ミッドチルダ、クラナガン、高町家。
「こんな所ですね」
「ありがとうございます」
本日は一人、客人が訊ねに来ている。彼の名前はティ-ダ=ランスター。執務官志望の青年である。
彼はとある事件で知り合った(と、いうか救ってもらった)フェイト=テスタロッサから現役(でも子育て休暇中)執務官であるユーノを紹介され、筆記の模擬試験の様なものをやっていたのである。
「しかしこういう言い方はなんですけど、予想以上にできていました。この調子なら、多分筆記は問題無いと思いますよ」
「ありがとうございます。……入院中は、基本的にリハビリと見舞いに来てくれた人との会話以外は、ひたすら勉強していましたからね」
そう言って笑うティーダ。
「後は実技と面接ですね」
「そうですね。……実は少々実技の方は不安だったりします」
「おや?そうですか?」
そんなことを言うティーダ。
「ええ。やっぱりあんなことが一度あったから不安なんですよ。確かに復帰して、以前の調子を取り戻しまたし、魔導師ランクも一つ上がりましたけど」
「成程」
納得の声を上げるユーノ。
「うーん。なのはがいればそこらへんを相談に乗ってくれたと思いますけど……」
「ああ、大丈夫ですよ。心理的なものですから」
そういうユーノに大丈夫だと伝えるティーダ。
ちなみになのはは仕事中である。管理局は子供が数えで三つの年まで育児休暇を取ることができる。
できるがこの夫婦、最初の一年以外は交代で休暇を取ることにした。来年はなのはが休み、ユーノが仕事である。
そんな感じで和やかに歓談していると
「ただいま帰りました」
「ただいまです」
「ただいまー」
エリオとキャロ、そして(何故かこちらに)ルーテシアが帰ってきた。
「お帰り、三人とも」
「はい。……あれ」
「ああ、ティーダ=ランスターだよ。よろしくね」
「あ、はい。エリオ=モンディアルです」
「キャロ=ル・ルシエです」
「ルーテシア=アルピーノ」
ティーダと互いに自己紹介している。
「ティーダさんがケーキを買ってきてくれたから食べようか。手を洗っておいで」
「やった。ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして」
お礼の言葉にティーダは笑って返事をする。
「じゃあ休憩してもう少し続けましょうか」
「お願いします」
そして休憩に入るのであった。
なおティーダはこれから幾度か、勉強を見てもらいに高町家に来ることになる。。
「はあ……『超人人造兵士計画』ですか……」
「そうよ。『スーパーメンシェンゾルダート計画』」
あれから何日か後のクララガン・高町家、リビング。本日の客人はプレシア=テスタロッサ。そしてその娘であるフェイトの使い魔・アルフである。
茶を飲みながら歓談している。ちなみにプレシア、ユーノやリインフォースは茶飲み友達であったりする。
「まあつまり、非魔導師を魔導師にすればいいじゃない、という発想から生まれたものだけど」
「一度は考えますよね、魔導師の数の問題になると。実現はできそうなんですか?」
「ええ。理屈の上ではね」
その言葉に驚きの反応をするユーノ。未来でやっと実現が始まるか始まらないかだったのだが。
「どのようにですか?」
「あまり詳しいことは話せないけど……二つ案があってね。一つは魔力をバッテリーの様に溜めたものを運用するという方法」
プレシアは茶を一口飲む。
「もう一つは人造リンカーコアを体内に埋め込む方法。両方とも問題は小型化とコストね」
「ふむ。とりあえずの目標は?」
ユーノが先を促す。
「Cランクくらいを安価に量産、かしらね、とりあえずは。先に実現できそうなのは前者の案」
そして溜息をつくプレシア。
「だけど実戦で使えるくらいの時間を保つとなるとね……、さっきの言った通り大きさが……。
ドラム缶ぐらいの大きさと重量を目標にして、ロボットみたいに乗り込む形……この場合は二足歩行が問題よね。縦揺れとか。蜘蛛脚かしらね、先ずは。
