「と、いうわけでリインフォース・ツヴァイと申します!無限書庫から動けない母様に代わり、マスターはやてのデバイスとなります!」
「うん。よろしくな、ツヴァイ」
あれからあったこと。
フェイト=テスタロッサは無事治療とリハビリを終え、退院した。その後体力やら感やらを取り戻すために訓練を重ね、前線に復帰した。
とは言っても、どこかの部隊に所属しているわけでなく、ゼストと二人で様々な部隊を渡り歩いている感じである。特にランクが高いので緊急時に呼び出されることが多いようだ。
プレシア=テスタロッサも退院し、明確な成果を上げ短縮された勤労奉仕期間も終わった。ただ、プレシアはそのまま技術開発部に所属することとなったが。
ゼスト=グランガイツも前述の通り復帰した。欠損した腕は義手である。ただし今は技術開発部(と、いうかプレシアが娘の為にもなるからと作った)のデバイスにもなる特別製の義手である。
試作品でその義手の具合やら、データやらを報告する義務があるが、概ね良好のようである。
だが、親友のレジアス=ゲイズとは上手くいっていないらしく、やきもきしているようだ。
ユーノ=スクライアは予定通りエリオ=モンディアル――正確にはそのクローンの少年だが――を違法実験施設から救い、保護した。
最初の頃は人間不信に陥っていたエリオと色々あったようだが、今の関係は良好といっていいだろう。彼は現在施設で暮らしている。
無限書庫は正式稼働を始め、司書長はリインフォース=ヤガミが就任することとなった。
又、ティーダ=ランスターは、偶々付近で任務を終えたばかりだったフェイトがその速度を生かし、助けに入ったことで大怪我を負ったが助かった。
その話をユーノとなのはが聞いた時、彼らは袖振れ合うも多生の縁、ということはあるのだな、と思ったという。
高町恭也と月村忍が結婚した。恭也は婿入りし、月村恭也となった。
クロノ=ハラオウンとエイミィ=リミエッタも結婚した。前回より割と早かったため疑問に思ったユーノがそれとなく尋ねた所、君たちに中てられたんだという答えが返ってきた。
なお結婚式で色々クロノはからかわれていたことを追記しておこう。
そして現在は新暦71年4月29日。そう、臨海空港での大火災があった日である。
八神はやては現在非常に大変な事態に陥っていた。たまたま居合わせた臨海空港で火災、それも大火災と言っていいほどの規模の物にあったからである。
ここには美味しいと言われているカレー屋に、半ばネタの為にザフィーラと二人だけで来たのだ。お土産にレトルトも二十人前ほど買ったが。
だが突然それに巻き込まれた。ザフィーラがいるから自分は安心だろうが……。
「助けてー!」
「くそっ!何でこんな目に!?」
目の前には逃げまとう人々。ザフィーラに頼んで出来る限りの人間を助けてもらってはいるが――絶対的な人手が足りない。
こういった時にどうすればよいのかわからないはやては自分をもどかしく思う。
(シグナムやヴィータやなのはちゃん達なら、やっぱり違うんやろな)
そう思う。シグナムやヴィータ、なのはやユーノやフェイトなら、自分と違い、どうやったら良いのか分かっているのだろう。自分の様な素人とは違うのだから。
けれどもはやては飛ぶ。そして魔力に任せて強引に障壁を張り、瓦礫を吹き飛ばし、懸命に助けようとする。
(きっついなあ……)
はやてが使っているものは飛行以外は魔法と呼ぶのはおこがましいものだ。ただ、膨大な魔力に任せて強引に護り、吹き飛ばしているだけ。しっかりとした理論による魔法とは効率が全く違う。
だから普通に魔法を使うより早く、当然限界が来る。と、いうか並の魔力量しかないのならばそもそもここまでできなかっただろう。
「主、大丈夫ですか?」
戻ってきたザフィーラがはやてに心配したように声をかける。
「んー、大丈夫、と言いたいとこやけど、ごめん。正直きつい」
「ならば主はもう休まれて下さい。後は自分がやりましょう」
全員は不可能でしょうが。その言葉を飲み込んでザフィーラが言う。
「ごめんな、ザフィーラ。情けない主で。後は……!?」
言葉を切るはやて。見れば自分の眼下では倒れようとしている巨大な柱。そしてその先には――一人の少女がいた。
「危ない!」
「主!」
飛び出すはやて。遅れてザフィーラも追う。
(えっと、確かこうだったはず!)
はやては魔法を使う。以前シグナムとフェイトの模擬戦を見た後に、フェイトにあの速い動きは何ー、と言った時に教えてもらった魔法・ブリッツアクション。
あの時は上手く距離を測れなくて、行き過ぎたり、全然移動できなかったりだったが――
(うっしゃ成功!)
