「んー。別に気にしてなかったんやけどな……。なのはちゃんの話を聞いていたら嘱託をするのもいいかなって」
「私の話?」
なのはは疑問符を浮かべる。
「ほら、嘱託になったらユーノ君に会いに行き易いとかなんとか。私も嘱託になったらリインに会いに行き易いかなー、って思て」
なのはは納得顔。
「まあまだ考えている段階やねんけどな」
そう言ってはやての話は終わる。
「次は私達だな。私達も管理局で働くつもりだ」
「そうなんですか?」
シグナムがヴォルケンリッターを代表して言う。なのはが訊き返す。
「ああ。……無限書庫で懸命に働くリインフォースの姿を見ていたらな、こう、なんというか、自分達の現状にな……思うところが……」
「はは……」
苦い顔で言うシグナム。なのはは苦笑。
「とは言っても主を一人にするなどは論外だ。よって基本的には私とヴィータ、嘱託でシャマル。ザフィーラは基本的に主の傍に。主が嘱託になるのならば、その時は一緒にだ。
さらにグレアム殿に協力してもらい、転送ポートを付けて出来る限り家に帰りやすくしようと思う」
「へー……」
ヴォルケンリッター達はそのような感じらしい。
「えっとじゃあ最後に私だね」
なのはが切り出す。
「私は嘱託として働いて、通信講座みたいなので勉強して、今度の夏休み辺りに短期集中プログラムを受けて、教導隊に入ろうと思う」
「教導隊?」
はやてが疑問符を浮かべている。
「隊員が百名ほどの部隊だ。但しそれぞれが一騎当千。エース揃いの部隊。……成程、確かに君ならなれるだろうな」
クロノがそれを説明する。
「へー……。そんな部隊もあるんやね」
「でもそんなことよりももっと重要かつ大事な目標はあるけど」
「?何?」
なのはの言葉にフェイトが訊ねる。
「ユーノ君のお嫁さん!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
ユーノ以外は呆れたような、或いはまたいつものかという顔。
「ね、ユーノ君!結婚しようね!」
「うん。結婚しよう、なのは」
なのはがそうユーノに言う。ユーノは穏やかに微笑み、それに同意する。
そのままいちゃつき始める二人だった。
その夜、高町家。ユーノが泊まっている客間になのはがやってきた。
「なのは?どうしたの?」
「うん。……今日くらいは一緒に寝たいな、って……」
一応、基本的にはユーノが客間で寝ている時は共に寝ていない。
「……そうだね。今日はクリスマスイヴだしね」
「うん!」
そう嬉しそうに言ってユーノの布団に潜りこむなのは。
「うーん。いい匂いー。ユーノ君の匂いー」
「はは……」
ユーノの布団に顔を埋め、そんなことを言うなのは。今日から使うものだから大して匂いなど無いはずだが。ユーノは苦笑気味。
「ね、ユーノ君」
「何、なのは」
なのはがユーノに話しかける。答えるユーノ。
「んー。何でもないよー。呼んでみたかったの」
「そっか」
なのはの返答に、やはりユーノは苦笑気味。
「じゃ、寝ようか。明日はデートだからしっかり休んでおこうね」
「うん!ねえ、ユーノ君」
再び話しかけるなのは。
「?何?」
「――私ね、今、凄く幸せ」
「――うん。僕も」
なのはの言葉に同意するユーノ。そのまま二人は眠りに入る。
「お休みなさい、ユーノ君……」
「お休み、なのは……」
今夜は、良い夢が見れそうだ。