だけど強化人工筋肉でも埋め込んで、背負わせた方が早いかもしれないわ」
でもそうなると万人に拒否反応が出ないような人工筋肉の研究も必要よね、等と愚痴っている。
「僕は頑張ってくださいとしか言えませんけど……」
「いいわよいいわよ。こうやって偶に愚痴を聞いてくれるだけで十分」
「でもさあ、本当に無茶はよしておくれよ。あたしがあんたについているのも、フェイトにそこら辺の監視を任されたからなんだし。最近は助手みたいになってるけど」
アルフも口を挟んでくる。ちなみに幼女形態。最近はずっとこの姿である。
「あー……。ごめんなさいね、アルフ」
「全く……。研究に没頭すると気にしなくなるんだから。もう60代も半ばなんだろ?とてもそうは見えないけどさ」
「私もとてもそうは思えないわね」
昔の記憶が無いためか、どこか他人事のように答えるプレシア。記憶を失う前より老け込んだとはいえ、実年齢よりは明らかに若く見える。
「とにかく。無茶をしようとしたら無理矢理止めるからね」
「もう既に何回か止めているじゃない。それに無茶しようとしてしたわけじゃないわよ」
「自覚が無い方が質が悪いよ……」
「はは……」
溜息をつくアルフと、どこか拗ねたようなプレシア。それを見て苦笑しているユーノ。
そしてふと思う。自分も昔、こんな会話をアルフとしたなあ、と。
「……?どうしたんだい?」
「いや。なんでも」
そんなユーノの視線に気が付いたのか、声をかけてくるアルフ。何でもないと答えるユーノ。
そのまま暫く茶を飲みながら談笑していた。
さらに数ヶ月後。やはりクラナガンの高町家。本日の客人は……
「ほう、成程。参考になる」
「そうですか?ならよかった」
ヴォルケンリッター・盾の守護獣ことザフィーラである。
今日は休日。珍しく彼の主であるはやてとユーノの妻であるなのは、そしてその共通の友人であるフェイトの予定が上手く重なったので、三人で遊びに出かけているのだ。
基本的にザフィーラははやてと共にいるわけだが、女性だけのほうが良い時もあるだろう、という事で今日は離れている。あの二人がいればよほどのことが無い限り大丈夫であろうし。
ちなみに基本的にはやてと共にいるもう一人、リインフォースⅡは現在リインフォースⅠの元で定期検診中である。……デバイスがデバイスを整備するという割とシュールな光景である。
そんなこんなで、他のヴォルケンリッター三人は仕事中という事もあり、高町家に来たザフィーラであった。ついでに一つ、ユーノに用があったのだ。
「しかしザフィーラさんから探査魔法を教えてくれ、と頼まれるとは思いませんでした」
「覚えてはいるが、より効率的な運用や広範囲に及ぶものをな。勉強になった。礼を言う」
リインフォースが手隙ならあいつに頼んだのだが、と言って茶を啜り、煎餅を齧るザフィーラ(人型)。同じく茶を啜り、煎餅を齧るユーノ。
「やっぱりはやてがそっちの方に進むからですか?」
「ああ。主は災害救助の方に進むつもりらしいからな」
ユーノの言葉を肯定するザフィーラ。そしてそれを聞いていたルーテシア。
「……災害救助犬?」
「狼だが……まあ似たようなものだな」
その言葉も肯定する。
ちなみにエリオとキャロとルーテシアは本日は、高町家にてユーノの手伝い(主に一臣と優奈の面倒見)をしたり、居間で桃○をやっていたりする。
後、ザフィーラに“さん”づけで呼んでいる。初めて会った時は狼の姿だったが、直ぐに人型になったからだろう。
「僕も参考になりました。やっぱり防御技術と純粋なタフネスでは敵いませんね」
「流石でそこで負けるわけにはいかんからな」
ユーノとザフィーラは庭で簡単な模擬戦もしたりしていた。とは言っても魔法使用は無しの物だが。
そのような会話をしているとチャイムが鳴る。
「チャイムだ」
「僕が出てきますね」
そう言って返事を聞かずに出ていくエリオ。暫くして帰ってきた。
「ユーノさん。お客さんです」
「お邪魔するよ」
「邪魔するわね」
「アルフにプレシアさん。こんにちは」