今回は土壇場で成功。そしてそのまま、残った魔力で強引に障壁を張る。
「あ……」
そして障壁は一瞬だけ現れ――
「主!」
その一瞬でザフィーラがはやてと少女をその場から攫って行った。
「ふう……一安心やな」
「そうですね。……少々肝が冷えましたが」
「あー、ごめん。ありがとな、ザフィーラ」
「いえ。礼を言われる必要はありません」
「それでもや」
そして、その場から少女と共に離脱した二人は移動しながら会話していた。
「あー……アカン」
「主?」
はやての様子がおかしい。ザフィーラは不審に思い、訊ねる。
「倒れる。ザフィーラ、後はよろしく」
「任されました」
どうやら完全に魔力やらなんやらが切れたらしい。そのまま気を失うつもりのはやてだったが――
「あの!」
少女が声を上げる。
「んー……?なんや?」
それを半ば沈んだ意識で聞くはやて。
「あの!あ、ありがとうございます……」
礼を言う少女。
「…………。ん、分かった」
はやてはキョトンとした顔。そしてそれに返答をし、倒れるのであった。
そうしてその死者や多くの重軽傷者を出した事故は終わった。
非魔導師でありながらも懸命に人を助けた少女。彼女によって救われた人は多くは無かったが、確かにいた。
その少女は管理局から表彰された。普通はその後スカウトされたりするものだが……とある元提督によってそれは阻止された。
それより数日後。聖祥大付属中学校屋上。
「はやて、今日もどうしたのよ?えらい静かじゃない」
「んー。ちょっとな……」
昼休み。なのは、はやて、アリサ、すずかの四人が昼食を取っていた。
「それで、今度新作ケーキの試食会やるからお母さんが是非来て欲しいって」
「へえ。勿論お邪魔させてもらうわ」
「うん。期待しています、って伝えておいてくれないかな?」
「分かった」
「……」
いつもなら真っ先に反応しそうなはやてだが、今日は無言。正しくは今日も。ここ数日ずっとそうである。
「はぁ……、調子が狂うわ。本当にどうしたのよはやて?」
その様子にいい加減調子が狂うとアリサが訊ねる。
「うん。……そうやな。なあ、なのはちゃん」
それを気が付かないで何かをなのはに訊ねるはやて。
「?何かな?」
「――魔導師ってどうすればなれるんかな?」
「……はやて?」
そしてはやては理由を話し始めた。
「うん。ごめんな、アリサちゃん。なのはちゃんもすずかちゃんも心配かけて。ここ最近、何を考えていたか話す」
「……ようやく話す気になったのね」
少し安心したようなアリサ。なのはとすずかも同様だ。
「うん。あんな、私がこの間、ミッドででっかい火事に巻き込まれ他のは教えたやろ?」
「……うん」
暗い顔で頷くなのは。正直、なのははこの件に関して、ユーノと二人で無い責任を感じている。何故なら、前回よりも被害が大きかったから。自分もユーノも仕事中で、知ったのは全部終わった後だった。
「確か、表彰されたとか言ってなかったっけ?」
「確かに表彰はされたけどな……」
すずかの言葉に言葉を濁すはやて。
「けど?」
「現場でな、思ったんよ。もしも巻き込まれたのが自分とザフィーラでなく、シグナムとザフィーラだったら、ヴィータとザフィーラだったら、なのはちゃんとだったら、ユーノ君とだったら、フェイトちゃんとだったら。絶対、私より多くの人を救えるはずやって」
知識から経験から魔導師としての能力から、私より明らかに勝っているからな、とはやては付け足す。
「……」
「……」
「……」
そのはやての様子に思わず沈黙する三人。
「それにそれだけで無くてな……」
「無くて?」
はやての言葉に聞き返すアリサ。
「最後にな、女の子を助けた。多分私達より三、四歳くらい年下の。気を失う直前に聞いたその子のお礼の言葉がえらい耳に残ってな……」
「……」
「……」
「……」
そのはやての言葉に再び沈黙する三人。
「嬉しかったんよ。こんな自分でも助けることができたんだって……。それで、な」
そう言って言葉を切るはやて。
「そう言う事だったのね」
アリサが大きく息をつきながら言う。
「うん。だから、こう、将来は人を救うことがしたい、と……。
自分にそう言った才能があるかは分からない。けどな、私の魔力は自分で言うのもなんやけど凄いらしい。他の人が望んでも得られない程。だからそれを生かすべきだ、と考えてな……」
それでなのはちゃんにどうやったら魔導師になれるかを聞いたんよ、とはやては言う。
「んー。それは将来管理局に入るっていう事?」
なのはは訊ねる。
