あれから一年位の月日が経ったある日の事。私立聖祥大付属小学校屋上。
「なのは、なんで髪型変えたのよ?」
昼休み。なのは、はやて、アリサ、すずかの四人が弁当を食べながら会話に花を咲かせていた。
「うーん。……気分、かな?ユーノ君も可愛いって褒めてくれたし!」
「ああ、そうなんや……」
最近、基本的な髪型をサイドポニー(小)に変えたなのはにアリサが質問。その答えに周りは御馳走様、という表情。
なのはにとっては昔に戻しただけなのだが。……ちなみにBJのデザインも昔(或いは未来)の物のサイズを変更しただけである。当然、BJ時も髪型はサイドポニー。
そのまま話題は変化していく。先程の授業の話から、最近合ったことなど他愛もない話が続く。
「それでユーノ君、執務官試験に無事通ったって!」
「へえ。えらい難関なんやろ?」
「へえ。難関なんだ。……どれくらい?」
そんな中、出た話題にアリサが質問する。
「凄いよ。合格者は年間で10人位。中には一人も出なかった年もあるくらいだし」
「それは凄いね」
すずかも感心したような顔。
「そうだよ!ユーノ君は凄いんだよ!勿論ユーノくんはそれだけでなくてね……」
「そ、そういえばフェイトちゃんもそろそろ卒業なんやろ!」
何やら惚気話に移行しそうだったなのはの話を強引に遮り、話題を変えるはやて。なのはは別に気を悪くした様子も無く、それに乗っかる。
「うん」
「それだったらユーノ君とフェイトちゃん、二人を呼んでおめでとうパーティーでもせん?」
「あんたは適当な口実を付けて騒ぎたいだけでしょ。まあ、いいアイディアだとは思うけど」
アリサもそれに同調する。
「いいんじゃないかな?」
「うん!じゃ、今度ユーノ君とフェイトちゃんに予定を訊いてみるよ」
「なのは、頼んだわよ」
すずかも同意し、なのはも当然同意。そして昼休みも終わりになり、解散となった。
それから何日か後。
「それじゃ、改めておめでとう、ユーノ君」
「うん。改めてありがとうなのは」
高町家・なのはの部屋。そこでなのはとユーノが話をしている。
先程まで『ユーノ執務官合格+フェイト卒業おめでとうパーティ-』が八神家にて開かれていた。
それも終わり、帰ってきた二人は会話をしている。様々な話をしていたが、やがてユーノが本題を切り出した。
「さて、なのは。本題に行っていいかな?」
「うん。……これからの事、だよね」
『それは私も聞いても良い類の話なのでしょうか?』
レイジングハートが問う。
「うん。別に構わない。何かあったらそこを聞いてもいいから」
『分かりました。ありがとうございます』
礼を言うレイジングハート。そして結界を張り、話し始めた。
「さて……。それじゃあこれからJS事件までに起こった主なこと。大きく二つに分ける。僕らに直接関係があったことと無いこと。
それらに関係する今回との変化点。疑問や意見があったら言って」
「分かった」
頷くなのは。ユーノは続ける。
「それじゃあ僕達に直接関係があることから。まずは来年のなのはが襲撃を受けて重傷を負った事件」
「まあそれは今回は何とかなると思うけど。襲撃があると分かっているし、対処法も分かっているし、前回とは違って自分の限界も分からずに疲労を溜めたりもしないしね」
そうだね、とユーノが肯定する。この件は今回は大丈夫だろう。
「それじゃ二つ目。無限書庫。これはリインさんがそのままなると思う」
「じゃあそれも大丈夫か」
無限書庫の有用性は無視できない。まあユーノがリインフォースと協力しておおまかな道を作った。後はそれを整備してもらうだけだろう。
何もかも手探りだったあの頃より、多分早く活用できるようになるはずだ。
「でもユーノ君が辞める時みんなに引き留められたんじゃない?」
「そうだね。でもまあ後はどうすればよいか、と言う方向性は見えた時期だったから、納得はしてもらったよ。……じゃあ次」
「うん」
ユーノは一拍入れ、続ける。
「エリオとキャロの保護。フェイトは今回は前回と立場も人間関係も違うから、どうなるか分からない。だから僕が保護しようと思う。感情的な面を抜いても、キャロなんかは犯罪組織にでも行ったら洒落にならないことになる可能性があるしね」
