ユーノ君が逆行したのは本編よりも数か月前です。
やっぱり鬱です。注意。
時の庭園。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!」
フェイト=テスタロッサは急いでそこに向かっていた。
つい先ほど侵入者があったとの警報が鳴った。しかし、何も現れない。
フェイトは嫌な予感がした。
「ここだ!」
普段、入るのを許されていない部屋。ここに母はいる。
……杞憂で済めばいい。自分が折檻されるだけなのだから。
「母さん!」
しかし、そこで見たものは、何やら巨大なガラス管に入っている自分と同じ顔をした女の子。
「あ、ああ、ああああああああ!!!」
それに血を流して倒れている母親と、血に塗れた、恐らくは双剣と思わしきデバイスを持った金髪の少年。
「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
バルディッシュを起動させ、斬りかかる。
「え?」
だがあっさりいなされ、バインドで拘束された。
「くそっ!くそっ!!くそっ!!!」
バインドは解けない。そうこうしている内に少年は転移魔法を起動させた。
「母さん!かあさん!!!かあさああああああああああああああん!!!!!」
母を殺された。何もできなかった。逃げられた。
「殺す、殺す!殺す!!!絶対に、殺す!!!!!」
しかし、顔は覚えた。あの少年に、絶対に復讐する。
フェイト=テスタロッサはそう決意した。
それより少し後。ギル=グレアム邸。
「ん……?」
ギル=グレアムは自分の使い魔リーゼアリアとのパスが切れたのを感じた。
彼女は今は闇の書の主である少女の監視をしているはずだ。
(なんだか嫌な予感がするな……)
そう思いながら、彼はもう一人の使い魔であるリーゼロッテを呼び寄せるのであった。
ほぼ同時刻、第97管理外世界、地球。
「はぁっ!!!」
「疾ッ!!!」
高町士郎はとある少年が張った空間の中、戦っていた。
少し前。高町士郎は末娘の友人の家を訪ねていた。
彼女は足が不自由である。さらにまだ九歳にもなっていないにもかかわらず独り暮らしをしている。
よって最近はよく面倒を見ていた。娘にも彼女にも内緒だが、最近は彼女の名目上の保護責任者から親権を奪おうと色々していたりもする。
今日は定期検診の日。一緒に医者に行こうとして迎えに来ていたのである。
チャイムを鳴らそうと思ったが、ふと庭を見ると猫の死体と思わしきものがあった。
嫌な予感がした士郎は合鍵を使って入っていったのであった。
そして、その予感は的中する。
見慣れない少年が少女に剣を振り下ろそうとしていた。
迷わず奥義“神速”を起動させ少女をさらう。少女が車椅子に乗っていないのが幸いした(ちなみに少女の車椅子は大破されて傍にあった)。
……恐らく、あの少年は強い。飛針、鋼糸はある。流石に小太刀は無い。代わりにあるのは二本の特殊合金製の警棒。この装備では少女を守り切れるか分からない。
呆然としている少女を抱えたまま、士郎は迷わずそのまま出て行こうとする。が、その瞬間、辺りが妙なものに包まれた。
……士郎は知らない。それは結界と呼ばれるものであることを。
しかし、逃げ切れなくなったことだけは理解した。
「やれやれ、このまま出してくれると嬉しかったんだけど」
そう言い、構える。小太刀でなく二本の特殊合金製の警棒を。
「……」
「だんまりかい?君を倒せば解除されるのかな?」
「……」
無言で、少年も構える。その構えは……。
(御神流!?)
驚愕。だが体に染みついた本能で動く。“神速”起動。そして……
(神速を使うか……。本当に御神流とは!)
相手も、起動。同じ領域で動く。ここに御神流同士の決闘が始まった――。
(チッ!この少年は本当に強い!)
得意とする“虎切”が回避された。これだけの強敵は久しぶりだ。……恐らく、静馬以来。さらに……
(妙なものを鋼糸代わりに使うな……)
士郎は知らないことだが、少年は魔導師、と呼ばれる存在でもある。彼らが使う、魔法。そのバインド。少年はそれを鋼糸代わりに使っていた。
(くっ!)
斬撃が体をかすめる。かろうじて回避できた。
体格では自分が勝っている。ただし相手の鋼糸は相手にしたことが無いパターン。体力はまだ分からない。そして、経験は……?
(真逆、彼の方が上か!?)
ありえない!一体どんな人生を送ってきたらそうなるのだ!?……それとも見た目通りの歳ではないのか?
そうして、しばらく戦いが続いていたが、“それ”が起こった。
……士郎は思わぬ強敵を前にすっかり忘れていた。
そう、少年が、元々何のために少女の家に侵入していたのかということを。
少年がさら加速する。恐らく、歩式・奥義之極み“神速三段がけ”。対抗すべく、自分もその領域に入る。が、
「はやてちゃん!!!」
彼は自分を素通りし、少女の前に元へ向かう。まさか、向こうに行くとは思っていなかったことで、反応が遅れてしまった。
八神はやては自分に迫ってくるそれを呆然と見つめていた。
(ああー。これは駄目やな)
死ぬ直前って流れる時間が遅くなるって本当やったんね。そんなことを思う。
(……あっちにいったら、お父さんとお母さんに会えるかなあ?)
そう考えれば、それも悪くない気がする。思えば、ずっと独りだった。でも
(なのはちゃんに会ってからは、人生そんなに悪くなかったんやけどな)
そんなことも思う。彼女には、いくら感謝してしもきれない。
「―」
なにやら自分のために戦ってくれていた、彼女の父親が叫んでいる。彼がこんな吃驚人間だとは思わなかった。確かに家に道場とかあったけど。
(士郎さんもおおきにな。私の為なんかにこういうことしてくれて)
嬉しかった。自分が、ちゃんと思われていると、理屈でなく理解できたから。
だから、最期には彼だけでなく、皆に感謝と別れを。
(さようなら、みんなありがとう。なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、石田先生、士郎さん、桃子さん、恭也さん、美由希さん、デビットさん、鮫島さん、忍さん、ノエルさん、ファリンさん)
そして、斬撃が彼女を一閃し、彼女は亡くなった。
八神はやて。享年八歳。
彼女の死とともに本棚より一冊の本が消えたが、それを知っているのは極限られた人物だけだった。
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
士郎が、彼を殺そうと迫る。しかし
「!!!!!」
彼は、一瞬で消えていた。気が付けば、妙な空間も無くなっていた。
「……」
警戒する。
「……」
どうやら、いなくなったようだ。
「……」
目の前には末娘の友人の亡骸。
「……!!!」
悔しかった。これだけ自分が無力だと思ったのは久しぶりだ。
(とりあえず、警察か……)
どう説明したらいいのか。……警察だけでない、末娘にも。そう思いながらも士郎は動きを再開するのであった。
ほぼ同時刻、聖祥大付属小学校。三年生になったばかりの高町なのはは授業中なのにもかかわらず、微睡んでいた。
(……)
そして、彼女は夢を見る。
夢の中では自分がいた、ヴィヴィオがいた、フェイトがいた、はやてがいた、皆がいた。そして何より、自分の隣にユーノがいた。
自分は笑顔だった。皆も笑顔だった。ユーノも――笑顔だった。
そんな、そんな、とてもとても幸せな夢。
(えへへー。ゆーのくーん)
……だが、それが叶うことは、もう、無い。
彼女が、八神はやてが何者かに殺された事を知る、数時間前の出来事だった。