「うん。そのつもりや」
「だったら、先ず向こうの学校に入るべきだと思う」
はやての返答になのはは答える。
「学校?」
「多分、魔法はシグナムさんやヴィータちゃん、ザフィーラさんにシャマルさん、リインフォースさんと、はやてちゃんの身内に教えてもらって、その上でしっかりと訓練すればかなりの物になると思う」
「うん」
「でもそれはそれだけ。必要なことはそれ以外にもある」
はやては神妙な顔で頷いている。
「別にはやてちゃんも何かに焦っているわけではないでしょう?」
「もちろん。変に焦って妙なことになるよりじっくり行きたいと思っている」
「なら全寮制の学校にでも入ってじっくりと、それこそ向こうの常識やら風習から学ぶべきだよ。こっちとは違うことも普通にあるからね」
「そっか……」
はやては納得顔で頷く。
「まあいずれにしろ皆に話すことから始めんとな」
「そうだね。リインさんにもね?」
「もちろんや。リインも家族やからな」
うんうんと頷いているはやて。
「あー、なんか肩の荷が下りた気分や」
「全く……。本当にあんたがそんなんだと調子が狂ったわ」
いつもの調子に戻ったはやてにアリサが言う。
「お?心配してくれたん?」
「悪い?」
「……」
素直に認めるアリサ。その反応に驚いたようなはやて。
「……何よ、そのリアクション」
「いや……アリサちゃんだったら『べ、別にあんたの心配なんてしてないんだからねっ!』と返すもんやと……」
「あ、私もそう思った」
「私も」
「あんた達、私を何だと思っているのよ……」
はやてだけでなく、他の二人も似たような反応を示すことにアリサは思わずぼやく。
「デレたね」
「デレたね」
「デレたなー」
「あ・ん・た・た・ち!」
こめかみに青筋を浮かべたアリサが叫ぶ。そのまま昼休みの時間は過ぎて行った。
そしてはやては家族と相談した結果、全寮制の士官学校を受験することになった。今はその受験勉強中である。
ちなみに普通の(陸士や空士)学校でなく、士官学校なのは事前に申請をすれば使い魔(守護獣)を連れて入学可能なものが見つかったため、過保護なヴォルケンリッター達が是非ここにとしたからだ。
そしてはやてからそれを相談されたリインフォースはおよそ半年後、一つ、或いは一人のデバイスをはやてに手渡した。
話は冒頭に戻る。
「はい!以後、よろしくお願いしますです!」
「うん。しっかしちっこいなあ……」
「あ、普通にサイズにもなれますよ」
「そうなん?」
「はい!」
ツヴァイが光に包まれる。そして現れたのは先ほどまでの人形サイズでなく、子供サイズのツヴァイだった。
「おおー!」
「この通りです」
ちょっと誇らしげなツヴァイ。
「話を続けてもよろしいでしょうか?」
説明の最中だったリインフォースが問いかける。
「あ、うん。よろしく」
はやてが先を促す。
「はい。リインフォース・ツヴァイは私同様ユニゾンデバイスと呼ばれる種類のデバイスです」
「ユニゾンデバイス?」
はやてが問う。
「ユニゾンデバイスというのはマスターと合体し、飛躍的な能力向上が出来るデバイスです」
「貴方と、合体したい……」
「?」
はやての一言に疑問符を浮かべるリインフォース。
「気にせんといて」
ネタだったのに普通に返されて少し赤くなるはやて。
「分かりました。但し、技術的には非常に難しい物なのです。もし相性が悪い場合、合体時間が実戦で使えないほど短かったり、最悪合体事故が起き悪影響が出ることだってあります。
勿論ツヴァイと主は問題ありません。ヴォルケンリッター全員とも、主に比べて相性は落ちますが十分実践レベルのユニゾンが可能です」
「ほうほう」
頷いているはやて。
「それから夜天の書にある術式の内、全ては無理でしたから私が選んだ術式の内それなりの量を登録しておきました。もしも他に必要になりましたら教えてください」
「分かった」
頷くはやて。
「以上です。……私にとっては娘の様なものです。ツヴァイをよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるリインフォース。
「うん。ありがとうリインフォース。改めてよろしくな、ツヴァイ」
それに返答するはやて。
「はい。改めてよろしくお願いします!母様、ツヴァイは行って参ります!」
「ああ。私の分まで外を見てこい」
「分かりました母様!」
リインフォースの言葉に元気よく返事をするリインフォース・ツヴァイ。こうして彼女は八神はやてのデバイスとなったのだった。