「ユーノ君がそう言うならそれでいいけど」
ありがとう、とユーノが続ける。
「できればさ、二人には直ぐに管理局に入ったりせずにちゃんと学校に行ったりとかして欲しい。その上で自分で選択して管理局に入るのならば止めないけど」
「そうだね。……前回のフェイトちゃんを悪く言うわけじゃないけど、ちょっと二人も子供らしく育てるべきだよね」
うんうんとなのはは頷いている。
「だから、エリオもそれまでは施設にいても、僕たちが結婚してミッドに本拠を持ったら位で引き取ろうと思う。なのははいいかな?」
「構わないよ」
ユーノはもう一度ありがとう、と言う。
「次は臨海空港で大規模火災。でもこれは……」
「どうしようもないよね。本当に事件性は何も無い、純粋な事故だったから」
「そうだよね。せいぜいそこの担当の人と知り合いになって注意を促すくらいか。正確な日取りが分かればまだ何とかする事はあるんだけど。なのはは覚えている?」
「流石にそこまでは……。ただ中学三年生になった後から夏の前だったというくらいしか……」
申し訳なさそうななのは。ユーノはそれを気にしないで、と言う。
「じゃあ次。機動六課設立。……絶対、素直に設立はしないよね」
「はやてちゃん、このままだと管理局に入るとは思えないもんね。入るとしても、少なくとも高校位は卒業してからだと思う」
今回のはやては管理局での出世にこだわる理由など無い。どころか魔法も碌に使えない。正確には使えるのだろうが使っていない、使う機会が無い。
せいぜい、飛んでみたいーと飛行魔法を使ったり、離れたリモコンを手に取るために魔法を使ったり、無限書庫でリインフォースの手伝いをした時に検索魔法と読書魔法を使ったくらいである。
「うーん。……でも、これからいろいろ状況は変わるし、それは様子見か。大体、ジェイル=スカリエッティを何とかするための部隊だからそれを達成できればいいわけだしね」
「確かにそうだね。別に六課にこだわる理由は無いもんね。スバルやティアナに会えないのは残念だけど」
なのははユーノの意見を肯定する。
「次。僕らに直接関係がなかったこと。ゼスト隊が壊滅した戦闘機人事件」
「ゼストさんが無事なら多分中将周りの状況が色々変わるはずだもんね。単純にジェイル=スカリエッティの戦力も減るし。メガーヌさんが無事でルーテシアが向こうに渡らないならさらに」
「それもあるけどね……フェイトの卒業後の配属先は首都防衛隊。なんでも勤務地がクラナガンだし、地上の他と違って同じくらいのランクの相手がいるから訓練も困らないだろう、って勧められたからそこに決めたらしいけど……」
なのはは顔を引きつらせる。
「つまり……」
「うん。フェイトの配属先はゼスト隊」
なのはは頭を抱える。
「どうしよっか……。っていうか、何時だったけ、壊滅するの。空港火災にまでは壊滅しているはずだけど……」
「僕も覚えてないよ……。流石にこんなことになるなんて想像もしていなかったから。とりあえずフェイトに注意を促すことと、対AMFや対戦闘機人の技術をそれとなく教えるくらいだけど……」
「……時間があるといいね。ちゃんと教えられるように」
ユーノは頷く。
「うん。……最悪の事態に備えて、アルフは現場に出ないようにお願いした。プレシアさんの面倒を見るため、って言う理由を付けてね。
もし、アルフが危険な状況になったらフェイトも危ない、という事。後はそこから判断するしかない。フェイトに隊の様子もそれとなく聞く予定ではあるけど」
「……それしかない、か……」
なのはは万一のことを考えてか、大分不安げな顔である。
「後は……強いて言えばティーダさんの事、ヴァイスさんの事、アギトの事位だけど……」
「内容は分かっていても、何時、何処でが全く分からないもんね……」
「うん。さっきも言ったけど、こんなことになるなんて想像もしないし」
「そうだね」
そう言って頷く。
『しかし、随分様々なことがあるのですね』
それまで黙っていたレイジングハートが(無いけど)口を開いた。