来たのはアルフとプレシアの二人だったようだ。
「ありゃ。ザフィーラもいたのかい?」
「珍しいわね。人型でいるなんて」
「別に人型を嫌っているわけでは無い。主の学校では守護獣として傍にいるわけだからな、あの姿のほうが良いだろう。
家も女性が多いのからあちらの方が気楽だ。そして何より主があの姿を喜んでくれている」
そう言い、茶を啜るザフィーラ。腰を下ろす二人。
「ふーん。そうなのかい」
「ああ」
「あ、これはお土産ね。中身はどら焼きよ」
「ありがとうございます、……おや」
どら焼きを渡され、お礼を言いながら茶を入れていると再びチャイムが鳴る。
「またチャイムだ」
「今度は私が出てきますね」
今度はキャロが出ていく。暫くして帰ってきた。
「ユーノさん、お客さんです」
「又かい?今日は多いね」
「お邪魔します。これはお土産です。」
入ってきたのはティーダだった。先ずお土産を渡す。割と有名な所のクッキーである。
「ティーダさん」
「お邪魔します。今日は合格の報告にやってまいりました!」
そう言い、笑顔を浮かべるティーダ。
「おお!おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「誰かと思えばティーダじゃないかい」
そんなティーダに声をかける人物。アルフである。
「あれ?アルフ知り合い……そういえば元々フェイトの紹介できたんだっけ。知っていても不思議ないか」
そう言って納得したようなユーノ。しかしそんな言葉に反応するのが一人。
「へえ……。フェイトの知り合いの男……」
プレシアである。そんなプレシアに声をかけるティーダ。
「えっと。初めましてですよね。ティーダ=ランスターです」
「初めまして。プレシア=テスタロッサよ」
そしてその姓に反応するティーダ。
「テスタロッサってもしかして……」
「ああ、フェイトの母親だよ」
補足を入れるアルフ。
「それで――貴方はフェイトのどういった知り合いなのかしら?」
何かプレッシャーの様なものを放ちながらそう問うプレシア。ティーダは若干たじろぎながら答える。
「友人で恩人です。昔危なかったところを救ってもらいまして。それから色々あって友人になりました」
「ほう……。具体的には?」
「えっと、偶に妹の事で相談に乗ってもらったり」
「へえ……」
やはりプレッシャーの様なものを放っているプレシア。
「――アルフ」
「なんだい?」
そしてアルフに話しかける。
「どんな人間かしら」
「そんなことは本人の前で問う事じゃないだろうに」
溜息をつくアルフ。
「良いから答えなさい」
「はあ……仕方ないねえ。えっと名前はティーダ=ランスター。歳は20代半ば。現在は航空武装隊に所属する執務官志望の一等空尉。合格おめでとさん」
「えっと、ありがとう」
戸惑いながらも礼を言うティーダ。
「家族構成は妹一人だけ。両親を始めとする他の血縁はいない。現在はその妹も全寮制の陸士学校に入ったので実質一人暮らし。
性格は……まあシスコン気味だけど、あまり問題がある性格では無いね」
「ふむふむ」
頷いているプレシア。
「まあシスコン気味なのは、仕方ないんじゃないかね。妹が幼いころに両親が亡くなって、それからずっと育ててきたんだから。
妹のティアナもブラコン気味だし。陸士学校に入ったのだって、さっさと安定した公務員になって、兄に心配をかけないようにするため、とか言っていたしね」
「そ、そうなのか……」
ティアナが陸士学校に入った理由を知らなかったのか、少し驚いているティーダ。
「まあこんな所だけど。満足したかい、プレシア?」
「……。まあ今は保留しましょう」
「何を!?」
プレシアの発言に思わず声を上げるティーダ。それらの会話を苦笑して聞いているユーノと、我関せずといった感じのザフィーラ。
「まあティーダさんも座ってください。お茶を入れますから」
「ありがとうございます」
出された茶を飲むティーダ。
そのまま基本的には穏やかに雑談する五人だった。