「うん。……本当に、色々あった……」
「そうだね……」
懐かしがる二人。そう、色々あった。大変なことだけでなく、嬉しかったことも楽しかったことも。
『そうですか。……ふむ』
「どうしたの、レイジングハート?」
『いえ……。偶には貴方達の昔話でも聞きたいなと。勿論、今回とは違うのでしょう?よろしければ教えてくれませんか?』
そう言うレイジングハート。
「うーん。ユーノ君が良いなら。いいかな?」
「構わないよ。……出会いはちょっと恥ずかしいけどね」
そう言う二人。
「じゃあ始めようか。えっとね、私とユーノ君が初めて出会ったのはね――」
そうして話を始めるなのは。そのまま夜は更けていった。
それからさらに数ヶ月後。クラナガンにある時空管理局の病院。
プレシア=テスタロッサは大きな安堵を感じていた。
「本当に、無事でよかったわ……」
「はは……。ありがとう、母さん」
管理局に娘のフェイトが入った。しかし、その数ヶ月後、とある違法実験施設の調査中。その部隊は壊滅し、フェイトも意識不明の重体となった。
だが、数日前に無事意識を取り戻し、今はこうして少しの間なら会話もできるようになったのである。
「ごめんよフェイト。あたしもついて行けば……」
「アルフ、そんなことはないよ。アルフが異変を感じて応援になのはとユーノを呼んでくれたから、助かったんだよ」
「……まあこういう時に頼れる人間で真っ先に思い付いたのはあの二人だからねぇ。偶々、休暇でクラナガンでデートをしていてくれて助かったよ」
申し訳なさそうなアルフにフェイトは言う。
「それにしても、この間まで私が母さんをお見舞いするために来ていた病院に入院しているなんて変な気分」
「そうね」
冗談を言うフェイトにプレシアは笑う。
(それにしても……本当に過去の自分を殴りたくなるわね)
そんなことも思う。こんな娘を虐待していたなど。
「母さん?」
「何でも無いわ」
頭を振るプレシア。そして、ドアがノックされた。
「はい」
「失礼する」
入ってきたのは大柄な男。隊長であるゼスト=グランガイツだ。
「隊長!無事……ではなかったみたいですね……」
「ああ」
ゼストは確かに松葉杖をつきながらも自身の足で歩いてきた。
但し――左腕が無くなっていた。
「何はともあれ、テスタロッサ。生きていてくれてよかった」
「いえ……。隊長も、生きていてくれて何よりです」
「そうだな。……駄目だった奴もいるが」
「……そうですか」
そう言って沈鬱そうな表情を浮かべる二人。だが、ゼストはプレシアに向かい合った。
「テスタロッサの親御さんでよろしいのでしょうか?」
「はい」
頭を下げるゼスト。
「申し訳ございません。このたびの責任は隊長である、俺にあります」
「いえ……。無事にフェイトも助かりましたし、一番問題は犯罪者の某でしょう?気にするな、とは言いませんが気にし過ぎないでください。……尤も、フェイトに万一の事があったらどうなっていたか分かりませんけど」
「そうですか……。ありがとうございます」
プレシアの返答に礼を言うゼスト。再びフェイトに向き合う。
「テスタロッサ」
「はい」
答えるフェイト。
「……お前は、これからどうする?」
「これから、とは?」
質問を返すフェイト。
「ああ。管理局に居続けなくとも、一旦辞めて学校に行くなりなんなりしてからもう一度入局しても良い。前線を引いても構わないしな。お前はまだ若いんだ。いくらでも、選択肢はある」
「……。……隊長は、どうなさるんですか?」
再び質問を返すフェイト。
「俺は局員を続ける。今さら他の生き方などできん。……それに、あいつの事も気になる」
小さく付け足すゼスト。あいつとは自分の親友の事。最近、碌に連絡が取れていない。向こうも忙しい立場だから、と考えていたのだが何か違和感を感じる。
そして答えるフェイト。
「私も、続けます」
「……本気か?もし俺も続けるのなら、という理由なら止めておけ」
フェイトの答えに釘を刺すゼスト。
「いいえ。違います」
「ほう?ならば?」
問うゼスト。
「……今回の被害、どうなっていますか?」
「……壊滅。隊員の三割は死亡、残りも大抵重傷。そして再び魔導師として再起できる可能性があるのは俺以外はお前だけだ。
ナカジマあたりは肉体的なダメージこそ小さかったが、コア付近が重傷だ。……あいつは早ければ来週中には退院できるらしいが」
正直に被害状況を伝えるゼスト。フェイトはそれを聞き、頷く。
「皆さん、私に良くしてくださいました。たった数ヶ月ですが、本当に嬉しかった。私が皆さんの分まで、等と大それたことは言いませんが、皆さんと同様にこの地上を守りたい。そう思います」
「……そうか。ならば止めん」
頷くゼスト。あの様な目をした奴を止めるのは、ほぼ、無理だ。ならば自分はその助けになるべき。……それが、自分の責任というものだろう。
「あの……一つ、いいですか?」
「何だ?」
フェイトが質問をする。
「クイントさんの状況は聞きましたけど、メガーヌさんはどうだったのかな、って……」
「……ああ、確かにお前はナカジマとアルピーノと仲が良かったな。……あいつは生きてはいるが、まだ意識を取り戻してはいない」
「……そうですか。娘さんのルーちゃんはどうしているのか分かりますか?」
「ナカジマの家族が面倒を見ているらしいぞ」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言って礼を言うフェイト。
「それでは失礼する。他の連中の所にもいかねばならんしな」
「はい。……あの!隊長!」
「?何だ?」
最後にゼストに呼びかけるフェイト。
「リハビリ、頑張りましょうね!」
「そうだな」
少し表情を和らげるゼスト。そしてゼストは去って行った。
ゼストが去って行ったフェイトの病室。
「あの……母さん、アルフ」
「何かしら?」
「何だい、フェイト?」
二人に話しかけるフェイト。
「そういうわけだから、私は局員を続ける。……いいかな?」
「……フェイトがそう言うのならば、構わないわよ」
「……まあ、なんだかんだで頑固だからね、フェイトは」
一拍の間があったが肯定する二人。
「うん。……ありがとう。ふわ……」
礼を言うフェイト。同時にあくびが出る。
「ごめんなさい。少し寝てもいいかな?」
「ええ、お休みなさい、フェイト」
「お休み、フェイト」
「うん。お休み……」
そう言って瞼を閉じるフェイト。少しすると寝息が聞こえてきた。
「さて……私も病室に帰るわね」
「おや?もう行くのかい」
「ええ。一応、病人だからね。本当は添い寝の一つもしたいのだけど、状態が状態だしね」
「確かにね」
フェイトは、重傷患者であったのだ。そしてそのような患者のベットは押して図るべし。
「それじゃあ、またね、アルフ」
「ああ。あんたも養生しなよ」
ありがとう、と言ってプレシアは病室を出る。
病室に戻る廊下、プレシアは考える。
(本当に、無事でよかった……)
思考を続ける。
(全く、本当に過去の自分は何やっていたのかしらね)
先程と似たような考えを抱く。
(だけど……こうなった原因。それの一つは地上部隊の戦力不足らしいわね)
フェイトが目を覚ます前に聞いた話を思い出す。どうたらこうたら言っていたが、正直あまり覚えていない。フェイトの事で頭が一杯だったし。
(つまり戦力を強化すれば、あの子がああいう目に合う可能性は減るのね)
本当は反対したかった。だけど、あの子が本気でやりたいと言ったのだ。これまで自分がしてきた仕打ちを(記憶には無いが)考えると反対できなかった。ならば別の方向からサポートすべきだ。
(私が直接戦力になるのは無理ね。病人だし、年だし。それに私一人が入ったところでたかが知れている。……と、なると……)
思考を進める。
(他の手段で戦力を増やすこと。そしてそれを最終的には安価に量産できるくらいのレベルまで持って行くこと。その技術開発が目標か……)
目標が決まる。
(まあそれよりも先ずは自分の体を治しましょう。勿論あの子のリハビリの手伝いも)
手近な目標も確認する。丁度自分の病室の前に着く。そしてプレシアは自分の病室に入って行ったのであった。